※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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第9章【竜飛(りゅうひ)国(三魔王の虜囚)篇】
438 恥辱の降伏交渉


「遅いぞ」

 

 犬が喚いた。

 犬ではない。亜人だ。

 しかし、李媛(りえん)は、人間の身体に犬の顔がついているとしか思えなかった。

 李媛は、長い下袍を揺らしながら、すでに座っている家臣たちの前を歩いて自分にあてがわれている上座の席に座った。

 すると、席に着くと同時にその犬に一喝されたのだ。

 

 犬は敵である魔王軍の軍使だ。

 そして、この獅陀の城郭の外に展開している五千の軍の指揮官でもあるという。

 危険な軍使という任務を指揮官自らやるというのは、馬鹿にした話だ。

 度胸があるというよりは、どうせこちらはなにもできないと高を括っているのだ。

 その通りなのだが、亜人どもにここまで舐められるというのは、女ながらも肚に煮えるものもある。

 その犬は、両脇に座る副使とともに李媛に向かい合うように座って、にやにやと小馬鹿にしたような笑みを浮かべていた。

 

「李媛じゃ。この獅駝(しだ)の城郭の城代にして、州伯を務める夫の李保(りほ)の名代を任じている」

 席についた李媛はとりあえず、犬の喋った言葉を無視した。

 

 犬に比べれば、その両脇にいるふたりの副使は、顔が怖ろしく白くて、巨大な耳が垂れている以外は人間に見えた。

 しかし、李媛には、軍使はどうしても犬にしか見えない。

 その三人の視線が李媛に注がれる。

 李媛はくるぶしまで隠れている下袍でよかったと思った。

 短いものであれば、膝ががくがくと震えているのが眼の前の敵の指揮官に見透かされてしまっただろう。

 

 いま、李媛が位置するこの席は、つい先日まで、この竜飛国の最南端である獅駝の城郭の城郭主であり、城郭軍の司令官であり、獅駝地方を治める州伯である夫の李保の場所だった。

 しかし、いまは妻であり、侯爵夫人である李媛にそのすべての責任が委ねられている。

 夫を初めとして、城郭の主立つ者は戦場で死に、残った高官たちもいつの間にか城郭から姿を消していた。

 一夜にして李媛は、この城郭にいる数万の命に責を負う立場になったのだ。

 

「侯爵夫人か……。大儀だな。だが、本来であれば、あなたは州や城郭の政事とは無縁であろう。こんななにも知らぬ女ひとりにすべてを押し付けるとは、この竜飛国も余程、人がいないとみえるな」

 

「なんの。爵位であれば、わらわも亡き夫に次ぐ位の侯爵じゃ。もちろん、この獅陀に残っておる者では、わらわが最高位じゃ。正式の軍使との交渉の相手として問題はないはず」

 

 李媛は精一杯の虚勢を張ったつもりだ。

 しかし、犬の言うとおり、本来であれば、李媛は、夫とは別に侯爵という爵位を持つというだけの存在であり、この獅駝地方を治める李保という伯爵の妻というだけの立場に過ぎない。

 つまり、こうやって表の場に立つ人間ではないのだ。

 

 だが、まず、夫とはじめとする主要な貴族たちが参加した決死の出撃軍が、この獅駝の城郭の南方の山岳の戦いでことごとく亜人の軍に殲滅させられた。

 李媛はその敗報が信じられなかったが、城郭の外に迫った五千の魔王軍の前面に並べられた夫たちの生首を見ては、それを信じるしかなかった。

 

 だが、李媛には夫の死を悲しむような猶予は与えられなかった。

 北侵してきた魔王軍を迎え撃つために出撃した総軍が全滅したという報が流れるや、我先にと残っていた高官や武官たちが遠い国都に向かって逃亡してしまっていたのだ。

 気がつくと、李媛以外に城郭の代表を務める立場の者がいなくなっていた。

 残っていたのは中級以下の文官のみであり、それで、政事にも軍事にも縁のなかった李媛が、降伏を勧告するためにやってきた犬と対面する破目になったというわけだ。

 

「それにしても、魔王軍の先遣隊長自らが軍使になってやったというのに、饗応もなく待たせるだけとは、無礼にもほどがあるな。我らも戦いの直後で血が昂ぶっておるのだ。そのような軍使には、まずは、女でもあてがい、頭の血を冷まさせて交渉を優位に運ぼうとするものではないのか? 美貌で名高い獅駝の侯爵夫人には、さぞや美しい人間の娘が侍女についておるのであろう。まずは、そいつらに俺たちの性奉仕を命じたらどうなのだ?」 

 

 指揮官であり軍使でもある犬が居丈高に笑った。

 女の自分に向かって、李媛の侍女を接待用の娼婦に差し出せというあまりの無礼な物言いに李媛は鼻白む思いだったが、とにかく煮えたぎるものをぐっとこらえて、とっさに李媛は頭を下げた。

 

「このような場には馴れておらぬ女のことゆえ無礼や作法に落ち度があれば容赦してもらいたい。なにしろ混乱してしまい、事の次第を整理して対応を定めるのに時間がかかった。待たせたのは失礼した」

 

 李媛は言った。

 

