「さて、このところ、朱姫ばかり掛かりっきりだったな……。考えてみれば、宝玄仙の薬責めが途中だったような気がするのう。頭の上の取っ手は消してやったぞ、宝玄仙。もう手を離してよい」
その言葉と同時に、手の中の取っ手が消滅した。
宝玄仙は崩れ落ちるようにその場にしゃがみ込んだ。
「誰が座っていいと言ったか──。その場で立っておれ。立たねば仲間をふたりとも殺すぞ」
膜の筒の外の黄眉が形相を変えて大喝した。
宝玄仙は舌打ちをして立ちあがる。
しかし、まるで力が入らない。
それでもすぐに立たなければ朱姫と孫空女が殺される……。
宝玄仙は懸命になって足に力をこめ、なんとかその場に立った。
だが、一度座ってしまうとなかなか身体を起こすのが難しかったことで、それ程までに自分の身体は衰弱しているのだと知った。
立ちあがるとまた掻痒剤の入った小瓶が放り入れられた。
今日は三個のようだ。
宝玄仙は自分の顔が引きつるのがわかった。
「わかっておるな、宝玄仙……。三瓶全部使いきれ。今日も長い一日が始まるぞ」
黄眉がくくくと笑った。
宝玄仙が歯噛みしながらも、自分を極限まで苦しめることがわかっている薬剤を手にすくった。
せめてできるだけ胸に塗りたくろうと思うが、ひと瓶以上を胸につけることは禁止されている。
そして、ひと瓶分は必ず肛門の中に擦り込まなければならないとも決まっている。
必然的に三個の瓶は胸、股間、肛門という割り振りになる。
宝玄仙はつんとする刺激臭のある薬剤をこれでもかというように乳首に塗りつける。
だが、絶対に達しないようにとも言われているので、注意深くならなければならない。
普段は道術で押さえているのだが、かつて千代婆とかいう糞婆に乳首の性感を毀されてしまっているので、道術が遣えないいまの状態では、乳首が壊れたように感じるのだ。
こうやって薬剤を塗っているだけで激しく反応しそうになる。
だが、そんなことを知られようものなら、この黄眉はどんな嫌がらせを思いつくかわかったものじゃない。
宝玄仙は乳首が弱点であること悟られないように注意深く乳首に薬剤を塗っていく。
そして、塗りながら隣の筒にいる朱姫を見た。
筒の中でしゃがんですやすやと眠っている。
その向こうの筒では、相変わらず元気な孫空女が黄眉に喚きたてているが、黄眉は関心がないかのように無視している。
とにかく、朱姫が休むことができていることに宝玄仙は満足した。
連日にわたって朱姫を責めたてていた黄眉が、一転して再び宝玄仙を責め始めたのは理由がある。
つまりは朱姫の『縛心術』だ。
朱姫が言葉で黄眉を操って、責めの対象を朱姫ではなく宝玄仙となるように黄眉を誘導したのだ。
朱姫によれば、黄眉は最初の殺すのは朱姫と決めているのと同じように、宝玄仙にもっとも興味を抱いてもいる。
だから、黄眉を操って、責めの対象を朱姫から宝玄仙に変えさせることは可能だったのだ。
宝玄仙がそれを指示したとき、朱姫は躊躇ったが、今日、自分が責められればもうもたないということはわかっていた朱姫は宝玄仙の命令を受け入れた。
朱姫の屈服は朱姫の死ではない。
全員の死だ。
だから、責められる対象ができるだけ分散するように誘導してみんなで耐えるべきだ。
そう言って朱姫を納得させた……。
孫空女は、今度は自分が責められると主張したが、道術なしの朱姫の『縛心術』では、黄眉の感情に逆らった行動を取らせることは難しいようだ。
それで今日責められるのは宝玄仙ということになった。
こんな風に殺されるのを一日伸ばしにすることにどういう意味があるかわからないが、いまできることはそうやって命をなんとか一日一日繋げていくことだけなのだ。
やっと三個の小瓶を塗り終わった。
「お、終わったよ、黄眉……」
宝玄仙は空の容器を膜の外に投げた。肉体以外ものはなんでも素通りできるし、逆に外から内側であればなんでも膜の中に入れることができる。
