壁に両手をつき、腰を後ろに突き出すように立っていた。
下半身にはなにも身に着けていない。そういう状態で男の肌を背に感じた。
どうやら、また過去の自分の身体の中に入ったようだ。
そう現在の宝玄仙の意識は思った。
そして、背中にいる男との情事を愉しんでいる若い宝玄仙の意識も感じた。
指と入れ替わるように、ずぶりと背後から女陰に男根が押し込まれる。
逞しい怒張が宝玄仙の女陰の上側を抉り入ってくる。
「ほおおおっ」
衝撃に壁で支える腕に力を入れながら、もうひとりの宝玄仙が下肢の力を抜いた。
背後から宝玄仙の女陰にゆっくりとした律動が開始される。
硬直した熱い男根の力強さに、いまの宝玄仙の意識も自分の身体が一気に燃えあがるのを感覚を味わった。
いまの宝玄仙の意識と昔の宝玄仙の意識が一体化する。
現在の宝玄仙は、まだ若い時代の自分の身体を通じて、背後から自分の股間に怒張を貫かせている男の愛撫を受けている自分を感じていた。
性交しているのはかつての宝玄仙だが、いまの宝玄仙も同じ身体の中でそれを受け入れ、もうひとりの自分が感じている快感を同じように受けている。
宝玄仙の全身に淫情が駆け巡る。
自分が性交をしているのか、過去の宝玄仙がしているのかわからなくなる。
両方とも同じだ。
気持ちがいい……。
背後の男はただがむしゃらに宝玄仙の身体を突いてくるわけではない。
無造作に責めているようで、的確に宝玄仙の感じる部分を探して怒張の先で刺激を加えてくる。
「はあっ、はっ、はっ」
やってきた官能の波を一身に受け入れ、宝玄仙は湧きあがる快美感に身を任せた。
はだけている上衣が背後からくつろげられて両方の乳房が鷲掴みにされた。
すでに乳首は固くなっていた。
それを弄ばれ、宝玄仙の身体が信じられないくらいに燃えあがる。
それにしても、乳首に触れている男の指の感触が不自然だ。
なにかおかしな薬剤を塗っているのではないか……。
たちまちに込みあがってきた異様な感触に宝玄仙はおののいた。
そう言えば、さっきまで指を入れられていた女陰の感触もおかしい……。
無数の蟻が這い回っているような得体の知れない感触がどんどん大きくなっていく。
激しい律動を受けながらも、さらに快感が増幅して信じられないくらいに下腹部が熱い。
「た、堪らない──」
宝玄仙の口から悲鳴のような喘ぎが迸った。
女陰を擦りあげている怒張が宝玄仙の膣の上側を繰り返し強く擦る。
擦られた部分から噴きあがった快感がすでに全身に回り、全身の力が抜けてしまっている。
膝ががくりと落ちた。
この宝玄仙はどこかの屋敷の客間で立ったまま背後の男の怒張を受けていた。
脱いだ巫女服の袴が床に落ちている。
その横には腰の下着も無造作に放り投げられていて、その上に男の下袴が脱ぎ捨てられてもいた。
ここはどこで、いつの頃だろう……。
男の怒張を受けている若い宝玄仙の中にいる宝玄仙は、これがいつの時代であるかを考え続けていた。
この光景に微かに記憶がある───。
しかし、快感が大きすぎて考えをまとめられない。
部屋にいるのは宝玄仙と背後の男だけだが、かなり広い屋敷の客間のようだ。
部屋にある調度品から考えて、非常に裕福な貴族の屋敷のように感じる。
帝都──?
これだけの調度品や美術品が揃えられるような貴族の屋敷といえば、東方帝国の帝都だと思うが……。
そして、自分は誰に抱かれているのだろう……?
