※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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454 白い光の罠

 孫空女は宝玄仙に続いて『移動術』の結界を通過した。

 眼の前に拡がった風景はどこかの城郭だった。

 おそらく、ここは獅駝の城郭なのだろう。その城郭の広場のようだ。

 

 驚くことに、その広場の真ん中に二本の直柱があり、沙那がほとんど裸体の状態で拘束されて、前後から男に犯されていた。沙那を犯す周りにはちょっとした空間があり、その周囲を完全に大勢の人間が埋め尽くしている。

 

 突然に眼の前に拡がった光景はそういうものであり、宝玄仙と孫空女は沙那が犯されている群衆の中心に突然に出現したというかたちだ。

 沙那が惨めにふたりの男に犯されるのを見た孫空女は、ほとんど無意識のうちに、後ろから沙那に抱きついていた男の襟首を掴んで引き離していた。

 半分呆けたような沙那の顔がこっちを見た。

 

「沙那、大丈夫かい?」

 

 宝玄仙が叫びながら沙那にしがみついた。

 孫空女はまだ沙那の女陰に一物を挿入したままの男に向かって『如意棒』を振りあげた。

 しかし、男は真っ蒼な顔で沙那を離すと自らその場に尻餅をついた。

 みっともなく拡げた男の股ぐらには、まだ逞しさを残している沙那の愛液だらけの男根がぶらさがっている。

 

 孫空女はもう眼の前の男を無視した。

 それよりも、周りの人間たちだ。

 不気味にもまだ突っ立ったままだ。

 とにかく、これがなにかの罠だとしても、この出現は相手の意表をついたものだったのかもしれない。

 それならば、まだ動きのないうちに逃亡を……。

 

「孫空女、沙那の縄を解くんだ。地中に埋まる木杭に結ばれたままじゃあ、『移動術』で沙那を連れていけないんだ」

 

「わかったよ、ご主人様──」

 

 孫空女は『如意棒』を振り回して沙那が縛られている二本の直柱を砕いた。

 支えを失った沙那がその場に倒れるようにしゃがみ込む。

 

「沙那、大丈夫かい、行くよ──」

 

 宝玄仙が沙那を抱きしめている。

 しかし、沙那がなにか不自然だ。

 なんだか意識がないようにぼうっとしている。

 

「なにかの道術をかけられているね。意識がないよ。仕方がない。孫空女、担ぎな──」

 

 宝玄仙が孫空女を見た。

 孫空女は頷く。

 しかし、その瞬間、真っ白い光のようなものが周囲を覆った気がした。

 

「な、なに?」

 

 孫空女は叫んだ。

 そして、周囲を取り囲む建物から少し離れた場所の建物の屋根にひとりの鳥人の女が立っていることに気がついた。

 

「孫空女、いまのは道術だよ。わたしが撥ね返したけど、あれをまともに浴びると身体を支配されるに違いないね。それで沙那は連れていかれたんだ」

 

 宝玄仙が意識のない沙那を抱きながら叫んだ。

 

「さすがは宝玄仙だね。このわたしの光を撥ね返すとはね……。それにもうやって来たというのも驚きだよ。わたしの部下は、沙那ともう少し遊んでやるつもりだったようだけどね」

 

 大きな声でその女の鳥人が叫んだ。

 

「お前みたいな美人の亜人は、ゆっくりとお仕置きもしてやりたいけど、ここは退散するよ。次に会ったときは覚えておいで」

 

 宝玄仙も叫んだ。

 そして、孫空女に頷く。

 

「うわっ──」

 

 そのとき、そばで喧騒が起きた。

 これまでじっとしていた衆人が動いたのだ。

 それで繋ぎっぱなしにしていた『移動術』の結界に何人かの住民が巻き込まれて消えていった。

 いまは、さらにほかの住民がそこに殺到して、『移動術』の出口を塞ぐように取り巻いている。

 人の群れが動いて、『移動術』の出口が塞がれたかたちだ。

 これは蹴散らしてどかすしかない。

 孫空女は舌打ちした。

 

「ご主人様──」

 

