即ち、初期投稿バージョンです。
*
檻の扉が開いた。
疲労の極致にあった沙那は、死んだように寝ていたようだ。
朝が来たのだ───。
三日目の朝が───。
また、あの地獄の一日が始まる……。
しかし、檻の扉を開いたのは、村の者ではなく宝玄仙だった。
沙那は呆気にとられた。
「あれ? ご、ご主人様……三日間が終わったのかい?」
先に檻から解放されていたらしい孫空女が言った。
沙那は、お蘭の道術により消されていた孫空女の彼女の手足が元に戻っていることに気がついた。
孫空女の手首と足首にある『拘束環』もついている。
指には『共鳴封じの指輪』も嵌っているようだ。
お蘭と宝玄仙が真言の誓いで約束をしたのは、三日間、宝玄仙がお蘭の責めを受け続けることだ。
だから、宝玄仙が自由になっていて、沙那たちの檻を開いたので、孫空女はそう思ったのだろう。
しかし、激しすぎる責めで疲労困憊し、日付の感覚がなくなっているらしい孫空女とは異なり、沙那は、いまがまだ三日目の朝であることを知っている。
つまりは、まだ、苦役は最後の一日が残っているはずなのだ。
どうしたのだろう……?
「いや、三日間は終わってはいないよ、孫空女」
宝玄仙は言った。
「終わっていないのなら……」
沙那は口を出した。
誓約により結ばれた期間は三日間だ。
それなのに、なぜ、宝玄仙は解放されているのだろう。
昨日までの二日間は、宝玄仙は寝ることも食べることも許されずに責め苦を受け続けていた。これもお蘭の気まぐれのひとつなのだろうか。
「終わってはいないよ。ただ、新しい“真言の誓約”を結んだだけさ。お蘭とね。もっとも、今度の誓約は無制限だけどね」
宝玄仙が喉の奥で笑った。
沙那はその笑いにぞっとした。
この変態女法師と一緒に旅をするようになっての経験から、この女がそんな風に笑うときは怖ろしいことを実行しようと思っているときだということを知っていたからだ。
「とにかく、お前たちは服を着ておいで。今日からは裸でいる必要はない。荷は二階に運ばせておいた」
どういう事態になったのか理解することができないまま、沙那と孫空女は、屋敷の中に入った。
そして、中の光景を見て驚いた。
部屋の真ん中には、見知らぬ若い女が素裸で天井から首を吊られて立たされていた。
身体中に貼りついている銀色の布の紐は、昨日は宝玄仙が使われて、彼女に苦しい姿勢を強要していた布だ。
定められた姿勢を少しでも崩すと、身体に電撃が走るという拷問用の霊具だ。
その女が素裸で取らされている姿勢は、両手を頭の後ろに回し、片脚で立ち、もう一方の足を横に開いて上にあげるという姿勢のようだ。
足元の大量の汗は彼女がかなりの時間、その姿勢をとり続けているということだ。
「心を調教するためには、まずは最初に体力を擦り減らせてしまう───。これが調教の基本だよ。覚えておきな、お前たち」
宝玄仙は言った。
「あ、あのう……。彼女は? お蘭様はどこに……?」
「あれがお蘭の自然な姿だよ。十二、三歳の少女の姿は……まあ、言わば、仮の姿というやつかねえ」
「どういうことだい、ご主人様?」
孫空女が言った。
沙那もどういう事態になったのか理解できない。
「いいから服を着ておいで。この女はお前たちが起きてくるまで、このままでいなければならなかったのだよ。お蘭はわたしと違って体力のある方じゃないからね。そろそろ限界だろうよ───。お蘭足が下がったよ」
「ひぎいいっ───」
宝玄仙の大声と当時にお蘭の口から悲鳴があがった。
強い電撃を帯びたのだろう。
ぐいとあげている片脚があがる。
だが、その筋肉はぶるぶると震えている。すぐにあがった足がさがってくる。
「と、とにかく、行こう、孫女」
「うん」
沙那は宝玄仙とともに急いで二階にあがった。
二階に昇るのは初めてだった。
一階がひとつつながりの大きな部屋だったのに対して、二階は幾つかの寝室に分かれていた。
ちょっとした台所もあり、一階にはなかった厠も二階に作られている。
「ここだね」
沙那は、ひとつだけ開け放たれている小さな部屋を見つけた。
中には寝台がふたつあり、それぞれに衣類が載せてある。
下着ひと組に横に切りこみのはいった上下ひと繋がりの女性用の法衣だ。
着てみると下袍の裾がくるぶしのところまであった。
「ねえ、沙那……。本当にあれはお蘭殿かな?」
孫空女が服を整えながら言った。
「さあ……」
しかし、そう思わなければ辻褄が合わない。
