孫空女は、沙那や朱姫とともに、まずはこの砦から賊徒を叩き出す作業を行った。
全身の毛という毛を剃られて、尻穴におかしなものを挿したまま、肉棒と睾丸を縛った縄を引かれて全裸でやってきた
その直後、沙那がここにある蓄財と食料を分け与えるから、すぐに砦を降りよと告げるとかなりの賊徒が退去指示に応じて山を下りていった。
馬を連れていきたい者は何頭でも早い者勝ちだと言ったのもよかったのかもしれない。
声を掛け合いながら、馬を連れてまとまって出て行く小さな集団も幾つもあった。
それで、かなりひっそりとした。
だが、すぐには動こうとしない者たちも半分以上だった。
その中でも、特に不貞腐れたように砦からの退去に応じようとしない賊徒が三十人ほどいた。
制圧して武装解除させたといっても、こちらはわずか四名の女である。
沙那と孫空女でさんざんに倒したようだが、戦闘で死傷させた賊徒は百人に満たない。
その中で死んだ賊徒はその四分の一程度だろう。
ここの賊徒は三百人以上がいたから、まだ、まともに戦える男は二百人以上はいることになる。
しかし、ずらりと連中を並ばせた砦の広場で、沙那が不平めいた言葉を吐いた者を立て続けに五人その場で斬り殺した。
それで終わりだった。
その後は、不満を口にする者も一切なく、ひとりふたりと、あるいは固まって砦を出ていった。
この砦には、権白狼が溜めさせていたかなりの蓄財があったから、それも広場に集めさせて朱姫が取り決めた取り分を持たせて放逐した。
食料も集めさせて、持っていきたい分は勝手に任せた。
食糧は備蓄が大量にあり、全員が好きなだけ持っていっても、かなり大量に余ることはわかっていたからだ。
残った蓄財も砦の施設も焼き払うことを教えているので、ここに戻ってもなにもないということは知っているだろう。
これでこの大覚山の盗賊団は消滅だ。
全員が退去するまで夜までかかったが、それでも砦から賊徒がひとり残らずいなくなって、賊徒の解散が完了するのに思ったよりも時間はかからなかった。
また、この砦には近隣から浚われ、奴隷として使役させられていた者たちもいた。
もちろん、彼らにも食料と蓄財は分けた。
彼らはいまは、砦の端にある施設で宴のようなことをやっているようだ。体力的にかなり衰弱している者も多かったが、これは朱姫が大きな鍋に身体を回復させるための薬剤を入れさせて、食料とともに食べさせるように図った。
この砦には、道術のこもった薬のようなものもふんだんにあったのだ。
朱姫によれば、朝までに全員が健康は快復できるだろうということだった。
そして、朝になったら朱姫が『移動術』であの町まで送ることになっている。
賊徒を大量に散らばらせたので、この界隈はかなり物騒なことになっているはずだからだ。
そこまでの処置をしてから、砦の広場にあった集会場に孫空女は沙那と朱姫とともに戻った。
「や、やめてくれ……ひいいっ、ひひひひっ……が、ははははっ……や、やめ……あははは……もう、もう勘弁……はははは……」
集会場の真ん中では、全裸のまま四肢を鎖で立ち姿で拘束されている権白狼が狂ったように笑っていた。
両手首をそれぞれに天井に繋がれた鎖で引き伸ばされ、両脚も床に取り付けられた金具に足枷を繋がれて大きく開いているのだが、それを八人の女が鳥の羽根でくすぐっているのだ。女たちの中には
権白狼の眼には目隠しをさせ、どんなに顔を振っても目隠しが外れないように、目隠しの上から縄で顔を縛ってもいる。
あそこにいる女たちは、今日、宝玄仙と香蛾とともに奴隷女として、町から誘拐されて連れてこられた女たちだ。
女たちは解放される前に、権白狼をいたぶるのに協力しろと宝玄仙に命じられて、ああやって、権白狼を責める手伝いをさせらているのだ。
