おぞましい感触が尻から全身に拡がっていて、宝玄仙は思わず身震いした。
全裸だ。
しかも、全身に夥しい汗をかいている気配がある。
なによりも、この脱力感と気だるさは、かなりの数の絶頂をさせられたときのものに違いないと思った。
どうやら、また性行為の最中の自分に憑依したようだ。
しかも、普通の性行為ではない。
手足を拘束されているということは、自分は嗜虐を受けているということだ。
周りの雰囲気からは、性愛の最中というよりは、もっと屈辱的なものを感じた。
数名の人間が宝玄仙を囲んでいるようでもある。
そして、宝玄仙は自分が床に倒れているということを悟った。
両腕は後手に腰の後ろで腕を重ねるように、金属の枷のようなもので拘束されている。
首にも違和感があった。
首輪……?
いずれにしても、今度はいつの自分の記憶だろうか……?
本来のこの身体の宝玄仙が酔いのような激しい官能に襲われ、そして、恥辱と怒りで興奮状態であることがわかった。
すぐに、現在の宝玄仙の意識が以前の宝玄仙の心に同調していった。
この宝玄仙の屈辱がいまの宝玄仙の屈辱となり、この宝玄仙の激昂がいまの宝玄仙の激昂になる。
ふたつの心が完全に混ざり合っていくのを感じた……。
「立たんか、雌犬」
はっとした。
忘れることのできない闘勝仙の声だ。
この男に二年間に恥辱的な目に遭わされ続けた。
八仙としての誇りも、人間としての尊厳もすべてずたずたにされた。
宝玄仙の道術を封じて、教団としての活動だけではなく、宝玄仙の生活のすべてに自分の手の者を送り込んでいたぶり続けた。
闘勝仙は、宝玄仙を嗜虐していることを半ば公然と晒し、そのために、宝玄仙は史上もっとも惨めな女八仙として、帝都で知らぬ者のない恥ずべき存在にされたのだ。
自殺することさえ魔術で禁止された。
あの声だ……。
闘勝仙のあの声には、どんなことでも絶対服従―――。
それをあの手この手で強要され、二年の時間でそれは宝玄仙の脳裏にこびりついてしまった。
その闘勝仙に復讐を果たして、もう三年以上経っている。
しかし、いま、久しぶりに闘勝仙の声に接し、現在の宝玄仙は、いまだそれに怖れと緊張を感じている自分を感じた。
「聞こえんのか、雌犬。よがり狂って気を失いよって……。
「お任せください。ほら、厳しくいくぞ。宝玄仙、いや、雌犬、立て──」
呂洞仙というのは、闘勝仙とともに、宝玄仙を二年ものあいだ、嗜虐し続けた闘勝仙腰巾着だ。
一応、宝玄仙と同じ八仙のひとりであるのだが、もうひとりの
その呂洞仙が革靴の先で、宝玄仙の脇腹を蹴りあげた。
「うぐうっ」
宝玄仙は激痛に呻いた。
「立て──」
思考が追いつかず、床にうつ伏せのまま、身体を曲げて痛みに耐える。
そこに、道術による電撃が襲いかかる。
「はぎゃあああ」
宝玄仙は絶叫した。
それを繰り返された。
とにかく、立ちあがろうと宝玄仙は身体を起こす。
そこに、呂洞仙が持っていた乗馬鞭が飛ぶ。
「もたもたするな──」
「うあっ」
尻たぶを叩かれて、宝玄仙は悲鳴をあげるとともに、膝を崩しかける。
そこに、またもや鞭が飛ぶ。
「や、やめておくれ──。立つ。立っているじゃないか」
宝玄仙は叫んだ。
だが、身体が異常に怠い。
おそらく、すでに体力も気力も消耗しきった状態なのだろう。果てしない連続絶頂を味わわされた状況なのだと思う。
しかし、それだけじゃなかった。
両脚の太腿に金属の輪が嵌まっていて、それがとてつもなく重い。さらに、首から胸にかけて、球体の金属の重りがぶらさげられている。
体力を消耗しているいまの宝玄仙には、あまりもの仕打ちだ。
また、全裸の股間には革の貞操帯が嵌まっていた。局部と尻穴に違和感があり、両方に張形が埋まっているみたいだ。
しかし、言われたことに従わないと、暴力を振るわれる。
宝玄仙は、歯が砕けると思うほどに奥歯を強く喰いしばり、どうにか身体を真っ直ぐにした。
だが、脚と首に装着された重りで身体がよろける。
「背筋を伸ばせ、雌犬──」
今度は背中を乗馬鞭が打ち据えた。
「あぐうっ、や、やめないか──」
「今日は、しっかりと躾けてやろう。お前は俺たちの雌犬だ──。それを骨の髄まで染み込ませてやる。まずは、雌犬宣言だ。自分は雌犬だと口にしろ。大声でな」
呂洞仙が無防備な宝玄仙の腹を打ち据えた。
宝玄仙は込みあがった怒りとともに、呂洞仙を睨み返した。
だが、それで過去の宝玄仙の中にいる、いまの宝玄仙の記憶が蘇った。
これは、まだ闘勝仙たちの性奴隷にされて、日が間もない頃だと思う。まだ、宝玄仙は屈服仕切っておらず、もうひとりの人格である宝玉も出現していなかった。
おそらく、闘勝仙の罠にかかって、一箇月くらい……?
