353 逃亡の誘い
雨の音がしていた。
この部屋に窓はないが、天井近くの明かり採りを通じて、雨音が
この土地にやってきて最初の雨かもしれない。
食事を運んでくる雌妖によれば、これからこの地方は雨期に入るらしい。二日間雨が降り、一日だけ晴れて、また二日降る。
そういう日々が一箇月ほど続くようだ。
廊下に通じる部屋の扉から音がした。
長女金が監禁されている部屋には、ふたつの扉がある。
ひとつは隣室の
もうひとつが廊下に通じる扉で、こちらは鍵がかかっている。
部屋の外の廊下には警護の妖魔兵が四六時中侍ってもいる。
長女金と金聖姫はこの妖魔城の虜囚なのだ。
しかし、監禁されているという以外は、ここでの生活は酷いものではない。
世話をする雌妖は親切だったし、ずっと監禁されている長女金や金聖姫に同情してくれていて、頼めば大抵のものは与えてくれる。
どうやら、賽太歳自身からも、自由に行動できない以外は、できるだけ不自由な思いをさせないようにと言われているらしい。
虜囚なのでいきなり扉をあけてもよさそうなものなのに、出入りをする雌妖はこちらが許可をしなければ入ってこない。
外の警護の妖魔兵も応対は丁寧だ。
長女金は扉の音に対して返事をした。
「夕食を運んできたわ、長女金」
猫を思わせる雌妖がにこにこしながら手で盆を運んで入ってきた。
盆の上には、穀物を練った平たい粉餅、香草で煮込んだ肉料理、温かい野菜汁、そして、果物と果実水が載っていた。
およそ、囚人の食べ物とは思えない。
長女金が結界牢に監禁されているときはもちろん、王軍の女将校として兵舎に寝泊りしていた時代でもこんなに豪華な食事じゃなかった。
それが毎食、運ばれてくるのだ。求めれば酒さえも差し入れてくれる。
「ありがとう、
ほかにも三匹ほどの雌妖がいて、交替で長女金と金聖姫の世話をしてくれていた。
全員が一様に優しくて親切だ。
「金聖姫様は?」
盆を受けとりながら長女金は猫猫に訊ねた。
金聖姫は昼過ぎから賽太歳に呼び出されて、妖魔王の居室に行っているはずだ。
隣室に金聖姫の気配がなくなったので、覗いてみると誰もいなかった。
金聖姫が連れ出されるとすれば、
この十日余り、金聖姫が妙に長女金に対して余所余所しい。
以前は、賽太歳のところに呼び出されて赴く前には、必ず長女金に声をかけてくれていたのだが、このところ、黙っていなくなる。
今日もそっと覗いた隣室に金聖姫がいないということで、賽太歳に呼び出されたということに気がついたのだ。
長女金は、そういう金聖姫の態度の変化に戸惑ってもいた。
そのきっかけは、長女金が賽太歳に呼び出されて、一度だけ身体を抱かれたことだと思う。
長女金としては、毎回金聖姫ばかりが呼び出されて、自分が楽をしているようであり、申し訳ないと思っていたので喜んでそれに応じた。
結界牢で憶えた性技を駆使して賽太歳に奉仕した。
長女金は、これを契機に賽太歳が長女金を呼び出す回数が増え、金聖姫の負担が減ればいいと思っていた。
だが、それ以来、なんだか金聖姫の態度が冷たくなった。
長女金にあまり話をすることがなくなったのだ。
露骨に避けている気もする。
「金聖姫様は、妖魔王のところよ……。でも、もうすぐ、戻ると思うわ」
「もうすぐ?」
「今日は妖魔王は本当はお忙しいのよ。夜の会合の予定も入っているし……。でも、妖魔王は、少しでも長く金聖姫様といたのよね」
猫猫はくすくすと笑った。
「そう……」
「それとこれは頼まれていた物」
猫猫が一枚の敷布を寝台に置いた。
長女金がお礼を言うと、相変わらずの笑顔のまま猫猫は部屋を出ていった。
外から鍵がかかる音がした。
長女金がこの獬豸洞と呼ばれている妖魔城で暮らし始めてから一箇月以上が経っている。
