「だ、だめえっ」
卓の上の沙那の身体が何度目かの痙攣をしたかと思うと、がっくりと脱力した。
大したことをしているわけではない。
拘束した身体を卓の台から出現させた十数本の触手で少しばかり刺激してやっただけだ。
しかし、さっきから決まった動きを繰り返すからくり人形のように、触手の責めであっという間に欲情して、身体を激しく悶えさせて続けて絶頂してしまう。
そのあまりもの肌の感度のよさには、
いま、沙那は最初に捕らえた客間で、腰に履いた下着一枚だけの裸身で、右手首と左足首、左手首と右足首の組み合わせで背中で交差するように鎖付きの枷で拘束している。
その恰好で仰向けにしているので、上から見ると手足のない芋虫が身体を反り返らせているような態勢だ。
その沙那を卓から落ちないように触手で胴体を縛り、全身を触手で刺激している。
多目怪としては、沙那に快感を与えて責めたてるというよりは、脇や横腹や太腿などのくすぐったい場所を刺激して笑わせようとしているのだが、沙那はむしろその刺激で欲情してしまうらしく、あっという間に快感に悶えて絶頂してしまう。
くすぐったさよりも、快感がまさってしまうという沙那の身体には、多目怪も苦笑したくなるほどだ。
しかし、くすぐっても笑い出さず欲情してしまうのでは、くすぐり好きで人間の女が悶え苦しむ姿に欲情する多目怪としては、なんだかご馳走を前にしているのに、味わうことなく料理が消えてしまったような気分になる。
「お前、いくらなんでも感じすぎるぞ。それでは面白くないのだ。もう少し、よがり狂うのを我慢できんのか、沙那。わしも、さまざまな人間の女を弄んできたが、くすぐったさよりも、欲情する方が先だというようなはしたない女は初めてだぞ」
「な、なに勝手なことを言っているのよ……」
「わしは、くすぐりを快感としてしまって笑い狂いながら果てるくすぐり奴隷を得るのが夢だが、お前の場合は、笑い狂う前に欲情してしまう。それではくすぐったことにならんのだ」
多目怪は、一度、沙那を刺激する触手を沙那から離した。
沙那は、脂汗を撒き散らして全身を真っ赤にして激しく悶えていたが、ほっとしたように身体の力を抜いた。
「う、うるさい――。ひ、卑怯よ……。こ、こんな風にいっぺんにあちこち責めるなんて……」
汗びっしょりの額に前髪を張り着かせている沙那が顔を横に向けて、多目怪を睨む。
「卑怯もなにも、もう少し、身体の感度を下げられんのか……。よく、そんないやらしい身体で普通に生活できるな」
多目怪は苦笑した。
「う、うるさいわねえ……。わたしは、ふ、普通よ……。そ、そりゃあ、少しばかり感じやすいかもしれないけど……。そ、それはご主人様に調教されたから……」
「なにが普通だ。お前は異常だ」
「ふ、普通よ──」
多目怪は、返事はせず、今度は触手ではなく、準備していた鳥の羽根でびしょびしょで水をかけたように濡れている下着の上から股間の部分を佩くように動かした。
「あひいいいっ──」
沙那は細い腰と左右に割った両腿を大きく痙攣させて、仰け反っている身体をさらに大きく仰け反った。
そして、また、股間の部分に新しい大量の淫液の染みを作ると、悲鳴をあげて果ててしまった。
「これでも普通か?」
多目怪は呆れながら沙那に言った。
「う、うるさいっ」
沙那はまだ激しい呼吸を続けながら横を向く。
「普段は欲情にも耐えるように身体の気を制御しているのだが、一度達してしまうと、後は快感を制御できなくなるということか……」
羽根を引き揚げて、再び沙那を観察するような態勢になった多目怪は、やっと沙那の身体の秘密がわかってきた。
数百年もの間、さまざまな妖魔や人間と接してきた多目怪は、人間の中には、霊気とは違う“気”というものを自在にする者がいるということを知っている。
それは、霊気とは異なり、長い鍛錬により習熟するものであるらしいが、気の流れを操り、それを動かすことで生命の根源を遮断したり、逆に病を癒したりする。
