「んっ……」
孫空女は冷たい刺激で意識を戻した。
そして、自分の肌が濡れた布で拭かれ続けていることに気がついた。
その手つきはとても優しい。
近くでは鳥の鳴き声も聞こえるし、肌を触れる風が心地いい……。
とても静かだ……。
温かい陽の光も感じる……。
朝か……?
眼を開く……。
「気がついた、あんた? 身体は大丈夫?」
ぼんやりとした視界に、栗毛の可愛らしい顔つきをした女が見えた。美人だが、まだ少女の面影さえ残している若い女だ。
ふたつの丸い乳房がぶるりと揺れる。
それなりに大きな乳房なのだが、しっかりと鍛えているらしく、乳房はしっかりと張り、乳首がつんと上を向いている。
裸……?
確か、あの女道士の従者の沙那……。
孫空女は思い出した。
どうやら、あの輪姦から解放されて、いつの間にか朝になっているようだ。
そして、孫空女は大きな岩の平らな場所の上に寝かせられていた。
どこからか水の流れる音がする。
孫空女には、ここがどこかのかすぐにわかった。
ここは、昨夜、大勢の手下たちから輪姦された場所とは違っているようだが、すぐ近くの湧き水の出る崖岩の上だ。
街道からは少し奥まっている場所だが、この五行山は孫空女の庭のようなものだ。
だから、すぐに孫空女にはわかった。
とにかく起きあがろうとした。
だが、がっしりと両手が背中側で拘束されていることに気がついた。
「あ、あれっ?」
しかも、革靴を除いて完全な素裸だ。両手首には、なにかを嵌められていて、それが背中側でくっつているようだ。
さらに、足首に赤い足環も嵌められている。
今度は足を使って、身体を起こそうとした。
しかし、足環と足環のあいだに見えない鎖でも嵌められているような感じで引っ張れる感触が襲った。なにもないのに、足環が一定の距離以上に離れないのだ。
「
「あいつ……?」
そう口にして、孫空女はそれが、あの女道士のことだとわかった。
道術の遣い手のことを「道士」と呼ぶ。
道士といえば、天教の巫女だ。
天教というのは、この帝国を中心に広がっている信仰組織だが、その頂点には道術を駆使する者たちがいるのが特徴だ。
その天教に属する道士のことを「法師」とも称する。
あの女は、自分のことを「三蔵法師」だと名乗り、宝玄仙とも言ったはずだ。
孫空女はだんだんと記憶が蘇ってきた。
その宝玄仙は恐ろしい道術の遣い手であり、うっかりとその宝玄仙を襲ってしまった孫空女は、手下の男たち共々結界の力場に捕らえられてしまったのだ。
だが、なにをするのかと思えば、あの女道士は孫空女の手下たちをけしかけて、孫空女や沙那を輪姦させたのだ。
それだけでなく、自分自身も……。
「あ、あの変態巫女……」
とりあえず、孫空女は身体を捩じって上体を起こそうとした。
すると、沙那が背中に手を当てて手伝ってくれた。
その沙那も孫空女と同じように、靴以外にはなにも身に着けていない素裸だ。
孫空女と沙那は、岩に囲まれた場所で裸で並んで座るかたちになった。
孫空女はちらりと沙那を見た。
首に銀色の金属の輪が嵌まっている。
これが『服従の首輪』か……。
宝玄仙の言葉によれば、沙那はこれを嵌められて、宝玄仙に逆らうことのできない状態にされているとのことだった。
そのとき、孫空女は沙那の両乳首の根元にも金属の輪が食い込んでいることに気がついた。糸のように細くて、色も肌に同化するような感じだが、確しかに金属の輪だ。
しかも、なんだか、その輪は沙那の乳首を勃起した状態に保持させているような気配だ。
沙那の乳首は、これという刺激を受けているわけでもなさそうなのに、こっちが赤面してしまうくらいに勃起して尖っている。
すると、沙那を見ていた孫空女の視線が沙那の視線と交差した。
