※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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 第8話    商家の豚妖怪【猪公(ちょこう)】~烏斯(うし)国
40  路上お漏らし命令


 帝都の西の国境の城郭である高老(こうろう)の城郭にある地方神殿で数日を過ごし、いよいよ、帝国の国境を越えて烏斯(うし)国に入った。

 帝国領地を出たとはいえ、まだまだ、帝国の属国と呼べる国が続く。そういう意味では、まだまだ、帝国領にいるようなものだ。

 

 孫空女(そんくうじょ)も少女時代を旅ですごしたので、帝国領だけではなくこの烏斯国にも入ったことがある。烏斯国よりももう少し西側の諸王国の旅の経験もある。

 旅については、宝玄仙(ほうげんせん)も若い修業時代に西方諸国を流浪した経験があるようだ。

 宝玄仙自身がそう言っていた。

 

 もっとも、宝玄仙の外見で「若い頃」などと言われるとおかしみしか感じない。実際の年齢がいくつなのかわからないが、見た目だけなら宝玄仙も二十歳前後の孫空女や沙那(さな)と大差ないとしか思えないからだ。

 

 それに比べれば、沙那はこれが生まれて初めての国境越えらしい。国境どころか、故郷の愛陽(あいよう)の城郭周辺しか行ったことがなかったらしく、関所を越えるときの沙那の緊張の様子がとてもおかしかった。

 帝国領と烏斯王国を結ぶ関所は、宝玄仙の名を出すとあっさりと通過することができた。

 

 沙那によれば、以前、帝国領内の自治領などに入るときの関所の方が、むしろ厳しかったらしい。宝玄仙はともかく、供の沙那など裸にさせられて身体検査まで受けていたと言っていた。

 しかし、孫空女は、おそらくそれは、宝玄仙の「遊び」だと思っている。そういうことをする女なのだ。

 

「まだ、怒っているのかい、沙那?」

 

 宝玄仙が後ろから荷を担いでついてくる沙那に言った。

 

「怒っていません」

 

 沙那は言った。その声は明らかに不機嫌だ。孫空女は忍び笑いをした。

 発端は、帝国領で最後の教団の施設である高老の神殿に行ったときのことだ。ただの一度も天教教団の修行などしたことのない沙那と孫空女であるが、宝玄仙の供ということで、教団の一員としての地位と戒名を貰っている。

 孫空女が「孫玉蔡(そんぎょくさい)」で、沙那が「沙宝蔡(さほうさい)」だ。

 

 教団ではそこそこの幹部神官の地位らしく、また、ふたりには帝都にある教団兵の将校の地位もあるようだ。

 もっとも、それは、宝玄仙が帝都で犯した「八仙殺し」の大罪により、教団の糾弾を受ける立場に変わるまでの話で、いつまで続くことかはわからないとのことだ。

 

 そういう事情もあるので、この西域に向かう旅をしている宝玄仙が教団の施設に立ち寄ることは多いことではない。

 むしろ避けてきたようだ。

 だが、八仙という教団最高幹部の宝玄仙は、その気になれば各地方にある地方寺院でそれなりの優遇を受けることができる。路銀の融通もその優遇のひとつだ。

 

 しかし、今後、教団の宝玄仙に対する態度が変化すれば、状況も変わるだろう。

 また、帝国国境から先には天教教団の施設はそれほど多くない。天教教団に頼れないということは、旅に必要な路銀を得る手段が制限されるということだ。だから、高老の城郭で神殿に立ち寄ることにしたのだ。

 

 その高老の寺院で、孫空女と沙那はそれまでの旅において、修行巫女の正式の装束だと教えられていた巫女装束を着ていった。

 以前から、随分と下袍(かほう)(※スカート)の丈が短いものだとは思っていたが、それは教団兵の女性巫女の装束だと教えられていたので、そう信じていたのだ。

 教団の装束を身に着けるときは、下着をつけないということでさえ……。

 それが、その高老の地方寺院で過ごす二日目で訊ねられたのだ。

 

 “なぜ、そんな破廉恥な恰好をしているのか?”――。

 