 孫空女はもうひとつの異変に気がついて絶叫した。

 意識のなかった沙那が、いきなり宝玄仙にしがみついて、宝玄仙の口に自分の唇を合わせている。

 それだけじゃない。なにかの液体を口移しに注ぎ込んでいるようだ。

 意識を失わせるような毒剤であることは間違いない。

 

 気がついたときには、もう手遅れだった。

 すでに孫空女の見ている前で、沙那に口移しに液体を注ぎ込まれている宝玄仙は明らかに意識を失いつつある。

 そして、孫空女の眼の前で宝玄仙は完全にぐったりと沙那にもたれかかった。

 しまった──。

 沙那は操られたままだったのだ……。

 

「な、なにが起きたの? どうして?」

 

 沙那の声だ。

 再び意識を戻したようだ。

 しかし、すでに宝玄仙は意識を失って沙那の腕の中だ。

 これでは逃げられない。

 

「うおおおおおっ」

 

 突然、周囲から雄叫びが湧き起こった。

 じっと人形のように見守っていた衆人たちが一斉に襲い掛かって来たのだ。

 孫空女はほとんど無意識のうちに『如意棒』を一閃させていた。

 とりあえず、群がってきた人間を吹き飛ばす。

 

 しかし、ほとんど雪崩のように人間たちが次々にやって来ては襲いかかる。

 まるで人間の壁の壺の中にでもいるような感じだ。

 払っても払っても次々に人が襲ってくる。

 

 すでに、どこが『移動術』の結界の出口なのかもわからない。

 そのとき、不意に孫空女の横の空間が揺れた。

 『移動術』で誰かが結界を潜ってくるとき特有の空間の揺れ方だ。

 そこが宝玄仙の張った移動術の結界だったようだ。

 孫空女は、『如意棒』をひたすら回して、襲ってくる人間を払い除けながら思った。

 朱姫が出現した。

 

「『移動術』の出口を張り直しました。ここに──」

 

 その朱姫が叫んだ。

 孫空女は沙那に宝玄仙を抱えて、そこに飛び込むように叫ぼうとした。

 すると、再び白い光が襲った。

 

 

 *

 

 

 自分になにが起きたのかわからない。

 気がつくと、沙那は宝玄仙の唇に自分の唇をくっつけてなにかを送り込んでいた。

 それがさっき直前に男に口に入れられたものだとわかったのは、すでに宝玄仙の口の中にその大部分を飲み込ませてからだった。

 

 それでやっとわかったのだが、沙那はさっき男に小さな容器のようなものを口に入れられたのだ。

 そして、なぜかそれが知覚できなくなり、いま、操られるようにそれを自分の歯で割ると、宝玄仙の口にその中の液体を注ぎ込んでいる。

 眼を白黒させている宝玄仙の眼がだんだんと虚ろになるのがわかった。

 沙那の腕の中の宝玄仙の身体がだんだんと力を失っていく……。

 明らかなのは、間違いなく、これは沙那の意思ではないということだ。

 自分に操心術がかけられていた?

 そのことに沙那は愕然としていた。

 だが、一方で沙那の身体は、沙那の心とは別に、自分の口にある液体を最後の一滴まで宝玄仙に注がんとばかりに、宝玄仙の口に自分の口を押しつけている。

 

「ご主人様──?」

 

 孫空女がびっくりして叫んだのが聞こえた。

 

「な、なにが起きたの? どうして?」

 

 沙那は途方に暮れて叫んだ。

 

「うおおおおおおっ──」

 

 突然に地響きが起こったかと思うような怒声が不意に周囲から沸き起こった。

 これまで大人しく囲んでいただけだった大勢の人間が割れるような喊声をあげたのだ。

 そして、一斉に襲い掛かってきた。

 

「伏せて──」

 

 孫空女が叫んだ。

 そして、風のようなものが沙那の周りで起こった。

 孫空女の『如意棒』が一閃したのだ。

 

 大勢の人間が吹き飛んでいる。

 宝玄仙と沙那と孫空女がいる中心に向かってたくさんの人間が殺到している。

 沙那はすでに意識のなくなった宝玄仙を抱きながら、襲いかかってくる人間たちが、孫空女の振り回す『如意棒』で次々に飛んでいくのを別世界の出来事であるかのように意識していた。

