「そろそろ、時間よ、朱姫……。準備はできたんでしょうね」
監禁されていた部屋の扉が開いて、入ってきた
「わ、渡されたものは着ました……」
朱姫はそう言った。
この春嬌の屋敷に監禁されてから六日のはずだ。
もっとも、きちんとした時間の感覚は朱姫にはなかった。
ずっと沙那と一緒に窓のない地下で調教を受けていた。
調教を受けた一日が終わり、休むことと食事と身体の手入れを許された時間があり、次の調教の日がやってくる──。
これで一日の流れを知るだけだ。
朱姫の道術が奪われたというのは間違いない。
この屋敷に『移動術』の道術で跳ばされたとき、毒の空気の充満した部屋に跳躍させられて、ほかの三人とともに意識を失ったが、朱姫はかすかに残る意識の中で、若い妖魔が朱姫の道術を奪った感覚を覚えている。
それはおそらく、宝玄仙の道術を奪った妖魔と同じものであろう。
朱姫は、そのときに鈴の音を耳にしたのだ。
宝玄仙も朱紫国の国都で最初に道術を奪われたときに、鈴の音を聞いたと言っていた。
あれは、宝玄仙の道術を奪ったときと同じ鈴の音と同じであるに違いないのだ。
いずれにしても、それ以降、この屋敷の持ち主の
もっとも、四人はばらばらにされて、それぞれに調教を受けたので、ほかの者がどういう状況になっているかまったくわからなかった。
朱姫は、沙那と一緒に麗芳という雌妖による調教を受けていたが、その間、宝玄仙と孫空女の姿には一度も接することができなかった。
そして、あるとき、春嬌が奴隷披露のための晩餐会を妖魔たちを集めて開くということを聞かされ、朱姫はひとりだけ沙那と監禁されていた檻を出されて、この部屋に閉じ込められたのだ。
それまで監禁されていたのは、壁をくり抜いた細長くて天井の低い石牢だったが、ここは椅子があり寝台がある普通の部屋だ。
ただ、普通に思える部屋でも、牢には変わりはない。
部屋には窓がなく、出入り口の扉がひとつしかない。唯一の扉には『道術錠』がかけられている『道術錠』は、道術による錠前であり、道術遣いでなければ開くことはできない。
道術を奪われても霊気の動きは知覚できる。
それで、朱姫はこの部屋にかかっている道術の存在がわかったのだ。
この部屋に監禁されてからずっと朱姫はひとりで放っておかれたが、道術を奪われている朱姫には扉を抜けて脱出するのは不可能だった。
それに朱姫の首に装着された首輪には、床の金具に繋がった鎖があった。
鎖は随分と長いので、この部屋である限り自由に動けるのだが、それ以上に離れることはできない。
その首輪の鎖以外には、朱姫は拘束されていなかった。
「立って給女の服を見せなさい」
麗芳は戸口に立ったまま言った。
給女の服と麗芳が言っている服は、数刻前に渡された。
今日初めての食事を持ってきた麗芳が化粧道具とともに置いていったのだ。
朱姫の役割は、晩餐会における客の給女のようだ。晩餐会に集まった妖魔の客に飲み物や食事を配って歩けと言われている。
それに比べれば、宝玄仙や沙那や孫空女は、その席で春嬌の奴隷として紹介されて公開調教を受けるということであり、朱姫は特別な待遇であるらしい。
ともかく、朱姫は渡された服を着て、髪を整え化粧をして、ここで待っているように命令された。
仕方なく命令に従ったが、畳まれた服を拡げて朱姫は鼻白んだ。
渡された給女服は上半身の部分こそ、紺色の清楚なものであったが、臍から下の部分に当たるものがなにもなかったのだ。
上半身はきちんと服を身に着けながら、下半身がすっぽんぽんの姿で給女をして回れということだろうか。
全裸よりもむしろ恥ずかしい恰好で、晒し者にしようということに違いないと思った。
朱姫は歯噛みした。
だが、着ないわけにはいかない。
朱姫は、きちんと身だしなみを整えて上半身に服を着ながらも、下半身は素裸という奇妙な恰好で待っていた。
そして、やっと麗芳が部屋に来た。