 どうやら、孫空女と沙那が着ていたのは、教団兵の修行巫女の服装は服装でも、本来はあの短い丈の下袍の下に下袴(かこ)(※ズボン)をはくのが普通だったのだ。

 いや、それどころか、あの下袍と思っていた部分は、ただの上衣の裾であり、下袍ですらなかったのだ。

 騙されていたことに沙那はまだ怒っている。

 

「いつまで機嫌が悪いんだい、沙那? あんなことよりももっと恥ずかしいことたくさんやっただろう」

 

「沙那として恥ずかしいのはもういいんです。でも、沙宝蔡として恥ずかしいことは我慢できないんです」

 

「街道を素裸で歩かされたことよりも、お蘭の里のことよりも、あの短い丈の下袍が恥ずかしかったのかい?」

 

「もちろんです──。まさか教団の装束で辱められるとは夢にも思いませんでした」

 

「よくわからないねえ……」

 

 宝玄仙は苦笑している。

 沙那は腹を立て続けているようだが、

 今回ばかりは、孫空女は宝玄仙の意見に賛成だ。

 ただ、下袍の丈が異常に短かかっただけで、やはり、素裸で歩かされたときの方が恥ずかしかったし、お蘭の里で受けた仕打ちの方が恥ずかしいと思う。

 だが、帝国領内の経験しかない沙那には、天教というのはそれだけ特別な存在のようだ。

 まあ、沙那の感覚は孫空女にも理解できない部分がある。

 

「それよりも、ここから先は路銀のことも考えないとね」

 

 宝玄仙が言った。

 

「路銀は十分だと思いますけど……」

 

 沙那が言った。いま、この旅で路銀の管理をしているのは沙那だ。

 

「それは、帝国貨幣が通用する場合の話だろう、沙那?」

 

「えっ、帝国貨幣が通用しないところもあるのですか、ご主人様?」

 

「帝国領から離れるに従って帝国貨幣は通用しなくなるよ。少なくとも額面ではね。しばらく続く諸王国は帝国の属領みたいなものだから、使えないわけじゃないけど使うためには、それぞれの王国の貨幣に交換する必要があるところも多いね……」

 

「えっ、金子をいちいち交換するんですか?」

 

 沙那はびっくりしている。

 どうやら、知らなかったようだ。

 

「そのたびに手数料がとられるから使用できる額はずっと減る。それでも、帝国貨幣は属国のどの国でもその国の貨幣と交換できるから便利さ。それに比べればこの烏斯王国の貨幣は次の鉢露(はちろ)国では交換すらできないよ」

 

「知りませんでした」

 

 沙那は驚いている。

 

「そんなことも知らなかったとは不勉強だよ、沙那」

 

 しかし、宝玄仙との旅を始める前の沙那は、帝国領の外の世界のことは知らなかったのだ。無理はない。沙那はとても頭がいいが、旅のことやほかの世界のことは、孫空女の方が知っているくらいだ。

 

「も、申し訳ありません、ご主人様……」

 

「その様子じゃあ、西方諸国を抜ければ、帝国紙幣が交換できないどころか、無価値になるということも知らないようだね」

 

「そうなんですか?」

 

「路銀の中には帝国紙幣のほかに金貨や銀貨もあるだろう?」

 

「はい」

 

「そういうものは貨幣としての価値ではなく、金や銀としての価値があるから、本当はどの国でも通用するはずなのさ。もちろん、純粋な金や銀としての価値だから、帝国領内で通用するほどの価値はないけどね。それでも、そういうものは物々交換の手段として非常に有効だ。ただ、紙幣などただの紙屑だよ。鼻紙にもなりはしないさ」

 

「な、なんでそんなことになるんですか?」

 

 沙那は、まだ驚いている。

 ずっと帝国領内で育った沙那には、国境を越えることで貨幣に価値がなくなったりするということが実感としてわからないのだろう。

 

「金や銀にはそれそのものに価値があるけど、紙幣なんかただの紙だからね。紙には価値はないよ。そういうことだよ、沙那――。だけど、金貨や銀貨だって絶対に大丈夫とはいえないよ。国によっては、帝国の刻印があるだけで使えないところもあるよ。確か、北方帝国がそうだったと思うよ。北方帝国は帝国とは国境を断絶しているから、帝国貨幣の使用を禁止しているんだ……。まあ、禁止されていても闇両替商とかもあるから、実際には交換できるけどね」

