363 女剣士の昔語り
「ええっ──、今夜はご主人様の相手をしなくていいの?」
夕方になって宿屋に戻った沙那に告げられた朱姫の言葉は意外なものだった。
沙那は思わずほくそ笑んだ。
「なんか珍しく、こんな場所で東帝国出身の男に会ったんだよ。それで、意気投合しちゃって、ひと晩すごすってことになっちゃってさあ……。それで、あたしらも今夜は隣の部屋で休んでいいということになったのさ」
孫空女が言った。
「それで、ご主人様はどこにいるのよ、孫女?」
「その男と部屋に閉じこもっているよ。なかなかの精力自慢の男だったから、そのまま朝まで出てこないんじゃないかなあ……。まあ、相変わらずのご主人様の気紛れにも呆れるよね」
孫空女が肩をすくめた。
朱紫国の国境と呼べるところを越えてから半月が経っていた。
国教を越えてからは国らしい国はなく、東帝国では城郭国家と呼んでいたひとつの城郭と周辺の農村だけを支配するだけの小さな国が続いていた。
それでも西に向かう旅を続ける限りにおいてはなるべく情報を入手してから入国するようにしていたのだが、ここから西の地域の情報は少なかった。
わかっているのは、この
かろうじて入手することのできた漠然とした地図によれば、ここから西にはよくわからない白紙の地域がかなり続き、それからさらに西で諸王国群と西方帝国にぶつかることになっている。
それまでは整備された街道などはなく、もしかしたら旅の糧食の確保も難しいかもしれないし、行く手を阻む天然の要害もあるかもしれない。
ただ、この辺りの城郭都市にも、西からやって来る商人などは存在するようだから、道はあるのだろう。
宝玄仙が向かいたがっているのは、金角や銀角が待っている妖魔の土地であり、ここからそこに向かうには、まずはそのずっと西の帝国に入り、そこから北進して妖魔の支配域に入るしかないというのはわかっている。
現在は、大きな妖魔の国々が拡がる妖魔の土地の南側にいるのだが、ここから北には
そこで沙那は、少しでもここから西の地域についての情報を集めようと城郭中を駆け回り、主に商人を相手に色々と訊きまわっていたのだ。
そして宿に戻ってくると、宿屋の一階の食堂で待っていた朱姫と孫空女に、今夜は、宝玄仙の相手をしなくていいことになったと告げられたというわけだ。
よくわからないが、宝玄仙はこの宿屋の一階でたまたま旅の男と偶然出遭い、その男が遥かなる東方帝国の出身だと知り、いつもの気紛れで身体を合わせるということになったということだ。
とりあえず三人で食事ということになった。宝玄仙とその相手の男については、身体を合わせながら摘まめるような食事と飲み物を運びこんであるので、もうなんの世話もいらないらしい。
「……というわけで、ご主人様は、その東帝国からやってきた旅の男と意気投合して、ひと晩をすごすそうです。だから、あたしたち三人は、勝手にすごしていいそうですから、あたしがおふたりの身体を慰めるということでどうでしょう。責めについては、おふたりのお好きな人形責めでいいですか?」
朱姫が食事を口にしながら悪戯っぽく笑った。
「絞め殺すわよ、朱姫──」
沙那は朱姫の言葉を一蹴した。孫空女が横で笑った。
「……それにしても、こんなところで、東帝国出身の人間に出遭うなんて珍しいわね。ここまでくれば、そもそも、東帝国の存在を知っている者も少ないのにね」
沙那は言った。
“東帝国”あるいは、“東方帝国”というのは、帝国では外国人が使う呼称だったが、いつの間にか沙那も、故郷の国のことは“東方帝国”と呼ぶのがしっくりくるようにもなっていた。
そういう意味では、沙那がやっと手に入れた地図に書かれている西の帝国も“西方帝国”とは書かれていない。沙那の感覚でそう呼んでいるだけで、地図には“帝国”と記されている。
