窓もないこの部屋は小さな蝋燭だけが唯一の灯りだ。その部屋の真ん中にある寝台に朱は横になっていた。
ここは屋敷に存在する隠し部屋だ。
朱がここを見つけたのは最近のことだ。
この屋敷にこんな場所があることは、父親の
ほかの家人は知りもしない……。
もしかしたら、気がついている者もいるかもしれないが、少なくとも、朱がここに毎夜のように出入りしているとは、家人たちはもちろん高太公も思いもしないだろう。
壁が叩かれた。小さくふたつ……。
いつもの合図だ。
「いるわ」
朱が応じると、壁が割れて誰かがが入ってくる気配がした。
「来たよ、お嬢様」
「その呼び方はやめてと言ったはずよ」
「じゃあ、朱……。来たよ」
声で相手が誰だか確かめなくてもわかる。
朱は寝台に横たわったままでいた。
自分の鼓動が激しくなっているのを感じる。これから始まることにはしたなくも期待している自分がいるのだ。
だが、相手は寝台になかなかやってこない。
どうしたのかと思い、顔をあげかけると不意に蝋燭が消えた。部屋がまったくの闇に変わった。
「あっ」
「もう、こっちの姿が見えなくなった、朱?」
「な、なったわ……。どうして灯を消したの?」
「灯を消してもこっちには見える……。妖魔だからね」
「こんな闇の中で見えるの?」
朱は驚いて言った。
「見えるよ……。朱のほんのり上気している顔も……うっすらと汗をかいている肌も……。欲情しているんだろう、朱?」
「や、やめてよ……。そんな恥ずかしい言い方……」
「それに、見えない方が朱は感じるからね……?」
横になっている朱の乳房に手が触れた。
「あっ……」
薄着の布越しに与えられたそれだけの刺激に、朱は声をあげてしまった。
胸を揉まれる……。
全身から力が抜ける……。
もう、それだけで抵抗できない。すでに股間がじわりと濡れ始めている。
自分の太腿を擦り合せる。快感がもぞもぞと沸き起こる。
「どうして、そんなに腰を動かすのさ、朱……?」
乳房が円を描くように手で撫ぜられる。ちょんちょんと乳首の上を弾かれて、また声が出た。
「ああっ……。わかっているくせに……い、意地悪言わないで……」
「言いなさい……。言わないと縛るよ……」
しかし、その言葉が終わると同時に、闇の中で朱の寝巻を締めていた細帯が外されて抜かれた。
あっという間に朱の両手首はその柔らかい細帯によって束ねられる。
「ど、どうして、縛るのよ……」
「その方が朱が悦ぶからさ……。見えなくて……動けなくて……。そして、いいようになぶられる。そういうのが好きなんだろう、朱?」
手首を縛った帯が寝台の上部の柵に結び付けられたようだ。
朱の両腕は、万歳をした格好で動かなくなった。
寝巻の前がはだけられる。ひんやりとした空気が朱の乳房に直接当たる。
「ま、待って──。い、いつものを……。こ、声が洩れないようにして……」
「駄目だよ……。屋敷にはあの
「そ、そんな……。だったら……」
「だから声を出すのを我慢するんだよ、朱……。もっとも、こんな姿を見られてもいいんだったら別だけど……」
「我慢なんて……。あっ──」
朱の股間を覆っていた股布が脱がされる。
素裸になったのがわかった。
「ふ、ふ、ふ……、ちょっと胸に触っただけで、こっちはぐしょぐしょだね……。さすがは淫乱なお嬢さんだ」
「ひ、酷いわ……、淫乱だなんて……。あ、あなたが朱をこんな風にしたのよ……」
「それは違うよ。朱は、もともと淫乱だった。それに気がつかせてあげただけだ……」
朱の裸身に接している相手の手が動いたような気配がした。
「あふうっ」
不意に、闇の中で乳首がくねくねと捻りあげられた。
しかし、そこから快感をもっと搾り取ろうとすると、さっと手が離れる。
しばらくすると、また指がやってくて身体のどこかを刺激する。だが、やはりすぐに離される。
それを十数回続けられると、もう朱はどうしようもなくなった。
