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影女が宝玄の名を大きな声で口にしたとき、ざわめきと歓声が同時に起きた。
「天教の宝玄仙士のか……?」
「ああ、そう言えば、大変な美女だという噂だな……」
「こりゃあ、いい……。今夜は、高貴の貴族女が責められるというわけだ……」
宝玄の耳には、そういう観客の戸惑いの声が歓声に混じって耳に入ってくる。
しかし、どちらかといえば嘲笑が多いだろうか。
こうやって見世物にされている女が、天教の宝玄であるということに対して半信半疑という感じだ。
宝玄は、ここで宝玄の正体を明かした影女の仕打ちに腹が煮える思いだった。
しかし、その宝玄の怒りを重しをつけられている腕の痛みが削いでいく。
「くっ……ううっ……」
宝玄は呻いた、
宝玄の心から、観客の嘲笑の言葉や影女に対する憤怒が薄れていく。
そんな余計なことに気を回す余裕がなくなってきているのだ。
下袍を押さえている腕がつりそうに痛い……。
両手に掛けられた手枷の中央にかかる重しが宝玄の腕を下に落下させようと力を加え続けている。
しかし、その重みに負けて両手をおろしたが最後、逆さ吊りにされている宝玄のスカートは真下に垂れさがり、下着を脱がされている股間が観客たちの眼に露わになってしまう……。
こんな場所で、そんな恥辱を晒すなど死んでも嫌だ……。
宝玄は力を振り絞って、懸命に耐え続けた。
「ほう、少しは抵抗しようという気があるようだね? いつもいい思いをしている貴族巫女だという話だから、一瞬で音をあげて泣き叫ぶかと思ったけどね」
影女がせせら笑った。
「う、うるさいよ……」
宝玄は、自分の横に立つ影女を下から睨みつけた。
両腕が痺れる……。
つりそうに痛い……。
だが、ほんの少しでも力を緩めたら終わりだ。
宝玄は気力を振り絞って、手の痛みに耐え続けて、逆さ吊りの下袍を両手で押さえて、スカートが垂れさがるのを防いでいた。
それは、こんな場末の見世物小屋などで、羞恥を晒したくはないという強い自尊心と、自分をこんな目に遭わせている御影や影女に対する激しい怒りの力によるものだった。
だが、それも限界に近づいている。
もう、それほど長い時間は耐えられない……。
だからといって、どうしていいかわからない……。
宝玄はただ耐え続けるしかなかった。
「……そりゃあ、そうなんだろうねえ……。仮にも、天教の幹部巫女なんだからね。だったら、こんなところで股倉を晒すような恥は慎みな。半刻(約三十分)も耐えたら、さすがは天教の幹部様ということで放免してやるよ。だけど、みっともなく股間を晒したら、ただの変態女として扱ってやるよ」
影女がそう言って笑った。
「い、半刻(約三十分)だと……? ふ、ふざけるんじゃないよ……」
宝玄は歯噛みした。
半刻(約三十分)もこの状態を維持できるわけがない。
それを知っていて、影女はからかいの言葉をかけているのだ。
そして、それを口実に罰と称して、次の責めをするつもりだろう。
本当に口惜しい……。
宝玄自身がそういう心を挫くやり方で、たくさんの女を堕としてきたから、嗜虐者のやり方というのはわかるのだ。
「手が震えてきたよ、宝玄。もう限界かい──? 手を離したら罰だからね。わかっているんだろうねえ、貴族巫女様……?」
影女がからかう。
下袍の中の羞恥を晒せという命令ではなく、羞恥の姿を晒すなという命令に、影女の卑劣さを感じる。
どれだけ頑張れるかというのは、気力との戦いでもある。女の自尊心を測るかのような、このやり方はまるで、宝玄の羞恥心を試されているような陰湿さだ。
とにかく、宝玄は筋力と気力を振り絞って、下袍を押さえ続けた。
しかし、時間が経つにつれ、宝玄はだんだんと別の身体の異常が自分を追い詰め始めているのを感じてきた。