「天教で最高の道術力を持つ巫女様の高級の性器となれば締りが違うわね。喰いつかれそうよ。ああ、気持ちいい……」
後ろの男が女のような喋り方で奇声をあげた。
それで、ここがどこで、いつの時代がすぐにわかった。
若い宝玄仙に入り込んでいるいまの宝玄仙の熱が一気に冷める。
宝玄仙の天敵とも思えるようになってきたひとりの男の名が頭に浮かぶ。
ここは御影の屋敷だ。
思い出した───。
これは、あの御影と最初に抱き合った夜だ。
宝玄仙は天教の神官として二度、帝都で過ごしたことがある。
仙士の時代と八仙の時代だ。
宝玄仙は、故郷に近い神殿で神官長を五年務めた後、帝都の天教本部で五年間働いた。
教団本部の霊具の研究をする部署で働いたのだ。
その後、再び地方の神殿長を務めた後、八仙に選ばれて再び帝都に戻ったのだが、御影と関わりを持ったのは、仙士だった頃の帝都時代だ。
御影と関係したのは最初の五年間の帝都時代──。
宝玄仙が三十歳のときだ。
間違いない。
なにげなく関係を持った。
それがその後、しつこく迫られて付きまとわれる発端になるとは思いもしなかった。
当時の宝玄仙は、かなり無節操な男遍歴をしていたが、御影はその当時に抱いた男のひとりだ。
御影を受け入れた理由はなにか大きなものがあったわけでもない。
口説かれたからだ──。
帝都で一番の美貌とも湛えられた容姿を持つ宝玄仙は、性の相手というものに不自由することはなかった。
生まれつき淫靡な体質であり身体が男に抱かれることを求めたから、宝玄仙は口説かれれば、特に大きな理由がない限り、男を受け入れていたと思う。
行きずりの男──。
当時の御影について、当時の宝玄仙はそれだけの価値しか考えておらず、二度抱かれる気などなかったはずだ。
それが繰り返し関係を持つ仲にされ、事もあろうに、御影は宝玄仙を自分の性奴隷のような愛人として扱おうとした。
それで罠にかけて、御影を文字通り葬り去ってやったのだ。
ただ、それはいま行われている最初の性交から一箇月後のことだ。
このときの宝玄仙は、ただただ性交の上手な御影の性技を堪能していただけだったと思う。
大きな快感が宝玄仙を襲っている。
若い宝玄仙は、その快感に溺れている。貫かれている場所から凄まじい快感が連続して脳髄を刺激しているのがわかる。
脳天を直撃するほどの快感を男から与えられたのは、考えてみれば御影が最初だったかもしれない。
「いくうぅぅぅぅ──」
宝玄仙の身体が仰け反った。
腰を激しく振りながら若い宝玄仙は本能のまま、襲ってきた衝撃を解放した。
真っ白いものが頭を襲った。
全身が震えるのがわかった。
がっくりと力の抜けた身体を御影が背後から支える。
「まだまだよ、宝玄ちゃん。もっと、気持ちよくしてあげるからね」
昇天した身体に畳みかけるように、律動と愛撫が加わってくる。
ひとつの手が乳房から肉芽に伸びた。
肉芽を弄ばれながら女陰を突かれ、さらに片方の乳首を刺激される。
続けざまに次の波が襲ってきて、宝玄仙が大きな痙攣をして果てた。
「も、もういい、御影──。ちょ、ちょっと休憩……」
若い宝玄仙が悲鳴をあげている。手を壁につけて身体を支えるのが必死なのだ。
全身が砕けるような官能の波に呑まれてしまって力が入らない。
「だったら床に寝てもいいのよ、宝玄ちゃん……。あなたは休んでいなさい──。その間、あたしはあんたの身体を愉しんでいるわ」
「そ、そんな……」
当時の宝玄仙が抗議しているが、そのまま床に寝かされた。
ふたりきりの御影の屋敷の客間の床に半裸の宝玄仙は仰向けにされ、その上から御影の身体がのしかかる。
両膝を腕に抱えられ、胸に膝をつけるように倒されて股間に怒張を受ける。
御影は挿入した怒張を荒々しく動かしたりはしない。
貫いたままゆっくりと宝玄仙の恥丘そのものを揉むように擦りつけるのだ。
その御影の技に当時の宝玄仙は、何度も何度も昇天させられたのを思い出す。
いまもそうだ。