「それで、そいつどんな奴?」
沙那は訊ねた。
宝玄仙がこんな風に行きずりの男を相手にするのは別段珍しいことではない。
沙那たちの女主人は、あれだけの美貌だが、相手の容貌も性別も性格も気にしない。
連れ込む相手に共通点はなく、まったく気まぐれで身体を合わせているとしか思えなかった。
「武芸者とか言っていたかな。あんまり感じのいい男じゃなかったけど、ご主人様は気に入ったみたいだよ……。まあ、ご主人様の気紛れには理屈はつけられないけどね」
「でも、ご主人様ひとりじゃあ危ないんじゃないの?」
沙那は眉をひそめた。
「まあ、大丈夫じゃないのかなあ。ご主人様は結界を張るだろうし、そいつは霊気は低いけど、道術遣いでもあるらしいよ。だから、ご主人様は道術で圧倒できる。まあ、好きなようにさせてもいいんじゃないかな」
孫空女は言った。
基本的に道術遣いの道術は、霊気を帯びている相手にしか通用しない。
だから、道術遣いにとっては、却って霊気を持っていないただの人間は危険なのだが、逆に少しでも霊気を帯びていれば、道術力の違いが圧倒的な力の差になる。
確かに、その武芸者が宝玄仙の結界で宝玄仙に危害を加えることは難しいだろう。
「ふうん……。まあ、様子を見ていて、少しでも様子がおかしければわたしたちが飛び込めばいいのかもね」
沙那は言った。
宝玄仙の気紛れについては、可能な限り宝玄仙の好きにさせないとすぐに不機嫌になり、始末に終えなくなる。
それも沙那は十分に承知している。
「ところで、そのご主人様がなぜか気に入ったという武芸者はなんという名なの?」
沙那は何気なく訊ねた。
「
孫空女が朱姫に視線を向けた。
「そうです。張須陀ですよ、孫姉さん」
「張須陀?」
沙那はその名を聞いて嫌な気分になった。
「知っている名前かい、沙那?」
孫空女は驚いたような声をあげた。
「まあ、同一人物というわけじゃないだろうけど……。まだ、故郷の
沙那は昔のことを思い出して言った。
だが、ふと、それがまだたった数年前のことだということに気がついた。
しかし、いまの沙那には、故郷の思い出など、数十年も昔の話のように感じる。
「どんな話ですか、沙那姉さん? 強姦でもされかけました?」
朱姫がからかうような声をあげた。
「まあ、それに近いかもね」
「へえ、沙那を強姦しようなんて、どんな命知らずだよ?」
孫空女も興味を抱いたように近づいてきた。
「そんなに面白い話じゃないわよ。まだ、軍に入ってない頃よ……。わたしは、軍に入って女兵になる前は、少しだけ自分の武芸を磨くために、武芸の道場に通っていたの……」
一応、前置きをしてから沙那は語り始めた……。
*
愛陽の城郭の貴人であり分限者のひとりである
将軍と呼ばれているが軍人ではないし、一度も軍務についたことはない。
ただ、若い頃から武芸者が好きで、軍人や非軍人であるかを問わず、屋敷に武芸者を集めるのが好きだった。
だから、誰ともなく、この老人をいつしか“将軍”と呼ぶようになった。
本人の武芸は、達人という域には達していないのだが、なによりも武芸を極めた人間を見るのが好きだった。
それで、軍人であるか否かを問わず、定期的に屋敷に周辺の武芸者を集めては祝宴を開くのが常だった。
そして、その習慣が数十年も続くと、やがて、高将軍の定例会の宴に呼ばれることが愛陽における武人家としての証ということになっていた。
沙那がその高将軍の宴に初めて呼ばれたのは、十九のときであり、気紛れで城郭内の小さな道場を覗いた将軍が、沙那の武芸に驚嘆し、それで宴に招待したというわけだ。
高将軍の武術家の集まりに女が呼ばれたのは、それが初めてらしい。