全身が熱いのだ……。
そして、股間が疼く……。
これは、逆さ吊りにされて、重しの繋がった両手で下袍を押さえている苦痛とは別だ。
身体中の性感という性感がふつふつと燃えてくる。
それがだんだんと炎のような熱さになり、妖しげな戦慄が全身を襲い始める。
異常なまでの身体の火照りだ。
「うっ……あっ……」
思わず、呼吸とともに甘い声をあげてしまった。慌てて、宝玄は口をつぐんだ。
だが、我慢できる疼きではない。
身体の内側から宝玄の全身の性感帯という性感帯が抉られる感じだ。
宝玄ははっとした。
あの水だ……。
さっき、影女に与えられた水で全身を拭いた。
特に痒みに襲われていた股間は念入りにその水で洗った……。
そして、いま……。
身体中がおかしな疼きで熱いのだが、特に股間が異常な疼きの昂ぶりに襲われている。
「か、影女、お前、さっきの水……?」
宝玄は逆さ吊りのまま、横に立っている影女を睨みつけた。
いきなりこんなに欲情するなど、与えられて身体を洗った水に媚薬が混じっていたに決まっている。
「どうしたんだい、宝玄? 怖い顔で睨んだりして……。もしかしたら、裸を見られる快感で欲情しているのかい? お前の股からは淫靡な匂いがぷんぷんしてきたよ。こりゃあ、困った変態女だねえ……。まあ、遠慮はいらないよ。そのいやらしく濡れてきた股をみんなに見てもらいな」
影女がからかった。
その言葉に小屋の中の観客がわっと声をあげた。
「お、お前、さっきの水に媚薬を……」
宝玄は歯を喰い縛りながら影女に向かって呻いた。
限界を超えた両手がぶるぶると震え続ける。
少しでも気を抜けば、両手はあっという間に重りに負けて下にさがってしまいそうだ。
「なにを言っているかわからないね、宝玄……。もしかしたら、お前が欲情しているのをさっきの水のせいにしているのかい? あれは正真正銘のただの水だよ。お前がいま欲情しているとすれば、それはお前がこういう状況に悦びを覚える変態女であるだけさ。他人のせいにするんじゃないよ」
影女がうそぶいた。
この女の陰湿さに煮えかえる。
これほどに噴きあがる欲情は、自然な欲情であるはずがないのだ。おかしな媚薬のためであることに間違いない。
しかし、それを否定することで、さらに宝玄を辱めようとしているのだ。
もうすぐ、宝玄の手は限界を超えてしまい、腕は床に落ちる。
そうすると、宝玄は、媚薬の疼きに蜜を溢れさせている股間をこの小屋に集まった観客たちに晒さねばならない。
「さて、こうやっていても、退屈だろうからね。ちょっとばかり遊んでやるよ、変態女……」
影女が言った。
横に立っていた影女が宝玄の真後ろに移動した。
宝玄は嫌な予感がした。
「はああっ」
次の瞬間、宝玄は大きな声をあげて、全身を激しく揺り動かした。
影女がすっと宝玄が押さえている股間に手を伸ばしたのだ。
媚薬にただれたようになりかけていた股間を……。
「や、やめておくれ──。そ、そんなの卑怯だよ──はああっ──」
影女の指が宝玄の恥唇を柔らかく引っ張るように押し入ってくる。その衝撃で宝玄の逆さ吊りの身体がびくりと跳ねた。
「ひ、卑怯だって言ってるじゃないか……あ、ああっ──」
「なにが卑怯なんだよ。面白ねえ、お前……」
影女が笑いながら、宝玄の敏感な粘膜を押し開くように、一枚一枚めくりあげていく。重りを付けられた手枷で下袍を押さえるのがやっとの宝玄には、それを手で防ぐことができない。
それをいいことに影女は、大勢の見物人がいる前で、宝玄の股間を弄り続ける。
大きな淫情が宝玄を襲う。
影女の指が動いて、自分の股間でいやらしい水音が鳴るのがわかる。
それが途方もない羞恥を宝玄へ誘う。
「ひ、卑怯者──」
宝玄は大きな声をあげた。
全身の力が抜ける……。
とても、下袍を押さえ続けられない。
