455 魔法石の作成法
屋根の下では、愚かな人間の男たちが、自分たちの前に出現した“雌”に対して“雄”の性欲本能を剝き出しにして襲い掛かっていた。
その中心にいるのは、宝玄仙や宝玄仙とともにやってきた供の女のふたりであり、宝玄仙を捕らえる囮として使った沙那だ。
先を争って彼女たちに襲いかかろうとしている男たちは、おそらく百人はいるだろう。
宝玄仙たちは、
そして、魔凛の『支配術』にかけられた宝玄仙たち四人の人間族の女は、すでに抵抗する手段を失くしている。
もっとも、正確に言えば、魔凛の『支配術』の支配に陥ったのは、宝玄仙の供たちだけだ。
宝玄仙自身は、結局は最後まで魔凛の術に陥ることはなかった。
沙那の口に含ませていた昏睡薬を大量に口移しで飲まされて気を失っただけだ。
いずれにしても、このままでは四人が危険だ。
『支配術』は理性のたがを外してしまうのが一番操りやすいのだが、そうなるとどうしても眼下の光景のように性欲剝き出しの醜い惨状が生まれてしまう。
そうでなければ、完全に意識を失くした人形のようになってしまうかだ。
それが魔凛の『支配術』の限界だ。
単独の対象であれば、かなりの自由度で相手を操れるのだが、集団になればそのどちらかだけだ。
だから、沙那にもあんな惨い状況に陥ってもらわなければならなかった。
気の毒だが、『支配術』の集団操縦は、性欲を前面に出さなければうまくいなかいからだ。
いまは四人を襲わせるために、暴力的な性欲まで解放させている。
その結果、ここに集められた人間の男たちは、四人の女の意識がなかろうと、あるいは眠っていようと、そんなことはお構いなしに服を引き破り、争って性器を女陰に入れようとしている状況だ。
周りの女や子供も敵意を持ってそれを見守っている。
魔凛がやっているのは、人間たちを操りやすくするために知性を失わせて、本能に近い状態にするという行為なのだが、知性を失くした人間族というのがこれほどまでに醜くて凶暴なのかと呆れてしまう。
とにかく、魔凛はもう一度、屋根の上から水晶の杖をかざした。
辺り一帯に白い光が浴びせられ、宝玄仙たちに群がっていた群衆が意識を失った人形のような虚ろな表情になった。
そして、まるで自分たちがいままでやっていたことなどなにもなかったかのように解散していく。
そして、動くことのできなくなった四人の人間の女たちが取り残された。
最初から半裸だった沙那はもちろん、宝玄仙、そして、確か、孫空女と朱姫という名の供たちも衣類を引き破られてぼろぼろだ。
共通するのは、四人とも完全に意識がないことだ。
四人とも地面に横たわっている。
魔凛の措置が早かったので、特段の負傷はないようだ。もっとも、あのまま放っておけば危なかった。
あの人間の男たちは、眼の前の四人の女を犯すために獲物を奪い合って手足さえも引き千切らんばかりの勢いだった。
とにかく、魔凛自身がやったこととはいえ、あれほどの騒動になるとはびっくりした。
魔凛は翼を羽ばたかせて、ゆっくりと地面に降り立った。
すると近くの建物の中に隠れていた麗芳が部下とともとに現れた。
部下の数は十人ほどだ。
鳥人族の中でも、特に
「ご苦労様でした、魔凛様……。四人はあたしが責任を持って
麗芳が言った。
そして、部下に命じて、意識のない四人を手枷、足枷で拘束するように指示を下。
十人の部下が四人の人間の女たちにそれぞれに散った。
てきぱきとした動作で、四人の手首と足首に枷を嵌めていく。
麗芳が部下に使わせているのは、あらかじめ準備してあった『道術封じの枷』という霊具であり、手首と足首に帯のように道術で貼りつくとともに、手足を好きな組み合わせでそれぞれを密着させることができる。
四肢を束ねて獣縛りにしようと、左右の手足をそれぞれに密着して蟹のように縛ろうと思いのままだ。
