「おや、気がついたようね、宝……。施術が終わるまで失神し続けた方が楽だったかもしれないけど、媚薬を身体から急速に抜いたことで、体力と気力が回復しちゃったのねえ」
それが
宝玉はどうして自分がこうしてるのかを考えて、やっと最後に覚えている記憶が青獅子という魔王に尻を犯され始めたときのことだということを思い出した。
魔王の軍に捕らわれて地下牢で意識を回復し、そこで魔王に尻を犯されたのだ。
それに先だって、無理矢理この輪廻に強い媚薬を飲まされた。すると意識が朦朧としてなにもわからなくなった。
いまは、あの地下牢ではなく別の場所にいるようだ。
そこで宝玉は腰ほどの高さの台の上に横たえられていた。
視界に映る限りにおいて、この部屋はさっきの地下牢に比べてなんとなく清潔感があった。
また、地下牢にあった燭台の代わりに、天井から道術による明るい光がそそがれていた。
まだ、頭はすっきりしない。
目の前が霞みがかかったように見える。
天井を向いている宝玉の視界に映ったのは、白い前掛けを身に着けた輪廻だった。
彼女は宝玉が寝かされている台の上に屈みこむように身体を曲げていたので、宝玉は輪廻の姿を捉えることができたのだ。
「こ、ここはどこ……?」
宝玉はそう呟いて、いつの間にか顎が元に戻り、言葉が喋れるようになっているということに気がついた。
地下牢で意識が朦朧となったときには、この輪廻によって、薬を飲むのを嫌がった罰だと言われて、顎を外されていたのだ。
それは治っている。
「ここはわたしの診療室よ、宝。お前はこれから、家畜になるための施術を受けるの……ふふふ……」
輪廻が気味の悪い声で笑った。宝玉はその笑いに全身の肌が粟立つのを感じた。
宝玉は相変わらず全裸であり、両手は身体の横に真っ直ぐに伸ばすように置かれていて、両脚も軽く開いている状態だ。
宝玉は慌てて身体を起こそうとした。
とにかくここから逃げることだ。
こんなところにいては、なにをされるかわからない。
はっとした。
身体が台に粘着されているかのように動かない。
おそらく、これもなんらかの道術だ。
逃げられない──。
どうしてもまったく身体が動かない。
身体が拘束されているのかどうかはわからなかったが、仰向けになっている全身が台に張りついたようにどの部分も動かすことができないのだ。
だから、首を回して周囲に誰がいるのかさえも見ることができないでいた。
そう悟ると宝玉は途方もない恐怖に襲われた。
嫌だ──。
怖い──。
それは本能的なものだった。
しかし、宝玉は自分の身になにかの危機が訪れようとしていることを悟った。
いま、輪廻は施術と言った。
そういえば、彼女たちは、これからこの宝玄仙の身体を家畜として扱うというようなことを喋っていたように思う。
つまり、これから、この輪廻はなにかの恐ろしいことをこの身体に施そうとしているのではないか?
