※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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376 下着で踊る女

「わ、わかった──。わかったから。踊る……。踊るから、や、やめてよ──。ひいいっ──」

 

 孫空女は、胸を両手で抱いて机に突っ伏して叫んだ。

 全身に襲いかかる羽毛でくすぐられるような刺激は、もう耐えられるようなものではなくなっていた。

 孫空女はついに悲鳴をあげた。

 

「手間をかけさせるんじゃないよ。まったく……」

 

 道術で孫空女に妙な感覚を送り込んでいた張本人の宝玄仙はさらりと言った。

 やっと、宝玄仙の道術から開放された孫空女はがっくりと脱力した。

 冗談でも脅しでもなく、宝玄仙は、本当にここで孫空女に下着姿で踊らせるつもりだと悟るしかない。

 こうなったら、もう宝玄仙は始末には負えない。

 下着だけは許すと言っているいまのうちに踊ってしまった方がいいと思った。

 

「そういうわけだから、ちょっとばかり待っていておくれ、後天袋(こうてんおう)」

 

 宝玄仙が言った。

 

「あ、ああ……」

 

 後天袋も呆気にとられている。

 孫空女はもう諦めた。

 椅子に座ったまま上衣を脱ぐ。

 そして、下袴も脱いだ。

 

 確かに、十代の頃に芸人の一座に入っていた。

 孫空女の演目は踊りだった。

 全裸でこそないが、ほとんど下着にしか見えない衣装だけで際どい踊りをするのだ。

 それが盗み以外に初めて孫空女がまともに得た稼ぎだった。

 それを思い出せばどうということはない。

 脱いだ服を椅子の背もたれにかける。

 すると、さっと朱姫の手が伸びて、それを奪い取った。

 

「あっ、なにすんだよ、朱姫──」

 

 孫空女は声をあげた。

 

「ちゃんと踊ったら、返してあげますよ、孫姉さん──。そうですよね、ご主人様」

 

 朱姫が悪戯っぽく笑った。

 

「まあ、そういうことだね、孫空女」

 

 宝玄仙はにやにやするだけだ。

 孫空女は舌打ちした。

 宝玄仙の悪ふざけも始末に負えないが、朱姫はそれ以上だ。

 沙那に会えると思ったら、朱姫も妙に元気になった気がする。

 とにかく、調子に乗れば、この娘はどんな悪戯を孫空女の身体にやりだすかわからない。

 

 早く終わらせるしかない……。

 孫空女は胸当てと小さな腰の下着だけの姿で立ちあがった。

 店の中からどよめきが起きた。

 

 それはそうだろう。

 さっき十人以上の男をあっという間に叩きのめした女が、今度はいきなり下着姿になり立ちあがったのだ。

 ただでさえ、孫空女たちは注目を浴びていた。

 いまや、店中の視線が孫空女に集まっている。

 さすがに孫空女も恥ずかしいし、情けない。

 

「お、お前ら、この線から近づくんじゃないよ──。ちょっとでもこの卓から近寄ったら、どいつもこいつも鼻の骨を砕いてやるからね。わかってんだろうねえ──」

 

 孫空女は卑猥な冷やかしや、露骨な視線を向けている大勢の酔客に怒鳴った。

 自分たちが座っているのは、店の奥側であり厨房に近い場所だ。

 孫空女が近づくなと示した線は、酔客たちがたむろしている卓とこちらを画している数個の卓だ。

 その空いている卓からこちら側にいるのは、孫空女たちを除けば、呆れた表情で肩をすくめている店の主人と雇われ人の男、そして、最奥で酒を飲んでいるひとりの小柄な若者だけだ。

 自分の顔が羞恥で真っ赤になっているのがわかった。

 

「ほう、だったら、その卓まではいいんだな」

 

 誰かが言い、どやどやとこっち全員がやってきた。

 

「な、なんだよ──」

 

 眼を血走らせて走ってきた大勢の男たちの勢いに、孫空女は自分が口走ったことに後悔するとともに、思わず胸当てだけの乳房を両手で隠した。

 

「へえ、こうやって見ると、つくづくいい身体してんじゃねえか──」

 

「あんな喧嘩ができる鉄火女だから、珍棒でも生えてるんじゃねえかと思ったら、股の膨らみはねえようだな」

 

「なんか、恥ずかしがってんぜ。どうした? 踊んじゃねえのかい──」

 

 近くまでやってきた男たちがからかいの言葉をかけだす。

 さっきの険悪な雰囲気が一変し、これから始まりそうな卑猥な演芸に店の中が歓声で盛りあがる。

 

