どれくらいの時間が経ったのか宝玄仙は覚えていない……。
なんど達したのかも……。
いつの間にか夜が白々と明けてきているのが窓からやってくる薄明るい陽射しでわかった。
宝玄仙は、横になった
そのままのかたちで羅刹の顔や胸に宝玄仙の頬を擦りつけたり、あるいは、お互いの舌をむさぼり合ったりもした。
宝玄仙の両腕は、寝そべっている羅刹の裸身を軽く抱き、羅刹の両腕も宝玄仙の身体をしっかりと抱いている。
そして、女上位の態勢でうねり舞いながら、何度目かの気をやろうとしていた。
「はあ、ああ……、さ、さすがは淫魔だねえ……。こ、この宝玄仙が……あはああっ……も、もう、崩れそうだよ……」
宝玄仙は汗まみれの裸身を羅刹の身体の上で跳ねさせながら言った。
峻烈な快美感は、もうそこまでやってきている。
また、宝玄仙が達してしまうまでに、そう長い時間はかからないだろうという予感がある。
羅刹の片手が宝玄仙の身体を背中から支えるような位置からすっと、量感のある宝玄仙の臀部に移動する。
そして、指で宝玄仙の肛門を探るようにして、指の関節をずぶずぶと孔に挿した。
「あふううっ──ああっ、それはだめええぇぇぇ──」
肛門に指を入れられて動かされると、宝玄仙のまともな意識は跳んでしまう。
そこから拡がる快美感に全身の肉がすべて崩れ落ちるような錯覚になるのだ。
宝玄仙は、性交を覚えたばかりの淫魔の手管に、まるで少女のような啼泣を洩らしながら全身を激しく悶えさせた。
性の技だけで獲物の女をとり殺すとまでうそぶかれる淫魔だ。
それは事実ではないが、確かにそう称されるのも仕方がないという気がする。
淫魔の性は、射精することが目的ではない。
相手をしている女をひたすらに悦ばせて絶頂を繰り返させるのが目的なのだ。
自分が精を出すことで快楽を得るのではなく、女が気をやって発散する淫気を吸収することで淫魔は快楽と充実を感じる。
だから、淫魔の性には終わりがない。
女が限界に到達して満足し、それ以上の性を肉体が受けつけなくなるまで続く。
そういう性の能力を持つ。
性を覚えたばかりの淫魔でも、淫魔は淫魔だ。
長い長い性交に宝玄仙の身体は全身が砕けるような疲労感とともに、途方もない快感を味わっていた。
「ほ、宝玄仙さんには感謝しています……。淫魔仲間では劣等生だった自分に、丁寧な性交術の指導をしてくださり、自信を与えてくれました。ありがとうございます」
羅刹がそう言いながら、宝玄仙の肛門に挿入している右の人差し指の横から、さらに左手の人差し指も挿入した。
そのまま双臀を抱えるように割りながら、左右の指で双丘を押し開くように上下左右に孔を動かす。
「うはあぁぁぁ──」
宝玄仙の反応を観察しながら、次から次へと新しい愛撫を加えてくる羅刹の責めに、宝玄仙は生まれて初めて味わうような異様な性の悦びに酔っていた。
この世のものとは思えないような妖しい恍惚感に、宝玄仙は裸身を引きつらせて、荒い息を弾ませた。
「羅刹、わ、わたしは……」
「いってください、宝玄仙さん──。この羅刹のせめてものお礼です。どうぞ、何度でも極めてください。俺は、何刻でも、何日でも、宝玄仙さんが精根尽き果てるまでお相手します」
羅刹が下側から腰を突きあげるように動かし始めた。
宝玄仙は女陰を羅刹の腰で跳ねあげられ、肛門には二本の指で激しい愛撫を受け、完全に切羽詰った状態にされた。
羅刹の唇が半開きの宝玄仙の口に重なる。
宝玄仙は、口に中に入っていた羅刹の舌をほとんど無意識に吸った。
強烈な絶頂感が襲ってきた。
全身ががくがくと痙攣して股間から放水のような液体が迸った。
「す、すまないね……、ら、羅刹──」
つながったまま潮を吹いてしまった自分の醜態に宝玄仙は狼狽えた。
「なにを謝っておいでなのです。素晴らしい淫気です。もっと、宝玄仙さんの淫気を味わいたいですよ」
