悲鳴が聞こえたのは二階の隠し部屋の方向だ。
階段をのぼったところに
耳の横に血が滲んでいる。
沙那を認めて、能生が沙那の脚を強く掴んだ。
「どうしたの、能生──?」
沙那は能生の身体にしゃがみ込んだ。
「この先に猪の妖魔が……。そ、それに……、お、お嬢様を……」
能生がそれだけを言ってぐったりとなった。
慌てて、能生をそのままにして廊下を走った。
「沙那、探し物の移動結界だよ」
宝玄仙が後ろから叫んだのが聞こえた。
廊下の突き当たりに栗鼠の化け物がいた。
別の妖魔だ。
身体の大きさは人間と同じくらいだろう。だが姿は栗鼠そのものであり大きな茶色の房尾もある。随分と小さいが頭に妖魔の特徴である角がある。
「お前は誰だい──?」
宝玄仙が言った。
「
その栗鼠の化け物が言った。
「
沙那は剣を構えたまま言う。
「猪公が連れて行ったね。もう、遅いね──。俺を殺すと、向こうで猪公が娘を殺すね。そういうことになってるね。そう言えと言われたね」
沙那は舌打ちをした。
宝玄仙に振り返る。宝玄仙はすでに沙那のすぐ後ろまで追いついている。
「作ったばかりの結界紋のようだ……。その壁が『移動術』出入り口になっている。だが、もう閉鎖されている。どこに行ったかは、もう追えないよ……」
宝玄仙は言った。
「お前は妖魔ね?」
沙那は剣を鳴戸に構えた。
「そんなようなものだね。だけど違うね」
「違う……?」
「そうだね……。妖魔じゃないね」
「妖魔じゃなけりゃ、なによ――?」
「それ以上は近づくんじゃないね、沙那……。それよりも伝言があるね、宝玄仙と沙那にね……」
鳴戸が言った。
「伝言? 猪公からの?」
「誰からでもいいね。用件は身代金だね。金粒の入った袋三個……。それを持って、
「身代金? 持参金じゃなくて?」
沙那は言った。
「身代金だね……。俺たちは最初からそれしか言っていないね──。雲桟洞は知っているかね?」
「宿町の外れの祠でしょう?」
「そうだね……。そこに身代金を持ってくるね」
「わ、わかったわ……。わたしが持っていくわ」
「駄目だね……。お前は強いね……。あの男が持ってくるね。さっきの弱い男ね」
「能生のこと……?」
「そうだね……。その能生が持ってくるね。どうせ大した怪我じゃないね」
「能生は関係ないでしょう──」
沙那は声をあげた。
「お前らは、もっと関係ないね」
鳴戸は言った。
「わ、わかったわ……。とにかく、能生に伝えるわ……。でもそうすれば、朱さんは返すのね、鳴戸?」
「身代金を貰えば文句はないね。俺たちはまた旅に出るね。朱は人間だから連れて行けないね……。連れていっても仕方がないから置いていくね」
「猪公は朱さんと結婚するつもりなんじゃないの?」
猪公が要求していたのは朱を嫁として猪公に差し出すためであり、その約束を反故にしようとした高太公の態度に腹を立てて、持参金を追加して要求したのだいうことだったはずだ。
だが、この鳴戸の言うことは、それとは若干異なる気がする。
「猪公は人間じゃないね……。朱は人間だね……。結婚するわけがないね。お前、おかしなことを言うね」
やっぱり、どうも話が違う……。
どういうことだろう……?
