429 幽霊の噂
「
女性といっても老齢であり、もう七十を超えているらしい。
同じ長屋に住む女たちの話によれば、もともとは城郭の外の農村で暮らしていたのだが、亭主に先立たれてからすっかりと弱ってしまい長患いになってしまったようだ。
それで、この長屋の大家が、たまたまその死んだ亭主に世話になったことがあるということで、不憫に思いこの城郭まで連れてきて、空き家だった部屋に住まわせたということらしい。
もっとも、それは一年も前のことで、病が癒えれば、洛葉は夫との思い出のある城郭の外にある家に戻るつもりだったが、長い患いですっかりと足腰が弱くなったことと、ここで暮らしているうちに住み心地がよくなったので、そのまま居づいてしまったということのようだ。
人のいい大家に異存はなく、いまやこの長屋の客人のようになっている。
あまり外に出歩くことのできない老女のために、あれこれと長屋の者は世話をしていて、陳女もそのひとりだ。
二箇月前に
いまではすっかりと仲良しだ。
「いつも申し訳ありませんね、奥様……。なんか悪いですよ。そういつもいつも、なにかを持って来てくれて……」
洛葉は頭を下げた。
彼女の住む部屋は、数棟並ぶ長屋の一番通り沿いの隅にある。
その戸を開けると、洛葉は、いつも部屋の真ん中の床にちょこんと縫物をしながら座っている。
陳女がいつ見ても同じように座っており、まるでこの部屋の家具の一部ではないかと錯覚してしまうほどだ。
「とんでもない……。ふたり暮らしなんで、どうしても食べ物が余るんですよ。貰ってくれる方がありがたいのです。こっちがお礼をしたいくらいですよ」
陳女はそう言って、入口の横にある土間に、煮物の入った皿を置いた。
ここに台所があり、煮炊きなどの料理はここでできるのだ。
「ここに置いときますから、いつでも食べてください、洛葉さん。ちょうどひとり分あります。食べ終わったら、そのままにしておいてくださいね。また、皿は取りに来ますから」
「雇い主の陳達様の奥様にそんなことをしてもらっては、恐縮しますよ」
「やめてくださいよ……。それに、いつも言っているじゃないですか。そんな他人行儀な言葉遣いをされては、わたしの方が焦ってしまいます。それに、陳達はともかく、わたしは長屋に暮らすただの女のひとりですから。どうか、陳女と呼び捨てにしてください」
陳女は笑った。
「本当にあの陳達様は、いい嫁御様をお貰いになりましたね。皆様の話によれば、大層、お仲もいいということですね。よろしゅうございますこと」
「まあ、洛葉さんまで、からかうんですか? この前も夜の声がうるさいとさんざんに長屋の女の方にからかわれたところですよ……。はいはい……もう、恥ずかしさも通り越しました。毎晩のように、大きな嬌声を出している陳女でございます」
陳女は言った。
夫にしてわかったが、宝玄仙が陳女、つまり、
まあ、それには不満はないのだが、多少、嗜虐趣味の傾向があり、いつも陳女を抱き潰すまで性愛を続けるのだ。
そのあまりにも激しくて長い性交に、いつしか陳女はあられのない大声を出しているらしい。
それは、かなり長屋中に響くらしく、このところ長屋の女たちにそれでからかわれている。
もっとも、壁の薄い長屋のことだ。夫婦者の愛し合う声は、大なり小なり、必ず聞こえるものであり、皆、別段に迷惑をしているわけでも、うとましく思っているわけでもない。
ただ、陳達も陳女も長屋の人間からすれば、なんとなく話しやすいので、からかわれているだけだ。
それに陳達に言わせれば、新しく夫婦になった者に、夜の声が騒がしいとからかうのは、この長屋の儀礼のようなもので、どうせ、次の新婚者がくれば、鞘当てはそっちに向かうと言っていた。
