「みっともなく小便するなんて、なんてことよ。恥を知りな」
「確かにな。ここは礼くらい言うべきであろうな、沙那殿。千歳は沙那殿のやった粗相の後始末してくれているのだ。それに、神聖な道場を小便で汚した詫びも欲しいところだ」
沙那は、顔を伏せたままでいた。
口惜しかった。
悔しさで血が沸騰していた。
恥辱よりも猛烈な怒りがまさっている。
なにが神聖な道場だ……。
その道場を裸にした女をいたぶるために使っているのは、こいつらじゃないか──。
大勢の弟子たちに一斉に身体を愛撫されてしまい、沙那の敏感すぎる身体はそれに耐えることができなかった。
短い間に連続で絶頂を続けただけでなく、片脚をあげて立たされている姿勢まま尿を洩らしてしまった。
嫌がらせであろう。
しばらく、その醜態のまま放置されたが、とにかく掃除をさせようということで、この千歳が呼ばれたのだ。
そもそも沙那が黒倫たちに捕らえられたのは、城郭の郊外の林の中で強姦されそうになっていたこの千歳を救おうとしたからであり、背中に庇った千歳に背後から筋肉を弛緩させる強力な毒針を刺されたせいだ。
そして、この道場に連れ込まれた。
沙那からすれば、恨みこそすれ、感謝の言葉も、詫びの言葉も冗談ではない。
しかも、床を拭くために使っているのは、切り刻まれて床に散らばっていた沙那の服だ。
それを雑巾代わりにして、この女は床を掃除しているのだ。
「なんとか言いなよ、この恥知らず──。それに、なによ、この股ぐら? これ全部お前のお汁なの。まあ、びしょびしょじゃないの。ついでに拭いてげるわ」
床を拭き終った千歳は、沙那の尿を拭いた布切れで、沙那の股間をごしごしと擦り始めた。
「んんん……はうっ……んん──あっ……」
耐えようとして歯を食いしばっても、その刺激でどうしても沙那の口から甘い声が漏れてしまう。
その嬌態に黒倫をはじめとして道場で酒盛りを続ける男たちがまた手を叩いて笑った。
沙那は悔し涙が滲むのを感じながら、自分の心を裏切って快感を覚えてしまうこの身体を呪った。
「驚いた淫乱ねえ……。雑巾で股を拭かれてよがる女は初めてよ。あれっ? そういえば、これ雑巾じゃなかったか。あんたの着ていた服だったわね、これ」
千歳がわざとらしく呆れた声を出すと、それに釣られて、また周りの男たちが哄笑する。
沙那は羞恥と屈辱で全身の血が煮えたぎるのを感じた。
「まあ、それくらいにしておけ、千歳。それよりも、例のものはできているか?」
黒倫が言った。
「ええ、手を洗ってから持ってまいります、旦那様」
千歳が道場を出て廊下に出ていく。
「さて、沙那殿───。ところで、あれだけ気をやって、しかも、小便まで垂れたのだから、すっきりとしたことであろう。そろそろ、沙那殿の武術の腕前を拝見させてもらいたいと思う。辻試合で立ち合った俺と弟子の五人については、沙那殿の体術の腕も剣の腕もしっかりと見たし、身体で味わった。しかし、他の者はそれを知らないのでな。このままじゃあ、黒師範たる俺が見込んだ女武術家をこの道場に招いたのではなく、ただの淫乱女を連れ込んだと思われてしまう」
わざとらしい物言いに弟子たちが一斉に噴き出した。
沙那は口を閉じたまま黒倫を睨みつけながらも、黒倫の言葉を訝しんだ。いずれは沙那をここにいる全員で凌辱するつもりでいるようだが、その前に沙那になにかをさせたいようだ。
道場に千歳が戻ってきた。
手になにかを持っている。
文字が書かれた紙のようだ。
「これです、旦那様」
「どれ? おお、よくできておる。これでよい──。沙那殿にも確認してもらえ」
黒倫は満足気に頷くと、その紙を横にいた弟子のひとりに手渡した。
紙を受け取った弟子がこっちにやってきた。
背中に結わえられた両腕の縄尻を天井から吊らされている沙那の前に、その紙を拡げて示した。
「あっ」
思わず声をあげた。
それは、沙那と黒倫が賭け試合をするという証文だった。
賭け金は、金三枚ということになっていて、支払えない場合は、沙那が身売りをして払いに充てるとも書かれている。
しっかりと黒倫の署名もあるし、驚いたことに沙那の署名もある。
見届け人として書かれている名もある。
その見届け人というのが誰のことかは知らないが、弟子たちのひとりの名のかもしれない。
証文そのものは正式の書式で作られているようだ。
茶番なのは、その内容だ。
いったい賭け試合というのはなんのことだ?
