※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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391 かかあ天下と亭主関白

「女房というものは最初が肝心よ。がんとやらねばならんのだ。がんとな──」

 

 高羽(こうう)という男がすっかりと呂律の回らない調子で声をあげた。

 

「がんとねえ……」

 

 陳達(ちんたつ)は呟きながら、ぐいと眼の前の酒を呷る。

 城郭の北の界隈にある小さな行きつけの居酒屋だ。

 少し前まで、ここで毎夜のように仲間内で飲むのが陳達の日常だったが、いまは陳女(ちんじょ)と名乗らせている長女金(ちょうじょきん)を女房に貰ってから、ここで飲む習慣は少なくなくなっていた。

 

 酒を飲みたければ、陳女が購(あがな)ってくるし、元女将校のわりには手先が器用で料理でも、家事でもなんでもこなす。

 酒の肴など、後宮ではないが、素材を生かした一流の味を作りあげる。

 陳達としてはここで酒を飲む必要がなくなったような感じになっていた。

 

 しかし、今夜は長屋の隣の部屋に暮らす男やもめの周達(しゅうたつ)に強引に誘われて、ここに連れてこられたのだ。

 

 “──お前に一度文句を言ってやる”

 

 すぐに始まった周達の文句は、毎夜毎夜に繰り返される喘ぎ声に関することだった。

 どうやら、陳達と陳女の悶え声は随分と派手ならしく、ひそかに長屋の話題になっているようだ。

 陳達が暮らしているのは、貧乏人用の集団住宅であり、小さな厨房付きの一室一間の部屋が五部屋ほどある平屋建ての木造住宅が立ち並ぶ界隈であり、長細い建物が並ぶので、通称“長屋”と呼んでいた。

 周達の不満はだんだんと派手になっていくふたりの愛し合う声であり、最初は面白くも感じたが、毎夜のこととなるとだんだんと耐えられなくなり、独り者の周達にあてつけにやっているような気さえしているのだそうだ。

 

 “──それで夕べはやっと喧嘩のような声が聞こえ出したから、これは面白いことになり

そうだと思ったら、喧嘩じゃなくて“強盗ごっこ”じゃねえか。さすがに呆れたぜ。どうでもいいが、もう少し慎みをもって性愛しろ”

 

 ……と言ってきた。

 長屋などどこも壁は薄い。

 夜の営みの声などお互い様のものであり、不平を言われる筋合いはないし、そもそも、慎みのある性愛なんてあるのかと訊ねたら、今度は陳逹が陳女のような美人を女房にしたのが気に入らないと絡み始めた。

 

 これには陳逹も呆れて、それは不平ではなく、単なる嫉妬ではないかと言ったら、嫉妬でなにが悪い? 努力したわけでもなく、ある日突然、あんな美人がふらりとやって来て、お前の嫁になるなどけしからんと喚き出した。

 これにはずいぶんと閉口した。

 

 それから、周達が酔いに任せて、同じことを繰り返すようになったので、仕方なく陳達は、今夜からは陳女に猿ぐつわをさせると言ったのだが、なにが気にらないのかさらに周達が管を巻き始めた。

 お前は、あんな美人を嫁に貰ったことで、やっぱり俺にあてつけようとしているに違いないと言うのだ。

 

 そんなつもりはない──。

 女房をもらえば夜の営みは当然だろうと言い返した。

 

 面倒になったし、そもそも、あまり遅くなれば陳女が文句を言う。

 そろそろ、家に戻ると言ったら強引に引きとめられた。

 

 そんなことをやり合っていると、やがて、高羽という男が同じ卓にやってきた。

 この居酒屋では、すっかりと馴染みの男であり、陳達や周達とは別の長屋に住んでいる男だ。

 もう、何度も飲んでいるからお互いに自己紹介くらいはしている。

 高羽は陳達とはひと回りも身体が大きい屈強そうな男で、妻とふたりの子がある。

 いまは力仕事が必要な普請の人足に雇われているというようなことを言っていたはずだ。

 