「からかうようなつもりではありません……。では、陳女さんと呼ばせて頂きますが、夫婦というものは、所詮は他人なのです。生まれも育ちも、考え方も違う人間が暮らすのですから、長い夫婦の暮らしの中で、お互いに歩み寄るということが大切なのですよ」
「そうなのですね」
「ええ……。夫婦とは努力せずに夫婦というわけではなく、お互いにそうであろうと努め合って夫婦なのです。そうのためには、肌と肌を寄せるということはとても大切なのですよ。毎日、肌を寄せる……。なにもしなくていいのです。でも、一日一回は手をつなぐとか、肩を抱くとかね……。それをしていれば、何十年も仲のいい夫婦でいられますよ」
「肝に銘じます、洛葉さん」
陳女は微笑んで頭を下げた。
「……ところで、これは陳達から預かっているものです。急ぎではないので、洛葉さんの予定でやっていいそうです」
陳女は煮物と一緒に持ってきた包みを拡げた。
こっちの方が用事の本命であり、陳達から預かっている洛葉に回す縫物の仕事の依頼だ。
長屋から動くことのできない洛葉にもできる仕事ということで、古着屋の仕事をしている夫の陳達が、手頃な仕事を回しているのだ。
それだけじゃなく、陳達は、稼ぎ手が寝込んで収入が断たれた家や、うまい仕事の見つからない男手のない家などに、同じように縫物などの仕事を回して手間賃を支払ったりしているらしい。
本来は店の方に小さな器械があるので、布仕事を頼む必要はないのだが、そうやって長屋で暮らしに困る者の面倒も看ているようだ。
そして、急にお金が有用になったり、あるいは、仕事にあぶれて困っている者には、金を融通したりもしている。
それも、「特に使うあてのない金だから、困っているときはお互い様だ」と決して相手に遠慮や引け目を感じさせない態度でだ。
陳達は通りに栄えている古着屋を営んでいて、生活は楽だが、長屋にはその日暮らしの者も生活の貧しい者も多い。
夫に言わせれば、生活に余裕がある者が同じ長屋で生活が苦しい者を助けるのは当たり前のことであり、感謝されるべきものではないらしい。
陳女と同様に、陳達もこの長屋では、まだ半年ほどの新参者だが、すっかりと陳達がこの長屋で慕われているのはそういうわけのようだ。
夫のそういう面に、陳女は少しだけ驚くとともに、すごく誇らしく思った。
本当に宝玄仙はいい人を紹介してくれたものだ。
唯一の不満は、夜が激しすぎることだろう。
時々のことならいいが、毎夜のように気絶するほど抱かれては、この陳女の身体もいつまで持つものかと思う。
しかも、その絶倫ぶりは、ますます加速するようにも感じるのだ。
陳女は思い出して、くすりと笑ってしまった。
すると、洛葉が怪訝そうな様子を示したので、慌てて笑みを消す。
「わかりました。ありがとうございます……。こんな年寄りに仕事を回してもらって感謝しておりますと、陳達様にお伝えください……。それから、先日頼まれた仕事は終わっています」
洛葉はそう言って、身体の後ろからきれいに畳まれた古着の束を取り出した。
それを陳女の前にそっと出す。
「確かに受けました。陳達に渡してから、手間賃を持ってきます……。それとも、すぐに入用であれば、とりあえず幾らかでもお支払しますが……?」
「いいえ、大丈夫です……。陳達様に仕上げ具合を点検して頂いてからで結構です」
洛葉は頭を下げた。
しかし、陳女は、きっと陳達は、この洛葉の仕事の出来は気にしないだろうと思った。
それどころか、多少仕事が不満でも、少しばかり余分に手間賃を支払うだろうということは間違いない。
「ところで、老人のひとり暮らしはなにかと不便でしょう? なにか入用の物があれば、使いでもなんでもしますけど、なにかお困りのことはありませんか?」
陳女は言った。
すると洛葉がはじめて、顔から笑みを消して複雑な表情になった。
「どうかしたのですか? なにか本当に困ったことが?」
陳女は驚いた。