「こんなに観客が集まったんなら、ただでお前の踊りを見せるなんて勿体ないねえ。これをやるから、朱姫とふたりで見物料を集めてきな、孫空女」

 

 興に乗った宝玄仙が使っていなかった空の椀を朱姫に渡した。

 

「じゃあ、行きますか、孫姉さん」

 

 朱姫が椀を持って立ちあがり、孫空女の手を取って、男たちの方に引っぱって行く。

 

「な、なんだよ、お前……。ちょ、調子に乗って──」

 

 孫空女は朱姫に手を引っ張られながら不平を言った。

 だが、宝玄仙が見張っているし、あからさまに朱姫の手を振りほどくことはできない。

 結局、朱姫によって、集まった男たちのすぐ前に強引に連れて行かれた。

 

「さあ、踊り子の挨拶です。この身体に見合う見物料を払ってくださいね、皆さん──」

 

 朱姫が口上っぽく語りだすと、男たちがわっと盛りあがって椀に次々に小銭を入れ始める。

 男たちも、これがちゃんとした芸でもなんでもなく、おかしな女主人の戯れだとわかっているが、彼らは彼らで盛りあがるのが愉しいので一緒に騒いでいるのだ。

 椀は見物のために集まった男たちをどんどん回っていく。

 よく見ると、さっきぶっとばした男たちまでも、嬉しそうに回ってくる椀に小銭を入れていた。

 

 かつて、芸人の一座にいた孫空女は、余程の大きな城郭でもない限り、市井の人々のほとんどが娯楽に飢えているというのを知っている。

 だから、ちょっとした芸でも、芸人の一座というのはどこに行ってももてはやされる。

 ましてや、こんな場末の町で芸など無縁に違いない。

 だから、こんな芸の真似事でも、男たちは心から喜び、そして、金を払うのだ。

 見物料を払う──。

 これも一緒になって愉しむための戯れの範疇だ。

 

「踊り子が皆さんの周りを進みますが、触ってはいけませんよ……。この踊り子は触った人の腕の骨を叩き折ると思います。でも、眺める分はいくらでもいいですよ。椀に見物料を入れた方は、遠慮なくこの踊り子の身体を堪能してださい」

 

 朱姫が朗らかに言って、孫空女の手を取り二回三回と男たちの前を往復させる。

 孫空女も最初は尻込みしていたが、途中から諦めの境地になってきた。

 朱姫はうまく男たちを統制している。

 男たちは、野次は飛ばすが、確かに手を触れようとはしない。

 なんとなく、酔客たちとの間に秩序のような一体感が生まれてきているような感じだ。

 孫空女は朱姫の意外な才能にちょっと驚いていた。

 

「──なあ、姐さん、頼むよ。金を払うよ。踊りの後で一発やらせてくれよ」

 

「ふざけんじゃないよ、阿呆」

 

「なんかいやらしい身体だぜ。処女かい?」

 

「ふっ……。そんなわけないだろ」

 

「男は好きかい? それとも、あの女主人といい仲かい?」

 

「あたしは、あの女主人の性奴隷だよ」

 

 男たちの声に、孫空女はもうやけになり次々に応じた。

 そのたびにだんだんと場が湧き、孫空女が自分は宝玄仙の性奴隷だと発言したときには、店の中が怒号のような歓声に包まれた。

 

 もう、どうでもいい……。

 早く終わらせたい……。

 

「性奴隷なら、性技も逸品なのかい?」

 

 誰かが言った。

 

「いや、あたしなんて大したことはないね。技ならこいつだよ。こいつに肉棒を吸われたら、多分、お前はあっという間に精を放つよ」

 

 自分だけ恥をかいているのが悔しくなり、孫空女は自分の手を引っ張っている朱姫を顎で指した。

 すると、またそれで場が盛りあがる。

 

「じゃあ、一度やってくれよ、あんた」

 

 今度は朱姫に声がかかる。

 

「……勘忍してください。皆さんの後ろで、お姉さんたちが怖い顔をして睨んでいるじゃないですか──。お姉さん方、ちょっと待ってくださいね。皆さんのお仕事の邪魔はしませんから。この方たちをちょっとだけ欲情させたらお返しします。そしたら、すぐに連れていって抜いてあげてくださいね」

 

 孫空女は気がつかなかったが、孫空女の踊りを見るために男たちがこっちに集まったので、娼婦たちは手持無沙汰になって、不機嫌な顔をしていたのだ。

 しかし、朱姫の言葉に娼婦たちも苦笑して、こっちに集まってくる。

 

「じゃあ、そろそろ、踊りますか、孫姉さん」

 

 朱姫が孫空女を店の奥側に連れて行った。

 それにしても、この朱姫の口上や酔客のあしらい方は、なかなかに堂に入ったものだった。

 いろいろな経験があると言っていたが、もしかしたら、こういう芸人の口上もやったことがあるのだろうか……?