「おい、鼻──。お前は間違っているぞ。結婚なんざあ、するべきじゃなかったな。俺の知る限り、どいつもこいつも、最初にがつんとやらんから失敗して女房の尻に敷かれている。いいか、女房をもらったときには最初が肝心なんだ。それができねえ男は結婚なんざあするべきじゃねえ──。俺はそう思っているな」

 

「そうかい、最初が肝心なのかい──。そういうお前はどうなんだい。どうせ、お前も尻に敷かれている口だろうが……?」

 

 周達が笑いながら高羽の杯に酒を注いだ。

 

「こらっ、黙れ、周達──。俺は鼻に話しているのだ……。いいか、鼻──、俺は最初からがつんだ──。女というのは、拳骨で躾けるものだ。男の力を示さねばならんのだよ。つまりは、三日に一度は頬くらい張らなけりゃならねえということだ。おい、鼻、聞いてんのか──?」

 

 高羽は陳達を“鼻”と呼ぶ。

 ただの一度も名を呼んだことはないのではないだろうか。

 もしかしたら、この高羽は陳達の名を知らないかもしれない。

 そんな気がしてきた。

 

 とにかく、ここには久しぶりに来たのだが、周逹といい、高羽といい、やたらに絡んでくる。

 なんなのだろう?

 いい加減に帰りたいのだが……。

 陳女が待っているだろう。あまり遅くなれば文句を言うはずだ……。

 

「お前は尻に敷かれているのだ──。わかっているのか、鼻」

 

「あっ、なんだい、高羽? 俺が尻に敷かれていると言っているのか、高羽?」

 

 陳達は言った。

 

「そうだ……。お前は結婚して二箇月とか言っておったが、結婚生活はどうなんだ、鼻? お前の女房になるような女は不細工な女に決まっているが、そんな女でも結婚すればつけあがるぞ。がんとやったのか……? 女房の頬を張ったことがあるか?」

 

「頬を張る──?」

 

 陳達は驚いて高羽の言葉を繰り返した。

 陳女を殴るなどとんでもない……。

 

 そう答えようとして、そういえば頬を張ったことはあるということは思い出した。

 もちろん、本気で張ったわけじゃない。

 “ごっこ遊び”の演出のようなものだ。

 あの陳女もなかなかに陳達の嗜虐趣味に合わせてくれて、そういうことも受け入れてくれる。

 

「おいおい、高羽、こいつの女房はとんでもない大美人だぞ……。それになあ、この鼻殿は、見かけによらず、おもてになるんだぞ……。こいつの女房がやってきた時には、その女房殿と一緒に四人の女がやって来たのだ」

 

「五人の美女だと?」

 

 周達の横からの物言いに、高羽は訝しむ顔になる。

 だが、周達が気にする様子もなく、口を続ける。

 

「いずれも大美人で、それどころか、いまの女房殿を含めた五人の女が十日もこいつの部屋に入り浸って、毎晩どころか、日中まで乳繰り合い続けたんだ……。いまでもうちの長屋じゃあ、五人の女を相手にした鼻伝説は長屋の語り草だ」

 

「もう酔っておるのか、周達。こいつのところに美人など嫁にくるわけがないだろう……。ましてや、美女五人だと? 阿呆か──」

 

 高羽は一蹴した。

 これには、陳達も苦笑いするしかない。

 確かに、あのときの騒ぎはいまでも信じられないし、本当にあったこととは思えない。

 

 ここに暮らして数箇月……。

 不意にあの宝玄仙が三人の供と長女金を連れてやってきたのだ。

 目的はあの長女金を陳逹の嫁として置いていくことだったのたが、すぐに宝玄仙はあの長屋の陳達のひと部屋を結界で包み、十日ばかり陳逹を含めた六人で性三昧の生活を送った。

 夢のような話だが、夢ではない証拠に、あのとき宝玄仙が連れてきた長女金が、いまでも陳女と名を変えて、陳達の部屋に女房としてずっといる。

 あれが夢なら、まだ夢の続きで、陳達はまだずっと夢の中にいるということだ。

 