「困ったほどということはないのですけどね……。それならば、厚かましいけど、魔除けの護符を購ってきてはもらえませんか、陳女さん? 本当はあたしが自分で行けばいいのだろうけど、護符を扱っている商家までは遠くて……」
「魔除けの護符ですか?」
陳女は声をあげた。
「……それは構いませんが、どうしてそんなものが必要なのですか、洛葉さん?」
陳女は言った。
「出るんですよ。このところ……」
「出る?」
「幽霊です。夜な夜なね……。この十日ばかりずっとなのです。突然に戸ががたがたと揺れたり、女の怨念の籠った声がしたり……。物がひとりで動いたり……。まあ、この歳になれば、いまさら、幽霊にも驚きませんが、物騒なことにならないうちに、魔除けでもしておこうと思いまして……」
洛葉は言った。
陳女は驚いて詳しい話を求めた。
だが、この十日ばかり、洛葉の家に不思議な現象が続き、幽霊が見え隠れするようになった。
それくらいしかわからない。
とりあえず、陳女は、魔除けの護符はすぐに届けると約束をして洛葉の家を後にした。
すると、玄関を出たところで、
花凛は、洛葉の隣で独り暮らしをしている若い娘であり、居酒屋で働いている女性だ。
まだ十七、八のはずだが、男遊びも賑やかなようだと長屋の女たちが揶揄していたのを思い出した。
陳女とは挨拶する程度であまり話したことはない。
見た目が派手な服を着ていて、色のついた大きな石がつながっている首飾りをかけている。その服装は、花凛の派手な生活をなんとなく物語っている気がした。
「あらっ、鼻殿のところの奥さんか。こんにちは」
花凛はぶっきらぼうに言った。
陳達のことを“鼻殿”と面と向かって陳女に言ったことに、少しばかりむっとしたが顔には出さなかった。
陳女は、洛葉が言っていた幽霊のことを花凛に訊ねてみた。
隣で暮らしているのだから、なにかを知っているかもしれない。
「さあね、あたいは、夜が遅いしね……。あたいの店は夜通しやっていて、帰って来るのは明け方なのさ……。いずれにしても、あたいが知る限り、幽霊なんて知らないよ。あの婆さんの家だけのことじゃないの? まあ、幽霊なんていまどき珍しくないし……。気になるなら、大家に言って、住む家を替えてもらえばいいんじゃないの? 空き家はここだけじゃないんだしね」
花凛はあっけらかんと言うと、自分の家に引っ込んだ。
それ以上のことは訊けず、陳女は自分の家に向かった。
昼間は陳達はいない。
ここからすぐの通りにある古着屋にいる。
そこが陳達の仕事場なのだ。
古い服を調達して加工してから売る店であり、それなりの繁盛しているようだ。
陳女も何度も店に行ったことはあるが、思わず手を出したくなるような女物や子供用の服が所狭しと並んでいる。
値段はすべて安価であり、いつまでいても飽きない雰囲気がある。
実際、陳達の店は、いつも数名以上の女客が古着を物色しにやってきている。
しばらく歩くと、井戸のところに集まっていた女たちに呼び止められた。
そこにいたのは五人ほどの女だ。
まあ、歳は三十から四十というところだ。
陳女も全員の名を知っている。
話の中心は、
逞しく肥った四十歳の女で、悪気はないがお喋りでお調子者だ。
「陳女、ちょっとおいでよ……。今日は是非あんたに教えて欲しくてね。あんたの旦那のことさ……。鼻殿……、じゃなかった陳達殿さ」
その采女が、鼻殿なんて、陳女の前で言ったら怒られるねえと笑った。
むっとしたが、悪気はないのは知っているので、陳女は我慢した。
それにこうやって明るいが、実は采女は苦労人だ。
亭主は呑んだくれで、あまり家に金は入れず、この采女が内職仕事で五人ほどの子供を養っている。
陳女は、実はこの采女がずっと家賃を払えずに何箇月も家賃を大家に納めていないのを知っている。