「猪公は、朱さんを嫁にもらうと言ったんじゃないの? 幼いときの朱さんを助けたときの条件はそういうことだったんでしょう?」
「確かにそういうことになっているね……。でも、いくらなんでも娘を妖魔の嫁に差し出せなんて可哀そうだね──。だから俺たちは代わりに身代金でもいいと言ったね……。だけどそれを支払いたくない高太公が山狩りをしたね……。そして、それが駄目だとあんたらを雇ったね」
そういうことかと思った。
そう言えば、最初に宝玄仙が報酬の話をしたときに随分と抵抗していた。高太公は、ただ財を使いたくなかっただけなのだ。そして、もともとこの話は高太公が素直に財を使えば済むことだったのだ。
なんだか急に馬鹿馬鹿しくなった。
「金粒を三袋持って来ればいいのね? 高太公殿にそう言うわ」
「能生が持ってくるね……。ひとりでね。そうじゃないと朱は死ぬね」
「能生の安全は保障するんでしょうね……?」
「娘は身代金を貰えば解放するね……。そう言っていたね──。能生のことは知らないね。俺は言われたことを伝えているだけだね」
鳴戸は言った。
「じゃあ約束できないわ」
「ぼ、僕なら。大丈夫です……。い、行くよ……」
頭を押さえながら能生がやってきた。まだ、少し頭から血が流れている。
「能生?」
「だ、大丈夫だよ、沙那さん……」
能生が苦痛に歪んだ顔に笑みを浮かべた。
「なら、これで問題ないね。後は、高太公が素直に金を払うかだね」
「払わなければ、この細剣を高太公殿に向けるわ──」
沙那は言った。
今度こそ、とっちめてやる──。
「ならいいね……」
鳴戸の顔に表情はないがなんだか微笑んだように感じた。
「……沙那、結界で向こうに行かせるんだ……。『移動術』を使った直後ならわたしには行き先を追うことができる……。このまま追うよ……」
宝玄仙が耳元で囁いた。
沙那は微かに頷いた。
「行っていいわ、鳴戸──。わたしはあなたを攻撃しない」
「じゃあ、雲桟洞の祠で能生を待っているね」
鳴戸は蒸発するように消滅した。
「ご主人様──?」
沙那は振り返った。
「しまった──。これは、『移動術』の術じゃない。あいつは使い魔だよ──」
宝玄仙が口惜しそうに言った。
「使い魔?」
「“使徒”とも呼ぶよ。普段はなんでもないものに憑依して術で姿を出現する技だ……。だからわからなかったんだ。『移動術』で結界を使って出入りをしていたわけじゃないんだ。最初からこの屋敷にあるなにかに憑依していたんだ。それで出現したり、消えたりしていたんだね」
「だったらこの場所のどこかに?」
沙那は周囲を探した。
「探してもわからないよ……。憑依する対象は本当になんでもないものでいいのさ。石ころでも、砂粒でも、ただのがらくたでもね……。普段はその憑依している対象から霊気は発散しない。だから妖力の流れを追えないよ」
「そうだとしても、鳴戸を憑依させている対象物は、この近くにあるのではないのですか?」
沙那は言った。
「沙那、ここから先はわたしの当推量だけど、おそらく、鳴戸を憑依させていた対象物は、もうないと思う。おそらく猪公が朱と一緒に持っていったはずだ……。使徒が出現した後で憑依対象物が移動しても、どんなに使徒と憑依対象物が離れても、その対象物に戻るからね。さっきの鳴戸が消滅したとき、この屋敷のどこにも鳴戸が戻る妖力の流れを感じなかったよ」
宝玄仙は首を横に振った。
「なるほど、つまり、あの伝言のために使徒の鳴戸を残しておいたのですね。それなら『移動術』のための結界を封鎖しても、使徒の鳴戸は彼らの棲み処に戻って来られるし……」
「それだけじゃないよ、沙那。使徒だったら危険はない。やられても憑依対象物に戻るだけさ」
宝玄仙は言った。
「と、とにかく、お嬢様のことだよ、法師様、沙那さん……」
能生が口を挟んだ。