「お前のように女房に甘いようだと、生活など立ちはしねえぞ、鼻──。女房の尻に敷かれて終わりだ。いいか、鼻、お前はもう尻に敷かれておる。わかっておるのか?」

 

 高羽は喚いた。

 そして、陳達の返事を待たずに、また酒を呷った。

 

「いいか、鼻──。女房というのはどんな女でも、最初が肝心だと言っているんだ。平手でも拳骨でもいいけど、まずは女を張り倒せ。いいな、これは俺からの忠告だ。女はすぐにつけあがる。だから、男の強さを見せなければならないんだ」

 

「いや、俺は弱いよ……。実は女房は強いんだ。喧嘩をすれば逆にのされてしまう」

 

 陳達は、陳女と喧嘩をすることを想像して、笑いながら酒を口にした。

 彼女は元国軍の女将校だ。

 線は細いが、武芸などなんにも知らない陳達など片手であしらってしまうだろう。

 

 すると高羽が不思議なくらいに怒りだした。

 そして、世間一般の男はだらしなくて、それは見られたものじゃないと騒ぎ出した。

 女というのは引っぱたいて躾けるものであり、それができない男は駄目だと主張した。

 その最低な夫の代表が陳逹だという。

 

 周達が面白がって煽り立てるが、陳達はだんだんと面倒になり放っておいた。

 それにしても、そろそろ帰らないといけない。

 いくらなんでも陳女が文句を言う……。

 

 まあ、いずれにしても、陳女は自分には過ぎた女だと思っている。

 いまのところ、陳女が陳達の女房として本気で残りの人生をすごすつもりである気配であるが、いまだにそれが信じられない。

 毎晩のように抱き陳女の身体をむさぼるのだが、それでもまだ実感が湧かないのだ。

 あるいは、陳女を自分の女房だということを実感したくて、毎晩激しく抱き、そして、嗜虐のような性愛をやりたくなってしまうのかもしれない。

 

「……俺の親父がそうだったのだ」

 

 ふと気がつくと、いつの間にか高羽が少し大人しくなっている。

 高羽がぽつりと呟くように言った。

 

「ああっ? お前の父親がどうしたんだい、高羽?」

 

 周達だ。

 こいつも相当に酔っているようだが、高羽はそれ以上だ。

 陳達の見たところもうへべれけだ。

 

「おい、そろそろ、潮時じゃねえか……?」

 

 気がついて陳達は水を向けたが、高羽はまったく無視した。

 

「……親父は女房に頭があがらなかった……。外では威張っていたが、家でははまったく女房には頭があがらなかった……。だから、俺はがつんとくのよ」

 

「がつんとねえ……」

 

 陳達も仕方なく相槌を打つ。

 

「これよ。これ──」

 

 高羽は右腕に拳骨を作ってみせた。

 

「いや、それは……」

 

 陳達は首を傾げた。

 

「とにかく、親父は駄目な男だった……。俺の母親はそりゃあ酷い女だった。ただの人足じゃあ稼ぎが少ないと文句を言いやがって……、いや、親父も俺と同じ人足だったんだが、毎日、汗水垂らして日雇いの稼ぎを持ってきても、その度に罵るのさ。こんな稼ぎしか持ってこれない亭主など失敗だったとな……。家に金を入れないのならともかく、毎日金を入れてもだぜ。そして、夫を相手に、飯を食っている間、ずっと文句を垂れやがるのさ。子供の前でな──。お前なんかと一緒になるんじゃなかった……」

 

「……はあ……」

 

 誰のことを話しているやら……。

 

「……それから決まって、頭が痛え、腰が痛え……と騒ぐのさ。そして、具合が悪いから飯の後始末と朝飯の準備は親父がやれ……。そう言うんだ。親父は嫌も応もないのさ。あいつは……、いや、そいつの女房は最初から、そいつがいうことを聞くものだと決めてかかっているのさ……。そいつはやっていたよ。文句も言わずにな。一日、外で身体を使って働いて、家に戻れば、女房の悪態をずっと聞かされて、それで飯の片づけまでやらされてよう……」