道術の高い術遣いが見た目の姿を好きなように変化できるというのは宝玄仙に以前聞いた。
そもそも、あの宝玄仙を容赦なく攻め続けたのが、十二、三歳の少女という方が考えにくいのだ。
だとしたら、なんらかの理由によりこの二日間の立場が逆転したということなのだろう。
「沙那、あのお蘭殿の顔を見た?」
「うん」
「沙那はどう思った?」
「似ていた……。ご主人様と……。孫空女はどう思った?」
沙那は言った。
「似ているよ。姉妹みたいに……」
そうなのだ。
一階にいた女はどことなく宝玄仙に面影が似ていた。
……というよりも、ほんの少し宝玄仙を若くしたといった感じだ。
髪も同じ黒髪だった。
少女のときのお蘭は銀色の髪だったのだ。
一階に戻ると、さっきの女───、つまり、お蘭が、片足立ちの姿勢から解放されて、頭を床につけて土下座をしている。
その横で宝玄仙がどこからか持ち込ませた椅子に座っている。
「沙那、孫空女───、さっきも言ったけど、こいつはお蘭だよ」
「は、はい……」
宝玄仙の言葉に、とりあえず、沙那は返事をした。
孫空女も頷いている。
「しばらく、こいつはお前たちふたりに任せる───。どんな手段でもいい。魔具も渡してやる。孫空女なら魔具も扱えるだろう?」
「そりゃあ……。でも、どういうこと、ご主人様?」
孫空女だ。
首を傾げている。
「そうです。任せるとはどういう意味ですか?」
沙那も宝玄仙の命令がどういうことなのか、さっぱり理解できない。
「いいから、このお蘭を屈服させてみな───。このお蘭がお前たちのことを“孫様”とか“沙那様”と呼ぶようにしてごらん」
「えっ?」
沙那は思わずお蘭を見た。
お蘭はずっと同じ姿勢で、全裸で頭を床に着けたままでいる。
「もしも、失敗したら、お前たちは家畜に逆戻りだ。このお蘭はお前たちによる調教が終わったら、この宝玄仙の調教を受け直すことになっている。そのときに、お前たちふたりにも同じことをさせるよ」
沙那はぞっとした。
お蘭に受けた仕打ちも厳しかったが、やはり、宝玄仙の方が怖ろしい。
孫空女も蒼い顔をしている。
「ほら、なんとかお言い、お蘭」
「お宝がそう命令するので言われたとおりに、お主たちの調教は受けてやる。どうせ、わしにそれを拒否する力はないしのう───」
そして、頭をあげた。
宝玄仙によく似た若い顔がにやりと微笑む。
「だが、お主たちごときに屈服するなどありえん。わしと一緒にお宝の調教を受けようぞ、孫に沙那」
お蘭がからからと笑った。
*
「や、やめ……やめてくれぇ──、うげええぇぇぇ───」
吐いた自分の胃液の上に倒れ込んでしまったお蘭は、孫空女により耳の中の耳石を揺すられた衝撃で、また、激しい眩暈と吐気に襲われて、その場に胃液を吐いた。
「さっさと、立つんだよ───お蘭。生意気な態度をとるから、そうなるんだよ」
孫空女の声がして、横倒しになったお蘭の身体を足で転がした。
お蘭は後手に拘束された身体を懸命に起こして立ちあがる。
「早く、桶を拾うのよ、お蘭」
沙那が言った。
舌打ちをしたい欲求を耐えて、お蘭は黙って桶を口に咥える。
沙那と孫空女が予想していたよりも優れた拷問者であったことは、お蘭にとっては誤算だった。
いま、お蘭が命じられているのは、屋敷の裏庭に置いてあるたらいに満杯にした水を桶に汲み、それを屋敷の反対側に廻って、そこに置いてあるもうひとつのたらいに水を運ぶというものだ。
水が完全に空になるまで、繰り返すように言われた。
ただ水を桶で運ぶだけですむわけがないとは思ったが、やはり、お蘭は沙那により、後手に縛られた。
桶は口に咥えて運べということらしい。
そして、桶に水を汲む手段は自分の口だ。
沙那に言われたのは、その水は強烈な媚薬だから飲まない方がいいということだ。
しかし、お蘭が口に咥えて、桶に水を入れようとすると、お蘭の身体に繋がれている『刺激玉』が動かされる。
その刺激で、どうしても、お蘭は、吐き出すか、飲み込むかをしてしまう。
もしも、外にこぼしてしまえば、桶いっぱいの水が足されてしまう。
だから、このつまらない責め苦を終わらせるためには、せめて、こぼさないようにしなければならない。
『刺激玉』というのは、お蘭の身体の一部の感覚を小さな玉に移すというもので、五個の『刺激玉』が、それぞれお蘭の身体と繋がっている。
