春嬌という名を耳にびくりと金聖姫が反応した。
しかし、そのまま髪をわし掴みにして、金聖姫の顔をさらに
金聖姫の端正な顔が歪んだのがわかった。
「むむ……んんっ……」
苦しさに金聖姫が小さな呻き声をあげる。
しかし、わざと金聖姫の首に付けた赤い首輪に繋いでいる鎖を引っ張って首を絞めるようにしてやると、金聖姫は諦めたかのように、再び温かい舌で賽太歳の敏感な部分を包み込み始めた。
「もっと、舌をうまく使うんだ、金聖姫……。それにしても、いつまでたってもお前は馴れないな。それに比べれば、この前、奉仕をさせた
金聖姫の髪を引っ張って、怒張から顔を離させるとその顔を賽太歳に向けさせる。
「そ、そんなことをするわけがない……。長女金は侍女なのです」
金聖姫がきっと賽太歳を睨む。
美しい金聖姫の口の周りに涎と賽太歳の陰毛の切れ端が付いている。
この上品な顔をこうやって汚しているかと思うと、ぞくぞくとした快感で賽太歳の心が充実する。
「侍女だからどうしたのだ。お前は僕の奴隷だ……。命令に従わなければ、お前を長女金の召使にするぞ。あいつは、お前よりもずっと奉仕が上手だしな。お前たちを生かすも殺すも、僕の肚ひとつだということを忘れるな」
賽太歳がそう言うと、金聖姫の顔が悔しそうに歪んだ。
その表情に賽太歳は強い快感を覚える。
我ながら歪んでいるとは思う。
しかし、この気高い心を持つ美しい金聖姫を汚せば汚すほど、賽太歳は途方のない快感を覚えるのだ。
この金聖姫を賽太斎専用の性奴隷にして二年が経つ。
命令には従うようになり、こうやって部下たちの前で奉仕をさせるような行為も唯々諾々と行うようにはなった。
しかし、いまだに気の強さと気位の高さには変わりがない。大したものだとは思う。
しかも、春嬌は、ただ性に未熟な金聖姫を雌妖の手管を駆使して抱いただけではない。
中毒性のある媚薬を使ったのだ。
毎晩のように股間に依存中毒性の強い薬剤を擦り込まれた金聖姫は、当時、完全に正気を失ったような状態になった。
そういう状態にした金聖姫の寝室に、護衛長として金聖姫の身の回りの安全を護る立場の春嬌は、その役割を利用して妖魔の賽太歳を金聖姫の寝室に連れ込んだのだ。
その頃には、仙薬のような春嬌との性技と妖魔の薬物にすっかりと侵されていた金聖姫は、春嬌との営みに加わった賽太歳を受け入れた。
それから金聖姫と春嬌の夜の情事に密かに賽太歳が必ず加わるようになった。
賽太歳もまたただ抱くだけではない。
妖魔の術で少しずつ『縛心術』を深めて、自分に金聖姫が心を靡くように仕立てた。
春嬌と賽太歳の性の技──。
春嬌の使う媚薬の薬物効果──。
賽太歳の『縛心術』──。
道術にも性の技にも耐性のない初心な金聖姫が完全に春嬌と賽太歳に堕ちるのにそう長い時間はかからなかった。
金聖姫の誘拐の動機は、最初は妖魔の里を滅ぼし、家族を殺め、仲間たちを惨殺した王家の一族に対する復讐心だった。
復讐の対象として、金聖姫を選んだのに深い理由はない。
正体を隠して王宮道術師をしていた春嬌の任務が、たまたま金聖姫の護衛だったので手を出しやすかったからにすぎない。
もっとも、強い復讐心を持っているのは春嬌であり、賽太歳はそれに引きずられるというかたちだった。
拒否すれば、妖魔の里を襲った惨劇の話をまた金切り声で喚きたてられる。
眼の前で母が犯されて殺され、同朋が生きながらにして焼かれた日のことを忘れたのかと春嬌が怒鳴り続けるのだ。