だが、宝玄仙の肉体そのものだけはどうしても膜の外に出すことができない。
また、膜の中では一切の道術が遣えない。
霊気が動かないのだ。
そういう仕掛けを施しているようだ。
さすがの宝玄仙でも霊気が動かなければ道術を遣えない。
どうみても、黄眉など三下程度の妖魔だが、それにこうやって屈しなければならない口惜しさは胸が裂けるような思いだ。
いずれにしても、おそらく、また頭の上に取っ手がふたつ出現して、それを握らされる。
そして、丸一日間そのまま耐えさせられるのだ。
発狂するような痒みに気も失うほどに朦朧となる頃にやっとその苦しみから解放される。
許されるのではない。
それだけの時間が経てば、さすがに掻痒剤の効果が薄れてくるのだ。
だが、それくらいになればもう次の一日が始まる。
そして、新しい薬剤を筒に放り込まれる……。
宝玄仙が一日……。
そして、宝玉に交替して一日……。
二日あれば朱姫の体力も回復するだろう。
朱姫は『縛心術』でなんとか黄眉の興味を宝玄仙たちから離すように『縛心術』を刻もうとしている。
つまり、『縛心術』で三人を解放するように誘導しようとしているのだ。
しかし、黄眉は三人を解放することは望んでおらず、いまのところそれが成し遂げられる気配はない。
だが、現段階ではそれが唯一の望みだ……。
「今日は趣向を少しだけ変えようか、宝玄仙。いつもの取っ手はなしだ。その代わり、いま薬剤をお前が塗ったところにお前が触ってはいかん。ひと触りでもすれば、その瞬間に仲間を殺す毒気を流すことにする」
黄眉が言った。
なんでも勝手にやればいいと思った。
しかし、次の瞬間、宝玄仙はついにまた恐怖がやってきたことがわかった……。
「くっ」
宝玄仙は両手をぐっと握りしめた。
痒みが襲ってきたのだ……。
いよいよ自分が大量に塗り込めた掻痒剤が効果を発揮し始めたようだ。
だが、宝玄仙は身体の横の両手をどうしたらいいかわからずに握ったり、開いたりした。
両手で掴むものを与えられないというのは思ったよりも苦しい。
取っ手があれば、宝玄仙の意識はただ取っ手を離さないことだけに集中すればいい。
だが、触ってはならないという条件であれば、宝玄仙の意識は掻痒剤を塗り込めた局部に集中せざるを得ない。
気を抜けば、逆にだんだんと局部に手が近づきそうになるからだ。
だから、一瞬たりとも意識を集中せざるを得ない。
だが、それはずっと局部を苛む痒みのことを考え続けなければならないということでもある。
これは思ったよりもつらい……。
宝玄仙はだんだんと自分の口から嗚咽のような声が洩れだすのがわかった。
「どうだ。少しは痒くなったか。遠慮なく掻くがいいぞ。両手は自由なのだ」
黄眉がいつもの揺り椅子に腰掛けて哄笑した。
「ああ、も、もう、もう、許しておくれ……」
思わず無駄だとわかっている哀願を口にしてしまう。
「なにを許すのだ、宝玄仙? 遠慮なく掻けと言っているではないか。お前の苦しみを癒してくれる両手は自由だ」
黄眉が笑った。
宝玄仙はなにかの気配を感じで顔をあげた。
いつの間にか黄眉は長い一本の棒を持っていた。
はっとして、宝玄仙は思わず身体を緊張させた。
黄眉がその棒を宝玄仙の入っている筒にすっと差し入れたのだ。
「ほれっ……。触れ──。掻け。掻かんか」
棒で宝玄仙の手を股間に押しやるようにしてきた。宝玄仙は慌てて手を上にあげて棒を避けた。
「わしの持つ棒を掴むなよ、宝玄仙──。わしが押し付ける分はなんでもないが、棒に自ら触れば、自分から手で掻いたのと同じことになるようにすでに道術を刻んでおるからな。あるいは、棒に股間を自ら擦りつけても同じだ。どんなに耐えられなくなっても、仲間を殺したくなければ自らは動くでないぞ……。だが、棒に股間を擦りつけるのは甘美だと思うぞ……。ほら、こうしてやろう……。棒に股間を擦りつけろ。気持ちいいぞ、宝玄仙……。ほれっ……」
