※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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31  罠対罠

「た、頼む……。い、いや、頼むよ……。あいつらには……て、手を出さないでくれ……」

 

 宝玄仙は息も絶え絶えに言った。

 もう、何十回も尻穴に入れられた霊具の淫具で絶頂させられたのだ。

 息をするのも苦しい。

 視界は朦朧として、心臓の鼓動はその音が聞こえるほどだ。

 しかし、気絶することもできない。

 おそらく、御影はなんらかの道術をかけているのだろう。

 これだけ繰り返し絶頂させられて、意識を失わないというのもおかしすぎる。

 

 だが、とにかく、沙那と孫空女だけは助けたいと思った。

 御影のことだから、口でどんなことを言っても、ふたりを許すわけがない。そもそも、孫空女は影法師とはいえ、一度は御影の分身を殺している。

 性根が腐りきっているこの男は、自分を陥れた相手をとことん許さない。

 特に、女に対してはそうだ。

 根本的に女を「物」のようにしか考えていない御影は、女が自分よりも能力が高かったり、ましてや、してやられることが絶対に許せないのだ。

 だから、これだけのしつこさを宝玄仙に発揮するのだろう。

 

「あんたは、供のことなんて考えなくていいのよ。勝手によがってなさい」

 

 御影が宝玄仙のお尻に挿入されている「尻尾」の先をぎゅっと握った。

 尻尾を掴むだけで、宝玄仙に絶頂を強いる霊気のこもった淫具なのだ。

 

「うはあっ、も、も、もう、やめてえっ」

 

 あっという間に絶頂が襲った。

 宝玄仙は四つん這いの姿勢のまま、背中をぐいと反らして、頭を跳ねあげた。

 

「おおおっ、いぐうっ」

 

 宝玄仙は犬が遠吠えをしたような恰好で喜悦を極めてしまった。

 そして、股間から潮のようなものを噴き出させた。

 

「ははは、情けないわねえ。いき過ぎて失禁? だったら、次は脱糞しなさい。そうすれば許してあげるわ」

 

 御影が大笑いしながら、言玉を出現させたのがわかった。

 宝玄仙ははっとした。

 あの言霊には、沙那の首に嵌めている『服従の首輪』を使って、御影に絶対服従を命令する宝玄仙の言葉が入っている。あの言霊を沙那の前で解放すれば、たちまちに沙那は御影の奴隷に陥るのだ。

 せめてもの望みは、沙那と孫空女が御影に関わり合うことなく、逃亡してくれることだが、どうやら、沙那は律儀にも宝玄仙を迎えに行こうと、こっちに向かっているらしい。

 

「……はあ、はあ、はあ……。ま、待って……」

 

 御影がどこかに行こうとするのに気づいて、宝玄仙はもう一度哀願した。

 

 どうすれば、助かるのか……。

 どうすれば、御影の罠から沙那を救えるのか……。

 どうすれば、あいつらを巻き込まないで済むのか……。

 

 懸命に考えるのだが、何ひとつ知恵は浮かばない。

 

「お尻ばっかりで達するのも飽きたでしょう。これを味わっていなさい。あたしが戻るまでに、せいぜい体力を使っておくといいわ。まだまだ、今日は終わらないわよ。次は三人揃ったところで、犯してあげるわね」

 

 待って──。

 そう叫ぶまもなく、御影が目の前から姿を消した。

 もちろん、言玉も持っていった。

 

 そして、宝玄仙はそれ以上、なにも考えることはできなくなった。

 御影の分身と化している宝玄仙の「手」が御影が残していったものを掴んで股間に持っていったのだ。

 それは巨大ななめくじのような小さな触手だった。

 それが三本ある。

 触手は宝玄仙の股間に接すると、むさぼるように股間に入り込んでもぞもぞと動き出した。

 

「うわああっ」

 

 宝玄仙が奇声をあげてしまった。

 

 

 *

 

 

 御影は、半裸姿で歩いている沙那の前に出現した。

 結界で石壁を作った状態でだ。

 こっちからは沙那の姿は見えるが、沙那からはただの岩壁にしか見えないはずだ。

 