自分の股間が宝玄仙の発した液体で汚れても、まったく気に留める様子もない屈託のない笑みが返ってきた。
「も、もう、駄目だよ……。す、少し、休ませておくれ……」
精で果てることのない淫魔を相手にするというのは、やはり、怖ろしいことだと改めて自覚した。
そのまま、全身の体重を預けるかたちで羅刹の身体に自分の裸身を横たえた。
宝玄仙が完全に羅刹の身体の上に寝そべると、羅刹は肛門に入れていた指を抜き、宝玄仙の背中を抱くように宝玄仙の身体に腕を回した。
しかし、羅刹の怒張はいまだ逞しさを失うことなく、宝玄仙の女陰に挿入されたままだ。
「満足してもらえましたか……?」
羅刹は宝玄仙をしっかりと抱いていた。
いまは、ふたりとも動いていない。
動いているのは激しく呼吸を続ける宝玄仙の胸だけだ。
宝玄仙の汗まみれの裸身は、しっかりと羅刹の肌に密着している。
そして、宝玄仙の顔のそばに羅刹の顔がある。
優しげな笑みだ……。
この羅刹にあるのは、宝玄仙が教えた手管のすべてを使って、宝玄仙を快楽で満足させ、官能の極致に到達させたいという打算のない気持ちだけなのだろう。
宝玄仙にはそれがわかった。
しばらく絶頂の余韻を愉しむかのように、宝玄仙は深い陶酔の中にいた。
裸の肌と肌を通じて、淫魔の鼓動を感じる。
自分の激しい鼓動も、そうやって羅刹に伝わっているのかもしれない。
「わ、わたしはなんど気をやったかねえ……?」
なんとなく宝玄仙は言った。
「五回です」
羅刹が即答した。まったく冷静な羅刹の態度に宝玄仙は思わず頬を緩めた。
やはり、果てることのない淫魔が相手では、ただの人間の女である宝玄仙でも子ども扱いだ。
それは、性については百戦錬磨の宝玄仙でも同じだ。
性行為をするために存在しているような妖魔だ。
まともに相手をすれば、さすがの宝玄仙でもこうなるのは仕方ないだろう。
「それよりも、宝玄仙さん、さっき、孫空女さんに快感に反応する尻尾をつけて、ふたりで責めましたよねえ」
「ああ……」
宝玄仙は羅刹の肩に自分の顔を載せたまま頷いた。
羅刹に性交術を教授するための練習台として、三人の供を順に使ったが、三人目の孫空女のときには、孫空女の腰の後ろに、孫空女の快感に反応する尾を取りつけて責めるところを羅刹に見せた。
孫空女の内心の被虐心を利用して、心の性感帯を刺激していかせるやり方を教えたのだ。
羅刹に示したかったのは、女が感じるのは肉体的な快楽だけではないという事実だ。
女の快楽の本質は内面で感じる快楽だ。
本来は心の快楽の延長上に肉体の快楽がある。それを教えたかったのだ。
「口や態度で隠そうとした内面の快感を露わにさせることにより、実に効率的に孫空女さんの快楽を引き出しました。そのやり方には感服しましたが、あのやり方は有効です。俺にも同じことができます」
「同じこと? ああ、淫気のことかい」
宝玄仙は首を曲げて、羅刹の顔を見た。
羅刹のような淫魔は、女が性愛で発する淫気を喰らう。つまりは、快感の度合いが淫気の量でもわかるのだ。
「それもありますけど、淫気は絶頂に近いときしか出ませんしね。微妙な判断には不向きかもしれません。もっといい目安を見つけたんです」
「目安?」
「嗅覚です。俺は孫空女さんが快楽を感じて尻尾を動かすと同時に、孫空女さんの女陰から淫液が滲み出る匂いがわかりました。ですから、尻尾を見なくても、孫空女さんがいつ感じて、どのくらい深く快感を覚えているかもわかったのです。この嗅覚を利用すれば、俺にも宝玄仙さんと同じことができます。効率的に相手の心の奥底の快楽を引き出せます。それに気づかせてくれたことに感謝します」
「そうかい……。嗅覚ねえ」
宝玄仙は苦笑した。
数刻前まで性交すら知らなかった淫魔だ。
それがいまでは、性交術を教えた宝玄仙でさえも畏敬を感じたくなる性の達人に思える。
「では、続けましょうか──。まだ、夜が明けたばかりです。まだまだ、できるはずです」
