「そ、それはお許しください──。
「今更、主家も侍女もないだろうさ──。ほら、魔王様の命令だ。お前らには拒否する権利などねえんだ。李姫、もう手を離していい。そこに横になれ──。貞女、さっさと全裸になって李姫を責めろ。ぼやぼやするんじゃねえ──」
貞女は、侍女とはいっても、本来はれっきとした伯爵の爵位を持つ程の貴族の娘であり、庶民の出ではない。
しかし、貞女が十四のときに父親が王家に逆らう大罪を犯して爵位と領地が没収されて父親は死罪──。家人たちも散り散りになり母親のいなかった貞女は、すべてを失って文字通りに身ひとつで世間に放り出された。
生まれて初めて世間という風を直接に受けて生きていくことになった貞女は、そのとき世間の厳しさと冷たさを身をもって知った。
大逆罪で処刑された父親の娘である貞女は、親族筋にも疎まれて絶縁をされ、これまで懇意だと思っていた貴族の友人たちからも一斉に関係を絶たれた。
世話をしてくれる人も、頼る者もわからず、ただ無一文で生まれ育った屋敷から出て行くしかなかったのだ。
生きるためのなんの力もない貞女は、あのままであれば結局は野垂れ死ぬか、あるいは、娼婦にでも身を崩すしかなかったかもしれない。
その貞女に救いの手を伸ばしてくれたのが
別に父親や貞女と付き合いや縁があったわけではない。
当時国都で暮らしていた李媛は、身寄りのない貞女が路頭に迷いかけているという貴族同士の戯れ話を耳にして、ただの同情だけで貞女を引き取り、自分の身の回りの世話をする侍女にしてくれたのだ。
そして、貞女は李媛に仕えるようになった。
それが十年前のことだ。
李媛にそばに侍るようになった貞女は、李媛の天性の美貌と知性、そして、優しさを知った。
接すれば接するほど李媛という女性が好きになり、貴族としてではなく、ひとりの人間として李媛を心から尊敬するようになった。
そのうち、李媛は貞女を気に入ってくれて、貞女の家の伯爵家の再興はまだ無理だが、李家の縁のある者として、貞女の嫁ぎ先の貴族を探してもよいと言ってくれた。
そこで何人かの男の子が生まれでもすれば、その子たちを通じて父祖の血も残すことができるし、場合によってはその子たちの誰かが廃絶された伯爵家を復活させてくれるというのも夢ではなくなる。
しかし、貞女は断った。
そのとき、貞女の望みは、生涯を李媛に捧げて、その世話をしたいということになっていた。
ほかにはなにもいらない。
それが叶わないのであれば、李媛の娘の李姫に仕えたい。
それだけが希望だ。
たとえ父の伯爵家を再興するという話があっても、いまの貞女にとっては、李媛と李姫から一生別れるなどとんでもないことだと思っていた。
だが、こんなことになるとは……。
李姫……。
素っ裸で亜人たちに命じられるまま、恥態を晒し続けた李姫は、なにもかも諦めたように身体を床に横たえている。
李媛に仕え始めた頃に八歳だった李媛のひとり娘の李姫は、あれから十年が経って、李媛から美貌と心の美しさを受け継いで素晴らしい娘に成長していた。
主家の娘であるが、貞女は心の奥で本当の妹とも思っていたし、李姫もまた貞女を姉のように慕ってくれていた感じもある。
その李姫と大勢の亜人たちの前で愛し合えという……。