宝玉の身体が恐怖に強張り、全身ががたがたと震えてくるのがわかった。
自分は宝玄仙のように強靭な精神力は持っていないのだ。
一度怖いと思ってしまった相手にはどうしようもなく身体が竦んで、舌が回らなくなってしまう。
そして、宝玉はこの輪廻に途方もない恐怖心を抱いてしまっていた。
「なにが診療室じゃ。ここのことは、みんな解剖室としか呼ばんわ。毎日のように罪人や奴隷を連れてきては、おかしなことしかせんしのう……。先日もここで三人ほど人間を死なせたんじゃろうが。聞いたところでは、人間の下半身を魚のようにしようとしたんじゃろう? 大魚の下半分を人間の腰から下と入れ換えて次々に水に入れて死なせたとか……。お前がまた狂った遊びをやりだしたと兵が話題にしておったぞ、輪廻」
「遊びじゃないわよ、蝦蟇婆。せめて実験と言って欲しいわあ。魔凛のような鳥人族はいるけど、でも魚人族という亜人は聞いたことがないでしょう? だから、作ってみようとしたのよ。青獅子陛下に不用になった人間族の貴族の男を数名回してもらってね。でも、うまくいかないの……。ひれになった脚で泳ぐことはできるんだけど、えらで呼吸するように内蔵を変えるのが駄目だったみたい。結局はみんな溺れ死んじゃったわ」
「なにがえらじゃ。亜人や人間が水中で息などできるわけないわい」
声だけの蝦蟇婆が言った。
輪廻は首を曲げてその声の方向に視線を向けている。
「あら、でも、三人目は三刻(約三時間)は水中で生きたのよ。後十人ほど殺せば、うまくいくと思うわ」
「それがなんの役に立つのじゃ。水の中で生きる必要はないわい。人間族でも働かせればなにかの役に立つのじゃ。お前の遊びのために死なすのはもったいないわい」
「だから、遊びじゃないと言ってるじゃないの。医術の発展のためには犠牲は必要よ」
「お前のは遊びじゃ、輪廻」
蝦蟇婆の呆れたような声がした。
ふたりの恐ろしい会話を耳にしていて、宝玉は自分がとんでもない狂女に施術を受けようとしているのだとわかりぞっとした。
同時に宝玉はここにいるのが輪廻と蝦蟇婆だと判断した。
さっきと違って青獅子がいる様子はないし、あのとき魔王が連れてきた兵たちの気配もない。
「とにかく、宝、折角、意識が戻ったんだから、施術が終わるまで意識を保っていてちょうだい。蝦蟇婆と
輪廻が宝玉に向き直った。そして、宝玉の首に手を近づける。
「痛っ──」
寧坊というのが誰のことだかわからなかったが、首にちくりとした痛みを感じて、宝玉の思考は途絶えてしまった。
急に頭がすっきりして目が冴えたようになってくる。
もしかしたら、いま、宝玉の気絶を防止するなんらかの措置をされたのかもしれない……。
「まあ、手足を切断するだけの措置だけだったら、あんたが失神している間に終わらせてよかったんだけどねえ……。自分の身体が斬り刻まれるのを自覚するのはつらいものねえ。眼が覚めたときには、なにもかも終わっているということの方が楽なことはわかってたんだけど……」
輪廻がぶつぶつと言った。
それからしばらく輪廻はなにかを待つような表情になり、なにもせずに宝玉を見下ろす態勢になった。
その間、半分朦朧としていた宝玉の意識と感覚が正常に戻っていく……。
しかし、意識がだんだんとはっきりするにつれて、股間から異常な感覚がもたげてきた。
肉芽の表面をなにかがむずむずと動くようなむず痒さがやってきたのだ。
いま輪廻は、台上に載っている宝玉になにかの刺激を加えているという仕草はない。
それなのに、まるで柔らかな感触の小さな虫のようなものがさわさわと肉芽の皮の内側で動いているような微妙な疼きが加わり続けているのだ。
「あ、ああ……な、なにか変だわ……ど、どうしたの?」
宝玉はおかしな気分になり無意識のうちに動かない身体をかすかにくねらせながら悶えた。
「おや、さっそく効いてきたみたいね。どうやら、まずは肉芽の整形はうまくいったようよ、蝦蟇婆。どんな感じ、宝? 肉芽の表皮の内側に極少の粒を発生させる処置をしたのよ。常時、その粒が肉芽を圧迫して肉芽と擦れて、あなたを発情状態にしてくれるはずよ。しかも、その粒はあなたの身体の中の血の流れの速度に合わせて陰核の表面を動き続けるのよ……。どう、堪らないでしょう?」