羅刹が上体を起こして、宝玄仙を身体から降ろして、宝玄仙と向かい合うように座った。
そのとき、やっと羅刹の怒張が宝玄仙の女陰から抜けた。
大量の液体がさらに迸り、羅刹の身体と敷布とを汚した。
羅刹は意にも介さなかったが……。
「ま、まだ続けるつもりかい……。もういいよ」
宝玄仙は笑って言った。
もう身体の疲労感が限界だ。
際限のない淫魔の性交にこれ以上つきあえない。
「だって、まだ、宝玄仙さんに対する本格的な責めを俺はやっていないじゃないですか」
「本格的な責め?」
宝玄仙はきょとんとした。
この淫魔はなにを言っているのだろう。
数刻にわたって羅刹と宝玄仙は身体を合わせて抱き合った。
羅刹の言によれば、宝玄仙はそれで五回も達したらしい。
これが本格的な責めでなければ、いままではなんだったというのだ。
「さっき、言ったじゃないですか。俺には嗅覚があると……。宝玄仙さんは、俺に性交術を教える間、ずっと裸身でおられました。だから、宝玄仙さんの匂いはずっと感じていました……。宝玄仙さんがなにに反応し、どういう行為でほとを濡らすのかを俺は匂いで探っていたのですよ」
羅刹が言った。
「匂い?」
確かに宝玄仙は、最初に沙那に羅刹の相手をさせたときからずっと裸でいた。
しかし、性行為をしたのは、三人目の孫空女を追い出した後だ。孫空女を言葉なぶりで責めたあと、孫空女との仕上げの普通の性行為を羅刹にさせた。
それから、隣の部屋から三人の供を呼んで、乱れた敷布を整えさせてからふたりでここに横たわったのだ。
羅刹と宝玄仙が抱き合ったのはそれからだ。
それでなにがわかったというのだろう?
「ええ、匂いです。宝玄仙さんは、沙那さんに目隠して責めたとき、朱姫殿に動かないように命令して身体をいたぶったとき、あるいは、孫空女さんを言葉で責めたとき、かなり激しくほとの蜜を反応させていました。つまり、宝玄仙さんは、そういう行為が好きなのですね」
羅刹は言った。
「その通りさ……。わたしの趣味は嗜虐だからね。あいつらを苛めることでわたしは、快感を得るのさ。そういう変態女がわたしだよ──」
宝玄仙は大笑いした。
「最初は、俺もそう思いました。きっと、彼女たちを苛めるのが好きなのだろうと……。確かにそういうところもあるのでしょうね。でも、そうでない部分もあるようです」
「そうでない部分?」
宝玄仙は問い返した。
「はい。宝玄仙さんは、三人の供の方々を責めるとき、単純に責めることを悦んでいるだけではなく、その行為を自分が受けるということを重ねておいでのようです。おそらく、間違いないと思います。宝玄仙さんの身体は、三人の供の方々が苦悶する瞬間ではなく、その準備の際に激しく匂いを発散させておいででした」
「匂い?」
「ええ。もしも、単純に苛めることだけが好きなのであれば、苦悶するときこそ身体が反応するはずです。しかし、その前の段階の方が強く反応するということは、その状況そのものが好きなのではないか思ったのです。そうだとすれば、もしかしたら、そういう状態にご自身が陥ることを想像して快感を覚えているのではないかとも推量したのです」
「なかなか、面白いことを言うじゃないか。そうやって、相手の性癖をとことん突き詰めるのは大切なことなのだろうが、わたしに関することでは、あまりにも当て推量過ぎやしないかい?」
宝玄仙は微笑んだ。
「確かにそうです。でも、宝玄仙さんが孫空女さんにやった行為で、俺は俺の推量が正しいということを確信しました」
「わたしがやった行為?」
宝玄仙は首を傾げた。
「孫空女さんが二度目の気をやられたときです。ふたりで孫空女さんの身体に水を垂らして、それを舐め合っていました。宝玄仙さんは、最後に孫空女さんの足の指に水を流して、跪いて舐めました」
「ああ、そうだね」
だが、あれは、そういう気分になっただけだ。
それがなんだというのか?