「そうか、なら、本当にお前がこの城郭政府の生き残りの代表ということでいいのだな、侯爵夫人よ? あんたの歳は四十過ぎと聞いていたが、なかなかに綺麗な肌じゃねえかよ。それに美人だ──。へえ……、人間は老いるのが早いと聞いていたが、貴族の女ともなると、四十過ぎてもこんなにも別嬪なんだな。びっくりしたぜ」

 

 犬が値踏みをするように李媛の身体を舐め回す。

 そのような発言と視線は、あまりにも無礼なものだ。だが、李媛は耐えた。

 敗戦と逃亡でほとんど行政機能を失った州行政府だったが、まだ、城郭には数万の住民がいる。

 その命を李媛が握っているのだ。

 李媛がやらなければならないのは、その命乞いなのだ。

 

 城門を閉ざしたまま、新たに兵を募って籠城するというのは策としては考えられるが、実際にはあり得ない。

 まず、それを指揮する者がいない。

 それに、やってきた魔王軍は、この犬の率いる五千の先遣だけではない。

 その後方には、青獅子(あおじし)という魔王とともに二万の主力がいる。

 

 それに比べて、この獅駝は国都からは遠い。

 どんなに早くても二万の魔王軍に抗することのできる援軍を準備するには、まだ半月はかかるだろう。

 それだけあれば、この城郭は落ちる。

 魔王軍の城郭内への侵攻を許せば、この城郭の住民は侵略してきた亜人たちに殺されて残酷に死ぬしかない。

 

 こうなった事態の責任は、獅駝軍の全軍を率いて全滅させてしまった亡き夫にあるのだろう。

 李媛は、その妻として、城郭の住民を護るためにどんな仕打ちでも甘受するつもりだった。

 

 南に暮らす亜人たちが侵略してきたのは、わずか十日前だ。

 この獅陀地方の南側には、急峻な山岳地帯の向こうにある金凰王、白象王、青獅子王という三人の兄弟魔王が治める魔王領がある。

 そして、この竜飛国の最南端の獅駝地方は、その魔王たちとの屈辱的な外交により、山岳を隔てた南側の人間の領域を保ってきた。

 つまり、この獅駝の州行政府は、長い間、朝貢というかたちの貢物を魔王たちに送るということで、平和を保ってきたのだ。

 

 しかし、国都からやってきた夫である李保が新たにこの地方を治める領主となると、事態が急変した。

 毎年贈っていた貢物には、財宝や穀物ばかりではなく、大勢の若い女も含まれていたのだが、夫の李保は、なによりも住民の中から娘を選んで、亜人の奴隷として差し出すというその行為を嫌った。

 

 李保が、長年の朝貢の慣習を廃止して、今年の貢ぎ物を魔王領に運ぶのを中止すると、三魔王のうち、末弟の青獅子王が軍を率いて南侵し、すぐに魔王軍と獅陀軍は戦の状態になった。

 魔王軍が瞬く間に獅駝嶺を踏破して、この獅駝地方に進軍してきたのだ。

 南辺にも守備隊はいたが、それはひとたまりもなかった。あっという間に守備隊は殲滅させられ、魔王軍はまっしぐらに、この州都でもある城郭に接近してきた。

 

 州伯であり獅駝軍の総司令官でもある夫は、戦力に差があっても、魔王の遠征軍など、兵站さえ切れば退却するしかないだろうと踏んでいた節がある。

 魔王軍との直接的な戦いを避けて、その後方の主力の背後に回り込んだ夫の率いる獅駝軍は、南側の山岳の出口に陣を築き、完全に魔王軍の退路を遮断した。

 

 だが、魔王軍は兵站線そのものを必要としなかったのだ。

 魔王軍は、すでに確保している農村の住民を殺して食べることにより食料を確保すると、山岳に向かって反転して、獅駝軍に襲いかかった。

 戦役の間、この城郭で獅駝軍からの連絡に接していた李媛が知っているのはここまでだ。

 

 それからはかなり情報が錯綜した。

 獅駝軍の大敗という報せが届き、それが殲滅という報に代わった。

 州伯である夫の陣頭指揮に加わっていた有力な武官たちもことごとく殺されたというのは、魔王軍の主力から分かれた先遣軍が、城壁の外に展開して、その前面に彼らの生首が並べられることにより初めて知ったのだ。

 

「……俺は大旋風(だいせんぷう)という。青獅子魔王軍の軍団長のひとりだ。今回の遠征軍の副将でもある。本当はお前ら身の程知らずの人間なんて、有無を言わさずに皆殺しにすればいいと思っていたから交渉役なんてちゃんとやるつもりはなかったんだが、美人の侯爵夫人が交渉相手とわかって気が変わった──。ちゃんと、軍使役をしてやるぜ」

 

 大旋風が哄笑した。

 皆殺しという言葉に、座が騒然となるとともに李媛も凍りついた。

 そのとき、大旋風が両手を大きく拡げた。

 大旋風たちの座る卓と李媛の卓の中間で空間が歪んだ気がした。

 次の瞬間、そこに幼い子供ほどの大きさの大きな透明の瓶が現われた。板の蓋と油紙でしっかりと上部を覆っている。

 

 道術だ──。

 

 大旋風が道術でこの場になにかを登場させたのだ。

 周りの家臣たちが、慌てて腰をあげようとしたり、あるいは恐怖で硬直したりしたのがわかった。

 護衛の兵もなんの反応もできないでいた。

 李媛もびっくりして、思わず両手で掴んでいた手摺を強く握りしめた。

 

「怖がるんじゃねえよ……。俺たちも戦の作法くらいは守るぜ。軍使としてやってきて、ここで道術でお前らをどうにかするような卑怯な真似はしねえよ──。これは美人の侯爵夫人殿に贈り物だ。気にいるといいがな……」

 

 大旋風がくくくと喉で笑った。両隣りの副使たちも吊られるように笑っている。

 危険なものではないかと疑った李媛だったが、どうやら大きな透明の瓶になにかの液体が入っているだけのものだとわかって緊張を解いた。

 

 だが、これはなんだろう……。

 瓶の中の液体は薄い茶色だが、瓶の底になにかぶよぶよしたものがたくさん沈んでいるが……。

 

 まさか……?

