※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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46  妖魔の真名と寸止めの数字

 孫空女(そんくうじょ)は能生(のうう)の命令で飛びかかってきた二匹の妖魔を『如意棒』で叩いた。

 すると、ひと叩きしただけで二匹とも消滅した。

 

「なにこれ、消えちゃったよ?」

 

 孫空女は呆気にとられた。

 

「『使徒の術』だよ、孫空女───。猪公(ちょこう)も、それから栗鼠の化け物のような鳴戸(なると)もそこにいる能生が操っていたのさ。屋敷に猪公が出現したり消えたりしていたのは、この能生が術で出したり引っ込めたりしていたのさ」

 

 宝玄仙が言った。

 

「『使徒の術』って?」

 

「いまのように、小さな板のようななんでもないものに憑依させた小妖を操る術のことさ……。そこにいる能生の術のようだね」

 

「ち、ちくしょう──」

 

 能生は声をあげたが、孫空女が『如意棒』を突きつけたら、腰が抜けたように、へなへなとそこに座りこんでしまった。

 

「だいたい、孫空女はまだ虫の息のはずじゃあ……」

 

 能生は目を白黒させている。

 

「虫の息だったのは、あの瞬間だけだよ。ご主人様がすぐに治してくれたから元気になったんだけど、まあ、虫の息ということにしておけば、妖魔も油断するだろうからね?」

 

 孫空女は能生に突き出している『如意棒』をさらに鼻先に突きつけた。

 

「さあ、どうして欲しい? 沙那(さな)をどうするつもりだったんだい──?」

 

 能生の顔が恐怖で引きつる。

 

「孫空女が倒れたままなら、次は沙那にでも手を出すと思ったよ、能生」

 

 宝玄仙が能生を見ながら言った。

 

「あれっ? もしかしたら、あたしを殺しかけたのは、この能生かい、ご主人様?」

 

「そういうことだろうね……。だけど、お前は、この状況でやっといま、それに気がついたのかい、孫空女?」

 

「へえ……。じゃあ、あたしに殺される覚悟はいいね、能生」

 

 孫空女は一度『如意棒』を能生の顔から離した。

 そして、すぐに勢いをつけて能生の鼻の先に『如意棒』を突きつけた。

 能生は悲鳴をあげて、力を失ったようにさらに崩れる。

 

「孫女、それよりも早くこれを──」

 

 縛られた沙那が叫んでいる。縄を解いてやると、沙那は、裸体を両手で隠した。

 

「くうっ」

 

 沙那がつらそうな悲鳴をあげた。

 

「どうして欲しい、沙那……? 絶頂できる快楽を与えてやるかい? それとも、身体の中の媚薬による快楽を外に出しちゃうかい?」

 

 宝玄仙が沙那の肩を抱いてささやいた。いつになく優しい物言いだ。

 

「い、一度いかせて下さい……。その後、媚薬の火照りを抜いてくれませんか、ご主人様……」

 

 沙那は真っ赤な顔をして、ほとんど聞き取れないような声で言った。

 

「わかったよ」

 

 宝玄仙がそう言った途端、沙那は身体を仰け反らせて大きな声をあげた。

 そして、ぐったりと身体の力を緩めさせてから、次にほっとしたような安堵の表情になった。

 沙那が台の上でぐったりと脱力した。

 さっきまでの苦しそうな表情が消えている。もう大丈夫のようだ。

 

「さて、じゃあ、こっちだね」

 

 宝玄仙が能生を睨んだ。

 

「あたしが猪公を操っていたって、いつ見破ったのさ──?」

 

 能生が叫んだ。

 孫空女は、『如意棒』を能生が座り込んでいる股間の地面にいきなり叩き込んだ。『如意棒』は能生の股のすれすれの場所に突き刺さり、深々と岩肌のこの洞窟の地面を抉った。

 

「ひいいいっ」

 

 能生が真っ蒼になり全身を硬直させた。

 見ると『如意棒』が突き刺さっている直前の能生の股間がみるみるうちに濡れはじめる。

 

 どうやら失禁してしまったようだ。

 

「口の利き方に気をつけな、能生──。こんどは睾丸を潰してやるよ──」

 

 孫空女は怒鳴りつけた。

 能生はおかしな声をあげながら、がくがくと身体を震わせ出した。

 すると宝玄仙が横でぷっと失笑した。

 孫空女は首を傾げた。

 

「確信したのは、朱をお前が連れていった頃かねえ。あれは、わたしたちが朱を訊問すると都合が悪いから急遽、連れていったんだろう? まあ、もっとも、お前については最初から怪しんでいたよ。男の格好したり、いろいろと隠してたからね」

 

 宝玄仙が笑って言った。

 

「くそうっ……」

 

 能生が悔しそうに顔を歪めた。

 

「だいたいご主人様も意地が悪いですよ……。能生が怪しいと知っていたなら、先に教えてくれてもいいのに……」

 

 沙那もぶつぶつと言っている。

 

「いいんだよ……。いい退屈しのぎだったろう、お前ら」

 

 宝玄仙が愉しそうに言った。

 

「冗談じゃありませんよ───。ねえ、孫女」

 

 不機嫌そうな沙那が孫空女に視線を向けた。

 

「ところで、お前、半妖だって?」

 

 沙那の不満顔を無視して、宝玄仙が能生に言った。

 

「半妖とはなにさ、ご主人様?」

 

「人間と妖魔の間に生まれた子のことだよ、孫空女。わたしも接するのは初めてさ……。どうやら道術師や妖魔のように霊力が発散して目立つというものでもないようだね。わたしは、最初こいつからほとんど霊力を感じなかったのだよ。だけど、実際はそこそこの術を遣うようだね。普段、目立たない分だけ、ただの妖魔や人間の道術師よりもたちが悪いかもね」