「沙那殿が先程書かれたこの証文により、これから賭け試合をすることになる。ただし、当道場の仕来たりとして、まずは、師範代格のひとりと立ち合い、しかるのちに、師範である俺自身と立ち合うということになる。沙那殿が勝てば、金三枚を支払いする」
「ふ、ふざけるんじゃないわよ──」
沙那はかっとして怒鳴った。
だが、黒倫はわずかに頬を綻ばせただけだ。
「だが、負ければ沙那殿が支払うのだが、見たところ下着一枚お持ちでないようだ。その場合は、この証文に基づき、沙那殿を妓楼に売り飛ばすことなる」
「売り飛ばすですって──」
「そうだ。賭け額は金三枚としたが、もしかしたら、先ほどの沙那殿の道具の良さと身体の反応からすると、ちと安すぎたかもしれんな。十年の年季として、金五枚はどの妓楼でも軽く支払ってくれるであろう。まあ、余分は、当方の手間賃ということでご理解してもらうおう。では、さっそく立ち合ってもらうか」
黒倫が合図をした。
弟子たち数名が立ちあがり、沙那を天井からつるしていた鎖を解いた。
解いたといっても、足首の枷を外して、背の縄尻に繋がっていた鎖を外しただけだ。
両手を背中で結わえている縄はそのままだ。
一度に続けて絶頂したことと、長く片足立ちを強いられていたことで、沙那の身体は痺れたようになっていた。
天井からの支えがなくなった途端に、沙那はそのまま床にしゃがみ込んでしまう。
その沙那の両足首にもう一度足枷が付け直された。
今度は足首を繋ぐ鎖が人の肩幅ほどの長さがある。
なんとか歩ける程度の余裕はあるが、走ることは無理だ。
二十人もの武芸家に囲まれている状況で、この状態で逃げるのは不可能だ。
その間にも道場に拡げられていた酒盛りのための酒と肴が隅に寄せられる。
弟子たちも壁に寄り、真ん中には裸身の沙那がぽつんとしゃがみ込むだけになった。
「ちょ、ちょっと待ってよ、その証文はなんなのよ。そ、それに賭け試合というのは一体全体どういうこと?」
沙那は声をあげた。
「なにと言われてもなあ。沙那殿がこの道場にやってきて書いた証文だ。沙那殿は、ここに自らやってきて、道場破りをしようとした。それで、この俺と賭け試合をすることになり、証文を書いた。そういうことだ」
「なにを言っているのか、さっぱりとわからないわ。わたしが自ら道場にやってきたですって? しかも、道場破りに、駆け試合の申し込み? あなた、なにを喋っているのよ」
「はてさて、おかしなことを言う沙那殿だな。あなたは確かに、ここに自らやってきて、賭け試合を申し込んだのだ。これからそれをすることになるが、この証文が動かぬ証拠だ。しかも、証人も大勢いる──。お前たち、それに間違いないであろう? この沙那殿は、ここで賭け試合を申し込み、そして、自らこの証文を書いたな?」
二十人ほどの弟子が一斉に同意の声をあげた。
「あたしも証人になるわ。この女は、確かにこの道場に突然やってきて、旦那様に賭け試合を申し込んだわ。役人に訊かれればそう応じるわよ」
いまは黒倫の横に座り、黒倫に酌をしている千歳が言った。
沙那は、もう黒倫の考えていることが十分にわかった。
この偽物の証文を種に、沙那をどこかの妓楼に売り飛ばそうということらしい。
沙那が拐われて連れ込まれたのではなく、ここに自らやってきて身体を賭けの対象にしたということにするのだ。
そして、試合に勝つことで、沙那を売って代価を得る正式の権利を手に入れるつもりだ。
おそらく、役人は黒倫の言い分を認めるに違いない。
多分、署名の字体が異なると訴えても、役人は聞き入れないようになっている。
それに、黒倫は知らないが、沙那は国都で宝玄仙を脱走させたことにより手配されている身のはずだ。
沙那がこの証文など知らないと訴えても無駄なことだ。
沙那は歯噛みした。
だが、それでも思い直した。
つまりは勝てばいいのだ。
試合の結果まででっちあげる気まではないようだ。
だったら、ここにいる全員と勝負しても負ける気はしない。剣でも体術でもだ。