達したばかりの宝玄仙の身体に、また大きなものがやってこようとしている。
その大きなものが宝玄仙の全身を包み込み、すべてを圧倒する。
「ああっ、き、気持ちいい、気持ちよすぎる、ああっああああぁぁ──」
宝玄仙が悲鳴をあげた。
「何度でもいっていいのよ、宝玄ちゃん。女の身体はいくらでも昇天できるようにできているんでしょう。明日の朝まで続けてあげるわね」
笑いを含んだ御影の愉しそうな声が、宝玄仙の大きな喘ぎ声に重なる。
御影は冷静だ。じっくりと宝玄仙を値踏みするように、あのゆっくりとした腰の動きを続けている……。
「また、いぐうっ」
宝玄仙の全身ががくがくと震えて、なにかが股間から迸った。
「朝までは長いわ、宝玄ちゃん──。もっと、愉しみましょうね」
御影の女言葉が耳に入ってくる。
これでこの気持ちの悪い喋り方さえなければ、もう一度くらい抱かれてもいいんだけど……。
最高の絶頂を味わいながら、宝玄仙は、もうひとりの宝玄仙がそんなことを考えているのを感じていた。
*
「な、なによ、これは──?」
若い宝玄仙が叫んでいる。
翌朝だ──。
そういえば、そうだった……。
若い宝玄仙の驚愕が、その中にいる宝玄仙にも伝わってくる。
行きずりの一夜のつもりで、当時の宝玄仙は御影の屋敷で、その御影に抱かれた。
当時の御影は仙士として、天教本部で働く最高幹部のひとりであり、宝玄仙の同僚だった。
御影と夜通し愛し合い、そのまま倒れるように性行為をした客間に寝た。
そして、翌朝、目を覚ましたら当時の宝玄仙に淫靡な仕掛けが施されていたのだ。
「こ、これはなんのつもりだい、御影──?」
宝玄仙は柔らかい敷布のある長椅子に腰の下着一枚だけで横たわっていたが、その下着が問題だった。
布ではなく動物の革を使った生地の下着だ。
それは宝玄仙のものではなく、御影のものであり、宝玄仙が寝ている間に装着させたらしいが、股間に違和感がある。
宝玄仙の股間に大きな張形が挿入されていた。
つまり、その革の下着の内側には張形が付いていて、それが宝玄仙の女陰を貫いているのだ。
しかも、下着の縁には金属の線のようなものがある。
それがきっちりと嵌っているので、下着の裾から指を挿し込められないようになっているのだ。
そして、その下着がなにかの道術がかかっていて道術なしで脱げないようになっているのは明らかだった。
「もちろん、あたしからの贈り物よ。今日一日、それを履いていてね。絶対に脱いだら駄目よ。あんた、今日も天教本部で仕事でしょう。あたしもそうだから、一緒に行きましょうよ。夜になったらまたここに戻ってきましょうね。そうしたら、外してあげるわね」
御影が笑った。
冗談じゃない──。
若い宝玄仙がかっと怒りに襲われている。いまの宝玄仙はそれを若い宝玄仙の身体の中で感じている。
「じょ、冗談じゃないよ。わ、わたしを馬鹿にすんじゃないよ。これは霊具だね──。鍵がかかっているようだけど、わたしの道術で簡単に外せるんだよ」
若い宝玄仙の身体の霊気が活性しようとしている。
道術で外すつもりなのだ。
だが、いまの宝玄仙は、御影の次のひと言でそれができなくなったのを覚えている。
それで一箇月のふざけた関係になってしまったのだ……。
「それはそうなんでしょうねえ。口惜しいけど、あんたの道術はあたしよりも上のようだしね。でも、その下着だけは外さない方がいいわね。その下着を道術で強引に壊してしまったら、ある告発状が天教本部に自動的に届くようにしているわ。妖魔に関することよ。あんたあたしの任務が、妖魔に対する
御影が意味ありげに言った。
若い宝玄仙の霊気が止まる。その心に戸惑いが拡がるのがわかる。
査閲卿というのは、天教の寺院が拡がる地域一帯に展開している査閲官と呼ばれる教会法の取り締まりを実施する者を総括する役職だ。
いわば、帝国政府の行政府が各地方で行っている治安維持のための活動と同じようなことを天教教団がやるのだ。