「人間がほかの人間の足を舐めるという行為は、屈辱的な行為であるというのは俺も知っています。でも、その屈辱的な行為であるはずのそのときが、宝玄仙さんがもっとも激しくほとを濡らしたときでした……。だから、俺は言うのですよ。宝玄仙さんもまた、そういう屈辱的、あるいは、恥辱的な行為を受けるのがお好きだと」
羅刹は言った。
今度こそ宝玄仙は大笑いした。
「そ、そうかもしれないねえ……。まあ、否定はしないよ。わたしは、責めているときも、責められているときも快楽を感じるからねえ。わたし自身でも、本当はどっちの方が好きなのかわからないんだけど、お前がそう言うなら、そうかもしれないね」
宝玄仙は言った。
「……だから、宝玄仙さんを今度は、拘束して責めせてください。俺が本格的な責めだと申しあげたのはそのことです」
羅刹は言った。
「まあ、いいよ。じゃあ、どうすればいいんだい?」
「宝玄仙さんの
羅刹は言った。
そして、宝玄仙の返事を待たずに立ちあがると、部屋の隅の葛籠からその手錠付きの首輪を持ってきた。
首輪の後ろの部分に手首に嵌める手錠が付いている拘束具で、それを装着すると頭の後ろに両腕を回して動かせなくなる。
従って、道術遣いの宝玄仙でも、それを装着されると自在には外せない。
「嵌めますね……」
戻ってきた羅刹が首輪を宝玄仙の細い首に近づけた。
宝玄仙は抵抗しなかった。
むしろ、後ろの髪をかきあげて、装着の邪魔にならないようにしてやった。
その手首を羅刹の手が掴んだ。首輪の後ろの手枷に両方の手首を嵌める。
宝玄仙は、両腕を首の後ろに回して動かせなくなった。
「……それで?」
宝玄仙は羅刹を見た。
ここから先は羅刹には未知の世界であるはずだ。
淫魔の本能で宝玄仙の隠れた性癖を暴いたのはいいが、性行為を覚えたばかりの羅刹がどうやって、嗜虐で宝玄仙を責めようというのだろう。
羅刹に教え込んだ性交術は基本ともいえる常道であり、嗜虐と被虐の責め合いとはまったく異なるものだ。
なにひとつ教えていない嗜虐の責めについては、羅刹はどうやってそれをやるつもりなのか……。
「それで、これです」
羅刹が無防備な宝玄仙の両方の乳首にすっと手を伸ばした。
突然に、ぎゅっと乳首の根元がなにかによって絞められた。
「あひいぃ──。な、なにするんだい?」
宝玄仙は襲われた激しい疼きに悲鳴をあげた。宝玄仙の乳首の根元に小さな輪が喰い込んでいる。
「こ、これは朱姫の……」
すぐに朱姫の霊具だとわかった。
朱姫がいつか宝玄仙を責めるときに作った霊具であり、朱姫の道術で自在に振動できるだけではなく、宝玄仙が道術を遣おうとすると反応して激しく振動し、宝玄仙の道術を封じるというものだ。
これをつけられると宝玄仙は、道術が遣えなくなる。
あの霊具は、朱紫国の国都から逃亡するときに失くしたはずだが、また、朱姫が作ったのだろうか……?