集まりといっても、ただの酒宴であり、酒の肴に武芸話をするだけだ。
沙那は酒を受け付けない性質だったので、酒宴が始まっても酒を飲まず、もっぱら料理を食べることと、話を聞くことに徹した。
若い女の参加というのは珍しいのか、最初はなんとなく沙那を探るような雰囲気もあったが、すぐに沙那の周りには武芸自慢の者が集まるようになった。
「沙那殿の得意は剣なのか?」
訊ねたのはたまたま席が隣になった若い男だ。
確か、城郭軍の将校のはずだ。
この会合には軍人もいれば、そうでないものもいる。
沙那のように若輩もいれば、高将軍と同じくらいの老人もいる。
貴族の身分のある者もいれば、貧民街に暮らす乞食同然の者もいる。
そういう身分違いの者が集まり、一切の格式と立場を排除して、ただ武芸者という一点のみで集まり祝宴をする……。
それが、この高将軍の定例会なのだ。
「得意は剣ですが、ひと通りの武器は遣えます。弓については、力がないので大弓は不得手ですが、その代わりに小弓を専ら遣います」
「槍術はどうだ、沙那殿? 俺は槍が得手なのだ」
男が言った。
「たしなみます」
「ならば、今度手合せをお願いしたいものだ」
「それは喜んで。わたしこそ、是非、ご教授ください」
沙那がにっこり笑うと、相手の男が嬉しそうに破顔した。
すると、途端に相手が饒舌になり、武芸自慢を始め出す。
「俺の編み出した槍術の極意は、突くのではなく斬るというところにあるのだ。穂先よりの下の部分の鍵のついた両刃両縞の槍で、相手の態勢を制して斬る。鍵の部分の遣い方は門外不出の秘伝であるがな」
「まあ、どのような修練をするのですか?」
興味が湧いた。
突くのではなく、槍で斬るという発想は、沙那も同様なものを独自の術として編み出していて、これまでの突くだけの教義よりは、より実戦的だと思っていた。
それで訊ねたのだ。
「俺の流儀は実戦における修練に極意がある」
相手が片目をつぶった。
実戦こそ修練の場という考えは、まさに沙那の考えと一致した。沙那は、この若い武芸者に興味を持った。
「失礼ですが、お名前は……?」
沙那は訊ねた。
しかし、その質問は別の若い武芸者に割り込まれて答えを知ることができなかった。
「槍も大事だが、戦場では穂先がなくなればただの棒だ。棒術こそ基本だな。沙那殿はどうだ?」
その別の若い男がいままで沙那が話していた若い男の間に身体を入れるように割り込んだ。
「そう思います……。それから、体術も……。戦いの場では、武器そのものを失うことも珍しくないはずです。そのとき、女のわたしでは、男の力にはかないません。だから、わたしは体術の修練も幼いころから続けています」
沙那は激しく頷いた。沙那の考える武芸は戦うためにある。
武芸のための武芸など、なんの意味はないというのが沙那の持論だ。
だが、そんな話をしたくても、同世代の人間だとどうしても浮く。
趣味といえば、庶民にも開放されている学問所で書物を読むことであり、考えてみれば同世代の人間とまともに話をする機会などなかった気がする。
だから、武芸について熱心に同世代に近い人間と語り合うというのは新鮮だった。
沙那は招きに応じてよかったと思った。
武芸についての考えや腕自慢──。
他愛のない話で時間がすぎていった。
いつの間にか沙那の周りには、多くの男が集まるようになっていて、沙那は彼らが交互に披露する腕自慢の話に興じていた。
腕に自信がある者は、大抵はその武威を自慢する。
それが当然であり、沙那も武芸の話を真剣にするのは嫌いではない。
沙那にとっては久しぶりに愉しい時間だった。
それが崩れたのは、かなり陽が落ちてからだ。
宴は庭で行われていたが、薄暗くなってきたので篝火があちこちに燃やされた。
