孫空女が眼が覚めると真っ白い部屋の中にいた。
天井の四隅に燭台がある。
それで部屋の様子が見えたが、窓もなければ出入り口のような扉もない。
家具もまったくなく、ただ床があるだけだ。
特に拘束されているわけではない。
ただし、素裸だ。
気を失っている間に裸にされたに違いない。
耳に触れた。
ここに『如意棒』が隠してあるのだ。
やはり、なくなっている。
「気がついたか、孫空女?」
声がした。
しかし、どこにも声の主の姿は見えない。
孫空女は両手で胸と股間を隠しながら用心深く立ちあがった。
「いまさら、身体を隠しても無意味じゃろう、孫空女。お前の身体は隅々まで見せてもらった。なかなか、よい身体をしておるな。よきくすぐられ振りを見せてもらえれば、くすぐり奴隷として躾けてやるぞ」
孫空女は、その声にやっと記憶が結びついた。
「お前、
孫空女はそう言うと、いきなり壁に突進した。
力一杯壁に蹴りを入れたが、壁はびくともしなかった。
固いというよりは、弾力性があり、孫空女の蹴りの力を吸収してしまう感じだ。
「驚いた反応じゃな──。沙那といい、お前といい、宝玄仙の供たちは個性があって面白いのう。沙那は沙那で、あんなに感度の良すぎる女はいないだろうし、お前はお前で、いきなり、壁に飛び蹴りとはな」
多目怪の笑い声が部屋に響く。
おそらく、なにかの道術で声を転送しているのだろう。
孫空女の姿もどこかで見ているに違いない。
「ふんっ」
さっき蹴った感触から、どんなに力を込めても、壁に穴は開きそうにないということもわかった。
部屋全体になにかの道術がかかっている。
宝玄仙や朱姫の『結界術』のようなものかもしれない。
いずれにしても、ここからの脱出は不可能そうだ。
だから、多目怪は、余裕綽々で笑っているのだ。
そのとき、孫空女は、天井から降りる一本の大きな輪を発見した。
さっきまでなかった気がするから、孫空女が壁に飛び蹴りをしたりしている間にでも出現したのかもしれない。
輪の高さは、それほど高くはない。軽く手を伸ばせば届く程度だ。
「孫空女、あの輪をしっかりと握っていろ」
声がした。
しかし、孫空女は反応しないままでいた。
なにか企んでいる気配が声にあったからだ。
だが、がたんと音がして、孫空女が立っている中央を除いて、突然、部屋の両側の床がなくなった。
部屋の両側に巨大な穴ができた。
「な、なにぃ?」
次の瞬間、孫空女が立っている中央の床もなにかの振動が足から伝わってきた。
咄嗟に孫空女は吊り輪に両手で捕まった。
次の瞬間、ぐいと吊り輪が持ちあがった。
同時に残っていた中央部分の床も消滅した。
消滅した床の下には、たくさんの金属の板が垂直に立っているのが見えた。
孫空女の足先から刃物の先までの深さは、手を伸ばした孫空女の高さの二倍半程度だ。
そこに尖った部分が上を向いている薄い鉄の板が真っ直ぐに立っているのだ。
刃の高さはかなり深くよくわからない。
それが半尺(約十五センチ)間隔に敷き詰められている。
しかも、その上端に縁は刃が入っているらしく、剃刀の刃のように鋭く研ぎ澄まされている。
「いまから、お前の処刑を行う」
多目怪の声がした。
「ふ、ふざけるなよ、多目怪。殺すならさっさと殺せばいいだろう──」
孫空女は悪態をついた。
悪趣味な多目怪の仕業に頭の血が沸騰しそうになる。
「もちろん、そのつもりじゃ、孫空女。しかし、お前は、わしの腕を叩き斬ったという罪があるしのう。無論、あんなものではわしの身体を傷つけることはできんが、罪は罪じゃ。しっかりと恐怖を味わってから死んでもらおうと思うてな……。これを見よ」
吊り下げられている孫空女の上の天井の一部が開いた。
四隅を細い鎖で吊り下げられた皿のようなものが降りてくる。