ここは、闘勝仙の屋敷だろうか……?
多分、呼び出されたのだろう。
宝玄仙は呂洞仙を睨み続けるととにおに、周囲を観察した。
部屋にいるのは、闘勝仙と呂洞仙だけのようであり、漢離仙はいない。
そして、ここはそれなりに広い部屋のなのだが、部屋中に大小の調教具があり、そういう目的の部屋ということもわかった。
宝玄仙と呂洞仙は部屋の中央だが、闘勝仙は壁際に座っていて、卓に載せた食事と酒を口にしている。
つまりは、呂洞仙に宝玄仙を責めさせて、食事をしているのだ。
このことだけでも、腹が煮えかえる。
「返事をせんか──」
「あぐうっ」
前から肩を乗馬鞭で打ち据えられる。
嫌というほどの衝撃で首の重りに引っ張られ、しゃがみ込みそうになる。
「立て──。座るな──。立てっ──」
鞭を何発か背中に当てられた。
宝玄仙は頬をしかめて、足を踏ん張った。
同時に、激怒の感情が吹きあがる。
宝玄仙は、このときの自分は、まだ闘勝仙たちに、これほどの怒りを抱くことができたのだと思った。
だが、それも長く続かない。
こういう生活を数箇月も続けると、いつしか、屈辱を屈辱を感じなくなり、奴隷のように従うのが当たり前になってくる。
諦めの感情に心が支配されていく。
心の底から奴隷になっていくのだ。
宝玄仙が闘勝仙たちへの復讐心を蘇らせたのは、「宝玉」というもうひとつの人格が現われてからであり、まだ、この時期から一年近くはかかると思う。
このときの宝玄仙は、まだそこにも至らず、こいつらの支配を受け入れて間もない時期であり、完全に屈服させられてる前の段階だと思う。
「……くっ……」
足が震える……。
全身が痛い……。
すでに、宝玄仙の身体は限界を迎えかけていた。
「返事──」
また脇腹を叩かれた。
容赦のない鞭打ちだ。
どうせ、最後には治療術で傷など消滅することができる。
だから、嗜虐のときの打擲には、まったく加減などない。
「返事だ」
乳房を横から払われる。
「いぎゃああ──」
さすがにがくりと膝を折った。
すると、下から突きあげるような衝撃が下腹部に走った。今度は道術による打擲だと思うが、その一発だけで吐気が込みあがる。
「雌犬──。いや、家畜だ。家畜らしく、豚の声で鳴け、宝玄仙」
呂洞仙が大笑いしながら、宙を指で掴みあげる動作をした。
すると、見えない力で髪が掴まれて、膝立ちの身体が勝手に持ちあがる。
いや、髪の毛を道術で引っ張られて、強引に立たされているのだ。
頭の皮が剥がれるような痛みが走る。
「あたたたた──。な、なにすんだい、ばかたれ──」
さすがに激怒して怒鳴った。
すると、火のような平手で頬を張られた。
「ふぐうっ」
再び平手で打たれて、さらに、首の重りを引っ張られる。
だが、髪を魔道で引きあげられているので、座り込むことはできない。髪を引っ張られる痛みで不覚にも涙がこぼれた。
「ほらほら、真っ直ぐにせんか──」
四発目──。
五発目──。
平手打ちが続き、気が遠くなりそうになる。
さすがに、限界になる。
「わ、わかった──。な、なるよ──。家畜でも、牝犬にでも──」
宝玄仙は声を絞り出した。
やむを得ない。
抵抗しても、この理不尽な暴力が延々と続くだけだ。
そもそも、どうせ逆らえない。
宝玄仙の身体には、闘勝仙のたちの呪術により、十日に一度、三人の精液や小尿を苦にしなければ、いき狂いの発作が起きるようになっている。
一度味わわされた宝玄仙は、一日中続いたあの発作の苦しみが心に染みついている。
「よし、家畜になるんだな?」
「あ、ああ……」
宝玄仙は渋々言った。
「はいと言わんか──」
またもや、拳が腹を突きあげた。
「ぐああっ、は、はい……」
突きあがる憤怒を宝玄仙が押し殺す。
「だったら、豚の挨拶だ。一応は八仙だからな。人間の言葉を許してやろう。その代わり、わたしは雌犬です。家畜の雌犬にしてくれと口にしろ。最後には豚の鳴き声もつけろ」
髪を上に引っ張る力が消滅して、髪が落ちる。
途端に砕け落ちそうな身体を宝玄仙は耐えた。
「……わ、わたしを……か、家畜の牝犬に……して……ください……、ぶうっ」