当初は渋々だった女たちだったが、全員で権白狼を責めるうちに愉しくなってきたのか、いまは皆が積極的に権白狼の嗜虐に参加している。
まあ、集団心理というやつだろう。
最初は本当に権白狼を責めることに気が向かない素振りだった。
しかし、孫空女が時折ここを覗くたびに、だんだんと興に乗ってきている感じだ。
いまは完全に面白がって遊んでいる。
「ねえ、ねえ、これはなに……? 今度はこれを塗ってみない、香蛾さん? これはなんの薬剤?」
「ううん……。これは確か、掻痒剤だと宝玄仙様が言っていたと思いますが……」
「掻痒剤って、痒くなるってこと……。ははは……。そう言えば、それをお尻に塗れって、あの道術遣い様が言っていなかったかしら……? やってみようよ、みんな……」
「ええっ──。お尻? 嫌よ。あんたやりなさいよ──。あたしそんなところに触るのは嫌よ」
「あたしも嫌よ……。でも、道術遣い様が戻ってくるまでに、言われたことをやっていないと怒られるかもしれないわ」
「じゃあじゃあ、棒でやったら……。棒で──」
「だ、か、ら、あんたが棒でやりなさいってばあ──」
「あたしは嫌よ──」
女たちがそんなことを笑いながら言い合っている。
その間も、権白狼は全身をつるつるに剃られた身体のあちこちを鳥の羽根でくすぐり続けられている。
権白狼はただの状態ではない。宝玄仙から全身の感度を十倍にするという薬剤を大量に飲まされているはずだ。
だから、そんな身体を数刻もくすぐられ続けて、もはや、常軌を逸したような感じになっている。
女は、時にもの凄く残酷になったりする。
特に集団になった場合はそうだ。
孫空女は、同じ女ながら、それを垣間見た気持ちだ。
一方で、権白狼の全身は大量の脂汗にまみれるどころではない。
まるで水を頭から被ったかと思うほどの汗が開いた脚の間に大きな水たまりを作っている。
もしかしたら失禁もしたのかもしれない。
それを拭いたような雑巾と桶もそばに置いてある。
横で沙那が盛大な嘆息をした。
朱姫はくすくすと笑っている。
「あっ、沙那様、孫空女様、朱姫様──」
香蛾が集会場の入口に立っていた孫空女たちにやっと気がついた。
するとほかの女たちも、ふざけ合っていた相好を戻して、さっと姿勢を糺してお辞儀をした。
「あら、そんなかしこまらなくていいですよ。ご主人様の言いつけで、その男の拷問をしているのでしょう? 続けてください。それよりも、皆さんは、食べ物は足りていますか? きっと、ご主人様は朝まで続けるつもりですから、長丁場になると思いますよ。だけど頑張って、この権白狼を責め続けてくださいね──。朝になったら、皆さんをあたしが道術で町に戻してさしあげますから──。さあさあ、それよりも続けて、続けて」
朱姫が陽気に言った。
女たちは元気に返事をして、権白狼を責める態勢に戻った。
朱姫の言及したとおり、この集会場には女たちや孫空女たちが摘まめるような食べ物や飲み物が部屋の隅に毛布などとともに蓄積してある。
女たちはこれで栄養を取ったり、交代で休んだりしながら、権白狼を夜通し責める作業につくことになるはずだ。
少し見守っていると、権白狼の尻穴に掻痒剤を塗り込める作業は香蛾に押しつけられたようだ。
香蛾はここに連れてこられたとき、宝玄仙による羞恥責めの最中だったので、小さな前掛け一枚の半裸姿だったが、いまはこの砦にあった衣類を身に着けてまともな恰好になっている。
それはほかの女たちも同じだ。
女たちは
だが、女物の衣類もこの砦でうまく見つけることができたので、それを与えたのだ。
衣類なども売れば金になる。
襲った旅人や住民から奪ったものを集めていたのだろう。
「や、やめてくれ──。だ、誰だ、尻穴になにかを塗っているのは──?」
ほかの女たちから作業を押しつけられた香蛾が、指で権白狼の尻の周りと入口に掻痒剤を塗っている。