いまは、それぞれの手足を背中側に曲げさせて海老縛りに拘束してるようだ。
麗芳の指示により、手足を背中側に曲げられた女の半裸の身体が次々にできあがっていく。
また、この霊具の枷には、装着された者の道術を封じるという効果以外にも、取り付けられた者の筋肉が緩み、身体に鉛を巻かれたかのように手足が重くなるという効果もある。
手首と足首に重しを巻かれたような状態になるのだ。
その枷をしてしまえば、人間族の拘束としてはほぼ完全だろう。
宝玄仙を除く三人には、魔凛の『支配術』も効いているし、もはや抵抗などできないはずだ。
「麗芳隊長、やはり宝玄仙については、この『道術封じの枷』は効果がないかもしれません。準備してあるもっとも強力な『道術封じの枷』でも、宝玄仙の霊気を完全に封じるには力が足りないようです」
部下のひとりが麗芳に報告にやってきた。
「いいさ。どうせ青獅子様は、宝玄仙の手足を切断して家畜化するのだろうから、この『道術封じの枷』では都合が悪いはずだ。少し早いが、ここで例の物を挿入してしまおう。そうすれば、もう宝玄仙は道術を遣うために霊気を動かせなくなるはずだ」
麗芳が懐から細長い透明の円柱の棒を取り出しながら宝玄仙に近づいていった。
魔凛は訝しんだ。
麗芳が持っているのは魔凛が知らないものだ。たったいま、麗芳が口にした内容についても、魔凛には意味がわからなかった。
一体、麗芳は宝玄仙になにをしようとしているのか……?
どうして、それを魔凛が事前に教えられていない?
「おい、麗芳、お前が持っているのはなんだ?」
魔凛は叫んだ。
しかし、そのときには麗芳はすでに手足を背中側に曲げさせている意識のない宝玄仙の裸身に身体を屈めていた。
そして、宝玄仙の股間にその細長い棒の先端を触れさせている。
あけっぴろげになっている宝玄仙の股間は無毛だった。
そう言えば、沙那もそうだったが、この四人の股間には全員の恥毛がない。
仲間内の決まりごとで全員が剃っているのだろうか。
そんなことを魔凛は思ったりもした。
「う、うう……」
意識のない宝玄仙の身体がわずかに身じろぎした。
それはそうだろう。
麗芳は持っていた細長い透明の円柱の棒を宝玄仙の膣の中にゆっくりと挿入していっているのだ。
棒の表面にはなにかの潤滑油でも染み出ているのか、すっと滑るようにその棒は宝玄仙の女陰に吸い込まれていった。
すでにもう外からは完全に見えなくなっている。
「なにか言いましたか、魔凛様?」
初めて麗芳が振り返った。
そのとき、広場に向かって一台の荷馬車がやってきた。
麗芳があらかじめ準備をさせていた人間族の女を運ぶための車のようだ。
馬車は麗芳の部下たちが誘導して、四人が倒れている場所に横付けされる。
『道術封じの枷』で拘束させている沙那、孫空女、朱姫が手際よく荷馬車の上に放り込まれる。
次いで、得体の知れないものを膣に挿入させた宝玄仙も馬車に投げられる。
「勝手なことをするな、麗芳──。宝玄仙の股間に入れたのはなんだ?」
魔凛は詰問口調で言った。
まるで魔凛を無視するように次々に直接に部下を指示をして、事後処理をしていく麗芳になんとなく魔凛は不快感を覚えたのだ。
「おや、魔凛様は、あれを初めてご覧になったのですか? あれが『魔法柱』ですよ」
「あれが魔法柱だと?」
魔凛は女の股間に淫具でも挿入するようなものが、魔法柱だと教えられて訝しんでしまった。
「ええ、そうです。宝玄仙の霊気を封じるために青獅子様から預かっていたものです。『道術封じの枷』では宝玄仙の道術が封じられないのは予想していましたからね……。道術が封じ込められない場合は、宝玄仙の意識が戻った場合に、すぐに逃げられてしまいます。しかし、その点、『魔法柱の原石』なら安全です」