 

「じゃあ、お願いします、孫姉さん」

 

 朱姫が孫空女の手を離して道術をかけた。

 音楽が店に響き始める。

 店の全体から歓声があがる。

 

 それにしてもなんでこんなことになってしまったんだろう……。

 孫空女はいまさら隠すのも不自然なので、手を身体の前から外して身体の横に垂らした。

 旅芸人の一座のときに覚えた踊りといっても、ちゃんとした踊りじゃない。

 ただ、若い女が肌も露わに卑猥な動きをするのを見せるだけのものだから、腰を回転させて、がに股になって腰を下ろすという動きだけの繰り返しだ。

 かなり恥ずかしい踊りなのだが、もうやるしかない。

 

「待ちなよ。まだ、こいつが金を払ってないじゃないか」

 

 愉しそうに孫空女や朱姫の様子を眺めていた宝玄仙が、踊りだそうとした孫空女を留めて言った。

 宝玄仙が言及したのは、最初からこちら側でひとりで酒を飲んでいた小柄の若者だ。

 

「びた銭一枚でいいんだよ。見物料を出すのも、みんなで愉しくするための戯れさ。お前も出しな」

 

 宝玄仙がその若者に言った。

 

「なんで払うんだよ。俺は見たいわけじゃない。お前らが勝手に始めただけじゃないか」

 

 その若者は不機嫌そうに言った。

 

「だめだめ、美麓(みろく)は女には興味がねえんだ。男色家なんだ──。男が踊るんなら、喜んで払うかもしれねえけどな」

 

 集まっていた男のひとりがからかうように声をあげた。するとほかの男たちからも同調の笑いが起きた。

 この小柄な若者は美麓という名らしい。

 

「男色家?」

 

 しかし、その言葉に異常に宝玄仙が反応した。

 するすると歩いていき、その若者の隣の椅子に座り直した。

 

「お前、男色家かい……? つまり、男のくせに男が好きだということだね?」

 

 宝玄仙はなにか含み笑いをしながら若者に言った。

 

「放っておいてくれよ。あっちに行きなよ」

 

 若者は不愉快そうに言った。

 すると宝玄仙がその若者の耳元でなにかをささやいた。

 若者が激しく動揺するのがわかった。

 

「見物料を払いたくなったかい? 美麓とやら……」

 

 宝玄仙がからかうような声をあげる。

 

「は、払うよ……」

 

 若者が慌てたように手元から小さな袋を出した。

 そこから数枚のびた銭を出す。

 だが、それを宝玄仙が手で制した。

 

「そこに幾ら入ってんだい、美麓? 全部とは言わないよ。その半分くらい払いたいんじゃないのかい?」

 

「なっ」

 

 美麓が顔色を変えたのがわかった。

 だか、宝玄仙は驚いたことに、いきなりその美麓の股をわしづかみにした。

 孫空女もびっくりしたが美麓も驚愕している。

 慌てて宝玄仙の手を振り払おうとしたが、その美麓の耳に、また宝玄仙がなにかをささやいた。

 美麓は金縛りにでもあったかのように動かなくなった。

 

 宝玄仙がなにをしているかは、ほかの者たちには身体の影になってわからないはずだ。

 しかし、正面に向き合っている孫空女には、はっきりと美麓の股間を宝玄仙がもぞもぞと揉んでいるのが見えている。

 

 美麓の顔が引きつっている。

 そして、美麓は顔を真っ赤にし身体を左右に悶えさせながら、卓の上にざらざらとまとまった銀粒を落とした。

 かなりの金額だ。

 あれだけあれば、大人ひとりが一年は旅ができるだけの路銀になる。

 

「そんなにお前も孫空女の踊りが愉しみかい、美麓? まあ、堪能しておくれ」

 

 宝玄仙は銀粒を集めると、笑いながら元の席に戻った。

 だが、極端に耳のいい孫空女は、宝玄仙が美麓という若者にささやいた言葉をはっきりと聞きとっていた。

 宝玄仙がささやいた言葉は二回とも同じだ。

 