「ひ、ひどいわ──。そ、そんな風に……」
朱は悲鳴をあげた。
こんな風に焦らしては責められ、責められては焦らされるという責めに朱は弱い。
そんなことをされれば、あっという間に朱の身体には痺れるような愉悦が走り込んでくる。
しかし、それは出口のない愉悦だ。
昂ぶっては鎮められ、鎮まっては昂ぶらされる。
いくら悶えてもなかなか与えてもらえない切なさに、朱は自分の悶え声に泣き声のような響きが混じるのがわかった。
「じゃあ、やめる……? やめてもいいよ……。それとも、もっとやる……?」
乳房が少し激しく揉まれ始める。
込みあがった快感のまま、朱は激しく身体も悶えさせた。
全身に痙攣のような震えが起こる。
息も止まるような快美感に朱は、自分でも生々しいと思うような呻き声をあげた。
「駄目だよ……。声をあげちゃあ……。朱が淫乱なのはわかっているけど、いくらなんでもはしたなさすぎるよ……」
耳元で嘲笑のようなからかいの言葉を効かされた。
その卑猥なからかいに、朱は身も心も打ち砕かれたような恥辱感に襲われる。しかし、その恥辱はどこまでも朱を燃えあがらせてくれる快感の炎に変わる。
「そんなにだらしなく口を開けちゃって……。そんなに気持ちいいの?」
「き、気持ちいい──ああっ──ああう──」
腰がうねる……。
我慢できない……。
股間が熱い……。
十六歳の朱の身体は、いまやこの身体に刻み込まれてしまった全身がばらばらになるような肉の悦びに酔っている。
「だから、そんなに声を出しちゃだめだって……。今日は結界をしていないんだよ」
「いや、いや、いや──、あああっ──、ああっ、あっ、ああっ」
声を堪えようとは思っている……。
でも、耐えられないのだ……。
乳首を弾かれる。
押し込まれる。
捻り回される。
強く──。
そして弱く──。
やがて、ぺろぺろと舌で舐められはじめた。
乳首からやってくるものが全身を駆け巡る……。
「言っておくけど、人がやって来たら、こっちは『移動術』であっという間に消えるからね……。そんな股間に淫液を溢れさせているところを見られるのは朱だけだよ……。そしたら驚くだろうねえ……。こんな純情そうな朱のそんなに乱れた姿って……」
「ああっ──。お、お願い……。な、なにかを……ああっ……なにかを口に───お、お願い」
「いいよ……」
朱の口に布の塊りが押し込まれた。
少しはましになった。
しかし、口に布を押し込まれることで、呼吸が苦しくなった分、さらに身体の感度があがった気がする。
「気持ちいいんだね、朱……?」
朱は激しく首を縦に振った。
気持ちいい……。
もっと……。
もっと──。
「じゃあ、ずっとこのいままでいいよね……。この宙ぶらりんのままで……」
身体の上の相手はくすくすと笑った。
このままなんて惨い──。
股間を触って──。
もう、朱の股間は指の刺激を求めて破裂しそうだ。
だが、朱の両胸を愛撫する両手は、朱の乳房からなかなか動かない。胸だけで与えられるこれだけの快感に朱は怖ろしくなる。
ならば本格的な愛撫を与えられればどうなるのか……。
朱はひたすら脚を閉じたり開いたりしながら、なんとか下半身の疼きを止めようとした。
だが、いつの間にか下腹部は与えられない刺激を求めて弓なりに反ってしまう。
「んふううっ」
朱は叫んだ。
もう頭がおかしくなりそうだ。
朱の口から布が引き抜かれる。
「も、もう許して……」
「なにを許すのさ? 今夜はこれで終わりでいいということ?」
「そ、そんな……。もう、朱はおかしくなっちゃう」
「だったらおかしくなれば……? もっと続けてもいいよ……。それとも、どうしていいか言えたらやってあげるよ……」
「下を……、下を触って」
「下? 足の指のこと?」
小さな笑い声とともに、足の指の間に指による刺激が与えられた。
くすっぐたい──。
だがそれも気持ちいい……。
でも、欲しいのはもっと直接的な刺激だ。
