「きょ、協力するから──。だから、とめてぇ──」
この
どうやら手に持っている板で、美麓が履かされている貞操帯の内側にいる触手を操っているらしいが、それを使って表情ひとつ変えずに容赦なく後手縛りで檻に入れられている美麓を責めたてる。
最初の一刻(約一時間)で連続絶頂責めにされたかと思えば、それから数刻は徹底した寸止め責めだ。
触手で美麓の股間全体を刺激するだけ刺激してぎりぎりまで昇り詰めさせてからぴたりと触手の動きを止めるのだ。
そして、しばらく美麓の身体の疼きがとろ火になるのを待ち、また同じように責めたててくる。
どうやら、沙那が板で操作するというよりは、操作盤になっている板で設定して信号を送れば、触手が美麓の身体の反応や淫液の濃さを読み取って自動的にそういう動きをするようになっているようだ。
それだけに、美麓がどんなに快感をむさぼって自分から燃えあがらせようとしても、どうしてもぎりぎりで刺激をとめられてしまう。
こんな馬鹿げた責めで屈服するのは屈辱だったが、この触手はどうやら電撃も流せるらしく、どうしても快楽責めで協力を承諾しなければ、その電撃も使いそうだ。
ほかにもどんな仕掛けがあるかわかったものじゃない。
「わかってくれて嬉しいわ、美麓……。じゃあ、檻から出すわね」
高白の姿の沙那がそう言うとともに、操作盤を懐から出してなにか操作した。
すると触手がぴたりと動きを止めて存在が消滅したようになった。
美麓はほっとして脱力した。
「それにしてもこの身体は動きにくいわね……」
高白の姿の沙那が革帯の下からさっと指輪に手をやった。
すると一瞬にして高白の姿が消滅して沙那の姿になった。
「さて……。じゃあ、檻から出してあげるわ」
沙那はにっこりと檻の中の美麓に微笑みかけると、立ちあがって馬車の中で眠りこけている男に近づいていった。
その男の腰帯に美麓が入れられている檻の鍵があるのだ。
沙那はその男の腰から鍵を抜いて戻ってくる。
馬車の荷台にいるのは美麓と沙那を除けば三人だ。
幌を被っている荷台の前には、後天袋と御者のふたりがいるはずだが、ここからでは幌幕に隠れてわからない。
また、この幌付きの荷駄馬車の横には、やはり後天袋の部下の男ふたりが馬に乗って並進しているらしい。
それはなんとなく気配でわかる。
いまの時間は夜中らしいが、月明かりがあるようだ。馬車の中には灯篭による灯りもある。
「さあ……。出て、美麓……」
檻の扉が開いた。
美麓は後手縛りのまま檻の外に這い進んだ。
ずっと屈むような姿勢を強要されていたので腰が痛い。
美麓は揺れる馬車の中で腰を伸ばした。
「ねえ、これを解いてよ、沙那」
美麓は後手縛りの腕を沙那に向けた。
「それは駄目よ。あんたはそのまま黄眉のところに行ってもらうんだもの」
「黄眉のところにそのままあたしが行く──? なんでよ──?」
思わず美麓は大声をあげた。
「あっ、美麓? そ、それに、お前誰だ?」
美麓の大声に反応したのか、突然眠っていた男のひとりが眼を覚まして怒鳴った。
しかし、その男はそれ以上なにも喋ることはできなかった。
脱兎のごとく駆け寄った沙那が、いきなりその男を馬車の外に蹴り落としたからだ。
奇声をあげてその男が馬車の後方に転がり落ちて、夜闇に消えていくのを美麓は呆気にとられて見送った。
「な、なんだ?」
「おい、おいっ」
残りのふたりも眼を覚ました。
しかし、すでに沙那がそのふたりの腰から剣をさっと抜いている。
「あんたら、死ぬたくなければ、すぐにここから飛び降りなさい」
沙那がふたりの喉に剣を向けた。
ふたりの顔が引きつる。
しかし、そのとき突然、馬車が大きく揺れて停まった。
男がひとり馬車から落ちていったことで何事かあったと思ったのだろう。
「おい、どうした?」
御者台の方向から後天袋の苛ついた声が聞こえた。
「あ、兄貴、大変です──。お、女がいて、美麓を逃がそうとしています──」
沙那に剣先を向けられている男のひとりが叫んだ。
「がはあっ」
次の瞬間、沙那が声をあげた男の喉を剣で引き裂いた。
屍体となった男が馬車の外に落下した。