目隠しをされている権白狼は、情けない声で悲鳴をあげた。
「あ、あたし……じゃあ、乳首に塗ってみるわ──。これ使っていいかしら……?」
すっかり興に乗って、眼の色が変わっているひとりの娘が横の台から小さ目の刷毛を手に取った。
「それだったら、この液剤がいいですよ……。こっちも掻痒剤だけど、これは液剤だから筆や刷毛で扱いやすいし、痒さは変わりませんから……。まあ、香蛾さんが使っている塗り剤は乾いて痒みが消えるまでにかなりの時間がかかるという違いくらいですかね」
朱姫が香蛾や女たちのいる輪の中に入って、そう言った。
そばの卓には、宝玄仙が集めて置いていったと思われるさまざまな責め具が大量に置いてある。
その中には、もちろん女たちでは用途のわからないものもあるようだ。
女たちの輪に加わった朱姫が、女たちに訊ねられるまま、その用途などを教えると、きゃあきゃあと女たちが赤い顔をして、騒がしく笑い興じた。
「ねえ、香蛾、ご主人様はどこさ?」
孫空女は泣き叫んで暴れる権白狼の尻穴を拡げなから掻痒剤を塗っていた香蛾に訊ねた。
「ああ、この先の別室です。
香蛾がこっちを振り返って言った。
この集会場は、いくつかの小さな部屋がある。
その中のひとつを香蛾は指さした。
もともとは、幹部級の賊徒が女奴隷を抱くために使っていたような部屋のようだが、権白狼はここを私室としても使っていたようだ。
香蛾が示したのは、元々は権白狼の部屋だった一室だ。
「じゃあ、行こうか、孫女」
沙那が言った。
すべてが終わったことを宝玄仙に報告しなければならない。
それに、ひと段落したら、必ずふたりしてやってくるように宝玄仙に命令されている。
わざわざ宝玄仙が釘を刺すのは、そのような状況になったら、片が付いたところで、孫空女や沙那がいつも、宝玄仙への報告を朱姫に押しつけて、勝手にどこかで休んでしまうからだろう。
もちろん、それは、宝玄仙の気紛れのような責め苦に巻き込まれないためであるし、今夜もそうするつもりだった。
だから、孫空女と沙那が宝玄仙から念を押されたということは、宝玄仙がなにかを企んでいるということは予想がついた。
だから孫空女も気が重いし、沙那もそんな感じだ。
「ご主人様、沙那です。孫女も一緒です──」
沙那が扉の外から声をかける。
宝玄仙の返事があり、部屋の中に入った。
部屋の中はかなりの広さのある部屋だ。柔らかそうで座り心地のよさそうな長椅子が数個あり、大きな寝台もひとつある。ほかにも卓や家具などの調度品や金細工や銀細工の置物などもある。
部屋の隅では身なりを整えた水晶がいて、両手を顔に当てて号泣していた。
そして、感謝の言葉を呟き続けている。
一方、寝台の上には裸身の雷雲がいて、その横で宝玄仙が道術を施しているようだ。
一見しただけでは、宝玄仙はただ椅子を引き寄せて脚を組んで座っているだけだが、霊気の動きを感じ取れる孫空女には、信じられないくらいの霊気が宝玄仙から雷雲に注がれているのがわかる。
雷雲はうつ伏せだが、いまは完全に手足が復元されてすらりとした四肢が整っている。
この雷雲もまた道術遣いらしいが、権白狼の賊徒を相手に不覚をとり、眼を潰されて道術が遣えなくされ、さらに手足を切断されたうえに、人間の言葉を喋れなくされて、犬のような姿にされていた。
そして、男娼としてお尻を犯されたということだった。
権白狼の賊徒を制圧して、ふたりが解放されたとき、水晶が雷雲の首に抱きついて離さず、雷雲がこんな姿になっても、自分はこの人に一生添い遂げると雷雲に叫び続けていたのを孫空女は思い出した。
それを横で聞いていた宝玄仙が、そのままがいいならいいが、道術で身体を戻してやってもいいよとあっさりと言って水晶と雷雲を驚愕させていた。
そして、いま、宝玄仙による雷雲の損傷した身体の復元の施術をしているところだ。