輪廻が言った。
宝玉はびっくりした。
「な、なんてことをするの……。そ、それでこれ……。ちょ、ちょっと、こんなんじゃあ、まともに動けないわ……。あ、ああっ……、どうして、こんな酷いことするの?」
宝玉は次第に襲ってきた恍惚感にあおられて泣き声をあげた。
いま説明を受けた施術が本当に肉芽にされたということは真実だとわかる。
なにしろ、なにもしていないのにじんじんと肉芽が疼き、とろ火のような官能の熱が宝玉を襲い続けるのだ。
「ねえ、輪廻先生──。ちゃんと刺激を強くし過ぎないようにしてくれた? 刺激を与え続けて快感に襲われ続けるようにしてもらわないといけないんだけど、それで簡単に達するようでも困るんだよ。原石に霊気を吸収させて魔法石にするとき、その質をあげるためには雌畜の発情の管理がとても大事なんだよ」
「発情の管理じゃと?」
「魔法柱を入れているときに連続絶頂なんかさせたら
頭の方から声がした。
甲高い声は子供の声のようだ。
さっきはいなかった人物だと思う。
「あ、ああっ……だ、誰?」
宝玉は思わず言った。
口を開くとどうしても甘い息が漏れてしまう。
ずきんずきんという疼きが宝玉の股間に襲いかかり、全身に愉悦の波を拡げている。
不意に宝玉の顔の前にすっと亜人の男の子の顔が覗き込むように現われた。
背は輪廻よりもずっと低い。
人間の子供であれば十歳くらいの背丈だと思うが、毛深くて髭のようなもみあげが首まで続いていた。
額に小さな角がある。
亜人の子供のようだ。
「僕は寧坊さ。宝の魔法柱の管理をするために蝦蟇婆の助手になったんだよ。よろしくな、宝──」
寧坊と名乗った亜人の子供が言った。
「わしの助手は一鉄と二鉄の双子がおるから間に合っとるがな……。まあ、魔王陛下の命じゃから預かるとするわい。じゃが、お前に雌畜の調教などできるのか、寧坊?」
「婆さんのあの白痴の助手二匹よりは役に立つさ。だいたい、いきなり魔法石の雌畜に媚薬なんか使ったりして駄目じゃないの──。お陰で最初の一個は無駄にしちゃったよ。媚薬で快感を作ったりしたら粗悪品の魔法石しかできないんだから……。僕がいないとそんなこともわからないんでしょう?」
「媚薬を使わせたのは陛下じゃ。わしじゃないわい。薬を盛ったのもその変態女医じゃ」
蝦蟇婆の不満そうな声がした。
「言い訳はやめてよね、婆さん──。とりあえず、魔法柱を交換したから今度はしっかりとした一級品ができると思うよ……。でも、この宝は凄いよ。さっき取り出した一個目だって、あんなにわずかな時間なのに、もう魔法石に成長しかけてたもの──。もっとも媚薬のお陰で粗悪品だったけどね……」
「ふん」
「僕の予想じゃあ、この宝だったら一日一個の一級品の魔法石が生産できると思うよ。これは凄い雌畜だよ」
寧坊が少し興奮した様子でまくしたてる。
「あ、あんたら、さっきからなにを喋っているの? 雌畜? 魔法石の生産──? お、教えて──。わ、わたしになにをしようとしているの?」
宝玉はびっくりして言った。
「ふん、そんなことは家畜の分際で知らんでもいいわい……。と言いたいところじゃが、まあ、引導を渡すことも必要じゃろう。寧坊、説明してやれ」
蝦蟇婆の声がした。
「うん、じゃあ、宝、教えてあげる──。お前はこの青獅子魔王の魔王宮で飼育される魔法石の生産雌畜になったんだよ」
「ま、魔法石の生産雌畜?」
思わず繰り返したが、なんのことかさっぱりわからない。
しかし、寧坊が宝玉に説明を続けるに連れて、その恐ろしい計画がわかってきて、宝玉は蒼白になった。
そして、恐怖に包まれるとともに激しい怒りも湧いてきた。
いくらなんでも馬鹿にするにも程がある。
女陰に魔法石の原材料を挿入し、それをこの身体の持つ霊気収集力を利用して魔法石に培養するのだという。
それが彼女たちのいう“生産雌畜”なのだ。