「ご、ごめん、じろじろと見ちゃって……」
孫空女は慌てて、視線を逸らした。
しかし、沙那が破顔した。
「いいのよ。おあいこよ。わたしも、あんたの身体を見たしね」
沙那が白い歯とともに、手に持っていた布を見せた。
それで、沙那が孫空女の身体を湧き水を使って洗ってくれたのだと知った。
そういえば、あれだけ犯されて、全身に男たちの精液を浴びたようになっていたはずだが、孫空女の身体はすっかりときれいになっている。
「あんたが拭いてくれたのかい。ありがとう……」
とりあえず、孫空女は言った。
「沙那よ。あんたは孫空女ね……。あいつが言っていたから……。よろしくね」
沙那が微笑んだ。
だが、その笑みにはほのかな哀しみのようなものがあった。
その表情で、孫空女には、この沙那もまた、あの変態巫女に捕らわれた犠牲者だということを確信した。
「……ところで、それ……?」
孫空女は好奇心を抑えられずに、沙那に乳首の根元にある輪について訊ねた。
すると、沙那の笑みが苦々しいものに変化した。
「目がいいのね……。これは『
「霊具の淫具?」
霊具というのは、道術の技を発揮するためにあらかじめ霊気を込めた道具のことだ。
滅多に存在しないものであり、霊具というのは例外なく高価だ。盗賊稼業をしている孫空女には、霊具の貴重さも、その価値もわかる。
だが、その霊具を淫具に……?
孫空女は訝しんだ。
「女を常に欲情状態にする淫具よ。あいつは、わたしの乳首だけじゃなく、股間にも嵌めているわ。道術を込めて、勝手に外せないようにしてね。おかげで、わたしは四六時中、身体が火照っている状態から逃げられないということよ」
「え、ええっ?」
孫空女はびっくりした。
確かに、沙那の乳首は欲情したようにぴんと上を向いている。
さらに、沙那の股間に視線をやった。
沙那の股間は完全な無毛だったが、少し開いた股間では桃色の陰核がぷっくりと顔をもたげていた。しかも、股はねっとりと淫液で濡れているようだ。
沙那は孫空女の視線に気がついて、恥ずかしそうに膝で股を隠した。
孫空女も急いで顔を戻す。
「だ、大丈夫なの……?」
孫空女は訊ねた。
沙那の身体の様子を観察すれば、その『女淫輪』という霊具の淫具がただならぬ影響を沙那に強いているのがわかる。
しかし、沙那の様子はいたって平静であり、淫情に悶え狂っている気配は皆無だ。
「まあ、慣れればね……。それに、わたしは少しばかり気を扱うことができるの……。武術の修行で身に着けた技なんだけど、いまは、あいつの淫具からなんとか身体を正常に保たせることに役立っているわ」
沙那が自嘲気味に笑った。
「気を……」
孫空女はまともに武術を習ったことがあるわけじゃないから、気功というのはよくわからないが、それを操るというのは、この沙那がそこらの武芸者とは格が違うほどの実力があるということだ。
そういえば、宝玄仙は、この沙那について、もともと、どこかの城郭にある地方軍の女将校だと言った気もする……。
「そういうことをするのよ、あの女はね……。天教の最高位にある法師であり、八のひとりで?霊具作りにかけては、この世に右に出る者がいないと言われているそうよ……。でも、その能力をこんな風に遣う大変態なのよ。昨夜の乱交を覚えているでしょう? わたしも、あれほどに変態だとは知らなかったわ。女好きなのかと思えば、男も大好きなのね。まったく呆れたわ──」
沙那が声をあげた。
しかし、すぐに、自分の声に驚いたような表情になり、口をつぐむ。
次いで、さっと視線を心配そうに岩場の外に向けた。
もしかしたら、その方向にあの宝玄仙がいるのだろうか……。
それにしても、八仙?