 

 宝玄仙が言った。

 

「人間と妖魔の子……。ああ、呪われた子か……」

 

 孫空女がそう言うと、能生の顔が一変した。いままで恐怖を怯えたような表情から怒りを露わにした顔になった。

 

「呪われた子なんかじゃないよ──。あ、あたしは生きているのよ──」

 

 しかし、すぐに自分の怒声にびっくりしたような顔になった。慌てて、睨みつけた孫空女から視線を逸らす。

 

「うう……。だいたい、宝玄仙と孫空女が、なんでここに……」

 

 うな垂れている能生がひとり言のように呟いた。

 

「ここにわたしらが辿りついたのが不思議に思うかい、能生?」

 

 宝玄仙が能生を見た。

 

「お、思う……。い、いえ……、お、思います……」

 

 能生は言った。

 

「お前の喋ったことは、わたしには筒抜けだったよ」

 

「筒抜け……?」

 

「お前の口の中にはわたしの霊具である『遠口』が装着されているからね……。お前が使徒や朱に喋ったことは、全部、わたしの耳につけている『遠耳』に聞こえていた。ここで沙那に話したこともね……。お前の作ったくらいの結界がこの宝玄仙の霊具に通用すると思わないことさ」

 

「あたしの口の中に『遠口』? い、いつの間に……?」

 

 能生が驚いている。

 

「沙那がお前と口づけをしただろう……」

 

「あっ」

 

 能生がはっとした表情をした。

 孫空女は、沙那が『変化の帯』で能生に変身するために能生の唾液をすすったときに、能生の口の中に舌で『遠口』を装着したのを知っていた。

 その前の夜、宝玄仙の眼の前で孫空女と沙那は、さんざんにその練習をさせられたのだ。

 

「……ということでお前が喋ったことはずっと聞いていたよ、能生」

 

「じゃ、じゃあ、あの副作用とかいうやつは……」

 

 能生が心配そうに言った。

 副作用とはなんだろう?

 

「心配しなくてもお前の口に入った『遠口』は、あと数刻でお前を発情させるよ。一刻(約一時間)のいき狂いだ。この宝玄仙の霊具がどれだけ恐ろしいか、その身で味わうといいよ」

 

「えええっ」

 

 能生が悲鳴をあげた。

 

「孫空女、沙那、こいつを裸にして沙那が縛られていた台にこの娘を縛ってしまいな」

 

「娘?」

 

 孫空女は驚いた。

 

「あれっ? お前には言っていなかったかね、孫空女。この十五、六の人間の少年に見える能生は立派な女さ。ただし、半妖のね───」

 

「ふうん……。まあ、そういうことだからさっさと素っ裸になりな、能生」

 

「そうよ──。お前がわたしの服を破ったんだから、そのお前の服はわたしが着るからね───。だけど、その下袴(かこ)は履けないか……。」

 

 沙那が能生が失禁で汚した下袴にちらりと目をやった。

 

「とにかく、裸になりな、能生──。それともこの『如意棒』で一本一本骨を折りながら無理矢理脱がしてもいいんだよ──。まずはその小便臭い下袴を脱ぎな」

 

 そう言うと能生は真っ蒼になった。

 孫空女は逃げようとする能生の腕を捕まえた。沙那も反対の腕を掴んでいる。

 

「孫空女、せめて上衣は破らないでよ。わたしの服はこいつに切り裂かれたからこれを着るんだから」

 

「やめて──やめて──やめてください──」

 

 能生は暴れ回る。

 そこそこの力だが、孫空女からかかれば赤子も同じだ。無理矢理に服を剥がして机に拘束するくらいの作業はなんでもない。

 しかし、抵抗を続ける能生にだんだんと腹が立ってきた。

 

「大人しくしないかい、能生──。本当に一本くらい骨を叩き砕くよ──」

 

 孫空女は怒鳴った。

 能生は大人しくなった。

 『如意棒』に突きつけられながら、能生は半泣きで服を脱いでいった。裸になった能生は確かに女の子だった。胸は布で膨らみを隠していたようだ。その布を能生が取り去ると、彼女のふっくらした乳房が露わになった。少し胸は小さ目だは、裸身は完全に普通の美少女だ。

 

 孫空女と沙那は、能生を台に仰向けにすると四肢を台に縛りつけた。

 台に『魔縄』で縛られた能生は、もうすでに泣きだしそうな顔している。

 

「ところで、ご主人様、この能生は、ご主人様を食べると言っていましたよ」

 

 沙那が言った。

 

「そう言えば、そんなことも『遠耳』から聞こえたねえ……。わたしを食べるというのはどういうことだい、能生?」

 

「こ、高名な法師のあんたを食べると魔力があって、強い妖魔になれると聞いたからです……。あたしは本物の妖魔になりたいんです……」

 

「わたしを食べると強い妖魔になれる……? なんだい、その出鱈目な話は?」

 

「違うんですか?」

 

 台に縛られている能生が眼を見開いた。

 

「法師を食らうことで妖魔の力があがるなど聞いたことがないね。妖魔の力を増大させるのは、『魂の欠片』つまり、高位の道術師の魂から分離された『賢者の石』さ。肉体そのものはただの肉と骨だ」

 

「ええっ」

 

 能生はがっかりした声をあげた。

 

「さて、どうしてやろうかねえ、この娘を?」

 

 宝玄仙は言った。

 

「ゆ、許してください……。あ、謝まりますから」

 

