*
「お、お前ら、許さないよ──。は、離すんだよ。離せと言っているだろう──。後でとんでもないことになるよ──。わかっているのかい──」
宝玄は叫んだが、四人の男たちに下着一枚の身体を掴まれて、強引に引っ張られる。
呆気なく、そのまま奥の部屋に連れ込まれた宝玄は、床に放り投げられた。
相変わらず両腕はまったく動かない。
受け身をとれない宝玄は、横倒しに頭を床に打ちつけてしまった。
一瞬だけ目の前が暗くなり、頭と肩に痛みが走った。
その宝玄の右足首に枷が嵌められた。
「両腕はいいわ。こいつの両腕は道術で弛緩させているのよ」
四人の男に次いで、部屋にやってきた影女が言った。影女が部屋に入ってくると、男のひとりが、この部屋の入り口を閉じた。入り口部は壁と一体化した。
「へえ、それで抵抗が少ないのか──。道術というのは便利がいいもんだぜ」
四人のうちのひとりがそう言って笑った。
影女は手に盆を抱えていた。
この部屋の隅に大きな卓がある。
影女は、その卓に盆を置き、部屋の中心で四人の男に押さえつけられている宝玄を眺められる位置にある椅子に腰掛けた。
盆の上には、干し肉の載った皿と水差しがあり、影女はそのまま食事を始めた。
「お前ら、いい加減にしろと言っているだろうが──。い、嫌だって言っているじゃないか──」
宝玄は自由になる両脚をばたつかせて抵抗したが、さすがに四人がかりでは、ほとんど抵抗らしい抵抗にもならなかった。
天井の滑車に繋がった鎖がおろされて、宝玄の右足首の枷に繋げられる。
すると、男のひとりが壁にある取っ手を回し始めた。
宝玄の右足首と繋がった鎖が引きあげられ、宝玄の身体が上にあがっていく。
「うわっ──。な、なにすんだよ──」
頭が床と離れて、宝玄の黒髪が床に垂れた。それでも鎖は止まらずあがり続ける。
視界が反転する──。
宝玄の視界に、逆さになったこの部屋の光景が映った。
この部屋には窓がひとつもなく、四周を壁に囲まれていた。
宝玄は、逆さになった状態から部屋を見回したが、宝玄には、どの壁がさっき入ってきた壁なのかわからなくなってしまっている。
部屋の四隅には、それぞれ燭台があり、そのすべてに蝋燭が灯されていて、部屋は十分に明るい。
驚いたことに、壁に添って、鞭や紐や鎖、あるいは、その他のたくさんの拷問具や拘束具が並んでいる。
どうやら、ここはそういうこと専門に使う部屋のようだ。
やがて、宝玄の逆さ吊りの頭が、周りを囲んでいる男たちの腰の高さほどになった。
やっと宝玄を吊りあげる鎖が止まった。
「お、降ろしな──。わ、わたしを誰だと思っているんだよ。ふざけるんじゃないよ──」
宝玄は喚いた。
吊られているのは右脚だけだ。
そのため、宝玄は自由な左脚を右脚に添わせて上にあげて、股が開かないようにした。
しかし、完全に逆さ吊りにされた身体に添って、脚をあげ続けるというのは、かなりつらい動作だった。
ちょっとでも力を抜けば、大きく股を開いてしまうことになる。
吊られて間もないというのに、もう、宝玄の左脚の筋肉が悲鳴をあげかけている。
「確かに、お前誰なんだよ? それは、俺たちも知りてえなあ」
「そ、それは……」
宝玄は思わず言葉に詰まった。
どうやら、こいつらは、この帝都でもそれなりに有名な宝玄の顔を知らないようだ。だったら、宝玄の正体をそのまま隠しておきたい。
「……だ、誰だっていいだろう──。だ、だけど、これでも道術遣いなんだよ。お前らを道術で殺してやることだってできるんだよ──」
宝玄は言った。
しかし、それを聞いた四人の男たちはげらげらと笑うだけだった。
「お前が道術遣いだと? 嘘をつけ──。だったら、道術で逃げてみなよ。遠慮はいらんぜ」
「まったくだぜ──。道術遣いといえば、天教の教団とかにたくさんいるあれだろ? 人智を超えた術を遣う連中だ。この店に裸ん坊で入ってくるような女が、そんなんであるわけねえだろう」
「それにしても、大した美人だぜ──。なんか、どこかで会ったような気がするがなあ」
男たちは逆さ吊りの宝玄を囲んで好き勝手なことを言った。そして、下着一枚で吊られている宝玄の身体を無遠慮に眺め続ける。