しかし、正直に言えば、賽太歳には、それほどの復讐心があるわけじゃない。
春嬌が忘れるなという妖魔の里の惨劇の頃は、賽太歳はまだ赤ん坊だったので、なにひとつ覚えていない。
だが、春嬌は事あるごとに、あの日のことを忘れるなと言う……。
いまは、生き残った妖魔をまとめる立場になった賽太歳だが、賽太歳の正直な気持ちとしては、いまのまま
復讐などどうでもいいし、多くの同胞もそれを望んでいないということ知っている。
麒麟山のこちら側には、かつてのように妖魔の部落が多くできて、それが獬豸洞という妖魔城を中心に緩やかな団結を築いて生活をしている。
妖魔の国としてこのまま牧歌的な暮らしを送りたい……。
それが麒麟山の北にいる多くの妖魔の思いであり、人間の国を滅ぼすための妖魔の軍を編成して、人間の土地に攻め込むなど、麒麟山の北側の妖魔たちが承知するわけがない。
賽太歳は妖魔王と呼ばれているが、それは強い道術で同胞たちを護るということをしているからそう呼ばれるのであり、彼らを戦に駆り立てて人間との殺し合いをさせるようであれば、ほとんどの妖魔の住民は、賽太歳を王としては認めないだろう。
もともと平和的な妖魔の一族なのだ。
それは、人間に妖魔の里を一掃される前も後も変わらない。
だが、春嬌はそれを納得していない。
二十数年前の人間の軍の侵攻後、散逸していた妖魔たちを集めて、麒麟山の北側に新たな妖魔の土地を作ったのは、いずれ力を蓄えて人間たちに復讐するためであり、ここで安逸とした生活をするためではないと言うのだ。
春嬌の気持ちはわからないでもない。
この獬豸洞という妖魔城の中心とする妖魔の土地の王は賽太歳だが、ここを築いたのは、間違いなく春嬌だ。
人間に土地を奪われ一族を根絶やしにされて、人間の部落のそばで隠れるように生きていた妖魔を集め、新しい土地と生活の手段を与えてひとつにまとめたのは、霊気も高くない若い雌の半妖にすぎなかった春嬌なのだ。
賽太歳は、その姉の情熱の道具として強い霊気と道術を提供しただけでなにもしていない。
賽太歳は、姉の春嬌の力により、妖魔王となっただけだ。
それを忘れたわけではない。
しかし、妖魔王になった以上は、彼らを護る責任と立場がある。
妖魔王となってから、姉にははっきりと、姉の主張していた妖魔軍を編成して人間の国へ侵攻するというのはできないと言った。
姉の春嬌は、それを途方もない裏切りと思ったかもしれない。
一時期疎遠になり、姉の春嬌は、兄の
その春嬌と有来有去から、驚くことに朱紫国の国王に仕える王宮道術師として暮らしているとを知らされたのは、ふたりが出ていってから二年が経ってからだった
その姉が要求した金聖姫の誘拐だ。
拒否できるわけがない……。
王族の娘を浚い、妖魔たちに犯させてその屍体を国王に送り返す──。
最初の春嬌の計画はそうであり、賽太歳は気乗りしないまでも、姉の春嬌には逆らい難く、春嬌の要求するまま、毎夜のように道術で朱紫国の国都に通った。
だが、美しい金聖姫を毎夜のように抱いて気が変わった。
春嬌の計画を変更して、浚った金聖姫を賽太歳の妻として、ここに置き留めたいと言ったのだ。
当初の予定では、金聖姫は賽太歳の奴隷にして、ここで妖魔たちに犯させた挙句に、殺して国都に送り返すというものだった。
その計画には、ここで毎日のようにたくさんの妖魔から犯される姿を道術で国都の広場に映像を晒すというのも入っていたから、賽太歳の言ったことは、またしても自分に対する裏切りと思ったようだ。