「謝らなくてもいいさ、能生。あたしはご主人様に言われて、しばらく、これを集めに行っていたんだ。あたしも経験があるけど、これは効くよ……」

 

 孫空女は横に置いていた小さな桶を見せた。能生はきょとんとしている。

 

「それはなんなの、孫女?」

 

 沙那が訊ねた。

 能生から取りあげた上衣を着ている。ただ、沙那には少し小さそうだ。下半身にはなにも身に着けていないから、孫空女には裸よりも卑猥な姿に見えた。

 もちろん、そんなことは口にはしないが……。

 

「お蘭の里であたしらがやられたやつだよ、沙那……。あの魔蛭。野生のね」

 

「何匹くらい捕まえたの?」

 

「残念ながらたったの五匹──。客室で寝ていることになっている間に、探しに行かされていたんだけど、こういうことに使う気だったんだね、ご主人様」

 

「まあ、そういうことさ」

 

 宝玄仙はにやにやしている。少年のように見えた能生も裸にしてしまえば、まだ女になりきっていないくらいの少女にしか見えない。

 それによく見れば大変な美少女だ。

 その能生を拘束して苛むという状況が、宝玄仙は愉しくてしょうがないに違いない……。

 

「魔蛭だって──? じょ、冗談じゃない──」

 

 能生は叫んで縛られた身体を暴れさせた。

 孫空女は木の棒の先に一匹魔蛭を乗せた。その魔蛭を能生の裸身に近づける。

 

「その様子じゃあ魔蛭の恐ろしさをあんたも知っているんだね、能生。だったらどこに置いて欲しい? 殺されかけたお礼に好きなところに置いてあげるよ」

 

「やだ、やだ、やだ──。やめてください──。ち、近づけないで──ひいいっ──」

 

「早く言いな、能生……。あたしをあんな毒煙で殺そうとした酬いだ。この魔蛭を味わいな──。どこに乗せて欲しいか言わなけりゃあその股の中心に乗せるよ。その肉芽の真上辺りなんてどうだい……?」

 

「わ、わかりました……。い、言います……。じゃ、じゃあ、足の甲にお願いします──」

 

「はい、じゃあ、ここだね」

 

 孫空女は能生の開いた股間の中心に魔蛭を置いた。もちろん、能生の肉芽の真上だ。

 

「ひぎいいいいっ──。う、嘘つき──。いぎいっ──。ああっ、さ、刺した……。くう……あう……ああっ───も、もう、やってきた……か、痒い──痒い──。ひ、ひどいよう……。取って、取ってください──。お、お願いします──。あはああっ──」

 

 一番敏感な陰核を魔蛭に刺されるとともに猛烈な痒さを与える毒がすぐに回ったはずだ。

 文字通りのたうち回っているが、四肢を拘束された能生は魔蛭を振り払うことなどできない。

 魔蛭はちょっとやそっと身体を振ったくらいでは絶対に離れてくれない。どんどん毒液を身体に送り込んで、発狂するような痒みを全身に拡げていく。

 

「じゃあ、わたしもさっきのお礼をするわね、能生」

 

 沙那が孫空女から棒を受け取り、次の魔蛭を取った。

 

「じゃあ、ここの中にでも入れようかな」

 

 沙那は一匹目の魔蛭の下の部分……。

 魔蛭の効果により、あっという間にだらだらと涎を垂らし始めた能生の可愛い淫孔に棒を挿し込もうとする。

 

「や、やめてえ──。やめてください──。そんなところ──」

 

「暴れると痛いわよ。暴れなければ優しく、突き挿してあげるわ、能生……」

 

 暴れ回る能生に沙那が冷たく言った。

 

「ほ、本当にやめてください──。ひいいっ──。き、生娘なんです。ほ、本当です──。ご、後生です──。そ、そんなものそこに挿さないでください──」

 

 能生が絶叫してぼろぼろと涙をこぼしだした。

 

「生娘? あんな手管でわたしを責めたくせに──? 朱さんのことだって、完全にたらしこんでいた感じだったじゃないの」

 

 沙那が棒を引っ込めた。

 

「ほう……。お前、まだ生娘かい、能生……。それでいて朱を性の技でたらし込んだのかい……?」

 

 宝玄仙も興味深そうに言った。そして、沙那から棒を取りあげる。その棒を能生の股間に棒を近づける。

 

「ほ、本当です──。ああ、か、痒い──。もう、取ってください──。そ、それに挿さないで──。お、お願いします……こ、怖い──。や、やああ──」

 

「泣きべそかくんじゃないよ──」

 

 宝玄仙が能生の淫孔の入口の部分に魔蛭をぽんと置いた。そのとき、棒の先端が女陰の入口に触れる感触で能生の顔が激しい恐怖に包まれた。

 生娘というのは本当なのかもしれないと孫空女は思った。

 

「ご、ごめんなさい、宝玄仙様──。も、もう、許してください──。許してください……」

 

「魔蛭をどけて欲しいかい、能生──?」

 

「は、はい、どけて欲しいです──。ど、どけてください。ど、どうかお願いします──」

 

 能生が声をあげた。

 

「それとも、このままほったらかしておいてもいいんだよ。こんな山奥の洞窟で、偶然人が通りかかって助けられる可能性は皆無だろうね。魔蛭の毒の痒みで狂いながら何日もかけて死にたいかい?」

 

「あああっ──、そんな怖ろしいこと──。い、いやあ──。それにもう駄目──。か、痒い──。お願い、取って──取ってください──。ご、ごめんさない──ごめんなさい──」

 

 能生は完全に泣き出してしまった。

 こうなると半妖といっても、まだ少女にすぎないのだろう。

 