 かなり体力を削り取ってやったとはいえ、この沙那が元は愛陽の城郭の千人隊長であり、気道まで使う達人であることは調べがついている。

 頭もよく、あんな宝玄仙の女奴隷にしておくのは勿体ないほどの女だ。

 

「だ、誰?」

 

 沙那がなにかの気配に気がついたのか、はっとしたように身構えた。

 やはり、勘の鋭い女だ。

 御影は沙那を透明の結界の檻壁にすっかりと包んでやってから、姿を現してやった。

 

「沙那ね? あたしは御影という男よ。あんたとは、さっき会ったわね。もっとも、会ったのはあたしの分身である影法師だったけどね」

 

「御影?」

 

 沙那がいまにも飛びかかろうとする仕草をみせたが、すでに周囲が見えない壁に阻まれて動けない状態になっていることを悟ったようだ。

 沙那は諦めたように構えを解く。

 御影は言玉を破裂させた。

 

『……さ、沙那に……命令……。そ、その御影の言葉に……絶対服従……しなさい……』

 

 息も絶え絶えの宝玄仙の言葉が洞窟内に響き渡る。

 沙那の眼が大きく見開かれたのがわかった。

 

「これで、あんたは、あたしに絶対服従……。そうよね。正直に答えないさい──。命令よ」

 

 御影は言った。

 心なしか、沙那の顔が蒼くなった気がした。

 

「……そ、そうね……。あなたが……御影……なのであれば、絶対服従……。そのようね」

 

「あたしは御影よ──。それを認めなさい。すでに認めているでしょう? 抵抗しても無駄よ。これから、あたしと会話するときは、絶対に真実のみを喋るように命令する。隠し事や、駆け引きのような喋りも禁じる。未来永劫によ」

 

 御影は強調した。

 宝玄仙の霊具が絶対的な力を持っていることは疑ってはいない。

 なにしろ、この霊具で、史上最強の道術師とも称された闘勝仙(とうしょうせん)を陥れ、自らの命を断たせたのだ。

 あの霊具は、言葉で理解したことを装着した対象に行動を強要する絶対的な支配具のようだ。だから、わざわざ、最初に名乗ったのだ。沙那が御影のことを御影と認めない状態であっては、宝玄仙の言葉で「御影に絶対服従しろ」と命じても、意味がない。

 だが、逆には沙那が御影を認めていれば、逃れられない絶対的な服従の力を発揮するはずだ。

 なんの取り柄もない女だが、霊具作りの才能は疑ってない。

 

「……み、認めているわ……。あなたは御影よ……。で、でも、どうして……?」

 

 沙那は口惜しそうだ。

 どうやら、宝玄仙の声で御影の奴隷状態にされたことについて、まだわけがわかっていない様子だ。

 

「質問をするのも命令をするのも、あたしよ──。それとあたしには、丁寧な言葉遣いをしなさい。それとあたしのことは“ご主人様”と呼ぶこと。命令よ。あたしの命令に従うわね?」

 

「し、従います……」

 

 沙那が無念そうに言った。

 その表情が沙那が罠に陥ったことに動顛していることを物語っている。

 沙那としても、宝玄仙のところに到着する前に、まさか、服従の首輪で奴隷状態にされるとは思わなかっただろう。

 

「ご、ご主人様は無事なのですか……、ご主人様?」

 

 すると、沙那が口を開いた。

 御影はにやりと笑みを沙那に向ける。

 

「ご主人様がふたりいてはややこしいわね。宝玄仙のことは“汚らわしい雌豚”と呼びなさい。命令よ」

 

 御影は笑いながら言った。

 沙那なんか、宝玄仙の当てつけとして、すぐに目の前で自殺でもさせるつもりだったが、自分の供だった女に、雌豚呼ばわりされるときの宝玄仙の気持ちはどんなものだなのだろう。

 それを愉しんでから、沙那を殺しても遅くはないなあと、ちょっと思った。

 

「き、汚らしい雌豚は無事でしょうか、ご主人様」

 

 沙那は言った。

 御影は大笑いしてしまった。

 

「雌豚は元気よ。一応ね──。今頃は狂ったように自慰をしているはずよ」

 

「自慰?」

 

 沙那はきょとんとしている。

 