魔法石にそういう作り方があるということは初めて知ったが、なんとこの身体をその培養容器として使うのだというのだ。
寧坊は、それをにこにこと無邪気そうに微笑みながら語った。
「質のいい魔法石の生産のためには、生産雌畜の淫情管理はとても重要なんだよ。でも、僕がいれば大丈夫さ。これでも魔法柱の管理にかけては一流なんだ。絶対にお前はいい生産雌畜になれるから安心してよ、宝」
寧坊が喋り続けている。
宝玉はあまりの話に途中で口を挟むこともできなかった。
まさに家畜だ。
魔法石という物を生産するためだけに、呼吸をし、餌を食べ、快感を管理される存在にこの宝玄仙の身体を変えてしまおうというのだ。
しかし、一方で、宝玉も魔法石というものがどれだけ貴重なものかということも知っている。
魔法石は霊気を持つ亜人たちの霊気を格段に向上させるだけではなく、それをただの畜生に仕込むことで、霊気と知性を持つ亜人を産むことができるのだ。
つまり、この魔王軍のような軍隊をいくらでも作ることができるということだ。
もしも、彼らのいう方法で大量の魔法石を量産できるのであれば、それを知った亜人たちの各勢力は、あらゆる手段を駆使しても宝玄仙という魔法石を産み出す存在を捕えようとするだろう。
それが大掛かりな罠で宝玄仙を青獅子が捕らえようとした理由だったのだ。
「ところで、輪廻先生、さっきも言いかけたけど、絶頂管理は魔法石の質の向上にかかせないんだ。先生の肉芽措置は素敵だけど、快感が強すぎて、簡単に達してしまうということはない?」
「大丈夫よ、寧坊坊や。さっき鍼を使って経絡を刺激したからね。いくら肉芽に快感を受けても、もう宝は絶頂ができないわ。肉芽だけじゃないわ。これから乳首の表皮を薬品で溶かして真皮を露出させる施術もやるから、宝の乳首の感度も数倍に跳ねあがるろうけど、それで快感がどんなに昂ぶろうとも絶頂することはできないのよ。面白いでしょう」
輪廻が大笑いした。
しかし、それを聞かされた宝玉は全身に冷水を浴びたような気持ちになった。
股間の疼きはいまでも耐えられそうにないものだ。
それが決して発散できない地獄の疼きだとわかり、眼の前が真っ暗になる気分だ。
「そ、それは困るよ、先生──。斑を作らないために焦らしは必要なんだけど、まったく絶頂しないのも駄目なんだよ。少なくとも一日に一回は大きな絶頂感を与えることが必要なんだ。困るよ。元に戻してよ──」
寧坊が悲鳴のような声をあげた。
しかし、輪廻は高笑いをするだけだ。
「……心配ないさ、寧坊坊や──。これは蝦蟇婆とも話し合ったことでね。尻だけはなにも処置はしてないわよ。ほかの部分はどんなに刺激を受けても快感が溜まるだけで絶頂できやしないんだけど、尻では欲情を解放できるのさよ」
「尻?」
「お前はいなかったけど、そりゃあもう、青獅子陛下が宝の尻をお気に入りでね。是非、尻だけは手を付けないでくれというからそうしたよ。お前としてもそれでいいんでしょう? 焦らし責めのときは尻以外を責めればいいし、絶頂させるときは尻責めをすればいいわ」
「そりゃあいいよ、先生。それなら、管理がずっとやりやすい──」
寧坊が嬉しそうに叫んだ。
宝玉はあまりのことに呆然としていた。
愛し合うための手段であれば、どんなに乱暴にされたり、あるいは酷い官能責めや苦痛を受けてもいい。
惨めな羞恥責めにも耐えられる。
むしろそれは宝玉の望みだ。
しかし、これからこの身体に加えられようとしていることは、愛情の一片だってありはしない。
この身体に欲情して凌辱する行為ですらないのだ。
股間に挿入した魔法柱の培養のために、ただ機械的にこの身体に加える刺激を管理して欲情を統制すること──。
それだけの行為なのだ……。
宝玉はそんな愛情のない肉体への責めに自分が耐えられるとは思えなかった。
もしも、耐えられなければ……。
「ねえ、輪廻、乳首の表皮を剥いて真皮を露出させる施術のときに、母乳を出すようにできるかい? わしのところの一鉄と二鉄が母乳が好きなんじゃ──。母乳が出ればあいつらは命じなくても四六時中、宝の乳首を吸いまくろうとするからのう。そうすれば、宝の快感も溜まるし一石二鳥じゃ」