 いや、おそらく……。

 

「ひいっ、あ、あれは──」

 

 李媛は瓶の中に沈んでいるものの正体に気がついて、狼狽えて悲鳴をあげた。それはこの広間に集まっていた者も同様だった。ほぼ全員が引きつったような声をあげて席を立った。その中で大旋風だけが大きな声で笑いながら腹を抱えている。

 

 瓶の中に入っているのは、切断された人間の性器だ。

 男の性器が多いが、抉り取られた女の性器をもある。

 それが大量に液体に漬かっているのだ。

 

「それは、お前を見捨てて北に逃げようとしたこの城郭の仲間の連中の一部だ。全員捕えて喰っちまったが、性器を焼酎漬けにして後で愉しもうと思っていてな──。丁度いいから、挨拶代りにくれてやるよ。葬って弔ってやるもよし、お前らが焼酎を味わうもよし……。まあ、好きにしてくれよ」

 

 大旋風はふざけてまだ笑っているが、李媛は気が動転して、しばらく口を開くことができなかった。

 

「お、お前たち、こ、これを早く、どこかに……」

 

 やがて、やっとのこと落ち着きを取り戻して、警護の兵に叫んだ。

 兵たちが慌てたように、ふたりがかりで瓶を抱えて持ち出していく。

 

「さてと、じゃあ、軍使らしく、お前らの意思を訊いておくか──。それじゃあ、李媛殿よ、降伏か、それとも戦うのかどっちだよ。俺は、どっちでもいいぜ」

 

 大旋風がまだ薄笑いを浮かべた顔で、狼狽の残る李媛を見た。

 

「わ、わらわたちは……」

 

 李媛は住民の命を守るための交渉をしようと口を開いたが、すぐにそれを大旋風に留められた。

 

「降伏というのならそれでもいいぜ……。だが、俺はお前らを殲滅しろという命令しか青獅子様から受け取っていねえから、その場合は、あんた自身が後からやってくる青獅子様に頼むことになるんだろうな……。ただし、その結果、青獅子様がやっぱり殲滅だと言えば、この城郭に残っている人間は全部皆殺しになる……」

 

「皆殺し?」

 

 李媛は容赦のない言葉に、思わず息を呑んだ。

 

「……それとも、戦うというのなら、やっぱり、それでもいい。俺はそっちの方が本当は面倒がないんだ。あんな城壁なんか、主力を待つまでもねえ。俺の指揮する五千で十分だ。あれっぽっちの道術であんなに驚いているようなお前らじゃあ、どうせ、なんの抵抗もできずに、俺たちに揉み潰されるだけさ……。まあ、いずれにしても、お前と青獅子様の交渉次第だな」

 

 大旋風は言った。

 

「わ、わらわ自らが魔王のもとに赴いて自ら頼めというのか……?」

 

 思わず言った。

 この大旋風にしても、青獅子という魔王にしても、夫を殺した憎むべき亜人どもだ。

 その彼らに哀れな命乞いをしなければならないのか……。

 

「嫌ならやめな──。お前が膝を屈するのを甘受しない代償として、この城郭の人間は女子供、老人、赤ん坊に至るまで皆殺しだ。これは、嘘でも誇張でもねえぞ。俺たちの目的は、この獅駝一帯を新たに青獅子様の領土にし、この城郭を首都にすることなんだ。お前ら人間は本来、邪魔なんだ」

 

 居並ぶ家臣たちの眼が一斉に李媛に注がれるのがわかった。

 李媛の態度ひとつに、ここにいる家臣たちだけではなく、この城郭の全住民の命がかかっている。

 それは、わかっている。

 李媛は、ぐっと拳に力を入れた。

 

「わ、わかった……。わらわ自らが、魔王の前に行き、降伏を伝える。それで住民は助けて欲しい……」

 

 李媛は言った。

 

「勘違いするなよ。それを決めるのは俺じゃねえ。青獅子様だ……。お前がやる青獅子様との交渉に、ここの城郭の全住民の命がかかっているんだ。俺じゃねえ……。まあ、せいぜい頑張りな──。俺ができるのは場の提供までだ」

 

「わ、わかった。頼む……」

 

 李媛は頭をさげた。

 どんなに口惜しても、それに耐えて住民の命乞いをするしかない。

 

「明日の朝には青獅子様は、城郭の外に展開する俺の軍に合流するはずだ。お前の選んだ部下は連れてきていい。ただし、女だけだ──。そして、武器はなしだ。それを破れば、交渉決裂とみなして総攻撃をする。いいな──。それと、交渉の場にやって来るのには乗り物は使うな。その足で歩いて来い」