立って準備した姿を見せろというその麗芳の言葉に、朱姫は仕方なく従う。
「ほほほほ、随分と素敵な恰好じゃないの、朱姫……。じゃあ、入ってちょうだい」
麗芳が部屋の外に声を火かけた。
「なかなかの美形の奴隷じゃないか、麗芳殿」
「これは、なかなかの趣向……。上は正装、下は素裸というのは……」
「人間の娘か? 十五、六ということかのう、麗芳殿」
突然、五匹ほどの正装をした屈強そうな雄妖が入ってきた。
そして、わらわらと朱姫の周りを囲み始めた。
「きゃあああああぁ」
いきなりのことで朱姫は慌ててその場にうずくまって下半身を隠した。
「なに、勝手にしゃがんでいるのよ。面倒をかけさせると、お前の仲間を折檻するよ」
麗芳が叫んだ。
この数日の調教で麗芳たちは、朱姫たちの仲間意識が強く、本人ではなく仲間を折檻すると言えば、反抗の態度をとらなくなると悟ったようだ。
一緒に調教を受けた朱姫と沙那もお互いを折檻すると言われて、さまざまな恥辱的なことをやらされた。
とにかく、逆らうわけにはいなかい。
仲間がどういう状況になっているかわからない以上、迂闊なことをして彼女たちを危険な目に遭わせないとも限らないのだ。
春嬌たちが、朱姫たち四人の命など路傍の石ほどにどうでもいいものと思っているのは明らかだ。
あまりに反抗すれば、ただの見せしめのために誰かの命を奪ってしまいそうだ。
それで、沙那とともにずっと恥辱に耐えてきたのだ。
朱姫は股間をしっかりと閉じ合せて、前を両手で隠しながら立ちあがった。
それを雄妖たちが取り囲み、好色な視線で朱姫の身体を舐め回す。
「この人たちは、お前の支度を手伝ってくれるのよ。挨拶をしてお礼をしな」
麗芳が言った。その麗芳は出入り口である扉の前から動かない。
おそらく、客の雄妖を連れて来たのは、万が一にも朱姫が抵抗して暴れはじめたら困るということを考えたに違いない。
朱姫は武芸の嗜みはないが、朱姫を囲む雄妖たちが、それなりの腕の立つ者たちばかりだというのはなんとなくわかる。
しかし、朱姫はここで暴れて抵抗するつもりはなかった。道術が遣えなければ、朱姫などただの非力な少女でしかないし、いまの状況で逃亡の機会も、ましてや仲間を助けることもできるとは思えなかった。
「しゅ、朱姫です……。よろしくお願いします」
仕方なく朱姫は頭を下げた。
「おう、よろしくな……。じゃあ、さっそく両手を前に出しな」
雄妖の一匹が腰帯を拡げた。
それを朱姫に嵌めようとしているようだ。
腰帯は臍の上の腰の括れた部分に締めつけて背中側で鍵で留めるようになっているらしい。
身体の前側の部分に鎖が繋がっていてその先に手錠が付いている。
その手錠を手首に付けられれば身体の前であればある程度の仕事はできるが、それ以上の自由は利かなくなるだろう。
朱姫の背後にも別の雄妖が立った。
手を伸ばして前側の雄妖から腰帯を受けとった。
腰帯がしっかりと腰の括れに装着される。
「ま、待って……。待ってください」
さらに手を取られて腰帯の鎖に繋がった手枷を嵌められそうになるに及んで、朱姫は思わず、手を引いて声をあげた。
「なんだい、朱姫。抵抗する気かい?」
麗芳が険しい表情で怒鳴った。
「ち、違うんです……。お、大人しくします。大人しくしますから……。その前に……」
朱姫がそう言うと、やっと麗芳が朱姫の困惑を悟ってくれて表情を崩した。
「ああ、お前、小便がしたいのかい?」
麗芳がわざとらしく大きな声で言った。
朱姫は五匹もの雄妖に取り囲まれた状態で、尿意を訴えるなど耐えがたい恥辱を感じたが、このまま拘束されてしまっては、尿意が溜まったまま給女をしなければならない。
それでやむを得ず口にしたのだ。
そもそも、この屋敷に監禁されて以来、糞尿については限られた時間でしかすることを許されていない。
調教を受ける前と受けた後に、檻に近い厠に立ち寄って麗芳たちの前でするのだ。