「じゃあ、いろいろと喋ってもらおうかねえ」

 

 宝玄仙は言った。

 

「なんでも喋ります──。喋ります──。は、早く質問してください。だ、だから、魔蛭をどけてください──」

 

 能生は絶叫した。

 

「そうかい……。じゃあ、最初の質問だ。お前が初めて自慰をしたのは何歳だい、能生?」

 

 宝玄仙が言った。

 

「えっ、ええっ?」

 

 能生が当惑して真っ赤になった。

 

「ご主人様、い、いま、そんなこと聞かなくても……。それよりも、今回の一連の事件の背景について訊問すべきでは……?」

 

 沙那も呆れたように言った。

 

「いいんだよ……。どうせ、今回の事件の背景になんか大した背景なんてないよ──。それよりも、わたしはこいつに興味あるのさ……。さあ、言いな、能生、初めての自慰は何歳なんだい? ついでに自慰のときは、いつもどこを触るのかを言いな……。さっさと答えるんだ。言わなければここに置き去りだよ」

 

「ひいいっ──。十一歳……。さ、触るところは、お実のところ──」

 

「お実ってこれかい?」

 

 宝玄仙が陰核の真上にいる魔蛭を指で弾いた。

 

「ひぎいいいっ」

 

 能生が悲鳴をあげた。おそらくさっきの衝撃で魔蛭が、また、蝕芯を深く刺したに違いない。そして、さらに大量の毒液を能生の身体に注入したはずだ。

 

「あっ……。お、お願いです──。もっと……普通のこと……あっ───き、訊いてください……」

 

 能生の痒みによる苦しさに耐える表情に情感に震える表情が加わった。魔蛭の毒液の怖さは痒みだけじゃない。どうしようもなく快感が燃えあがらされる媚薬の効果もある。

 

「自慰のときには皮を剥くのかい。それとも、そのままかい?」

 

「……そ、そのまま……」

 

 孫空女も呆れてしまった。

 

「乳首は? 自慰のときは乳首には触らないのかい?」

 

「あ、あまり触りません……さ、触らなくても……。い、いけるし……」

 

 いつまで続けるつもりなのだろう……。

 孫空女も、なんだか興冷めしてきた。

 

「ご主人様、その能生は人間の村で暮らしていた子供時代に村人たちによって両親を殺されたようです。しかも、天教の法師に恨みがあると口にしてましたよ」

 

 沙那が横から言った。

 放っておけば、宝玄仙はいつまでも能生に自慰のことを訊き続けそうだった。沙那もそう思ったに違いない。

 

「そういえば、そんなことを遠口で語っていたねえ……。それ以来、妖魔として生きてきたのかい、能生?」

 

 宝玄仙がやっと自慰以外のことを言った。

 

「ああ……そうです……。色々なことがあって。それでも生き延びて──。あの屋敷で助けられて……、はああっ……そしたら……宝玄仙様が、あんたが……やってくるという噂を聞いて──」

 

「高太公と猪公の昔の話など嘘だね?」

 

「……あ、あたしの……術の……ああくっ……記憶操作……。お願いです。もう、なんとかしてよう……。痒い───。た、助けて……」

 

「それで、天教に恨みってなんだい? お前の親を襲わせたのは天教の法師なんだね?」

 

「もうやだあ──。痒い──痒い……痒い──。解いて……解いてえ──」

 

 能生は呻き始めた。

 

「ちっ、これじゃあ、話もできないね……。たった二匹で音をあげるなんて、情けない半妖だねえ……。孫空女、沙那、ちょっとばかり癒してあげな」

 

 孫空女は沙那とともに、能生を苦しめている痒みを癒すため、指で彼女が苦しんでいる部分を刺激した。能生の声が情感のこもったものに変わり、裸身がはっきりとした欲情を示し始める。

 

「もういいだろう──。全部、癒す必要はない。さあ、答えな、能生。天教とお前の関わりは?」

 

「す、住んでいた、さ、里にやって来た天教の法師……。あたしの母さんが……妖魔なのを見抜いて……。あ、あたしが半妖だから……。こ、殺さないと里が滅びるって……。、く……くくっ……」

 

「なんという法師かわかるかい?」

 

「……わ、わかりません……。で、ても、顔は覚えてる……」

 

「ちっ、仕方ないねえ……。まあ、天教の連中は妖魔と知ったら見境ないからねえ……」

 

「か、痒いです。ああっ、ま、また、刺激してくださいっ」

 

 能生が泣き叫んだ。

 

「まだだよ……。ところで、最初から、お前はわたしに取りついて復讐を考えたのかい?」

 

 宝玄仙は能生の胸の膨らみの先を弾いた。

 能生が悲鳴をあげる。

 

「早く喋るんだよ、能生──」

 

 宝玄仙が言った。

 

「最初はどうしようとも……。だけど、偶然に……屋敷にやってきたから……はあ……はあ……食べようかと……。食べれば……本物の……妖魔に……ううっ……なれるという……噂を思い出して……。そ、それに、一緒にいれば、復讐の手掛かりも見つかるかもと……」

 

「そもそも、どうやって食べるつもりだったんだい? お前程度の半妖がこのわたしやこいつらを相手に?」

 

「……お、思ったのは術で……術で暗示を刷り込もうと……。情報もそれで手に入れようとして……。だけど、効かなかった……」

 

「わたしの霊力には、もともとほかの術遣いの術を撥ね返す力があるんだよ。わたしの霊力を分けている孫空女も沙那も一緒さ。ちょっとやそっとの魔力じゃあ、わたしたちには効かないよ」

 