「なにが卑怯なんだよ、宝玄? お前がいやらしいのはお前のせいだろう? ちゃんと耐えるんだよ。力尽きて、みっともなく股間を晒したら罰だからね──」
影女が宝玄の股間に指を這わせながらせせら笑った。
しかし、もう限界だった。
ついに、宝玄の両手は重りに負けて頭よりも下に落ちていった。
下袍が落ちて、股を開いて逆さ吊りになっている宝玄の股間が露わになる。
「御開帳──」
影女が宝玄の股間を弄りながらわざとらしく声をあげた。
その揶揄の言葉に合わせるように、宝玄の腕と下袍の裾が垂れさがった。
「おおおお──」
観客たちが一斉に歓声をあげる。
「見ろよ、股から涎を垂らしてやがるぜ」
「変態女だ──」
「すっかりと濡らしてるな」
そういう揶揄の言葉が一斉に降りかかってくる。宝玄の身体は恥辱で震えた。
懸命に腕を戻して、首までさがった下袍を戻そうとした。
だが、一度力を失ってさがってしまった腕はもう、ほんの少しも上にあげ直すことはできない。
しかも、宝玄の身体からすべての抵抗心を取りあげるように、影女が股間の刺激を続けてもいる。
観客たちの眼差しを感じながら、宝玄は影女の与える愛撫の快感に喘いでいた。
影女の指遣いは巧みだった。
宝玄の反応を細かく確かめながら、宝玄を追い詰める責めを股間に加えてくる。
溢れる蜜をまとわせた指で肉芽を撫ぜたかと思えば、次の瞬間には菊門の蕾にも蜜を伸ばして指を挿入したりする。
「あはああっ」
宝玄は大きな欲情の迸りを感じて、声をあげてしまった。
その宝玄の声に見世物小屋が盛りあがりをみせる。
「お前たち、もう、この貴族巫女に服は不要だよ。引き剥がしてしまいな」
影女が宝玄の股間を愛撫しながら、赤毛と太っちょに声をかけた。
隅にいたふたりが宝玄に歩み寄る。
両側から手が伸びて、身に着けていた服がびりびりに破かれていった。
宝玄はあっという間に、手枷と首輪を身に着けているだけの全裸にされた。
そのあいだも宝玄は股間を影女に責め続けられている。
まるで宝玄の弱点を知り尽くしているかのような責めに、宝玄はすっかりと追い詰められていた。
これだけの見物人の前で、絶叫する姿を晒してしまうというのは想像もしたこともなかった恥辱だが、宝玄の身体はもうどうしようもないところまで追いつめられている。
「ああっ、あっ、ああっ……」
影女の指が二本三本と増えて、宝玄の女陰を抽送している。
しかも、もう一方の手でしっかりと肉芽を刺激し続けたままでだ。
宝玄は恥ずかしいばかりの蜜を垂れ流しながら、とめられなくなった腰を震わせた。
こんな場所で、大勢の男たちから罵声と野次を浴びせられながら絶頂する──。
想像もしたことのない恥辱だ。
しかし、それは確かに宝玄に途方もない露出の快感と深い開放感を与えてくれる気がした。
「ふくううっ──」
もう耐えられない──。
宝玄は逆さに吊られた股間をがくがくと揺すって、快感の頂点に向かって一気に進んでいった。
「やっぱり、お前は、ただはしたないだけの雌だね──。ちょっと本性を剥いてやれば、こんなものかい──。つまらない女だよ……。結局、お前もただの雌豚だということさ……。じゃあ、雌豚として扱ってやるよ……」
影女が馬鹿にしたような口調で吐き捨てた。
そして、まさに絶頂寸前だった宝玄からさっと愛撫の手を離す。
「あっ、そ、そんな……」
思わず宝玄は声をあげた。
宝玄は絶頂寸前だったのだ。
しかも、これまでに感じたことがないような愉悦の頂上に昇り詰めようとしていた。それが一瞬にして奪われたのだ。
「なにが、“あっ”だい? もっと責められたかったかい、雌豚?」
影女が笑った。
宝玄は自分の顔が恥辱で明らむのを感じた。
そして、思わず、この影女に屈辱的な言葉を口走ってしまった自分に腹がたった。
そのとき、影女が再び宝玄の開いた股間に手を伸ばしたのが見えた。