 

「承知した」

 

 李媛は言った。

 どんな条件でも拒否はできない。

 それがわかっているから大旋風も李媛をなぶったような態度をとるのだろう。

 腹立たしいが、いまは要求に応じるしかない。

 この大旋風がそっぽを向けば、李媛には魔王の青獅子に住民の命乞いをする機会さえ与えてもらえないのだ。

 

「……まあそうやって、従順な態度でいることだな。なに、青獅子様は難しいお方じゃない。この城郭の代表者のお前自ら真摯に頼めば、住民の命くらいは許してくれるさ──。おお、それともうひとつ条件があった……。お前自身は、この服を着てもらう──。魔王様の前に近づいて交渉の話し合いをするんだ。万が一にもなにかあっては困るからな。この服を身に着けて来い。それ以外は布切れ一枚、髪飾り一本も許さん。靴もなしだ。素足で来い。いいな──」

 

 大旋風がもう一度手を振った。

 すると今度は、彼らが座っている前の卓に、なにかの革でできた物が出現した。

 二度目の道術だから、今回はさっきほどの驚きはない。

 

 副使のひとりがそれを持って、こっちにやって来る。

 それにしても、おかしな条件だとは思った。

 明日の交渉の際には、その指定した服のみを身に着けてくるようにという大旋風の指示だが、副使がこっちに持ってくる革の品物は、とてもじゃないが服には見えない……。

 李媛は首を傾げた。

 

「ほうほう、これは、侯爵夫人に似合いそうだ……。軍団長もなかなか趣味がいい」

 

 李媛の向かい側に立った魔王軍の副使が、持っていた物を李媛に拡げて見せながら言った。

 

「そうだろう? 俺は趣味がいいのさ」

 

 大旋風が笑った。

 だが、李媛は唖然として声がなかった。

 副使が拡げて示したのは服ではない。

 黒革の胸当てと腰に履く下着だ。

 しかも、ただの下着ではない。

 

 まず胸当ては、ふたつの乳房を椀のようなかたちの半球の部分で包んで背中で革紐を縛るというものだが、見ると乳房の内側に当たる部分にたくさんの触手のようなものがうようよとうごめいているのがわかる。

 これ以外を身に付けてはならないということになれば、その触手のある下地に直接乳房を接触させることになる。

 そして、圧巻は股間に身に着ける下着だ。

 下着というよりは、交差した二本の短い革帯であり、しかも、股に当たる部分だと思われる帯の内側に大小のふたつの突起物があった。

 その突起物にもまた触手のようなものが固まって男性器そのもののかたちをしていた。

 表面はねばねばとした潤滑油で覆われている。

 その突起物をどことどこに挿すのかというのはさすがに李媛にもわかる。

 

「ぐ、愚弄するにもほどがある──。こ、こんなものを身に着けて交渉などに赴けるか。あ、亜人にも名誉を重んじる心はあるのじゃろう。し、しかも、わらわは侯爵夫人じゃぞ──。こ、このような、恥知らずの格好……」

 

 李媛は怒鳴った。あまりの怒りに身体が震えるのを感じた。

 気がつくと、その場に立ちあがってもいた。

 しかし、副使はそれを李媛のいる卓の上に置くと、席に戻っていく。

 

「残念ながら、俺たちには、負けた相手の名誉を重んじてやるような優しい心はねえな。あるのは弱い者は徹底的にいたぶるという野蛮人の仕来たりよ──。ところで、その胸を締めつける下着についても、股間に身に着ける下着にも道術がかかっていて、お前が装着すれば、ぴったりと肌に貼りついて密着し外れなくなる。それと説明するまでもないだろうが、その二本の張形はお前の女陰と肛門に挿入するのだぞ。潤滑油はたっぷりと張形の表面に滲み出るようにしてあるので、そのまま履けると思うぞ」

 

 大旋風は愉しそうに言った。。

 

「じょ、冗談ではない。こんな、破廉恥な格好などできるわけがない。このような物を身につけて交渉に望むなど──」

 

 李媛はそれ以上の言葉を続けることができなかった。

 あまりの怒りですっと意識が遠くなる気さえする。

 

「嫌なら、よせよ──。住民を巻き添えにして全員を殺せばいいさ。俺は親切で言ってやっているんだぞ──。言っておくが、ここの住民を全員殺すというのは、本当は既に決まっているのだ。それをお前の身体ひとつで覆す機会をやろうと言ってやってんだ──。命でも恥でも、大勢の住民の命を救うために犠牲にしな。それに、実を言えば、魔王様は好色なお方だ。既定の方針を変更するには、お前が身体を提供するのが一番だよ」

 

「わ、わらわに魔王に抱かれよというのか……」

 

 李媛は自分の声が震えるのがわかった。

 

「そうだ。抱かれよ」

 

 大旋風が李媛の口真似をしてげらげらと笑った。

 李媛は言葉を失った。

 

「そう言えば、お前には娘がいるはずだな。情報によれば、歳は十八だったか……? そいつも連れて来い。青獅子様に差し出すためにな……。そいつは、そうだな……」

 

 大旋風は平然と言い、もう一度、道術でなにかを自分の眼の前の卓の上に出した。

 それは首輪だった。

 細い鎖が繋がっている。

 