それは経絡ともいう気の入口から気功を送り込み、臓器や神経に影響を与えたりする技でもある。
沙那は、その気を操る術を心得ているに違いない。
沙那が自覚があるのかどうかはわからないが、本来、沙那は常人とはかけ離れるくらいに感じやすい身体をしているのは間違いない。
しかし、普段は、自分の気を操り、その欲情を制御している。
だが、一度、達してしまうと、気の制御が不可能なり、歯止めのない快楽地獄に襲われてしまうということに違いない。
「……それにしても、これではどうしようもないな。わしは人間の女が苦しみ悶える姿が好きなのであり、淫乱に欲情する姿を見たいわけではないのだ」
多目怪は言った。
「い、いい加減にしなさいよ。み、みんなは無事なんでしょうねえ。この変態妖魔──」
沙那が叫んだ。
さっきまであれほどによがり泣いていたのに、ちょっと休むだけで快復を示す気力の強さについてもびっくりする。
人間の女の場合は、ある程度の責めを与えると気力が萎えて、すっかりと従順になる場合が多い。
宝玄仙の場合もそうだった。
最初こそ、気の強い素振りを示していたが、この屋敷に連れ帰って本格的に責めたてると、意気消沈したようになって、多目怪への反抗の態度が消えた。
さっきも、黄金の光の罠で捕えた後、意識を失っていたところを覚醒させて、七雌妖に嵌められていた淫具を外すように命令した。
まだ、朦朧としていた宝玄仙は、特に逆らうことなく、あっさりと淫具にかけられていた『道術錠』を解除した。
「返事をするのよ、多目怪──。みんなは無事なの?」
四肢を背中に拘束されたままの沙那が多目怪を睨んだ。
これほど、無防備な恰好を強いているのに、この気の強さはどこから出てくるのだろう。
「お前が心配することではないわ、沙那」
多目怪は鳥の羽根で沙那の脇の下をさわさわと擦った。
「あはあっ……あっ、あっ、あはうっ──」
たちまちによがりだす。くすぐったそうに笑みらしきものを顔に浮かべるのだが、やはり、快感の方が強いのだ。
はっきりとした淫情を全身で示しだす。
なかなか、笑い苦しんでもらえないことに、苛立ちのようなものが込みあがる。
「少しは我慢しろと言っておるだろう。よがるのを我慢したら、仲間がどうなっているのか教えてやろう」
多目怪は言った。
淫情を我慢させれば、くすぐり責めが効果を表して、笑い苦しんでくれるのだろうか……。
それにしても、これまで数多くの女をくすぐり調教したが、感度を落とす方向に調教しなければならないのは初めてだ。
あまりにも感度が良すぎて、くすぐってもよがってしまう女が存在することなど信じられない。
沙那は歯を食いしばって、耐える表情になった。
多目怪は羽根で横腹を擦りあげる。
沙那の身体がびくりと弾ける。
食いしばっている歯から、酔いしれたような嬌声が漏れ出る。
そのまま続けると、沙那の喘ぎと呼吸は激しいものになり、上気した顔を真っ赤にして左右に振りだす。
女がこれ程に快感を示せば、これはこれで欲情する雄妖や人間の男も多いのだろうが、多目怪は逆に白けた気分になる。
人間の女が苦しみ笑うのを見たいのであり、いき狂うのを見たいわけではないのだ。
確かに、くすぐりを快楽に受けとめてしまうくすぐり奴隷を作ろうとしているが、それは、くすぐりの苦しみを快感に昇華させる女を作ろうとしているのであり、くすぐりの苦しみを苦しみとして受け付けない女を欲しているわけではない。
「ああっ、ああっ……あぐうっ──」
沙那の身体がぴんと張ったような状態になった。
少しばかり、横腹をくすぐっただけでまたいったのだ。
いけばいくほど、感度があがるようだ。
最初の頃だったら、沙那はまだもう少し我慢していた。
いまは、絶頂を重ねすぎて、全身が性感帯のようになって、どこをどう触られても、局部を触られていると同じように感じてしまうようだ。