本来であれば、追い出されてもいいところを、実は夫の陳達がこっそりと家賃を肩代わりしている。
ほかにも、陳達は三軒のどうにもならない家の家賃をこっそりと肩代わりしている。
それを教えたら、いま、陳達のことを“鼻殿”とからかった采女はどんな顔をするだろうかとちょっと思った。
「わたしの夫がどうかしましたか、采女さん?」
陳女は言った。
「亭主に浮気されるのはどんな気持ちかと思ってね?」
「浮気──?」
陳女は采女のその言葉に思わず声をあげた。
「わたしの夫が浮気をしているというのですか?」
陳女は声をあげた。
「なにを驚いているんだい、陳女。あんたも知っている女たちだよ──。ほらっ、あんたがここに来たとき、一緒にやってきたあの女たちだよ……。なんという名だったかねえ……。ほ、宝……なんとか……」
陳女はほっとした。
浮気などを物騒なことを言うからなんの話かと思ったら、宝玄仙のことらしい。
それと沙那と孫空女と朱姫だろう。
「宝玄仙さんですね」
「そうそう、それだよ。宝玄仙──。ああいった女たちとあんたの亭主は寝たんだろう? そんな浮気をされてあんたは妬かないのかい?」
采女が言った。
「浮気って……。確かに陳達は彼女たちと寝ましたが、あの場にわたしもいたんですから、浮気でもなんでもありませんよ」
「じゃあ、あの鼻……、じゃなくて、陳達殿が五人の女を相手にしたという噂は本当なんだね?」
采女が訊ねるので、それは本当だと答えると、ほかの女たちがどよめきのような声をあげた。
なんなのだろう……。
「や、やっぱり、強いの……? 夜は……? その……陳達さんは……?」
采女の隣に立っていた背の高い女が興味津々の様子で訊ねた。
ほかの女たちの視線も強く向く。
どうやら、この五人はここで、陳達の絶倫についての噂話をしていたのだろう。
陳女は嘆息した。
「わたしの夫がどのくらい性欲が強いかを知りたいのね?」
陳女は言った。
すると采女が声をあげて笑った。
「……その噂をしていたのさ。あれだけの鼻だもの──。さぞや強いだろうってね。ほらっ……。鼻の大きい男は、あれも強いって言うから、その噂は本当だろうかと思ってね」
そうやって人の亭主のこと下世話な噂話の俎板に載せて笑っていたようだ。
陳女はちょっと腹が立ってきた。
「強いと思いますよ……。おそらく、皆さまの旦那様よりも、ずっと強いと思います」
陳女は言った。
「へえ……」
ひとりが言った。
「やっぱり毎晩相手するのかい……?」
別の女が言った。
「毎晩抱いてもらっています……。しかも、わたしが気絶するまで……」
「気絶?」
采女が驚いたような声をあげた。
「ええ、わたしが気絶するまで抱いてくれます。しかも、毎晩です……。さっき、浮気とおっしゃいましたが、正直に申せば、わたしは夫が浮気をしても怒らないような気がします。それでわたしを捨てるというようなことではない限り、わたしひとりでは、あの夫の性欲の相手はつらいのです……。あの宝玄仙さんはお綺麗だったでしょう? その供の方も……。そういう女がみんな虜になるのが夫の陳達なのです。だから、あまり夫をからかうような物言いはやめてください」
陳女はきっぱりと言った。
そして、呆気にとられる女たちを置いて陳女はその場から立ち去った。
「気絶するまで……毎晩……」
誰かがぽつりとつぶやく声が背中から聞こえた気がした。
*
「幽霊だと?」
陳達は言った。
すっかりと夜も更けて、陳女は陳達とともに寝具の上にいた。
ほかの長屋はすっかりと寝静まった頃だと思う。
だが、陳達と陳女の夜はまだ終わらない。
むしろこれから始まるのだ。
「ここに暮らして半年だが、幽霊話など知らないなあ」
陳達は言った。
もっとも、陳女はそれどころじゃない。
陳女は全裸のまま、やはり全裸で胡坐をかいた陳達の上に抱かれていた。
