身体が熱い……。
宝玄仙はなにかが股間を這い回る淫靡な刺激に思わず声をあげそうになった。
おかしい……。
これはなんだ……?
股間だけではない……。
胸がとても感じる……。
意識をしはじめると全身に淫らな痺れが走り、身体が砕けそうになる。
そして、気がついた。
ここは深層意識だ。
宝玄仙や宝玉が「意識の部屋」と呼んでいる場所だと思う。
つまりは、宝玄仙自身の心の中の世界ということだ。
しかし、なぜ、意識体の中の身体が現実の身体のように疼くのだろう……?
とにかく、宝玄仙は膝を折るようにその場にしゃがみ込んだ。
本当はただの意識体なのだから、現実には肉体は存在しないのだが、そうしなければ膝が崩れ落ちそうだった。
宝玄仙は自分が荒い息をしはじめているのを感じた。
ここが意識の部屋だということは、いま現実の宝玄仙は意識のない状態なのだろうか……?
宝玄仙は最後の記憶を探ろうとした。
すぐに、さらわれた沙那を奪い返そうとして、『移動術』で
『移動術』で孫空女とともに乗り込んだ城郭の広場には大勢の住民が集まっていて、その中心で二本の直柱に磔にされていた沙那が住民たちから交替で凌辱されていた。
おそらく、住民は大がかりな道術で操られていたのだと思う。
微かではあるが宝玄仙は道術の匂いを肌で感じていた。
『移動術』で宝玄仙たちが出現したときに、離れた建物の屋根の上でこちらを見ていた鳥人族の女がいた。
多分そいつの仕業なのだ。
大きな霊気がその女から注ぎ流れているのも感じてもいた。
そして、それはさらわれて拘束されていた沙那自身にも及んでいた。
沙那もまた、あの鳥人族の女の支配に捉われていたと思う。
そのことにさえ宝玄仙は気がついていた。
しかし、油断した。
一度はその鳥人族の女が直接発したなんらかの『支配術』の道術を防御道術で撥ね返した。
それで鳥人族の女が驚愕と焦燥の表情を見せたのはわかった。
おそらく、あの女は自分の道術が通用しないという状況に遭ったことはなかったのだろう。
その鳥人族の女の焦りが小気味よかった。
それで気を抜いてしまった。
助け出した沙那がいきなり宝玄仙の唇に自分の口を重ねて口移しの昏睡剤を注ぎこんできたのだ。
それで宝玄仙の意識はなくなった。
結局、孫空女はどうなっただろうか……?
宝玄仙が意識を失ったことで『移動術』の結界の繋がりが途切れたはずだ。
操られた大勢の住民と屋根の上の鳥人の女を敵にして、昏睡した宝玄仙と操られている沙那を抱えては、さすがの孫空女もどうしようもなかったかもしれない。
ただ、万が一のことを考えて朱姫を残していた。
朱姫の道術力ならば、失われかけた『移動術』の結界の繋がりを保持させることが可能だったと思うが、あいつらうまく危機を乗りきってくれただろうか?