「この首輪を娘の首に嵌めて、お前が鎖を握って歩いて来い。身に着けるものとして、これを許してやろう。それ以外は寸布も身につけてはならんというのは、お前と条件は同じだ」

 

 大旋風はそう言って、身に着けていたマントを脱いで卓の上に追加した。

 

「り、李姫(りき)を魔王の女にせよと?」

 

「なにが魔王の女だ。そんなものになれるわけがないだろう。一度か二度、抱かれたら、新しい魔王宮で飼う家畜にする。おこがましいことを言うな──」

 

 大旋風は大笑いした。

 李媛はあまりのことにそれ以上の言葉を継ぐことができなかった。

 立ちあがって大旋風を睨みつける両脚が怒りで激しく震えるのがわかった。

 

「青獅子様が到着するのは明日の朝だ──。城郭の鉄塔から見ていれば、旗があがるからわかるはずだ。総攻撃は旗があがってからきっちりと一刻(約一時間)後に開始だ。お前が魔王様に住民の命乞いをするのは、その一刻(約一時間)しかねえからな…」

 

「くっ……」

 

 李媛は大旋風の口にする条件に鼻白んだ。

 

「……降伏を申し出て住民の命乞いを交渉するのもいいし、戦うことに決して、全員皆殺しになるのを選んでもいい。ひと晩あるんだ。ゆっくり考えて決断しな……。だが、交渉する気があれば、素裸にそれだけを身につけて来い。娘を連れてな──。いずれにしても、明日には、この獅駝の城郭は新たな魔王領の首都になる。それだけは決まっている」

 

 大旋風がぱちんと指を鳴らした。

 次の瞬間、大旋風の姿とふたりの副使の姿は消えた。

 

 李媛は呆然とした。

 これが本物の道術というものなのか……。

 生まれ育った国都でも、この獅駝でも、霊具による小さな道術にしか触れたことのなかった李媛はその力に圧倒される思いだった。

 戦っても絶対に敵わない。

 李媛は確信した。

 

 おそらく、あの道術があれば簡単に城壁は破れるだろう。

 いま迫っている五千の先遣だけでも、武器をまともに持ったことのない城郭の人間は殲滅させられるに違いない。

 ましてや、それに二万の魔王軍主力が加わるのだ。

 

 李媛の心に絶望が拡がる。

 そして、ふと気がつくと、大広間のすべての者の視線が李媛に注がれているのがわかった。

 ここにいる者の中には、大旋風の破廉恥な要求に憤る者も、李媛に同情する者の姿はなかった。

 全員が、李媛が大旋風が指示した恥辱的な格好で李媛が青獅子王のところに赴くことを承諾するように視線で訴えていた。

 

 それらは州伯の地位を急遽継いだ侯爵夫人に対する視線というよりは、すでに屠殺の決まっている生贄に対するもののようだった。

 李媛は絶望で目の前が真っ黒になるのを感じた。

 

 

 *

 

 

「い、行くわよ、李姫……」

 

 閉門された城門の前に立つ李媛はそれだけを言った。

 李姫は裸身に巻きつけたマントをしっかりと両手で握りしめている。

 返事はない。

 李媛は一度だけ振り返った。

 ひと晩中泣きはらしたのか、李姫の眼は真っ赤だ。

 

 李媛は娘にかける言葉を見つけることができなかった。

 わが娘ながら美しいと評判の娘だった。

 国都に住む伯爵家の次男との婚姻もまとまり、婚礼を半年後に控えていた。

 それがまさか、こんなかたちで人生を終えることになるとは……。

 

 もしも、李媛の夫であり、李姫の父親である李保が、魔王軍との戦いに破れて死ななければ……。

 

 いや、たとえ、死んだとしても、昨日、軍使としてやってきた大旋風という魔王軍の軍人が、李姫を魔王軍の家畜として差し出せと指示しなければ、李姫は恵まれた婚姻をして、幸せな暮らしが約束されていたに違いない。

 愛する夫を支え、子を宿し、育み、家を守り、そして、天寿を全うする幸せ……。

 しかし、その人生はもう李姫にはない。

 

 李姫は、その無辜の身体を魔王たち亜人に差し出せねばならないのだ。

 李姫をこれから待っているのは、何十、何百という亜人たちに凌辱され、ぼろぼろになるまで性奉仕の道具として酷使されたあげく、用済みの奴隷として屠殺される運命なのだろう。

 

 かわいそうな李姫に、そのような残酷な運命を強要しなければならなかった李媛は、その運命を呪った。

 それを命じた大旋風を憎み、魔王を憎み、無謀な戦いに臨んで死んだ夫の李保を憎んだ。

 

 あの大旋風の言葉のままなら、一度か二度抱かれれば、魔王軍の家畜として飼われるのだという。

 それがどういうものかわからないが、最早、李媛が李姫に望むのは、早々に殺されて欲しいということだ。

 そうでなければ、過酷な運命に耐えきれず狂ってしまい、なにもわからないような状態になって欲しい。

 これからの時間は、李媛にとっても、李姫にとってもただ苦しくて惨めなだけの時間だろう。

 李媛が望むのは、自分と娘のそんな時間が一刻も早く終わりを告げることなのだ。

 

 限りない恥辱と屈辱……。

 限りない絶望と悲観……。

 限りない苦痛と苦悩……。

 