春嬌は怒ったが、いつにない賽太歳の強い主張に、結局は賽太歳に応じた。
ただし、妻ということだけは認めない。
殺さないのであれば、奴隷にしろと言った。
賽太歳は自分専用の奴隷にするということで合意した。
それからは簡単だった。
体調が悪いので王家の湯治場で過ごしたいと金聖姫に願わせ、当然、その道中の護衛には春嬌がついた。
そして、あらかじめ示し合わせた要領と場所で賽太歳は、春嬌ごと金聖姫を浚った。
長女金という美貌の女将校が少しばかりの抵抗をしたが大したことはなかった。
金聖姫を浚い妖魔城に連れ込んだ後は、金聖姫を犯していた魔薬の中毒症状も賽太歳の『縛心術』も解いた。
正気に戻った金聖姫は、自分のやったことに泣き喚いたが、それは賽太歳の黒い欲望に火をつけただけだった。
金聖姫がこの妖魔城に到着した瞬間から、一転して金聖姫は賽太歳専用の奴隷になった。
しかし、毎晩のように抱いているのに、道術や媚薬の仙薬なしでは、いまだに靡く様子はない。
だが、それはどうでもいい……。
金聖姫が賽太歳のそばにいる……。
それだけでいいのだ。
「ど、どうしたのです……?」
金聖姫の声がした。
ふと見ると、賽太歳に髪を掴まれている金聖姫が不思議そうな顔をしている。
賽太歳は苦笑した。
どうやら賽太歳は、金聖姫に自分の肉棒をしゃぶらせる途中で髪を持って顔を股間から離したまま物思いに耽ってしまったようだ。
「もう一度だ、金聖姫──」
賽太歳は金聖姫の顔を自分の股間を咥えさせた。
妖魔の居室だが、周りには十匹ほどの妖魔軍の部下が並んでいる。
賽太歳の妖力があれば、警護の妖魔など必要はないのだが、何ごとにも権威付けというのは必要らしい。
「それにしても、本当にお前は、いつまで経っても上達をせんな。舌で舐めるようにしながら唇で吸い込むのだ……。そうだ。その調子だ」
金聖姫の美しい顔が歪んで賽太歳の一物を一心不乱に舐めはじめる。
二年前……。
こうやって部下の前で男根を舐めさせるような行為は、泣き叫んで嫌がったものだった。
それを無理矢理にやらせたときのことを思い出す。
金聖姫の顔が惨めに歪めば歪むほど、賽太歳の欲望は満足した。
もっとこの女が惨めに泣くところを見たい。
それが賽太歳の望みだ。
どんなことがあろうとも金聖姫を手放すことはない。
賽太歳はそう思っている。
どんなことがあろうともだ……。
金聖姫が犬のように息をしながら、鼻孔を膨らませて賽太歳の一物を舐め回している。
賽太歳の一物は、硬直をしているが、射精くらいはいくらでも自在にできる。
こうやって金聖姫に舐めさせながら一日すごすこともできる。だから出さない。
口いっぱいに賽太歳のものを頬張らされた金聖姫の顔を見るのが愉しいのだ。
賽太歳の恥毛に典雅な顔を埋め、妖魔の部下の視線を厭わず、熱い息をしながら屈辱的な行為を強いられている人間の王の娘……。
その姫に家畜のように首輪をつけて女奴隷にしている。
それがいいのだ。
「もっと、舌をうまく使え、金聖姫。いい加減に上手にならなければ、また長女金にやらせるぞ」
賽太歳は言った。
上から見下ろす金聖姫の顔にはっきりと憤怒の表情が浮かぶ。
そして、急に熱のこもった奉仕を始め出す。
金聖姫に舌で男の一物を舐める舌技を教えているわけじゃないので、二年がすぎたいまでも大して上手ではない。