もちろん、それは天教の教えに関する事項のみなのだが、実際には地方によっては、行政府の警邏隊よりも余程に権威がある場合が多い。
御影はその総括をしているのだ。査閲官の主要な任務に妖魔狩りというものがある。
天教は妖魔という人間に近い存在の生き物を認めていない。
人間の敵として、見つけ次第駆逐すべきと教団法で定めている。
教団の出先機関として各地方で妖魔狩りをするのも全土に散らばる査閲官の任務のひとつだ。
もっとも、査閲官の力は、それぞれの地方によって濃淡がある。
宝玄仙の故郷は、地方神殿の権威はあったが、教団本部から直接送られている査閲官はいなかった。
「その顔、なにか身に覚えがあるのかしら? 妖魔を匿うような異端者に知り合いが?」
御影が宝玄仙の顔を覗きこむようにして言った。
妖魔を匿うといえば、あの母親だ。
匿うどころか、好き勝手に妖魔を屋敷に連れ込んで性行為に及んだりしている。
妖魔といっても、人間と種が違うというだけで見た目は人間とほとんど変わらないものが多い。
妖魔だと触れ歩かない限り、妖魔が社会に交わっていてもわからないことが多い。
母親の屋敷には、そういう妖魔が日常的に出入りをしている。
昔はそうであり、それはいまも変わらないはずだ。
だが、縁は切れている。
宝玄仙は注意深く、あの母親との関係を絶った。宝玄仙と結びつくようなものはすべてを消滅させた。
あの母親から宝玄仙と蘭玉の記憶を消滅させることさえしたのだ。
宝玄仙とあの母親との関係を察することができるわけがない……。
「ある地方の貴族の娘なんだけど、周囲に妖魔の気配が強いのよね。まあ、貴族の娘といっても、それなりの年齢なんだけどね……。ただ、見た目は二十そこそこの娘にしか見えないそうよ。その地方ではよく知られた名士でね……」
御影は宝玄仙の生まれ故郷の土地の名を口にした。
当時の宝玄仙の背に冷たい汗が流れたのがわかった。
御影がなにかを知って、それを宝玄仙の脅迫の材料としているということがわかったからだ。
「そ、そいつがなんなのよ……。わたしには関わりのないことじゃないの」
若い宝玄仙が白を切った。
平然と言葉を放ったつもりのようだが、いまの宝玄仙には、その口調に大きな動揺があるのがわかった。
そして、眼の前の御影も、それがわかったようだ。
その笑みが満面のものになる。
「……やっぱり。いまので確信が持てたわね。よかった……。あんたが教団に届けてある書類には、さっき言及した土地の関わりはないようだけど、あたしはあんたの本当の故郷がその土地じゃないかと思っているのよね」
「か、関係ないよ」
宝玄仙が声をあげた。
このときの宝玄仙は、まだ自分の工作にすがっている。
あれだけ注意深く、故郷との関係を絶ったのだ。眼の前の一介の査閲卿などに見破られるわけがないと……。
「関係ないなら、それでいいわ──。その下着を道術で外したらいいじゃない。そうすれば、告発状がしかるべき部署に届けられ、教団法に従って異端者として、その地方に住む女に追捕がかかる。それだけのことよ。あんたとは関係のない女なんでしょう?」
御影の顔に浮かぶ笑みが酷薄なものに変わる。
宝玄仙がいるもうひとりの若い宝玄仙も悟るしかなかった。
この御影はなにかによって知ったのだ。
あの母親と宝玄仙との関わりを……。
「お、お前……」
当時の宝玄仙が御影を睨んだ。
自分が眼の前の男に脅迫をされており、それに逆らうことができないということがわかった。
「……安心してよ、宝玄ちゃん。これを知っているのはあたしだけよ。あたしさえ黙っていれば、なんにも起きないわ。実際のところ、妖魔を匿う人間なんて珍しくもないのよ。いちいち、真面目に取り締まっていたら全土の査閲官が何万人いても足りないわ。妖魔は道術を遣うから危険でもあるしね。余程のことがなければ、あたしは情報だけを集めて、それで握りつぶしてしまうの……」
「だ、だったら……は、話し合いを……」
宝玄仙はすばやく頭を巡らせた。
御影の物言いは、私腹を肥やす役人が、賄賂を要求するときの物言いそのものだ。