感情を消して、どうにか言い終えた。
「本当だな?」
耳元で怒鳴られた。
「は、はい」
宝玄仙は仕方なく頷く。
すると、ずっと黙っていた闘勝仙が口を開くのがわかった。
「だったら、なぜ、二本の脚で立つ。生意気であろう」
闘勝仙が目の前の卓から肉の薄物を手に取り、宝玄仙の前に放り投げた。肉が床に当たり、ぴしゃりという音が鳴る。
「呂洞仙、腕の拘束を解いてやれ。いや、前足の拘束だな……。そして、宝玄仙、それを喰え。犬のように口でな」
闘勝仙が大笑いする。
過去の宝玄仙と同化している今の宝玄仙に怒り感情が爆発する。
だが、懸命にそれを我慢した。
すると、呂洞仙が腕の枷を外して、腕を自由にされた。
「くっ……」
宝玄仙は四つん這いになるために、身体を屈めた。
逆らうことは無意味なのだ。
すると、凄まじい勢いで、両脛を蹴飛ばされた。
「ひぐっ」
体勢を崩して、宝玄仙はその場にひっくり返った。
しかも、首に重りをつけているので、どすんと首を床に落とす恰好になる。呂洞仙の足元に平伏する姿勢だ。
「まずは、土下座をして闘勝仙様に礼を言わんか──。それと、お前はなんだ? それを口にしろ──」
呂洞仙が革靴の底を宝玄仙の後頭部に思い切り乗せてきた。
がつんと床に額を打ちつけられて、一瞬意識が飛びそうになる。
「聞こえんのか、牝犬──」
ぐりぐりと頭を踏みにじられる。
それで、やっと意識が戻る。
宝玄仙が両手を添えて、顔を床に伏せたまま、観念して声を絞り出した。
「か、感謝いたします……。わ、わたしはか、家畜の牝犬です……」
「誰のだ──?」
一段と頭に乗せた脚に力を加えられる。
「と、闘勝仙と……呂洞仙たちの……」
「様だろ──」
「闘勝仙様たちの、です」
すると、頭から足がどけられた。
「顔をあげろ。食事の前に躾をする」
宝玄仙がゆっくりと顔をあげる。
首の重りの負荷に耐えて、なんとか顔をあげた。
「あぐっ」
いきなりだった。
股間と尻穴に挿入されていた張形が激しく振動を開始した。呂洞仙が道術の霊気を注いだに違いない。
そして、火の出るような平手の連打が宝玄仙の頬に襲いかかった。
「ひんっ、んぶうっ、あぶうっ」
宝玄仙は悲鳴をあげ続けた。
一方で股間の淫具の振動は、どんどんと宝玄仙の身体に快感を送り込む。
打擲の苦痛と淫具の快感──。
頭がおかしくなりそうだ。
「口惜しいか、宝玄仙──。八仙のお前がこんな仕打ちを受けるのが──」
「うう……」
宝玄仙は歯を喰いしばった。
「答えんか──」
さらに左右の頬を呂洞仙が平手で打つ。
男の力による容赦のない打擲に、宝玄仙が気が遠くなりかける。
「く、口惜しいよ……」
宝玄仙は荒い息とともに言った。
口に血の味がする。
それを唾液とともに呑み込む。
「“はい”と言わんか──」
連打が頬を襲う。
「はい──」
平手が襲う。
微塵の容赦もない暴力だ。
「お前は家畜だ──。家畜はこうやって、打たれるのが好きだ──。そうだな──」
やっとびんたがやみ、呂洞仙が耳元で怒鳴った。
一方で、股間の淫具の振動は続いている。そっちは気持ちがいい。宝玄仙は何も考えられなくなる。
「そ、そんなことが……あるものかい……」
やっとのこと言った。
もはや、なにを訊ねられているのかも思考できない。
「じゃあ、好きになるまで叩いてやろう。家畜は頭で覚えることはできん。身体に躾けるだけだ。気絶できると思うな──。それは道術で阻止している」
大きく振りかぶって、宝玄仙の頬が叩かれた。
五発……。
十発……。
二十発──。
連続する衝撃で頭がぐらぐらする。
吐き気がこみあがる。
しばらくして、やっと平手の連打が中断した。
「どうだ? 打たれるのが好きになったか? それとも、まだ足りんか?」
「うう……」
「答えろ、宝玄仙──」
また連続で平手を打たれる。
宝玄仙は完全に朦朧としてきた。
「は、はい、りょ、呂洞仙……様……」
平手がやんだ瞬間に、諦めて宝玄仙は口にした。
こいつは、本当に宝玄仙が屈服するまで、これを続けるに違いなかった。