 

 高羽の呂律はますますひどいものになった。

 もう、周達も陳達も、まともに返事をしないのだが、頓着しないらしい。

 

「……それでいて、具合が悪いとか言っていたくせに、そいつを黙って寝かせたことはねえ。無理矢理に親父に迫るのさ……。子供たち……、そいつは寝たふりをしているけどな……。でも、そいつも昼間の疲れがあるから、そう毎晩というわけにはいかねえ。できないときもある。そうすると、それこそ、子供には聞かせられないような罵詈雑言よ……。子供は寝たふりしているけどな……」

 

 高羽は杯の酒を一度に呷った。

 

「……女は大変だ。これが母親の口癖だった。女房はずっと家に引っ込んで、掃除をして、食事の支度をして、縫物をして……、子供の世話をして……まるで下女のようなものだ。あいつはずっと言っているのだ……。母親だがな。それ比べて男はいい。外で勝手なことをして、ほんのちょっとの稼ぎしかない癖に酒を飲んでくる……」

 

「…………」

 

「だけど、俺は知っているんだ。あの母親は親父が仕事にいくと、ちょっとばかり家事をやったら、長屋のほかの女たちを呼んで、菓子を喰い、喋くり回りながら亭主の悪口を言うのさ……。俺は知っているんだ……。わかっているのか、鼻──。お前の女房も同じだ。お前がなんの仕事をしているか知らねえけど、お前がいなくなれば、お前の女房も近所の女とお前の悪口を言っているに決まっているぞ。そうに違いないさ」

 

 陳達は陳女が自分のいないところで自分の悪口を言っている光景を想像した。

 だが、とてもそんなことをするようには考えられない。

 

「酒を飲んで戻った親父が少しでも遅くなったら、もっと惨めなものさ。開けてくれ──。いま、帰ったぜ。頼むよ、お前、開けてくれよ──。親父は外で叫んでいる。でも母親は開けやしねえ。寝ているんじゃない。ちゃんと聞いているんだ。だけど、いつまでも動くことはねえ。外で親父は叫び続けている。それでしばらく親父は叫ぶ。すっかりと酔いも冷めちまうことだろうさ。そのうち、母親は言うのさ。こんな時間まで飲んでいるとは何様だとな──。構うことはない。そこで寝ろ──ってな……」

 

「おい、高羽……」

 

 ふと横を見たら、高羽が涙ぐんでいる。

 陳達は驚いて声をかけたが、高羽は聞こえてないみたいだ。

 高羽はただ語っている。

 陳達たちが返事をしようが、無視しようが関係ないのだとわかった。

 高羽はただ酔って、管を巻いているだけなのだと。

 

「そのうちに本当に母親は寝てしまう……。すると子供が……、つまりは俺が開けてやるのさ。親父、もう、母親は寝たよ。入ってくれってな……。情けねえじゃねえか。一家の主人だぞ。いくら稼ぎが悪いったって、そんな仕打ちを受けることはないだろうさ……。糞ったれが……。だんだんと腹が立ってきたぞ……。よし、今夜は見てろ──。がつんとやってやるぜ。女房を張り倒してやる。がつんとやるんだ。そうじゃないといけないんだ」

 

 高羽はよろけた足取りで立ちあがった。

 そして、酒代を卓に置くとそのまま居酒屋を出て行った。

 

「こりゃあ、いけねえ……。あの調子じゃあ、訳もわからず、本当に女房を殴るもつもりじゃねえか? 親父の話と自分の話がわからなくなってしまっているぜ」

 

 その背を追っていた周達が思い出したように言った。

 陳達もはっとした。

 確かにそんな感じだ。

 

 陳達と周達も酒代を置くと高羽を追った。

 居酒屋を出て、高羽を追いかけた。

 千鳥足でよろめく高羽はすぐに見つかった。

 