「ね、ねえ……、ほ、宝玄仙……」
声がした。
そばに光が当たるような場所が現われてそこに宝玉がいた。
「宝玉──? どうしたんだい、それは?」
宝玄仙は声をあげた。
眼の前の宝玉は素裸だった。
それはいいいのだが、宝玉の身体に手足がないのだ。
膝から下を切断された脚と二の腕の半分くらいで切断された腕の前倒しの不均衡な態勢で四つん這いになっている。
ここは意識体の中だ。
宝玉がそんな奇妙な姿でいる理由はないはずだ。
「わ、わたし、頑張ったわ……。何度も何度も……。意識を閉ざそうとしたの……。でも薬と鍼の技ですぐに無理矢理覚醒させられて……。ああ……こ、股間が熱い……。む、胸も……。ど、どうしてこんなに酷いことできるのかしら……。あ、ああっ……ひ、酷い……」
宝玉が股間に手をやるような仕草をした。
しかし、腕のない宝玉には当然股間など触れることはできない。
ただ肩が動いただけだ。
すると宝玉は泣くような大声をあげた。
そのとき、はっとした……。
いつの間にか宝玄仙自身も股間の疼きに耐えきれなくなり、自分の手を股間にやっていたのだ。
さっきはきちんと着ていたと感じていた衣類はなにもない。
宝玄仙も眼の前の宝玉と同じように素裸になっていた。
そして、自ら疼く股間を慰めていた。
それによって秘肉から沸き起こる快感はとてつもない愉悦であり、恍惚とした快美感を宝玄仙に与えている。
それに比べて、宝玉は相変わらず苦しそうに先のない腕を懸命に動かして悶え泣いている。
宝玄仙は宝玉に駆け寄った。
「なんでそんな姿なんだい、宝玉? どうしたんだい?」
宝玄仙は悶え動く宝玉の身体をがっしりと抱いた。
「ああ、宝玄仙──。わたしは頑張ったわ……。頑張ったのよ……」
宝玉が宝玄仙の腕の中で感極まって泣くような仕草で震えた。
そして、奇妙な違和感を覚えた。
それがなんであるかがしばらくはわからなかったが、やがて、こんなふうに宝玄仙が意識の中で宝玉に触れるなど初めてのことだと思い至った。
だが、いま、宝玄仙は確かに実体として宝玉を触っている。
もちろんそれは、意識のことにすぎないのだろうが、意識の部屋の中で宝玉の身体を感じることができるとは思わなかった。
そのことに驚いた。
「ああ……触れ合えるのね、わたしたち……。あなたに触れられるのね……。う、嬉しいわ。宝玄仙……。わたし、ずっとこうしてもらいたかったの……。わたしを愛してくれる誰かにぎゅっと抱かれたかったの……」
宝玉は四肢を切断された奇妙な姿のまま、一生懸命に宝玄仙に身体を擦り寄せてくる。
「こ、これは……?」
「あなたはわたしを愛してくれるでしょう……。だって、この世のすべての人間が嫌うわたしだけど、あなただけはわたしを無条件に愛してくれる……。そのあなたに抱いてもらいたかったの……。う、嬉しいわ……、ああっ……」
手足のない宝玉は宝玄仙の腕の中でむせび泣いた。
宝玄仙はびっくりした。
「この世のすべての人間から嫌われているだって? 冗談じゃないよ。少なくともあいつらがいるだろう。沙那と孫空女と朱姫が──。あいつらもお前を愛しているよ」
「ち、違うわ。宝玄仙……。彼女たちが愛しているのはあなたよ──。あなたを愛しているの。わたしとは違う。あなたの中にいるわたしに、あなたを感じているだけで、彼女たちの愛情の本質はわたしに対してではないの……。そんなことはあなたも知っているでしょう?」
宝玉が怒ったように言った。
「そんなことはあるものかい」
宝玄仙は言ったが、内心では完全に宝玉の言うことを否定できないでいた。
さすがに宝玄仙でもあの供たちの心の深層についてまではわからない。
そもそも、えげつない手段で拘束して供にした三人だ。
あいつらが心から宝玄仙を愛しているのかと第三者に訊ねられたら、宝玄仙はそれを自信を持って肯定することはできない。
逆の立場なら宝玄仙はあんな手段で供にした主人を許すことなどないし、いまでもあいつらに優しくしたことなどない。
「わたしはあらゆる者に嫌われたわ。母はわたしを嫌ったし、蘭玉もそうだった。恋をした男には凌辱され、愛して愛人にした女たちはわたしを見限って捨てた。わたしはそういう女なのよ──。でも、あなたがいる。ああ……、もっと強く抱いて──。ついにあなたに触れられるようになったのね。嬉しい──」
宝玄仙は宝玉の求めに応じて、強く宝玉を抱きながら、宝玉の語ったことに首を傾げた。
だが、宝玄仙の記憶と宝玉の記憶には少し違いがあるようだ。
そもそもあの母親については、母親が宝玄仙を嫌ったのではなく、自分の愛人に宝玄仙を抱かせようとした母親を宝玄仙が捨てたのだ。
蘭玉については、確かに疎遠な時期はあったが、お蘭の里に立ち寄ったときに完全に和解ができている。
愛した男に凌辱されたというのは、あの
人格が異なったことで記憶まで違ってくるものなのだろうか……?
