「や……が……げ……て……」
朱姫が泡のようなものを口から噴きながらなにかを喋っている。
もう孫空女にも朱姫がなにを喋っているのかわからない。
もしかしたら、ただの呻き声であり、なんの意味も持たないのかもしれない。
とにかく、朱姫はもう数刻も蛭のようなものに全身をたかられていた。
どうやら、朱姫の身体の感度を極限までにあげる毒液を抽入するとともに、密着している表面に振動を与えて朱姫を責めたてているようだ。
その責めに朱姫はいき続けるような反応をずっと繰り返している。もう半狂乱だ。
「なんと言ったのだ、朱姫? 殺してくれ……。そう言ったのであろうな。それとも、宝玄仙を殺すのか、孫空女を殺すのか決心がついたのか?」
朱姫を包んでいる膜の前に座っている
すると朱姫の全身が見えなくなるほどに張りついていた蛭がぼとぼとと一斉に落下した。そして、床に吸い込まれて見えなくなる。
だが、朱姫がほっとして息をつく暇はなかった。
今度は、朱姫の入っている膜の筒の中に無数の真っ白い綿の塊りのようなものが浮きあがった。
「はひいっ──」
真っ赤に充血した朱姫の身体がぴんと硬直して仰け反った。
出現した綿が膜の中で飛び跳ね、朱姫の全身を四方八方から擦り始めたのだ。
媚薬漬けになっている朱姫の股間からまるで尿でも洩らすかのように淫液がまた滴り始める。
朱姫は両手を頭の上に伸ばした身体をのたうち始めた。
この二日ずっとかたちを変えて繰り返し続ける光景だ。
朱姫の身体は継続的に飲まされている強力な媚薬と膜の中に立ち込めている香のために限界まで性感をあげられている。
最初の頃こそ、熟れきった身体を触ることを許さずに焦らし責めにかけていた黄眉だったが、朱姫は結局それに耐えきったことで責めのかたちがいまでは変わっている。
黄眉は、焦らし責めにかければどこかの時点で、朱姫が屈服して自慰を始め出すと考えていたらしい。
そして、一度自慰を始めれば、媚薬漬けの身体は快感を求めて、ひたすらに性感帯を自ら抉ることになり、朱姫がこれによって絶頂すれば宝玄仙と孫空女を包んでいる筒に大量の毒香が注ぎ込まれるようにしていたのだ。
だが、朱姫は耐え続けた。
結局、どんなに媚薬浸けにされようとも、最後まで自分の身体を慰めようとはしなかった。
全身を真っ赤にして、汗と涎と涙と垂れ流しながらも朱姫は懸命に一日以上の時間を耐えた。
すると一転して黄眉は、今度は朱姫を徹底した刺激責めにしたのだ。
感度が最高度まであがった朱姫をあの手この手で快楽責めにしている。
その状態がもう二日近くも続いている。
いま、朱姫が頭の上に伸ばした手にはそれぞれに取っ手が握られている。
朱姫がそのどちらかを手放せば宝玄仙か孫空女が死ぬ。
あるいは、朱姫が自分を殺してくれと言えば、朱姫自身が死ぬことになる。
黄眉が朱姫に与えている条件はそれだ。
それで朱姫は頑張っている。
果てしない連続絶頂の状況に陥りながらも、朱姫はああやって懸命に数日間も立ち続けているのだ。
これで朱姫は四日間も立ち続けているという状況になるはずだ。
よくも体力がもつものだと思う。
眠ることなくただ立ち続けているというだけではない。
羽根責め、刷毛責め、黄眉の遠隔の舌責め、触手責め、そして、さっきまでの蛭責め……。
ありとあらゆる手段で果てしなく朱姫の全身は快感を与えられ続けた。
朱姫は際限のないさまざまな刺激の連続責めに、いまではほんの少しの刺激でもああやって股間から淫液を垂れ流すほどになっている。
それでも朱姫は懸命に体力と精神の限界を超えて、いまでも両手を高く伸ばして取っ手を掴み続けている。
黄眉もただの十五、六の少女しにか見えない朱姫がどうしてこんなにも耐えられ続けられるのか不思議に思っているようだ。
それでやけになって朱姫を責めたてているのかもしれない。
最初の二日間こそ、宝玄仙も孫空女も責められていたのだが、いまでは忘れられたように放置されている。
宝玄仙の膜の筒には、離せばほかのふたりを殺す取っ手がふたつあるから立っていなければならないが、孫空女に至ってはなにもないから、座ることも眠ることさえできる。
とにかく、孫空女も宝玄仙もただただ、黄眉が朱姫を責めるのを見守るだけしかできない。
「い、いい加減にしなよ、黄眉──。あ、あたしを責めな。殺すならあたしを殺せばいいだろう──」
孫空女は怒鳴った。
何度同じことを叫んだだろう。
しかし、黄眉はうるさい虫の羽音でも聞いているかのように反応しない。
「そろそろ、限界なのではないか、朱姫……。このままではお前の体力が尽きるぞ。体力が尽きれば、お前はただしゃがみ込むか倒れ込むだけかもしれんが、お前の大事な仲間が死ぬぞ……。力尽きて手を離す前に自分を殺した方がよいのではないか? どうだ、殺して欲しければ、首を三度縦に振れ……」
すると朱姫は微かに首を横に振った。
孫空女は安心した。
孫空女は、朱姫が自分を殺せという意思を示すのを怖れていた。