「おい、わかっているな、高羽……。お前の気持ちもわかるが、今夜は普通に入れ。間違って女房を殴るんじゃねえぞ。わかっているな」

 

 よろめく高羽を周達とともに両脇から支えながら陳達は言った。

 

「がつんとするのさ。女房の扱いなんていうのは、それでいい──」

 

 高羽は何度も言った。

 しばらくそうやって歩いていたが、やがて高羽は自分の暮らす長屋の近くだからと言って、陳達と周達を追い払った。

 長屋まで一緒に行くと言ったがどうしても聞き入れず、しまいには怒りだしたので周達と眼を合わせて高羽を手放した。

 そして、高羽がひとりで長屋に戻っていくのを見守った。

 

 だが、本当に女房を殴ったりはしないか心配になって、こっそりとついて行った。

 それくらい、高羽の権幕は凄かったのだ。

 遠目で見ていると高羽はやがて、自分の家の入口らしき場所に着いた。

 そして、戸をそっと叩いた。

 

「お、俺だ……。帰ったぜ。開けてくれ……。帰ったぜ……。なあ、遅くなって済まなかったよ。開けてくれよ、お前……」

 

 高羽が哀れな声で戸に向かって言い始めたのだ。

 陳達は呆気にとられた。

 周達とともに見守っていると、それから高羽の哀願の声はしばらく続いた。

 やがて、こんな時間まで飲んで何様のつもりだ、そこで寝ろという女の悪態が家の中から聞こえてきた。

 高羽の女房の声らしい。

 随分とだみ声で、気の強そうな口調だった。

 

 しばらく高羽はそうやって戸に何事かを叫んでいたが、やがて、諦めたのかなにも喋らなくなった。

 すっかりと酔いが醒めた様子で、自分の身体を抱いて途方に暮れたようになっていた。

 そうしているとやがて、戸ががらりと開いた。

 現われたのは十歳くらいの男の子だ。高羽の子供なのだろう。

 

「母ちゃんは寝たよ、お父ちゃん。入ってくれよ」

 

 男の子はそう言った。

 陳達は大人しく家に入っていった。

 一部始終を見終わって、陳達は周達を顔を見合わせた。そして、自分たちの長屋に向かう帰路についた。

 

「親父の話だとか言っていたが、あれは自分のことだったようだな」

 

 やがて周達が言った。

 

「そうかもしれないな……。だが、本当に親父の話だったかもしれないし、まあ、どうでもいいさ」

 

 陳達は応じた。

 それからしばらくお互いに無言でいたが、長屋が近くなったところで、ふと周達が口を開いた。

 

「なあ、今夜みたいに遅くなった日にゃあ、あの陳女殿も文句を言うのかい?」

 

「言うだろうな」

 

 陳達は戻ったときのことを想像しながら笑った。

 あいつは文句を言うに違いない。

 なにしろ、早く帰ると言っていたのだ。

 絶対に不満を口にする。

 

「ちっ、やっぱりお前も尻に敷かれているのか。女房なんざ、貰うもんじゃねえなあ……。女はみんな同じか──」

 

 周達は舌打ちした。

 そして、長屋に着いたのでそのまま家の前で別れた。

 周達のあの様子じゃあ家に入った途端に寝てしまうだろう。

 

「帰ったぜ、陳女」

 

 陳達は家に入るとしっかりと戸締りをしてから言った。

 

「ああ……、お、お帰りなさい……。ひ、ひどいです。早く、戻ると言ってくれたのに……」

 

 出迎えた陳女が赤い顔をして文句を言った。

 顔にびっしょりと汗をかいている。

 

「どうしたんだ、陳女? 今日は外に出たか?」

 

 陳達は意地悪く言った。

 

「そ、そんなこと……。今日は出れませんでした……。も、もう、これは堪忍してください」

 

「見せてみろ、陳女」

 

 陳達は部屋に入ると胡坐に床に座り、陳女を導いた。

 

「ああっ……」

 

