「このふたりを殺さないでおくれ──。このとおりだよ」
宝玄仙がその場に跪いて、床に頭をつけた。
沙那は驚愕した。
「……もう、わたしの負けでいい。降参だ。お蘭の奴隷になるよ」
さらに言った。
すると、なにか大きな気の塊のようなものが周囲で吹き起こるのを感じた。
そして、はっとした。
真言の盟約で続けられていた勝負が終わったのだ。
宝玄仙が負けを宣言したことにより、宝玄仙はお蘭の奴隷状態になり、それに伴って、お蘭が勝負のあいだ取りあげると言っていた道術の力が、宝玄仙に戻ったのだと思う。
道術のことはわからないが、宝玄仙の身体になにかの気が満ち溢れている。
「な、なに? もう終わり?」
「そうだよ。もう終わりだよ。これで道術が戻ったね。いまいましい身体の操りは返すよ。それと、こいつらは返してもらうよ──。お前の玩具じゃない。わたしの玩具なんだ」
宝玄仙が手をあげた。
髪で吊られていた孫空女の生首から縄が解けて、首が床に落ちてきた。
慌てて受け止めようとしたが、床に辿り着くときには、もう孫空女は五体の戻った状態になっている。
「うわあっ」
だが、しこたま強くお尻を打ったようだ。大きな声をあげた。
しかも、全身が爛れたように真っ赤だ。
おそらく、魔蛭とかいう生き物入りの媚薬漬けにされていた影響だろう。
「ひいいっ」
孫空女が全身を掻きむしりだした。
だが、その力は弱々しい。
「ほらよ」
宝玄仙が道術を孫空女に掛けたのがわかった。
孫空女の身体が落ち着きを取り戻して、身体の赤みも小さくなる。
「孫女、大丈夫?」
沙那は孫空女を抱き起こした。
「う、ううう……。さ、沙那──」
素っ裸の孫空女が童女のように、沙那にしがみついてきた。
こんなに恐怖に包まれている孫空女など初めてだが、余程に怖かったのだろう。
「な、なにをするか──。勝負に負けたなら、お前はわしの奴隷じゃ──。勝手なことをするな──」
烏巣禅が真っ赤な顔をして怒鳴った。
すると、宝玄仙がにこりと笑った。
そして、なにかを床に放った。
たったいままで宝玄仙の股間とお尻に埋まっていた白い張形だ。それを抜いて捨てたのだ。
「じゃあ、お前がご主人様だね、お蘭──。煮るなり焼くなり好きにしな──。だけど、ふたりには手を出すんじゃないよ。こいつらは関係ないんだから」
宝玄仙がその場で胡坐に座った。
どうなるかと思っているが、なかなか烏巣禅は動かない。
なにか衝撃を受けたように、小刻みな震えさえ始めた。
「ご主人様、どうしたんですか? なにか困っていることでも? いろいろと趣向があったんじゃないですか? どうぞ、この宝玄仙めに罰を与えてください、ご主人様」
宝玄仙が胡坐に座ったまま言った。
だが、その口調には悲痛なものはない。
それどころか、どことなく、お蘭をからかっているような雰囲気さえある。
そして、烏巣禅の身体の震えが大きくなった。
「お、お宝姉さん──。な、なによ──。そ、そんなに、このふたりの供が大事なの──。あ、あたしがこんなにしたのに、な、なんで怒らないのよ──。そんなに、あたしが嫌いなの──」
烏巣禅が絶叫した。
いや、これはお蘭の本物の声だ。
男の老人の声じゃなく、間違いなく若い女の声だ。
「やかましいよ──。いつ、わたしがお前を嫌いと言ったんだい──。勝手に、お前がわたしを絶交したんだろうが──」
宝玄仙がいきなり怒鳴った。
そして、立ちあがる。
次の瞬間、ものすごい力で烏巣禅の頬を張り飛ばした。
沙那は眼を見張った。
烏巣禅がその場にひっくり返る。
さらに、宝玄仙は烏巣禅の股ぐらを力の限り踏みつけた。
「あぐううっ」
烏巣禅が悶絶して白目を剥いた。
「ま、待って、ご主人様──。お、落ち着いて──」