黄眉が笑いながら強引に宝玄仙の股間の下に棒を差してくる。
そして、からかうように股間を棒で刺激してきた。
宝玄仙はただれるように痒い部分を刺激されて吠えるような声をあげた。
すると、黄眉はその棒を宝玄仙の股間にぴたりと密着するように固定したのだ。
「あああ……。や、やめておくれ──。お、お願いだよ──。そ、それは……」
宝玄仙は悲痛な声を発した。
全身が突きあがるような痒みに襲われているところに、その痒みの頂点に棒を当てられたのだ。
だが、その股間をぴくりとも自ら動かせば朱姫と孫空女が入れられている筒に毒気が流し込まれる。
「痒ければ腰を動かせ。もっとも、そうすれば仲間は死ぬがな。ぴくりとも動かんというのは思ったよりもつらいであろう? ずっとこうしておいてやるぞ。いつまで耐えられるかのう?」
黄眉が笑った。
宝玄仙は呻き声をあげていた。
耐えがたい痒みに襲われている宝玄仙は、これで身悶えさえできなくなったのだ。
少しでも身体を悶えさせれば棒で股間を擦ってしまう。
そうすれば朱姫と孫空女を殺すことになってしまう……。
「腰を動かせ。気持ちがいいぞ……。こんな風にな……」
黄眉がわざと棒の表面で宝玄仙の股間が当たっている局部を一度だけ擦った。
「あひいいいっ──」
発狂寸前の痒みが棒で擦られる気持ちよさは甘美というには、あまりにも衝撃的だった。
宝玄仙は絶叫したが棒が動いたのは一度だけだ。
また、ぴたりと止まる。
しかし、一度でもさっきの甘美感を知ってしまえば、もう耐えられない。
このままの状態で腰を動かさないでいることなど不可能だ。
宝玄仙は次のひと擦りを求めて気が狂いそうになった。
このまま、棒を股間に密着され続けては、いつか無意識のうちに自ら腰を動かしてしまいそうだ……。
このままでは──。
「お、ああ……お、黄眉……お願いだよ──。もう一度、もう一度だけ動かして──」
宝玄仙は悲痛な声をあげた。
「もう動かしてはやれんな。そんなに擦りたければ、自分で動かしたらどうだ? ほら、気持ちいいぞ……」
黄眉が宝玄仙を呷るように軽く棒を震わせる。
「あがああっ──」
痒みを癒すほどには至らない微妙な動きだ。
それだけで一層痒さが助長されて宝玄仙は悲鳴を張りあげた。
身体が自分の意思から離れていく気がする。火で抉られるような痒みは激痛のようにも感じる。
痒い……。
痒い……。
ほんの少し……。
ほんの少し動かせば……。
いや、駄目だ……。
それだけは……。
でも……。
「お、お願いだよ、黄眉……。た、頼むから……」
宝玄仙は身体を震わせた。
このままでは屈服してしまいそうだ。
いままでの条件は、取っ手を掴んだ手を離すなというものだった。
それはなんとか耐えられた。
だが、今度はぴたりと棒を当てられた股間を動かしてもならないというのだ。
そんなこと無理だ……。
痒みはますます耐えがたいものになっていく。
しかし、不意にすっと棒が宝玄仙の股間から離れた。
「おう、来たようだな……」
黄眉が立ちあがっている。ふと見ると部屋を出て行こうとしているようだ。
すでに棒は膜の外に出されていた。
宝玄仙はどっと脱力感に襲われた。
なにが起きたかわからないが、ぎりぎりのところで救われたという感じだ。
とにかく、助かった……。
とりあえず、これまでの我慢を取り戻すかのように太腿を擦り合わせて腰を動かす。
それで痒みが癒されるわけではないが、切れそうだった神経が少しだけ正常な方向に戻るような気がした。
黄眉が部屋の外からいなくなった。
「くううっ……。い、いまのは危なかったよ……」
宝玄仙はわざと軽口を孫空女に言ってみせた。
しかし、孫空女の顔は悲痛だった。