だが、一生懸命に自分なりに工夫して、舌の使い方や力加減を変えたりしようとするのだ。
こんな金聖姫は二年間見ることはできなかった。
しかし、長女金の存在は、金聖姫のなにかを変えたようだ。
長女金に代わりにやらせると言うと、眼に見えたかたちで金聖姫が反応する。
それが見たくて、賽太歳は意地の悪いことを言うのをやめられない。
いま、長女金は金聖姫の居室にいるはずだ。
春嬌が国都で拷問して、瀕死の状態にした長女金をこの妖魔城に連れて来たのは一箇月ほど前のことだ。
長女金のことはよく覚えていた。
二年前に金聖姫を湯治場に向かう道中の途中で浚ったとき、ただひとりだけ最後まで抵抗して金聖姫を守ろうとした。
あのとき、完全に賽太歳の結界が作ってある真ん中にあの一行は停止していたのだ。
それはあらかじめ賽太歳と春嬌が示し合わせた行動であり、いくら国軍の女将校でも、ただの人間である長女金に、太刀打ちできるわけがないのだ。
その証拠に、長女金以外の将兵はすぐに諦めて、金聖姫を賽太歳が浚っていくのに任せた。
だが、長女金だけが、最後まで結界の呪縛から抜け出ようと必死にもがき、それができないと悟ると、侍女だと嘘をついてまで金聖姫とともに妖魔城に行こうとした。
敵である人間の女ながら、いい将校だと思った。
しかし、それだけだ。
それきり長女金のことなど賽太歳の思念に浮かぶことなどなかった。
それはここに自ら望んで浚われたかたちになった金聖姫も同じのようだ。
媚薬と道術の呪縛から解けて我に返って泣き叫んだときでも、長女金のことなどひとつも言わなかったし、彼女のことを心配している様子などひとつもなかった。
その長女金が、金聖姫が拐われたことについての責を問われ、二年間も男囚と同じ結界牢に全裸で入れられるという辱しめを受けながら晒されていると知ったのは、ついこの間のことだ。
しかも、その結界牢から脱走した長女金を有来有去と春嬌が捕えて拷問にかけたという。
春嬌からの連絡で、国都に来てみると、そこにあったのは、全身を切り刻まれて火で焼かれたうえに、舌を切り取られた瀕死の長女金の姿だった。
あんな立派な女将校を惨い目に遭わせた人間の国王にも、有来有去にも春嬌にも腹が立った。
賽太歳は、長女金を治療するために妖魔城に連れ帰り、そのまま金聖姫の世話をする女としてあてがった。
金聖姫は奴隷ということにしているが、それは表向きのことで賽太歳としては、自分の伴侶のつもりでいる。
それまでは、身辺の世話をする者として雌妖を交替であてがっていたが、人間の女である長女金は、金聖姫の侍女として丁度良かった。
『治療術』で身体が癒えた長女金もそれを望んだし、金聖姫も悦んだ。
気の強い金聖姫でも、周りが妖魔しかいない場所で囚人のように監禁されて二年──。
心細かったに違いない。
だが、状況が少し変わったのは、賽太歳が気紛れで長女金に性奉仕をさせてからだ。
なぜ、それをさせたかと訊ねられても賽太歳には答えられない。
これだけ肌を合わせながら心だけは開こうとしない金聖姫に対する苛ついた気持ちがあったからかもしれない。
もっとも、長女金は嫌がらなかったし、金聖姫以外の人間の女も試してみたいという軽い気持ちだった。
しかし、それを機に金聖姫がなにか変った。
長女金に急によそよそしい態度をとり始めて長女金を当惑させるとともに、なぜか賽太歳に対する性奉仕に熱を込めたような態度をとるようにもなった。
それは長女金に対する嫉妬だろうか……?