 

 孫空女は言った。

 

「金や銀じゃないと駄目なの……?」

 

 沙那が呆然としている。

 こんなに驚いている沙那は珍しいと思った。頭がいい沙那に孫空女がなにかを教える機会があるなんて珍しいことなのだ。孫空女はなんだか嬉しくなった。

 

「そう言えば、“帝国”という名称もそうだよ。いままでは、“帝国”といえば、あたしたちの故郷の国のことでしかなかったけど、これからは、“東方帝国”と呼ばないと、みんなどっちのことかわからないと思うよ。ずっと、北には北方帝国という国もあるしね。それに、噂でしか聞いたことがないけど、遥か西には、西方帝国と呼ばれる国もあるらしいよ。そこに行けば、“帝国”と言えば、自分たちの国のことを指すことになるんだけどね」

 

 孫空女は言った。

 

「よく知っているねえ、孫空女――。まるっきり馬鹿というわけじゃないんだねえ……」

 

 宝玄仙が感心したように言った。

 

「これでも、ずっと五行山(ごぎょうさん)で盗賊をやっていたわけじゃないんだよ。むしろ、あちこち旅をしてたんだ。そういうことだから、沙那、多分、これからの旅で、本当に役に立つのは、帝国貨幣でも帝国金貨や帝国銀貨などではなく、金粒や銀粒だと思うよ。粒だったら刻印もなにもないから、どこでもそのまま通用すると思うよ」

 

「旅慣れているんだったら、旅で路銀を稼ぐ方法も知っているんじゃないかい、孫空女?」

 

「まあ、思いつくことはあるけどね、ご主人様……」

 

 孫空女は考えていたことを喋ろうとした。だが、それは沙那の大きな声で遮られた。

 

「ご主人様──。申し訳ありません──」

 

 沙那が蒼い顔をしている。

 

「どうしたのさ、沙那?」

 

 宝玄仙は呆気にとられている。

 孫空女もだ。

 この旅は始まって以来、あれほどの沙那の悲痛な表情は初めてだ。この変態巫女に恥ずかしい調教で苛められたときでも、あんなに切羽詰ったような顔を沙那はしなかった。

 

「わ、わたし、高老の城郭で、ほとんどの金貨や粒を帝国紙幣に交換してしまいました」

 

「な、なんだって──?」

 

 これには、宝玄仙もびっくりしている。

 

「どうして、そんなことをしたんだい──? そもそも、高老の寺院でも路銀は金粒と銀粒でと、わたしは頼んでおいたのだよ」

 

「そ、そのう……。朝、それを渡されそうになったとき、わ、わたし、断ってしまいました。それどころか……、わたし、この旅のあいだ、機会さえあれば、ずっと金貨や銀貨も帝国紙幣に替えていたんです。いまは、紙幣ばかりで、金貨とか、銀貨とか、その……孫空女の言っていた粒も、あんまり残っていません」

 

「あらあら……」

 

 宝玄仙も呆れ顔だ。

 

「申し訳ありません」

 

 沙那は頭を下げた。その顔は真っ蒼だ。多分、自分の失敗をひどく後悔しているのだろう。

 

「理由を訊きたいね、沙那……」

 

 宝玄仙が静かな口調で言った。

 ここは、関所と接する烏斯国側の入口の辻に入ったところだ。

 ここから先は関所を出入りする旅人が目当ての旅館や食堂が並んでいる。往来も多い。道の途中で立ちどまっている女三人の旅姿に視線を送りながら通り過ぎていく旅人も少なくない。

 

「だって……重いから……」

 

 沙那は小さな声で言った。

 

「そんな理由?」

 

 宝玄仙は言った。

 沙那は三人分の旅の荷物をいつも全部背負っている。

 宝玄仙を襲う者があれば、すぐに孫空女が対応しなければならないからだ。荷を背負っていては、咄嗟の行動ができない場合がある。

 だが、沙那と孫空女の荷物はほとんどないものの、やはり、三人分ともなれば、それなりの重量になる。着替えや野宿をするときの毛布や調理器具一式。宝玄仙の魔具も多く、荷物は全部で竹編の葛籠[つづら]六個だ。