 

「『移動術』の出口を張り直しました。ここに──」

 

 不意に朱姫の声がした。

 すると、真っ白い光が当たりを照らしたのがわかった。

 

 

 *

 

 

 最後に知覚したのは、白い光を浴びた朱姫が、ぼうっと突っ立ってしまい、それに数十人の男たちが一斉に掴みかかる光景だ。

 孫空女にはそれを黙って見守るしかなかった。

 孫空女の身体もまた、すでに力を失っていたのだ。

 

 だらりと、垂れさがった自分の腕から『如意棒』が奪われた。

 しかし、どうしようもない。

 

 孫空女の意識はなにかに掴まれたかのように、急速にどこかに連れ去られようとしている。

 そして、自分の脱け殻だけが、襲いかかる群衆の前に取り残されている……。

 

 だんだんと薄れる意識の中で、孫空女は自分の身体から衣服が引き裂かれるように大勢の人間たちに奪われていくのも感じていた……。

 

 身体が倒された。

 すでに全裸だ。

 孫空女に群がっている男は十人はいるのだろう。そいつらがよってたかって、孫空女から服を引き破り続ける。

 ふと見ると、宝玄仙と朱姫と沙那同じような目に遭っている。

 全身が身体を動かせなくなったみたいだ。

 

 大きな男が孫空女に覆いかぶさろうとしていた。

 ぶん投げてやろうと思ったが、まったく身体が動かない。

 

「や、やめ──。あがあああ」

 

 まったく愛撫なしに、孫空女の股間に男根がめり込まされた。

 あまりの激痛に、孫空女は悲鳴をあげた。

 

 

 

 

(第70話『情けは人の為ならず』終わり、第71話に続く)






*


【西遊記:74・75回、獅駝(しだ)洞の三人の大王⓵】

 玄奘(三蔵)一行が獅駝嶺と呼ばれる険しい山岳街道を進んでいます。
 すると、長庚(ちょうこう)という里の老人(正体は太白金星という天人)が、この先には、大勢の部下を持つ一大王(金凰(きんおう)王)、二大王(白象(はくぞう)王)、三大王(青獅子(あおじし)王)の領域があり、大変に危険だと警告します。
 その三人の大王は、獅駝(しだ)という城郭を滅ぼして、そこにいた全住民を殺戮して、妖魔の国を作っているというのです。
 三蔵はそれを教えられて、震えあがってしまいます。

 孫悟空は、怯える三蔵を猪八戒と沙悟浄に託して、単身で觔斗雲に乗って偵察に向かいます。
 すると、獅駝嶺という険しい山岳の途中で妖魔たちがいるのを見つけます。
 孫悟空は、小妖のひとりに変身して、妖魔兵に紛れ込みます。

 小妖たちは全員が“小旋風”という名前でした。孫悟空は、自分は“総旋風”であり、新しいお前たちの隊長だと一喝し、彼らから情報を引き出します。
 それによれば、確かに三人の大王の支配する集団がこの先にいて、一大王と二大王はこの先の洞府を、三大王の青獅子大王は、さらに先の獅駝という城郭を乗っ取って、そこにいると言います。
 三人とも大変な力を持っているとも教えられます。
 彼らから情報をとった孫悟空は、全員を皆殺しにして洞府に進みます。

 果たして、孫悟空は、洞府を見つけます。
 孫悟空は、大王たちの部下に変身したまま、彼らの洞府に乗り込むことにしました。
 すると、そこには三人の大王がいて、強い魔力を得るために、三蔵を捕らえて食べようと画策していました。孫悟空一行がやって来るのを知っていて、ここで待ち構えているのだと話しています。

 三大王の前にやって来ると、大王たちが偵察の報告を求めました。
 調子に乗った孫悟空は、玄奘一行は見つけたが、そこに孫悟空という巨大な化け物がいて、三大王を喰ってしまうと言っていたと嘘をつきます。
 三大王たちは、孫悟空が小妖に化けて乗り込んできたのを見抜き、寄ってたかって捕まえます。
 服を剥いで縛られた孫悟空は、捕獲用の大きな瓶に放り込まれてしまいます。
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