こいつがなんらかの要求を求めているのは明らかだ。
だったら……。
「だけど、大事なものだけは別よ。それはちゃんと本部に報告するわ。天教として絶対に見過ごせないものだけはね……。そういうものはちゃんと潰さないといけないし、必要なら、それに関わる人間を断罪して教団の裁判にもかけないといけないわ。それがあたしの仕事なのよ……」
御影がくすくすと笑った。
虫酸が走るような耳障りな笑いだった。
「な、なにをすればいいのよ……?」
若い宝玄仙が呟くように言った。
それが御影の軍門に下ることを認めた瞬間だった。
当時の宝玄仙の恐怖と悔しさが、いまの宝玄仙にも伝わってくる。
「さっきも言ったわ。それを外さないことよ……そうだ。これも追加しようと──。手を出して、宝玄ちゃん」
御影が言った。
当時の宝玄仙が大人しく両方の手を御影に差し出した。
すると御影がそばにあった小瓶から粘り気のある塗り剤をさじで取り出して、宝玄仙の両方の指の上にたっぷりと載せた。
「それを全部、乳首に塗り込むのよ、宝玄ちゃん」
「な、なんの薬だい、御影?」
「あんたの股間に喰い込んでいるものに塗ったのと同じものよ。股間の方はそろそろ効いてきたでしょう?」
御影が言った。
若い宝玄仙の身体にいる宝玄仙にも、股間の違和感が伝わってきた。
股間が怖ろしく熱いのだが、おかしな痒みまで感じてきていた。
これが強烈な媚薬であることは間違いなかった。
「それを乳首に塗り込んだら、腰の下着と同じような胸当てをしてあげるわよ、宝玄ちゃん。金属の糸が縁取りしてあるから、脱がないと触れないけど、宝玄ちゃんはあたしの命令がなければ脱がないものね」
「くっ」
当時の宝玄仙が歯噛みした。
「塗りなさい」
御影の顔が勝ち誇っている。
宝玄仙の指がたっぷりと載った塗り剤を自分の乳首に塗り始めた
はらわたが煮え繰り返る思いをしながら……。
*
御影と並んで馬車の後部座席に座ったときから、強烈なむず痒さを股間と乳首から感じていた。
あの薬剤の影響に違いなかった。
しかし、宝玄仙にはどうしようもない。当時の宝玄仙の恥辱と苦痛が、いまの宝玄仙にも伝わってくる。
宝玄仙──正確には、当時はまだ宝玄仙士だったが──は、外側こそ教団の高級神官としての巫女服に身を包んでいたが、その下には御影に装着された革の下着と胸当てだけだった。
そのいずれも金属の糸の縁取りがあり、指を差し入れて痒い部分を掻くことができないようになっている。
道術で外すことは簡単だが、それは脅迫により封じられていた。
この御影がなんらかの方法で宝玄仙の母親のことを知ったのは間違いない。
そして、本部に告発する代わりに、それを使って当時の宝玄仙を脅していたぶることを決めたのだ。
宝玄仙が逆らえば、御影は本当に地方の査閲官に母親を告発させるだろう。
そうしない理由は御影にはない。
宝玄仙の急所となるものをこの御影が握っている。
なんとかしてそれを奪わなければならないが、それが果たされるまでは、こうやって御影のいいなりになるしかない……。
しかし、股間を貫く張形の違和感が大きい。
しかも、強烈な痒みが当時の宝玄仙に襲いかかってくる。
「みっともなく、がに股になるんじゃないわよ、宝玄ちゃん。あんたが妙なものを下の口に咥えていることがばれるわよ」
固く握り拳を作って載せている宝玄仙の膝を隣に座る御影が無造作に揺すった。
「はうっ」
股間に喰い込んでいる張形から衝撃を受けて、宝玄仙が思わず声をあげた。
同じ衝撃をいまの宝玄仙も感じた。
ただでさえ、馬車の揺れは張形を通じて宝玄仙に大きな快感を与え続けている。
それで朦朧としていたところに、強い刺激を与えられてしまって思わず大きな声をあげてしまったのだ。
前に座る御者がちらりと振り向いた。
これは御影の馬車であり、御者も御影の部下だ。
その部下にあられのない宝玄仙の声を聞かれてしまったことに、当時の宝玄仙が大きな羞恥を感じている。