そうであってくれれば嬉しいのだが……。
賽太歳は、金聖姫の奉仕を受けながらそう思った。
「下手糞な犬ね……。もっと、素早く舌を動かしてごらん、馬鹿犬」
大きな声がした。
顔をあげると部屋の入口に春嬌が立っている。
春嬌の背後には、春嬌の子飼いの部下である
三毛栗鼠を思わせる丸い房毛の耳と豊かな髪が特徴の双子の女だ。角は小さい。
いつも美しい身体と顔をしているが無表情で、この双子の雌妖が表情を変化させたのを見たことがない。
姉の春嬌以上に賽太歳は、この麗芳と綺芳の双子の雌妖が苦手な気がする。
賽太歳の一物を奉仕している金聖姫の身体がびくりと震えた。
この春嬌を性の相手として金聖姫が溺れたのは、春嬌が国都で金聖姫の護衛長として身辺に侍っていた時期だけのことだ。
妖魔城にやってきて豹変した春嬌を心の底から金聖姫は怖れている。
それも当然だろう。
春嬌はいまでもはっきりと金聖姫を殺したいと公然と言うし、妖魔の土地に連れてきた人間の女を残酷に責め殺すのを何度もこの金聖姫に見せたりもしている。
賽太歳は、この春嬌には金聖姫を渡すつもりはないが、春嬌は事あるごとに金聖姫を数日預けさせてくれれば、すっかりと調教して従順な女奴隷に仕上げてみせると言って金聖姫を脅かしているのだ。
金聖姫もそれについてひどく恐れていて、春嬌がやってくるとあまりにも怯えきった態度になってしまうので、賽太歳はいまでは、なるべく春嬌には顔を合わせさせないように気を使ってくるくらいだ。
しかし、今日は、ついつい金聖姫の奉仕が気持ちよくて、その機を逸してしまった。
「なにか用なのかい、姉さん?」
賽太歳は、両手を金聖姫の頭に回して押さえつける。
しかし、それは春嬌の声に、恐怖で顔を蒼くした金聖姫を安心させるためでもある。
金聖姫の頭をに優しく手を置くと、金聖姫の身体から怯えのようなものがすっとなくなるのが金聖姫の頭に置いている手を通じてわかった。
「虫が四匹、この麒麟山に侵入したそうよ」
春嬌は言った。
「虫?」
「人間よ。女が四人入ったという報せが来たわ。わたしに任せてくれるわね、賽太歳。害虫退治はわたしの仕事だからね」
この気性の激しい姉を賽太歳は持て余し気味で、二年前に国都から戻ってからも、獬豸洞や妖魔の土地の支配に関わる仕事に春嬌を使うことを避けていた。
その例外が妖魔の土地に侵入してきた人間の駆除に関する仕事だ。
金聖姫の行方を探す王家の間者が、炎の城壁を越えて度々入り込むということがあったので、それを見つけ次第捕らえて処分するという仕事を任せていたのだ。
人間を激しく憎んでいる春嬌は、妖魔の土地に入り込んだ人間を炙り出す仕事に長けていた。
春嬌が妖魔の土地における人間狩りに取り組むようになって、完全に妖魔の土地の情報は、人間の国都から遮断されている。
それは、国都で朱紫国王の部下をやつしている有来有去からの情報でわかっている。
妖魔の土地に関することでも、浚われた金聖姫の行方についてのことでも、朱紫国王はなにひとつわかっていない……。
それは春嬌のお陰だというのはわかっている。
賽太歳が治める麒麟山の妖魔には平和的な種族が多くて妖魔に隠れている人間を目聡く見つけ出すという仕事に向かないものがほとんどだ。
麒麟山の北の妖魔には、人間と外見が同じ妖魔も多いしから、混じった間者は見た目では判断できないのだ。
基本的に麒麟山に逃げ集まっている妖魔は、根が正直で心根も優しいものばかりで、周囲の者を疑ってかかり、嘘を見抜くというのが苦手だ。
その点、春嬌はうってつけだった。
猜疑心も強く、間者を残酷に拷問して目的を吐かせるということも平気でやる。
麒麟山に集まっている妖魔から、数少ないそういう仕事のできる部下も選び出してもくる。
春嬌の背後に立つ麗芳と綺芳もそうだ。
この二匹のように冷徹な性格の妖魔を見つけてくるのは案外難しいのだ。