どうせ、裸にしたまま戦わせる気でいるに違いないし、あれだけの嬌態を演じた後だから、足腰もふらついているので簡単に勝てると踏んでいるのだ。
身体が痺れたように力が入らないのは事実だが、それでも勝てると沙那は思っていた。
「わ、わかったわよ。勝負に応じるわ。手と足枷を解いて──。それで、勝負は体術? それとも剣?」
沙那は言った。
「体術だ。剣でもいいが、沙那殿は腕を縛られているので、剣は持てないであろう? さすがに、こちらが剣を持ち、沙那殿が素手では気の毒。こちらも素手でお相手することにする」
黒倫は笑った。
「なっ」
絶句した。
勝負をさせると言いながら、沙那の縄を解かない気でいるようだ。
つまりは、沙那は後手に縛られたまま、素っ裸で体術をしなければならないということだ。
「まずは、仕来たりに従い、弟子を相手にしてもらうが……。そうか、
「おう、願ってもない。しかし、いいんですか、先生。俺が先に頂いても」
王進士と呼ばれた男が破顔して立ちあがった。
周囲の他の弟子たちからは失望と妬みのような声が湧く。
沙那は、その王進士が、辻試合で黒倫の前に試合をした黒倫の弟子であることがわかった。
あのときは、投げられて組み伏せられたものの、身体の下から襟を絞めて気絶させた。
沙那の相手ではないが、体術はそこそこのものを持っていたのはわかる。
「好きにせよ。俺には、この千歳がおる。千歳の前で別の女を抱けば千歳が気の毒だ」
「まあ、嬉しい──」
千歳が満面の笑みを浮かべて、黒倫に身体をすり寄せた。
「ならば、先生のお許しも得たことだし、沙那殿、勝負をお願いする」
王進士が歩み寄ってきた。沙那は慌てて後ずさりしながら立ちあがった。
しかし、後手はともかく、足枷も嵌められたままだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ。せめて、足枷を外して。これはあまりにも酷いわ」
沙那は叫んだ。
後手どころか足枷もしたままというのでは、勝負になりようもない。
さすがの沙那でも、王進士にただなぶられるだけになってしまう。
「足枷? なんのことだ? 俺にはそんなものは見えんがな」
王進士がせせら笑った。
「沙那殿が言う足枷というのが、見える者がいるか?」
そして、王進士は周囲に視線を向けた。
「見えんなあ」
「俺もだ」
「俺には、縄も見えん」
「おう、ちゃんとした勝負だ。俺が証人だ」
「俺も証人だ」
弟子たちが口々に言って笑う。
沙那は歯噛みした。
まともに試合をする気は全くないのだ。
ただ、沙那をいたぶって愉しみたいだけだ。
王進士がその場で下袴を脱ぎ、下帯を外した。
下半身裸体となった王進士が改めて構えの姿勢をとる。
股間の男根は見事なくらいに勃起していた。
沙那は自分の顔が蒼くなるのを感じた。
「始めよ──」
黒倫の声があがった。
わっと周りの弟子たちが歓声をあげて、手を叩いた。
「くっ……」
沙那は小さく舌打ちして少しずつ後ずさりする。
後手に縛られて、足首にまで鎖のついた枷を嵌められている沙那に、下半身を露出した王進士と体術の試合をしろという。
いや、これは試合などではない。
実際のところ、ただの酒の余興であり、ここで王進士に沙那を犯させて、酒の肴にしようというのだ。
もちろん、それだけじゃなく、それをもって、沙那は賭け試合に負けたことにされて、本当に妓楼に売り飛ばすのだろう。
「ほれ、いくぞ──」
王進士が挑発するように腕を伸ばす。
沙那は身体をさっと身体を捻って、王進士の腕を避ける。
がちゃがちゃと足首を繋ぐ細い鎖が音をたてる。鎖は肩幅ほどの長さはあるので、すり足で動く分は問題はない。
しかし、蹴ったり跳んだりということは難しい。
しかも、何度もいかされた余韻がまだ沙那の身体に残っている。
膝や腰に力が入らず、どうしても身体がよろめいてしまう。
そんな沙那の哀れっぽい姿に、見物の男たちが拍手をしながら哄笑する。
手と脚の自由を封じた素裸の女に体術の試合をさせるという黒倫たちの下劣さに沙那は歯を食いしばった。