「自慰よ自慰。すぐに会えるわ。そうだ。あんたも自慰をしてもらおうかしら。宝玄仙の供は、誰も彼も、狂ったような自慰人形にしてやるわ。そこで跪いて自慰をしなさい。一番感じる場所を刺激するのよ。そして達しなさい。命令よ」

 

「くっ」

 

 沙那が歯ぎしりのような仕草をする。

 だが、命令には逆らえないのだ。

 その場で跪いて股間を愛撫し始める。

 すぐに喘ぎ声が始まった。

 

「う、うう、あっ、ああ……」

 

 御影の前で、沙那は股間と乳房を淫らに刺激し始める。

 確かに、『服従の首輪』は効果を及ぼしているようだ。

 御影は満足した。

 

「達したら、そのまま引き返して、孫空女を捕縛して連れてきなさい。おかしな仕掛けは解除してあげるわ。真っ直ぐに戻って、真っ直ぐに最奥までやって来れるはずよ。そこで雌豚が待っているわ。あんたらの元のご主人様がね」

 

「わ、わかりました……。つ、連れてきます……」

 

 沙那が声を上ずらせながら言った。

 

「だけど、孫空女はあんたよりも強いでしょう?」

 

「はい」

 

「捕縛して、連れて来れる?」

 

 沙那はできないとは言わなかった。

 どうやって連れてくるのか確かめようと思った。

 いまの沙那は、御影には嘘はいえないし、隠し事もできないはずだ。

 それでも、小細工をしないように、考えていることを口にさせようと思った。

 

「ち、力では無理です」

 

 沙那の身体が真っ赤になり、息が荒くなっている。

 さすがは、あの変態巫女が調教している女だ。随分と敏感のようだ。

 

「どうするの?」

 

「さ、策を……策を弄します……。あ、ああ……はあ、はあ、はあ……」

 

「策とはなに? 全部、言いなさい。命令よ」

 

「ご、ご主人様の……ぬ、布を……つ、使います……」

 

「あたしの布? 魔道封じの布のこと?」

 

 宝玄仙を捕まえるのに使った罠だが、そういえば、あの場所に残したままだった。

 

「あ、あの布を持って来ています……。なにかの……役に立つかと思ったのです……。そ、孫空女は……、あ、あの布に……ふ、触れると……う、動けなく……なります……。こ、この目で見ました……。隙をみて……か、被せます……。あ、あいつが……わ、わたしを疑うことは……な、ないので、うまくいくと……思います……」

 

 沙那の身悶えがかなり激しいものになった。

 そろそろ達するのかもしれない。

 それにしても、なかなかの策士だと思った。

 やはり、元千人隊長だ。

 

「達したら、戻りなさい──。孫空女を捕まえて連れてくること──。それと、いまから言うことは、未来永劫に続く命令よ。お前は、あたしを攻撃してはならない。そして、もしも誰かがあたしに危害を加えそうになったら、身を挺してでも、あたしを守りなさい。命令よ。いいわね──」

 

「わ、わ、わかりました……。と、ところで……、い、いきます……」

 

 沙那の身体がぶるぶると震えた。

 そして、弓なりになり、噛み殺したような悶え声を出しながら、沙那が昇天したのがわかった。

 

 

 *

 

 

「うう、いいわあっ、気持ちいい……。気持ちいいわあ……。やっぱり、あんたの身体はいいわねえ。この気持ちよさがある限り、生かしておいてあげるわね。いくわあっ」

 

 御影は宝玄仙を背後から犯しながら、思わず感極まって声をあげてしまった。

 あの淫具の尻尾は抜いたが、やはり、生はいい。

 何度犯しても、この女の道具は最高だ。

 それは認めざるを得ないだろう。

 

「う、うううっ、んあああっ」

 

 一方で宝玄仙は、御影に改めて犯されだしてから、何度目かの絶頂をした。

 なにしろ、跪いて尻を高く上げた状態で御影に尻側から犯されながらも、宝玄仙の両手は宝玄仙の股間と乳房をこれでもかと責めたててるのだ。

 見た目は自慰をしながら犯されている姿だが、宝玄仙の両手は御影が支配している。

 これは、御影が分身を操ってやっている行為である。

 