それに、人間の間者狩りを任せることは、放っておけば人間憎しで暴発しがちな春嬌を大人しくさせるという狙いもある。
だが、春嬌は、それをいいことにわざと人間を妖魔の土地に連れてきては、残酷に拷問するということをやっている気配もあるが……。
「……まあ、それは姉さんに任せているからね」
賽太歳は言った。
「わかっているわ。でも、そのために長女金を貸して欲しいのよ」
「長女金を?」
賽太歳は驚いた。
長女金を半死半生どころか、死の一歩手前まで拷問して殺しかけたのは、ついこの間だ。
春嬌に長女金を手渡せば、今度はなにをするかわかったものじゃない。
「……お、お願いです、賽太歳……。長女金は……」
金聖姫が賽太歳の男根から口を離して、真っ蒼な顔を横に振った。
「お前は、奴隷の分際でなに勝手に奉仕をやめているのよ──」
春嬌が金切り声で怒鳴るとともに、脚で床を踏み鳴らした。
「ひっ」
その権幕に金聖姫が身体をびくりと震わせた。
「……もういい、金聖姫。部屋に戻っていろ」
賽太歳は言うと、金聖姫の首輪に繋がっている鎖を侍っている妖魔の部下のひとりに渡した。
そして、賽太歳自身の衣服も自分で整える。
金聖姫は、なにかを言いたそうだったが、さすがにそれ以上は口を開かずに、その妖魔の部下に部屋を連れ出された。
金聖姫が向かうのは、金聖姫のために賽太歳があてがっている部屋であり、道術錠によって閉じ込めている以外は、王都時代の金聖姫の部屋に内装も家具も似せて作らせている。
長女金の部屋も金聖姫の部屋の隣に作らせ、そのふた部屋はお互いの行き来も自由にさせている。
「奴隷の調教がなっていないわね、賽太歳……。本当にわたしに数日任せなさいよ。きっちりと奴隷の作法を教え込んでやるわよ」
金聖姫が連れ出されると春嬌は言った。
「侵入者の話じゃなかったのかい、姉さん」
賽太歳は春嬌の言葉を無視した。
「そうね……。今度の侵入者は、ちょっとばかり手ごわくてね。長女金を貸して欲しいのよ。罠にかけるのに必要なのよ」
春嬌は賽太歳の座っている椅子の前に立った。
妖魔王である賽太歳の前で、王に対する礼をまったくやらないのはこの春嬌だけだ。
「そうは言ってもねえ……」
賽太歳は首をすくめた。
春嬌に長女金は渡さない。
今度こそ殺してしまう。それは金聖姫が悲しむことに違いない。
「ふたりだけにして……」
春嬌が言った。
そして、賽太歳の返事を待たずに、手を振って自分が連れてきた麗芳と綺芳を退がらせた。
仕方なく、賽太歳も周囲にいる部下を退がらせる。
「姉さん、頼むよ……」
春嬌とふたりだけになると賽太歳は、春嬌を宥めるように立ちあがった。
しかし、いきなり春嬌が賽太歳に詰め寄ると、賽太歳の股間を鷲掴みにした。
「ひいっ──。な、なにを……」
強い力で下袴越しに股間を握りしめられて、賽太歳は顔をしかめた。
「なにをじゃないわよ、賽太歳……。このところ、わたしのことを甘く見てんじゃないの? また、一から調教し直してやってもいいのよ。さっき、あの王の娘に奉仕させていたこの肉棒の中に調教棒を挿して泣かせてもらいたいのかしら? それとも、あの娘と並べて尻調教をやり直す?」
そして、さらに強い力でぐいぐいと睾丸を握りつぶすように締める。
賽太歳はあまりの激痛に呻き声をあげた。
「ね、姉さん……。や、やめて……」
賽太歳は泣きそうな声をあげた。
「昔のように調教してやるよ、賽太歳……」
賽太歳の哀れな声に反応したのか、春嬌がますます力を込めて賽太歳の股間を揉みほぐす。
この気の強い姉の調教を受けて、犬のように調教されたのは十年近く前のことだ。
賽太歳はまだ少年であり、姉はすでに大人の女だった。
賽太歳にとって最初の女はこの姉の春嬌であり、賽太歳が最初に覚えた性は、この姉との間の倒錯の性だ。
いまでは、若き妖魔王として多くの部下を従える賽太歳だが、この姉とふたりだけになった時は、あの頃のように女主人と、その女主人に調教される少年に戻ってしまう。