考えてみれば、この一箇月前に比べて、なんという環境の変化だろうか。
一箇月余り前、長女金は処刑を待っている処刑囚だった。
全裸で男囚と同じ結界牢に入れられ、彼らと獣のように性交するのを晒されながら二年を過ごした。
いつしか、恥ずかしいという気持ちもなくなり、死刑囚として処刑される彼らのために、最後の時間を少しでも癒してあげたい。
そう思うようになった。
長女金の罪は警護の任を帯びながら妖魔に金聖姫を浚われた責任というものだったが、長女金は王の怒りによる見せしめとして、処刑執行がまだ一年は行われないことになっていた。
いつしか、長女金の生き甲斐は、自分が処刑されるまでの間、先に死んでいく男囚たちの最後の時間をほんの少しでもいいから心の休まる時間にしてあげることになっていた。
だが、長女金に転機がやってきた。
約一箇月前、晒し刑として野外で全裸で暮らす生活をしていた自分を宝玄仙という行きずりの女の旅人が救ってくれたのだ。
宝玄仙は大変な美女であり、力のある道術遣いだった。
そして、宝玄仙には、沙那、孫空女、朱姫という供もいて、彼女たちもまた、一騎当千の女傑だった。
彼女たちは、長女金を数日間匿ってくれただけでなく、路銀まで与えて故郷に逃亡するための世話をしてくれた。
しかし、長女金は、二年前に妖魔に浚われて行方不明になっている金聖姫の行方に繋がる手掛かりをなんとしても、王宮に伝えたくて無理をした。
王都の城門を潜り、脱獄囚として手配されていることを知りながら、その内側に入ったのだ。
長女金が知っていることを手紙によって当局に飛脚で届けてもらおうとした。
長女金の手紙には、王女と一緒に浚われたということになっている春嬌こそ怪しいのではないかと記した。
それが二年間の晒し刑の間に考えた結論であり、当時、金聖姫のそばで警護人を務める女道術師の春嬌は、賽太歳という妖魔に金聖姫が浚われたとき、意図的に危険な場所に金聖姫や長女金を導いた気配があった。
一緒に行方不明になっている春嬌の身辺をもう一度調査すべき──。
手紙にそう記した。
だが、それがよくなかったのだ。
手紙を飛脚に託して城門を出た途端、追手がかかった。
山に逃亡したが、追いかけて来たのは妖魔だった。
意外な追手に戸惑い不覚をとって捕えられてしまった。
さらに驚いたことに、妖魔兵を率いていたのは、あの春嬌だった。
そして、春嬌によって軍営に連れて行かれて拷問を受けた。
長女金の脱獄をさせた者の居場所を白状しろというのだ。
恩義のある宝玄仙たちを裏切るようなことを言えるわけがない。
長女金は耐えた。
しかし、結局は白状させられたと思う。
自分は人でなしだ。
あんなに世話になりながら、その人たちを裏切ってしまったのだ。
そのことを思うと、いまでも心が痛む。
ただ、それから宝玄仙たちがどうなったかについて、長女金が知る手段はなかった。
春嬌の拷問により死にかけていた長女金を賽太歳がここに連れて来たからだ。
賽太歳は長女金を道術で治した。
その代償は、金聖姫の侍女としてここに留まることだ。
長女金が拒否するわけがなく、それからずっとここにいる。
春嬌が怪しいという長女金の予感は正しく、春嬌は賽太歳の姉であり半妖だった。春嬌は、道術で金聖姫を操り、ここに浚って賽太歳に引き渡したのだ。
長女金は、この
長女金は、金聖姫の侍女ということになり、金聖姫が監禁されている部屋の隣に部屋を与えられた。
監禁されているといっても部屋には必要な調度品は揃っており、自由に外に出られないという以外は、朱紫国の王宮の王姫の部屋とその侍女の控えの間とほぼ同じだった。
そして、この妖魔城での生活が始まった。
金聖姫の侍女としての生活は単調だった。
侍女といっても、金聖姫や長女金の実際の生活に必要な仕事は、すべて身の回りの世話をするために出入りをする雌妖たちがやってしまう。