「それにしても、お前の股はびしょびしょじゃねえかよ……。こりゃあ、すっかりとできあがって、お願いだから突っ込んでくださいというところか……。もう、前戯もいらねえだろう──。なあ、とりあえず、やっちまおうぜ──。やっぱり、こいつを降ろせよ」
四人のうちの頭の禿げた大柄の男が言って、宝玄の左脚に手を伸ばす。
その左脚をぐいと外に向けられた。
「ひっ」
宝玄の股は抵抗することもできずに大きく開いた。
「勝手なことをするんじゃないわよ──。お前らに、この女をやらせてやるとは言っていないわ。この女は御影様に頼まれて、夕方まで、ここで調教をすることになっているのよ。お前らがやるのは、その調教の手伝いよ。そのために集められたんでしょう。忘れたの? この女は御影様が犯すわ。もしかしたら、玩具くらいは使わせてあげるかもしれないけど、性交は御影様の許可なく、させられないわ」
すると、影女が食事をする手を休めて、急に怒鳴った。
しかし、宝玄の左脚の腿に手を置いている禿げ男はせせら笑った。
「ああ、確かに、ここで、女の調教の手伝いということで雇われたが、こんなにいい女とは知らなかったしな──。てっきり、どこかのあばずれを娼館にでも売り飛ばすために、性根を抜く仕事かと思っていた。だが、こいつは、多分、貴族だろう──。随分と肌が綺麗だ。間違いねえと思うぜ。だったら、一度抱かせな。仕事はそれからだ。俺は一度でいいから、貴族女というのを抱いてみたかったんだ」
「もう、いいわ。お前は首よ。このまま帰りなさい」
影女が冷たい声で言った。
「なんでだよ──。こんないい女を前にして、なにもなしかよ──。冗談じゃねえぜ。そりゃあ、俺たちを馬鹿にしすぎというやつだぜ、影女さんよ──。御影様が来るのは夕方なんだろう──? それまでに一発か二発やっても罰は当たらねえ……。それに、この女だって、こんなに欲しそうだ」
禿げ男が宝玄の左脚を掴んで股を開かせたまま、反対側の手で下着に包まれている股間の頂点を手で擦った。
「ひううっ」
その瞬間、とてつもない甘美感が股間に突き起こって、宝玄は宙吊りの身体を跳ねさせて悲鳴をあげた。
同時に、あのとてつもない痒みの苦痛までも蘇った。
歩きながら股間の突起でいじられ続けたことで、痒みについては、ほとんど癒されていたのだが、いまの刺激で、再び痒みがぶり返してしまったのだ。
「一発だけだ、影女──。この女の股で一度、精を放たせてもらえれば、約束の礼金はいらねえ。命令にも大人しく従うぜ──。さもなきゃあ、もしかしたら、暴れるかもしれねえぜ。あんたも女だろう? その綺麗な顔を殴られたくなければ、俺に逆らわない方がいいんじゃねえか? あんたの恋人の御影様が大した道術遣いだということは承知しているが、ここには御影様はいねえんだ」
禿げ男が影女に脅すような視線を向けたのがわかった。
「首だと言ったでしょう──。次は忠告しないわよ。ここから出て行きなさい──」
「おい、降ろせ」
禿げ頭が影女を無視して、壁の取っ手に取りついている別の男に言った。
その取っ手は、宝玄が吊られている鎖を操作する取っ手だ。
影女と禿げ頭の雰囲気がだんだんと険悪になったのがわかった。
ほかの三人は、そわそわと日和見をしている感じだ。
だが、宝玄はそれどころではなかった。
股間の痒みがいよいよ本格的になってきたのだ。
あの苦痛が戻ってくる……。
宝玄は恐怖した。
しかし、次の瞬間、その禿げ男が消滅した。
「うわっ」
「なんだ?」
「き、消えた──」
残った三人の男が驚きの声をあげた。
宝玄も驚いたが、宝玄の驚愕は、三人とは異質のものだ。
いまのは『移動術』だ──。
それを影女が遣った……。
宝玄には、この部屋にある霊気の動きからそれがわかった。
『移動術』は、かなりの上級道術だ。
つまり、このことから、影女がそれなりの道術遣いということがわかる。
しかし、宝玄には影女との面識がまったくないのだ。
帝都でも『移動術』を遣うほどの道術遣いであれば、ほとんどが、なんらかの天教との繋がりを持っているはずであるはずなのだが、宝玄は、この影女の顔をまったく知らない。
そのことを宝玄は不思議に思った。