 ひたすらに命が早く終わることを願うだけの日々……。

 これから先に一切の望みはない。

 

 それが始まる。

 

 李媛にしても、李姫にしても、いまや自殺することさえ許されていないのだ。

 死ねば、自らを屠殺される家畜として差し出す代償として得ようとしている城郭の全住民の生命は手に入らない。

 残されたこの城郭の住民は魔王軍に皆殺しにされるしかない。

 これから母娘ふたりの命と身体を犠牲にしてでも、青獅子という魔王に獅駝の城郭にいる数万の住民の命乞いをしなければならないのだ。

 

 その苛酷な運命を象徴するようなこの姿だ。

 李姫が身体に巻きつけているマントは、脚の付け根をかろうじて隠すほどの長さしかなく、マントの先から見える素足は、娘ながらむちっとした肉付きからくる官能味に溢れていた。

 李姫は片手で恥毛までが覗くような短いマントの裾を股間の前側に置き、もう片手は固く胸元の合わせ目を握っている。

 そのマントの紐を結んでいる李姫の細い首には、犬用の首輪が嵌っており、その首輪から伸びる鎖を李媛が握っている。

 その恰好で李姫が魔王陣にやって来るのが、李媛が青獅子という魔王に住民の命乞いを許す条件なのだ。

 

 そして、李媛の姿はもっと哀れだ。

 李姫のようにマントで身体を覆うこともできない。

 革製の胸当ては乳房の膨らみをぴったりと包む二個の革の半球の覆いであり、それを胸の後ろで紐で結びつけただけのものだ。

 乳首を含めた乳房に当たる胸当ての内側には、いまは動いていないものの触手がびっしりと張りついており、それが乳肌や乳首に当たると生温かい感触が気持ち悪かった。

 李媛が気持ち悪さに耐えて、ぴったりと乳房に密着した胸当てを背中で結ぶと、道術によるものなのか、紐の結び目そのものが消滅して、革製の胸当てそのものがぴったりと隙間なく乳房に密着したかたちになった。

 そして、女陰と肛門にふたつの張形を埋めながら革紐の帯を股間に締めたときの惨めさは、これしか住民を救う手段がないとわかっていても、このままなにもかも捨てて逃げ出すか、そうでなければ、こんな恥を晒すくらいなら、その場で命を絶ちたいと本気で思った。

 

「さ、貞女(さだじょ)、軍使の旗を掲げよ……」

 

 李媛はただひとり付き従うことを求めた侍女の名を呼んだ。

 歳は二十四──。

 李媛の侍女になり十年になる。

 想像もできない恥辱が待っているに違いない李媛と李姫に従って、一緒に魔王軍の陣営に行くと申し出てくれた唯一の侍女だ。

 貞女についても、どんな運命が待っているか想像して余りある。ほかの侍女はすべて尻込みしたが、この貞女だけが李媛とともに悲運を甘受することを求めてくれたのだ。

 

 李媛は許可した。

 本当は誰も連れていくつもりはなかったが、李媛が娘の首に嵌めたに首輪に繋がる鎖を持ち、李姫は裸身を隠したくてしっかりと両手でマントを握りしめているので、どうしても軍使の旗である白旗を持つ役が必要なのだ。

 

 三人は城郭の外に出る城門の前に立っていた。

 見送る者はない。

 李媛たちがいる城門からは人っ子ひとり見ることはできず、周囲は静まり却っている。

 城門を護る兵たちでさえも詰所に閉じこもって、李媛たちの姿を見ないようにしてくれている。

 

 さすがに州伯の妻と娘がこんな破廉恥な恰好をしているのだ。

 家臣たちや城郭の住民たちも、遠慮をして家屋に閉じこもってくれているのだろう。

 李媛もそれはありがたい。

 

 だが、どこかで自分たちを見守って注目していることは間違いない。

 これから行う李媛の命乞いの成否により、城郭の全住民の命がかかっていることは、一日にしてほぼ城郭中が知るところになっているらしい。

 

「はい、李媛様」

 

 小柄な貞女が身体の前で抱くように白旗を持つ竿を持った。

 すると、やはりどこかで三人を見ている者がいるのだろう。

 眼の前の城門が静かに人が通過できる広さだけ開いた。

 

 外が見えた。

 肌に当たる城外の風が李媛の身体をすくませた。

 城門の外から離れた場所に、城郭への攻撃展開を終えている魔王軍の陣が拡がっている。

 素人の李媛から見ても整然とした軍のように見える。

 

「い、行くわ」

 

 李媛は、自分の勇気を振り絞るためにもう一度そう言い、魔王軍の陣に向かって歩き出した。

 

「あっ」

 

 しかし、李媛は、次の瞬間、股間に衝撃が走って、その場にしゃがみそうになった。

 思わず李媛の口から悲鳴が迸る。

 これまでまったく静止していた股間の張形が、李媛が城門から出て魔王軍に近づいた途端に微弱な運動を開始したのだ。

 

「お、お母様──?」

 

 びっくりした李姫が心配そうに叫んだ。

 

「李媛様」

 

 貞女も声をあげた。

 最初に挿入したときは、違和感はあったが張形の大きさも小さ目でそれほどの圧迫感はなかったのだ。

 しかし、城門を一歩出た瞬間に女陰と肛門に埋めた張形が一気に大きくなった。

 しかも、それが振動して動き出したのだ。

 そんな覚悟はしていなかっただけに、その衝撃は大きかった。

 