両腕は首の後ろで手を組むように縛られており、その裸身を陳達は触り続けている。
「あ、ああ……。そ、そう……なんですか……。でも、前にな、なにか……、じ、事件とか……、あ、あの部屋であったとか……? ああ……」
陳女は言った。
陳達がやっているのは、もうすっかりと濡れている陳女の花弁を指でゆっくりと弄るということだ。
しかも、肉芽には故意に触れずに、女陰にも指を入れずに、ただ焦らすように外側の襞だけを弄っている。
それをずっと続けている。
それがもどかしく、陳女はもっと強い刺激が欲しくて、身体が疼いていた。
だが、それを知っていて陳達は、それ以上の刺激を与えてくれない。
陳女の身体はこれ以上ないという程に燃えあがっている。
「俺の知る限り、あの部屋は何年間も空き家だったはずだぞ。そう大家が言っていたのを覚えている」
陳達は言った。
「で、でも、洛葉さんは……あはあっ──」
「どうしたんだ、陳女?」
自分を見下ろしている陳達の顔が笑っている。
本当に意地が悪い。
陳女の身体を刺激して火をつけておきながら、後は半端な刺激しか与えずにしばらくいたぶるつもりだろう。
わかっているが、陳女にはもう我慢できない。
自分の鼻から荒い息が洩れている。
陳女の顔が淫欲に飢えて欲情したようになっているのは間違いない。
普段はとても真面目で優しいのだが、性愛のときは人が変わったように、嗜虐的な抱き方をする。
陳女も、どんなに焦らされても、拘束された身体ではどうすることもできず、ただこうやって拗ねた口調で甘えて、陳達の慈悲にすがるしかない。
「そ、それだけじゃあ、嫌です……あなた……」
相変わらず、陳女の女陰の縁ばかりを責める手管は変わらない。
陳女は自然に腰を動かして自ら求めるように腰を陳達の指に押しつけてしまう。
しかし、陳達の指はからかうようにすっと逃げた。
陳女は鼻を鳴らして悶えた。
「話が先だ。それで幽霊はいつ出るんだ?」
陳達は言った。
「そ、それから……、あ、後で……ご、護符を届けた……ときに、……聞いたのですが……あ、明け方近くが多いとか……」
「明け方? 随分と早起きの幽霊だな。それとも、寝坊なのか? 幽霊といえば、真夜中じゃないか──?」
「そ、そうですけど……あ、明け方に出るんだそうです……。それで、“出て行け、出て行け”と……あはあっ……」
衝撃が走り、陳女は全身を仰け反らせた。
陳達の指が女陰だけじゃなくて、肛門の周りにも動いたのだ。
もっとも、相変わらずに弱い刺激しか与えてもらえない。
陳女は、自分の身体がこれ程に反応していることに驚いていた。
確かに、結界牢の二年間は毎日のように男囚と性交をする日々だった。
しかし、いまの陳女ほど淫乱な身体ではなかった。
おそらく、この家にやってきて、陳達に毎晩のように抱かれ続けているうちにこうなったのだ。
毎夜続く激しい性愛が、陳女を火をつけさえすれば身体が疼いて我慢できないような身体にしたのだと思う。
「それが毎日なのか……?」
「そ、そう……みたい……です。こ、このところ……。十日ばかり……ああ……」
「なるほどな」
陳達は唸って、なにか思念に耽るような表情になった。
もっとも、陳女の股間を動く指だけはとまらない。
相変わらずもどかしい刺激しか与えずに、陳女を翻弄している。
「だけど、なんで、幽霊が“出て行け”なんだ? 幽霊なら“恨めしや”じゃないのか?」
「わ、わからない……わよ……。そ、それより、も、もう……」
「おかしな幽霊だな。一度、会ってみるか?」
陳達は笑った。
「あ、会う……の……?」
「ああ──。じゃあ、そうと決まったら、それまで時間潰しとするかな──」
陳達はそう言って陳女を膝から降ろすと、陳女をうつ伏せにして尻を高くあげるような姿勢にした。