どうやら『治療術』による雷雲の身体の回復はほぼ終わったように見える。
「もう、起きていいよ、雷雲。どこか、違和感があるかい?」
宝玄仙が大きく息を吐きながら言った。
やはり、終わったのだ。
「だ、大丈夫……のようです。喋れる……。見える……」
雷雲が身体を起こして、両手の指を動かしながら呆然と言った。
そして、さっと、我に返ったように寝台から飛び降りた。
さらに驚くことに、雷雲はそのまま床に土下座をした。
嬉し泣きをしていた水晶も慌てたように、雷雲の横にひれ伏して頭を床につけた。
「こ、この恩は生涯忘れません……。宝玄仙殿──」
「ありがとうございます……。あなた様は神様です」
雷雲と水晶が床に額を擦りつけたまま叫ぶように声をあげた。
「や、やめなよ──。頭をあげな……。お、怒るよ──」
宝玄仙がびっくりしたように組んでいた肢をおろしておろおろと言った。
その顔は真っ赤だ。
どうやら、宝玄仙は照れているようだ。
宝玄仙がそんな狼狽を見せることなんてないから孫空女は思わず噴き出してしまった。
「ご主人様も照れることがあるんだね」
「そうね。ご主人様の弱点が、面と向かって感謝されることだと知ったのは初めてね……」
沙那も横で笑っている。
「お、お前ら……、沙那、孫空女──。後で罰だよ──。覚えておきな」
宝玄仙が赤面したままの顔をこっちにきっと向けた。
孫空女は思わず自分の笑顔が凍りつくのがわかった。
沙那も慌てたように口をつぐんでいる。
「そんなことよりも、報告があるんだろう……? 終わったのかい──?」
宝玄仙が怒ったような口調で言った。
「は、はい、ご主人様──」
沙那が応じた。
「……賊徒は全員退去させました。幾らかの財と食料を持たせて、この砦からなんとか追い出しました。大勢の賊徒を周辺にばら撒いた感じですが、まあ、もともと、この界隈は治安が最悪の地域ですから変わりはないと思います。とにかく、権白狼の盗賊団は、一応はこの地から姿を消したかたちです……。それから人足として捕らわれていた者たちは、食事をさせてから睡眠をとらせてます。こっちは、放逐は危険ですから、明日の朝に町から誘拐してきた女たちとともに、朱姫の『移動術』で連れていきます。それから後は、彼ら次第ということになりますが……」
沙那が説明した。
宝玄仙が頷く。
「朱姫はどこだい?」
「ご主人様が権白狼をいたぶるように命じた女たちと一緒です。呼んできましょうか……?」
「いや、いい……。わたしもそっちに合流するからね。今日はひと晩かけて、あの禿げ坊主と遊ぶつもりさ。あの禿げ坊主の陰毛の部分は、剃った後に毛穴を殺す薬剤を塗ってやったのさ。もう、二度と一物の周りに生えないよ。脛毛や胸毛の部分もね……。あんなでかい図体と
宝玄仙がくすくすと笑った。
沙那が呆れたように吐息をつく。
孫空女は横で苦笑した。
「ところで、雷雲と水晶、お前たちには、いくつかの仕事をしてもらうよ。この宝玄仙にただ働きをさせたつもりじゃないだろうね?」
そして、宝玄仙はまだ、床に正座をしたままの雷雲と水晶に視線を向けた。
わざわざ声を荒げているのも厳しい表情をしているのも、あれは照れ隠しだろう。
わかり難いようで、本当にわかりやすい性格をしているものだ……。
「もちろんです。なんでも言ってください──。あなたの奴隷になれと言われればなりましょう。この雷雲の命を存分にお使い下さい──」
雷雲がきっぱりと言った。
「お前の命なんて面倒なものはいらないよ。まあ、頼みたいことは後で説明するとして、とりあえず、お前に命令だよ。ここにいる沙那と孫空女を抱きな──。この場でね」
宝玄仙が言った。
「なっ──」
「ご主人様、なにを言っているんですか──」
孫空女は絶句した。
沙那も驚愕している。