「そうじゃない。もっと、上なの」
「ここ?」
首筋を舐められた。もう、それで朱の理性は崩壊した。
「あ、あそこを──。朱の下のお豆をいじくって欲しいの……。そこを触られると気持ちいいの──」
声をあげた。
もう見栄も外聞もない。
「やっぱり淫乱じゃないか、朱……。いいよ……。触ってあげる……。これ以上、おかしくなっても可哀そうだし……」
だが、朱の足首に縄がかけられた。寝台の下の柵に結ばれて脚を開かされる。
反対側も同じように──。
朱の脚はまったく閉じることができなくなる。
「ど、どうして……?」
「わかっているくせに……。朱がそうして欲しいと願うからだよ」
乳首になにかが載せられた。
いつも使われる霊具だとわかった。『振動片』いう小さな丸い布のようなものは、朱の乳首を勝手に包んで吸い付くように貼りつく。そして、ぶるぶると激しい振動を与えはじめた。
「いひいいいっ──」
凄まじい刺激に朱は身体を仰け反らせる。その口にまた布が押し込まれる。
「そんなに叫ばないの──。なんど教えればわかるんだい、この淫乱──」
淫乱なんかじゃない──。
心の中で叫ぶ。
こんなに感じる身体にされたのは、こいつのせいなのだ。
しかし、もう一方の乳首にも『振動片』が置かれる。両乳首の刺激にもうなにも考えられなくなる。
「闇の中でも、いやらしく動く腰がよく見えるよ、朱……。みっともなく下の口から垂れ流す涎もね」
その言葉の屈辱と乳首の刺激がどうしようもない股間の疼きに変化していく。
さっきは、まだ太腿を擦ることで紛れていたものが、脚を開かされていることで逃げ場を失っている。朱の股間は上下左右に確かに淫乱な動きを続ける。
「じゃあ、そろそろ、ここだね……」
『振動片』が、ついに朱の肉芽に載せられる。
「んんんんっ──」
朱は脳天にまで達するような刺激に全身を震わせた。
やっといける───。
待っていたものが与えられる悦びに朱は快楽を爆発させた。
だが、その絶頂が頂点に達する前に、三枚の『指導片』は急に緩やかな振動にと変化する。
そして、朱の中で暴れ回っていた快楽の波が穏やかに鎮まっていく。
そんなあ──。
朱はぎりぎりで中断された激しい刺激に歯噛みする。
「簡単にいかせてもらえるとは思っていなかったよね、朱……?」
朱を責めている相手が愉しそうに笑った。
ひどい──。ひどい──。ひどい──。
朱は口の中で訴えた。
「じゃあ、口づけして、朱……」
朱の口から布が引き出される。そして、朱の唇に生温かい唇が触れる。唾液とともに舌が入ってくる。朱は懸命にそれを舐める。
『刺激片』の振動は止まっていない。
しかし、朱を達しさせてくれるには、あまりにも弱い刺激だ。
いつまでも逃げることのない快感が朱の身体を震わせる。
だが、やっぱりいけない──。
生殺しの状態──。
この責めでほんの短い時間に朱はこんなにも快楽を貪る色情狂のようなものにされた。自分はもうこの妖魔から離れられない。
「上手な口づけだよ──。じゃあ、ご褒美」
『刺激片』の振動が大きくなる。
「ああううっ」
嬌声をあげる朱の口の中に再び舌が入ってくる。それが口の中を舐め回す。
息苦しい──。
乳首と肉豆から与えられる凄い刺激──。
なにもかも消える──。
あるのは気を失うような快感だけ──。
だが、また現実に引き戻される。
『振動片』がまたゆっくりになったのだ。
口から離れていく舌……。
「もう……いやあ……意地悪──」
朱は呟いた。
「そうさ。意地悪だよ──。一刻(約一時間)だけで、戻らなきゃいけない……。だから、ぎりぎりまで朱を焦らすんだ。本当に限界までね……。そして、最後に一回だけいかせてあげるよ……。だけど、その一回はおよそこの世のものとは思えない快美感を与えてあげる。それは約束するよ……」
また動きを速める『刺激片』──。
朱の身動きできない身体中に這い回る舌の刺激──。