そして、驚いたことに涙を流していた。
「お、お前……、なに……泣いているんだい……?」
宝玄仙は呆れて言った。
「だ、だって……」
なにが悲しいのがさらに孫空女はぼろぼろと涙をこぼした。
宝玄仙は孫空女にもう一度声をかけようとしたがそれはできなかった。
黄眉が戻ってきたのだ。
しかし、ひとりではなかった。
黒い外套に身を包んだ女をひとり伴っている。
さらに、後ろからあの
そういえば、朱姫が時間稼ぎに、新しい生贄となる女を仕入れるように黄眉の心を誘導したとか言っていたような気がする。
三人を責めるのを中断して、新しい女にかかりきりになるように『縛心術』で誘導したのだ。
朱姫の言う通りなら、黄眉は『縛心術』に操られて、宝玄仙たちに対する責めに優先して新しい女に構うことになるはずだ。
なぜかそういう気になるのだ。
それがこの女なのだろう。
これでひと息だけはつけるはずだ。
それにしても、この女はなかなかの美形だ。
不貞腐れたような……、あるいは怒ったような表情をしている。
それにしてもどこかで見覚えがあるような……。
それで思い出した。
「お、お前、
宝玄仙は言った。
美麓に間違いなかった。
ほんの少ししか見てはいないが、
それにしても男装をしていない美麓は随分と美女なのだと思った。
後天袋がさっと美麓を覆っていた黒い外套を剥ぐ。
両腕を後手縛りに拘束され、さらに奇妙な貞操帯を付けさせられている美麓の裸身がそこに現れた。
*
「ほう、これはまた美形だな」
黄眉はほくそ笑んだ。
このところ後天袋は実にいい仕事する。
宝玄仙といい、ほかのふたりの供といい、そして、今回の女といい黄眉の蒐集品に相応しいいずれ劣らぬ人間の美女だ。
「美麓という女です。なかなかのお転婆な女ですから縛っております」
後天袋が言った。
「そうか。だが、もう解いていいぞ。その不細工な腰のものもな」
腰に嵌めているのはなにかの霊具のようだ。
おそらく、この女を性的に責めるためのものだろう。
それはそれで愉しいかもしれないが、最終的には剥製にするのだから筒に入れる時点で下品なものは不要だ。
縄で縛って来たのも黄眉には不満だ。
縄の痕が残るからだ。
それを残さないためにはすぐに殺さずに、縄の痕がなくなるまで生きたまま筒の中に留めておかなければならないからだ。
普段であれば、後天袋が連れてきた女を死の恐怖でじわじわと追い詰めながら責めるのも愉しい作業だ。
しかし、今回は急いでいるのだ。
早く追加の女を処分して、宝玄仙たちを剥製にする仕事に戻りたい。
なかなかにしぶとい連中だったから四日も経ったのに三人ともまだ生かしてしまっている。
それで、この新しい女を早く剥製にして、宝玄仙への責めに戻りたいところだったが、美しい剥製にするために縄目がなくなるように少なくとも一日は待つ必要があるだろう。
一瞬だけ、なぜ、新しい女を最初の三人に優先しなければならないのだろうかという疑問が走ったが、その考えは霞のようなものに隠れて消えてしまった。
とにかく、この三人に優先して新しい女を剥製にしなければならないのだ。
そうしなければならない……。
「これもこの女を躾けるための道具というわけでして……。なにしろちょっとでも油断すると逆らうんです。この霊具も実はその宝玄仙から奪ったものなんですがね……」
「なんてもいい。早く外せ……。縄もだ」
黄眉は苛ついて言った。
いつもだったら、いいのだ。
絶対に脱出できない透明の筒、即ち、
それが美女の剥製を集めることと並ぶ黄眉のもうひとつの趣味だ。
しかし、今回は早く新しい女を処分して宝玄仙への責めに戻りたい。
また、なぜ、新しい女を優先しなければならないのだという考えが浮かんだ。
だが、またしても、それは頭の中のもやの中に隠れてしまう。
後天袋が美麓の後ろに回って腰の貞操帯を外した。がちゃんと音を立てて貞操帯が美麓の股間の下に落ちた。