揺すられても大丈夫なように膝を閉じる──。
しかし、それによって却って宝玄仙の女陰で張形を粘膜で締めあげるようなかたちになってしまい、それが馬車の揺れと相まって数瞬ごとに快美感が全身を駆け抜ける。
「み、御影、いい加減に……」
当時の宝玄仙に沸騰するような怒りが込みあがったのがわかった。
「こんなこともできるのよ」
そのとき御影が意味ありげに微笑んだ。
御影の霊気が動いて、股間の霊具に伝わったのがわかった。
「あはあぁぁ」
当時の宝玄仙が思わず大声をあげて、がくりとその身体を前のめりに倒した。
突然、股間に挿入されている張形が激しく振動を始めたのだ。
脳天まで抜き抜ける衝撃に、慌てて手で手摺を掴んで身体が倒れるのを防いだ。
「気に入った?」
御影が横で笑っている。
すでに張形の振動はなくなっている。
宝玄仙が御影を睨むとともに、御者台で馬車を操る御影の部下に視線をやった。
なにも喋らないが、宝玄仙の嬌声を聞かれたことだけは確かだ。
御者の緊張が宝玄仙にも伝わってきた。
これ以上我慢できないと、若い宝玄仙が心で叫んでいる。
宝玄仙が悪態をつこうと御影に強い視線を送った。
「くうううっ」
また張形を動かされる。膝が震え、眼が霞む。
これまでに体験したことがないような快感の戦慄だ。
ずっとまとわりついていた股間の猛烈な痒みが一瞬で飛ぶ。
それが大きな愉悦となって宝玄仙の全身に沁みとおっていく。
「あ、あはうっ」
耐えられずに声をあげてしまった。
すると張形の振動がとまった。
馬車も停まっていた。
顔をあげると教団本部の入口に到着している。
「さあ、着いたわよ、宝玄ちゃん──。言いつけは覚えているわね? 下着を脱いでは駄目よ。あんたがいい子でいる限り、例の告発状はあたしが封印しておくわ」
御影がそう言って馬車を先に降り、宝玄仙の手を取り待ち受けるような態勢になった。
教団本部の前庭だ。
行き交う者は多いが、当時の宝玄仙は恋多き女として知られていた。
男と一緒に出所するなど珍しい光景ではないので、宝玄仙と御影に眼を留める者はいなかった。
宝玄仙は手を伸ばして、できるだけ自然に見えるように振る舞って馬車を降りた。
「痒みに我慢できなくなったら、あたしの執務室に来るといいわ。あんたの部署は霊具の研究室だったわよねえ。適当な理由をつけて、査閲卿の執務室で打ち合わせをすると言ってきなさい。そうしたら、遊んであげるわ」
若い宝玄仙は返事をせずに御影から離れた。
膝から腰にかけての痺れが激しかった。
歩くとどうしようもない焦燥が宝玄仙の身体に襲いかかってきる。
一度刺激されたことで、張形を動かさる前よりもずっと大きな痒みを股間と乳首から感じていた。
宝玄仙はやっとの思いで、教団本部内の自分の執務室に辿り着いた。
御影のところなど行くつもりはない。
しかし、刺激を求め狂う自分の股間から淫液が滲み出て、それが内腿のびっしょりと濡らしているのをふたりの宝玄仙は感じていた。
股間と胸の痒みが耐えられないものになってきた……。
いまの宝玄仙も、過去の若い宝玄仙の身体の中で、その意識とともに凄まじいその痒みと戦い続けた。
過去の宝玄仙の記憶の中の宝玄仙は、この後自分がどうしたかよく覚えていた。
結局、一刻(約一時間)が限界だった。
この後、当時の宝玄仙は、御影の執務室に行ったのだ。
そこでも、陰湿にいたぶられた。
それが一箇月続いた。
もっとも、本当に脅迫に屈していたのは半月だけだ。御影がどんな処置をしようとも母親に害が及ぶことがないように手を回すのにそれだけかかったのだ。
残りの半月は、逆に御影を罠に嵌めるための時間だ。
この一箇月と少し後、御影は、皇帝家への不敬罪により捕らえられて帝都の広場で首を斬られて処刑された。
ふと、気がつくと痒みの苦しみが遠くなっていることに宝玄仙は気がついた。
また、闇に包まれた。
*
本エピソードは、すでに投稿している第47話『【前日談】女巫女羞恥調教』に続きます。