淫靡な霊具とは別に朱の身体を責める指の攻撃──。
引いてはあがり、そして、あがっては引きおろされる。
快楽の絶頂寸前ととろ火をひたすら繰り返される。
もう、耐えられない。
頭がおかしくなる。
「……もう限界。いかせて──。お願いよう──」
もう苦しい。
『刺激片』が激しく動く時間はどんどん短くなっていく。
あっという間に朱が達しそうになるからだ。
短い間隔で強い振動と弱い振動が繰り返されるようになっていた。
「そんなにいかせて欲しい、朱……?」
「いかせて、なんでも言うこときく。どんなことでもするわ……」
口に出していた。
「いいよ。だったら、霊具なんかじゃなく、口と手でいかせてあげる──。だから、本当になんでも言うこときくんだよ、朱?」
「言うこときくっ。いくうっ───」
霊具の『刺激片』が肉芽から外された。
肉芽が口に含まれる。
肉芽が舌でこねまわされた。
乳首の『刺激片』がこれまでにないくらいに強い刺激に変化する。
「いひいいいっ」
朱は悲鳴をあげた。
股間を吸っていた舌が離れた。
朱の口の中に布が押し込まれる。朱はその布を噛みしめる。
今度は舌ではなく指だ。
巧みな指さばきにあっという間に、朱は絶頂寸前の状態につきあげられる。
「なんでもいうことをきくね、朱……?」
のぼってくる──。
それでも、まだゆっくりだ。
朱の反応を待っている。
快感の頂点がそこまでやってきている……。
もう、それを逃したくはない……。
朱は懸命に首を縦に振る──。
この快楽のためならどんなことでもする──。
この人のためにどんなことでもできる──。
朱は心の中で叫んだ……。
「じゃあ、一緒に旅に出よう……。一緒にだよ……」
また、首を縦に振る。
愛液に溢れる股間に与えられる刺激がほんの少し強まる。
一緒に旅をする……。
一緒に──。
いつまでも──。
嬉しい……嬉しい──。
朱の身体は快感を求める痙攣とともに悦びに震える。
「でも、あの女法師が邪魔だね……。あの供たちも……。法師はあまり乗り気ではなかったようだけど、彼女たちは妖魔退治を引き受けてしまった……」
女法師と供が邪魔──。
その言葉が朱の頭に刻み込まれる。
「協力するよね? 一緒に旅に出るためだよ……」
指の動きが激しくなる。
待ち望んだものがそこまで来ている。
逃げないで──。
このまま──。
「協力するね……? あいつは殺さなきゃ……。全部終わったら一緒に妖魔の里に行こう──。大丈夫、一緒だから……。ずっと一緒だ……」
朱は首を縦に振る。
何度も振る。
この幸せのためならどこにでもいく。
それとともに、肉芽への責めが熾烈なものに変化した。
爆発するような快感──。
一気に昇天する──。
「うあっ──」
一瞬にして眼がくらんで、朱はこれまでにない雄叫びをあげた。
相手は慌てたようにその口を塞いだ。
腰から背中の骨にかけて電撃のような鋭い快感が貫き、朱の身体がなにかの発作のように激しく二度三度と大きく震えた。
朱はついに限界を突破した快感とともに、自分の身体が宙に飛翔している錯覚を感じていた。
そして、絶頂の一瞬前にささやかれた言葉がしっかりと、朱の心に刻まれたのを感じた。
女法師とふたりの供……。
この三人を殺さなければならない……。
*
「これは、やみつきになるね」
たっぷりと湯がたまった湯舟に浸かりながら宝玄仙が言った。
沙那は、その湯舟の外の洗い場の板間で正座をして待っていた。
朝から湯浴みとは贅沢だが、宝玄仙の我が儘に、あの
湯舟の中の宝玄仙は、まさに愉悦の表情をしている。
沙那も昨日の夕食前に身体を洗ったときに湯殿に浸かってみたが、確かに気持ちがよかった。宝玄仙が気にいるのがよくわかる。
沙那の故郷である
「もしも、なにもかもうまくいき、いつか帝都に戻ることができれば、これを神殿に取り付けようかねえ……。霊具を使えば、もっと広い湯舟に湯を常にいっぱいに保つということもできるしね。この湯舟もいいんだけど、残念ながら人がひとり入れるくらいの広さしかないことよね。そのときは、お前たちも一緒に入るさ」