「安全?」
「宝玄仙が集めた霊気は道術として遣われることなく、どんどん『魔法柱』に集められて、霊気の充満した『魔法石』に成長します。宝玄仙はこれを膣に入れられている限り道術は遣えません。そして、膣に挿入している霊石が『魔法石』に成長すれば、次の『魔法柱』のもとに入れ替えるのです。これで宝玄仙を使って『魔法石』が大量に量産できますよ……」
「女の膣に霊石のもとを入れて、霊気を集めさせるのか」
正直驚いた。
そんな方法とは予想もしていなかった。
「霊石のもとを『魔法石』に成長させるには、女の股間に入れるのが一番効率がいいんですよ。なにせ、単に身体に集めた霊気がそこに溜まるだけじゃなく、女の膣に入れると女が受けた快感までも霊気に変換させて溜まっていくんです。淫気というらしいですね。淫気と霊気は同質だという説もあるくらいで『魔法柱』を生産する家畜は、膣でそれを培養させるのが一番いいやり方なんです……。宝玄仙は快楽を集める袋のような状態にされて飼われることになるんでしょうね……。くくく……」
麗芳がいやらしい笑い方をした。
魔凛はびっくりした。
やはり、麗芳は魔凛の知らないところで、直接に青獅子から『魔法柱』を受け取っていたのだ。
それはおよそあり得ないことであり、どうして魔凛という上司を飛ばして、青獅子が魔凛の腹心の麗芳に直接に指示めいたことを行ったのかわからないし、それを麗芳がこれまで魔凛に報告していなかったという事実にも驚いた。
そして、魔凛は宝玄仙を家畜化するということについて、それが宝玄仙を『魔法石』を量産させる機械のようにするということくらいは知っていたが、具体的な方法や『魔法柱』の使い方など知らなかった。
ましてや、それを女の膣に挿入することで、女の快感までも霊気として変換して溜めていくということなど知る由もない。
なぜ、麗芳はそこまで詳しく知っているのだろう?
それに最後に見せた、あの下衆めいた笑いも気に入らない……。
まるで青獅子たちの子飼いの部下のような卑猥な笑いは、魔凛の一番嫌いなものだ。
麗芳については、その能力も信頼も疑ったこともないが、さすがにいまはむっとした。
「面白くないな、麗芳──。お前が青獅子様からなにかを受け取ったり、直接に指示を受けていたのなら、事前にわたしに報告すべきなのだ。なぜ、これまで黙っていたのだ──?」
魔凛は怒鳴った。
麗芳がはっとしたように顔を赤らめた。
「も、申し訳ありません……。そ、それは……、つ、つい、うっかりしていて……。と、とにかく、事情は宝玄仙たちを連れていってから報告します。申し訳ありません──」
急に麗芳が慌てたようにそわそわしだした。
なにか隠しているような素振りだ。
魔凛はなんとなく不穏なものを感じた。
麗芳が宝玄仙たちを乗せた馬車を運ぶように号令をかけた。
「待て──」
魔凛はそれを止めさせた。
「どうしました、魔凛様?」
今度は麗芳が魔凛に不審な顔を向けた。
十人の部下はすでに馬車を輸送する態勢を取り終えていて、それを止めた魔凛に、彼らも一様に当惑した顔を向けている。
「彼女たちを連れていく許可はしていないぞ。どこに連れていくつもりだ?」
魔凛がそう言ったので、麗芳は目を丸くした。
「なにをおっしゃっているのです。宝玄仙は捕え次第に青獅子様のもとにすぐに連れていく──。これは遠征軍全体の厳命ですよ。お忘れになったのですか、魔凛様?」
麗芳は半分怒ったように言った。
「宝玄仙についてはな──。だが、ほかの三人については、別に指示を受けているわけじゃないぞ。なぜ、勝手に青獅子様のところに連れていこうとするのだ、麗芳?」
「そ、それは確かに……」
麗芳も困惑した顔になった。
麗芳は宝玄仙と一緒に捕らえた者なのだから、供の三人についても宝玄仙の一部のように考えていたのかもしれない。