しかし、この部屋に入れられてから一度も外に出されていない。
そのため、一日間ずっと朱姫は尿意を我慢していたのだ。
「小便がしたいのかと訊いてるのよ」
麗芳が大きな声をあげた。
「し、したいです……」
朱姫は、折り曲げた膝をもじつかせて股間を両手で押さえながら小さな声で言った。 自分の股間にはっきりとした雄妖たちの視線を感じて、恥ずかしくて顔をうつむかせる。
「まあ、無理ないかね。そう言えば、ずっと我慢させたままだったねえ……。わたしも随分と我慢が続くものだと思って感心していたんだけどね」
春嬌が哄笑すると、朱姫を取り囲む雄妖たちも一斉に笑う。
「お、お願いです。拘束する前に厠に行かせてください」
朱姫は訴えた。
「厠には行かせてやるよ。だけど、拘束は先に受けな。拘束されても小便はできるだろう。ただ、垂れ流すだけじゃないか」
春嬌が言うと、そうだそうだと言いながら、強引に身体の前の手錠を両手首にかけられた。
手首の手錠の後には、背後から足首にも鎖の繋がった足枷を嵌められた。足首を繋ぐ鎖は肩幅くらいの長さだ。
「さて、とにかく、朱姫、お前にはいいものをやるわ。ただ、普通に給女するだけじゃあつまらないでしょう?」
朱姫の拘束が終わると、やっと麗芳が戸口から離れて朱姫のそばにやってきた。
朱姫が少しでも逃亡をしようとすれば、道術でこの部屋を封鎖してしまうつもりだったに違いない。
この屋敷に監禁されてから朱姫も沙那もずっと隙を伺っているのだが、麗芳にしろ、綺芳にしろ、春嬌にしろ少しも油断しない。
沙那に言わせれば、沙那たちのような猛者を監禁して調教をすることに馴れているようだという。
春嬌はこの屋敷に、それこそ何人もの獲物を捕まえて嬲り者にしていたに違いないと、沙那は判断していた。
沙那と朱姫が昨日まで監禁されていた檻には、過去に沙那や朱姫と同じような犠牲者が囚われていた形跡があったし、なによりもこの屋敷は、人間を捕えて監禁したり、奴隷のように飼育したり、あるいは調教したりするための施設が整いすぎている。
それだけになかなか、脱出や反撃の機会を見つけるのは難しそうだし、時間もかかるかもしれないと沙那は言っていた。
沙那は朱姫と離れる直前まで、とりあえず屈服した振りをしてなんとか、この屋敷の雌妖たちの隙を伺おうと努力していた。
しかし、その沙那も、朱姫と離されてどこかに連れて行かれた。これから始まる晩餐会に出されるはずだが、いまはどうなっているのかわからない。
「みんな、こいつは抵抗すると思うから押さえて頂戴」
麗芳が言った。
「ああ、な、なにするつもり? 変なことしないでよ」
朱姫は近づく麗芳が手に奇妙な棒を持っているのを見て悲鳴をあげた。
しかし、その朱姫を周りの雄妖が掴む。
「尻をあげさせて……」
麗芳が朱姫の前に立った。
「ひいっ……や、やだあっ」
朱姫は悲鳴をあげた。
だが、五匹もの雄妖によってたかって押さえつけられたら、拘束された身では抵抗のしようがない。
跪かされて首を床側に無理矢理に押さえつけられた。
朱姫は尻を突きあげた格好になった。
麗芳が朱姫の前に座ると懐から小瓶を出した。
そして、朱姫の顔の前にかざしながら、瓶から塗剤を指ですくってその棒に塗り込み始める。
「お前の好きな尻用の淫具よ。嬉しいでしょう? これを尻に入れてから下着を履かせてあげるわ。おしっこはそれからよ」
麗芳が愉しそうに笑った。
「そ、そんなの嫌です」
これからなにをされるのかがはっきりとわかって朱姫は悲鳴をあげた。
「給女をしてもらわなければいけないんだけど、そのためには、ある程度自由にしなけれはならない。だけど、これをお尻に入れておけば、お尻の弱いお前は逃げられないし、仲間を助けようとすることもできないでしょう。言っておくけど、これは霊具だからね。一度挿入されたら、絶対に抜け出ないわ。給女をしながらしっかりと愉しむといいわよ」