 そして、いま、宝玄仙の口には、意味のある言葉を封じる道術をかけた。

 沙那が戻ってきたとき、御影に絶対服従だと言った命令を取り消されては困るからだ。

 口惜しいが、宝玄仙の霊気は、御影よりも上だ。だから、宝玄仙の意思に反しては御影の道術はかけることはできない。

 しかし、宝玄仙については、死の一歩手前まで追い詰めるような連続絶頂責めにさせていた。そこまで弱らせてしまえば、さすがに宝玄仙は抵抗するほどの心を保つことはできなかった。

 弱った心のときには、どんな強い道術師であろうとも、道術を抵抗なく受け入れるしかなくなる状態になってしまう。

 宝玄仙も例外ではなかった。

 

 それにしても、うまくいった。

 宝玄仙は完全に支配下だ。

 沙那も捕らえた。

 もうすぐ、孫空女も無力化されて、やって来るだろう。

 

 これで復讐の土台はすっかりと整ったということだ。

 どんな仕打ちで、この三人を痛めつけてやろう。

 いまから愉しみだ。

 

「うおおっ、あ、あんまり締めつけないでよ、あんた」

 

 そのとき、すごい勢いで宝玄仙の膣が収縮するように動いて、御影の男根をぎゅっと締めつけた。

 御影は一瞬にして精を搾り取られてしまった。

 

「まあいいわ。じゃあ、舐めてもらおうかしらね……。掃除してちょうだい。噛みきってなにかをしようと思っても無駄よ。一応は性器を結界の膜で包んでいるからね。それに歯形ひとつつけたって、沙那を自殺させるわ。それでもいいなら、なんでもしなさい」

 

 御影は宝玄仙の口に精を出したばかりの男根を向けた。

 宝玄仙は、なにか言いたそうだったが、結局、なにも言わなかった。

 大人しく、御影の性器を口に咥えて、舌で掃除をし始める。

 

 そのとき、洞窟の入口に何者かが侵入した反応を感じた。

 御影は霊気を研ぎ澄まして、それを追った。洞窟全体を御影の結界で覆っている。だから、離れたここからでも、気配を感じることが可能だ。

 

 入ってきたのはふたりの女だ。

 ひとりは上半身全体を布で巻かれている。

 もうひとりは沙那だ。

 沙那は上半身を包んだ相手を縄で布の上から縛って、その縄尻を持って進んで来る。

 

 どうやら、沙那は孫空女を捕らえるのに成功したようだ。

 

「沙那は孫空女を無事に捕らえたわよ。こっちに呼ぶわね」

 

 御影は満足して、性器を宝玄仙の口から抜いて服装を整えた。

 そして、四つん這いになっている宝玄仙の背中にどしりと腰をおろす。

 

「うっ」

 

 重みで宝玄仙が潰れそうになったのがわかった。

 だが、必死になって身体を保持したようだ。

 潰れれば、なにをされるかわからないと思っているのだろう。

 やはり、この女は心のどこかで、徹底的な奴隷根性を叩き込まれていると思った。

 二年間の闘勝仙の奴隷生活でもそうだったようだが、その前に御影が宝玄仙を罠にかけて慰み者にしたときも、そんな感覚があった。

 平素の強気の外観は、自分自身の被虐心を嫌悪する心の裏返しだ。

 この女の本質は被虐だ。

 御影はそう思った。

 

「通路を開くわ……。そのまま、真っ直ぐに来なさい、沙那」

 

 御影は洞窟を進んで来る沙那に、道術で言葉を送ると、結界を動かして進入路を解放した。

 解放しない限り、いつまでも迷路のような洞窟が続くのだが、解放すれば、あっという間にここに辿り着く。

 そんな仕掛けにしていた。

 

「……沙那と孫空女がやってきたら、全員で改めて、あたしの隠れ家に移動するわ……。そこで、お前には生まれてきたことを後悔するような目に遭わせてあげる……。自殺もさせない……。そのうちに、お前自身の服従の首輪をもうひとつ作らせて、お前に嵌める。まあ、教団に引き渡されるよりはいいでしょう?」

 