しかし、ここは魔凛の言うことが正しく、宝玄仙の三人の供をどうすべきかという青獅子の軍令は出ていない。
それに魔凛は彼女たちを青獅子に引き渡すのは気が向かなかった。
青獅子や大旋風のような連中に引き渡せば、李媛や李姫のように惨い目に遭わせるに決まっているからだ。
宝玄仙は最優先で青獅子に引き渡すように決まっているから、魔凛といえども勝手なことをすれば、命令違反どころか、叛逆にも受け取られかねないが、ほかの三人は別なのだ。
特に、沙那については、魔凛の道術の限界のためとはいえ、あのように衆人の中で集まっている男たちに惨めに犯させるような仕打ちをしてしまったという魔凛自身の後悔もある。
匿えるものなら、関係のない三人の供は青獅子たちに引き渡すのは避けたい。
「なるほど……。では、三人については、ひとまずあたしたちの軍営に移しましょう。宝玄仙のみ、あたし自身が『移動術』で連行します。それでよろしいですね、魔凛様?」
麗芳がそう言って、馬車から宝玄仙のみを降ろさせた。
なんとなくその挑戦的な麗芳の様子が魔凛を落ち着かなくさせた。
その理由はわからない……。
しかし、麗芳の行動を引き留める理由もない。
宝玄仙を捕らえた場合は、魔凛の腹心の麗芳を使ってすぐに引き渡すようにということは青獅子自身から何度も厳命もされている。
こうやって引き留めるのも、実際には軍令違反にもなるのだ。
宝玄仙を捕らえたら、すぐに麗芳にその身柄を届けさせること──。
どうして魔凛自身ではなく、麗芳でなければならないのか、少し首を傾げたくなる軍令は、念を押されるように何度も青獅子から言われていた。
なにか魔凛の知らないところで、麗芳は青獅子の命を受けて動いているのではないか……。
麗芳に限って、魔凛に不利なことをすることはありえないのだが、そうも疑いたくなる──。
『魔法石』のもとになる霊石を事前に渡されていたことも考えると、麗芳が青獅子と直接に接触していたことは間違いない気がする……。
そうかといって、麗芳に限って魔凛を欺くわけはないし、麗芳が魔凛になにも教えていないのはそれなりの理由があるのだということは、これまでの経験から理解はしているのだが……。
「そ、そういえば、大旋風の動きはどうだ? あの農村にいる
なんとなく訊ねた。
いま、大旋風のことがことさら気になったわけじゃない。
すでに事は終わったのだ──。
いまさら大旋風がどう動こうが本当はどうでもいいのだが、ただ理由のない不安が魔凛にその質問をさせた。
大旋風の変身した姿だと思われる長庚という少年は、あの農村でずっと宝玄仙と接触していたはずであり、それを見張る手配を麗芳に任せていた。
いずれにしても、供の沙那がさらわれたことで、麗芳の予想の通りに宝玄仙はすぐに城郭に向かって行動を起こした。
大旋風としてはどうしようもなかったはずだ。
「長庚という少年には、いまでも手の者を配置させていますよ、魔凛様……。特に動きはないようです」
麗芳は言った。
今度こそ、それ以上麗芳を引き留める理由がない。
麗芳は次級者に魔凛たちが占拠している軍営まで荷馬車を運ぶように指示をすると、まだ意識のない宝玄仙の髪を掴んだまま、『移動術』でその場から跳躍した。
麗芳と宝玄仙が消えた。
麗芳がいなくなると、すでに麗芳から命令を受けている荷馬車がゆっくりと進みだす。
魔凛は自分を襲っている違和感の正体がわからぬまま、ふわりと浮きあがり軍営に戻る方向に進んでいった。
空中に浮きあがると、魔凛の光を浴びたために魔凛の『支配術』に陥っており、魔凛たちのことを不審に感じることができない民衆たちが、まったく普段通りの生活をするために城郭をうようよと歩き回っているのを見ることができた。