『刺激玉』により飛ばされているお蘭の一部は、左右の乳首、股間の陰核、膣の最奥のもっとも敏感な部分、そして、耳石だった。
その中で、もっとも強烈で、馴れることができないのは、耳石を刺激されることであり、それをやられると、眩暈がして猛烈な吐気が襲う。
さっきから、歩くたびに、それをやられて、転ばされている。
視界がぐらぐら揺れて絶対に立っていられないのだ。
朝から始めたその作業は、もう、夕方になるというのに、まだ続いていた。
もはや、お蘭の身体はぼろぼろだった。
身体は泥だらけで、自分の嘔吐したものにまみれて、たった一日で汚臭さえするようになった。
それでも、水はまだ半分ほど移動できただけだ。
運ぶよりも、こぼして追加された量の方が多いくらいなのだ。
飲むまいと思っても、口で桶に移し替えるときに、少しずつ媚薬を飲み込んでしまう。
喉も乾くから、自然に身体が要求するのだ。
少しずつ身体に蓄積されて、いまではお蘭の身体は火照りきっている。
また、水を運ぶときに耳石を動かされると、必ず、水をこぼすことがわかっているので、夕方になった頃には、あまり耳石は動かされなくなっていた。
その代わり、水を移し終わって戻るときに、さんざんに耳石を動かされては、転ばされる。
それでいながら、さっきから疼いて仕方がない乳首や肉芽を刺激してくれることはほとんどない。
結局、たらいいっぱいの水を屋敷の裏から表に移動するという苦役がやっと終わったのは、夜もたっぷりと更けていた。
陽が落ちてからは、篝火が準備されて、十分な灯りが準備されていた。
「お、終わったよ……」
「“終わりました”でしょう、お蘭───」
沙那が言った。
ぞっとするような冷たい目だった。こんな目もできるのかと思った。
「もう一度よ、お蘭」
「えっ?」
お蘭は絶句した。
「もう一度、同じことをやりなさい、お蘭。次は、作業が終わったときの挨拶を間違えないようにね。次は表のたらいの水を裏のたらいに運ぶのよ」
お蘭は、沙那の言葉に眼の前が真っ暗になるのを感じた。
「お、終わりました───」
お蘭は言った。
周囲は薄明るくなっていた。
二度目は、あまり『刺激玉』で邪魔をされることはなかった。
だから、なんとか朝までに終わることができた。
「だめだね。まったくもって、全然だ。もう一度だよ、お蘭」
孫空女が言った。
夜のあいだ、孫空女と沙那は交替で休んでいた。
いまは、沙那は休んでいるらしく、孫空女の番のようだ。
ずっと起きていたのはお蘭だけだ。
「な、なぜ───?」
「口の利き方がなってないからだよ───。嫌なら耳石をかき回すよ。あれ、嫌だろう?」
孫空女が『刺激玉』を取り出して、手の中でくるくると回した。
視界がぐらりと揺れて、また吐気が込みあげた。
「上手にできたら、今度は、ほかの『刺激玉』を動かしてあげるよ、お蘭。随分、溜まっているみたいだものね。焦らされるのがつらいのは、あたしたちにもわかるんだよ。いつも、ご主人様にやられるからね」
孫空女は言った。
四度目の水運びが終わったのは、二度目の夕方だった。
もうなにも考えられなくなっていた。
孫空女から与えられる『刺激玉』による耳石責めも、失敗をしたときだけの罰だけになっていた。
三度目が終了したときにも、やり直しを命じられた。
なぜ、やり直しをさせられるのか理由は説明されなかった。
「終わりました、沙那様、孫様───」
こんなことは、もう終わらせたかった。
「そんなんじゃあ、駄目よ……。やり直しよ、お蘭」
「な、なぜじゃ───いや、なぜですか、沙那様───?」
お蘭は叫んだ。
「駄目な理由は自分で考えなさい───。わたしたちに尽くす気があれば、すぐにわかるはずよ。わからないのは、お前に奴隷の精神が足りないのよ」
「そ、そんな……」
愕然とした。なにかの試しだったのだろうか……。
「やり直しだといったでしょう、お蘭───」
沙那がにやりと笑った。
視界がぐらりと揺れた。
猛烈な吐気も襲った。
耳石が揺すられたのだ。
「ねえ、あんたもそう思うようねえ、孫女?」
「ああ、やり直しだね……」
まだ続く吐気と戦いながら、お蘭は歯噛みした。
休むことを許された数刻───。
いつのまにかたっぷりと飲んでしまっている媚薬で熱くなっている身体は、これだけの疲労だというのにも関わらず、お蘭をあまり休ませてはくれなかった。
休んでいいと言われただけで、どのくらい休んでいいかは教えられなかった。