絶対に許さない──。憤怒の感情を王進士にぶつける。
「そんな風に睨まれると、女振りがあがるな、沙那。どんな風に肉棒をねじ込んで欲しいんだ? 普通に正常位で入れて欲しいか? それとも犬のように後ろからにするか? いや、もしかしたら尻がいいか? まあ、尻だけは俺は勘弁してくれ。尻が好きな奴はほかにいるから、そいつらに尻を貸してやってくれ」
王進士がにじり寄りながらにやにやして言った。
尻は俺が──。
いや、俺だ──という声がちらほらとあがる。
また、王進士の腕が伸びた。
それもなんとか身体をかわす。
しかし、広さに限りのある道場だ。退がってばかりではいられない。
それでも、沙那は円を描くように道場を動いて距離を保つ。
薄笑いを浮かべた王進士は、下半身を露出したまま、じわじわと間合いを詰めてくる。
「へへ、数刻前に、大勢の観客の前で恥をかかされたときには、悔しくて堪らなかったが、こんなにも早く、汚名をそそげる機会がくるなんて嬉しいぜ。それにしても、城郭の辻試合では、あんなに強かった沙那殿じゃないか。そう逃げ回るだけじゃなく、遠慮なくかかってきてくれよ」
王進士が嘲笑った。
かっとなった。
「な、なにが汚名をそそぐ機会よ──。女をこんな風に拘束して戦うなど、恥をかいているのはお前よ。それでも、修行を積もうとする武術家のつもりなの? こうやっている間にもお前は、恥をかいているのよ。それを知りなさい」
沙那は怒鳴った。
「なんだと、この女──。股ぐらを曝け出しながら、なにを言いやがる」
真っ赤な顔になった王進士が怒鳴った。
「落ち着かんか、王進士──。それにしても、沙那殿、さすがにそれでは勝ち目がないかもしれんな。ならば、その姿でも勝てる方法を伝授してやろう。この王進士は、根が大変な色情狂でもあるのだ。女と見れば見境のない男でな。それが沙那殿のような美しい女を相手にするというのでは、すぐに頭に血が昇る。だから、腰を艶めかしく揺すぶって、秘所をもっと突き出すように晒すのだ。そうすれば、勝てるかもしれんぞ」
黒倫が笑いながら揶揄した。
「み、見境がないとはひでえなあ──」
王進士が苦笑した。
一斉に男たちが声をあげて笑った。
「それにしても、確かに退がるだけでは勝負にならん。沙那殿、ほらっ、戦え───。戦わんか」
黒倫はなおも言って呷る。
それに釣られるように弟子たちも、やいのやいのと大声で揶揄をする。
「おい、王進士、いつまでも、待たせるんじゃねえよ──」
「そうだ、そうだ、なにもしねえんなら、変われよ」
「もたもたするなよ。早く、お前の一物を女の股ぐらに突き挿してやれ──」
男たちの野次は王進士にも向けられだす。
「わかったよ」
王進士は、じわじわと距離を詰めるのをやめて、いきなり、間を一気に詰めた。
沙那は一度腰を屈めて、そのまま両脚で横に大きく跳躍し、王進士の突進を避けた。
避けられたことで興奮したような王進士が、さっと向きを変えて、沙那に向かってくる。
沙那はまた両脚で跳びあがってそれを避けた。
二度、三度と同じことを繰り返す。
「王進士、お前は、足枷を嵌められている女を捕まえるとこもできねえのかよ──」
「それにしても、跳ぶたびに、その品のいい乳房がゆらゆらと揺れるのが堪らねえなあ」
「尻振りも格別だ。こんなところで、美女の裸踊りが見れるとは思わなかったな」
そんなことを口にする声も聞こえる。
だが、沙那にはそんな揶揄に斟酌する余裕はない。捕まえられたら終わりだという頭がある。
王進士の腕を右に左にと必死になって避けまくる。
しかし、さすがに逃げ切れるものではない。
ついに、沙那の股間にさっと王進士の腕が入った。
「あっ──」
沙那は思わず悲鳴をあげかかったが、腕を精一杯に伸ばした王進士の態勢が崩れているのがわかった。
咄嗟に両方の内腿で王進士の腕を挟み、身体を力いっぱいに捩じった。
「うわっ」
腕を取られるかたちになった王進士が悲鳴をあげた。
そのまま、腕を股で極めたまま床に尻餅をつくように転がる。