そして、この影女の正体について、疑念を抱いた。
「……消えた男は、近衛軍の軍営のど真ん中に跳躍させたわ……。さぞや、近衛軍の者もびっくりしているでしょうね。不法侵入者として捕らえられると思うけど、運が良ければ軍の地下牢ね。まあ、十中八九、その場で斬り殺されると思うわ」
影女が笑った。
残った三人の男が恐怖に包まれたようになったのがわかった。
「わかった、あんたら? あたしに逆らうと怖いわよ。あたしの言いつけを守って、この女の調教を手伝えば、夕方には約束の礼金をたっぷりとあげるわ……。しかし、逆らえば、さっきの男以上に素敵な場所に道術で移動させるわよ……。さあ、どうする?」
影女が微笑みを浮かべながら男たちを見た。
「し、従うよ──。こんな美女をいたぶって、礼金をもらえるなんて、そんなおいしい仕事は一生ねえ──。なんでもやるから言ってくれ」
「あ、ああ、そうだ。約束するよ」
「俺もだ──」
三人男たちが口々に言った。
順に、赤毛、太っちょ、痘痕面と宝玄は覚えた。
さっきの男も含めて、この三人は、以前からの影女の仲間というわけでもないようだ。
宝玄をここでいたぶるために、影女がわざわざ雇った連中というところらしい。
「ふふふ……。いい仕事をしてくれれば、これからも雇うわよ。なにしろ、この女は、これから五日間、ここで調教を受けることになっているのよ──。それが終わっても、定期的にここで調教をするはずだから、そのときに、また呼び出してあげるわ」
影女が言った。
宝玄はびっくりした。
「い、五日だって──。ふざけたことを言うんじゃないよ──。冗談じゃない──」
影女が調教と称するこんな遊びなど、今日一日で終わりだ。
五日間などあり得ない。
しかも、いまの口ぶりでは、これからもずっとここで宝玄を定期的にいたぶるのだという。
絶対に、そんなものに参加するつもりはない。
「そんなことをお前が気にする必要はないのよ、変態女──。それよりも、ほら、お前、いつまで股ぐらを開いているのよ。脚をあげて股を閉じなさい──。まったく、みっともない……」
影女が言った。
宝玄の脚は、さっき禿げ男に強引に開脚させられて、そのままだったのだ。
宝玄は懸命に左脚に力を入れて上にあげた。なんとか股間を閉じることはできた。
そして、改めて影女を睨みつけた。
「な、なにを考えているかわからないけど、わたしをこのままさらっておくことなんてできないよ──。わたしが行方不明になれば、仕事場の連中がわたしを捜索するはずさ。つまらないことを考えるのはやめな。影女」
「大丈夫よ──。いま、御影様がお前の代わりに、休みの手続きをしているわ。お前はなんの心配もいらないのよ」
影女が笑った。
そして、座っている卓の横の棚からなにかを放った。
宝玄の頭の下に投げられたのは、真っ赤な首輪だ。
「そいつ、首飾りをしているでしょう? その上からその首輪をしてちょうだい。首飾りが外れないようにね」
影女が言った。
赤毛の男が首輪を取り、宝玄の首を首飾りの上から首輪を嵌めた。
しかし、宝玄はいまの影女の行動から、さっきの疑念が確信に変わった。
「ふふふ……。そうかい……やっとわかったよ、お前──。影女、これで、お前の正体がわかったさ」
宝玄は逆さ吊りのまま、影女に挑戦的な視線を向けた。
「どうしたの、お前? 本格的な調教を始める前から、もう、頭がおかしくなったの?」
「惚けるんじゃないよ、影女。お前、御影だろう──?」
宝玄はあっさりと言った。
そうとしか考えられない。
おそらく、この影女は、あの女男の御影が変身をしている姿だ。
だから、都合よく手足の自由がきかなくなったり、宝玄と御影がかわした道術のことも承知しているのだ。
それに、責めている途中で、宝玄の道術を封じている首飾りが外れて、宝玄の道術が復活するということがあったのは、つい今朝のことだ。
いま、宝玄の首に首輪を嵌め直させたのは、影女になっている御影自身がそれを思い出したのに違いない。
しかし、そんなことまで、影女が御影と話す時間があったわけがない。
つまりは、影女と御影は同一人物ということだ。
なんのことはない。