慌てて、宝玄仙に掴みかかった。
怒りのあまり行動したのだろうが、すでに宝玄仙はこの烏巣禅こと、お蘭の奴隷状態なのだ。
言葉ひとつで、命令に従わせられ、それを拒否すれば凄まじい苦痛が襲いかかってくる立場のはずだ。
お蘭に殺されてしまう。
「うるさいよ。あっち行ってな、沙那──。こいつは、本当はこうしてもらいたかったんだ。だから、わざと、わたしを怒らせるようなことばかりやってたんだ。仕返しをしてもらいたくてね──。ほら、満足かい、お蘭──。いつまでも、糞じじいの恰好をしていると、金玉がめり込むくらいに、蹴り続けるよ──。ほら、ほら、お蘭──」
押さえようとして手を宝玄仙に払いのけられた。
宝玄仙は狂ったように烏巣禅の股を踏み続ける。
白目を剥きかけている烏巣禅の身体が白い光に包まれたと思ったら、その姿が若い少女のような姿に変わった。
年齢は十六、七というところだろうか。
宝玄仙同様に神々しいくらいに美しい。
顔立ちも似ている。
これが本当のお蘭の姿なのだろう。
「んぐうっ、や、やめてえっ、ご、ごめんなさい、お宝姉さん──。ゆ、許して……。あ、あああっ」
それでも宝玄仙はお蘭の股を蹴るのをやめない。
ものすごい力で蹴ったり、踏んだりしている。
お蘭は立つこともできずに、のたうち回っている。
「ほら、今度は顔だ──。ちゃんと、上を向きな──。命令だ。奴隷にしたところで、わたしに逆らえると思っているんじゃないだろうねえ。染み込ませてやった奴隷根性は、そんなものじゃあ消えやしないよ。もう、わたしを奴隷にしたんだ。したかったら、仕返しをしてみな、この馬鹿垂れが──」
宝玄仙が今度はお蘭の顔を蹴る。
「ぐふうっ」
お蘭の鼻が曲がり、血が噴き出た。
しかし、一瞬後には、それが光に包まれれて、きれいな顔になる。
だが、そこにまた宝玄仙の蹴りが飛ぶ。
また、光で治療される……。
沙那はやっとわかったが、宝玄仙はお蘭を蹴りながら、一方で回復術で治療もしているのだ。治療しては顔を蹴り、蹴っては治療術をかけるということを繰り返しているということだ。
おそらく、股間を蹴っていたときも、同じようにしていたのだろう。
もう、沙那はこの状況が理解できずに、孫空女と抱き合うようにしながら、呆然とそれを眺めていた。
しかし、しばらくすると、お蘭の様子が変わってきた。
蹴られて顔を壊されるたびに、恍惚とするような顔になり、だんだんと甘い声を出すようになってきた。
お蘭は宝玄仙に拷問のような暴行を受けて欲情しているのだ。
沙那にはそれがわかった。
「お、お許しを……。お、お、お宝姉さん、お、お許しを……。んぎゃああ──」
泣きながら許しを請い始めたお蘭の顔をさらに宝玄仙が蹴った。
それでも、噴き出した鼻血とともに、あっという間に顔がきれいになるのだから、ある意味すごい責めだ。
「お前はたったひとりの肉親だ。そして、わたしの最初の性奴隷だ──。お前のことは好きに決まってんだろう──。だから、責めを受けてやったんだ。長く邪見にしていた罪滅ぼしだとも思ってね──。それなのに、調子に乗りやがって──。誰が沙那と孫空女に手を付けていいと言った──。勝手なことをして、わたしを本当に怒らせたら、二度と構ってやらないよ。奴隷だろうが、なんだろうが、知ったことか──」
宝玄仙がお蘭を蹴りつづける。
本当に力任せだ。
その迫力に、沙那が口を挟むこともできなかった。
「ゆ、許して──。な、なんでもする……。ひぎいっ、ふぐうっ、ごめん、ふぎいっ、ごめんなさい、お宝姉さん……。う、嬉しい……ぶぎいっ──。あ、ああ、も、もっと──」
お蘭が宝玄仙に暴力を振るわれながら悶えだした。
沙那は眼を疑った。