降りてきた皿が孫空女の眼の高さよりも下になると、やっとその皿の上にいたちのような小さな動物が載せられていることに孫空女は気がついた。
「な、なにするんだよ……?」
「よく、見ておくんだな。これがもう少し後のお前の姿だ」
多目怪の声が部屋に響いたかと思うと、四本の鎖のうち二本が切れて、皿の上の動物が床の下に落下していった。
「フギャアア──」
仔猫の胴体が刃のひとつに衝突した。
動物の身体が刃でふたつになり、刃と刃の間に血を撒き散らしながら落ちていった。
「な、なんてことを……」
孫空女は自分の顔が蒼くなるのを感じた。
いま持っている吊り輪から手を離せば、さっきの動物のように身体が切り刻まれるということだ。
「いくらなんでも刃と刃の間に着地するなど不可能だと思うが、実は刃の横には、三尺(約一メートル)の鉄の杭も植えてある。うまく刃を避けても、お前の身体は串刺しになるということだ」
多目怪の馬鹿笑いが響く。
孫空女は多目怪の残酷な仕打ちに歯噛みした。
部屋の壁にはなにもなく、うまく振り子のように吊り輪を揺らして飛んでも、突起物もない壁に掴まることは不可能だ。
それに、この状態ではいくら孫空女でも壁まで跳ぶことなどできない。
いずれにしても、このまま吊り輪にぶらさがったままでは、いつかは孫空女の力も尽きる。
まだ、しばらくは大丈夫だが、手の力が極限になり、吊り輪から手を離せば、孫空女の身体は刃で切断だ。
時間をかけた残酷な死刑というわけか……。
だっから、吊り輪の上に昇れば……。
「言っておくが、吊り輪を不用意に動かしたり、よじ登ったりはせんことだ。そんな負荷をかければ、吊り輪は天井の根元から切れ落ちてしまうからな」
多目怪が孫空女の心を見透かしたように言った。
こいつは、いつかやってくるであろう孫空女の手の力が尽きるところを見たいのだろう。
そのとき、哀れに泣き叫び、哀願する様を眺めたいに違いない。
「……もっとも、わしも無慈悲ではない。お前が助かるための条件をつくってやる。半刻(約三十分)だ。半刻そのままで耐えよ。そうすれば、命は助けてやる」
「半刻(約三十分)……」
短い時間ではないが、孫空女には耐えられない時間ではない。
ただ、ぶらさがるだけなら、実は孫空女は、半刻どころか、一刻(約一時間)だって自信がある。
「わ、わかったよ。約束だよ、多目怪。半刻(約三十分)だ」
孫空女は言った。
「では、開始だ……」
声が消えると瞬間に、多目怪の含み笑いの声がかすかに聞こえた気がした。
すると壁の両脇から触手が二本出現して、すっと長さを増して、孫空女の裸身に迫ってきた。
「な、なんだよ、これ──?」
孫空女は悲鳴をあげた。
長い紐のように伸びる二本の触手が、孫空女の吊り下げられている足の裏に迫ってくる。
そして、さわさわと触手の先で同時に足の裏をくすぐった。
「ひ、ひゃああっ」
孫空女はびくりと足を蹴りあげて触手を避けた。
触手の先は乾いた大筆のような毛の房毛がついている。
「そんなに股ぐらをおっひろげられては、目の毒だな」
羞恥心をかきたててからかう多目怪の声だったが、孫空女はそれどころではない。
先端が房毛になっている触手がくるりくるりと方向を変えて、孫空女の裸身に襲ってくる。
「あ、ああっ……」
ひとつの触手が孫空女の長細い臍の孔を擦りあげる。
そうかと思うと、もうひとつの房毛が股間の間に伸びて、太腿の内側のくすぐったい部分を責めてくる。
孫空女は悲鳴をあげて、身体を右に左にと避けて触手から逃げようとする。
しかし、しっかりと意思と眼があるかのように、二本の触手は孫空女の身体を追いかけてくる。
右脇をくすぐり、それを避けると左から胸の横からもうひとつの触手がやってくる。