 それを大きな背負子に載せて運んでいる。鍛えているとはいえ、沙那も女だ。少しでも重量を減らそうと、重たい金や銀そのものを避けようとするのは、わからないでもない。

 

 考えてみれば、荷の中で金貨や銀貨が一番重いのは確かだ。

 だが、帝国の外に出ようとするのに、逆に、わざわざ金銀を帝国紙幣に替えてしまうとは非常識だ。

 孫空女も呆れる思いだ。

 

「やってしまったことはどうしようもないねえ……。さて、でもどうするかねえ?」

 

 宝玄仙も困った顔をしている。

 

「あのう……、わたしが引き返して、帝国領に戻って高老の寺院で事情を説明して……」

 

「沙那、国の国境を越えるというのは実は大変なことなんだよ。教団の準備した手形も、一度入りもう一度戻るというものしか準備しないのさ。もう一度国境内に戻ってしまえば、新しい手形を帝都から取り寄せなければならなくなる……。わたしは、もう帝都と接触したくないのさ。それに、帝国領内で、もうあまり時間をかけたくもないしね……」

 

 宝玄仙が嘆息しながら言った。

 この西方巡礼は、帝都にある教団本部の指示によるものであると同時に、宝玄仙にとっては、少しでも教団の手の届かない場所に向かうという逃避行でもある。

 いまのところ追手がかかる気配もないし、高老における宝玄仙への対応もきちんとしたものだった。

 だが、宝玄仙は、いずれ発覚するかもしれない自分の犯した“八仙殺し”という大罪が、自分と結びつけられる前に、少しでも帝国領から離れておきたいという気持ちがあるに違いない。

 

「ああ……わたし、どうしたらいいでしょうか……」

 

 沙那はうな垂れている。

 

「まあ、お前だけの責任でないというのは認めるよ、沙那」

 

 宝玄仙は言った。

 

「すみません、ご主人様」

 

 沙那はまた頭を下げた。

 

「まあ、なんとかなるんじゃない、ご主人様、沙那───。ここは、まだ、帝国領に接する宿町だよ。ここだったら、逆に帝国紙幣を必要とする旅人も多いさ。どこか分限者に帝国紙幣を買い取ってもらい、金粒や銀粒に交換してもらうという手もあるよ。少しは値減りすることは仕方ないと思うけど……」

 

「わたし、なんでもするよ、孫女」

 

 沙那は言った。

 

「いずれにしても、罰を与えないとねえ……」

 

「は、はい……。罰を与えてください、ご主人様……」

 

 沙那の怯える声がした。

 これは仕方がないだろう……。

 ただでさえ、この巫女は機会さえあれば、沙那や孫空女に恥ずかしい罰を与えようとその理由を探している。今回は正真正銘の沙那の大失敗だ。見逃すはずがない。

 沙那はもう諦めているだろうが、そう言いながらも辺りを見回している。この辺りは帝国領の国境の関所と接している宿町だ。人通りも多い。

 宝玄仙の罰といえば、淫靡なことと決まっている。

 沙那には悪いが、こんな人通りの多い場所で辱められるのは孫空女も嫌だ。

 下手に庇って巻き込まれるのも気が進まないので、孫空女は関わらないことを決めた。

 

「あっ」

 

 沙那が後ろで小さな悲鳴をあげた。そして、真っ赤な顔をして下を向いた。

 沙那の股間と乳首に装着されている『女淫輪』が動き出したのだろうというのはすぐにわかった。沙那はこの変態巫女によって、両乳首と肉芽の根元を『女淫輪』という細い糸のような金属で締めつけられている。それは、宝玄仙の気まぐれいつでも振動させることができる。

 沙那は内股を摺り寄せてもじもじし始めた。まあ、これくらいで済めば、宝玄仙の与える罰としては優しい方だろう。

 

「おう、そこの綺麗な姉さん方、もしかしたら、あんたらは──」

 

 見知らぬ男が、いつの間にかそばにいて声をかけてきた。横には、下男のような背の低い少年も一緒にいる。

 

「ひいっ」

 

 びっくりしたらしい沙那が悲鳴をあげた。

 

「わあっ。驚いた。なんだ、急に大きな声を出して──」

 