それに、さっき呂洞仙が口にしたのは本当のことのようだ。
これだけ顔を叩かれても、なぜか意識だけは失わない。朦朧としているのに、気絶はできない感じだ。
それよりも、股間の振動が宝玄仙を追い詰める。
快感が考えることを邪魔をする。
屈辱に気が遠くなる。
「あああっ」
宝玄仙が身体を弓なりにして吠えた。
快感が込みあがり、絶頂してしまったのだ。
「誰の許しを得て達した──。この馬鹿犬が──」
髪を鷲掴みされて、両頬を連打された。
突きあげてくるものが爆発しそうだった、
もう無理だ。
宝玄仙は口を開く。
「わ、わたしは……う、打たれるのが……好きな……家畜……、牝犬……」
「そうかい、だったら、もっと打ってやるぞ」
宝玄仙は息を呑んだ。
頬が鳴る。
悲鳴が口から迸った。
「ありがとうございますは──」
また頬が鳴る。
「あ、ありがとう、ござっ、いますっ」
やっと言った。
すると、平手がとまる。
「よろしくお願いしますもつけろ」
「よろしくお願いします──」
「ちゃんと頭を床につけんか──」
足で頭を踏まれる。
重りをつけている頭に強い衝撃が加わる。
「んぐっ──。あ、ありがとうございます──。よろしくお願いします──」
ひたすら繰り返した。
すると、これまでの屈辱や苦痛とは異なる、別のなにかが襲ってきたきがした。
宝玄仙は恐怖を感じた。
心の崩壊への不安だ。
それで、ふと思ったが、いつの間にか淫具の振動がなくなっている。だが、宝玄仙は、まだそれが続いているような激しい身体の疼きを感じていた。
「何発打つんだ、家畜?」
「す、好きなだけ……」
「いい度胸だな。じゃあ、二十発だな」
「わ、わかった……。いや、わかりました……」
「それとも、倍にするか?」
「いえ、二十発で……」
「生意気を言うな──。三十発と言われたら、感謝せんかせんか──。それが家畜だ──」
途端に両頬に打撃が加わる。
「ううっ」
「言わんか──」
「さ、三十発……よろしく……お願いします。」
すべての感情を殺して告げた。
「そうか、打たれるのが嬉しんだな?」
呂洞仙が宝玄仙の顔をあげさせて、にやりと笑った。
「あ、ああ……。いや、は、はい……そうです」
「だったら、五十発だ。いいな」
「なっ」
「礼はどうした──?」
また平手──。
耳鳴りと頭痛で身体が倒れそうになる。
四つん這いの身体を懸命に支える。
「あ、ありがとうございます……。よろしくお願いします……」
宝玄仙の言葉が終わるとともに、呂洞仙の手が降ってきた。
交互に顔を思い切り叩かれる。
「ぶわっ、んぐっ、あぐっ」
ひたすら耐える。
「なにをぼうっとしている──。数をかぞえんか──。最初からだ──」
呂洞仙が平手を打ちながら怒鳴った。
「い、いちっ、にいっ、さんっ、しいっ──」
悲鳴の代わりに宝玄仙は必死に平手を数えた。
だが、だんだんと数がわからなくなる。
同時に異常なものに、心が押しつぶされそうになる。
なにかもかも、砕け落ちていく。
狂う──。
狂わせられる──。
宝玄仙は打たれながら思った。
呂洞仙がしているのは、単なる暴力ではない。
宝玄仙の心を毀そうとしているのだ。
それがわかってきた。
だが、できれば本当に狂いたいとも思った。
そうすれば、楽になるのではないか……。
やっと五十に達した。
身体が痺れきっている。
宝玄仙は声も出せなかった。
「礼はどうした──」
鋭い平手が襲う。
宝玄仙は考えるよりも先に、口を開いた。
「あ、ありがとうございました──」
「よし、喰っていい──。闘勝仙様にも礼を言え」
呂洞仙がさっき闘勝仙が投げて床に落ちていた薄肉を足で蹴って、宝玄仙の顔の下に持ってきた。
しかも、ぐりぐりと革靴で踏みにじる。
「と、闘勝仙様、ありがとうございます……」
宝玄仙はなにも考えることができず、顔を床につけて、汚れた肉を口にした。
闘勝仙と呂洞仙が大笑いした。
宝玄仙の心の中で、なにかが砕けて、そして、なにかが生まれた気がした。
目の前が暗くなる。
宝玄仙は、またもや、過去の宝玄仙から離れて行こうとしていた。