両手を首の後ろに縛められているために、陳女は寝具につけた頭をあげることができない。
背後にいる陳達に尻を高く突き出してさらけ出すような姿勢だ。
その陳女の腰を背後から陳達が値踏みするように眺めている。
部屋には小さな燭台の光があるだけだが、陳達はその燭台に手を伸ばすと、陳女の股間がよく見える位置に光りを移動させた。
「ああ、意地悪……」
陳女は恥ずかしさで腰を振る。
「後ろから見るお前の女陰はべっとりと濡れているぞ、陳女。こんなにびっしょりだとはいやらしい奥さんだ」
陳達がからかった。
しかし、それよりも陳女には、少し気になることがあった。
「と、ところで、あ、あなた……いま、明け方まで時間を潰すと言いました……?」
まさかそれは朝までやるという意味なのだろうか。
「言ったな……」
陳達が言った。
そして、すっと陳達が動いた感じがあった。
次の瞬間、後ろから女陰と肛門がぺろぺろと舌で舐められ始めた。
「んん……そ、そこは……あはあっ……」
強い衝撃を感じて陳女は大きな声をあげた。
しかし、陳達はしっかりと陳女の腰を持って離してくれない。
すぼめた陳達の舌が女陰と肛門を交互に突く。
「くうっ……いやっ、はっ……はあっ……はあっ……んんんんっ……」
陳女の口からは快楽に喘ぐ雌そのものの甲高い声が迸る。
「陳女、どっちをして欲しい……? 女陰か、お尻か……? 好きな方を最初にやってやるぞ」
一度、陳女の股間から口を離した陳達がそう言い、また、女陰と肛門のそれぞれを交互に舌で交互に刺激する。
そして、今度は指を伸ばして肉芽も弄る。
そうやってしばらく、陳達は舌で陳女の股間を舐めて陳女を翻弄し続けた。
やがて、また、刺激を指に変えて、秘所と肛門を指の関節ひとつ分だけ挿入しては出すということを繰り返した。
陳女はなにも喋ることが言えずに、ただ喘ぐだけでいた。
「どっちからなんだ、すけべえな奥さん?」
陳達がそう言って、ゆっくりと指だけを動かし続ける。
もうそれ以上の焦らしには陳女も我慢できなくなってきた。
「お、お尻は……、あ、洗ってあります……、あなた」
陳女はそれだけを言った。
後ろでくすりと陳達が笑う声がした。
「わ、笑わないでください……。あ、あなたが、こんな身体にしたんです……」
陳女は恨みを込めて言った。
この二箇月、陳達が繰り返しお尻を調教したのだ。
お尻で陳達の男根を受け入れるようにするだけではなく、丸一日霊具を肛門に入れられて放置されたりして性感を開発された。
さすがに結界牢では尻ではあまり性愛をすることはなかったから、陳女にとって肛姦はほとんど未知の快感だ。
もっとも、女のお尻を犯す性愛を陳達に教えたのは、あの宝玄仙たちのようだ。
いずれにしても、お尻で性交したいなんて恥ずかしいことは、もう陳達にしか言えない。
その陳女のおかしな性癖に応じてくれる陳達は、それだけでも大切な人生の伴侶だ。
「笑うつもりはないよ、陳女……。俺の変態趣味につきあってくれる大切な奥さんだからね」
陳達が怒張の先端を陳女の肛門にあてた。
ゆっくりと入ってくる。
陳女は息を吐いた。
途方もない快感が襲い陳女は吠えるような声をあげていた。
そのとき、不意に隣の家からどんと音がした。
陳女は一瞬どきりとした。
「我が家の幽霊だな……。周達との約束を忘れていた……。陳女、寝具を噛んでくれ──」
陳達が苦笑いするような声がした。
そう言えば、夜の声がうるさいから、隣で暮らしている陳達の友人の周達と、少しは陳女を静かにさせると約束したとか言っていたのを陳女は思い出した。
陳達が一度挿れかけていたものを抜いて、陳女の口に寝具の端を咥えさせた。
「じゃあ、いくぞ」
陳達が言った。
再び肛門に陳達の物が入ってきた。
陳女は目もくらむような快感に全身を仰け反らせて、寝具を噛んだまま、力の限り吠えたてた。