ただ、いきなり足を棒で払われて転ばされて、その場所に杭を打たれ、首に鎖を巻かれて、その杭と結ばれたのだ。
それでも、やっとまどろむことができた頃、地べたに這いつくばってい寝ていたお蘭の横腹を沙那が蹴飛ばした。
はじめろということなのだろう。
もう同じことを何度やらされたかわからない。
たらいに溜まった水を口で桶に移し、それを口に咥えて運び、屋敷の反対側にあるたらいに移す。
それだけの作業だ。
表から裏に運ぶか、裏のものを表に運ぶかの違いだけだ。
どうしても、作業が終わりという許可がもらえない。
ほかのこともさせて貰えない。
ほかの責め苦もない。
ひたすらに水を移動させるという作業だけだ。
なにがいけないのかをお蘭は一生懸命考えた。
最後の挨拶だけではなく、途中の口の利き方もいけないのかと思い、機嫌を損なうようなことを言わないように気をつけて作業をしてみた。
あるいは、罰を与えられるたびに、謝った方がいいのかと思い、そうやってみた。
その次は、謝るのではなく礼を言ってみた。
「やり直しなさい、お蘭」
もう、それくらいしか喋らなくなった沙那が言った。
お蘭は黙って桶を口に咥えた。
いまは、何日目なのだろうか。
この苦行が始まって以来、初めての食事が与えられた。
水は、たらいから桶に移すときに飲んでいたので少しは取っていたが、食事は初めてだ。
地面の上に置かれた皿に載った餌のような食べ物にお蘭は飛び付いた。
「黙って食べようとしたね、お蘭───」
その皿が眼の前から、さっと孫空女により取りあげられた。
「奴隷は腹を減っていても、許可なく食べるんじゃないよ」
皿の食事はお蘭の眼の前で遠くに捨てられた。
「食事は抜きだよ。それまでいい態度だったら、夕食のときに、もう一度、機会をあげるよ、お蘭」
孫空女が言った。
約束だった食事は夕方には与えられなかった。
抗議をしようものなら、この責め苦が終わる機会も食事を食べられる機会もないのだと思って黙々と作業を続けた。
食事は、夜中に突然与えられた。
半分ほどの水を移し終わったときに、不意に眼の前に出されたのだ。
お蘭は皿の前に跪き待っていた。
腹の虫がはっきりと耳に聞こえるくらい鳴り響いている。
「食べてよし───」
孫空女が言った。
お蘭は皿にかぶりついた。
沙那も孫空女もいない。
お蘭はひたすらに作業を続けていた。
勝手に休めば、どこからか沙那か孫空女がやってきて、罰が与えられる。
いや、罰が与えられない時もある。
だが、桶で水を運んで戻ると、たらいの水がいっぱいになっているのだ。
半分ほど移し終わった水をこぼされるときもある。
見ていなくても監視はしているということだ。
食事は不規則だ。
いつ、与えられるかわからない。
たらいの水を移し終えた。
沙那がやってきて、じっとお蘭を眺めて、そして、たらいを一瞥する。
「やり直しなさい、お蘭───」
また、沙那が言った。
ついに、お蘭は泣きじゃくった。
しばらくすると、なぜか笑いが込みあげる。そして、笑っていると、また、涙が……。
「感情が壊れたみたいね。もっと壊してあげるわ。早く、やり直しなさい」
お蘭は立ちあがった。
笑いながら……。
いや、泣きながら……。
*
これが何日目なのか、まったくわからなくなっていた。
まだ、途中だというのに、不意に沙那からたらいの横の穴に糞尿をするように言われた。
それまで、尿は垂れ流しにするように言われていたから、そうしていたが、出せと言われたのは初めてだった。
言われるままに糞尿を穴の中にすると、たらいの中の水で身体を洗われた。
たらいの中の水は媚薬だ。
飲んでも身体を濡らしても、お蘭の身体を狂うような情欲にせりあげる。
「洗っている間に一度でも達したら、また水運びやらせるわよ」
沙那の言葉に、もしかしたら、水運びが終わったのかという期待感とともに、また続けさせられるという恐怖が襲う。
お蘭は身体を沙那と孫空女に洗われながら、与えられる愛撫に歯を喰いしばって懸命に耐えた。
「ご主人様がお前を呼んでいるよ……」
身体を洗い終わったとき、孫空女が耳元で言った。
歓喜の涙がお蘭の両眼から流れた。
ふたりに連れられて屋敷に入った。
そこでは、宝玄仙が素裸で待っていた。
宝玄仙の下腹部には逞しい男根が生えている。
「よく頑張ったね。ご褒美だよ、お蘭」
宝玄仙の前に跪いたお蘭の顔の前に宝玄仙の男根が突き立てられた。
お蘭は打ち震える喜びとともに、それを口に咥えた。