朱姫は耐え続けられる限り耐えるつもりだろう。
いま、黄眉は朱姫の責めにかかりきりなので、朱姫が耐えている限り、孫空女と宝玄仙に対する責め苦はないからだ。
だが、朱姫は体力が尽きる前に自分を殺すことに同意しなければならないとも考えているはずだ。
黄眉が言及したように、朱姫の体力が尽きて、自分を殺せという意思を出すことなく、朱姫が気を失って両手を手放せば、自分よりも先に孫空女と宝玄仙を死なすことになるからだ。
「そうか……。なら、さらに綿の速度をあげるかのう……」
黄眉がそう言い、これまでくすぐるようにしか動いていなかった罠が凄まじい速度で朱姫の裸身を擦り始めた。
全身を同時に綿に激しく愛撫される朱姫の反応が再び常軌を逸したものになった。
「ひゃああ……があああああ……いしゃああ……」
もう奇声にしか聞こえない朱姫の大きな嬌声が迸る。
全身を小さな綿に擦られ続けている朱姫がまた尿のようなものを股間から垂れ流した。
それが尿であるのか、それとも潮のような淫液の塊りであるかわからない。
いずれにしても、もうああやって果てしなく絶頂し続けるというのが本当に可能なのかと思うほどに、朱姫は何日も連続絶頂に耐えている。
孫空女は、この朱姫の果てしない持続力にも心から驚嘆していた。
そして、やはり、この人間の少女にしか見えない娘には、底知れない力を帯びた妖魔の血が半分は流れているのだと思った。
「も、もういいよ、朱姫……。まず、あたしを死なす手を離しな……。そうすれば、黄眉はあたしを剥製にする時間は、お前を休ませるに違いないよ」
孫空女は怒鳴った。
すると全身の刺激に喜悦の声を張りあげ続けていた朱姫がふとこちらに視線を向けた気がした。
だが、その顔がほんのわずかに横に一度振られた。
そして、前後左右から襲いかかる綿の刺激にのたうち続ける態勢に戻った。
「朱姫──」
孫空女は叫んだ。
だが、もう朱姫は孫空女も顔を向けなかった。
そして、朱姫は悲鳴のような雄叫びの合間にも、しきりになにかを呟き続けていた。
それに合わせて黄眉が頷いたり、表情を崩したりしている。
どうやら朱姫は黄眉と会話をしているのだが、それもずっと続いている光景のひとつだ。
ただ、孫空女の筒の中からでは、ふたりがなにを話しているかはわからない。
「まあいい……。確かに一度に追い詰めても面白くはないな。数刻だけ休ませてやる。その間にわしは食事をしてこよう……。そのうちに、新しい女も届くはずだ。さっき、後天袋から新しい女を仕入れたという連絡も入ったしな。そうしたら新しい趣向を考えておる。愉しみにしておれ、朱姫……」
黄眉は立ちあがった。
そして、朱姫の筒の中を荒しのように吹き荒れていた綿が一斉に消滅した。
朱姫の身体が脱力する。
「……ただし、寝ることだけは許さん、朱姫。そのまま立ち続けろ。体力が尽きるまでな」
黄眉は冷酷な笑みを浮かべると、部屋を出て行く扉に向かい、そして、その向こうに姿を消した。
部屋は孫空女と朱姫と宝玄仙の三人だけになった。
部屋の中に束の間に沈黙が訪れる。その沈黙に朱姫の苦しそうな息遣いだけが響く。
「……朱姫、お前、昨日からずっと『縛心術』を遣っているね?」
やがて、その沈黙を破って、これまでずっと黙っていた宝玄仙が言った。宝玄仙もまた、両手を上にあげて立っている。
宝玄仙の頭の上にもふたつの取っ手があり、そのどちらかを離せば孫空女と朱姫のいずれかが死ぬというのは、朱姫に与えられている条件と同じだ。
しかし、最初の二日間は、宝玄仙は発狂するような掻痒剤を全身に塗って、取っ手を握ることを耐えなければならなかったが、いまはなんの薬剤も塗っていない。
立ったままでいなければならないので、四日間、眠っていないのは朱姫と同じだが、責められ続けている朱姫に比べれば放置されているのと同じだ。
それはともかく、孫空女は、朱姫が『縛心術』を遣っているという宝玄仙の言葉に驚いた。
「しゅ、朱姫が『縛心術』って、どういうことだい、ご主人様?」
孫空女は声をあげた。
「こいつは昨日くらいから、ずっと『縛心術』で黄眉に自分だけを責めるように誘導しているんだよ。わたしらを責めていたあいつが、突然に朱姫ばかり責めだしたのはそういうことさ……。そうだろう、朱姫?」
宝玄仙がそう言ったので孫空女は驚愕してしまった。
「……あ、あたし……を……責めている間は……あ、あいつは……ご、ご主人様と……そ、孫姉さんを……せ……責めません……。あ、あたしが……耐えている間は……」
息も絶え絶えの朱姫から絞り出すような声がした。
「な、なんだって、朱姫──。お前、わざと自分を責めさせていたのかい? なんで、そんなことしてるんだい?」
孫空女は叫んだ。
考えてみれば、朱姫は責められながらも、ずっと黄眉となにかを会話をしていたような気がする。
この筒の中では、宝玄仙も朱姫も道術は封じられているが、朱姫は道術なしで『縛心術』をかけられることができる。それを遣ったのだろうか……?