帝都に戻る──。
それが、果たせそうのない望みになるかもしれないというのは、宝玄仙も沙那も知っている。
知っていて、ときどき、宝玄仙はそんなことを言う。
なんだかんだ言っても、帝国は長く宝玄仙が生まれ育った故郷だ。やはり、そこを捨てて、遠い、そして、危険な西域にいくというのは、葛藤もあるのかもしれない。
「はい」
湯舟の外で待たされている沙那はそれだけを言った。湯舟の外も暖かい蒸気が充満して、寒くはない。むしろ、身体がかなり火照っているので熱いくらいだ。
「じゃあ、そろそろ、身体を洗って貰おうかね」
宝玄仙が湯舟から出てきた。
いつ見ても見事な裸身だと思う。
大きすぎず、さりとて、豊かさを感じさせるふたつの乳房は、なにも支えないのにお椀型の丸みを抱いたまま保たれ、その乳房の先には小さな乳首がつんと上を向く。
また、均整のとれた見事な白い肢体は、湯に温められてほんのりと薄く赤みが差し、それが濡れた湯が滴り落ちる様子はなんともなまめかしい。
長くきれいな手足、細い手首と足首、量感のあるお尻と太腿──。
同性の沙那から見ても、美しいとしか感じない宝玄仙の裸体が、もしも自分のものにできるのであれば、世の男性はことごとく、その代償として、すべてをこの巫女に差し出すのではないかと思う。
ただ、残念なことに、この美身に入っているのは、気まぐれで移り気なわがままな性格と、若い女が恥辱に顔を歪めるのが大好きだという変態的な性癖だ。
男には興味がなく、沙那や孫空女のような女の「玩具」を苛んでは愉悦に身体を震わせるのだ。
最初の犠牲者として、この変態巫女に供として、仕えるようになった沙那は、それこそ、宝玄仙の変態的な性的嗜虐と、「調教」と称して与えられるさまざまな淫具や仙薬には、身震いするほどの嫌悪しか抱いていなかったが、最近ではそれも馴れてきている気がする。
他人の目がある場所で辱められる恥辱は、恥辱としか感じないが、それとは別に、快楽を快楽として受け入れている自分もいる。
宝玄仙が沙那に背を向けて、木製の小さな湯殿椅子に白い双臀を置く。黒く長い髪が腰まで垂れる。
最初に湯桶で湯をとり、宝玄仙の髪を濡らす。
顔にかからないように注意をしながら、髪を濡らしていく。
次に両手の指を使って頭皮を揉む。
そうやって、頭の毛孔をほぐして垢を出すのだ。
それをまた湯で洗い落す。
次に、沙那はその黒髪を指ですきながら、髪と髪の間に髪用の洗い粉をまぶしていく。
宝玄仙の髪は長いから手入れが大変だ。
その髪に少しも汚れや脂が残らないように、丁寧に確認しながらやらなければならない。
そして、洗い粉が髪の汚れをすべて吸着していくのを確認し、次にそれらをすべて洗い落とすために、数度お湯を使う。
それが終わると、手と手で髪をはさむように水分を擦り落としていく。
「髪は終わりました。次はお身体を洗います、ご主人様」
「頼むよ」
背中を向けたままの宝玄仙が言った。
ここから先の作業が沙那にはつらい。
いつもは、ここから先は、孫空女に代わってもらうことが多いが、いまは、孫空女は屋敷の探索で忙しい。
石鹸をとり、それを湯に濡らして泡を作る。
それを沙那の乳房に載せていく。
宝玄仙の身体を洗うのに、布や湯具を使うことを禁止されているのだ。
髪を全部手で洗ったのもそのためだ。
そして、さらに、宝玄仙の身体を洗うときには、手ではなく沙那の乳房を使う。
少し前までは、沙那は『服従の首輪』という魔具により、身体を動かす意思を支配されていて、自分で乳首や股間に触ることを禁止されていた。
その「呪い」が解けて、自分の乳首にも触ることができるようになった。
そうすると、以前は手のひらを使って洗っていた奉仕を、乳房でやるように命じられた。