「あの王の娘に、お前がかつては、わたしの珍棒奴隷だったことをばらされたくなければ、わたしをあんまり怒らせるんじゃないのよ……。別に長女金をいまさら殺したりしないわよ。それどころか、ここに連れてきさえすれば、どこにも連れて行きはしないわ……。だから、さっさと連れてきなさい」
春嬌はもの凄い力で賽太歳の睾丸を握りしめている。
そして、肉茎の根元をしごくように手を動かした。
「あっ、あっ、ああっ……」
熱いものが突然込みあがった。
下袴の中で賽太歳の怒張は男の精を噴出してしまった。
「わかったわね……。すぐに連れてくるのよ、賽太歳」
春嬌が賽太歳から手を離した。
思わず賽太歳は数歩後ずさって、倒れるように王座の椅子に座り込んだ。
まだ、精を放った余韻のような衝撃が続いている。
下袴の中に出してしまった精が気持ち悪い。
「ちょ、長女金はここから連れ出さないんだね、姉さん」
賽太歳は渋々鈴を鳴らして部下を呼び、長女金だけをここに連れてくるように命じた。
しばらくすると、長女金が妖魔兵に連れてこられた。
特に拘束はしていない。
拘束をしなくても、道術なしにこの妖魔城から逃げることは不可能だ。
それに長女金は自ら望んで、妖魔城に留まって金聖姫の侍女をすることを選んだのだ。
長女金を拘束しなければならない理由はなにもない。
「しゅ、春嬌……様……」
長女金が春嬌の姿を見て顔色を変えた。
「久しぶりね、長女金……。いつぞや可愛がってあげた怪我は治ったようね」
あの国都における拷問以来、長女金が春嬌を見るのはこれが最初だ。
春嬌の拷問の恐ろしさは、長女金の血に沁み込んだはずだ。
長女金は、蛇に睨まれた蛙のように身体が硬直して立ち止まっている。
「その卓の上に手を置いてちょうだい、長女金。すぐに終わるわ」
説明もなしに春嬌が言った。
部屋の隅に木製の小さな卓がある。
春嬌がそこを指さして、その卓の前に移動する。
「は、はい……」
長女金もそれ以上なにも言わずに、言われるがまま卓の前に進んで、両手を卓の上に載せた。
するといきなり春嬌が懐からなにかを出して、長女金の手に叩きつけた。
「はがあああああぁぁぁぁっ──」
長女金が絶叫した。
賽太歳も思わず立ちあがった。
長女金の左手の甲に小刀が深々と突き刺さっている。
春嬌が突然に、長女金の左手に小刀を突き刺したのだ。
長女金の左手越しに木の卓を貫いた小刀の刃の先端が卓の下から覗いている。
「あっ、ああああっ……」
長女金が左手を押さえて苦しそうな声を出した。
血がだくだくと出て卓の上から床に流れ落ちている。
「ね、姉さん、な、なにを──?」
賽太歳は急いで立ちあがって、長女金の左手から小刀を抜いた。
すぐに『治療術』をかける。
長女金の手のから流れる血が止まり、その傷が塞がる。
長女金はその場にしゃがみ込んだ。
怪我はもう癒えている。
長女金はあまりの驚きで、腰が抜けてしまっただけだろう。
賽太歳は、ふと、顔を横に向けて春嬌を見た。
春嬌は何事もなかったかのように、卓の上に口を近づけて、長女金の手から流れた血を舌で舐めている。
「あの女道術遣いは、本当に便利な霊具を持っていたわ。この指輪をして、変身したい相手の体液を舐めれば、その姿に変身できるのよ」
春嬌が嬉しそうに笑った。
そう言えば、春嬌は指に見慣れない指輪をしていた。
驚いたことに、次の瞬間、春嬌の姿は床にしゃがみ込んでいる長女金と同じ姿になった。
「しゅ、春嬌様?」
「姉さんなのか?」
驚いている長女金に続いて、賽太歳も思わず声をあげた。
「終わったわよ。屋敷に戻るわ、麗芳、綺芳」
長女金の姿になった春嬌が叫んだ。
いつの間にか部屋の戸口には、春嬌の部下の二匹の雌妖が無表情で立っていた。
長女金の姿になった春嬌が、賽太歳に挨拶もせずにそのまま立ち去っていった。