「はあ、はあ、はあ……。あ、あれは……も、もう作れない……。そ、それよりも……、重いよ……。もう、くたくたなんだ……。も、もう、堪忍……」

 

 宝玄仙は本当につらそうだ。

 御影は返事の代わりに、背中にさらに身体の重みをかけてやった。

 宝玄仙が「ううっ」と苦しそうに呻いた。

 

 すると、この場所を封鎖している岩壁の前に、沙那たちが到着したのがわかった。

 御影は結界を解く。

 ここは二重の結界になっていて、岩壁に見える結界が最後の防壁なのだ。

 それを消滅させる。

 すると、目の前に、沙那と黒い布に包まれている孫空女が現われた。

 

「んん?」

 

 しかし、思わず、御影は首を傾げてしまった。

 なにかが不自然だったのだ。

 

 そして、その違和感の正体はすぐにわかった。

 沙那よりも背が高いはずの孫空女が異常に背が低かったのだ。

 ほとんど、沙那と同じくらいだ。

 いや、まったく一緒だ。

 

 どういうこと──?

 

 口に出そうとして、なぜか喋れなかった。

 代わりに、口から血の塊が噴き出した。

 

 なんだ──?

 

 叫ぼうとした。

 やっと、自分の胸に沙那が繰り出した『如意棒』が突き刺さっているのがわかったからだ。

 如意棒は、御影の胸を貫き、後ろの洞窟の壁まで貫いるようだ。

 

 また、血の塊が口から噴き出した。

 

「やったわ、孫空女……」

 

 沙那の声がした。

 だが、それは如意棒を貫かせている側ではなかった。

 黒い布に包まれている方からだ。

 

 黒い布と縄を自ら外した沙那がそこから現われた。

 沙那がふたり……?

 

 そして、御影はすべてを悟った。

 ずっと、沙那だと思っていたのは、霊具かなにかで、沙那に変身をしていた孫空女だったのだ。

 服従の首輪も、なんの効果もない偽物だ。

 だから、言霊により支配に陥るわけもなく、ずっと支配されたふりをしていただけだったのだろう。そして、御影が宝玄仙のところまで、ふたりを連れていくのを待っていたのだ。

 

 沙那だと思い込んでいた女が孫空女の姿に変わった。

 そして、その孫空女が、一度如意棒を御影の身体から抜いてから、もう一度貫かせた。

 

 視界が失われ、すべてが闇に包まれた。

 

 

 

 *

 

 

 

「死んだ……?」

 

 沙那は宝玄仙の背中から転がり落ちて、いまは洞窟に横たわっている御影の屍体を見下ろしながら呟いた。

 

「そのように見えるね。この洞窟の結界がまるでなくなった。霊気も消えている」

 

 孫空女が言った。

 

 沙那はいまだ四つん這いの格好で身動きできない宝玄仙に駆け寄った。ちらりと宝玄仙の股間に眼をやる。精液の垂れが内腿につたっている。

 

 犯されたのだろうな……。 

 沙那は思った。

 

 沙那は宝玄仙の首と足首を包んでいた『道術封じの布』を剥ぎ取った。

 手足の布が取り去られると、宝玄仙はぐったりと倒れた。

 宝玄仙の身体は汗まみれであり、死んだ御影から流れた血が身体に降り注がれた状態になっていた。

 だが、それを拭こうとすると、汗とともに血が宝玄仙の裸身から消えていくのがわかった。

 宝玄仙の道術だ。

 しばらくすると、染みひとつない宝玄仙の身体になった。

 

「あ、ありがとう……本当に……ありがとう……、お、お前ら……」

 

 やがて、宝玄仙が言った。

 彼女の飾りのない感謝の言葉に、沙那は思わず微笑んでしまった。

 

「いえ……。大丈夫ですか、ご主人様?」

 

「あまり、大丈夫じゃないけど……。まあ、たまにはいい刺激だよ」

 

「服は洞窟の入口です。すぐに持って来ます」

 

 沙那は言って、立ちあがろうとした。

 しかし、それを宝玄仙が押し留める。

 

「……いいよ……。自分で歩いていく……。だけど、まだ身体が痺れていてね……。ちょっと休んでからだ」

 