「皆さん、準備ができました──」
突然、羅刹が大きな声で叫んだ。
すると戸がばたりと開き、三人の供が雪崩れ込んできた。
「羅刹、時間をかけすぎだよ。待ちくたびれちゃった」
朱姫が頬を膨らませている。
「まあまあ、いいじゃない。お陰でわたしたちは身体を休めて、体力を回復させることができたし、ご主人様は、なんども気をやって追い詰められている。これから愉しい時間を送れそうじゃない」
沙那が言った。
「これも持ってきたよ」
孫空女だ。
部屋の隅にあった葛籠を抱えて手元に持ってくるとともに、手に鳥の羽根を持っている。
三人が羅刹とともに拘束されている宝玄仙を取り囲んだ。
「ど、どういうことだい、これは──?」
宝玄仙は呆気にとられた。
「申し訳ありません。実は、先程、この三人の供の方から、嗜虐的な性交術についても教授くださるとささやかれたのです。宝玄仙さんを教材として……」
羅刹が言った。
「先程って……? あっ、あのときかい──」
一瞬、なにを言っているのかわからなかったが、宝玄仙ははたと思いついた。
羅刹と宝玄仙が本格的に情事を始める直前に、三人の供を一度、この部屋に呼んで敷布を整えさせた。
そう言えば、そのときに、部屋の隅で待っていた羅刹に、三人が代わる代わる何事かを話しかけていた気がする。
そのときは、気にも留めていなかったが……。
「じゃ、じゃあ、これは、お前たちがけしかけたのかい?」
宝玄仙は声をあげた。宝玄仙の両腕は首輪の後ろの手枷で頭の後ろに拘束されている。乳首には、道術を封じる霊具がある。
そして、宝玄仙の弱い部分を知り抜いている三人だ──。
宝玄仙はぞっとした。
「もちろんです。羅刹さんは、性交術に関することは正道でも邪道でもなんでも吸収したいそうです。わたしたちが、邪道の方を教えられると申し出たところ、すぐに承知してくださいました。そのとき、朱姫がこっそりご主人様の道術を封じる霊具を羅刹さんに渡したんです。ひと通りのことが終わったらご主人様の乳首に嵌めるように言って……」
沙那がにんまりと微笑んだ。
この表情は本気の眼だ。
沙那が嗜虐に酔うのは多くはないが、沙那もまたかなりのしつこい嗜虐をするときがある。
それは、沙那がいまのような表情をしているときだ。
「お、お前たち──」
争うように葛籠に手を突っ込んで性具を取り出そうとする三人に危機感を覚えて宝玄仙は叫んだ。
しかし、思わず後ずさりしようとした宝玄仙の身体を孫空女が阻む。
「どこに行くのさ、ご主人様──。ちゃんと、教材にならなきゃ駄目じゃないか……。ねえ、羅刹、ご主人様は、くすぐりに弱いのさ。くすぐりだけだと苦しいだけだけど、くすぐりながらどこかを責めれば、無防備になってたじたじになるよ」
孫空女が鳥の羽根の一本を羅刹に手渡しながら言った。
そして、自分の持っている鳥の羽根で宝玄仙のうなじの付近をくすぐりはじめる。
「ひゃはははは……、や、やめておくれ──ひいっ……はははは……」
宝玄仙は込みあがったくすぐったさに激しく笑いを爆発させた。
「やはり、宝玄仙さんは、責められるときの方が充実した淫気が出るような気がしますよ」
鳥の羽責めに羅刹が加わる。羅刹が宝玄仙の脇の下を鳥の羽根で繰り返し掃き動かす。宝玄仙は悲鳴をあげて暴れた。しかし、朱姫と沙那も孫空女とともにがっしりと宝玄仙の身体を捕まえている。
「はははは……や、やめて……ははははは……」
宝玄仙は苦しさに悶え笑った。
「ご主人様は、お尻が弱点よ。それに乳首も──。くすぐりながら責めれば、凄く短い時間で連続に絶頂するよ、羅刹」
朱姫が宝玄仙の肛門にいきなり指を入れてくにゅくちゅと動かし始めた。
さらに、乳首の根元に喰い込んでいる輪が静かに振動を始める。
宝玄仙は悲鳴をあげて身体を仰け反らせた。
「……それから、羅刹さん。嗜虐責めのときは、妥協をしては駄目よ。連続絶頂をして気を失っても、無理矢理に覚醒させるの。そして、また、気を失うまで責める。それを繰り返すのよ。それが正式の邪道の責め方よ」
沙那が羅刹に言った。
冗談じゃない──。
そんなのが正式のやり方であるものか……。