ふと見ると股間の部分に触手のようなものが見える。
どうやらあの触手で美麓という女の股間を自在に苛んで、抵抗を防いでいたのだろう。
続いて後天袋が懐から小刀をだして美麓の身体を縛っていた縄を切った。
ぱらりと縄もその場に落ちる。
「ちっ」
舌打ちだったが、この女が初めて口を開いた。
ずっと後手に縛られていたのか、たったいままで縛られていた二の腕を擦るような仕草をした。
「それっ、そっちにいけ」
黄眉は美麓の尻をぴしゃりと叩いて、縄や貞操帯が落ちた部分から離れるように促した。
「さ、触るんじゃないよ」
美麓がきっと黄眉を睨みつけた。
だが、それで美麓は数歩だけ移動した。
もう、それで十分だ。
黄眉は道術を込めた。
美麓の裸身は膜のような筒で囲まれた。
「な、なに……?」
美麓が驚いている。そして、おそるおそる両手を前に出した。
だが、その両手は見えない壁に阻まれている。
「わっ、な、なにさ、これ?」
中で美麓が声をあげている。
「どうですか? 気は強いですがいい女だと思いますがね」
「まあ、確かにな……」
後は幾らでも好きなように料理ができる。
黄眉は改めて美麓という女を見た。
両手を前にして懸命に裸身を隠そうとする仕草をしながら、きっと黄眉を睨む顔にはなかなかの気の強さがかいま見える。
黄眉は、美麓を眺めているうちに、すぐに処分せずに、宝玄仙たちのように数日間生かしておいてじわじわと追い詰めるのを愉しんでもいいかもしれないという気になった。
強い女を泣き叫ばせるのは実に愉しい。
いずれにしても、黄眉にはこうやって筒の膜に包んだ直後に獲物の女に必ず行う儀式があった。
女の股を舌で舐めるのだ。
もちろん遠隔で舌の感触だけを飛ばすのだが、それは最初に蒐集品にした女から続いている行為だ。
先日、捕えた宝玄仙もそうしたし、朱姫もそうしたし、孫空女もそうした。
「ひゃん──」
美麓が筒の中で股間を押さえて飛びあがった。
いま、美麓の股間には黄眉の舌の感触が伝わったはずだ。
黄眉の舌にも美麓の股間の淫液の味が伝わってきた。
なんだか痺れるような不思議な感触だ。
「な、なにすんだい──」
美麓が股間を押さえて赤い顔をしている。
しかし、どんなに股間を押さえても、遠隔操作で舌の感触だけを飛ばしているだけなので防ぎようはない。
そうやって逃げられようのない状況で人間の女を苛むのが好きなのだ。
もう黄眉も二百年以上も生きている。
女を犯すこと事態はもうあまり興味が薄くなっている。
それよりも、こうやって美術品として女を剥製の人形として残すことと、その過程において女を追い詰めてなぶるのがいいのだ。
犯そうと思えば、筒の中に入れた状態でも犯せる。
筒の中であれば、実際の性交と同じように肉棒でも舌でも、好きなように感覚を飛ばして実際に触れているような感触を得ることができる。
さっきのように股間を舐めれば、黄眉の口の中には、実際に舐めるのと同じ女の体液が入ってくる。
「おうおう、赤い顔して可愛いのう……。もう一度味わうか」
黄眉はさらに舌を筒の中に送った。
「ひいっ」
また美麓が股間を押さえて身悶えた。
「美麓よ、その筒の中に入れられた以上、もはや命は諦めるがよい……。お前の身体の縄の痕が消えるのを待って美しい剥製にしてやるからのう……。愉しみにしておれ」
黄眉は笑った。
しかし、次の瞬間、なにか違和感が全身に走った。
腹がじわじわと捻じれるような……。
「な、なんだ──?」
黄眉は声をあげた。
不意に物凄い激痛が襲った。全身の力が抜けてその場に崩れ落ちる。
なにかが込みあがった。
自分の口から大量の血が吐き出た。
「うごおおっ──」
黄眉は腹を抱えてその場にうずくまった。
怖ろしい激痛が身体に走る。
毒だ。
一瞬で悟った。
だが、なぜ……?
