「ちょっと下袴と下着をそこで脱いで、道具を見せてみな、お前。小さいかどうか点検してやるよ。もしも、人並みに近いくらいだったら、相手をしてやっていいけどね」
宝玄仙は、わざとらしくげらげらと笑いながら言った。
この粗野な男がただ乱暴なだけの小心者であることはひと目でわかった。
これまでの人生で、屑のような男だけは数限りなく見てきた。
だから、安物の男だけはすぐに見抜けるのだ。
この男は屑だ。
そして、この男のことを確か、周りの者は、
その秀がぎょっとしたように顔色を変える。
しかし、すぐにはっとしたように大笑いをした。
わざとらしいその笑いは、自分を大きく見せようという虚仮脅しだ。
宝玄仙には、それがすぐにわかった。
「こりゃあ、気の強い女だぜ――。しかも、俺の一物を見せろときたものだ。見せたらどうするんだい、女? さっそく、おしゃぶりでもしてくれるのかい?」
「一人前に勃起しているならね。だけど、わたしの勘じゃあ、お前のような男のあれは、こういうときには道具が縮こまっちゃって役には立たないのさ。普通よりも小さくなったのをわざわざ大きくするなんて面倒だからね。だから、見せろと言っているんだよ」
宝玄仙のその言葉に、周りからぷっと吹き出す声も聞こえた。
すると、秀はますます頭に血がのぼったようになり、激しく喚きだした。
「と、頭領……。頭領がさんざんに味わってからで構わねえから、この女を俺に調教させてくれ――。ここまで虚仮にされてただでおくわけにはいかねえということは、わかってくれるでしょう? それに、俺はこういう強そうな女を屈辱で泣かせるのが三度の飯よりも好きなんだ。こんな女、こっぴどく躾をして、自分の立場をわからせてやる」
秀が顔を赤くして叫んだ。
「まあ、がっつくなよ、秀――。お前はあの道術遣いの男の教育係になったんだろう……? なにもかも、ひとり占めはよくねえぜ……。なあ、頭領、ここは俺にやらせてくれよ」
外で馬車から降ろされた女たちの中から、宝玄仙と
この男に秀、そして、頭領と呼ばれる男――。
とりあえず、この三人は、ほかの賊徒とは一線を画して威張っている。
おそらく、この賊徒の一味では幹部級の男たちなのだろう。
いずれにしても、たかが賊徒と侮っていたが、ここの賊徒は、階級区分もしっかりしているし、動きも機敏で規律も整っている。
思った以上に精鋭かもしれない。
沙那たちには、夕方までに襲撃に来いと命令を残したが、さすがにそれは無茶だったかもしれない。
これ程の賊徒だとわかっていれば、無理をしてでも香蛾とふたりで馬車から逃げればよかったかもしれないと少し思った。
ただ、宝玄仙の道術は基本的に護りには向くが、通常の状態では賊徒を道術で攻撃して傷つけることはできないのだ。
また、馬車に乗せられた後で、すぐに『移動術』で馬車から逃亡することも頭を過ったのだが、その場合は賊徒の残っているあの町に戻ることになる。
それよりも、沙那や孫空女に迎えに来させるのが確実と、あのときは思ったのだ。
「まあ、考えておくぜ――」
頭領が笑った。
「ほう、頭領と呼ばれたからには、お前がこの賊徒の親玉というわけだろうね。名はなんと言うんだい?」
宝玄仙は後ろ手に拘束されたまま言った。
すると、今度は
どうやら、こいつも秀という部下と同様の小者のようだ。
部下の賊徒たちはしっかりと鍛えてあっても、頭領や主立つ幹部の資質までは一流とはいかないようだ。
「ああっ? い、いま、なんと言いやがった、お前? 誰に向かって口をきいていると思っているんだ――」
頭領の顔が怒りで歪んでいる。
その丸太のような太い腕が宝玄仙に向かって振りあがった。
「きゃああっ」
悲鳴は香蛾の口から迸ったものだ。
しかし、すでに宝玄仙を中心とした周囲を宝玄仙の結界で覆っている。
『結界術』は、本来は道術の及ばないただの人間にも、結界内に限って道術の影響を与えることができるという技だ。
結界内であればただの人間にも攻撃道術が通用するのだ。
宝玄仙は霊気を動かして、頭領に道術をかけた。
「うわっ――」
頭領が悲鳴をあげて、振りあげていた腕ごと全身を沈ませる。
さらに頭領の身体をうつ伏せに床に叩きつけた。
「うごええっ」
頭領が悲鳴をあげる。
その顔は激しい苦悶が浮かんでいた。
「名前だよ、名前――。早く、言いな」
宝玄仙は言った。