御影は、夕方にやってくるのではなく、ずっと宝玄と一緒にいたということだ。
「おかしなことを言うのね。あたしが御影様なんてね」
影女が笑った。
「しらばっくれるんじゃないよ──。とにかく、御影、こんなのは終わりだよ──。いい加減にしな──」
宝玄はかっとなり怒鳴った。
「御影様は夕方に来るわ。それまで待ちなさい。ここであたしの調教を受けながらね……」
「だ、だったら、影女でもいいよ──。すぐに、わたしを自由にするんだよ。わたしの怖さを知っているんだろう──? だいたい、お前のような女男が、わたしを調教しようだなんて、百年早いんだよ──」
宝玄はさらに声をあげた。
「ねえ、姐さん、こいつは、もしかして、あんたを御影様だと思っているんですか?」
太っちょが驚いたように笑った。
「こりゃあ、傑作だ。御影様は、あれでもちゃんとした男なんだぜ、女──。俺だって、この店で御影様が女を抱くのを何度も見ているぜ──。こんな美人の姐さんとは、さすがに違う人間だぜ」
痘痕面も言った。
「う、うるさい──。あいつも道術遣いだよ。女に変身する道術だってあるんだよ。このわたしだって、そのくらいはできるんだ」
宝玄は喚いた。
どうやら、ここでは御影はよく知られた存在らしい。
そして、いまの男たちの口ぶりから考えると、こうやって、この場所で御影が女をいたぶるのは、かなり日常的なことのようだ。
だが、それは、いまはどうでもいい。
「わかった、わかった──。とにかく、夕方まで待ちなさい、お前。じゃあ、とりあえず、鞭打ちといこうかしら。古典的だけど、自分の立場を思い知らせるには効果があるからね──。じゃあ、あんたら、一本ずつ鞭を持っておいで」
影女がそう言うと、三人の男が宝玄から離れて壁に向かっていく。
そして、すぐに、にやつきながら壁にかけてある一本鞭をひとつずつ手に取って戻ってきた。
三人が鞭を持って、宝玄の身体を取り囲む。
「じゃあ、俺からいくか」
赤毛が言った。
それが言い終わらないうちに、宝玄の左足の腿に鞭が炸裂した。
「ぐううっ──」
宝玄は絶叫した。
鞭は強烈だった。
その激痛と衝撃の凄まじさに、宝玄はたった一発で恐怖に包まれた。
「足が下がったら、股ぐらを直接に叩かせるわよ。それが嫌なら、一生懸命に脚をあげ続けるのね……。もっとも、その様子じゃあ、鞭がもっと欲しそうだけど……ふふ……」
食事を再開した影女が肉を食べながら笑った。
「くっ……」
宝玄は歯噛みした。
影女の言う通りだったからだ。
鞭で叩かれたとき、この宝玄ともあろうものが、逆さ吊りにされて鞭で叩かれたという事実に、途方もない恥辱を感じた。
だが、確かに同時に快感も感じた……。
いまや、股間の痒さが我慢のならないものになっている。
しかし、その痒さは、いまの鞭打ちの一発でその瞬間だけ消滅した。つまりは、鞭の痛みはだんだんと復活してくる強い掻痒感を癒してくれるありがたい刺激なのだ。
これは危険だ……。
宝玄は不安に襲われた。
「はぐうううっ──」
今度は尻たぶを鞭の二打目が襲った。
吊られた宝玄の身体が大きく反り返る。
「ほらよ」
今度は赤毛の反対側の痘痕面の方向から三打目がきた。
「があああっ──や、やめないか──ち、畜生──」
回り込んだ鞭が肌を跳ねたのは、またしても左脚の腿だった。
ぴったりと閉じ合せていた股が少し緩んだのがわかった。
「もう少しで、股が開くぜ。開いたら、俺が打ってもいいか?」
痘痕面が笑った。
「いいぜ。じゃあ、もう一発、この脚を打ってみるか」
赤毛が言った。
そして、鞭が左腿を弾いた。
「ああああっ──や、やめろ──やめないか──」
左脚をまた打たれた宝玄は身体を振って悲鳴をあげた。
そして、ついに、宝玄の左脚は力を失って真横に倒れる。
「開いたな……」
痘痕面の声がした。
宝玄は必死になって左脚をあげようとした。
しかし、一度、力を失った左脚は、もう戻すことができない。
「ぎゃああああ──」
その大きく開いた宝玄の股間の中央に鞭が炸裂した。
全身に衝撃が走る。
眼の前が暗くなった。
「おいおい、この女、小便洩らしたぜ」
太っちょの声のようだ。
それではっとした。
どうやら宝玄は失禁しているようだ。