しかし、沙那まで鳥の羽根を持ち、宝玄仙の内腿をくすぐり始めた。
宝玄仙は、もう悲鳴をあげる以外になにも喋れなくなる。
宝玄仙は狂ったように暴れた。
「あひいいい──」
宝玄仙はさっそく絶頂した。
全身を責める三本の羽根のうえに、弱点である肛門と乳首を責められているのだ。
気をやってしまうのに、ほんの少しの時間しかかからなかった。
「さっそく、いきましたね、ご主人様──。でも、いよいよ、これからですよ。次にいくまでどれくらいでしょうか。ご主人様もご承知のとおり、連続でいきすぎると、絶頂が止められなくなりますから気をつけてくださいね」
朱姫が笑いながらさらにお尻の責めを強くした。
宝玄仙は悲鳴をあげた。
絶頂の波が収まる前に次の波がやってきている。
このままでは、本当に気を失うまで責められる。
いや、こいつらのことだ。気を失っても許さないつもりだろう──。
宝玄仙の全身に恐怖が走る。
「あ、あははははは、あはああっ……や、やめえぇぇぇ……」
宝玄仙は再びやってきた快感の矢に全身を激しく震えさせて絶頂した。
*
「ご挨拶に来ました」
沙那は、昨日と同じように家の前で酒を飲んでいた璃子に話しかけた。
今日は、ほかの女はいない。
相変わらず卓の上には、酒瓶が置いてあったが……。
この
昨日、この部落にやってきたとき、彼女の世話で、いまみんながいる家を手配してもらった。
そのお礼と、これから羅刹とともに
「おや、確か、あんたは沙那だったね。様子を見に行こうと思っていたんだ。それにしても、相変わらず暑そうな格好をしているよねえ。大丈夫なのかい?」
璃子は笑った。
彼女は上半身裸だ。
この部落では、男でも女でも上衣を身につけない。麒麟山から吹いてくる熱風が、この部落をとんでもない暑さにしているからだ。
「璃子さんのように自慢のできる胸じゃないんで」
沙那が軽口を言うと、璃子は打ち解けたような表情で笑った。
沙那は横に担いでいた竹編の籠を璃子の座っている卓の上に置く。
中には、谷川で捕えた魚が三匹入っている。
「これは?」
璃子が籠を覗きこみながら目を丸くした。
「差しあげます。家の中に小さな投網があったので使いました。わたしたち四人だけだと十分すぎる量が捕れたので、お裾わけです」
「ほおお──。あんたは、漁の名人だったのかい?」
璃子が感嘆の声をあげた。
「そうでもないですけど」
沙那は笑った。
もっとも、山で獲物を捕るにしても、河で漁をするにしても、沙那はほかの者よりは余程にうまくできる自信はある。
獣にしても魚にしても、沙那は気配を感じて、その方向に矢を射たり、網を投げたりできる。
それでほとんど逃がすことはない。
獲物を調達できないときは、周囲にそれらがいないときだ。
沙那の近くに獲物がやって来さえすれば、ほぼ完全に沙那はそれを捕えることができる。
「ほかの三人も元気かい。暑さに参っていないかい?」
璃子は言った。
「大丈夫です。三人は家にいます」
朱姫の『結界術』で家の中は快適な気温に保たれている。
あれがなければ、とてもじゃないが休めたものじゃなかったが、道術のお陰で十分に寝ることができる。
もっとも、実際のところは、あまり寝ていない。
昨夜やってきた羅刹という若い淫魔に性交術を教えるということで、宝玄仙の命令で交替で練習台にさせられた。
その後は、羅刹と宝玄仙の情事になったが、その前に、羅刹にこっそりと宝玄仙を相手に嗜虐の責めを学ばないかと持ちかけた。
羅刹はそれを承知し、宝玄仙の心の油断につけこんで、宝玄仙を拘束したうえに、道術を封じる朱姫の霊具を乳首に装着してくれた。
それは夜明けの頃だったが、陽が中天から西に傾きかけたいまでも、宝玄仙をよってたかって責める行為は続いている。
もっとも、さすがに、ずっと責め続けたわけではなく、朝方、宝玄仙が十回目くらいの失神をしたときに中断はしている。
ただ、宝玄仙の拘束を解かなかっただけだ。
覚醒しなくなった宝玄仙を休ませ、羅刹は
その間、三人で家の片づけをするとともに、孫空女と朱姫が谷川に降りて水汲みと洗濯、沙那は家にあった投網を見つけて魚を捕ることにした。