「忠告したはずよ。無暗に人を殺すつもりはないけど、容赦もするつもりはないわ」
沙那がもうひとりの男を睨むと、真っ蒼になったその男が自ら馬車の外に飛び降りた。
「そこで待っていて、美麓。すぐに終わるから……」
沙那は今度は荷台を御者台の方向に駆けていく。
「ちょ、ちょっと、縄を解いてったら、沙那──」
美麓は叫んだ。
しかし、沙那は無視して御者台と荷台部分の間にある覆いをはぐって向こうに消えた。
「な、なんだ、お前──?」
後天袋の狼狽えた声が聞こえる。続いてなにかの喧騒も伝わってきた。
美麓は後手縛りのままそれを追った。なんとか肩で覆い幕を動かして御者台に出た。
外は夜の闇の中だったが、月明かりもあるし、馬車に付いている灯火もある。
十分な視界はある。
すでに沙那と後天袋も馬車から降りていた。
馬車の下では、沙那が背後から後天袋の襟首を掴んで、剣の刃を喉に突きつけている。
その周りには動揺した様子の後天袋の部下たちが取り巻いていた。
「お、お前は誰だ。なんのつもりだ……? こんなことして、ただで済むと思っているのか、女……」
剣を喉に突きつけられている後天袋が怒りに真っ赤な顔して怒鳴った。
だが、沙那はそれを無視して、背後から後天袋の膝の裏を蹴り飛ばしてその場に無理矢理に跪かせた。
「全員、武器をその場に捨てなさい」
沙那が声をあげた。
後天袋の手下たちが戸惑った様子でお互いに眼を見交わしている。
「早くするのよ──。こいつがどうなってもいいの──?」
沙那がさらに怒鳴った。
御者をやっていた男を含めて、後天袋に剣を突きつけている沙那を取り巻いているのは三人だ。
さっき自ら馬車から飛び降りた男は、美麓が見る限りもう近くにはいないようだ。
「後天袋、剣を捨てるように命じなさい」
沙那が後天袋に叫んだ。
「い、言う通りにしろ、お前たち……」
後天袋が絞り出すような声で言った。
しかし、そのとき美麓には、後天袋が部下のひとりに目配せをしたように感じた。
沙那に注意を促すべきか迷ったが、いち早く御者が懐から短剣を投げ、続いてもうひとりも渋々というかたちで剣を腰から抜いて放り投げたことで、美麓は自分の不安は杞憂かもしれないと思った。
最後の一番屈強そうな男も、諦めた感じで剣を腰から鞘ごと抜いた。
ぽんと地面に放り投げられる。
「兄貴、そのまま伏せてくれ──」
突然、そいつが叫んだ。
一瞬のことだった。
投げたと思ったのは鞘の部分だけだった。
しっかりと剣はその男の手に握られている。
美麓は完全に意表を突かれた。
男の剣はもうまっしぐらに沙那に向かっている。
「沙那──」
美麓が叫んだときには、すでにその男は沙那に斬りかかっていた。
後天袋が沙那の手を振り切って地面に自ら伏せる。
男の剣が沙那に振り下ろされる。
「あがああっ──」
なにが起きたのかわからなかった。
男の両肘から先だけが、馬車に向かって跳んできた。
その片手は剣を握ったままだ。
沙那の剣が一閃したとわかったのは、沙那の二の剣で男の首が斬り落とされたときだった。
「ひええええぇ──」
女のような悲鳴は地面に伏せていた後天袋のものだった。
後天袋の身体の横に音を立てて、首と肘から先のない男の胴体が落ちたときには、もう一度後天袋は奇声をあげた。
「あんたらふたりは行っていいわ。その代わり真っ直ぐに小西天に戻りなさい。もしも、追ってきたらこの男と同じようになるわよ」
返り血を浴びて身体の半分を血に染めている沙那が残っている男たちに言った。
そして、足下に転がっていた殺した男の生首をふたりに向かって蹴り飛ばした。
男たちはあっという間にいなくなった。
「ちょっとばかり、血がかかったけど、なんとかその服は使えそうね……」
沙那がまだ眼を大きく開いて震えている後天袋を見て言った。
後天袋は完全に度肝を抜かれた様子で顔を真っ蒼にしてがたがたと震えている。
そして、身体を起こして尻餅の姿勢のまま身体の横の男の屍体から後ずさりをしている。
「どこに行くのよ、後天袋──?」
沙那がすっと後天袋に歩み寄り、血の滴る剣を向けた。
「ひいっ──。殺さないでくれ──」