それも避けると、今度は回り込んだ触手が首の横だ。
懸命に首を振って逃げる。
すると、耳の中に触手の房毛が入り込んでかきまわす。
さすがに堪らず孫空女が激しく顔を振り立てて顔に迫る二本に触手を振り払うと、いつの間にか無防備になった足の裏をまた触手が襲う。
「ひゃあ、ひゃっ、ひゃっひゃあ……ひ、卑怯だよ……、こんなの……いひいぃっ──ひ、卑怯──」
孫空女は二本の触手のくすぐり責めにより、狂ったように宙吊りの身体を空中で踊らせた。
「なにが卑怯なのだ、孫空女? わしはくすぐりが趣味なのだ。くすぐりで責めたてられるのは当たり前だろう。半刻(約三十分)耐えてみせろ。そうすれば、くすぐり奴隷の素質ありとして認めて、お前にもくすぐり調教をしてやる。半刻(約三十分)も耐えられんようなら、そこで死ね──。わしには興味はない」
「ひゃああっ──。だ、駄目だよ──そ、そこはやめてぇ──」
触手が飛び跳ねる股間の間からお尻を狙って肛門の周囲をくすぐったのだ。
孫空女は懸命に身体を仰け反って、触手から逃れようとした。
しかし、反対側の正面から乳房の周辺を代わる代わるくすぐられる。
触手の責めから逃げられず、だんだんと力が抜けてくる。
それでも孫空女は手に力を入れて、汗で滑りそうになる吊り輪をしっかりと握った。
そして、悲鳴をあげながらも身体を振り立てて触手から逃げ続けた。
「なかなか、しぶといな──。では、お前の頑張りに敬意を表して触手を増やしてやろう」
すると二本だった触手に、新たな二本が加わり、四本になって孫空女の身体を囲んだ。
「やめえぇ──」
孫空女は絶叫した。
四本の触手が同時に無防備な脇の下と脇腹をくすぐりだしたのだ。
「あ、あひいっ──。ご、ご主人様……」
思わず孫空女は口にした。
もう手の力が限界だった。
つるりと孫空女の手が滑り、ついに吊り輪から手が離れた。
落ちていく……。
ぶつかる……。
まるで時間が止まったかのような感覚だ。
しかし、間違いなく孫空女の身体は、下にある金属の板に向かって落ちていく。
そして、自分の身体が真下にあった金属の板の刃にぶつかるのがわかった……。
*
「沙那……」
どこからか声がした気がした。
「沙那、起きるんだよ──」
今度ははっきりと聞こえた。
沙那は眼を開けた。
四隅を石壁に囲まれた部屋だ。
窓はなく、遥かに上に燭台がある。
その光で薄暗い牢が照らされていた。
寝台のようなものはなく、床には薄い絨毯のようなものが敷き詰められている。
沙那は、自分の四肢が背中側で鎖で拘束されたままだということに気がついた。
沙那は、さっきまで責められていた格好のまま、部屋の真ん中で芋虫のように状態で転がされていたのだ。
客間で捕えられて多目怪の触手責めに遭った。
それで何十回も果ててしまい、多目怪からその責めの途中で呆れたように『移動術』でここに飛ばされたことをかろうじて覚えている。
多目怪といたときには気を張っていたので意識を保っていたが、ここに転送された瞬間に気が緩み、限界を超えた連続絶頂の疲れで、そのまま少しの間、気を失っていた気がする。
そして、いま、声が聞こえた。
宝玄仙の声だ。
沙那は声の方向を探した。
壁の横に小さな穴がある。
そこに石ひとつ分の穴がある。沙那は身体を捩じって、その穴の方向に顔を向けた。
穴の向こうに宝玄仙の顔の一部が見えた。
穴の下には石がひとつ押し出されて床に落ちていた。
本来、石壁に阻まれたふたつの牢だが、宝玄仙が向こう側から石のひとつを押し出して隙間に穴を作ったようだ。
古い地下牢のようであるので、おそらく壁に弱い部分ができていて、それを宝玄仙が見つけたに違いない。
「ご、ご主人様──」
沙那は叫んだ。
「大丈夫かい、お前?」
穴の向こうの宝玄仙が言った。