外に出られない長女金にできることは少なく、結果的にそうなってしまうのだ。
それに、妖魔王である賽太歳も長女金に望んでいるのは、金聖姫の話し相手だということもわかってきた。
公平に見て、賽太歳は金聖姫のことを大切に扱おうとしているような気がする。
ほかの妖魔の前で、金聖姫を裸にしたり、抱いたりもするが、それでいて、部下が金聖姫に触れるどころか、雄妖が声をかけることも許さないし、無礼な態度をとることもさせない。
金聖姫は賽太歳専用の性奴隷なのだ。
賽太歳が金聖姫に特別な思いを持っているというのは、傍目から眺めているとなんとなくわかる。
長女金は、そういうことを黙って一箇月間、懸命に観察し続けた。
逃げるためだ──。
ほとんど、この部屋から出れることはないが、やってくる雌妖に声をかけては城の間取りなどを訪ねたりした。ここの雌妖はみんなお人好しで訊ねればなんでも教えてくれる。
物を頼めば、用途も訊ねずに持ってきてくれる。
また、長女金も部屋の外に出る機会があれば積極的に出た。
妖魔城は、道術による防御と警戒を基本としているということもわかってきた。
すべての妖魔には、霊気が備わっていて、道術で防げない者はいないからだ。
しかし、霊気を備えていない人間には道術は効かない──。
そこに付け入る隙がある。
長女金はそう思っていた。
手荒い手段ならここを脱出する自信はある。
周囲が妖魔だらけの妖魔の里を突破して、王家の兵権が及ぶ場所まで逃亡するのは容易ではないと思うが、とりあえず妖魔城の脱出までならできる……。
難しいことではない。
ただし、それは長女金ひとりで逃げる場合だ。
金聖姫を連れて行くとなれば話は別だ。
ふたりで逃亡するには策が必要だろう。
いずれにせよ、なによりも金聖姫がその気にならなければならない。
長女金はこの妖魔城からの脱出について、金聖姫と話をしなければならないと思っている。
この一箇月の観察で、長女金と金聖姫の部屋にはいかなるかたちにおいても、会話を盗み聞きする仕掛けはないと確信した。
ならば、せめて脱走の準備をしていることだけでも教えて、希望を持たせてあげたい。
しかし、このところ、金聖姫が長女金と碌に話をしようとしないので、長女金は脱出の話を金聖姫に切りだせないでいた。
長女金は食事を済ませると終わった盆を抱えて、外に繋がる扉を二度こちら側から叩いた。
扉が開き、外に立っている警護の若い妖魔兵が顔を出した。
長女金が食事を済ませた盆を差し出すとそれを受け取る。
再び扉に鍵ががかる。
ひとりになると、長女金は猫猫が持ってきた敷布を縦に細かく切り裂き始めた。
縦に裂いた布を編んで縄にするのだ。
もう、かなりの長さの縄ができあがっている。
いま作っているものができあがれば、もう十分だろう。
これまでに作った分は、寝台の下の床下に隠してある。
女二人が逃亡するのに必要な縄としては十分だ。
しばらくすると、隣の金聖姫の居室に誰かが入ってくる気配があった。
鎖の音がする。
金聖姫は移動のときに首輪をされて、その首輪に鎖を繋がれて歩かされると決まっている。
賽太歳が命じたことであり、ずっとそういう仕打ちを受けているようだ。
ただ、長女金については、そのような拘束を受けることがない。
逃亡を防ぐという目的であれば、金聖姫よりもむしろ長女金こそ拘束すべきであるので、賽太歳がわざわざ金聖姫をそういう扱いにするのは、ただ金聖姫を辱めたいという感情だけに違いないと長女金は思っていた。
長女金が耳を澄ませていると、鎖が外されて妖魔兵が外に出ていく気配がした。
やがて、隣の部屋も静かになった。
長女金は金聖姫に声をかけようとして躊躇った。
このところ、金聖姫は長女金と口をきくことを悦ばない。