ほかの賊徒たちには、なにが起きたのか理解できないのだろう。
まだ、呆然として動かない。
宝玄仙は、まずは、縛られている自分の手首の縄を解いた。
元来、霊気の備わっていないただの縄は、道術で解くことはできないのだが、一度、縄を霊具化するという作業をすれば、道術で解くことも可能だ。
後手に縛られた手首の縄はとっくの昔にその準備を終わっていた。
宝玄仙は、頭領の顔に自分の履き物の裏を擦りつけた。
「ほらっ、名を教えな。お前のような蛆虫にも名前くらいあるんだろう? お前を呼ぶのに名がわからなければ、呼びように苦労するじゃないかい……。いや、まあ、蛆虫でいいか……。だったら、ほらほら、蛆虫……、わたしの履き物の泥を舐めな。そうすれば解放してやるよ」
宝玄仙は頭領の口に履き物の裏を捩じ込む。
頭領が呻いて顔を避けようとするが、その顔も道術で固定してしまう。
「舐めるんだよ。口を開けな、蛆虫」
頭領が苦しそうに顔を歪めるのが愉しくなり、宝玄仙は道術で頭領の口を大きく開かせた。
その口の中に靴の爪先を突っ込む。
「はがああっ」
頭領が泣くような声をあげた。
「と、頭領――」
硬直したように動きを止めた賊徒たちだったが、まず、最初に秀が反応した。
「し、しまった、この女は道術遣いだ――」
さっと秀が剣を抜く。
しかし、その秀も権白狼と同じように道術の力で床に押し潰す。
「眼、眼だ――。眼を潰せ――、お前ら――」
床に潰されながらも秀が叫んだ。
眼を潰せば、霊気の吸引ができなくなる道術遣いは多い。
宝玄仙もそのひとりであり、秀がそれを知っていることに、少しだけ感心した。
だが、自分の結界の中でそれをやられるような失敗を宝玄仙がするわけもない。
それに、宝玄仙は『治療術』の達人でもある。
ただ、眼を攻撃しただけでは、霊気を失うよりも、宝玄仙の自然治癒力が勝る。
秀の声で一斉に周りの賊徒たちが色めきだった。
宝玄仙は面倒になり、そいつら全員を結界の外に放り出した。
まるで中心から暴風が起きたかのように周囲の賊徒たちが四方に吹き飛ばされる。
結界の大きさは、宝玄仙を中心とした半径十尺(約三メートル)ほどの半球だ。
その中に、宝玄仙と香蛾と、そして、床に潰されている権白狼と秀だけが残される。
「し、しまった――」
部屋の外側に飛ばされて賊徒たちが、やっと我に返って、次々に剣を抜いて起きあがる。
しかし、すぐに、宝玄仙の結界による見えない壁に阻まれて、そこでとまってしまう。
「うろうろするんじゃないよ、お前たち――。この宝玄仙の結界が貴様らに破れるわけがないよ――。この宝玄仙をお前らみたいな三流の盗賊が虜にしようなんてしたのが間違いなのさ――。別にお前らには縁も恨みもあるわけじゃないけど、身の程知らずの代償は払ってもらうよ――。さてと、夜まではまだ数刻あるだろうから、ちょっとばかり遊ばせてもらおうかね」
宝玄仙は頭領の口から足を抜き、今度は秀に道術をかけて、直立不動の姿勢で宙に浮かべる。
そして、頭領にも道術をかけて、こっちは四つん這いの態勢でぴくりとも動かないようにした。
宝玄仙がその頭領の背中にどんと腰を下ろす。
いまの頭領は単なる椅子だ。
さっき口を開けたままにしてやったのは許してやったが、今度は呻くことさえ道術で封じている。
頭領の背中を通じて、頭領が感じている激しい恐怖が宝玄仙に伝わってくる。
「な、なにをしやがんだ、この女――。こ、この俺の身体になにをしやがんだ。承知しねえぞ――」
一方で、床に押しつけられたまの秀が真っ赤な顔をして怒鳴った。
しかし、口調とは裏腹に秀の身体は動揺で小刻みに震えているし、顔色は真っ蒼だ。
「へえ……。承知しなければどうするんだい、お前? 随分、威勢がいいけど、こっちの方はどんな具合なんだい? 香蛾、ちょっとおいで」
宝玄仙は、宝玄仙がやることに眼を丸くして驚いていた香蛾を呼んだ。
秀が落とした剣を拾って、香蛾の後手の縄を切断する。
一方、結界の外では賊徒たちが大騒ぎをしている。
周囲は騒然としている。
怒鳴ったり、手で押したり、武器で斬りつけたりしているが、どうしても宝玄仙の結界の中に入れないでいる。
もっとも、こいつらは結界の中に入ってどうするつもりなのだろう。
頭領を救いたいのはわかるが、ただ入っても宝玄仙の道術で簡単に押し潰されるだけだ。
おそらく、こいつらはいままでに本当に力の強い道術遣いと戦ったことがないのだろう。