「そりゃあできるわ、蝦蟇婆。しかも、大して面倒でもないわよ。まず液薬を乳房に抽入して乳腺を活性化させて数日してから液薬を抜くのよ。薬の抽入には道術を遣うの、それから……」
「肉体改良のやり方はなんだっていいわい、輪廻──。じゃあ、やっとくれよ。寧坊も構わないんじゃろう?」
「いいよ。母乳は魔法石の出来に関係ないしね」
寧坊は言った。
宝玉はもうなにがなんだかわからず混乱していた。
これは現実の話なのだろうか。
恐ろしい人体実験の話を平然とする亜人たち……。
そして、それを施されるのは宝玉なのだ。
息が苦しい……。
宝玉は耐えられない仕打ちに遭うと必ず意識の混乱が生じる。
自分を自分で保てなくなるのだ。
その最悪の結果が人格の分裂という事態になるということを宝玉はもう知っていた。
もちろん、それは宝玄仙も同様だ。
この身体はどちらの人格であろうと、耐えられなくなる事態になると新しい人格を作ってしまう可能性がある。
その分裂する人格がどんなものになるかもわからない。
また、危険な人格が生まれる可能性も……。
耐えること……。
どんな仕打ちを受けても、自分を失わずに人格を保つこと……。
新たに出現する人格を防ぐにはそれしかない……。
ふたりで耐える──。
それしかない。
しかし、怖い──。
自分の身体の改造について、宝玉を無視して行われる話し合いに宝玉は怖気を感じることをやめられないでいた。
身体が血の気を失ったかのように冷える。
それなのに刻々と疼きが高まる肉芽だけが宝玉のほかの肉体とは別のものであるかのようにじんじんと疼く。
それが宝玉の心の絶望を助長する……。
「さて、じゃあ、そろそろ始めるわね──。時間と細かい手間の必要な乳房の改造は後にするよわ。とりあえず四つ脚化から始めようかしら……。前肢と後肢の高さを揃えるように切断すればいいわね。脚はこんなところ?」
輪廻が言った。
そして、筆先のような感触が宝玉の腿の中心辺りをすっと撫ぜた。
宝玉は悲鳴をあげた。
「や、やめてよ──。あ、ああっ……お、怖ろしいことはしないで──。お、お願い──」
「まだ、筆で線を引いただけよ、宝……。もっとも、すぐに切断するけどね……。道術をかけながらの施術だからあっさりとしたものよ。痛みもないし、出血もない──。もっとも、お前が身体から手足がなくなる感覚が欲しくて、激痛を受けながら手足を切られるのがお好みならそうするけどね──。どうするの、宝? 痛みなくあっさりと切られる方がいい? それとも激痛にのたうちながら切る? どっちでもいいのよ。激痛で苦しみながら手足を切っても苦しいだけで死にはしないしね──。さあ、どっち?」
「あ、ああ……そ、そんなことはしないで──」
宝玉は哀願した。
「そんなことは聞いていやしないわよ。どっちを選ぶのかと訊ねているのよ。痛いのがいいかい? 痛くないのがいいのかい? 答えないとそれこそ激痛でのたうち回らせるわよ──。さっき顎を外されたことを覚えている? ここでは、なんでも逆らえば罰があるのよ。答えないと罰の代わりに、痛覚をいじくり回しながら手酷く切るわよ。身動きできないだろうから施術の邪魔にはならないしね。もちろん、失神できないように改めて処置をするわ」
輪廻の言葉に宝玉はわっと声をあげて泣き出してしまった。
「どっちよ──?」
輪廻が怒鳴った。
「い、痛くないように……」
宝玉はやっとのこと言った。
「そうでしょう──。当たり前よ。さっさと答えないかい、宝。手間を取らせるんじゃないわよ──。じゃあ、はっきり言いなさい。手足を切ってくれってね。さもないと、激痛を与えながら切断するわよ」
輪廻が鼻を鳴らした。
「あ、ああっ……。て、手足を……切って……い、痛くないように……切って……ください……」
宝玉は言った。
そんなこと怖い……。
もう、どうしていいかわからない……。