しかし、それ以上考えることができなかった。
激しい痛みがはらわたを捻る。
黄眉は床にのたうち回りながら懸命に口に手を入れようとした。
とにかく吐いて口の中のものを出さなければ……。
しかし、その手を不意に力一杯に踏まれた。
「あがっ?」
顔をあげた。
後天袋だ──。
その足が黄眉の手を踏んで、黄眉が毒を身体の外に出そうとするのを防いだのだ。
なぜ──?
黄眉は困惑した。
そして、後天袋の右手に小刀が握られているのがわかった。
小刀が振りおろされて、自分の喉に当たるのを感じた……。
それが最後の知覚になった……。
*
筒の向こうの眼下の黄眉は喉から血を流し続けている。
大きく見開いたような眼は確実に生気を失っている。
もはや、黄眉が死んだということはわかった。
だが、なにが起きたのか、孫空女にはさっぱりとわからない。
「し、死んだ……?」
孫空女は呟いた。
それと合わせるように、孫空女たちを監禁していた見えない筒が同時に消滅した。
孫空女はその場に崩れ落ちた。
美麓を含めたほかの女たちも、それぞれがいた場所から四人の女が転がるように前に倒れている。
「本当にあんたたちは、わたしがいないと、わざわざ罠に進んで飛び込むような失敗をするのね……」
すると、目の前の後天袋が指から小さな指輪を抜いた。
後天袋の姿が消滅して、沙那の姿に変わった。
「沙那──」
孫空女は叫んだ。
身体の奥底から歓喜が込みあがる。
「さ、沙那かい──」
「沙那姉さん──」
宝玄仙と朱姫もまた絶叫した。
(第59話『失われた仲間』終わり。沙那のこれまでの道中は、第60話『奴隷二号』及び第62話『追跡する者』で語ります。なお、第61話には外伝を挟みます。)
*
【西遊記:65・66回、
玄奘(三蔵)一行は、人里離れた山の中で、目的地の天竺の雷音寺だと思わせる豪華絢爛な寺院を見つけます。
建物に近づくと、寺院の看板には“小雷音寺”と書かれていました。
孫悟空は、その寺院の怪しさを感じるのですが、孫悟空がとめるのを振り切り、玄奘は中に入ってしまいます。
そして、寺院だと思っていた建物は、
黄眉大王は、玄奘の旅の噂を耳にして、高僧の玄奘を喰らうことで力を得ようとし、雷音寺に似せた建物を造り、玄奘が立ち寄るのを待ち構えていたのです。
建物内に入った孫悟空をまずは不意打ちで、黄金の箱(金の
黄眉は、孫悟空をこのまま放置しておけば三日後には溶けて死ぬのは確かであり、その後に玄奘を喰らうことにしたと言い、部下たちに玄奘たちを洞府の奥の牢に入れるように命じます。
そして、黄眉自身も奥に引っ込んでいきます。
一方で、不思議な箱に閉じ込められている孫悟空ですが、内側からどんなに術を駆使しても、どうしても脱出することができませんでした。
そのため、まずは、近傍にいる
五方掲諦は、ほかの天に見張りを指示をして、助力を依頼させるために、自ら天界に向かいます。
天界の玉帝は、使者である五方掲諦から玄奘たちの危機を知り、驚いて二十八宿の天将を派遣します。
その二十八人の天将の協力により、なんとか孫悟空は、金の箱から脱出することに成功します。
孫悟空は、集まった護衛天や二十八宿とともに黄眉大王に攻めかかりますが、黄眉の持つ「五天袋」という宝具にことごとく吸い込まれてしまいます。