嫌な顔をするのではないか……。
そう思った。
「ちょ、長女金、お、起きていますか……?」
不意に向こう側から声がかかった。
驚いて金聖姫の部屋に通じる扉を開けた。金聖姫の方から声がかけられるのはしばらくぶりだ。
「金聖姫様……、あれっ?」
扉を開けるとそこに金聖姫が真っ赤な顔をして立っていた。
心なしか顔に汗をかいていて、全身をかすかに震わせている気がする。
特に腿をしきりに擦り合わせるようにしている動きが顕著だ。
金聖姫のはいている下袍は膝のずっと上までの丈までしかなく、腿の半分は素肌が露出している。
朱紫国の王姫としては破廉恥な格好だが、こちらの妖魔の里では珍しい恰好ではない。
さっきの猫猫も短い丈の下袍だし、長女金があてがわれている服もすべてそうだ。
こちらでは一番平凡な雌妖の服がそれなのだ。
その下袍から出ている脚がなにかを耐えるかのようにもじもじとくねり続ける。
金聖姫の様子は少し異常だ。
それに、両腕が背中に回されたままだ。どうやら背中側で手首を組んで拘束されているようだ。
「ちょ、長女金、ふ、不浄をさせてください」
金聖姫が切羽詰った声で言った。
「はっ?」
思わず声をあげたが、すぐに金聖姫がなにを訴えているのかわかった。
長女金は慌てて行動を起こした
金聖姫はおしっこをしたいのだ。この金聖姫の震えは排尿を訴えているものなのだ。
長女金は急いで金聖姫の背中の拘束を外そうと駆け寄った。
まとめられた両手首と肘の間の部分に革帯がしっかりと巻きついている。
鍵のようなものはないから、道術によるものだろう。
「姫様、どうやって、これは外せばいいのです?」
長女金は狼狽えて言った。
「は、外れません……。さ、賽太歳が、あなたに世話をしてもらえと……。このところ、わ、わたしがあなたに冷たい態度をとっているからと……し、叱られて……。そ、それで……。と、とにかく、もう、漏れます……、ちょ、長女金」
金聖姫が悲鳴のような声をあげた。
どうやら賽太歳が気を使ってくれたようだ。長女金は苦笑した。
「ちょっと待ってください、姫様」
長女金は部屋の隅にある落とし箱を持ってきた。
排便用の比較的な平たい箱であり、蓋を開いてその中に排便をするのだ。
そして、蓋のまま箱ごと渡せば、雌妖が処分してくれる。
「は、早く……」
金聖姫はもう切羽詰った感じだ。
長女金は金聖姫の下袍の中に手を入れて下着を掴む。
「脱がせますね、姫様」
「は、はい……」
長女金は下着をおろし、足首から抜き取る。
金聖姫をしゃがませて、その股間の下に落とし箱をあてる。
「姫様、終わったら少し話を聞いてくれませんか?」
長女金は言った。
いい機会だった。
今夜こそ、脱出の話を持ち出すつもりだ。
「あ、あなたと話などありません。ふ、不浄が終わったら、部屋に戻ります……」
金聖姫は言った。
長女金はさすがにむっとした。
長女金のなにが気に入らないのだろう。
気にいらないことはちゃんと言ってもらわなければわからない。
長女金は黙って、すっと落とし箱を金聖姫の股間の下からずらした。
「な、なにするんです」
排尿の寸前で落とし箱をずらされた金聖姫が悲痛な声をあげた。
「話をしてくれますね、姫様」
「わ、わかりました──。し、します……。話をします。お願いですから……」
長女金は微笑むと、落とし箱をしゃがんでいる金聖姫の股間の下に戻した。
すぐに激しい排尿が始まった。
長女金は下袍が汚れないように、金聖姫の下袍の裾をたくしあげてあげた。
「ふう……」
余程、我慢していたのだろう。金聖姫が安堵の息を吐いた。
「随分と我慢されていたのてすね、姫様」
排尿を終えた金聖姫の股を布で拭き、落とし箱を隅に片付けながら長女金は言った。
口に出してから、自分の発言は女主人に対しては随分と無礼ではないかと思った。