「わ、わたしはなんとか。でも、孫空女と朱姫が……」
沙那は身動きできない身体のまま、穴に向こうの宝玄仙に向い合うように姿勢を動かし、宝玄仙にいままでの顛末を説明した。
七雌妖を捕えたもののたまたまやってきていた多目怪という妖魔に宝玄仙を浚われてしまったこと……。
それで、仕方なく七雌妖を人質にここまで追ってきたこと……。
ここに到着するや、宝玄仙を救出するために、沙那が多目怪を引きつけておく役目をして、孫空女と朱姫にこの黄花観に潜入させて宝玄仙を救出させようとしたことなどだ。
そして、沙那は、呆気なく捕えられて、いままで客間で多目怪の触手でいたぶられていたということも言った。
「孫空女と朱姫のことはわたしもわかっている。ふたりは、確かにわたしのところまで来てくれたよ。でも、帰り道でなにかの道術の罠に引っ掛かったようだ」
「帰り道に罠?」
「金色の光を浴びて、わたしたちは気を失ってしまった。気がついたら、わたしは、この牢に閉じ込められていたというわけさ。おそらく、ここは
「七雌妖に会ったんですか?」
「会ったよ。多目怪とともに、わたしの牢までやってきて、股間に嵌めた淫具を外せと言ったかねえ。わたしは、まだ頭が朦朧としていたから、よくわからなかったけど、多分、多目怪の命令に従って、淫具を外したと思うよ──」
「そ、そうですか……」
「でも、頭がすっきりしてきたら、そのままにしてやればよかったと後悔しているさ。あの七雌妖に『責め環』をしてやるなんかいい気味じゃないか。朱姫の仕業なんだろう?」
壁の向こうで宝玄仙がくすくすと笑った。
「わ、笑いごとじゃないですよ、ご主人様。それで、孫女と朱姫がどうなったか知りませんか?」
「さあね……。金色の光に包まれた後、朱姫はもともとは、お前がいる牢に一度は放り込まれたみたいだね。しかし、朱姫は、七雌妖がすぐに連れていったようさ。孫空女はわからないね。こことは別に、まだ牢があるのかもしれない」
「と、とにかく、申し訳ありませんでした……」
「まあ、とにかく、お前だけでも合流できてよかったよ。じゃあ、あのふたりを探しに行こうじゃないか。この黄花観にいることは確かなんだろうからね……」
「探すと言っても、この状況じゃあ……」
沙那は拘束されている四肢を揺すった。
背中で束ねられている手足首は解けそうにない。
解けたとしても、この牢からどうやって脱出すればいいのかわからない。
「……お前の手足を拘束している枷は霊具のようだね。だったら、わたしに任せな……」
宝玄仙が言った。
しばらくすると、がちゃりと背中で音がした。
束ねられていた手足が自由になる。
沙那は身体を起こした。
「ご主人様、道術が──?」
沙那は自由になった手足の痺れを擦りながら、宝玄仙の顔が見えている壁の穴に駆け寄った。
「ああ……。お前が朱姫に術をかけるように命じてくれたんだろう? 孫空女と朱姫がわたしのところまでやってきた時、朱姫が『縛心術』でわたしが新しい道術を身体の霊気と結びつけることができるようにしてくれたのさ」
「えっ?」
びっくりした。
あんなの思いつきだったが、本当にうまくいった?
「ほ、本当ですか――」
沙那は歓喜の声をあげてしまった。
「ああ……。だけど、縛心術だけじゃだめだった……。しかし、あの変な黄金の光さ。あれを浴びたことで、よくはわかんないんだけど、わたしの道術を凍結していた
「黄金の光……ですか?」
それは知らない。
しかし、口ぶりからすると、光を浴びた者の力を奪うことができる罠なのだろう。
おそらく、孫空女たちは、それで無力化されて捕らわれてしまったのだと思う。
だが、宝玄仙については、道術を凍結させていた何らかの呪術ごと、無力化されたということか?