だから、道術遣いとの戦い方を知らないようだ。
いずれにしても、そっちはそのままにしておくことにした。
「香蛾、この小うるさい男の下袴と下着をおろして、どんな一物か点検しな」
「え、ええ?」
香蛾が宝玄仙の命令に当惑して顔を赤くした。
宝玄仙は頭領の背に座ったまま、片足を踏み鳴らして大きな音をさせる。
香蛾の身体がびくりとなった。
「わたしは、命令を二度言わされるのが好きじゃないんだよ、香蛾……」
宝玄仙は意図的に表情を変えて香蛾を睨んだ。
香蛾が顔が引きつる。
たった二日だが香蛾も宝玄仙の怖さが身に染みてきたようだ。
香蛾は、すぐに秀に駆け寄って、秀の下袴に両手をかけた。
「や、やめろっ」
秀が悲鳴のような声をあげた。
しかし、当たり前だが、宝玄仙の道術で秀は身動きができない。
秀は顔を真っ赤にして震えているが、すぐに香蛾は、その秀の下袴を下着ごと膝までおろした。
「どれ、点検だよ」
宝玄仙は笑いながら頭領の背中から立ちあがった。
すっと秀の身体をさらに上げて、股間を宝玄仙の顔の高さまで持ってくる。
宝玄仙は恐怖ですっかりと小さくなっている秀の一物を指で軽く弾いた。
「ひいっ」
秀が情けない悲鳴をあげる。
「おやおや、やっぱり、怖くて縮みあがっているじゃなかい……。香蛾、言った通りだろう? こういう威勢のいいのは、本当は怖がりなのさ……。ほら、秀、仲間に見物してもらってきな。お前の小さくなった一物をね――」
秀の身体が直立不動の姿勢のまま、宝玄仙のいる場所を中心に外向きにくるくると結界の壁に沿って、外向きに回りだす。
宙に浮かんだまま、剝き出しにされた性器を晒される秀は悲鳴をあげ続ける。
ほかの賊徒たちの注目は空中をくるくると周り続ける秀に集まっている。
そこで初めて、宝玄仙は今度は、この建物内で素裸で柱に縛られている若い娘と、手足を短く切断されて犬のように首輪に繋げられた鎖を部屋の壁に結ばれている若い男に意識を注いだ。
「ところで、お前はなんで縛られているんだい? それに、あの犬のように首輪をつけられている手足のない男はどうしたことだい?」
さしずめ、ここでこいつらの慰み者になっていた犠牲者だろう。
町を襲って自分たちが犯す女たちを浚うくらいだから、これまでも同じことをしていたのは間違いない。
だから、このふたりは宝玄仙が来るよりも前にいたこの賊徒たちの性奴隷に違いない。
それにしても、随分と好き放題していたようだ。
女の足元には、剃りあげたばかりの陰毛が落ちていて、剃毛の道具も置いたままになっている。
男は、男娼なのかもしれないが、手足を切断して逆らえなくして、首輪で繋げている。
そういう悪趣味な所業は宝玄仙は大嫌いだ。
「わ、わたしは……」
柱に縛られている娘が口を開こうとしたとき、再び集会場の入口が荒々しく開いた。
「と、頭領、大変です――。おうっ、なんだこりゃ――」
外からやってきた男は、なにかを報告しにやって来たようだ。
しかし、入って来るなり、この集会場の中の異様な状況に全身を硬直させた。
「なんだい? もしかして、この蛆虫になにかを報告しようとしにきたのかい? 構うことないよ、喋りな」
宝玄仙はその男に向かって言った。
「う、蛆虫?」
その男は眼を白黒している。
「お前らの頭領だよ。気にせずさっさと報告しな。呻き声も出せないようにしてあるけど、ちゃんと聞こえているよ」
宝玄仙は尻の下の頭領をの髪の毛を掴んでぐいと顔を前に向かせる。
顔をあげさせると、頭領は随分と情けない顔になっていた。
「こ、こりゃあ、どうしたことだ――? なにがあった?」
男は宝玄仙の言葉には応じずに、宝玄仙の作った結界の外で右往左往している仲間に向かって声をあげた。
「そ、それが……。訳がわかんないんだ……。どうやら、連れてきた女は道術遣いだったらしい……。それでおかしな道術で頭領と秀があんなことに……」
もうひとりの賊徒の幹部らしき男がおろおろした口調で言った。
お互いの態度から報告のために新たにやってきた男も賊徒の幹部だというのは予想がついた。
「お、お前は道術遣いなのか――?」
その幹部は眼を見開いている。
「誰もかれも、同じことを言うじゃないかい。飽きたよ――。ああ、そうだよ。道術遣いの宝玄仙だよ。しかも、偉大な道術遣いの宝玄仙様だ。お前らが、わたしが泊っている宿屋のある町に女狩りなんかにやってきたから、ちょっとばかり遊びに来てやったのさ」