 

 “──女であることをばらされたくなければ、見物料を払いな”

 

 

 宝玄仙はそう言ったのだ。

 改めて美麓という若者を見る。

 言われてみれば女のような気がする。

 しかも、絶世の美女だ。

 それがわざと化粧を工夫して男にしか見えないようにしているのだ。

 胸も晒しかなにかで膨らみを隠してるに違いない。

 

 おそらく、面倒なことになるのが嫌で男の格好をしているに違いない。

 美麓が実は美女だとばれれば、確かにさっき孫空女たちが絡まれたように面倒なことになりそうだ。

 宝玄仙は美麓のような気の強そうな女が好きだ。

 だから見物料などどうでもよかったが、少しからかっただけに違いない。

 しかし、顔を真っ赤にして恨みのこもった表情をしている美麓を見ると、宝玄仙も可哀想なことをするものだと思った。

 まったく宝玄仙の悪ふざけにも呆れてしまう。

 孫空女は思わず嘆息した。

 

「今回は用事があるから相手はできないけど、いつか再会することがあったら、この宝玄仙が可愛がってやるよ。女もいいものだと教えてやるさ」

 

 宝玄仙が大きな声で言った。美麓がますます悔しそうな顔をするのがわかった。

 

「さて、じゃあ始めな、孫空女」

 

 宝玄仙が孫空女に顎で合図した。

 慌てて孫空女は踊りを始めた。

 後はなにもない。

 ただ、思考を停止して身体を動かすだけだ。

 無心になって脚を開き、腰を回す。

 

「いいぞお──」

 

「うほおっ──股ぐらが汗で下着が透けてるぜぇ──」

 

「いや、あれは淫ら汁だ。間違いないぜ」

 

「女陰が見えるぜ──」

 

 一斉に大歓声が飛んだ。

 透けて見える──?

 身体を動かしながら孫空女は狼狽えた。

 そんなはずはない……。

 

 しかし、もしかしたら、さっき朱姫によって、男たちの前に引っぱりだされたとき、緊張で汗をかいたかもしれない。

 

 そうだ……。

 汗だ……。

 

 だんだんと熱いものが身体に込みあがるのを感じながら、孫空女は股間で円を描くように腰を振る。

 

「孫姉さん、ちょっと感じてるみたいですよ──。お股からお汁が出てます」

 

 宝玄仙の隣に戻った朱姫がからかいの言葉を叫んだ。

 

「お、お前──。ちょ、調子に乗るんじゃないよ。い、一緒になって──」

 

 孫空女はかっとして叫んだ。

 

「うるさいよ、孫空女──。踊りをやめたら、お前の身体に道術を送り込むからね。どんな道術かはわかっているんだろう? 嫌なら、もっと激しく腰を回しな──」

 

 宝玄仙からも野次が飛ぶ。

 

「そ、そんなあ……」

 

 孫空女は仕方なくさらに激しく身体を動かす。

 歓声がどんどん大きくなる。

 しばらくするとなにか得体の知れないむず痒さが全身を苛んできた。

 なにか鈍い痺れのようなものが胸当ての下で揺れる乳房や小さく薄い下着に包まれた股間に込みあがってくるのだ。

 

 な、なんだろう……、この感覚……?

 孫空女は自分の身体の変化に狼狽えた。

 ふと見ると宝玄仙がにやにやしている。

 

 宝玄仙の口が動いた。

 孫空女に向けて言葉をささやいたのだ。

 それは、本来であれば聞こえるような声ではない。隣に座っている朱姫や後天袋にも聞こえなかっただろう。

 しかし、人一倍聴力のある孫空女の耳は、その宝玄仙のささやきを聞き取ってしまった。

 

 

 “──お前は、恥ずかしいのが気持ちよくて感じているんだよ”

 

 

 宝玄仙の口がそう言ったのだ。

 

「くっ」

 

 踊りながら宝玄仙のその言葉で明らかに自分の身体が反応したのがわかった。

 全身がかっと熱くなり、身体全体から汗が噴き出したのだ。

 そして、乳房や股間の疼きが大きくなる。

 

 

 “──股から淫汁が溢れてきたよ。感じているんだろう?”