「さっき……知った……沙那から……。でも……知らなかったから……朱に……調べさせた……。湯殿だったら……はあ……は、裸になる……。それで、わかるはずだし……」

 

「その時に隠し部屋で覗いていた朱に、孫空女が出くわしたわけだね?」

 

「うん……。咄嗟に……あたしが……猪公を出して……気を逸らした隙に……」

 

「こいつが気を逸らせた隙に隠し部屋から朱を出して、その後で『毒草』を放り込んだのだね。発火させた状態で……」

 

「そ、そうです……。ねえ……なんでも答えています……。さっきのをもう一回……」

 

「孫空女、沙那───」

 

 宝玄仙がこちらに視線を向ける。

 また、ふたりで能生を愛撫する。

 

「はあああああ──」

 

 半妖の少女が淫欲に悶える。溜まりきった掻痒感と情感を少しばかり放出させてからさっと手を引く。

 

「記憶を操作しても、お前なんかに大人しく食べられるわけないだろう、能生」

 

「わかっています……はああ……。でも、三人の記憶を操作して……供に……加えてもらおうと……。そしたら、隙も見つかるかもと……」

 

「供かい? そういえば、そんなことを言っていたねえ」

 

「そう……供なら……襲い掛かる……、ふうう……、機会も……見つかる……かも……」

 

「供って……このご主人様の?」

 

 孫空女は思わず言った。こんな淫靡な変態巫女と知って進んでなろうというのか。

 

「そう……です……」

 

「でも、こんなご主人様なのよ、能生……」

 

 沙那も横から口を挟んだ。沙那の顔には能生に対する怒りのようなものはもうない。

 この能生はどこからどう見ても外見は人間の少女だ。その少女を裸にして、宝玄仙が魔蛭をけしかけて訊問している光景は、どうしても宝玄仙が悪者であり、能生の方が哀れな犠牲者にか見えないのだ。

 それで、どうしても能生に同情のようなものを感じてしまうのだ。

 同じ宝玄仙の犠牲者としての仲間意識のようなものだろうか。

 沙那も同じ気持ちなのかもしれない。

 孫空女も死にかけたことは、どうでもよくなった。

 

「……確かに……。正直言うと……もう……怖い。ところで……ねえ……もう、一回……」

 

 能生は言った。

 

「もう少し我慢しな、能生……。まあいい。わかったよ。供にしてやるよ」

 

 宝玄仙は言った。

 

「ええっ?」

「えっ?」

 

 孫空女と沙那は同時に声をあげた。

 

「あっ……で、でも……」

 

 能生は呆けた顔に戸惑った表情を浮かべた。

 

「ただし」

 

 宝玄仙はずいと能生に向かい顔を近づけた。

 

「は、はい……」

 

「わたしのことは“ご主人様”と呼ぶこと。それに、わたしの命令は絶対服従だ。いいね。それと、天教のことはなんでも教えてやるけど、復讐は諦めな。そもそも、このわたしからして、天教を恨んでるし、逃げてる最中なんだ」

 

「ええっ?」

 

 能生が眼を丸くしている。

 

「まあいい……。もしかしたら、機会もあるかもしれないから、そのときは復讐も手伝うよ。だけど、これは天教から逃げるための逃避行だ。まあ、とにかく、一緒に来な」

 

「い、いえ、や……やっぱり……やめときます」

 

 能生は言った。

 しかし、宝玄仙はそれを無視ししている。

 

「その代わりにお前の“真名”を教えな──。どうやら、お前は誰にもまだ真名を支配されていないようだからね」

 

 宝玄仙が能生の言葉を遮った。

 

「真名?」

 

 能生の顔が恐怖で引きっった。

 

「ご主人様、真名とはなに?」

 

 孫空女は訊ねた。

 

「真名というのは妖魔としての本当の名のことさ、孫空女。妖魔は真名を最初に教えた相手に支配されるという性質があるんだよ。妖魔たちは、それを使って、部下を増やし組織を維持する──。強い妖魔は部下の真名を知り、それに代わる新しい名を与えるんだよ。妖魔はねえ……、真名を与えられた者には逆らえないんだよ」

 

「能生というのは、こいつの名じゃないの?」

 

「それはただの呼び名だよ、孫空女。誰にも支配されていない妖魔は、真名なんてそう簡単に口に出しはしないよ。まあ、支配されてしまえば隠しても仕方がないから使うけどね、例えば、あの“黒妖魔”なんていうのは呼び名さ。本当の真名は誰も知らないのだろうよ。真名というのは符合のようなものでね。お前が持っている戒名のようなものだね。名前らしくもないものさ」

 

「戒名ですか?」

 

 沙那が首を傾げた。

 孫空女も意味はよくわからない。

 

「い、嫌です──。真名なんか教えたら本当に支配されてしまいます──」

 

 能生が叫んだ。

 

「だって供にして、お前に裏切られたら困るしねえ──。わたしもお前に喰われたくないんでね──」

 

 宝玄仙が笑った。

 

「い、嫌よ──。か、勘弁して……。騙したことは謝ります……。孫空女さんにも沙那さんにも──」

 

 能生はまた涙を流し始めた。

 

「孫空女、あと、三匹、能生の身体の上に乗せな。そしたらこいつはもう放っておいて、西に向かうよ。旅の再開だ──。高太公からの金袋五袋も手に入れたしね」

 

 この能生が雲桟洞に隠した金粒の袋は、すでに孫空女と宝玄仙で回収して、こっちの手元にある。

 

「言う──。言います──。言うから──。こんなところに捨てていかないでください──。羅姫(らき)──羅姫です───。あたしの真名は羅姫です──」

 

 能生がついに自分の真名を叫んだ。

 