麗芳が笑いながらこれ見よがしに朱姫の顔の前で、持っている棒に塗剤を塗りたくる。
棒の長さは、朱姫の中指の二本分以上はある。
表面がねじのようなうずまきをしている。
そのねじりの溝を埋めるように塗剤が埋められていく。
「そ、そんなことしなくても逃げませんから」
朱姫はもがいた。
「いいから、大人しく尻の穴を開きな。俺たちが手伝ってやるよ。そのために手伝いに来たんだしな」
「そうだな。それにしても、可愛い人間の娘だな」
「暴れるな、暴れるな……」
朱姫を押さえつけている雄妖たちが無遠慮に朱姫の肛門に指を入れてまさぐってくる。
お尻にぞわぞわとした疼きが走る。
それが子宮に届き、さらに全身に拡がる。身体中を得体の知れない痺れが駆け回る。
そして、それが大きな愉悦に変化するのだ。
朱姫は思わず声をあげて身体を震わせた。
「ちょっと、やだ、やだってばあ」
朱姫はもがいた。
しかし、あっという間に指が捩じり棒に入れ替わって、その先端を肛門にあてがわれてしまう。
「わ、わかりました。受け入れます。でも、その前に厠に……」
「うるさいわねえ。小便はこの後にさせてやると言っているじゃないの。それよりも、ここで洩らしたら承知しないわよ。ここは本当は奴隷用の檻じゃないのよ。こんな場所の床をお前の尿で汚したら、普通の折檻じゃきかないからね。それこそ、お前たち四人のうち誰かを死ぬまで鞭打つわよ」
麗芳が冷ややかに言った。
尿意に耐えている朱姫の厠に行かすことも許さずに、容赦なくおかしな淫具で敏感な肛門をいたぶろうとする麗芳に、朱姫は憎しみとも悔しさともわからない感情が湧き起こる。
捩じり棒の先端が朱姫の肛門に喰い込む。
朱姫は懸命に漏れそうな尿意を我慢した。
「ほほおぉぉぉ」
ぐりぐりと回転しながら棒が朱姫の肛門に入ってくる。
お尻の粘膜が押し拡がり、朱姫の肛門の内襞を抉りながら奥に入ってくる。
「あはああ……ああっ……あああ……」
朱姫は歯を食いしばって頭を仰け反らせた。
それでも我慢できずに、全身を力の限り仰け反らせる。
愉悦が朱姫の全身を支配した。
捩じり棒が朱姫の尻を抉る。
封じ込められない声が迸る。
甘美な痺れが稲妻のように刺激が脳天に次々に押し寄せる。
「あはああああっ」
捩じり棒が朱姫の肛門の奥の部分を突いた。
電撃のようなものが背骨を貫き、脳天で爆発して朱姫を一瞬真っ白な世界に導いた。
さっそく、達してしまった……。
朱姫は呆然とした。
「気持ちよさそうだったな。そんなに嬉しいかい?」
「へ、へ、へ、このお嬢さん、すっかりと全部飲み込んでしまったぜ、麗芳殿」
「随分と尻が弱いんだな。驚いたぜ……。麗芳殿から教えられていたとおりだな」
「一度、入ったら、もう取れないらしいぜ、どうする、あんた?」
雄妖たちが絶頂の余韻に震える朱姫の尻たぶを代わる代わる触りながら言った。
「しかも、さっそく、いったのね……。ふ、ふ、ふ……。でも、てっきり、そのまま洩らすかと思ったけど頑張るなんて見直したわよ、朱姫……。じゃあ、もっと、頑張ってもらおうかしら」
麗芳が意味ありげに笑んだ。
すでに捩じり棒は朱姫の肛門の一部であるかのようにすっかり馴染んでいる。
痛みはない。
あるのは朱姫を途方に暮れさせるほどの快感だ。
棒によって沸き起きる身体を溶かすような気持ちよさが続いていて、朱姫を苦しめ続けている。
お尻の異物感が堪らない。
それがただれるような快感をまだ拡げ続けている。朱姫はなにかを求めるかのように口を開いたり閉じたりした。
しかも、もはや尿意は鈍痛のような下腹部の疼きにもなっている。
「あ、あの……」
もう尿意が激しい。
尻に入れられた淫具もつらいのだが、いまはなによりも、猛烈な尿意がつらい。
「わかっているわよ。おしっこでしょう。でも、もう少し待つのよ。この下着をつけてからよ」
下着?