孫空女は驚愕した。
「八仙って、どういうこと、沙那? あの変態女は何者なの? やっぱり、あいつ本物の法師?」
八仙というのは、帝都にある天教の総本山にいる八人の道術の最高術師のことだ。また、八仙は、帝国だけでなく、さらに西に拡がる諸王国にまで影響を及ぼす天教教団の最高権力者でもあるはずだ。
その権威は、皇族にも匹敵しており、それがたったひとりの従者だけを連れて、こんな山街道を旅するなど考えられない。
だが、一方で、確かにあの結界術の力場はすごかった。
孫空女も、これまでに何人もの道術遣いに出逢ったが、あんな結界術は桁外れだし、想像すらしたことはない。
あの実力を思うと、宝玄仙が八仙のひとりというのも、頷けないこともない。
しかし、あの変態女が……?
「だ、だけど、八仙がなんでこんなところを旅しているのさ?」
孫空女は当然の疑問を口にした。
「西に向かう旅の途中だそうよ。もともとは、教団の従者たちを大勢連れた旅だったみたいだけど、わたしの故郷の城郭にやってきたときにはひとりだったわ。災難に遭って逃げていったと言っているけど、多分、あの道術で追い払ったのだと思う。あいつは、ただ、自由に旅ができる状況を作りたかったのよ……。」
「自由に旅?」
「あの変態を満足させるためにね……。そのためには、行儀のいい教団の従者は邪魔でしょう? だから、さっさと追い払って、それで、改めて玩具にする者を捕まえたのよ。つまり、わたしをね──」
沙那が口惜しそうに口元を歪めた。
孫空女には、沙那に対する同情の気持ちが沸いた。
あの巫女が本当は何者であるかはともかく、正真正銘の変態女であることは間違いない。
たったひと晩のあの乱痴気騒ぎだけで、孫空女はもうすっかりとげんなりしている。
その宝玄仙とずっと一緒に旅をしている沙那が、毎日、どんな目に遭っているかは想像して余りある。
『女淫輪』かなにか知らないが、おかしな欲情を強要する霊具を装着したり、命令に逆らえない首輪を嵌めさせたリと、まったく人をなんだと思っているのだろう。
「沙那の故郷って、どこさ?」
孫空女は訊ねた。
「
「愛陽……」
愛陽というのは、ここからずっと東に向かったところにある大きな城郭のはずだ。すでに、ここは帝国の西の国境に近いので帝都はずっと遠くだが、愛陽なら帝都はすぐだ。
愛陽で暮らしていた沙那ならば、帝都にいる八仙たちに接する機会も少しはあるのかもしれない。
その沙那が、宝玄仙は八仙だというのだから、本当なのだろう。
いずれにしても、どうやら、とんでもない女を襲ってしまったのだということはわかった。
八仙ほどの力を持った存在が、沙那という女従者ひとりだけを連れて旅をしているなど予想外だが、とにかく、孫空女の運はこれで尽きたらしい。
だが、あれだけの輪姦を受けながらも、思ったよりも身体は楽だ。
輪姦のときには、かなり乱暴なこともされた記憶もあるが、負傷らしいものもない。
「あいつはわたしに命じて、あんたに回復剤を服用させたのよ。それだけじゃなく、治療術も遣ったみたい」
孫空女の表情で疑念が伝わったのか、沙那がそう言った。
膣も尻も凌辱により裂けたのかと思ったが、いまはまったく違和感はない。
「そうだ……。ごめん、沙那」
孫空女は思い出して、頭をさげた。
「ど、どうしたの、孫空女?」
沙那はきょとんとしている。
「あたしは、あんたを襲おうとした。それに、沙那を凌辱したのは、あたしの部下だった男たちだ。あたしのことは自業自得だけど、あんたは優しい……。あんなことをするんじゃなかった。本当にごめん」
孫空女は頭をさげたまま言った。
すると、沙那がくすりと笑った声がした。
「いいのよ」
沙那が孫空女に頭をあげさせた。
そして、言葉を続ける。
「……それよりも、休憩は三刻(※ 約三時間)のみだそうよ。そうしたら、出発。あんたもね」
沙那が言った。
「そうか……。軍にでも突き出すのかい?」
盗賊を捕らえるのは城郭の軍の仕事だ。