「こいつう……。しつこく粘るじゃないかい……。それは親にもらった呼び名だろう。嘘の真名を教えて、操られている振りで誤魔化そうとしたかい。その言葉じゃあ、わたしの霊力が反応しなかったよ。真名か、真名じゃないか、簡単にわかるんだ。勿体ぶってないで、さっさと、本当の真名を言いな」

 

「ううっ……」

 

 能生が呻いた。

 

「孫空女、追加だ」

 

 宝玄仙が笑いながら言った。

 能生が悲鳴をあげた。

 

「八戒姫(はっかいき)──。八戒姫だよう」

 

 能生が絶叫した。

 

「じゃあ、八戒姫──。たったいまからお前の真名は、お前が騙そうとしたあの娘の“朱《あかい》”と、さっきの親の名づけである“羅姫”と真名の八戒姫から取って、“朱姫(しゅき)”だ──。名を名乗る度に娘にしようとしたことを後悔しな。さあ、新しい名である“朱姫”を受け入れるね、羅姫──」

 

「い……いや……」

 

 能生はすぐには返事をしなかった。まだ、躊躇いが残っているようだ。

 

「孫空女、残りの魔蛭をこいつの身体に乗せな──」

 

「ひいっ──認めます──。認める──。あたしは朱姫です──」

 

 能生……いや、朱姫は絶叫した。

 その瞬間、ふたりの間になにかの霊力が走ったのがわかった。おそらく、これで主従関係が結ばれたのだろう。

 

「これで、お前はわたしの家来だよ、朱姫……。わたしのことはご主人様と呼びな──」

 

「わ、わかりました、ご主人様……」

 

 朱姫となった能生は絶望的な表情をした。

 

「じゃあ、もう少し朱姫で遊ぼうかね──」

 

 宝玄仙が孫空女から桶と取り箸を取りあげて朱姫の右の乳首の上に魔蛭を置いた。

 孫空女はびっくりした。

 沙那も横で驚いている。

 

「ひひゃああっ──。また、新しいのを──。どけてええ──どけてください──ご主人様──」

 

 朱姫となった半妖の娘が暴れ回っている。だが、もう宝玄仙は次の魔蛭らに朱姫の裸身の上に載せようとしている。

 

「こうなったら諦めなよ、朱姫」

 

 孫空女は嘆息して言った。

 

「朱姫、わたしたちじゃあ、どうしようもないのよ。ご主人様は、お前が、完全に屈服するまでやめないと思うわ……。ご免ね……」

 

 沙那も言った。

 

「助けて──助けて──助けて──」

 

 朱姫の悲痛な声がいつまでも洞窟に響き渡った──。

 

 

 *

 

 

「妖魔退治も面倒だと思ったけど、引き受けてみるものだねえ。金粒が五袋も稼げたし、そのうえに新しい奴隷まで手に入れた」

 

 宝玄仙が歩きながら言った。

 旅の空だ──。

 高太公の屋敷を出発して半日というところだった。

 

 身代金は奪われたものの、妖魔に奪われた娘の朱は無事に戻り、一応、高太公は満足した。

 妖魔は西に去ったという宝玄仙の言葉も高太公は信じた。

 

 それで昨夜はお礼の宴もあった。

 吝嗇家の高太公にしては豪華な歓待だった。

 それで、高太公が本当に喜んでいるということはわかった。

 約束の帝国紙幣も引き受けてくれて、金粒と銀粒の路銀に交換してくれた。

 これで旅の路銀の心配は当面ない。

 朱姫となった能生を手放すことについては、高太公はなんの抵抗もなかったようだ。

 

 また、出発にあたり、朱姫は高太公の娘の朱から自分に関する記憶を一切消したようだ。

 そうなってしまえばただの雑用人にすぎない「能生」との別れのことを朱が気にすることもなく、宝玄仙を見送るときにも、朱は一度も朱姫に視線を移さなかった。

 朱姫は少し寂しそうだった。

 限られた時間とはいえ、身体を愛し合った仲になったのだ。その記憶がなくなってしまったのは少し残念だったのだろうか。

 

「ねえ、奴隷、お前もそう思うだろう?」

 

 宝玄仙が荷を担いで沙那の横を歩く朱姫に振り向いた。

 

「は、はい……」

 

 朱姫が諦めた様子で頷く。朱姫が担ぐ荷物は二個。沙那が四個。数の違いは体力の差だ。

 ただ朱姫の荷には、この一行の路銀が入っている。この旅の会計係は沙那から朱姫に移った。朱姫の方が計算ができるからだ。

 

「まあ、奴隷でもいいじゃない、朱姫。わたしたちなんて、『玩具』って言われているのよ」

 

 沙那は慰めるように言った。

 この朱姫とは色々とあったが、宝玄仙の供になるとなれば、同じようにこの変態巫女の嗜虐に耐える犠牲者だ。仲良くしていきたいと思う。

 

「もう、あたしは、どうでもいいんです、沙那姉さん……」

 

 朱姫は、沙那と孫空女のことを“姉さん”と呼ぶようになった。朱姫には別になんの意味もないことなのだろうが、姉妹のいない沙那には、なんだかそれが心地よい。

 いずれにしても、朱姫は宝玄仙の名づけた新しい名を受け入れたときに宝玄仙から壮絶な魔蛭責めを受けた。

 それは絶対的な恐怖として朱姫に刷り込まれたようだ。

 

「それにしても朱姫が妖魔というのはいまでも信じられないよ。どこからどう見ても普通の少女だしね。角もないし……」

 

 前を歩いている孫空女が言った。

 

「半分は人間ですから、孫姉さん」

 