辺りが暗くなってから門から誰かがやってくる気配がした。
すると、酒宴の席にある男が十名ほどの取り巻きを率いてやってきた。
沙那はその男を知っていた。
張須陀という男だ。
ひと目見て、酔っているということがわかる。
「おう、これは、張師範だな。今日は姿を見せんと思ったが、酔っておるのか?」
黙って周りの武芸者の話を聞いていることが多かった高将軍がそう言って、家人に指示して張須陀の席を自分の近くに準備させた。
張師範こと張須陀は、城郭軍の将卒に武芸を教えている男であり、歳は四十過ぎだ。
ただ、あまりよい噂は聞かない。
特に女にだらしなく、しかも、よく女に暴力を振るうという話だった。
一人前の武芸者が、男にしろ、女にしろ、なんの武芸のたしなみのない相手に暴力を振るうというのは感心しないと沙那は思っていた。
「別の用事があってな、高将軍──。見てのとおり酒をすごしておるが、向こうの席で、今日の高将軍の祝宴に新しい武芸者が招かれたということを耳にしてな。新しい参加者については、この張須陀が相手をして武芸の腕を見極めるのが習わしだ。それで、どの男がそうなのだ?」
新しい武芸者というのは、自分のことだと沙那は思った。
しかし、そんな仕来たりがあるというのは知らなかった。
それで、周りの男に低い声で訊ねた。
だが、ひとりの若い男が首を横に振った。
「勝手にそう言っているだけだ。しかし、なんだかんだと因縁をつけられて試合をすることになる。高将軍も眼の前で真剣勝負を見るのが嫌いでないしな……」
沙那に応じてくれた若い武芸者は苦虫を噛み潰したような表情をした。
彼によれば、張須陀がけしかけて、高将軍も煽り立てる……。
そうやって試合が始まるようだ。
これまでも、新たにこの集まりに加わることになった新人は、結局、張須陀と試合をさせられて手酷い目に遭っているらしい。
「それじゃあ、あなたは?」
なんとなく沙那は訊ねた。
眼の前の若い武芸者も、この集まりに加わって間もないということをさっき知らされていたからだ。
「残念ながら負けてしまった。腕の違いがあることは認めるしかないが、実は負けそうになるとあいつは卑怯な手も使うのだ。俺もそれでやられた。俺はあいつを許せない。木剣で腕を折られたが骨が繋がったいまでも、以前のようには動かせない──。あいつは、武芸者などではない」
沙那に対して、その男は悔しそうな表情を見せた。
「高将軍、それで、どれが新人なのだ?」
張須陀はあてがわれた席に座ると、眼の前にあった酒瓶をそのまま口にした。
「それそこに──。その沙那殿だ。女ながらに、なかなかの武芸者だ。この集まりに相応しいと思って今回の集まりから招待状を送ることにしたのだ」
すると張須陀があからさまに馬鹿にしたような顔をして地面に唾を吐いた。
とても招待された高貴な人物の屋敷でするべき行為ではない。
「なにが、女武芸者だ。確かにいい女だから、男が集まって、ちやほやしているようだがな……。男漁りが目的なら、この集まりはお前には相応しくはない。女のお前など、腕調べをするまでもない。この集まりには相応しくないから、さっさと出ていくがいい──」
張須陀は、また卓の上の酒瓶をぐいと呷った。
女ということで馬鹿にした張須陀の物言いに腹が立つ。
「わたしは、あなたに呼ばれたんじゃないわ。高将軍に呼ばれたのよ。この集まりの資格について、あなたにとやかく言われる筋合いはないわ」
沙那は言い返した。
すると張須陀は沙那に小馬鹿にしたような顔を見せた。
その薄笑いが沙那をさらに苛つかせる。
「どうせ、この集まりに呼んでもらうのに、高将軍に色仕掛けでも使ったのであろう。ここは闘いができる者の集まりだ。お前のような遊女が来る場所ではないわ」