「そ、そんな……」

 

 最初から魔王陣に近づけばそうなるように設定してあるのか、それともあの大旋風あたりが、あの陣営側のどこかでこっちを見守っていて、意地悪をしているのかどうかわからない。

 

「お母様、どうしたのですか?」

 

 李姫が驚いたように李媛の顔を覗き込む。

 李媛はその視線に耐えきれなくて慌てて顔を逸らした。

 性具に苛まれて淫情に呆けている顔を実の娘に覗き込まれるなど耐えられるわけない。

 李媛は歯を食いしばって襲い掛かる官能の波に抗しようと思った。

 それに、李媛に与えられている時間は、わずか一刻(約一時間)しかない。

 その時間が過ぎてしまえば、あの魔王軍による城郭への総攻撃は始まってしまうのだ。

 とにかく進むしかない……。

 

「な、なんでもない。行くぞ」

 

 李媛は力が抜けそうな股間にとにかく力を入れて、太腿をすり寄せるようにして、なんとか脚を前に出す。

 

「あはうっ──。こ、これは──」

 

 しかし、李媛はまた加えられた新しい刺激に、腰が砕けてしまい泣きそうになった。

 今度は女陰に挿入している張形の根元のかたちが変形して、食い込んでいる根元側の肉芽を包むように拡がったのだ。

 張形の振動が直接に肉芽に響いてくる。

 それだけではない。

 乳房を覆っている半球の覆いの内側にあった物体までうようよと動き出した。

 それが覆いの内側で両方の乳首に絡みつくと、まるで男に吸われているような感触が李媛に伝わってくる。

 

「ふうううっ」

 

 さすがに力が抜けて、李媛はがくりと膝を折った。

 その間も、乳首と股間を苛む下着の刺激は続いている。

 だが、おそらく、これはまだ本格的な動きではない。まだまだ股間と胸などを刺激する下着の動きは緩慢なものなのだ。

 それほどの振動でもなく、むしろゆっくりだと思う。

 しかし、乳首を包む半球の内側の触手のようなものにしても、股間や肛門で巧みにかたちを変形させる張形にしても、まるで意思を持ち、しかも李媛の心を読んでいるかのように、確実に李媛の急所を突いてくる。

 耐えようと踏ん張っても、それを、嘲笑うかのように、ほんの少しだけ責めの方法と場所を変化させるし、それでも、なんとか耐えようと思っても、下着は李媛に備えさせることを許さずにまた責め方を変える。

 李媛は一歩も動けないまま、ただただ悪魔のような股帯と胸当てに翻弄された。

 しかも、こうやって時間をかけているだけで、だんだんと振動が強くなっていくような感じだ。

 まだ、ほんの少しの時間のはずだが、すでに李媛は峻烈な快感に追い詰められた。

 もの凄く気持ちいいのだ。

 

「い、行かないと……」

 

 李媛はそう言うと、心配そうに李媛を見守っている李姫と貞女に、大丈夫だと合図をするように頷いた。

 李媛は中腰のみっともない格好でがに股になって脚を前に出す。

 こんな格好で歩いているのを間違いなく正面の陣地から亜人たちが見ていると思うが、もう恥も外聞もない。

 とにかく、魔王に会わなければ……。

 

 しかも、予想はしていたが歩くことによって、前後の張形が擦れ合い、それが妖しい快感になって李媛に襲い掛かってきた。

 こんなのでは歩けるわけがない。

 李媛はほんの少しだけ進んだだけで、また歩けなくなってしまった。

 

「り、李姫、貞女、わらわを支えよ。強引に歩かせるのじゃ」

 

 李媛は慌てて言った。

 こんな嫌がらせにぐずぐずしているわけにはいかない。

 李媛の行動に数万の住民の生命がかかっている。

 

「わ、わかりました、李媛様──。さあ、李姫様も」

 

 貞女が慌てて、軍使旗を抱える腕で李媛の左の肘を組んだ。

 李姫も反対側に回って、必死に押さえていた股間の手を離して李媛の右肘を組む。

 

「お母様──」

 

 しかし、李姫はおろおろしている。

 李媛の状態の変化が理解できないらしい。

 貞女に急かされて肘を組んだものの、膝を折って悶える李媛の姿に当惑したように立ち尽くしたままだ。

 

「なにをしているのじゃ、李姫。わ、わらわを引き摺ってでも、魔王軍の陣に連れていくのじゃ。こうしている間にも住民たちの命の時間が短くなっておる。は、早く──」

 

 李媛は叫んだ。

 

「と、とにかく、李姫様……」

 

 貞女が促した。

 李媛はふたりから両膝を引き起こされて歩かされだした。

 しかし、歩くとさらに刺激が強くなる。上下の下着は、李媛の乳首を吸い、女陰と肛門を刺激し、肉芽を激しく揺す。

 両側から腕をとられて強引に前に進まされることによって、張形が擦れ刺激が数倍にも跳ねあがる。

 ついに李媛はやがてのっぴきならないところに追い詰められた。

 そして、ついに魔王軍の陣まで半分のところで、呻くような声とともについに気をやってしまった。

 

「あはあっ──」

 