やっと年貢の納めどきが来たということらしい。
生き飽きたというほどでもないが、それなりに、なんとか死なないでこれた。
盗賊の頭領などをやっていたのだから、捕らえられれば、首を斬られるのはわかっている。
覚悟はできている。
しかし、沙那は首を横に振った。
「あの女は、あんたを旅の供にするそうよ。そう言っていたわ」
「連れていく? あたしを?」
孫空女は首を傾げた。
だが、そういえば、あの凌辱のとき、そんなことを言っていたような……。
「気に入ったんでしょうね。あなたって、可愛らしい顔をしているし……。それに、あいつは、あんたみたいに、気の強い女を苛めるのが大好きなのよ。そういう変態なの」
沙那は困ったように言った。
その物言いがなぜかおかしくなり、孫空女はぷっと噴き出した。
沙那は、孫空女が笑ったことに驚いたようだったが、すぐに沙那も微笑んだ。
「……この状況で笑えるなんて、あなたって面白いのね……。でも、残念ながら、わたしもあんたも、あの変態巫女の供になるのよ……。そして、あいつの気紛れで性の玩具にされる慰み者……。つまりは、性奴隷になるということよ。昨夜まで、わたしはあいつを股間に男根を生やしたふたなりだと思っていたけど、昨夜の様子だと、本当は女の身体のようね。いずれにしても、今日からはずっと一緒に旅をすることになるのよ。よろしく、孫空女」
沙那は言った。
あの変態巫女の慰み者……?
ぞっとしない想像だが、いまは逃亡のしようもない。
両手は相変わらず背中から離れないし、足首の輪も少しでも両脚を離そうとすると、見えない鎖に阻まれたようにお互いに引っ張られる。
これでは逃げられない……。
とりあえず、様子を見るしかないか……?
いや、だが……。
「ところで、その宝玄仙は?」
孫空女は訊ねた。
いずれにしても、近くにはいない気がする。
この湧き水の出る岩地は、昨夜の輪姦の場所からは、ちょっとだが距離があるのだ。
宝玄仙がまだ昨夜の場所に留まっているとすれば、もしかしたら、このまま逃げることは不可能じゃないかもしれない……。
そういえば、この近くには、手下たちにも知られていない秘密の隠れ家が作ってある。
そこなら、まず見つからない。
孫空女は思い直した。
ひとりでは無理だが、沙那を連れていけばいい。
この沙那が、実際には宝玄仙に心腹していないのは明らかだし、沙那自身が自分も犠牲者だということを口にしている。
ならば……。
「あいつは、昨夜の場所よ。あたしたちを輪姦をした男たちの数名に、気絶したわたしたちをここまで運ばせると、わたしを起こして、あんたの世話をしろと命じたのよ。自分は昨夜の場所でもう少し休むと言っていたわ。まだ寝てんじゃないかしら……。身分の高い貴族巫女のくせに、野宿も粗食も気にしないのは楽でいいんだけど……」
沙那が言った。
「じゃあ、手下たちは……? いや、元の手下たちは?」
もう、手下なんかじゃあり得ない……。
孫空女は自嘲気味に笑ってしまった。
宝玄仙に強要されたとはいえ、頭領の自分にあれだけのことをしたのだ。向こうも、すでに孫空女を頭領とはみなしていないだろうし、孫空女も同じだ。
ただ、これでも孫空女は、あいつらのことを親身に面倒を看てやったつもりだ。
無念の思いが心に交錯する。
「用が済んだから脅かして去らせたようよ。あたしたちを運んだ男たちも、あいつが追い払った……。とにかく、わたしにあいつの身体を洗わせると、あんたとあたしの身体についた精液を洗っておけと言い残して、戻っていったわ」
「じゃ、じゃあ、ここにはいないんだね?」
「そうね……」
沙那が頷いた。
孫空女の心に希望の光が灯った。
「沙那、逃げよう」
孫空女は短く言った。
ここは、孫空女に庭だ。
あの巫女がどんな神通力を持っていようと、さっきの場所が絶対に見つからない場所だという自信はある。
うっかりと近づけば、ただで済まない罠だって仕掛けている。
孫空女は早口でささやいた。