「うるさいよ、お前たちは──。わたしは、こいつらに話しているんだ……。雷雲、お前は文句を言わないだろうねえ。仮にも犬人間の姿から解放してやったんだ。その一物をこいつらを抱くために使いな──」
宝玄仙は強い口調で雷雲に言った。
「し、しかし……」
雷雲がかすかに隣に跪いている水晶に視線を送った気がした。水晶は雷雲の婚約者のはずだ。
その水晶がこの場にいるのに、ほかの女を抱けとは、なんということを宝玄仙は命令するのだろう。
宝玄仙の気紛れはいまに始まったことではないが、これは行きすぎだと思った。
「ご主人様、いい加減に……」
沙那が諫めの言葉を口にしようとした。
しかし、珍しく真顔な表情になった宝玄仙がそれを手で制した。
なんだか、口を挟めるような感じではない。
沙那もそれを感じたのか言葉の途中で口を閉ざした。
「……水晶、お前、すべてが片付いたら自害しようと思っているだろう……?」
不意に宝玄仙がそう言った。
孫空女はびっくりした。
「水晶殿?」
声をあげたのは雷雲だ。訝しげな顔を水晶に向けた。
水晶はこの部屋の全員の視線を浴びて、戸惑った表情を見せる。
「水晶、わたしの眼を見な──。わたしは道術遣いだ……。その道術遣いの前で嘘はつけないよ……。ほらっ、眼を逸らすんじゃない──。わたしは、道術で嘘を見破れる。誤魔化しても無駄だよ。お前はすでにこの世の者ではないような顔をしているよ」
宝玄仙が声を荒げた。
いかに宝玄仙が偉大な道術遣いでも、霊気を帯びていないただの人間である水晶に道術を及ぼすのは簡単じゃない。
だが、そんなことは水晶にはわからないだろう。
水晶は、眼の前で起きた雷雲の復活の儀と、そして、その宝玄仙の激しい剣幕に完全に飲まれている。
これは、朱姫の得意な『縛心術』と同じだ……。
宝玄仙は意図的なはったりと強い口調で水晶の心を縛っているのだ。
だが、水晶が自害するというのは……。
「わたしはねえ、死を求めている人間の顔というのがわかるんだよ──。お前はすでに死んだような顔をしているよ、水晶……。お前には、関係のないことだろうけど、わたしはこれでも、とある教団の最高神官でね。人の悩みを敏感に悟るのも大事な能力なのさ……。本当はとても敏感なんだけど、面倒なんで鈍感なふりをしてるのさ。だけど、死にたがっている人間を放っておくわけにはいかないからね……」
「い、いえ……」
水晶が明らかに動顛している。
宝玄仙の言葉の通り、嘘をつこうとしている。
孫空女にもそれがわかった。
「お前たちが解放されたとき、手足のない雷雲の面倒を生涯看ると決心して叫んだときには、お前は生気に溢れた表情だったよ。だけど、雷雲の身体が戻って、その必要がなくなったら、お前の顔からは絶望のようなものしか感じなくなったよ……」
「そ、そんなことは……」
「どうしたんだい、その顔は? なんだい、図星だったのかい? なんで死にたいんだい? お前が権白狼たちに犯されたことを思い出したのかい──? 女が恋人や夫以外の男に犯されたら、お前の価値観では、死ななければならないのかい……? 馬鹿じゃないか、お前──。本心を言いな。わたしの眼から少しも視線を外すんじゃない──」
宝玄仙が言った。
孫空女は半信半疑で水晶に視線を送っていたが、その水晶がぼろぼろと涙をこぼした。
それで孫空女にも不安が拡がる。
宝玄仙は出鱈目を言ったわけではないと悟ったからだ。
「で、でも……」
水晶はそれだけを言った。
孫空女は、その表情と口調から、水晶が自害をするつもりだと言った宝玄仙の言葉が完全な真実なのだと納得した。
孫空女は驚くよりも唖然としてしまった。