張須陀の侮蔑に、沙那の中のなにかが切れた。
「その言葉は、わたしだけじゃなくて、高将軍も馬鹿にするものよ。わたしも気が長い方じゃないわ。喧嘩を売りたいなら買ってあげてもいいのよ」
沙那の啖呵に一瞬だけ、張須陀はきょとんとした表情をしたが、すぐに大声で笑い出した。
「女、言うではないか──。だが、この俺が女のお前を相手にしたというだけで、それは恥になるのだ。いいか、女?」
「そうね。だったら、やめときましょう。わたしもあなたのような無頼を相手にして勝っても自慢にはならないしね……。そういえば、あなたって、武器を持たない女をよく殴るという噂を聞くけど、きっと、武器を持った女は怖くて戦えない人なのね」
沙那が言うと、張須陀の顔がみるみると赤くなった。
「こ、高将軍、そなたの客人にこんなことを言わせてもいいのか。この女は戦いたがっているが、それでもいいのか──」
張須陀は、今度は高将軍に怒りの矛先を向けた。
すると高将軍はにっこりと微笑んだ。
「勝った方に金十枚──。賞金を出そう」
金十枚という話に周囲が騒然となった。なによりも眼の前の張須陀の眼の色が変わった。
すぐに慌ただしく周囲が動き始めて試合の準備が始まる。
篝火も追加されて辺りが昼間のように明るくなる。
「女、獲物はなんだ──? 好きなもので相手をしてやる」
「あなたの得手は、張師範殿?」
沙那は、庭に急遽準備された試合場に歩きながら言った。
「俺は棒の師範だ」
「だったら、棒でお相手します」
沙那の得意は剣だが、棒でも槍でも弓でも、あるいは体術もそれなりに極めている。負けるつもりはないし、ましてや相手は酔っている。沙那の相手ではないと思っていた。
「よし、では棒だ。容赦はせんぞ。その綺麗な顔が潰れても泣きごとは言うな」
「わたしは手加減してあげるわ。歩いて帰れる程度にしておいてあげるから心配しないで」
沙那の返しに場がわっとなった。
張須陀の顔はますます赤黒くなる。
「女、そこまで言うなら、もしも負けたら、お前の身体をもらう──。それでどうだ?」
しばらくして張須陀が不意に思いついたように言った。
「はあ?」
「絶対に負けない自信があるのだろう? 武芸者という者は勝負事には命を賭けるものだ。だが、命までとっては目覚めが悪い。だから、女の操をもらおう……。それとも、やっぱり、女だから命をやりとりするような勝負はできないか?」
張須陀が挑発的な声をあげた。
「いいわよ。もしも、負けたら好きなだけわたしを抱くといいわ」
沙那は呆れて言った。
張須陀が卑猥な笑みを浮かべるとともに、周囲がどよめいた。
「……ただし、わたしからも条件があるわ」
沙那はその喧騒を遮るように叫んだ。
「条件?」
張須陀が眉をひそめる。
「あんたが負けたら、わたしに土下座をして詫びなさい。それとも、相手には勝負に受け入れがたい代償を賭けさせても、自分がそれをするのは嫌かしら?」
沙那は挑戦的に言った。
「いいだろう……。勝負の後で、そんな約束はなかったなんて言わせんぞ。ここにいる全員が証人だ──。沙那、今夜から、お前は俺の性奴隷だ」
「ほざきなさい」
沙那はそれだけを言った。
稽古用の棒が運ばれてきた。
沙那は渡された一本を手に取った。
持った瞬間に違和感を覚えた。
見ると棒にひびが入っている。
こんなもので戦えば、あっという間に折られてしまうだろう。
そして、沙那は棒を渡したのが、張須陀の連れてきた取り巻きのひとりだったと思い出した。
沙那の棒に細工をしたのだ。
思わずかっとなった。
「いくぞ──」
しかし、沙那が得物の交換を申し出る前に張須陀が飛びかかってきた。
周りを取り囲んだ見物人がわっと湧いた。