 浅ましく野外で達しながら李媛は愕然とした。

 城郭前の平原の真ん中で絶頂を晒してしまったのだ。

 しかも、李姫の眼の前で……。

 

 眼の眩むような羞恥と恥辱が李媛を襲う。

 李媛はとてもじゃないが、娘の顔をまともに見れなかった。

 だが、それでも李媛は、一瞬の痴呆状態が収まると、呆然と立ち止まっていた李姫と貞女に必死に怒鳴った。

 

「わ、わらわに構うな。一刻も早く、わらわを魔王軍に連れていくのじゃ──」

 

 こうなったら覚悟を決めた。

 恥は捨てる──。

 侯爵夫人としての外聞ももういい。

 娘にはしたない姿を晒したことももういい……。

 それよりも、李媛の行動に城郭の数万の命がかかっている。

 それだけを考えようとした……。

 

「これから先、わらわがどんなにはしたなく叫んだり、悶えたりしても身体を引き摺ってもでも魔王軍の陣まで連れていっておくれ。頼む──」

 

 李媛は言った。

 貞女も李姫も、もうなにも喋らない。

 李媛はふたりから、ただ、肘を引っ張られて身体を前に引っぱられる。

 だが、ふたりからぎゅっと握られるその肘を通じてふたりの気持ちも伝わってくる。

 

 それにしても、これが霊気のこもった性具の力なのか……。

 李媛の身体を苛む下着は、的確に李媛の弱い刺激の与え方を見つけて執拗に責めかかる。

 いまや乳房全体が胸当てにより小刻みに揉まれ、乳首だけは吸引と舐め回しと振動を交互に動かされ続ける。

 およそ人間には到底不可能な技に李媛は屈せざるを得なかった。

 

 しかし、胸の刺激には構ってはいられない。

 乳房よりも、もっと敏感な股間に意識を集中しないわけにはいかないのだ。

 肉芽を触手に挟み揉まれ、女陰に食い込んだ張形をうねられ、しかも、肛門に挿入した張形はかたちを変形させながら回転と抜き挿しの動きを李媛に伝えてくる。

 

 耐えられない……。

 

 そして、股間に意識を集中したことで、無防備だった胸に快感が迸る……。

 慌てて胸に対する備えを整えようとしたが、気を抜いた途端に、股間の張形が作る快感が一気にやってきた……。

 

「あはああっ」

 

 李媛が二度目の絶頂をしたのは、魔王軍の最前線の歩哨陣の直前だった。

 

「おう、なんだ、お前ら──?」

 

 魔王軍の歩哨の亜人が李媛たちの卑猥な姿に眼を細めながらその行く手を阻んだ。

 

「わ、わらわたちは……」

 

 どろどろの愛液が締め付けられた腰帯の隙間から大量に垂れて、内腿にべっとりとつくのを感じながら、李媛は歩哨の兵に向かって口を開いた。

 しかし、李媛が大旋風の名を出そうと思ったとき、突然に二本の張形と乳房を包む半球が最大限の速度で動き出したのだ。

 これまでの軽い動きだけで二度も気をやる程に追い詰められていた李媛は、不意に始まった圧倒的な刺激に身体を跳ねあげた。

 

「あああっ──」

 

 脳天まで突き抜けるような甘美な衝撃だ。

 しかも、眼の前には数名の敵の警備兵がいて、さらに陣の奥には大勢の亜人の兵たちがやってきている。

 彼らは、李媛や李姫の痴態を面白がって覗き込んでいる。

 そんな大勢の敵兵の前で、李媛はまた絶頂しようとしていた。

 

「お母様」

 

「李媛様、しっかりして──」

 

 両側のふたりが心配して声をあげたが、完全に腰の力が抜けてしまった李媛はがっくりとしゃがんでしまい、どうしても立つことができなかった。

 立ちたくても、まったくといっていいほどに膝に力が入らないのだ。

 

 そんな李媛の醜態に敵兵からどっと笑い声が湧いた。

 しかし、どうにもならない。

 

 これまでの微振動など、いま受けている途方もない刺激に比べれば、李媛をこの状態にするための準備運動のようなものだったと思った。

 いままでの責めは一枚一枚、李媛の理性の襞を剥くような責めだった。

 そして、それによって四十の女盛りの李媛の身体は完全に淫らな状態になった。

 李媛の身体は、昂るだけ昂り、興奮するだけ興奮させられた状態になっている。

 その李媛は、大勢の敵兵の集まったこの陣営の前で、信じられないように激しく装着している性具から責められている。

 李媛が責め苛まれていたこれまでの責めなど生ぬるいようなものでしかなかったのだと主張するように……。

 そして、官能の刃が李媛の全身を貫いた……。

 

「んんんんっ──」

 

 懸命に口を閉ざし、なんとか大きな嬌声がでるのは耐えたが、夫たちを殺した敵兵の眼の前で絶頂する恥辱なのに、逆に神経の焼けつくような凄まじい快感でもあった。

 李媛は一生懸命に立たせようとする李姫と貞女に身体を挟まれながら、深く激しい絶頂をしてしまった。

 

「いくら、気持ちよくても、ここで尻振り踊りはやめてくれよ、侯爵夫人よ。仮にもここは軍の陣地だぜ」

 

 聞き覚えのある声だった。

 李媛は地面にうずくまった状態で顔だけをあげた。

 

 大きな声で笑っている大旋風がそこにいた。

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