「これは情けよ……。半妖のお前をいくらなんでも素っ裸で晩餐会に出すにはいかないそうよ。よかったわね……。あんたの仲間は晩餐会に出て、お客様たちに犯しまくられることになっているんだから。それに比べれば下着だけでも履かせてもらえるのは感謝しなきゃ駄目よ」
麗芳が言った。
股間に不意になにかが触れた。
首を後ろに回すと、股間に白い布があてられている。朱姫の腰の部分を包む小さな布きれで股間の前後に布を当てて、腰の横で前後から伸びる紐を結ぶようになっている下着だ。
それが朱姫に履かされて朱姫の腰の横で結ばれる。
「さあ、立ちなさい」
麗芳が言った。
朱姫は腿を擦り合わせるようにして立った。
こうしていないと尿意が苦しいのだ。
しかも、肛門に挿入された淫具は、ただ立っているだけで朱姫を苛み、朱姫をずきんずきんという痛みにも似た官能の疼きを与えてくる。そんな状態で、朱姫は必死に尿意を耐えていた。
「じゃあ、行きましょうね、朱姫」
麗芳は朱姫を扉に促した。
五人の雄妖たちに取り囲まれ、朱姫は押されるように歩いていく。
扉が開け放たれ部屋の外に出た。
不意にどっという歓声のようなものが朱姫を襲った。
びっくりした。
大勢の妖魔が集まっている大広間だ。
全部で五十匹くらいだろうか。
大柄な妖魔から小柄な妖魔、雄妖もいるし、雌妖もいる。
人間に比べればちょっとだけ異形の部位があるだけの妖魔たちが着飾って集まっている。
部屋のところどころには料理と飲み物が並べられた卓があり、それが花に彩られて飾られている。
正面にはなにかの見世物を催すための演台のような場所まである。
この部屋に連れてこられたときは、目隠しをされて歩かされたので、どこに連れてこられたかまったくわかっていなかったが、どうやら朱姫は、ずっと晩餐会が開かれる会場に隣接する部屋に監禁されていたようだ。
驚いている朱姫の前に、すっと春嬌が現われた。
真っ赤な衣装を着て、髪をあげて整えていた。
胸と髪に大きな青い宝石の装飾具をつけている。
春嬌は、会場の真ん中で数名の客と談笑をしていたが、朱姫が会場に入ってくるのを見ると、すぐにこっちにやってきたのだ。
「来たわね、朱姫……。さっそく、働きなさい。酒を注ぐための樽が会場の隅に置いてあるわ。それを盆に載せて運び、酒のなくなった客の空の杯を片づける。それを晩餐会が終わるまで続ける。それがお前の仕事よ……。それと汚れた皿を新しい皿に交換するという仕事もあるわ。交換用の皿も酒樽のある位置にある。わかったわね───。じゃあ、行きなさい」
春嬌が朱姫に言った。
「で、でも……」
朱姫は戸惑った。
やるべきことはわかったが、まだ排尿をさせてもらっていない。
てっきり部屋を出て、厠に連れて行ってもらえると思っていたのだ。
部屋を出た場所がいきなり晩餐会の会場とは思いもよらなかった。
「始めなさい」
春嬌は冷たく言った。
ふと見るとさっきまで朱姫を囲んでいた雄妖も散ってしまっているし、麗芳までどこかに行ってしまっていた。
なにかの策略めいたものを感じる……。
しかし……。
朱姫は激しい尿意を抱えたまま、上半身に給女の衣装を着け、下半身は小さな布一枚という破廉恥な姿で、尻に淫具を挿入された状態で会場の真ん中で途方に暮れた。
「さっさと働くのよ、朱姫──。それとも、お前の仲間に折檻を与えて欲しいのかい」
春嬌が声を張りあげた。
それを言われれば、なにをされても耐えるしかない……。
しかし、この尿意だけは……。
「もちろん、勝手に厠に行くことなんて許さないわよ。わかっていると思うけどね……。奴隷が厠に行けるのは、仕事が終わってからよ」
春嬌がにやりと笑った。
それで朱姫は、春嬌がわざと朱姫に尿意を抱えたまま、給女をさせようとしているということを悟った。
朱姫はその陰湿さに歯噛みして、春嬌を睨んだ。
「そうだ、こうしようじゃないか。お前が小便を我慢している間は、仲間を見世物にするのはやめにしてやるよ。仲間が大事なら小便くらい耐えきってみせな、朱姫──。もしも、晩餐会が終わるまで、お前がなんの粗相もせず、しかも、尿も洩らさなければ、宝玄仙も沙那も孫空女も、なんの折檻も受けることなしに、この晩餐会が終われるということさ……。さあ、始めるんだよ」
春嬌が大きな声で笑った。
「そ、そんな……」
朱姫を襲っている尿意は限界だ……。
この晩餐会がどのくらい続くのか知らないが、もう四半刻(約十五分)も耐えられない。漏れそうなのだ。
「さあ、音楽だよ──。宴の始まりだ──」
春嬌が叫んだ。
なにかの道術で優雅な音楽が広間に鳴り響き始めた。
客の妖魔たちがどっと沸いた。
ついに、宴が始まったのだ──。
そして、春嬌はまた妖魔の客の中に埋もれていった。朱姫はもうなにを訴えても無駄だということを悟るしかなかった。
朱姫は、与えられた仕事を行うために、重い足取りで会場の隅の酒樽のある位置に向かった。
激しい尿意と泣きそうになるような肛門の刺激を感じながら……。