 朱姫はぽつりと言った。

 まだまだ、朱姫とは打ち解けるには時間がかかるかもしれないと沙那は思った。

 いきなり仲良くしようというのも無理があるだろう。

 まあ、そのうち宝玄仙の「玩具」同士打ち解けもするだろう。

 

「でも、妖魔のようだね……。普段は霊力の発散はないけど、あれだけの術が使えるということは、確かに妖魔の持つ強い霊力が隠されているのだねえ、この朱姫には……。『移動術』だの、『結界術』だの。あるいは『使徒の術』だって、そう簡単な術じゃないしね。『縛心術』だって、わたしに効かなかっただけで、あそこまで完全に高太公や朱の記憶を操作するというのは大したものさ……」

 

 宝玄仙が言った。

 

「でも、ご主人様──。どうして朱姫の『縛心術』は、霊力のない人間を操作できるのですか?」

 

 沙那は訊ねた。沙那は魔力と道術の関係については、宝玄仙から教えられたことしか知らないが、霊力を持たない人間に術を及ぼすことができるというのは、どうしてもこれまでに教わった知識に合致しないのだ。

 

 宝玄仙の説明によれば、道術というのは相手に備わる霊気を意図的に操作する術のことであり、最初から霊気が体内に備わっていない人間に術が効果を及ぼすわけがないのだ。

 だからこそ、宝玄仙も沙那や孫空女に術を及ぼすようにするために、内丹印を身体に刻んだのだ。

 ふたりに刻まれた内丹印は、もう完全に沙那と孫空女の肌に同化してしまいいまでは、まったく紋様の存在は見た目ではわからない。

 しかし、実際には、もうどんな力を費やしても消すことのできない宝玄仙の道術紋が沙那と孫空女に刻まれているのだ。

 

「“霊力のない者の術は直接には効かない”というのは確かに常識だよ。だけど、朱姫がやったような記憶操作術は、別に相手の霊力を動かしているわけじゃないのさ。まあ、『支配術』一般に言えることだけど、これはよくわからないことが多くてね。道術原則の例外と言われている……。いずれにしても朱姫が霊力を帯びない人間に『縛心術』をかけるときは、霊力は使っていないはずさ」

 

「霊力を動かしていないとはどういう意味なのです、ご主人様?」

 

 すると、朱姫が口を開く。

 

「だから、あたしの人に対する『縛心術』は、実際には人の中の霊力を動かすわけじゃないんです、沙那姉さん……。動かしたのは“記憶”であり、霊力で新しいものを産みだすわけじゃないんです……。それで人にも通じるんです。だけど普通の人間相手の場合は大したことはできません。それに比べれば相手が道術師なら、本物の『縛心術』の霊力が通じるから、できることも多くなります……」

 

 朱姫は呟くように言う。

 

「どんな偽の記憶でも刷り込みができるの?」

 

「いや、なんでもというわけじゃありません、沙那姉さん。本人が受け入れることができそうなものに限定されます」

 

「記憶を変えてしまうこと以外には、どんなことができるの?」

 

「感情を操作すること。なんでもないものを怖がらせるように暗示をかけるとか、逆に好きでもないものを好きにさせるとか……」

 

「ふうん、もしかしたら、あの高太公の娘の朱にも、その『縛心術』を使ったの?」

 

 沙那は訊ねた。思い出してもあの朱は、完全に朱姫の虜になっていた。

 

「何度も言いますけど、道術も『縛心術』も使っていません。そんなことをする必要がなかったんです……」

 

 朱姫はきっぱりと言った。

 

「ほかにどんなことができるの、朱姫?」

 

「あとは感覚も操作とかですね……。その相手が体感したことがある感覚なら、呼び起こせます」

 

 朱姫は言った。

 

「ほう、面白いね……。じゃあ性的な快楽を感じたことのない人間に、お前の『縛心術』で快楽を与えることはできないんだね?」

 

 宝玄仙が意味ありげな口調で会話に入ってきた。

 沙那はなにか嫌な予感がした。

 宝玄仙があんな口調のときは碌なことを考えていない。

 

「まあ……、そういうことです、ご主人様……」

 

「じゃあ、逆に性的な快楽を感じたことがある女に、それをたったいま起きたことのように味あわせることはできるね」

 

「できる……と思います……。あまりそういうことに使ったことはありませんが……」

 

 朱姫は、また、なにか酷い目にあわされるのではないかと考えているのか、ひどく警戒した表情になった。

 だが、沙那は、宝玄仙がなにを思いついたのかわかる気がして、ひどく不安になった。

 

「沙那と孫空女で試してみるかい? お前もこの前はこのふたりに魔蛭で苛められた仕返しをしたいだろう?」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ、ご主人様──。あれはご主人様が……」

 

 孫空女が抗議しようとした。あれは宝玄仙が朱姫を魔蛭責めにしたのであり、沙那も孫空女も途中からは、強制的に手伝わされたのだ。

 

「本当ですよ。大部分はご主人様じゃないですか」

 

 沙那も言った。

 

「黙りな、孫空女、沙那──」

 

 宝玄仙が鋭く言った。孫空女は口をつぐんだ。

 沙那も慌てて口を閉じる。

 下手に文句を続けるとなにをされるかわからない……。

 まあ、黙っても同じかもしれないが……。

 

「で、でも、ふたりにはあたしの術は通じませんよ。撥ね返されてしまいます……」

 

 朱姫は言った。

 

「わたしの霊力には余程の強力な術使いの術でなければ撥ね返してしまう効果があるからね……。わたしの霊気を身体に蓄えている沙那と孫空女には効かないさ。だけど、このわたしは沙那と孫空女の身体を操作できる。こいつらには内丹印を刻んでいるからね。お前の術だけは受け入れるように変えることはできるさ。ほら───」