 男が沙那を振り向く。それと同時に沙那が口に手を咥えてしゃがみ込んだ。身体がぶるぶると震えた。

 

 欲情しているところを間近で見られたという衝撃で、軽く達してしまったんだなと孫空女は思った。

 

「おお、大丈夫か、あんた? おい、能生(のうう)、看てやれ」

 

「はい、高才(こうさい)さん。お姉さん、顔が赤いね」

 

 少年が沙那に駆け寄った。

 

「さ、触っちゃ駄目──」

 

 まだ痙攣をしている沙那が悲鳴をあげた。

 ふと見ると、宝玄仙が満足そうに笑みを浮かべている。

 そして、沙那に近づいて、なにごとかをささやいた。

 あまりにも小さな声なので、さすがに聞き取れなかった。

 真っ赤な顔をして上気している沙那の顔が、一瞬でこわばる。

 

「……罰を与えて欲しいと言ったろう。やらなかったら宿町のど真ん中で、自慰をするほどの欲情をさせるよ……」

 

 今度は聞こえた。しかし、やはりほんの微かな声だから、すぐそばにいるその見知らぬ男と少年にも聞き取れなかっただろう。人並はずれた聴力を持つ孫空女の耳だから聞き取れただけだ。

 

「でも……」

 

「宿町の真ん中の方がいいかい?」

 

 宝玄仙が低い声で言った。

 沙那は立ちあがった。まだ、沙那の腰はいやらしく動いている。

 

「ところで、あんたは?」

 

 宝玄仙が男に声をかけた。

 

「ああ、これは失礼しました。巫女姿のあなたを見かけたものですから、もしかしたら、高名な神官様ではないかと思い声をかけました」

 

「この人は天教教団の貴族神官様だよ」

 

 孫空女は言った。

 

「おお、やっぱり──。それなら、法力もお遣いになられるので?」

 

「法力とは魔力のこと? それだったら……」

 

 不意に孫空女の身体のあちこちが疼き出した。

 しかも、左右の乳首、肉芽、膣の中、お尻と、疼く場所が一瞬ごと不規則に変わっていく。しかも、強弱もまちまちだ。

 どうやら「黙れ」ということらしい。

 それにしても、この仕打ちは酷い。

 同じ場所を疼かされるのなら我慢もできないこともないが、次にどこが襲われるかわからないのでは対応のしようがない。それも、滅茶苦茶に刺激を強くされたり、弱くされたりされる。

 

「ひいっ」

 

 ついに、嬌声をあげてしまった。孫空女は、あわてて沙那と同じように口に手を咥えさせた。

 

「こっちもどうしたんだ?」

 

 男は驚いている。平静を装おうと思うのだが、しかし、孫空女にも余裕はない。ただ、強く手を噛むだけだ。横の少年は呆気にとられている。

 

「わたしは、いかにも天教教団の巫女だけど、あなたは?」

 

 宝玄仙が言った。

 

「ああ、俺は……」

 

 女ふたりの嬌態に呆然としていた男が視線を宝玄仙に戻した。

 

「実は、俺は高才という者で、この宿町の分限者の手代なんですが……」

 

「おや、沙那、どうしたのさ?」

 

 宝玄仙が急にわざとらしく大きな声をあげた。

 次々に襲ってくる不規則な情感の嵐に耐えながら、孫空女も沙那に視線を向けた。

 沙那は立ったまま両手で顔を覆っている。その足先に下袴から伝わり落ちる液体の染みがどんどん大きくなり水たまりを拡げている。

 

 おしっこ──?

 

 さっき、沙那が宝玄仙に囁かれた命令は、“この男たちのいる前で、立ったまま小便を洩らせ”ということだったのだ。

 沙那は顔を覆ったまま、泣いているかのように身体を小刻みに震わせていた。

 ぽたぽたと沙那の尿が、下袴の裾から地面の小さな水たまりにひた落ちている。

 

「と、とにかく、能生、お前は、この女の人が持っていた荷を担いでやれ。なんか、具合が悪そうだ──」

 

「はい」

 

 少年は沙那が横に置いていた荷を取り上げて担いだ。

 

「お、重いいい──」

 

 だが、すぐに悲鳴をあげて尻餅をついた。

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