昼過ぎにはすべて終わり、朱姫が沙那が捕えた魚から二匹を調理して、戻ってきた羅刹とともに食事をとった。
羅刹は見事に鉄扇仙という雌淫魔の試験に合格したということで、いつでも炎の城壁の向こう側に沙那たちを連れて行けると沙那たちに告げた。
出立は明日の朝ということになった。
それまで淫魔の羅刹を含めた五人で乱交の宴をするのだ。
最初に責められるのは宝玄仙になるだろう。
宝玄仙は文句を言い続けていたが、宝玄仙の拘束を誰も外そうとはしなかったのだ。
朱姫も外さなければ、孫空女も外さない。
もちろん、沙那もだ。
宝玄仙の食事は、拘束したまま、三人がかりで食べさせた。
いま頃は、またまた宝玄仙への責めが始まっているに違いない。
その前に、沙那は璃子に出立のことを告げておく必要があると思って、余った魚を持ってやってきたのだ。
沙那は、細部は説明せずに、璃子に麒麟山の向こうに行く算段ができたので、明日の朝に出立することにしたとだけ告げた。
「そうかい。それはよかったのかねえ……。まあ、覚悟のうえなのだろうから止めはしないよ」
「短い間ですが、お世話になりました。帰りにここに戻るかどうかはわかりません。もしかしたら、これが最後になるかもしれません」
沙那は言った。
「気にすることはないよ。まあ、一箇月ほどは、あの家はそのままにしておくよ。道術遣いというのは、道術で遠くに一瞬で移動したりするんだろう? 妖魔王の土地で危険があれば、すぐに戻ってこられるように、あの家を拠点にしたらいいよ」
璃子が言った。
それは沙那が頼みたいことだった。
羅刹に連れていって貰えさえすれば、朱姫や宝玄仙の『移動術』で結界が刻める。
その際のこちら側の拠点は、あの家にしたかった。
そのためには、沙那たちが出立してからも、しばらくは誰にも使わせないようにしてもらわなければならなかったのだ。
それを璃子から申し出てくれたのはありがたい。
「……妖魔の土地か。まあ、いまは、ああやって炎の城壁で隔てられたけど、以前はこの翠雲だけじゃなく、辺境地帯は妖魔と人間が共存する場所だったというねえ」
突然に璃子が言った。
「そうですね」
それはここに辿り着くまでに、各部落を回って昔話を聞くことで知った。
朱紫国の軍が大挙してこの辺境地帯に侵入したのは二十数年前のことだったらしい。
いまの国王の曾祖父にあたる王の時代で、名目でしかなかった北辺の支配を確かなものにするという狙いがあったようだ。
三代前の王に率いられた軍は、いわゆる妖魔狩りをしながら北進していったらしい。
道術が遣える妖魔でも、完全装備の大軍と魔導師隊の前には刃がたたなかったようだ。
もともと、人間と共存するほどの平和的な種族だ。
戦闘には向いていない種族が多く、なすすべもなく殺されるか、さらに北の地に追いやられた。
それが妖魔と人間が共存していた理想郷ともいえたこの地に襲った悲劇だ。
多くの妖魔の種族は死に絶え、残った種族はすべて、あの炎の城壁の向こう側に逃れた。
その中心となったのが、
結局のところ、三代前の王が死ぬと、支配の難しい辺境地帯は放棄された。
いまの朱紫国の支配は、北辺と呼ばれる地域に戻っている。
三代前の王の辺境進軍は、ただ平和だった妖魔と人間の関係を破壊し、人間に好意的だった妖魔を根絶やしに近い状況にしただけという結果になったということだ。
蛮行としかいいようがないと沙那は思う。
「幸運を祈るよ」
璃子は言った。
沙那は別れを告げて、谷川の家に向かった。
すでに始まっている乱交に参加するために……。
*
沙那という女が立ち去ったのを見届けると、璃子は籠に入った魚を持って家の中に戻った。
戸口に籠を置き、家の奥に向かう。
最奥には小さな祭壇がある。
ほとんど物置にしか使っていないが、実際には祭壇なのだ。
この部落は、妖魔と人間の共存していた時代から残されているもので、この部落にある建物には、妖魔の種族が使用していたものも多い。
沙那たちにあてがった家もそうだし、ここもそうだ。
人間も妖魔も多くは身体つきは変わらないので、人間が使っても不便はないし、妖魔の棲み処だったということに気がつく者もほとんどない。