「お、お前、頭領をどうするつもりだ――? そ、それに秀を放せ。承知しねえぞ」
その男が叫んだ。
「承知しなければなんなんだい? じゃあ、わたしも言わせてもらうよ。この蛆虫に報告するつもりだったことをさっさと口にしな。さもないと、わたしも承知しないよ――。ここはわたしの結界なんだ。ただの人間のお前らが太刀打ちできるものじゃないさ」
宝玄仙はそう言ってから、頭領の背中から降りて、今度は頭領の身体を真っ直ぐに立ちあがらせた。
ついでにくるくると回らせていた秀の身体も頭領の隣に移動させる。
「頭領、大丈夫ですか?」
結界の外から、報告をするためにやってきた男が叫んだ。
「おい、蛆虫、お前の部下は耳が聞こえないのかい。ちっともわたしの言うことを聞きやしないよ」
宝玄仙はまずは、頭領にかけていた無言の道術を解く。
そして、いきなり、秀と同じように下袴と下着を引き下ろしてやった。
「ひいっ」
頭領もすっかりと宝玄仙の道術の恐ろしさに飲まれているようだ。
怒声よりは、哀れな悲鳴がその口から迸った。
宝玄仙は、すっとその頭領の股間に手を伸ばした。
「うぎゃあああ」
次の瞬間、けたたましい絶叫が頭領の口からあがった。
宝玄仙は頭領の陰毛を指で掴んで、まとめて引き抜いたのだ。
「部下にわたしの命令に従うように指示しな。それとも、逆らうのかい……?」
再び宝玄仙は、頭領の股間に手を伸ばした。
「ひいいっ――。や、やめてくれ――。おい、お前ら、この女の言う通りにしろ――。は、早く、報告しろ――」
頭領が必死の声で叫んだ。
「は、はい、頭領……。そ、そのう……。報告しようと思ったのは、あの町で残って女狩りをしていた一隊が、妙な二人連れの女にやられたということで……」
その男が言った。
「二人連れの女……? そいつらに、あのときの女狩りをしていた連中がやられたということかい?」
宝玄仙は言った。
「そ、そうだよ……」
男が頷いた。
その二人連れの女というのは、間違いなく沙那と孫空女のことだろう。
そうだとすれば、残してきた朱姫も逃げ延びた可能性が高い。
宝玄仙は少しほっとした。
「そうかい……。じゃあ、次の要求だよ……。そこに縛られている女と、あの手足を切断された男の拘束を解きな――」
宝玄仙は言った。
そして、もう一度視線を裸の娘に向ける。
「女とその犬男は結界の中に入って来るんだ……。それから、拘束を解かれたら、足元にあるものも持っておいで、お前」
宝玄仙は表情を崩した。
後はあの三人がここにやって来るまで、この結界に閉じ籠っていればいいだろう。
こうやって頭領を人質にとっていれば、あの三人だったらこの程度の賊徒くらいあしらうに違いない。
その間、あの剃毛の道具があれば暇潰しもできそうだ。
しかし、賊徒たちはすぐには動こうとしない。
「ほら、さっさと、指示に従うように命令しな、蛆虫――」
宝玄仙は頭領の股間に手を伸ばして、また何本かの陰毛を引き抜いた。
頭領が絶叫し、引きつった声で部下に指示に従えと喚いた。
駆け寄っていった部下が柱に縛られている女の縄を解く。
女は自由になると一目算に、手足を切断されている犬男の元に駆け寄った。
「
その女はぎゅっと男を抱き締めた。
どうやら、このふたりは特別の関係のようだ。
だが、そのふたりがいる場所は、まだ宝玄仙の結界の外だ。
とりあえず、そのふたりをさっさと結界の内側に入れて安全を確保したい。
しかし、その女は男の首を抱えて泣くばかりであり、男は吠えるような声をあげて身体を震わせているだけだ。
「こらっ、お前、早くしないかい……。そこの金盥と剃刀を持ってこいと言っているじゃないかい――」
宝玄仙は苛ついて声をあげた。
「あっ――。わ、わたしが持ってまいります……」
香蛾がさっと駆けて、さっきまで女の足元にあった盆を手に取った。
香蛾の動きに合わせて結界を緩めている。
まるでなにも結界の壁などないように、香蛾が戻ってくる。
ちょうど反対側に集まっていた賊徒たちは唖然としている。
そのとき、突然に砦のどこからか大音響が鳴り響いた。
部屋の中の賊徒たちが騒然となった。
「始まったようだね」
あの音はあの三人が砦に辿り着き、なにかを始めたに違いない。
思ったよりも早かった……。
宝玄仙はにっこりと微笑んだ。