 

 宝玄仙はそう言った。

 いまなにかをしたのだろうか。

 しかし、なにも変わったことは感じない。

 

「これで、沙那姉さんや孫姉さんたちに、あたしの『縛心術』が通じるようになったのですか……?」

 

 朱姫は半信半疑のようだ。

 しかし、沙那はそれどころじゃない。

 得体の知れない不安が爆発しそうだ。

 

「もう“感覚”を自由に操作できようになっているはずだよ──。やってごらん、朱姫」

 

「やってみるとは……?」

 

「生娘にすぎないお前が、高太公の娘をたらし込んだ手腕を見せな……」

 

「手腕……?」

 

 すると朱姫の表情が変わった。

 ぺろりと自分の口を舐める。

 朱姫の顔が急に宝玄仙のような嗜虐者のそれに変化する。

 沙那はぞっとした。

 

「どっちで試したい、朱姫? 沙那かい? 孫空女かい?」

 

「朱姫、駄目よ──」

 

 慌てて朱姫に向かって首を横に振る。孫空女も蒼い顔をして、手で「駄目」という仕草をする。

 

「じゃ、じゃあ、まずは沙那姉さんで」

 

 朱姫が満面の笑みを浮かべて言った。あっという間に生気を取り戻したような朱姫に、沙那は凄く不安になった。

 

「そ、そんなあ」

 

「口答えするんじゃないよ、沙那」

 

 宝玄仙がぴしゃりと言った。

 

「じゃあ、沙那姉さん。まずはあたしの眼を見てください」

 

 朱姫が言った。

 仕方なく朱姫の顔に視線を向ける。

 その途端になにかざわりと頭の中が刺激された気がした。

 

「あたしがいまから数を数えます……。沙那姉さんがこれまで感じた最高の絶頂があたしが“十”まで数えたときに身体に発生します……。数は一から数える。それに従い、だんだんと沙那姉さんは、与えられる身体の快楽があがっていきます……。じゃあ、数をかぞえますね……。一……」

 

「あっ」

 

 なにか熱いものが身体に発生した。じわりと股間が濡れてくる。

 

「二……」

 

「うくっ」

 

 思わず股間を押さえてしまう。

 

「三……四……五……六……」

 

「いひいぃ──」

 

 沙那はしゃがみ込んでしまった。

 まるで、洪水のような快感が身体に沸き起こる。

 

「七……八………九……」

 

「ひああああああああっ──」

 

 襲い掛かる暴力的な快感──。

 絶頂の一歩手前の波濤のような快楽の嵐が全身で暴れ回る──。

 大きな波が沙那を包み込もうとしていた。

 

「これからですよ、沙那姉さん。面白いのは……」

 

「ちょっと――。ああっ、こ、こんな……。こんなところでとめないで…………ああっ……あっああ──ああっ……」

 

 絶頂寸前の快楽が沙那を襲い続ける。

 

「最後の数字をあたしが言わない限り、沙那姉さんは達することができません──。じゃあ、しばらくそのままでいてくださいね……ふふふ……」

 

「そ、そんなあ……。待って……待って、朱姫──。待って──」

 

 沙那は、うずうまったまま悲鳴をあげた。

 だが、朱姫は沙那から離れていく。

 

「次は孫姉さんですよ」

 

 朱姫の言葉──。

 孫空女が嫌がる声──。

 宝玄仙の叱咤──。

 

 そんな様子を耳にしながら沙那は股間を押さえていた。

 気の遠くなるような快楽の拷問を受けながら──。

 

 

 

 

(第8話『商家の豚妖怪』終わり)






 *


【西遊記:18・19回、猪剛鬣(ちょごりょう)(猪八戒)】

 玄奘(三蔵法師)と孫悟空は、高老(こうろう)という町で高才(こうさい)という男に呼びとめられます。そして、妖怪退治ができないかと相談され、とりあえず、話を聞くことにします。

 高才は、高太公(こうたいこう)という分限者の家人でした。
 高太公が退治を依頼する妖魔は、娘婿の猪剛鬣(ちょごりょう)です。高太公は、猪剛鬣という男が高家にやって来て、働き者であることが気に入り、娘と結婚させて娘婿にしたところ、実は妖魔が化けていたことがわかり、いまでは離れに娘を監禁して出てこないのだと訴えます。

 孫悟空は、術で娘とうまく入れ替わり、自分に抱きつく猪剛鬣を打ち倒します。
 猪剛鬣はびっくりして、雲桟洞(うんせんどう)という祠に逃げ込みます。
 さらに、追いかけてきた孫悟空に、猪剛鬣は悪いのは自分ではないと訴えます。
 猪剛鬣によれば、確かに自分は妖怪だが、働いて高太公を分限者にしたし、娘とは正当に結婚したのだと言います。しかし、猪剛鬣が妖魔だと知ると、世間体を気にして、高太公が猪剛鬣を離縁させて追い出そうとしたため、妻を監禁しただけだと主張します。

 さらに話をしているうちに、猪剛鬣が観音菩薩から、玄奘の供になることを命じられて、ここで待っている者だとわかります。
 玄奘は、猪剛鬣を出家させ、娘とは離縁をさせて旅の供に加えます。
 玄奘は、猪剛鬣に「猪八戒」という戒名を与えます。

 *

 初期の西遊記では、猪八戒の名は、「朱八戒」でした。
 しかし、明代となり、皇帝家の姓が“朱”であったため、豚の妖魔が朱姓では都合が悪いとして、「猪八戒」に改められたと伝えられています。
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