貞女はその恐ろしさに身悶えした。
「い、嫌です……。そんな怖ろしいこと……。それだけは、どうかお許しください。ほかのことならなんでもします……。でも大恩ある主家のお嬢様と愛し合うなど……」
貞女は怯えきってしまい思わず叫んだ。
「嫌なら嫌でいいさ、貞女──。お前の主人である李媛と、その娘の李姫が血を吐くような思いで恥辱に耐えているのがわからないようだが、お前の我が儘のために、ふたりのやったことはまったくの無駄になるということだけのことだ。じゃあ、城郭に魔王軍を戻し、これから、この城郭に残っている人間をひとり残らず殺す──」
「そ、そんな──」
貞女は悲鳴をあげた。
だが、大旋風はせせら笑う。
「そうだ、貞女……。お前だけは生き残らせてやるよ。お前の眼の前に、首から切断したこの李姫と李媛の生首をまずは置いてやる。そして、すべての者が死に絶えた城郭でただひとり生き残った者として、悔いながら生きていくといいぜ。誰も彼も死んじまったのは、あの時ちょっとばかりの恥を晒すのが嫌で魔王軍の命令に逆らったためだと後悔しながらな──」
大旋風が興醒めしたような口調で立ちあがる。
貞女ははっとした。
「お、お待ちください、大旋風様──。青獅子陛下もお願いでございます」
そのとき、急いで身体を起こした李姫が声をあげた。
大旋風が演技じみた動作で立ち去りかけた身体を振り返させる。
そして、にやりと笑った。
「どうしたんだ、李姫?」
「わ、わたしが貞女を言いきかせます。住民たちを……、みんなを殺戮することだけはお許しください。わたしも母も覚悟も決まっていますし、もう、自分たちは死んだも同じ者と同じと思っています。どうか、どうか……」
「ほう、ならば、李姫は、この貞女との百合の契りを青獅子様に見せてくれるというんだな?」
大旋風が言った。
すると李姫が貞女にさっと視線を向けた。
その眼にはいっぱいの涙が浮かんでいる。
「貞女、お願いです……。わたしと一緒に辱めに耐えてください。わたしと、わたしの母とともに、地獄に落ちることを承知してください。この通りです……」
素っ裸の李姫が貞女に向かって床に頭をつけた。
貞女は驚愕した。
「り、李姫様……。あたしが……あたしが間違っておりました。もったいないことです。お願いですから頭をあげてください」
貞女は慌てて叫んだ。
李媛も李姫も、亜人たちからどんな辱しめの命令を受けても、気高い心でそれを甘んじて受け、この城郭に残る住民を救おうとしている。
それなのに、自分はそんな李媛や李姫の心根もわからずに、亜人たちに逆らって城郭の住民を危機に陥れるようなことをしたのだ。
貞女は自分の心の狭さこそ恥じた。
そして、同時に貞女は、自分の声が震えているのがわかった。
これから李姫と愛し合う……。
それをするのだ。
考えると呼吸が苦しくなり、不可思議な熱さが貞女の身体を襲ってくる。
心臓が高鳴り、恐ろしく落ち着かない気持ちになる。
それなのに、その李姫に対する落ち着かない感情を消したくはない。
そんな感じだ。
そもそも、自分はなにが不安なのか?
李姫と愛し合うという行為が怖いのか?
どうして、こんなにも裸の李姫に動揺するのか……?