さっきまで、あんなに威張り散らしていたお蘭が、宝玄仙に蹴られて、なにもすることができずに一方的にそれを受け止めるだけでなく、それによって興奮しているのだ。
「……な、なにこれ……。いきなり、どうなってんの……?」
「さあ、わたしにも、さっぱり……」
孫空女とともに、沙那も唖然としてしまった。
「わかったかい、お前ら──。こいつは嗜虐者のように振るまっていたけど、心の底からの被虐癖のど変態なのさ。さっきのわたしへの責めだって、ずっと以前にこいつにやってやった躾の焼き直しだ。骨の髄まで、わたしがこいつを躾けてやってるから、本当は逆らうことなんてできないのさ。ちょっとばかり、付き合ってやろうかと思ったけどやめだ。飽きたよ──。ほら、見てみな、沙那──。こいつには、痛みを快感として感じるように、しっかりと調教してやったのさ。道術じゃないよ。こいつは十年以上も、わたしの性奴隷だったからね。毎日のようにいたぶってやって、そういう変態にしてやったのさ。そうだね。変態?」
蹴り疲れで、肩で息をしている宝玄仙がやっと蹴るのをやめた。
だが、その代わりに、お蘭にさっと片手を向ける。
「うぎゃあああ──」
お蘭の口から獣のような苦痛の声が迸った。
「なにをしているんだい、お蘭──。本当の調教というのを味わわせてやるよ。さっさと服を脱がないかい。さもないと、この苦しみはいつまでも続くよ」
お蘭は苦しみ続ける。
必死で手を衣類にかけようとしているけど、道術で苦しめられているので服を脱ぐことができないようだ。
お蘭は仰向けのまま、暴れ回っている。
「お前たち、お蘭の服を脱がしてやりな。お蘭、お前からも頼みな。お前のために、服を剥ぎ取ってくれるんだから」
宝玄仙が沙那と孫空女を見た。
「は、はい──」
「うん……」
急に振られて、沙那と孫空女は慌ててお蘭に駆け寄る。
「お、お願い、服を……。脱がせて──。うぐうううっ、ひぎいいいっ」
苦しみ続けて暴れるお蘭から服を脱がせるのは大変だった。
それでも、なんとかふたり掛かりでお蘭から一枚一枚服を剥ぎ取っていく。
そして、股布だけになると、お蘭が苦しみながらも、激しい淫情に襲われているのがわかった。お蘭の股間は布の色が変わるくらいに愛液でびっしょりだったのだ。
その股布も取る。
お蘭は素っ裸になった。
やっと、宝玄仙が道術をやめたのか、お蘭がもがくのをやめて、がっくりと脱力した。
「お蘭、お前に、ご主人様は似合わないよ──。もうちょっと付き合ってやろうかと思ったけど、茶番はやめだ──。望み通りに、久しぶりに躾けてやろう──。これっぽっちも道術を使うことは許さないよ。躾を受けたくないなら、反撃してごらん。くだらない呪いを里にかけて、このわたしを奴隷にしたんだ。いくらでも、やめさせればいい。それとも、わたしの調教を受けたいのなら、奴隷の姿勢だよ。もしかしたら、久しぶりなんで忘れたかい──」
「わ、わたしが……お、お宝姉さんの調教を……い、嫌がるわけがない……じゃない……。さっきまで、ごめんなさい……。十分に罰してください……」
お蘭はまだ足腰が立たないのか、ふらふらと一度立ちあがり、その場で正座をして、両手を頭の後ろで組んだ。
これが奴隷の姿勢というやつなのだろう。
すると、お蘭の首に赤い糸のような線が浮かびあがった。
お蘭が苦しそうに呻く。
よく見ると、頭の後ろで組んでいるお蘭の指の何本かにも、赤い線が浮かびあがっている。なんとなくだが、手を動かすと、赤い線のある首が締まるような仕掛けのように感じる。
腕をかすかに動かすたびに、お蘭は苦しそうに息を吐いている。
いずれにしても、宝玄仙の道術だろう。
それにしてもだ……。
いま、宝玄仙はお蘭の奴隷状態だ。