 宝玄仙が荒い息をしながら言った。

 

「はい」

 

 沙那はぐったりと沙那に身体を預けてきた宝玄仙を支えるように抱えた。だが、すぐに宝玄仙の股間の状態に気がついた。

 孫空女に目で合図する。

 孫空女は無言で御影の衣服から端の血の付いていない部分を切り割いて持ってきた。

 

「拭くよ」

 

 宝玄仙は、孫空女にされるままにじっとしている。

 まるで、失われた霊気を取り戻そうとしているかのようにも見えた。

 やがて、孫空女の手により股間をきれいにしてもらった宝玄仙は、視線を洞窟の隅で横たわる御影の屍体に向けた。

 

「こいつは死んでいないよ……」

 

「ええっ?」

 

 声をあげたのは孫空女だ。

 

「これも、こいつの分身ですか?」

 

 自分の分身を操るという御影の能力を聞いていた沙那は、宝玄仙に訊ねた。

 

「違う。これは間違いなく本体だよ。このわたしを犯すという役割を自分の分身なんかにやらせはしないよ……。これは御影の本体だよ」

 

「だったら死んでいるよ、ご主人様。あたしも、この屍体がまるっきり霊気を失くしていて、霊気が動いていないのがわかるよ」

 

「うん、そうだね、孫空女。お前はどうやら完全に道術遣いと同じような身体になったようだね。しかも、一流の……。霊気の流れが見えるというのは、実は道術遣いでも、このわたしや御影程度以上の力がなければできないのだよ」

 

「だったら──」

 

「わたしたちのような道術遣いにはねえ……。万が一にも、死んだ場合に備えて、魂の欠片(かけら)をどこかに隠しておく者がいる。それで、本体が生命を失われたとき、その欠片が少しずつ魔力を集めて、やがて復活するのさ。そういう意味でこいつは死んでいない。いつかは復活するだろうよ」

 

「いつかって……」

 

「こいつは、以前、帝都で首を斬られた。それは、間違いなく御影だった。だけど、それから数年……。いつの間にか復活して、わたしにつきまとってきた……」

 

「また、やって来るのでしょうか?」

 

「しつこい男だからね……。それにしても……」

 

 宝玄仙はいきなり立ちあがると、御影の屍体を蹴飛ばした。

 沙那は驚いた。

 

「こうしてやる──。こうしてやる──。こうしてやる──」

 

 宝玄仙は狂ったように御影の屍体を繰り返し踏みつけた。

 沙那は孫空女とともに、呆気にとられてその行動を眺めていた。

 

「とっとと復活して来い、この男女──。どうしてやるか、覚悟していろ。お前こそ、生まれてきたことを後悔するような目に遭わせてやる──」

 

 やっと、屍体に対する冒涜をやめた宝玄仙は、激しく息をしながらそう言った。

 

「そろそろ、出ましょうか、ご主人様」

 

 沙那は宝玄仙の背中に声をかけた。

 

「そうだね。その前に、こっちにおいで、沙那」

 

「はい」

 

 沙那は、宝玄仙の前に立った。

 

「今回の策はお前が考えたのかい、沙那?」

 

「そ、そうです……。ご主人様が捕えられた時点で、わたしの行動が制約される危険がありましたから……」

 

 沙那はおずおずと言った。宝玄仙はなにか怒っているのだろうか。

 宝玄仙は沙那を鋭い視線でにらんでいる。

 

「わたしが脅迫されて、お前に裏切るように命じるという危険だね?」

 

「そ、そうです」

 

「そうだね。実際のところ、そうなった。わたしは、そういう事態がありうることを想像していなかったよ」

 

「それは……」

 

「これは、もう外しておく……」

 

 宝玄仙は沙那の首にあった『服従の首輪』を取り去った。呆気ないくらい簡単にそれは外れて、もう、宝玄仙の手の上にある。

 

「あ、あの、どうして……?」

 

 沙那は自分に起こったことが信じられなかった。ついに『服従の首輪』が外されたのだ。

 宝玄仙はそれをじっと手の中に握っていた。やがて、それは、宝玄仙の手の中から小さな指輪のような大きさとなってこぼれ落ちた。

 