「そうだね……。じゃあ、まずは、父親の高太公に、朱が誘拐されたことを話して身代金の金粒五袋を準備させないとね……」
宝玄仙が言った。
「えっ? 確か鳴戸の要求は金粒三袋では……」
「お前は馬鹿かい、沙那。三袋準備して連中に三袋渡せば、わたしらには、なにも残らないじゃないかい。残りはわたしらの駄賃よ」
「だ、だって、そんな……」
それでは詐欺だ。犯罪ではないか……。
「黙りな、沙那──。元を糺せば、お前が路銀を帝国紙幣に替えてしまったことから始まるんだよ……。お前は命令された通りに、高太公にその剣を突きつけて金粒を五袋準備させるんだよ。くだらないお説教はやめな──」
「はい……」
沙那は不承不承頷いた。
*
高太公はやっとのこと、金袋を準備したらしい。
かなり渋ったようだが、本当にあの沙那は細剣を突きつけたようだ。
これについては、店側でもかなりの話題になっていた。
なにせ、あの吝嗇で有名なこの店の主人が、娘のためとはいえ金粒五袋も準備したのだ。
とにかく、金粒五袋は宝玄仙の部屋に運ばれた。
そして、能生は宝玄仙に呼ばれて、いまふたりがいる部屋に向かっていた。
おそらく、高太公が準備した金袋を受け取るためだろう。それを持って、雲桟洞の祠に行く。
それですべてが終わるはずだ。
「能生です」
宝玄仙たちが待っている部屋の戸を叩いた。
返事があり、能生は中に入った。
部屋の中ではと宝玄仙や沙那が待っていた。ふたつの一人用の椅子とそれに向かい合うように長椅子があり、宝玄仙は一人用に座り、沙那は長椅子に座っていた。
宝玄仙はなにかにやにやしている。それに比べて、沙那は少し不機嫌そうだ。
「わかっているね、沙那……。情熱的にだよ……。逆らうと能生の前で地獄の連続絶頂だ……。わかっているね」
「わ、わかっていますよ、ご主人様……。ああ、能生……。そこに座ってくれる」
沙那は自分の腰掛ける長椅子の横を示した。
なんだか様子がおかしい。
能生はおかしな違和感を覚えた。
「はい……」
とにかく言われるままに沙那の隣に座った。
するといきなり沙那に抱きつかれた。
沙那の唇が能生に近づく。
「な、なに?」
思わず両手で沙那の顔を引き離す。そして、沙那の身体を横に押しのけた。
「い、痛い。あ、あなた結構力強いのね、能生……。で、でもなんで……?」
口づけをしようとして能生に力づくで横に押しやられた沙那が、眼を白黒させている。
いったいなんなんだ。
「なんでもいいんだよ、能生……。さっさと、この沙那と口づけするんだよ」
宝玄仙が笑いながら言った。
「り、理由を言ってよ──」
「ええっ。ご主人様が説明してくれたんじゃないの?」
沙那も当惑している。
宝玄仙は相変わらず大笑いしている。
どうやら、この宝玄仙のなにかの悪ふざけに沙那も能生も乗せられたようだ。
能生もすでに気がついていたが、貞節な天教の巫女だという宝玄仙の外面は偽者だ。実際には、この屋敷の主人の高太公以上の変態ではないかと思い始めていた。
「ご、ごめんさない、能生。説明するわ。わたしにあなたの唾液を飲ませてくれる? そうすれば、あなたに変身できるの。そして、わたしは、あなたになって雲桟洞の祠に行くわ」
「ええっ、どうして──?」
「もちろん、危険だからよ──。妖魔の棲み処にあなたに行かせるわけにはいかないわ」
沙那は言った。
「で、でも、僕の仕事だ」
「あなたの仕事じゃないわ。わたしたちの仕事よ。妖魔退治を引き受けたのはわかしたちだから……」
沙那の口調には妥協の余地も、付け入れる隙もなさそうだ。沙那は、どうやら本当に能生の代わりに、雲桟洞に向かって妖魔と接触するつもりなのだ。
「もう、妖魔退治の駄賃の金袋二袋も手に入れたしね……。まあ、少しは働いてやらないと完全に騙したみたいで目覚めも悪いしね。一応、朱は取り戻してやるさ……。心配しなくても、沙那は剣の達人なんだよ。体術だって極めている。そこらの男じゃかなわないほどに強いのさ」