「また、いったのか、沙那? 呆れたものだ」
多目怪は言った。
すると、激しく呼吸をしている沙那が悔しそうに多目怪を見た。
しかし、多目怪としては、沙那を侮蔑するために言っているわけではない。
途方のない淫乱ぶりを示す沙那に、呆れたというのは本当の思いだ。
「ご、ご主人様は無事……?」
息も絶え絶えの沙那がまた訊ねた。
「このくらいなら耐えられるか?」
多目怪は鳥の羽根で首を下から上に何度も擦りあげた。
ここなど、それほど敏感な部位ではない。
くすぐったがってくれるだろうか。
「あっ、あっああっ」
沙那は半開きの口からたちまちに甘い声を出した。
さすがに首をくすぐられただけで達することはなさそうだが、このまま続ければ、もしかしたらいくのかもしれない。
多目怪は、くすぐり調教をする際、くすぐりながら快感を消えさせないために、性感帯への愛撫を併用するということをよくやる。
沙那の場合は、そんなことをする気になれない。
もしも、いま、乳房を鳥の羽根で軽く擦ろうものなら、それだけで沙那は、あっという間に身体を震わせて絶頂してしまうに違いない。
「足の裏はどうだ?」
多目怪は責める場所を足の裏に変えることにした。
いくらなんでも、ここはくすぐったがってくれるだろう。
気持ちよさがまさるということはないはずだ。
仰向けの身体をひっくり返して、交差して背中側で四肢を繋いでいる手足首のある側を上にする。
沙那の形のいい乳房が床に潰される。
くすぐりにより笑い出す場所がひとつでもあれば、沙那は素晴らしいくすぐり奴隷になれる。
なにせ最初からくすぐりを快感として変えることができるのだ。
後はくすぐり笑う姿を見たいだけだ。
鳥の羽根で足の裏を撫ぜあげる。
「あはっ……やっ……ああっ……あっ、あっ、あっ」
足の指を懸命に動かして、羽根を避けようとしているが、沙那の仕草ははっきりとした欲情を示している。
足の裏で快感に狂うくらいだから、もう、どこを刺激しても駄目だろう。
いまの沙那は、全身が性感帯の狂い人形だ。
先に連続で昇天させてしまって、精神の抵抗力を削ごうとしたのが間違いだった。
連続絶頂程度の仕打ちでは、沙那の気力は萎えず、しかも、それにより、気の制御による快感に対する抑制が外されてしまい、全身のどこに、どんな刺激を受けても快感に繋げてしまうようになってしまった。
これでは、くすぐり調教はできない。
多目怪は持っていた鳥の羽根を放り投げた。
時間をおいて回復させてからやり直しだ。
「もういい、沙那。奴隷用の檻に入っておれ──。宝玄仙は、お前が入れられる奴隷用の檻の隣の檻におるわ」
この屋敷には、多目怪の結界がかかっていて、この屋敷内のどこかで『移動術』を使えば、その刻んだ行き先に関わらず、すべての行き先が地下にある奴隷用の檻になる。
多目怪は沙那を『移動術』で飛ばした。
沙那は四肢を拘束されたままの格好で、地下の檻に転送された。
宝玄仙も沙那も、明日の朝まで体力の回復をさせることにした。宝玄仙は、身体の回復をさせなければならないし、沙那については、調教の方法について改めて検討し直すためだ。
多目怪は、調教部屋で眠らせたままの孫空女に向かうことにした。
あの女には、最初に七雌妖の屋敷で出遭ったときに、いきなり腕を棒で叩き斬られた。
折角の機会だからその酬いだけでも与えてやろう。
いずれにしても、これで概ねの方向性は決まった。
宝玄仙は早晩、くすぐり奴隷一号として完成するに違いない。
沙那もゆっくりと調整していけば、多目怪の望む方向に身体の調教を進めることができるはずだ。
朱姫は七雌妖に渡した。
いまのところ、あのまま責め殺しそうな雰囲気だが、半妖は多目怪の性癖の対象外なのでどうでもいい。
孫空女を生かしておくか、殺してしまうかは、これから行う孫空女への責めの結果により変わるだろう。