この家がどういう妖魔の種族の家だったのかは知らない。
璃子とは違う種族だろう。
このような祭壇は、璃子の種族は使わない。
璃子が知っているのは、ここがかつては他の妖魔の家だったということだけだ。
祭壇はそのときからあるようだ。
その妖魔の種族は、どういう神に祈りをしていたのだろう。
いずれにしても、その祈りは空しいものに終わった。
人間は妖魔を滅ぼし、妖魔の地を奪った。
妖魔は、人間との共存を拒否し、さらに北の土地に棲み処を移した……。
それなのに、まだ人間は北に北にやってくる。
二十数年前──。
あれ程に妖魔を殺しまくりながら、まだ妖魔を殺し足りないとでもいうのか……。
あの四人の女がなんのために南からやってきて、麒麟山の炎の城壁を越えた妖魔の地のどこに向かおうとしているのかは知らない。
璃子がわかっているのは、彼女たちが人間だという事実だ。
妖魔の敵である人間──。
璃子は、祭壇を開いて、中にある『伝声球』という霊具を手にした。
これがあれば、遠くの妖魔城と会話ができる。
璃子は、隠していた妖魔の道術を解放した。
人間に混じって暮らしている璃子にとって、妖魔の霊気を隠すことは必要不可欠の能力だ。
幸いにして、霊気を隠すことは璃子は得意だった。
いまだかつて、璃子が道術が遣えること、ましてや、妖魔であることを見破られたことはない。
「……璃子です──。はい、はい……。ええ、わかってます……。それから、城壁の内側に入ろうとしている人間がいます……。いいえ、女です──。四人の女です。ふたりは道術遣いで、ふたりは遣い手です。遣い手のひとりも霊気を帯びています……。名前は、女主人が宝玄仙……。それと、沙那、孫空女、朱姫……」
璃子は『伝声球』の相手に話し続けた。
(第52話『童貞淫魔』終わり)
*
【西遊記:59回、
本エピソードの元(?)になっているのは、牛魔王との対決の前話になっている羅刹女とのエピソードです。
また、羅刹女の二つ名は、
*
山道の旅を続ける一行に熱風が吹きつけてきます。
しばらく、進むと山小屋があり、そこに住んでいた老人に、この熱風の理由を訊ねると、この道の先には、
また、その火炎を通り抜けることは難しく、少し離れた
孫悟空は、とりあえず、老人の忠告に従い、翆雲山に筋斗雲で向かいます。
羅刹女の家はすぐに見つかり、孫悟空は火焔山を通り抜けるために必要な「芭蕉扇」という宝具を借りるために、羅刹女を訪問します。芭蕉扇は、炎を操ることができる宝具であり、火焔山の炎を避けるのに必要なのです。
しかし、羅刹女は、かつて孫悟空たちが退治した
孫悟空が羅刹女の家を訪問するや否や、孫悟空の名を耳にした途端に、息子の仇だと羅刹女が孫悟空に襲いかかります。
二本の剣で襲いかかる羅刹女はなかなかの強さでしたが、さすがに孫悟空には敵わず、反撃されます。
負けそうになると、羅刹女は、「芭蕉扇」を取りだして、孫悟空を仰ぎます。
孫悟空は、遥か彼方に吹き飛ばされてしまいます。
芭蕉扇の力は凄まじく、孫悟空はひと晩のあいだ、ずっと風で飛ばされ続けます。
やがて辿り着いたのは、
孫悟空は、帰り道の方向を訊ねるために、霊吉菩薩を訪ねます。
すると、事情を知った霊吉菩薩は、「定風丹」という芭蕉扇の力を無効にする仙薬をくれます。
孫悟空は、その仙薬を持ち、筋斗雲で再び羅刹女のところに戻ります。
羅刹女と孫悟空の二度目の対決においては、定風丹を飲んでいる孫悟空に、羅刹女の芭蕉扇が効かず、羅刹女は逃亡して、芭蕉洞という洞窟に逃げ込んで固く門を閉めてしまいます。
孫悟空は虫に変身して、封鎖されている洞窟の隙間から中に潜入し、羅刹女が飲んでいたお茶に隠れて、羅刹女の体内に入ってしまいます。
羅刹女の身体の中で孫悟空は大暴れし、羅刹女は降参して、芭蕉扇を孫悟空に渡します。
*
芭蕉扇を手に入れた孫悟空たちでしたが、実はそれは偽物でした。
偽物の芭蕉扇を使ったことで、逆に火焔山の炎に襲われてしまった玄奘一行は、命からがら撤退することになります。
このエピソードは、なんとか逃げることに成功した孫悟空たちが、今度は羅刹女の夫の牛魔王と諍いを起こす話に繋がります。