沙那は一瞬だけ目を輝かせたように見開かせたが、すぐに諦めたように嘆息した。
そして、孫空女の言葉が終わるのを待ち、静かに首を横に振った。
「逃げるのは不可能よ……。諦めて、孫空女……」
沙那が静かに言った。
「なんで──?」
孫空女は声をあげた。
沙那さえ、その気になれば逃げられる。
それは、沙那としても、盗賊の頭領の孫空女を信用できないというのはわかるのだが……。
孫空女は説得をしようと、口を開いた。
だが、沙那がそれを遮るように、自分の首輪を指さした。
「これよ……。わたしは“命令”によって、逃亡することを禁止されている。それどころか、あんたが逃亡しようとすれば、全力で阻止せよとも命じられた。逃がしてあげたいけど、いまのわたしには、それはできないわ」
沙那がそう言って、がっしりと孫空女の腕を掴んだ。
孫空女ははっとした。
首輪の力というのがどれほどのものなのかは想像できないが、あの巫女の作る霊具なのだから、怖ろしいほどの力を持つのは間違いないだろう。
孫空女が逃亡しようとすれば、沙那はそれを阻む……。
そうか……。
そんな命令も……。
身のこなしだけで、沙那がかなりの武術の遣い手だというのはわかる。
手首と足首に『緊箍具』という霊具の拘束具を装着された孫空女が、沙那から逃亡できるわけがない。
「わかった、逃げないよ、沙那……。約束する」
孫空女は言った。
沙那がほっとしたように孫空女の腕を離した。
それにしても、『服従の首輪』というのは、本当に恐ろしい魔具なのだろう。
同じように捕らえられた身の上らしい沙那をこれ以上困らせたくはない。
そのとき、沙那が孫空女の裸身に目をやり、大きく息を吐いた。
「それにしても、あんたも
沙那が言った。
それで、孫空女はやっと自分の身体になにかの紋様のような赤い線がびっしりと描かれているのことに気がついた。
そういえば、昨夜、あの巫女におかしな術をかけられ、その直後、異常なほどに身体が火照り、わけがわからなくなった。
覚えているのは、最初に男根を股間に生やした宝玄仙に犯され、それを皮切りに、次々に手下たちに絶頂させられたことだ。
どこをどんな風に触られても、孫空女はよがりまくった。
それが恥ずかしいとか、屈辱であるとか思考することもできなかった。
全身が性器そのもののようになり、面白がった手下たちが、孫空女の敏感になった肌に珍棒を擦りつけて、孫空女の顔や身体に精をかけ合ったりした。
そして、挙句の果てに、いき狂いになって意識を保てなくなり……。
いまこそ、昨夜の恥辱をまざまざと思い出した。
「な、内丹印──? あ、あいつ、あたしの身体になんてことをしやがったんだ──」
孫空女は怒鳴った。
「すぐにその紋様は消えるわ……。わたしもそうだったし……。まあ、だからと言って、あいつの操り人形であることには変わりないけどね」
沙那は首を竦めた。
「畜生、あの糞女──。絶対に仕返ししてやる」
孫空女は激昂して怒鳴った。
「こ、声が大きいわよ、孫空女」
沙那が狼狽えた声で言った。
孫空女は口をつぐんだ。
しかし、ふと見ると、沙那の顔のは、心なしか孫空女に対する称賛のような表情が混じっている気がした。
もちろん、気のせいかもしれないが……。
「……とにかく、機会を待ちましょうよ、孫空女……。わたしも希望は捨てていないわ。西に向かう巡礼の旅だそうだから、長い旅の途中では、なにか機会があるはずよ。まあ、わたしたちを殺すほどには、残酷でも冷酷でもないようだから……。とんでもない変態ではあるけどね……」
「西に向かう旅って……。どこに向かう旅なのさ?」
孫空女は何気なく言った。
西ということは、帝国の国境を越えるということか……?
帝国の西側は、諸王国と総称されている小さな国々が大陸街道沿いにずっと続いている。
そこのどこかか……?
「ここから国境を越え、諸王国を通り抜けた遥かに西にある大河のさらに西だそうよ」
「大河って、まさか
孫空女はびっくり仰天した。