宝玄仙が言った。
「そ、それにしても、変身ってなにさ?」
能生はまだ身を護るように、両手で自分の胸を抱くように手を置いている。
「だから、ここに『|変化[へんげ]の指輪』という霊具があるのよ。これをつけて変身したい相手の唾液を飲むと、相手の姿に変わるの……。だから、少しだけ我慢して」
沙那が能生にまた顔を寄せてくる……。
「わあっ。待ってたらあ……」
能生は声をあげた。
「能生、沙那に与えるのは、唾液じゃなくてもいいんだよ。そっちにするかい……」
「唾液じゃなければなに?」
「精液だよ……。その
「ご、ご主人様──」
沙那が真っ赤な顔をして叫んだ。
「お前に聞いていないよ、沙那……。わたしは、この坊やに訊ねているんだよ」
宝玄仙がにやにやしている。やっぱり変態だ……。
「だ、唾液でいいよ……」
仕方なく言った。
「じゃあ……」
沙那の唇が迫る。
「そ、その前に、ひとつだけ言っておかなければならないことが……」
能生が言うと沙那の顔が止まった。
「まだなにかあるの、能生……? 気持ちはわかるけど、我慢してよ。別に変な気持ちで口づけをするわけじゃないのよ……」
沙那が当惑したように言った。沙那の顔は能生の顔の眼の前だ。息もかかるような距離にある。
「口づけを先にしな。お前の言いたいことはもうわかっているよ」
宝玄仙が言った。
「えっ?」
能生は声をあげて、視線を宝玄仙に向けた。
沙那が嘆息して顔を離したのがわかった。
「このわたしが、そんなこともわからないとでも思ったのかい、能生? まあ、正直に言えば、最初はわからなかったけど、途中からわかった。面白いから、黙ってただけさ」
宝玄仙がけらけらと笑った。
「ほ、本当に……?」
能生は呆気にとられた。
「当たり前だよ。わかったら、さっさと沙那と口づけしな」
「ご主人様、どういうことですか?」
沙那はわけがわからないという顔をしている。
「さっと始めな、ふたりとも……。沙那、能生の唾液をすするんだ」
「は、はい」
沙那が頷いた。また沙那が顔を近づける。
「情熱的にだよ……。さっきの命令は生きているからね……」
宝玄仙がさらに言った。
「……ごめん、能生、我慢して──」
沙那がそうささやくと、能生の口に自分の唇を重ねた。
沙那の舌が能生の口の中に入ってくる。
その舌は口の奥の歯の裏側を這い回る。
息が苦しくなり離れようともがく。
しかし、沙那が抱く腕に力が加わる。
顔を離せない。
唾液が吸われる。
沙那の唾液も入ってくる。
全身に痺れが走る。
かなり長い口づけの後で、やっと沙那が離れた。
びっくりするくらいに馴れた口づけだった。
すると、眼の前に自分と瓜二つの顔があった。
能生の顔にそっくりになった眼の前の沙那が驚いている。
そして、不意に自分の胸と股間を押さえた。
「あ、あなた、女の子だったの、能生?」
その様子に宝玄仙が大笑いした。
「うう……」
能生は、なにかいたたまれない気持ちになって唸った。
「旅をしていたと言っていたね、能生。だから、男の格好をしていたのかい?」
宝玄仙だ。
「そ、そうです……。女ひとりの旅は面倒に巻き込まれやすいし……。男だって通してきたんです……。沙那さんなんかとは違って都合のいいことに、胸だってないし……」
能生は自分の胸を指で丸くなぞった。
「ないことはないさ……。その胸は布かなにかで押し潰しているんだろう? そりゃあ、孫空女や沙那は普通よりも胸がでかい方だと思うけど……。まあ確かに、お前はあまり胸がない方かもしれないねえ……。ただ、女としては十分に器量よしじゃないか。よくも男で通せたものさ……」
「女であることがばれたこともあります……。大抵、面倒なことになりました……。男なんて大嫌いです……」
能生は言った。