「だ、だけど……あたしは……た、多分……もう、駄目です……。限界が……来る前に……黄眉には……あたしが死ぬことに同意……し、します……。この後か……、もって、明日……」
朱姫が言った。
やっぱり朱姫はそのつもりだったのだ。
だが、孫空女はぞっとした。朱姫はこの三人の中で最初に死ぬつもりであり、それを実行しているということがわかったからだ。
それに、朱姫自身が言ったように、一身に黄眉の責めを受け続けている朱姫はもうもたないだろう。
朱姫が自分の力が尽きることで、両手に持たされている取っ手を離すことを避けるには、確かに朱姫は、自分の限界を見極めて、力尽きるよりも先に自分の死を選ぶしかない。
「だ、だったら、黄眉を操ってあたしたちを解放するように操ればいいじゃないか──」
孫空女は喚いた。
「黙りな、孫空女……。朱姫だって、それができればそうしているさ。だけど、道術による『縛心術』とは違って、相手の感情に逆らってまで操れない……。そうなんだろう、朱姫?」
宝玄仙が言った。
すると朱姫が汗と鼻水と涙と涎で汚れた顔を小さく頷かせた。
「あ、あたしは……あ、あいつの……よ、欲求……を満たす……方向にしか導けません……。そ、それ以上は……。あいつは、最初にあたしを……こ、殺したがって……い、います……。その感情を助長するように……で……あれば……操れる……」
朱姫が懸命に口を開く。
「もういい、朱姫……。とにかく、少しでも身体を休ませな」
宝玄仙が言った。
だが、朱姫は首を横に振った。
「……き、聞いてください……。さ、さっきも言いましたが……あたしは長くても……明日には……死を……選びます……。でも、もしかしたら……、別の生贄が……届くかも……。そうしたがるように仕向けました……。そうすれば……あ、あいつは、あたしの責めを少し中止して……その女を責めます……。そう擦り込みました……。だ、だけど、それ以上は、引き伸ばせません……。それくらいしか……操れなくて……。す、すみません……。どうしても、ご主人様や……そ、孫姉さんを解放するようには……あ、あいつの……か、感情を操れない……。ご、ごめんなさい……ごめんなさい…………ごめんなさい…………ごめんなさい…………ごめんなさい……」
朱姫が俯いたまま呟き続ける。
「もういい。もういいから──」
宝玄仙が声を振り絞るように言った。
孫空女もやっと悟った。
なぜ、突然に自分に対する責め苦がやんだのか……。
なぜ、朱姫ばかりを責めるようになったのか……。
「それよりも、よくお聞き、朱姫。お前が死ぬときは、わたしたちも死を選ぶよ。お前だけを先に死なせはないよ」
宝玄仙が言った。
「え……?」
朱姫が顔をあげた。
「お前がもしも、自分が死ぬことに宣言したときには、わたしはわたしが持たされている取っ手をすぐに離す。そうすれば、お前も孫空女は死ぬ……。そして、わたしもここで自殺する。そう言っているんだよ──。そうすることに決めた。文句はないね、孫空女」
宝玄仙は怒ったような口調で言った。
孫空女は微笑みを宝玄仙に向けた。
「も、もちろんさ……。ここまで来たら、三人で一緒に死のうよ。それだったら、ご主人様と朱姫が持っている取っ手を同時に離したらどうなんだい? それで一緒に死ねるはずじゃないか……」
「そうだね。孫空女の言う通りさ……。馬鹿のお前にしてはなかなかいい策じゃないかい、孫空女」
「そうだろう、あたしだって、策くらい考えるのさ、ご主人様」
孫空女はわざと明るく言った。
「ああ、いい策だよ。それなら、確実に一緒に死ねるからね。本当にお前もたまにはいいことを言うじゃないかい、孫空女。そうだね。同時に離そうよ、朱姫……。だから、もう、頑張らなくていい……、一緒に死のう。いいね、朱姫──。お前も覚悟を決めな、朱姫。限界だと思えば、黄眉じゃなくてわたしに言うんだ。そして、三人同時に死ぬことを選ぼう」
すると朱姫がかすかに頷いた。
「そうだよ。一緒に死のうよ、朱姫」
孫空女は言った。
「わ、わ……わかり……ました……。そう……します……」
朱姫は言った。
そして、朱姫の口から寝息のような呼吸音が聞こえ出した。実際には眠ってはいないのだろうが、まるで寝ているようなそんな静かな呼吸だった。
朱姫の横顔は張りつめていたものがなくなったような、そんな安心した寝顔のようにも思えた。