王進士は、完全に姿勢を崩して顔から床に倒れた。
「ひぎいっ」
王進士が悲鳴をあげた。
沙那は、鼻を押さえてのたうつ王進士の腕を緩めて、腕を抜いて立ちあがる。
両膝を揃えて跳び、横倒しになっている王進士の首の後ろに膝を叩き込んだ。
「ひがあっ」
大きな呻き声をあげて、王進士は身体を転がって沙那から距離を取った。
「や、やりやがったな」
頭に血を昇らせたような王進士が、よろよろと立ちあがる。
沙那は両脚を揃えたまま、王進士の両方の膝下に回し蹴りをした。
再び頭から倒れた王進士は、今度こそ呻いて起きあがれなくなった。
下半身を露出したままの王進士の身体が横たわるそばで、沙那は、肩で息をしながら道場の真ん中に立っていた。
静まり返った道場に、不意に拍手がひとつした。
「いや、お見事だ、沙那殿。まさか、王進士が負けるとは思わなかったがな──」
ほかの弟子たちが、呆然とした表情を崩して、我に返ったようになった。
数名が、呻き声をあげている王進士を引き摺って、道場の隅で手当をしはじめる。
「素っ裸で、手足を封じられながらも、それほどの戦いぶりを見せる。驚いた女傑ぶりに感服した。それでは、仕来たりに従い、師範である俺がお相手する──。千歳、例のものを……」
黒倫は目配せをした。
なにをする気なのか……。
これから師範である黒倫と戦う──。
また、この姿で戦わせる気なのであろうが、沙那は不気味な黒倫の表情が気になった。
なにかを企んでいる表情だ。
その黒倫の指示を受けた千歳が、また道場の外に出て、すぐに戻った。
手に革の帯のようなものも持っている。
「さあ、沙那、今度は、これをして戦ってもらうわ」
千歳が沙那に近寄ってくる。
嫌な予感がして沙那は数歩後ずさる。
しかし、いつの間にか背後に男たちが数名いて、その身体を押さえられる。
「さっきも言ったが、俺は千歳がいるので、お前を抱くのは遠慮しようと思う。しかし、そう色っぽく裸身を動かされたのでは、いくら俺でも間違いをせんとも限らん。それで、沙那殿には、今度は下着をつけてもらう。素っ裸で戦わなくても済むのだ。嬉しいであろう?」
黒倫は立ちあがった。
「そういうことよ。さあ、肢を開くのよ、沙那」
沙那の前に立つ千歳が手に持った革帯を沙那の腰に巻いた。
そして、腰に巻いた革帯の中心から出る革帯を沙那の股間に通そうとする。
それで、初めて沙那は、千歳が沙那に装着しようとしている“下着”の正体がわかった。
下着とは名ばかりのただの革の帯だ。
それを股縄のように嵌めようとしているのだ。
しかも、ただの革帯ではない。沙那の股間に触れる側の内側には、半球の突起が幾つかついている。
そんなものを締めつけられれば、今度は股間を刺激されながら戦うことになる。
「や、やめてよ、どこまでわたしを馬鹿にすれば気が済むのよ──」
沙那は叫んだ。
「馬鹿になどするつもりはない。そのような姿で、王進士ほどの者を倒した沙那殿だ。その沙那殿の股をいつまでも晒させるのは気の毒と思っているだけだ」
黒倫は笑った。
股間に通された革帯がぐいと締めつけられて腰帯の後ろ側でなにかの金具で固定された。
「では、準備がよければ、始めるかな。この俺も武術家の端くれだ。これで負ければ、沙那殿を解放し、しかも、証文の通りに金三枚を渡すことも約束しよう」
千歳と弟子たちが沙那から離れていくと、黒倫が言った。
仕方なく、沙那は構えをとるために身体を動かした。
「うっ」
その瞬間、股間の革帯の内側の突起が肉芽を擦りあげた。
背中に激しい衝撃が走り、沙那は思わず腰を砕き、中腰になる。
「ひうっ」
その動きでもまた快感の疼きが襲う。どういう仕掛けになっているかどうか知らないが、沙那が少しでも動くたびに肉芽や女陰、そして、肛門に刺激が走るのだ。
こんなものを装着されたままでは、戦うどころか、まともに動くこともできない。
「なにか困っておるようだが、さっそく始めるとしようか──。誰か、始めの声をかけてくれ」
「始め──」
誰かの声がして、わっという歓声が一斉にあがった。