ほかの天将とともに捕らえられた孫悟空ですが、夜中になって、身体を小さくする術で脱出に成功します。
孫悟空は、天将たちに加えて玄奘たちを見つけると、縄を解いて助けます。
そのまま全員で洞府を脱走します。
ところが、玄奘が荷物を置いたままであることを思い出し、それを取り戻したいと騒ぎ出します。孫悟空は荷物くらい諦めるべきだと諭しますが、玄奘は聞き入れません。
仕方なく、孫悟空ひとりがもう一度洞府に忍び込んで荷を取りに行きます。
なんとか、荷物だけは取り戻しますが、そのときに物音を立ててしまい気づかれてしまいます。
異変に気がついた黄眉は、まずは玄奘たちがいないことを悟り、妖魔軍に追跡を命じます。
すぐに、山のふもとに、二十八宿たちが集まっていることを見つけ、軍に攻撃をさせます。
妖魔軍と天将たちの戦いが再び再開します。
戻ってきた孫悟空も戦いに加わり、激戦は一日続きます。
辺りが夜闇に包まれ出したとき、黄眉が五天袋を取り出すのを孫悟空は見つけます。全員に警告を発する間もなく、孫悟空以外の全員が五天袋にまたもや呑み込まれます。
孫悟空のみは逃走しましたが、妖魔軍との戦いは、辛うじて孫悟空のみだけが生き残るだけという結果に終わります。
孫悟空は、玉帝の援軍が敗北したことから、今度は武当山の
蕩魔は、本来は玉帝を継ぐ者であったが、武辺に優れていて、玉帝の仕事が性に合わなかったので、自ら天界を飛び出し、いまは地方の軍閥勢力として認められているという存在です。
孫悟空は、その蕩魔から、亀と蛇の二将、五大神龍の軍を借り、
ところが、その二将、五龍までもが、またもや黄眉の五天袋に呑み込まれてしまいます。
仕方なく、孫悟空は、次は精鋭の軍を持つという
そこで、国師王の弟子の小張太子と菩薩軍の四将の軍を借りることに成功します。
しかし、結局、その国師王軍も黄眉の五天袋に呑み込まれて敗れてしまいます。
多くの援軍を失い、ひとりで途方に暮れていた孫悟空のところに、
弥勒によれば、黄眉大王の正体は、弥勒のもとから宝具を盗んで逃亡した童子ということでした。呆れる孫悟空に、弥勒はふたりで黄眉を取り押さえようと言います。
弥勒は、孫悟空の手に「禁」という文字を書きます。
これを見せれば、必ず黄眉は追いかけてくるので、隠れいている弥勒のところまで連れてきて欲しいと頼みます。
孫悟空が言われたとおりに行動すると、黄眉大王は自分の軍を置き去りにして、たったひとりで孫悟空を追いかけてきます。
やがて、瓜畑にやってきます。
孫悟空は、あらかじめ弥勒から告げられていた策により、瓜のひとつの変身します。
土地の老人に化けた弥勒は、黄眉の前に出て来て、言葉巧みに孫悟空の変身した瓜を食べさせることに成功します。
黄眉の腹の中で小さくなっている孫悟空が大暴れします。
妖魔王は、あまりの苦しさに降伏します。
弥勒に取り押さえられた黄眉は、黄眉が盗んだ宝物とともに天界に戻されます。
また、黄眉軍については、孫悟空によって全滅させられます。
援軍の天将たちを戻し、玄奘たちも救出されます。
玄奘が孫悟空の忠告に従わなかったことを謝罪し、一行の旅が再開します。