 

 

 宝玄仙の口がささやく。

 人一倍優れている孫空女の耳を利用した嫌がらせだ。

 他の者には聞こえていていないが、孫空女にははっきりと聞こえるのだ。

 

 そして、その嫌がらせははっきりと孫空女のなにかを引き起こした。

 孫空女の身体はますます熱くなり、おかしなむず痒さが拡大していく。

 

 だが、身体の動きを遅くしたり、ましてや止めることは許されない。

 そんなことをすれば、この宝玄仙は孫空女の身体にどんな道術を送り込んでくるかわからない。

 本当に宝玄仙はやる。この変態女主人はそういう女だ。

 だが、そんな孫空女の変化に観客の男たちも気がついたようだ。

 

「どんどん、染みが大きくなっているぜ」

 

 誰かの言葉でどっと場が湧く。

 孫空女はもう耐えられずに、身体を動かしながら自分の股間を視線を向けた。

 

「ひいっ」

 

 びっくりした……。

 下着の端からかなりの粘液が溢れている。それがねらねらと灯りで輝くのが孫空女にははっきりと見えた。

 

「動きが遅くなったよ。激しく踊りな。罰を与えるよ、孫空女──」

 

 宝玄仙の大声が響いた。

 孫空女はもうどうでもいいという気持ちになり、さらに股を割り、腰を動かす。

 

 熱い……。

 子宮が熱い……。 

 膣が熱い……。

 

 もう自分が興奮しているのを認めるしかない。

 認めたくはないが、自分は見られていることで欲情している。

 ……恥ずかしいことを強要されて、それで股間を濡らしているのだ。

 泣きたくなるような恥ずかしさが全身を走る。

 

 それでも酔いのようなものが孫空女を襲う。

 気持ちいい……。

 興奮している。

 

 恥辱を感じているのに、その恥辱で脳が痺れたようになる。

 なにも考えられなくなっていく……。

 

 観客だけでなく、朱姫まで一緒になってからかいの野次を飛ばす。

 さらに、宝玄仙がいやがらせのささやきをする。

 しかし、その野次さえも気持ちいい。

 全身を快楽が襲う──。

 

「あはああっ──」

 

 なにか感極まったものが走り、孫空女はぶるぶると全身を震わせて大きな声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はっとした。

 気がつくと、朱姫の道術による音楽は終わり、孫空女は股間に両手を挟んで、その場に座り込んでいた。

 店中の客から拍手が送られている。

 股間がべっとりと濡れている。

 

 いった……?

 まさか……?

 

 もしかしたら、踊りながら達したのだろうか……?

 

 わからない……。

 途中から頭が真っ白になって訳がわからなくなった。

 

 凄まじい屈辱感──。

 凄まじい恥ずかしさ……。

 

 それが脳髄を痺れさせた。

 恍惚とした気持ちに孫空女を酔わせた。

 激しくて制御できない快感が孫空女を襲った……。

 

「もう、いいですよ、孫姉さん……」

 

 朱姫がにこにこしながら、そばにやってきた。

 孫空女の脱いだ服を差し出している。

 それをひったくる。

 

「……でも、孫姉さん、いやらしすぎますよ。あたし、とても淫らな気持ちになっちゃいました……」

 

 朱姫が赤ら顔でささやいた。

 

「う、うるさい──。お前、さっき、客と一緒になってあたしをからかったろう。覚えてなよ」

 

 孫空女は、朱姫を睨むと急いで席に戻った。

 そして、椅子の陰で素早く衣服を身に着ける。

 その時、服を着ながらそっと下着に触れた……。

 

 やっぱり、濡れている……。

 しかも、大量に……。

 これは、間違いなく達したときの濡れ方だ。

 でも……。

 

「どうしたんだい、孫空女? 今度は素っ裸でやりたくなったような顔をしているじゃないか。満更でもないような感じだよ」

 

 宝玄仙がからかうように言った。

 

「や、やめてよ、ご主人様」

 

 孫空女は動揺を隠そうと、思わず宝玄仙から視線を逸らせた。

 

「いやあ、いいものを見せてもらいましたよ。素晴らしかった。まだ、俺の一物はびんびんに勃っていますよ」

 

 不意に不快な声が割り込んだ。

 後天袋(こうてんおう)だ。

 そういえば、こんな男もいたのだと思い出した。

 

 朱姫が立ちあがって、観客の男たちをまた口上めいた台詞で追い払っている。

 孫空女の踊りを愉しんだ男たちも淫情に興奮している様子だ。

 そんな男たちを次から次に娼婦たちが引っ張っていく。

 

「さて、じゃあ、さっそく案内をしてもらおうかね、後天袋」

 

 宝玄仙が言った。 

 それを合図に全員が出立の態勢をとるために席を立った。

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