自分の乳首に泡を載せることができるようになったからだ。
馬鹿馬鹿しいとは思うが、逆らえば、この変態巫女になにをされるかわからない。
沙那も孫空女も、この変態巫女によって、身体に内丹陣を刻まれていて、宝玄仙の道術により自由に身体の快楽を操作される。この変態巫女の身まぐれで、沙那も孫空女も、人前で自慰に耽る色情狂にでもされかねない。
乳房に載せた泡を宝玄仙の背中にこすりつけていく。
「ああっ」
思わず口から声が漏れる。沙那の乳首と肉芽の根元には、『女淫輪』という淫具がつけられていて、常に、沙那を軽く欲情させているのだ。
平素は耐えられるが、少しでも刺激を与えられると、普段耐えている分まで欲情が爆発してしまうのだ。
「一度、擦ったくらいで、いい気分になるんじゃないよ。今度こそ、最後までやり遂げるんだろうね」
「だって……くうっ──」
乳首を宝玄仙の背中に押し付けて、泡を伸ばしていく。直接に刺激を受けている乳首だけではなく、なぜかもうひとつ淫具を付けられている肉芽に快楽が伝送される。
何度もいきそうになり、そのたびに少しだけ作業を中断する。あまりにも待たせると宝玄仙の叱咤が飛ぶので、休むのはひとつかふたつ息をして、呼吸を整える間だけだ。
「ところで、報告を訊こうか、沙那?」
「は……はい……ああっ……宿町で……聞き込みを……ああっ……しま……した」
「それで、聞き込みの結果は?」
「……か、皆無です……」
「皆無?」
「まったく……手掛かりはあ……うっ……ありません……」
やっと背中の全部に泡を拡げ終った。もう、沙那の股間はどろどろだ。
乳房に泡を付け直すと、宝玄仙の細く長い腕をとり、それを肩から手首にかけて乳房に挟み滑らす。
なるべく、乳首に触れないようにしながら、乳房と乳房の谷間を使って泡を伸ばす。そのため背中を洗うときよりはつらくない。
「その猪公という妖魔は、この宿町のあちこちに出現しているわけじゃないんだね?」
「……はい……妖魔のことなど……誰も……」
「じゃあ、この屋敷のどこかに出入口があるということしか考えられないね」
「……で、でも、孫空女は……この屋敷には、そんな結界のようなものは、なにも感じないと……ああっ……言って……、言っています」
沙那はだんだんと苦しくなる快楽の高みに耐えながら説明した。
聞き込みの結果わかったことは、妖魔のことなど、誰も知らないということだ。妖魔を警戒している様子もない。
この屋敷に結界で描かれた移動術の出入口がないとすれば、屋敷の外のどこかにあると考えたのだが、いまのところ、屋敷の外を妖魔がうろついた形跡がない。
だから、やはり、妖魔の出入口はこの屋敷内にあるはずだ。
やっと、もう一方の腕が終わった。
さらに泡を乳房に載せる。
「し、失礼します……」
宝玄仙の身体の前に回り、宝玄仙を抱くように腕を宝玄仙の首に回す。そして、宝玄仙の裸身に密着し、上から下に泡を移していく。
「いいっ……ひいっ………くうっ……」
耐えようとしても、どうしても口から出てしまう嬌声が洩れる。
「じゃあ、やはり、屋敷の中に仕掛けがあると考えるしかないねえ。孫空女に徹底的に調べさせるさ」
宝玄仙は言った。
「いまでも、やっています」
身体に泡に伸ばすために、どうしても足を拡げて屈みこまなければならない。
宝玄仙が、その沙那の股間に指を伸ばして、つんと突き出た小さな肉芽の先っぽを弾いた。
「あふううっ」
その衝撃で、沙那は、大きな声をあげながら腰を落としていってしまった。
「勝手に気をやるんじゃないよ。肢は乳房ではなく、お前の素股でやりな」
「そ、そんなあ……」
素股で同じことをすれば、乳首ではなく陰核を宝玄仙にこすりつけることになる。
あっという間に、快楽の絶頂に達してしまうだろう。
沙那の身体は、宝玄仙により、この巫女に関わる以前の身体の何倍もの感度に作り直されている。
「命令だよ」
宝玄仙は言った。その言葉には、なぜか逆らえない。