 陳女は床に正座を組んで座ると、陳達に背を向けて座った。

 そして、顔を床につけるように倒れさせると、下袍を捲りあげて陳達にお尻をまくってみせた。

 

「お、お願いします……」

 

 陳女が甘い声をあげて、つらそうな仕草をした。

 眼の前に陳女のお尻がある。

 下着ははいていない。

 その代わりに肛門用の張形が陳女の菊門に喰い込んでいる。

 ただの張形じゃない。道術が刻んであり、これを挿入させた陳達が抜かなければ、絶対に自分では抜くことができないという霊具の淫具だ。

 しかも、不規則な間隔と不規則な強さで一日中振動を続けるという機能まである。

 どういう力でそういうことができるのかわからないが、宝玄仙の置いていった霊具で、霊気の備わらない陳達にも扱える性具だ。

 そういうものを宝玄仙は大量に置いていったのだ。

 

 このところ、それを使って陳達は陳女の肛門調教を続けていた。

 陳達は、今日は夜になったら外してやると言ってから、陳女にその肛門調教用の張形を挿しっぱなしにして仕事に出掛けたのだ。

 それなのに思いもよらず、周達に強引に誘われて随分と帰りが遅くなってしまった。

 絶対に文句を言われると思っていた。

 

「じゃあ、抜くぞ……」

 

 陳達はこっちに向けている陳女の尻に手を伸ばした。

 陳女の白い尻が震えている。見ると股間はこれ以上ないというくらいに濡れている。

 おそらく、これはかなりの数の絶頂を繰り返しているに違いない。

 この霊具は、陳達がほんのひと触りしただけでゆっくりと抜けてくる。

 しかし、どんなに陳女が自分で抜こうとしても絶対に抜けず、ただ不定期な振動で陳女を苛み続けるのだ。

 

「抜いたら、尻を犯すからな、陳女」

 

「お、お願いします」

 

 陳女は言った。

 だが、ぎりぎりのところで陳達は手を止めた。ふと思い出したからだ。

 

「ど、どうしたのです……?」

 

 陳女が陳達の様子に顔を捩じってこっちに向けた。

 淫らだに熟れきっている雌の顔をしていた。

 その色っぽさに陳達は思わずごくりと唾を飲んだ。

 

「ちょっと、思い出してな……。陳女、猿ぐつわをしてくれ」

 

 周達が嬌声でうるさいと言っていたのを思い出した。

 肛門張形は入れるときよりも抜くときに激しい快感が走るはずだ。

 それはこれまでの経験で知っている。

 しかも、陳女はこの肛門張形で一日中苛まれた。うっかりと抜けば激しい反応をするに違いない。

 

「さ、猿ぐつわですか……。は、はい……。あのう、それって、興奮しますね。ありがとうございます」

 

 陳女が戸惑った様子ながらも、ちょっと嬉しそうに頷いた。

 しかも、なぜか、お礼を言われてしまった。

 陳達は笑ってしまった。

 

 陳女は立ちあがり、やがて一枚の手拭いをもって戻ってきた。

 陳達をそれを受け取り、陳女の口にしっかりと手拭いを咥えさせる。

 

「抜くぞ」

 

 陳達は肛門張形にちょんと触れた。

 

「んんんんっ──」

 

 ゆっくりと張形が回転しながら抜け出ていく。

 陳女が眼を裏返す。

 そして、身体を限界まで反りかえして、猿ぐつわが喰い込んだ口から吠えるような声を迸らせた。

 陳達は、すっかりと勃起している自分の一物を出すと、油剤を垂らし、淫具が抜けたばかりの陳女の肛門にゆっくりと挿し込んでいく。

 

「んほううっ」

 

 陳女が興奮しきった大声を猿ぐつわの下から迸らせた。

 これは、猿ぐつわの意味はないか……。

 ぎゅうぎゅうと締め付ける陳女のお尻の気持ちよさを味わいながら、壁の向こうの周達のことをちょっと考えてしまった。

 

 

 

 

(第61話『【番外篇】美女と醜男』終わり)

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