それなのに、なんの躊躇もなく、お蘭を痛めつけ続けている。
お蘭もまた、この瞬間にも、宝玄仙を無力化して反撃できるのに、それをしない。
道術だって遣おうともしていない。
「脚を開きな」
宝玄仙が正座をしているお蘭の脚を蹴る。
「うっ」と呻いて、お蘭は正座をしている腿を開いた。
そこに宝玄仙が脚を差し込み、脚の指でお蘭の股間を弄り始めた。
「は、ああっ」
お蘭がびくりと身体を震わせる。
宝玄仙がお蘭の頬をまた張った。
「ひぎいっ、ううっ──」
最初に頬を張られて声をあげ、次いで手が動いてしまったことで、道術の線で首が締まってお蘭が苦痛の声をあげる。
「勝手に、淫汁を出すんじゃないよ、それよりも、久しぶりに見たら、しっかりと陰毛を生やしているじゃないかい──。これは後で処分するからね。半分は引きちぎる。半分は燃やす……。わたしに断りもなく、股間の毛を生やした罰だ。十年躾をされなかろうと、二十年されなかろうと、お前はわたしの性奴隷なんだ。勝手なことを許さないよ」
「んぎいいいっ」
お蘭が絶叫した。
股から足を抜いた宝玄仙の脚の指には、十本ほどの陰毛が絡まっていた。
挟んで引き千切ったのだと思った。
「ほ、本当に……わ、わたしは、お、お宝姉さんの奴隷……?」
「当たり前だろう」
宝玄仙がにっこりと微笑んだ。
すると、お蘭が感極まったようにぶるぶると震えた。
しかも、それが大きくて長い。
やがて、背をぴんと伸ばすようにして、背中を弓なりにした。
言葉ひとつで達したのだ。
「うわあ……」
孫空女も横で驚いている。沙那も眼を見張った。
「見たかい、お前ら──。十年もわたしから調教を受けるとこうなる。しかも、この女は十歳から二十歳まで、わたしに飼われ続け、それからも時折、こうやって躾けてやっている。心の芯からわたしの奴隷なんだよ」
宝玄仙がけらけらと笑った。
その宝玄仙がお蘭の桃色の片側の胸の突起をぎゅっとひねりつぶす。
「うぐうっ、ひぎいいっ」
懸命にお蘭が歯を喰いしばっている。
だが、お蘭は被虐の声を押しとどめることができないようだ。
苦しそうでありながらも、どことなく幸せそうな顔で唇のあいだから細い呻きを洩らし続ける。
「どうしたんだい、お蘭? わたしを奴隷にしたんだろう。逆らいなよ。わたしに命令してみな。お前はむかしから、わたしよりも道術の能力は高かった。いまでもそうだ。そんな首絞めの術くらい、簡単に振りほどけるだろうが──」
さらに宝玄仙は反対の乳首も捻る。
「ひいいっ」
「わたしは奴隷だよ。お前のね──。だから、やっぱり、責めるのはお前で、責められるのはわたしの方がいいと思うけどね……。そろそろ、交代しようか……。ねえ?」
宝玄仙がお蘭の乳首をぐいぐいと捩じりながら言った。
「そ、それは後で──。い、いまは、このまま……。あ、ああ──。も、もっと──。お、お宝姉さん……。ひ、久しぶりに、お宝姉さんの責めが受けられて嬉しい……。あああっ」
「だったら、今度はお前が道術をわたしに寄越しな。わたしは数刻ほど、お前の調教を受けたしね。お前には十日はやめないよ。そのあいだ、さまざまな調教やお仕置きをするけど、ひとつ終わるごとに、服従の誓いをさせてやる。さあ、道術を渡せ──。さもないと、ここでやめるよ」
「ほ、本当に十日──? 十日間、お宝姉さんの調教を受けられるの──?」
お蘭が目を輝かせたように見えた。
「ああ、約束だ。この里にかけた呪い……。お前がかけた広域の真言の誓約に結んでもいい」
「誓う。誓います。このお蘭はお宝姉さんに道術を渡して奴隷になる。その代わりに……」
「十日間の地獄の責めだ。誓おう──」
宝玄仙が言った。
お蘭と宝玄仙の腕に再び、真言の誓約が成立したことを示す赤い線が走った。