「そうかい……。だけど、最初にこの屋敷に助けられたときに高太公に襲われたというのは本当のことだね?」
「はい……、。あいつはあたしが女であることを見抜いて助けたんです……。下心があって……」
「犯されたかい?」
「犯されません」
能生は声をあげた。
「まあいいさ……。それよりも、朱のことさ……。なんとか、妖魔から貰い受けてこないとね。鳴戸の言い草だったら身代金さえ払えば、素直に返しそうだけど……」
宝玄仙はまだにやにやしている。
「ねえ、法師様……。これがすべて終わったら、僕……いや、あたしも一緒に旅に連れて行ってくれませんか? 道術の修行をしたいというのは本当なんです」
能生は言った。
「そ、それは……」
沙那がびっくりしたように手を横に振っている。
「だって、男だから供にしないと、あのとき言ったじゃないですか……か。あたしはこれでも女です」
「そうだね……。しかも、顔立ちも可愛らしいしねえ……」
宝玄仙が舐めまわすような視線を向けてきた。
なにか嫌な感じだ。
「だけど。わたしの供になるには、もうひとつ条件があるんだよ」
「条件?」
「わたしの性奴隷になることさ──。いま、ここで素っ裸になって、自慰でもしてみせな。そうしたら考えてやるよ。それくらいの変態じゃないと、この宝玄仙の供は務まらないよ」
宝玄仙が、また馬鹿笑いをした。
「じゃ、じゃあ……この沙那さんも?」
変態なのかと訊ねようとしたが、さすがに口にできない。
「ああ、この沙那は変態で淫乱さ。そりゃあ大変なものさ」
「わ、わたしも孫女も変態なんかじゃありません──」
沙那が真っ赤な顔をした。
「そんなに一生懸命に取り繕わなくてもいいんだよ、沙那。いまはこの能生を供にはできないという話をしているだけさ」
「もういいです。それよりも『遠口』を貸してください、ご主人様」
「その『遠口』ってなんですか?」
能生は訊ねた。
「ご主人様の霊具よ──。それを耳と口に入れれば、離れた場所でも話ができるらしいわ、能生……。それをつけていけば、猪公の棲み処に連れて行かれた後でも、わたしからご主人様に連れて行かれた場所を伝えられるのよ」
「へえ……。便利な霊具もあるんだね」
能生は言った。
「これだよ、沙那」
宝玄仙が沙那に黒いごま粒のようなものを渡す。沙那がそれを自分の口に中に入れた。そして、舌で歯の外側にでも貼り付けているようだ。
「これでいいんですか、ご主人様?」
「そうだね」
宝玄仙がその魔具のごま粒をひとつ取り、自分の耳に入れた。
「変な副作用はないですよね、ご主人様?」
「副作用?」
「はい、後でもの凄く感じるようになるとか、全身が痒くなるとか……」
「心配しなくていいよ、沙那……。これを耳に入れれば『遠耳』になって、『遠口』からの声を聞き取れるけど、『遠耳』の場合は副作用はないね」
「『遠耳』にはないって……。じゃあ、『遠口』にはあるんですか──? ま、まさか……」
「ああ、口に貼りついた『遠口』は絶対に取れない。そして、装着してから約一日で体内に吸収されて、一刻(約一時間)ほどいき狂いの状態になる。まあ一種の媚薬だね」
「そ、そんなあ──」
沙那が悲鳴をあげた。
能生も驚いた。
「一日以内に解決しな──。いき狂いになったときはちゃんと面倒見てやるよ、沙那。妖魔の巣でいき狂いになったときのことは知らないけどね……」
「つ、つける前に言って下さい」
「つける前に言ったらつけないだろう。だったら、面白くないじゃないか」
「よ、妖魔を退治する気はあるんですか、ご主人様──」
「朱が無事に戻ってくればいいだけだよ」
宝玄仙は沙那の抗議にも素知らぬ顔だ。
さすがに能生も呆れてしまった。
「ほらっ、能生。こういう人なのよ、このご主人様は……。それでも供になりたいの?」
沙那が能生に顔を向けて、八つ当たり気味に怒鳴った。
「や、やっぱり……やめとくかな……」
能生はそう言った。