以前は、『服従の首輪』により、逆らうことができなかった。だが、それがなくなったいまでも、宝玄仙の命令には、勝手に身体が動いてしまう。
「とにかく、孫空女には手掛かりが見つかるまで這いつくばってでもなにかを探せと言っておきな。霊気力の流れが見えるんだから早く見つけろってね。移動術は必ず結界を使用する。だけど、移動先を追えないとはいえ、移動してしまえば道術師でも妖魔でも、こちら側には残れないんだから、結界の痕は残るんだ」
「は、はい……」
少しは、手伝ってくれてもいいのに……。
霊気の流れは、宝玄仙だったら、ずっと微小なものでも感知できるから、ちょっとした痕跡でもすぐにわかるのに……。
「なにか言ったかい、沙那?」
宝玄仙は言った。
どうやら、沙那は思ったことを思わず呟いてしまっていたようだ。
「なにも言っていません」
沙那は手で石鹸を擦り、股を泡でいっぱいにして、宝玄仙が伸ばした肢に跨った。
そして、股を滑り落とす。
たちまちに訪れる快楽の爆発に、沙那は悲鳴をあげた。
「こらえ性のない女だね。そんなことでは、この宝玄仙の供は務まらないよ。じゃあ、感度を二倍にしてやるよ」
「そ、そんなやめてください」
沙那は悲鳴をあげた。だが、宝玄仙の指が肉芽をくちゅくちゅと刺激した。
あっという間に激しい快楽が混みあがる。稲妻のような衝撃が全身を貫き、沙那は身体を仰け反らせた。
「ひいいい──いくう──」
沙那は身体をがくかくと震わせて絶頂した。
「ほら、一度いけば、少しすっきりしたろう──。とっとと、わたしの脚を跨ぎな」
沙那は、まだ絶頂の余韻に震える身体を起こして、宝玄仙の脚の上に股間を乗せる。ぐいと身体を宝玄仙に向かって動かす。
「ひぐううううっ──」
宝玄仙の腕の上を陰核がつっつっつっと擦りおりた。
その凄まじい刺激に、再び沙那は身体を揺らしながら、またもや快感の頂点に達してしまった。
*
孫空女は十回くらい屋敷の中を歩き回って、やっと不自然さに気がついた。
一階部分の屋敷の広さに比べて、二階部分の部屋が少ない気がする──。
……というよりも、外から見ると一階と二階の広さは同じであるはずなのに、二階の部分が一階に比べて狭いのだ。
つまり、二階のどこかに、探していない空間があるということだ。
隠し部屋──?
孫空女が考えたのはそれだ。
そう気がついてしまえば、あとは簡単だった。
一階の間取りに二階の間取りを重ねあわせていくことにより、その空間の場所は、一階の浴室の真上あたりだと察しがついた。
そう言えば、今頃は沙那が宝玄仙の身体を洗っているはずだ。
昨夜は孫空女が宝玄仙と一緒に湯浴みをした。
あの変態巫女は、孫空女の胸や股間を使って自分の身体を洗わせるのだ。
沙那も苦労しているのだろう。沙那の陰核や乳首には、刺激されると通常の数倍も感じてしまう『女淫輪』という霊具が嵌められている。あんなものをつけたまま、そんなことをすれば、たちまちにいってしまうに違いない。
大丈夫だろうか……。
浴室の真上方向に面するはずの壁を注意深く見ていく。
そして、やっと一箇所、空気の微かな流れを感じた。
ほんの少しだが、壁と天井の隙間から空気が流れている。
その真下を探る。
すると一箇所だけ周りの部分と板の色が少し違う場所を見つけた。
軽く押すと上下に回転して隙間ができた。
内部に小さな取っ手がある。取っ手を動かすと壁が横に開いて、人が入れる隙間が開いた。
「やっぱり、隠し部屋かい……」
一瞬、沙那と宝玄仙に話してからにしようかと迷ったが、そのまま入った。中からうっすらと光が漏れていたからだ。
中に入る……。
部屋の真ん中に大きな寝台がある。
この匂いは……。
微かな淫靡な香り──。
これは、あの匂いだ。
孫空女は直感した。
宝玄仙が毎夜のように孫空女や沙那から出させる快楽の蜜の香りだ。
女の淫液の香りだ。
でも、なんでこんなところで?