「水晶殿、なにを言っているのだ──。あなたは、自分が汚されたと思っているのか? ならば、俺など千回も死なねばならん。この尻を繰り返し男たちに掘られたのだぞ。だが、俺は死ぬつもりなどない。これっぽちもな……。これは俺への戒めだと思うことにする。決して忘れぬし、恥辱は心に刻み込む──。だが、自害などとは別だ。水晶殿、自害など許さんぞ。賊徒に犯されて死ぬなど馬鹿ではないか──」
雷雲がまくしたてた。
水晶がわっと泣き出した。
沙那が横で盛大な嘆息をしたのが聞こえた。
「なにが問題なの、水晶……? あなたの恋人は随分と悟ってくれているし、いい人じゃないの……。まあ、なんで、ご主人様がわたしたちに、雷雲殿に抱かれろと言ったのかなんとなくわかる気もするけど、あなたは女の性交について重く考え過ぎよ、水晶……。犯されるたびに死んでいたら、わたしも孫女も何回も死ななければならないわ」
沙那は強い女だ。
強姦されて死を選ぶという女の心は、理解はできても、納得はできないに違いない。
「やっぱりね……。思いつめた顔をしていると思ったよ──」
宝玄仙も呆れたような声をあげた。
「一日で賊徒たちの精を宿したと思わないけど、女の身体を守る避妊薬はくれてやる。後はなにが必要なんだい。汚れた股は拭いときな。性の遊びなんていうのはその程度のものさ……。とにかく、水晶、お前はこっちに来るんだ。あの権白狼のいたぶりの仲間に入れてやる。それで少し気晴らししな……」
「気晴らしって……」
沙那が横で呆れた口調で呟いた。
だが、そのまま口を閉じる。
宝玄仙の言葉にも一理あるとでも思ったのかもしれない。
「恋人とまぐわうのはその後だ。もう少し性愛について軽く考えられるようになってからだね……。いま、雷雲と乳繰り合わせたら、思い起こすことはないと、そのまま首でも吊りそうだしね……。お前が性愛について深刻に思わなくなってから、雷雲と抱かしてやる。まあ、朱姫もいるしね。真面目人間の心を軽くして性癖を解放する技はあいつが得意だ。前にやらせたときも見事なものだったしね──」
宝玄仙が一息ついて、今度は雷雲を睨んだ。
「心配いらないよ、雷雲。水晶はわたしに任せて、お前はこいつらを抱くんだ。それも水晶への教育の一環だ」
宝玄仙が言った。
そして、強引に水晶を部屋の外に連れていく。
大きな音とともに、扉が閉じられた。
部屋の中に孫空女と沙那と、呆気にとられている雷雲が残される。
「ご主人様にかかれば、深刻な話も軽いものになるわね」
三人だけになると、沙那がそう言って苦笑した。
「まったくだね……。まあ、ご主人様なりの優しさなんだろうけどね……」
「そうね……。だけど、気になることがひとつだけあるんだけど……」
沙那が言った。
「気になること?」
「うん……。いま、ご主人様が言ったわよね……。朱姫に、真面目人間の心を軽くして、性癖を解放する技をやらせたことがあるみたいなこと……。なんのことだろう?」
「さあね」
孫空女は肩をすくめた。
あのふたりのやることはわからない。
最近では孫空女や沙那に隠れて、こそこそと道術や霊具のことについて話したり試したりしているようだ。
もっとも、大半は嗜虐の技や方法のことであり、そのとばっちりが、時折、孫空女たちにやってきたりもする……。
「あ、あのう……。い、いま、宝玄仙殿があなた方を俺が抱けというようなことを言っていたと思うが、それについては、もちろん気にしなくていい。思いつめている水晶を見抜いて、宝玄仙殿が荒療治のつもりでそう発言したのだろうが、俺があなたらを抱いたと口裏を合わせれば十分だろうから……」
雷雲が遠慮がちな口調でそう言い始めた。
「じょ、冗談じゃないわよ。ご主人様が抱かれておけと言って、そうしていなかったら、後でどんな目に遭わされるか──」
沙那がびっくりしたように叫んだ。
「そうだよ。面倒でもあたしらを抱いてもらわないと困るよ、雷雲」
孫空女も声をあげた。
雷雲が目を丸くしたのがわかった。