それでも、復活にはまだまだらしいが、それがなんらかの作用を働き、朱姫がやった縛心術の効果と相まって、ほんの少しだが、宝玄仙の力が戻ったということ?
だとすれば、嬉しい。
もっとも、限られた宝玄仙の力がどこまで、通用するかだが……。
「いずれにしても、道術が遣えるようになったんですね? 戦えるくらいですか?」
「さてねえ……。だげど、わたしの身体にある元々の道術は、まだ封印されたままだけど、朱姫から受け取った幾つかの道術は遣えるようになったようだ。わたしも、道術が幾らか復活したことに、ついさっき気がついたところだよ──。さて、どうしてくれようかね。あの変態妖魔どもめ……」
石穴の向こうの宝玄仙が冷酷に笑った気がした。
「この石牢は向こう側から鉄のかんぬきで閉じているだけさ。朱姫の『影手』の術で簡単に外せるよ。待ってな──」
穴の向こうの宝玄仙の姿が消えた。
しばらくすると金属音が聞こえてきて、向こう側の牢の扉が開く気配があった。
やがて、沙那のいる牢の扉が開き、素裸の宝玄仙の姿が現れた。
「ご主人様、よかったです──」
宝玄仙の道術が限定的とはいえ復活した。
沙那は嬉しくて宝玄仙に抱きついた。
「お前、いいものはいているね。それ、脱いで寄越しな」
少しの抱擁の後、宝玄仙が沙那の履いていた腰の下着に眼をやり、そう言った。
そういえば、あの多目怪という妖魔は、触手で責める間、沙那の下着を結局脱がさなかった。
だから、腰の下着だけはそのまま残されたのだ。
「で、でも、わたし何度も気をやって、びしょびしょで……」
これ以上ないというくらいに限界まで沙那の履いている下着は汚れている。
こんなものを宝玄仙に渡すなど……。
「なんでもいいんだよ、ずっと裸にされて、尻尾までつけられて、人間じゃなくなったような気分にされてたんだ。汚れていてもいいから、人間らしい格好をしたいんだ。さっさと脱ぎな」
宝玄仙は言った。
仕方なく沙那は、自分の愛液でずっしりと重い下着を脱いで宝玄仙に渡す。
「こりゃあ、確かに酷いものさ。お前、多目怪に責められて、何回気をやったんだい? うわあ、べとべとだねえ。なんか変な気持ちになるじゃないか」
下着を沙那から受け取った宝玄仙が、わざとらしく顔をしかめた。
「わ、わたしはそう言いましたよ」
「そうだけど、物には限度というものがあるさ」
それでも宝玄仙は、沙那の汚れた下着を身に着けた。
口では嫌味を言ったが、別段、そんなに気にしてはいないようだ。
「ところで、いま、尻尾とか言いませんでした、ご主人様?」
沙那は言った。
しかし、見たところ宝玄仙のお尻には、尻尾などどこにもない。
「ああ、これかい?」
宝玄仙は手にしていた白い房毛を沙那に渡した。
気がつかなかったが、宝玄仙はずっとそれを持っていたようだ。
「これが尻尾ですか?」
沙那は言った。
「そういうことさ。股間の中の糸もやっと消すことができたよ。だけど、尻尾のお陰で七雌妖の糸の道術をわたしのものにすることができたのさ。なにせ、ずっと七雌妖の道術を身体に入れていたんだからね。それを逆に読み込んで、道術のひとつとしてわたしが吸収することも難しいことじゃなかったよ」
「あいつの道術も取り込めたんですか?」
「ああ。七雌妖の糸の道術は、いまはわたしも遣える。しかも、あんな三流妖魔の霊気とは比べものにならない巨大なわたしの霊気が母体だ。その威力はほとんど制限なしさ──。あの変態雌妖にも、本当のわたしの恐ろしさを見せてやらないとね」
宝玄仙は不敵に微笑むと、牢の外に向かって歩き出した。
沙那は慌てて、裸身でその後を追った。
歩きながら宝玄仙が混みあがった笑いが我慢できないかのような声をあげた。
その声の響きがあまりに不気味で、思わず、沙那は両手で自分の乳房を抱いた。