「いぎいっ──」
次の瞬間、宝玄は悲鳴をあげていた。
なにかが肉芽の根元に喰い込んだのだ。
それがぎゅっと締まって、宝玄に激痛を与えた。
「お、お前、なにしたんだよ──?」
宝玄は思わず怒鳴った。
得体の知れないものが股間に嵌められた……。
激痛は一瞬だけだった。だが、なにかが、肉芽の根元に嵌められている。
その証拠に、いまこの瞬間にも、じんじんという疼痛が股間から沸き起こっている。
「さっきの言葉を忘れたのかい、雌豚。手をおろせば罰だと言っただろう。これから、罰を与えるのさ──。まあ、罰といっても、お前のような雌豚にとっては、罰じゃなくて、ご褒美になるのかもしれないけどね──。さあ、観客たちに奉仕の時間だよ。しばらく、遊んでもらってきな」
影女が指を鳴らした。
がらがらと音をたてて、逆さ吊りの身体が床におろされる。
赤毛と太っちょがすかさず寄ってきて、宝玄の裸身を支えて床におろした。
床に身体がおりると、ふたりによって、両足首に嵌っていた足枷の鎖が外された。
手錠から重しも外される。
しかし、ずっと吊られていた身体は、痺れたようになってすぐに動かせない。しかも、ずっと頭を下にしていたので、血が逆流して朦朧となりかけている。
宝玄は、抵抗することもできずに、赤毛と太っちょが喜々とした表情で、宝玄の身体を眺めまわしながら枷を外したり、装着したりするままにさせていた。
肩で息をしながら身体の痺れが収まるのを待っていた宝玄は、最後に赤毛と太っちょによって四つん這いの姿勢にされた。
手首と手首を結ぶ鎖は肩幅ほどの長さだが、その鎖の中心に鎖を繋げられた。それが首輪の前側の金具に繋げられる。この長さだと、宝玄の両手は首輪と繋がって股間に伸ばせない。
「はあ、はあ、はあ……」
だが、手足が痺れたようになっている。
宝玄はその四つん這いの格好のまま、荒い息を続けていた。
すると、影女が近づき、天井から伸びた鎖を宝玄の首輪の後ろにがちゃりと繋いだ。
「こ、今度は、な、なんだよ……?」
やっと我に返った宝玄は、慌てて怒鳴った。
そして、影女に掴み掛かろうとして身体を起こした。
「ひぎいいいっ──」
その瞬間、怖ろしい激痛が股間に起こった。
さっき肉芽に嵌められたなにかから、たくさんの針で刺されたような激痛が走ったのだ。
宝玄は起きあがりかけていた身体を床に倒れさせた。
「慌てるんじゃないよ、雌豚──。その四つん這いの姿勢を崩すんじゃない。四つん這いの格好をやめたら、いまみたいに、お前の肉芽の根元に嵌めた霊具から極少の針が飛び出る仕掛けだよ。痛い思いをしたくなければ、その姿勢を保つんだよ」
影女が言った。
「な、なんだと──」
宝玄はかっとなって叫んだ。
だが、すぐ眼の前にいる影女に再び飛びかかる気力は起きない。
それくらい肉芽を針で刺される衝撃は凄まじいものだった。
痛みは一瞬だったが、その恐怖に、宝玄の全身はどっと噴き出した脂汗でびっしょりと濡れている。
「雌豚に相応しい恰好にしてやっただけさ。ついでにこれもつけてやるよ」
影女がそう言うと、赤毛と太っちょが宝玄の身体を押さえた。影女が宝玄の顔に手を伸ばす。
なにかを両方の鼻の穴に入れられた。
それが鼻を引っ掛ける金具だとわかったのは、鼻の穴に引っ掛けられた金具が思い切り、頭の方向に引きあげられてからだ。
「ひぎいっ、があっ、い、いたっ、痛い──ひぎいっ」
宝玄は、鼻の穴を金具で引きあげられる痛みに、両側から押さえられる身体を暴れさせた。
「いい顔になったじゃないかい。さすがに綺麗な顔も台無しだねえ。その鼻鉤を勝手に外しても、股間に激痛だからね。そのままでいるんだよ」
ふざけるな──。
思わず怒鳴りあげようとしたが、すぐに口に強制開口具を押し入れられた。上下の歯が大きく拡げられて閉じられなくなったのだ。
なんだい、これ──?