後天袋が叫んだ。
「死にたくないのね?」
「ひいっ……。た、頼む。た、助けてくれ──」
すっかりと度肝を抜かれている様子の後天袋が情けない声をあげた。
「質問に答えるのよ。死にたくないかって訊いているのよ」
「し、死にたくない──。死にたくない──」
後天袋の必死の声がした。
「だったら、命は助けてあげてもいいわよ……」
後天袋の身体に剣を向けたままの沙那がにっこり微笑んだ。
「ほ、本当か……?」
「まあね。殺すつもりなら、とっくに殺しているわよ……。ただし、条件があるわ。黄眉について知っていることをすべて話しなさい……。だけど、嘘を言ったらその場で殺すわ。わたしがすでに知っていることと矛盾したことを言っても殺すから騙そうとしないことね。また、逆らっても死んでもらうわ。わたしはどっちでもいいのよ……。あんたが死んでしまっても、まだ手はあるから……」
「わ、わかった。なんでも訊いてくれ」
「その前に、まず最初に服を脱いでもらうわ、後天袋……。その場で下着だけの格好になりなさい」
沙那が言った。
*
「ほう、これはまた美形だな」
「美麓という女です。なかなかのお転婆な女ですから縛っております」
後天袋に扮している沙那は応じた。
目の前にいるのは、生きた人間を剥製にするのが趣味という変態妖魔だ。
そして、なによりも、目の前には透明のおかしな容器に放り込まれている宝玄仙と孫空女と朱姫……。
おそらく、あの透明の筒に入れられると、宝玄仙の道術は封じられるのだろう。いずれにしても、三人とも疲労困憊であり、意識がほとんどない状態だ。
沙那は逸る心を押さえて、目の前の黄眉に集中することにした。
力技では黄眉にはかなわない。
それは見ただけでわかる。
おそらく、黄眉はまだまだ隠している力がある。
沙那が剣で切りつけようとしても、多分刃は届かない。
そして、宝玄仙たちを救出する機会は二度と来ない。
沙那は耐えた。
「そうか。だが、もう解いていいぞ。その不細工な腰のものもな」
「これもこの女を躾けるための道具というわけでして……。なにしろちょっとでも油断すると逆らうんです。この霊具も実はその宝玄仙から奪ったものなんですがね……」
「なんてもいい。早く外せ……。縄もだ」
黄眉は苛ついたように言った。
本当に剥製の事しか考えないのか……。
沙那は心の中で舌打ちした。
美麓の後ろに回って腰の貞操帯を外す。
彼女の心が激怒しているのがわかる。だが、とりあえず、いまは沙那に従うことに決めたみたいだ。
裏切る気配はない。
まあ、ここに至っては、沙那と争ったところで、美麓もまた黄眉の蒐集する剥製に加わるだけだ。
沙那に策に乗るしかないはずだ。
がちゃんと音を立てて貞操帯が美麓の股間の下に落ちた。
股間の部分に触手のようなものある。
あの触手で美麓という女の股間を自在に苛んで、抵抗を防いでいたのだ。後天袋が確保していた宝玄仙の荷の中にあったものだ。
沙那も随分と苦しめられたもののひとつであり、後天袋も金目のものは処分したようだが、宝玄仙の作った淫具は残っていた。
おそらく、後天袋も処分に困ったに違いない。
懐から小刀をだして美麓の身体を縛っていた縄を切る。
縄がその場に落ちる。
「ちっ」
美麓が舌打ちした。
縛られていた腕が痺れるのか擦るような仕草をする。
そして、横目で凄い形相でちらりと沙那を見た。
沙那は素知らぬふりをした。
「それっ、そっちにいけ」
黄眉が美麓の尻をぴしゃりと叩いて、前に促す。
美麓が両手で身体の前を隠しながら、黄眉を睨んだ。
「さ、触るんじゃないよ」
美麓が大きな声をあげた。だが、促されるまま数歩前に進む。
その途端に、透明の筒のようなものが美麓をすっぽりと包むのがわかった。
「な、なに……?」
美麓が驚いている。
両手を前に出す。
しかし、その両手は見えない壁に阻まれている。
「わっ、な、なにさ、これ?」
美麓の顔が蒼くなっている。
沙那もびっくりした。
こんなにあっさりと……。
それはいいのだが、こんな得体のしれない筒に包まれてしまっては、沙那の策は通用するのだろうか……?