「孫空女、これを砕いておくれ」

 

 宝玄仙が言った。

 

「うん」

 

 孫空女が地面に落ちた“それ”を如意棒で突いた。『服従の首輪』であった魔具はそれでばらばらに砕けた。

 

「これで、お前を縛っていたものはない、沙那……。だけど、わたしの旅についてきてくれるね?」

 

「あ、あの……」

 

 沙那は自分の首を擦った。

 なにもない……。

 あれほど、沙那の心と身体を苦しめた首輪がなくなっている。

 

「一緒に来てくれるね、沙那──?」

 

 宝玄仙がもう一度同じことを言った。なにか、あの宝玄仙がすがるような視線を沙那に向けてくるのがおかしかった。

 沙那はうなずいた。

 すると、宝玄仙はほっとした顔になり、今度は孫空女を見た。

 

「そして、孫空女──。御影は死んだ。お前にかかっていた死の呪いはもうない。あいつが復活したとしても、生き返る前にかけていた呪いなど無効だ。わたしの道術で作った手足もそろそろ安定して、わたしの霊力がなくても、お前も大丈夫だ。お前も、わたしに縛られるものはなくなった。それでも、ついてくるね?」

 

「あたしはいっぺん誓ったら、なにがあっても裏切らないよ。ご主人様の性奴隷になると約束したから、ご主人様がもういいって言うまで、性奴隷とやらをするよ」

 

 孫空女は屈託のない口調でそう言って、明るく笑った。

 宝玄仙は嬉しそうに微笑んだ。

 

「……ついでに『女淫輪(じょいんりん)』も外して貰っていいですか、ご主人様?」

 

 機嫌がよさそうだ。沙那はこの機会にお願いしてみようと思った。

 沙那の乳首と陰核の根元には、『女淫輪』という魔具が締めつけられている。それは、常に沙那を軽い欲情状態にしている。

 

「それは駄目」

 

「ひやっ」

 

 『女淫輪』が不意に振動しはじめて、沙那は悲鳴をあげた。

 

「孫空女もだよ」

 

「うわあっ」

 

 孫空女がお尻を抱えてうずくまった。

 このところ、宝玄仙は孫空女のお尻ばかり責めている。いまや、孫空女も沙那と同じように、後ろが肉芽と同じくらいの快感の場所となっているはずだ。

 

「このわたしの苛々を解消させるために、少しばかり、お前たちで遊ばせてもらうよ」

 

「ひ、酷いよう……。た、助けたのに……ああっ」

 

 孫空女が喚いた。

 

「さあ、さっさと戻るよ。こんな屍体なんかと同じ場所に、いつまでもいられるもんかい」

 

「だったら、もうとめてください──。ああっ」

 

 沙那も言った。

 

「さあ、行くよ」

 

 宝玄仙が言った。

 沙那は歩き出したが、どうしても中腰のみっともない恰好にしかなれない。ふと見ると、同じような姿勢で孫空女も歩いている。

 

「このくらいで音をあげるお前たちじゃないだろう? ちゃんと、いくにいけないくらいの刺激に弱めてやっているはずだ。さあ、行くよ」

 

 宝玄仙がすたすたと歩きだした。

 

 ひとりで行くと危ない。

 沙那はそう思い、慌てて後を追った。

 

 

 

 

(第5話『仇敵再び』終わり)






 *


【西遊記:20・21回、黄風大王】

 うっかりと黄風大王の縄張りに入ってしまった玄奘一行(すでに猪八戒も供になっています。)は、黄風大王の部下の罠に嵌まって、幻の敵をふたりで追いかけるうちに、残してしまった玄奘を浚われてしまいます。
 玄奘は、妖魔の洞府に連れ込まれますが、孫悟空はなんとかその洞府を見つけて、虫に化けて囚われている玄奘を安心させます。
 しかし、黄風大王は強く、一度は孫悟空は撃退されます。
 孫悟空は、黄風大王の術を封じることのできる霊吉菩薩の助力を受けて、再度殴り込みをし、今度は洞府の外で黄風大王を倒します。
 そして、待機をしていた猪八戒とともに洞府に入り、囚われていた玄奘を救出します。
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