これから手足を切断されて獣のような四つ脚にされる。
その恐怖感と絶望感に宝玉は泣くのをやめることができなかった。
「めそめそ泣くんじゃないわよ。ちゃんと脚には豚の蹄を移植するから動くのに不自由はないわ……。だいたい、陛下に感謝するのね──。わたしの計画じゃあ、最初はお前の顔の皮を剥いで豚の顔に入れ替えるつもりだったのよ。その方が雌畜に相応しいだろうしねえ──。だけど、お前の尻の快感が気に入った陛下が、お前の人間の女としての美しさをなるべく損なわないようにと指示されたのよ──」
「豚の顔とは酷いじゃないですか。こんなに綺麗な顔なのに──」
寧坊が苦笑している。
「綺麗なものは徹底的に壊してやりたいという衝動を覚えるときもあるのよ。せっかくだから、豚の顔は囚人になった鳥人族の何人かに施すことにするわ。準備したものを無駄にしても勿体ないしねえ」
「あの美しい鳥人族の連中の顔を豚の顔に変えるってかい? 悪趣味じゃのう。さすがの変態女医じゃ」
蝦蟇婆の呆れたような声がした。
「ふん、陛下の許可はもらっているわよ──。魔凛という女隊長以外は、どれを選んでもいいと言われているのよ。この宝の施術が終わったら、連中が閉じ込められている牢舎に行って、獲物を選んでくるわ」
輪廻はそう言いながら、右手に霊気のこもった牛刀のようなものをかざした。
宝玉は悲鳴をあげた。
しかし、身体はまったく動かない。
「のう、輪廻、ちょっと思いついたんじゃが、後肢は膝の上くらいのぎりぎりの高さを保持して、逆に前肢になる手はぎりぎりまで短くできるかい?」
不意に蝦蟇婆の声が口を挟んだ。
大きな牛刀を持って宝玉の下半身側に移動しようとしていた輪廻が眉間に皺を寄せながら、蝦蟇婆の方に顔を向けるのが見えた。
「はあ? なんでそんなことをするの? それだと高さが合わなくて四つん這いで歩くときに、尻が極端にあがったようなかたちになるわよ、蝦蟇婆?」
「ひひひ……、それになんの問題があるんじゃい?」
蝦蟇婆が言った。
すると宝玉が見あげている輪廻の顔がにんまりと笑った。
「……そういうことね。確かに、陛下のお気に入りのお尻を常に上にかざしながら歩かせるというのもいいわねえ。どうぞ、尻を犯してくださいの格好というわけね」
輪廻が笑った。
そして、一度牛刀を横の台に置き、筆のようなものを取った。
さっき腿に感じた感触が今度は両膝の真上くらいの場所に加わった。
線が引き直されたのだ。
「それだけじゃないわい……。こいつは乳がでかいからね。乳房の高さと前肢の高さを揃えておくれ。そうすれば……ひひひ……」
「なにかすてきなことを考えているようね、蝦蟇婆。まあ、言ったとおりの体型にしてあげるわ」
輪廻が筆を牛刀に持ち替えながら言った。
「ちょ、ちょっと待って──」
宝玉は絶叫した。
しかし、なにかが膝の上に当たり、どんと牛刀が台を叩く音がした。
「ほら、簡単なものでしょう、宝? じゃあ、次は右脚をいくわよ」
輪廻が笑いながら牛刀を持っている反対側の手に切断したばかりの宝玉の脚を持って、宝玉の顔の前にかざした。
顔の前に自分の切断された脚がかざされる。
あまりの恐怖で宝玉の身体は激しくがくがくと震え出した。
そして、宝玉は自分の意識がすっと深層意識に隠れていくのを感じた。
いや、宝玉は自ら自分を隠そうしているのだ。
いまはこの恐怖に狂わないためにはそれしかない。
このままでは、宝玉はまたこの身体を守りきれずに、新たな危険な人格を作り出してしまうかもしれない……。
人格を作り出してしまう危険は宝玄仙も同じだが、いまでは彼女も強くなった。
逆になぜか弱まってきている感のある宝玉よりも強いかも……。
ふたりで乗り切るのだ。
それしかない……。
宝玉はこの身体の意識を強引に閉鎖しようとしてした。
「おや、おかしいねえ。気を失うことができないように神経に細工をしているんだけどねえ……。まあ、いいわ。すぐに活性化させるから……。」
最後に見たのは宝玉を不思議そうに見下ろしながら首を傾げる輪廻の顔だった。