「どうですか? 気は強いですがいい女だと思いますがね」
とりあえず言った。
ここまできたら、通用するかしないかではない。
ほかに策はない。
「まあ、確かにな……」
黄眉が美麓の前に移動して、ふっと相好を崩した。
舌を大きく出す。
その舌が宙を舐めるように動く。
「ひゃん──」
美麓が真っ赤になり、筒の中で股間を押さえる。
遠隔で物を感じる術か……。
ああやって、筒の外から中の女をいたぶるというわけだ……。
だから、宝玄仙も反撃の機会がないのか……。
沙那は、いまだに朦朧としている宝玄仙にちらりと目をやる。
いずれにしても、これでどうなるか……。
策が通用しなければ、残りの策は斬りかかって討ち死にするだけだ。
美麓にも悪いが、助ける方法はない……。
沙那は息を呑んで、黄眉を見守った。
「な、なにすんだい──」
美麓が叫んだ。股間を押さえて赤い顔をしている。
「おうおう、赤い顔して可愛いのう……。もう一度味わうか」
黄眉がさらに舌を宙で動かす。
股間を手で押さえたままの美麓が筒の中でびくりと身体を震わせた。
「ひいっ」
また美麓が股間を押さえて身悶えた。
「美麓よ、その筒の中に入れられた以上、もはや命は諦めるがよい……。お前の身体の縄の痕が消えるのを待って美しい剥製にしてやるからのう……。愉しみにしておれ」
黄眉が笑った。
しかし、次の瞬間、その黄眉ががくりと膝を崩した。
沙那の握る手にじっと汗が流れる。
「な、なんだ──?」
黄眉がその場に跪く。
口から大量の血が噴き出る。
美麓の体液に混じっている毒が効いたのだ。
「うごおおっ──」
黄眉は腹を抱えてその場にうずくまった。
そして、ばったりと倒れる。
隠していた小刀を取り出して鞘を捨てる。
刃物を握ったまま、床でのたうち回る黄眉に近づく。
黄眉が喉に指を突っ込む仕草をした。
おそらく、嘔吐で毒を少しでも吐き出すつもりだろう。
沙那はその手を脚で踏みつけた。
「あがっ?」
黄眉が顔をあげた。
次の瞬間、身体を屈めた沙那は、黄眉の喉を刃物で搔き切った。
そのまま、黄眉の身体が動かなくなった。
眼下の黄眉は喉から血を流し続けている。
大きく見開いたような眼は確実に生気を失っている。
もはやこの黄眉が屍体になっているのは確かだ。
「し、死んだ……?」
声は突然の出来事に当惑をしている感じの孫空女のものだった。
沙那は顔をあげた。
美麓を含めた四人が閉じ込められていた見えない筒のようなものはなくなったようだ。
それぞれがいた場所から四人の女が転がるように前に倒れた。
「本当にあんたたちは、わたしがいないとわざわざ罠に進んで飛び込むような失敗をするのね……」
沙那は『変化の指輪』の効果を解いた。
「沙那──」
孫空女が叫んだ。
その顔が歓喜に包まれているのがわかった。
「沙那──」
「沙那姉さん──」
宝玄仙と朱姫が声をあげた。
その顔には、歓喜が溢れている。
ふたりとも、涙を流していて、朱姫に至ってはぼろぼろと泣いている。
その様子を眼にすると、沙那はなんだか身体の力がどっと抜けていく気がした。
「さ、沙那かい──。沙那だね……。ちょ、ちょっと待ちな。挨拶よりもこの塗りたくった薬剤を道術でなんとかするから……。ちょ、ちょっと待ちなよ。ど、どこにも行くんじゃないよ。待つんだよ。沙那、ちょっと待っておくれ……。そのままだよ。どこにも行かないでおくれ……」
そして、四つん這いに倒れたままの宝玄仙が顔だけあげて言った。
「大丈夫です、ご主人様……。わたしはどこにも行きませんから……。それに、わたしにも言いたいことは山ほどあるんです」
沙那は言った。
そして、ふと気がついて、趣味の悪い人間の女の剥製の背後を飾っている布に駆け寄った手頃な大きさに切り裂く。
まずは、宝玄仙に駆け寄ってその裸身を覆う。
ついでに、一番そばにいた美麓に布を放り投げた。
「ありがとう、美麓。すべてあなたのお陰よ」
「こ、これでお役御免だね……。それにしても、おかしな筒に閉じ込められたときには胆を冷やしたよ。あんたの言う通りに、この変態亜人がいの一番にあたしの身体を舐めなかったらどうするつもりだったんだい、沙那?」
美麓は怒っているような口調で言った。
「実際に舐めたじゃないの。手に入れた獲物は、まずは舌で味わうのがこの黄眉の癖……。あの後天袋の白状した通りだったわ」
「だけど、直接舐めるならともかく、あんな舐め方するなんて聞いてないよ。あれだと毒が効かない可能性もあったじゃないか、沙那──?」
「わたしも少しだけびっくりしたけど、だけど、ちゃんと毒は回ったわ。なんの問題もないわね」
「とにかく、もう、二度とこんなことにあたしを巻き込まないでおくれ」
美麓は鼻を大きく鳴らすと不貞腐れたように沙那が渡した布を被った。
「沙那姉さん──。うわああああっ」
そのとき、朱姫が駆け寄ってきた。
もの凄い勢いで、その朱姫に抱きつかれた。