「ならば、さっさと始めろ。ふたりとも──。しばらくすれば、李媛も戻って来るだろうさ。そのときには、けだもののようにお互いの身体を責め合っているお前たちの姿を見せねばならんのだからな」
大旋風が言った。
それ以上は、貞女はなにも言おうとは思わなかった。
全裸の李姫に対して、貞女は薄物一枚を身に着けていたが、それも脱いで素肌になる。
大勢の亜人たちに揶揄されて裸身を晒すのは恥ずかしいことではなかった。
むしろ、李姫と同じ姿になるのだという嬉しさがある。
一糸まとわぬ姿になると貞女は、裸身の李姫に向かって突き飛ばされるように大旋風から押し出された。
「あ、あの、李姫様……」
「お願いします、貞女……」
しゃがんでいる李姫が貞女に両手を差し出した。貞女もまた李姫に手を伸ばす。
そして、ぎこちなくお互いの裸身を抱き合う。
そのとき、貞女は、李姫の手が小刻みに震えていることに気がついた。
よく見ると、すっかりと李姫は怯えきっている。
無理もない……。
つい昨日までは、公爵家のひとり娘として多くの人々にかしずかれる幸せな人生を送っていたのだ。
立派な貴族の青年との婚姻も決まり、もうすぐ国都に戻ることにもなっていた。
それが一夜にして、亜人の魔王の慰み者にされることになることを余儀無くされて、父親たちを殺した魔王に処女を散らされ、それでも許されず、亜人たちの戦勝祝いの宴に呼び出されて裸で踊る遊女のような真似をさせられ、次は大勢の亜人たちの前で、宴の余興として侍女の自分と愛し合う行為をさせられるというのだ。
気丈に振る舞っているが、李姫はまだ十八だ。
二十四の自分が李姫を支えてあげなければ……。
そう思った。
昨日……。
まだ、僅か一日前のことだ。
魔王軍の軍使として大旋風が城郭にやって来て、城郭の住民の命と引き換えに、李媛と李姫に亜人たちの慰み者になることを強要した。
その晩、それを母親の李媛から諭されたとき、李姫はあまりのことに呆然とするとともに、一晩中泣き明かした。
そばについていた貞女は、そんな李姫になにも言葉をかけてあげることもできずに、ただおろおろとするしかできなかった……。
しかし、李姫は立派だった。
自分が犠牲にならなければ城郭の住民は皆殺しになるしかないということを納得し、翌日には命じられた通りの裸身にマント一枚だけ羽織った姿で城門を李媛とともに出た。
亜人たちの性奴隷として扱われて、いつか家畜のように屠殺されることを承知で……。
母親の李媛が城郭の明け渡しのために一度城郭に戻ったとき、魔王からそれまでの時間潰しのために、性の相手をせよと命じられても泣き叫ぶようなことはなかった。
ただすべてを諦めたように、魔王の寝室のある幕舎で魔王に身を委ねただけだ。
侍女として行動をともにした貞女は、そのすべてを側で見た。
生娘だった李姫にとって、青獅子との性行為は拷問だったろう。
全身を舐められよがり声をあげだした李姫の女陰に、青獅子は容赦のなく大きな怒張を突き挿した。
青獅子は激痛に絶叫する李姫の身体を両手で掴んで荒々しく前後に動かした。
李姫はあまりの衝撃に、最後にはのたうつこともできなくなり、ひたすら哀れに呻くばかりになった。
貞女はそれを幕舎の隅で歯を食い縛って耳にしていただけだ。
やがて、かなりの長い時間魔王に犯された挙げ句、李姫は魔王から身体を離されて、寝台に投げ捨てられた。
眼に焦点のない李姫は、まるでほろ雑巾のようだった。
魔王の大きな怒張が出ていったばかりの李姫の女陰は、しばらくのあいだぽっかりと開いたままであり、そこから魔王が出した精と真っ赤な李姫の破爪の血がどろりと流れ出た。
貞女が慌てて李姫の世話をしようと駆け寄ると、魔王は残酷にも、白眼を剥いて動けない李姫に、精を放った自分の一物を舌で掃除するように命じたのだ。
貞女は驚愕した。
そして、気がつくと貞女は、自ら服を脱ぎ、李姫を休ませてもらう代償として、自分を抱いて欲しいとお願いしていた。
魔王は笑ってそれを許し、貞女は生まれて初めて、男の性器を口に含み、その後、勃起した魔王の男根を自分の性器で受け入れた。
激痛などという表現では生易しい苦痛だった。