孫空女はその部屋の奥に、更に向こう側に進む扉があることに気がついた。
少しだけ扉が開いている。
光はそこから漏れているのだ。
孫空女は、そこに進み入った。
「な、なんだ、これ?」
思わず声をあげた。
その部屋の床の一部が透明の床になっている。
そして、そこから階下の浴室が丸見えなのだ。
孫空女も昨夜、宝玄仙とその浴室を使ったが、普通の天井であり、こんな透明な場所はなかった。
だから、この床は上から見るときだけ、こんな風に透明な部分があり、浴室が覗けるようになっているのだとわかった。
事実、真下には、宝玄仙の身体を洗いながら何度も達したらしい沙那が、湯船の横の床にぐったりとなって倒れているのが見える。宝玄仙がいないところを見ると、沙那を置き去りにしてさっさと浴室を出たのだろう。
「沙那──」
大声で呼んだが、声は通じないようだ。下にいる沙那は動かない。
その時、なにかが動く気配を感じた。
その湯殿の真上の部屋とさっきの寝台のあった部屋の仕切りのところで誰かが動いたのだ。
「誰だ──?」
女──?
孫空女の頭に走るものがあった。
確信があったわけではない。しかし、咄嗟に感じたのは女の気配だ。
孫空女は寝台の部屋に飛び込んだ。
「お前が、孫空女か?」
声は背中からだ。
さっきまで孫空女がいた小部屋だ。そこに巨大な猪の化け物がいた。頭に小さな角もある。妖魔だ。
いつの間に背後に?
「お前が猪公かい、豚の化け物──。でも、どこから入った?」
結界のようなものの存在は感じない。どうやって現れたのか?
孫空女は『如意棒』を耳から出す。
「伸びろっ」
だが、その瞬間、まるで煙のように孫空女の眼の前でその猪公が消滅した。
一瞬だけ霊気が働くのは感じたが、結界魔法ではない──。
だから、『移動術』じゃない。
しかし、消えた──。
なぜだ?
不意に部屋の香りに違うものが混ざった。
煙──。
部屋の隅に拳くらいの大きさの草の玉がある。
そこから激しく煙が出ている。
その煙を吸うと途端に腰が抜けた──。
床の上に身体が崩れ落ちる。
これは──。
毒煙──?
孫空女はこの匂いを知っている。
身体を痺れさせたり、気を失わせるための煙ではない。
人を殺すための煙だ。
その煙が部屋に充満している。
「さらに伸びろっ──」
完全に身体が麻痺している。
孫空女は気力を振り絞って叫んだ。
外に通じる隠し扉のある壁に向かって、『如意棒』を突き出す。
そういえば、開いたままにしておいたはずだ。
なぜ、いま閉まっている?
『如意棒』が壁に跳ね返された。
道力がかかっている──。
強い術が壁にかけられているのだ。
閉じ込められた──。
煙がどんどん充満する。
もう、立てない──。
脱出しなければ死ぬ──。
『如意棒』を向こうの部屋の透明の床に向ける。
だが、もう意識が遠くなっている……。
力が入らない。
手から『如意棒』が落ちる。
立たなければ……。
煙の噴き出す音──。
それもだんだんと聞こえなくなる……。
立たなければ──。
起きなければ……。
孫空女は自分が死に近づいているのを感じながら、すっと眠りの中に入っていった。