二年の結界牢の生活で、どうも長女金の徳心はおかしくなった気もする。
謝ろうと思ったが、金聖姫が先に口を開いた。
「賽太斎に意地悪されたのです」
「意地悪?」
「お、おしっこがしたくなる薬を飲まされました。そ、そして、わたしをくすぐるんです……。た、愉しそうに」
「そ、それは、大変でしたね……」
そう言うしかなかった。
賽太斎という妖魔王が人間の女を羞恥責めにするのが趣味だというのはだんだんとわかってきた。
だが、それを一身に受けねばならない金聖姫は気の毒だと思った。
「ええ、大変なんです。賽太斎はわたしばかりを抱こうとしますから。あなたではなく、わたしを……」
金聖姫がきっと睨んだ。
なんだか怒っている気がする。
長女金は訳がわからないと思った。
そして、まだ、金聖姫の下着をはかせないままだったのを思い出した。
「おはかせします」
長女金は慌てて床に丸まって置いてあった金聖姫の下着を手に取った。
金聖姫が立ちあがる。
「わたしが代わってあげられれば……」
下着を金聖姫の足首から通す準備をしながら、呟くように長女金は口に出した。
「そ、そんな必要はありません。賽太斎はわたしを指名しているのですから──」
突然、興奮したように金聖姫が床を踏んで足を鳴らした。
「姫様──?」
長女金は驚いて顔をあげて、金聖姫を仰ぎ見た。
すると金聖姫は我に返ったかのように表情を取り繕った。
「な、なんでもありません……。下着をはかせてください……」
金聖姫が自分の興奮に恥じ入ったかのように顔を赤らめた。
長女金は金聖姫に下着をはかせた。
金聖姫は後ろ手に拘束された姿で、長女金の前にちょこんと座った。
「さっき、話があると言っていましたね、長女金。や、約束ですから聞きます」
金聖姫はまだ、まだ怒ったような視線をぶつけてくる。
長女金は戸惑ったが、いずれにしても今夜こそ脱出計画のことを相談しようと決心していた。
なんとしても、金聖姫とこれからの計画について話したい。
「話というのはですね、姫様……」
長女金は声を潜めた。
「ひとつだけわたしから言っておきます、長女金──」
不意に金聖姫が話を遮った。長女金は思わず金聖姫をまじまじと見た。
金聖姫は、泣くような怒るような複雑な表情をしていた。
金聖姫はよくわからないが少し興奮状態にあるようだ。
脱出の話は次の機会にすべきではないかと長女金は思い直してきた。
「なんですか、姫様?」
長女金は仕方なく応じた。
「わ、わたし、負けません──。あなたには負けませんから」
金聖姫は挑みかかるように声をあげた。
そして、勇気を振り絞ってなにかを成し遂げた人がやるように、大きく息を吐いて身体を脱力させた。
だが、長女金は呆気にとられてしばらく口を開けたまま金聖姫の顔から目が離せないでいた。
やがて、ようやく当然の言葉を口にすることができた。
「なにに勝つんですか、姫様?」
すると、赤かった金聖姫の顔がますます紅潮した。
そして、失言をした人のようにばつの悪そうな表情をした。
「な、なんでもありません。あなたの話をしなさい、長女金」
金聖姫は言った。
「しかし……」
長女金は迷った。
やはり、今日の金聖姫は様子がおかしい。とても脱走のことを持ち出す雰囲気ではない。
「言いなさい」
金聖姫が語気を荒げた。
「わかりました。言います」
長女金は決心した。いずれにしても話をすることが必要なのだ。長女金はじっと金聖姫の顔を見た。
金聖姫の顔が長女金の言葉に怯えるような表情になる。
長女金はますます混乱した。しかし、もう長女金は決心していた。
「ここを逃げましょう、姫様」
長女金ははっきりと言った。
ただし、聞こえるか聞こえないかの小さな声だ。
すると、金聖姫の眼が大きく見開かれた。