もしかしたら、一瞬、宝玄は気を失ったのかもしれない。股間から迸っている宝玄の尿は下着全体を濡らし、宝玄の全身を伝って顔に流れてくる。
宝玄は自分の尿で顔を汚しながら、その屈辱に全身を震わせた。
しかし、次の瞬間、そんな羞恥や屈辱など吹き飛ばすような衝撃が襲った。
「……はがああ──な、なにこれっ──痒い──。これは痒いよ──あがああ──し、死ぬうう──打って、もっと打っておくれ──」
突然に襲った猛烈な痒みに宝玄はのたうった。
逆さ吊りの身体を猛烈に動かしながら、この下着の内側に塗られた媚薬は、宝玄の体液に反応して、掻痒剤に変わるという影法師の言葉を思い出していた。
これまでは、宝玄の愛液によって薬剤が痒み成分を撒き散らして、宝玄を苦しめていたのだが、それが尿という、さらに濃い宝玄の体液が混ざったことで、信じられないような痒みが襲ったのだ。
これまでの痒みなど、痒みではないとしか思えないような凄まじい痒さだ。
宝玄は少しもじっとしていられなくて、逆さ吊りの身体を激しく振った。
「三人で打っておやり。鞭の快感を覚え込ませるのよ──。心が拒否しても、忘れられない快感を身体に刻み込むのよ」
宝玄の失禁がやっと止まったとき、影女の声がした。
それを合図に凄まじい鞭の嵐が宝玄仙に襲いかかった。
二本の脚、背中、内、腿、尻──。
次々に鞭が飛んでくる。
「ぎゃああ──はがああ……」
神経をずたずたにするような激痛が全身のあちこちに襲う。
しかし、股間の痒みは、宝玄を発狂させるような苦しさだ。それが鞭の激痛で消える。
その快感は、あまりにも大きくて、宝玄は鞭を受けた悲鳴に、明らかに嬌声としか聞こえない声を迸らせた。
やめてくれともいえない──。
いま、鞭打ちを中止されたら、宝玄は股間の痒みで間違いなく発狂する。
しかし、肌を直接打ち付ける鞭の激痛は、それだけで宝玄の意識をどこかに飛翔させそうだ。
それが三人の男から間断なく加えられるのだ。
宝玄はただ大声をあげ続けた。
鞭打ちは続く……。
一体全体、何十発の鞭を受けたのだろう──。
宝玄は、もはや声が枯れて、悲鳴すら満足にあげられなくなった。
すると、突然に鞭が止んだ。
「な、なに……? あっ、はっ、だ、駄目っ──打って、や、止めないでおくれ──鞭を打って──ひいっ──」
宝玄は発狂したように叫んだ。
鞭打ちが停止した途端に、股間の凄まじい痒みが襲いかかった。
こんなのは一瞬も耐えられない。
痒い──。
痒い──。
痒い──。
身体が千切れるように痒い──。
宝玄は逆さ吊りのまま、のたうち回った。
「う、打って──ご、後生だよ──。もっと打って──。ま、また、股に直接打っていい──。あ、ああ……お、お願いだよ──」
宝玄は逆さ吊りの身体を揺すって悲鳴をあげた。
「そんなこと言ってもなあ……、俺たちも少しは休憩が必要だ……」
男のひとりが嘲笑のような声をあげた。
確かに三人の男たちは、打ち疲れたような荒い息をしていた。
「半刻(約三十分)休憩したら、鞭打ちを復活してあげるわ……。そのときは、お願いだから、鞭打ってくれと、ちゃんと言うのよ」
影女が笑った
しかし、放置されるとたちまちに脳天を貫くような痒み襲うのだ。宝玄は泣き喚いた。
「お、お願いだから、打っておくれ──。き、気が狂いそうなんだ──あああっ──」
「半刻(約三十分)後だと言っているでしょう──。馬鹿ねえ──」
影女が哄笑した。
「そ、そんな、待って、待ってったら──」
「じゃあ、半刻(約三十分)後に来るわね」
影女が立ちあがった。
同時に、鎖が緩められて、宝玄の肩と頭が床に着くまで、身体をおろされる。
影女が部屋を横断して出て行こうとしている。
三人の男たちも、それに続く。
「ま、待って──。い、行かないで──。鞭を──鞭を打って──。お願いだから、鞭をちょうだい──。狂う──。か、痒いんだよ──あああああっ──」
宝玄は絶叫した。
しかし、壁の扉が開き、四人が出て行った。
壁が閉じた。
壊れる──。
狂う──。
ただひとり部屋に残された宝玄は、あまりの酷い股間の痒みに、吊られた右脚を軸にして身体をばたつかせて、ひたすら叫び続けた。