だが、意識さえなくなりかけるような苦悶の中で、貞女は魔王に犯されている苦しさよりも、李姫が感じた苦痛を貞女も共有できたことの嬉しさが勝ったことを覚えている。
魔王との性交が終わってから、破れた膣を治療する薬と身体に羽織るための薄物だけを渡された。
そのまましばらく身体を休ませるのを許された後、夕方になり馬車に乗せられて、亜人たちの一隊に城郭に連れ戻されたのだ。
だが、屈辱は終わることなく、いまもこうやって、亜人たちの宴の余興として恥を晒すことも強要されている。
その惨めさ……。
その悲しさ……。
そのつらさが李姫に触れている部分から伝わってくる。
貞女は昨日の夜に決心したことを改めて思い出していた。
十年前、突然、貞女の父が王家に逆心を抱いた極悪人だとされて処刑され、すべての後ろ盾を失って世間に放り出されたときの貞女の哀しみと寂しさと心細さ……。
あの時の気持ちは忘れられない。
それを李姫に味あわせてはならない……。
全ての人がいなくなっても、自分だけは李媛や李姫に従う。
そう決心したのだ。
この李姫を慰めるのが自分の役割だと思い定めたはずだ……。
いま、貞女はやっとそのことに思い至った。
もう、李姫を救うことは貞女にはできない……。
だが、ともに堕ちることはできる……。
ともに苦悶することはできる……。
ともに死ぬこともできるかもしれない。
そう思うと心がじんと熱くなる。
「李姫様、あ、あたしだけを見てください……」
貞女は言った。
そして、李姫の裸身を床にそっと横たえたる。
周りからどっと歓声が沸いた気がした。貞女はその声を意識から消した。
綺麗な身体……。
こんなに明るい光の下で李姫の裸身を見たことなどない。
だが、改めてこうやって眺めるとその美しさに心が吸いこまれる気がする。
その肌は高貴の白さで輝き、横たわっても膨らみを失わない乳房も、かたちよく生え揃った恥毛も、そして、細い手脚の先々まで全身から気品が溢れ出ていてとても清々しい。
じっと見ていると恍惚とした気分に陥りそうだ。
なんだか胸が締めつけられる。
「ど、どうしたのです、貞女……? だ、大丈夫です……。わたしはもう覚悟ができていますから……」
貞女がいつまでもじっとしているので、李姫は貞女がまだ理不尽な行為を強要されたことに戸惑いを覚えていると思ったのかもしれない。
「り、李姫様……。貞女はいつまでも、李姫様や李媛様とともに参ります。どうか、地獄まで連れていってください。この貞女はおふたりとともに堕ちることができることに、このうえのない悦びを感じております……」
「さ、貞女、あ、ありが……」
李媛の言葉を貞女の唇が塞いだ。
大きな声で大旋風がなにかを叫んで笑った。
それを受けた周りの亜人たちがどっと沸き、青獅子が苦笑しながらなにかを発言している。
それでまた、大旋風が声をあげ、周囲が笑いさざめいた。
だが、いまの貞女にはなにも聞こえない。
口と口を合わせている李姫のだんだんと興奮しているような鼻息だけが聞こえるだけだ。
李姫の口の中で貞女と李姫の舌と舌が擦れ合う。
ふたりの唾液がお互いの口中を行き来する。
恐ろしさも恥ずかしさもない。
卑劣な亜人たちの笑い者になっているという自覚もない。
このまま、李姫とひとつに……。
途方もなく長い時間が流れた気がする。
だが、あるいは一瞬に過ぎないことだったのかもしれない。
やがて、李姫が貞女の口を積極的に吸い始めた。
貞女もまた、それに応じて裸身をくねらせて、さらに強く李姫の口を吸った。
いまは、なんの躊躇いも悔しさも哀しさもない。
ただこの酔いしれるような時間が永遠に続いてくれることだけを貞女は望んだ。
そして、貞女は李姫の乳首に自分の乳首をぴったりと触れ合わせ、憑かれたように擦り合わせた。
「あ、ああっ、李姫様──」
「さ、貞女、き、気持ちいいです──」
迸った官能に耐えられなくなり、貞女は吸い合っていた口を離して、大きな声をあげた。
すると、李姫もまた感極まった悲鳴をあげる。
遠くから貞女と李姫を揶揄するようなからかいの言葉と嘲笑が聞こえたような気がした。
しかし、それは、まるで関係のない世界からやってきた人々の声であるかのように、すぐに貞女の意識から消えていった。