宝玄の抗議の言葉は、器具によってただの吠え声に変えられてしまう。
「お前は豚なんだよ。豚に人間の言葉なんて不要だしね」
影女が笑った。
そして、宝玄の身体から距離を取った。
同時に赤毛と太っちょも離れる。
これからなにが始まるのか……。
宝玄は激しい不安を覚えるとともに、不安を感じている自分に強く苛立った。
「さあ、この見世物小屋名物の犠牲の女の散歩の時間だよ──。ただし、決まりはいつもの通りだ。女に勝手に身体に触れるんじゃない。席も動いちゃ駄目だ──。約束が守れなかった客は、ただ追い出すだけじゃなくて、本当に手足の骨を叩き折るよ……。その代わり、近くに行った雌豚を眺めるのは自由だから、いくらでもこの雌豚の身体を鑑賞するといい──。さあ、始めるよ。今夜、わたしの指名を受ける幸運な男は、誰なんだろうねえ──?」
影女が口上のような言葉を発すると、見世物小屋がこれまで以上の大歓声に包まれた。
これからなにが起きるのか、さっぱり宝玄には、わからなかったが、観客たちにとっては、周知のことのようだ。
影女に向かって、一斉に手をあげて、自分を当ててくれという趣旨の言葉を叫んでいる。
そのとき、がくんと身体が動いた。
「あ、あっ──?」
突然、喉に首輪が喰い込む。
宝玄は眼を見開いて、慌てて上を見た。
そして、宝玄は、初めて首の後ろに繋げられた鎖の先が、天井にある溝のようなものに埋まっていることに気がついた。
溝はこの演台の上から観客側に伸びている。鎖がその溝に沿って動いて、宝玄の首輪を前に引っ張っているのだ。
宝玄の首が思い切り引かれる。
仕方なく四つん這いのまま進んでいく。
選択の自由はない。
四つん這いの姿勢を崩せば、あの恐ろしい股間の激痛だ。
宝玄は、手と足を動かして、鎖の引くまま、四つん這いの姿勢で前に進んでいく。
しかし、この素っ裸のままで四つん這いで観客たちのいる客席に歩いていくというのは、本当にこれが現実なのかと思うほどの深い屈辱だ。
観客たちは見世物小屋の床の上に、胡坐をかいて座っているのだが、その中を宝玄は鎖に引かれるままに動いていく。
ぎっしりと詰まっている観客席は、宝玄が割って入る空間などないくらいに密集している。
その観客席の中に鎖で引かれるのだ。
宝玄は首輪や枷以外にはなんにも身に着けていない身体で、男たちの足を避けながら歩かねばならなかった。
影女が念を押していたので、あからさまに宝玄の裸身に手を伸ばす者はいないが、宝玄を避けるふりをしながら、巧みに宝玄の身体に触れてくる者は多い。
宝玄はそうやって、観客たちに全身をいやらしく触られながら、密集した観客席の前を進み続けた。
どんなに男たちの足が邪魔でも、とまることは許されない。
天井を動く鎖は進み続けているのだ。
宝玄は四つん這いで、男たちの脚を跨ぎ、ときには身体を越えるようにしながら、懸命に四肢を動かした。
天井の溝は、観客席全体の天井を覆うように十本ほどの横の線になっていて、それが端で曲がって繋がり、一本の長い溝になっている。
宝玄は、その溝に沿って動く鎖の進むまま、観客席を左から右に動き、端までいけば、また左から右に進むということを続けさせられた。
観客たちがいる場所を豚のように四つん這いで歩くのは、血も凍るような恥辱だ。
だが、それでも、媚薬を全身に浴び、影女に股間を責められた身体は燃えるように熱くもあった。
それにしても、四つん這いで歩くというのがこんなにも重労働とは思わなかった。しかも、宝玄は男たちの脚や身体を障害物のように避けながら進まねばならないのだ。
いつの間にか、全身は汗びっしょりとなり、今度は四つん這いで歩くという苦痛で手足の筋力が痺れてきた。
ところが、ちょうど中間くらいのときだろうか。
不意にずっと引っ張っていた鎖が止まった。
「やったぜ──」
急に眼の前にいた肥った男が歓声をあげた。
同時にほかの男たちからもわっと一斉に声があがった。
なにが起きたのかわからず、宝玄はきょとんとしていた。
「全部で三十回だよ。終わればその場で終了だけど、終わらなくてもそれでおしまいだからね」
演台側にいる影女がそう叫ぶのが聞こえた。
「へへ、三十回、しっかりと愉しんでやるぜ」
さっきの肥った男が嬉しそうに言った。
すると、その男が下袴から男根を出して、宝玄の口に向けてきた。
「おおっ?」
突きつけられた怒張に、宝玄は思わず、開口具を嵌められた口から悲鳴をあげてしまった。