「……でもあなたは別よ。それだけは断言できる。あなたはわたしを愛してくれる。そうよね、宝玄仙?」
「わたしはお前自身だよ。愛しているのは当たり前だろう」
宝玄仙は宝玉を抱きながらとりあえずそう言った。
それにしても、宝玉の様子はただ事ではない。
神経の昂りが異常だし、宝玄仙への態度が狂喜じみている。
おかしな姿で意識体の中に現れたことも考えると、外の世界でなにかあったのだろうか……?
「違うわ──。宝玄仙、それは違うわ」
突然、宝玉が顔をあげた。
その顔は快感に上気しているが真剣だ。
あまり見ることのない必死な宝玉の表情に宝玄仙は内心で当惑した。
「なにが違うんだい?」
「あなたはもう気がついていると思ったけど……?」
「なんに気がついているんだい、宝玉?」
宝玉はきょとんとしている。
しかし、宝玄仙もなにを宝玉が主張しようとしているのかわからない。
「ほ、本当にわからないの、宝玄仙?」
「もってまわった言い方はやめるんだよ──。さっさと、言いたいことを喋りな、宝玉」
宝玄仙は怒鳴った。
すると宝玉が目を丸くした。
「や、やっぱり、あなたとわたしはもう違うのね……。あなたに触れられることができたとき、もしかして、そうかもしれないと思ったけど、本当にそうなのね」
宝玉が呟いた。
「はあ?」
宝玄仙は宝玉の当惑にますます混乱した。
「じゃあ言うわ、宝玄仙……。どうして、わたしたちはこうやってお互いに触れることができるの? 以前、こんなことができたかどうか覚えている?」
「以前って……」
宝玄仙は記憶を辿ったが、こんなことを意識の部屋でやったことはないはずだ。
そもそも最初は、言葉を交わすことしかできなかったのだ。
闘勝仙の性奴隷だった日々の中で突然出現したのが宝玉の人格であり、存在を感じただけだ。
とにかく、それで意識の中で言葉を交わすようになった。
それがいつの間にか相手の姿を見られるようになり……。
そしていま……。
「わたしにはわかったわ。あなたとわたしは、はっきりとしたふたつの人格に分かれようとしているのよ……。いえ、もう完全に分かれたのかもしれない。最初はあなたはわたしの一部であり、わたしはあなたの一部だった。だから言葉を交わすなどあり得なかったし、曖昧すぎて存在を意識することもできなかった。だけど時間が経って、お互いの存在がしっかりと独立することで、違う人格として成立してきたのよ。それがあたしたちのこの関係だったのよ」
「だから、なんなんだい?」
「存在すら気がつかなかった状態から声をかわすことができる状態になり、やがて、相手の姿が見られる状態になり、いまはお互いに触れる実感がある……。つまり、これはわたしたちがそれぞれに独立している過程なのよ。わたしたちは違う人間に育とうとしているの。そして、違う人間になった。だから相手を実体として感じることができるのよ」
宝玉は一気にまくしたてた。
宝玄仙は驚いた。
しかし、言われてみるとそうかもしれないと思う。
少し前は宝玉の考えていることは、宝玄仙自身の思考として取り込むことができたし、宝玉の感情は自分の一面であるかのように感じることもできた。
考えてみれば、少し前からそういう感覚はなくなっていた。
いまは言葉を使わなければ宝玉と意思の交換が難しくなっている気がする……。
「わたしもそうよ。わたしはあなたを感じにくくなっている。もちろん、あなたの耳目を使って、あなたが見聞きした出来事は認識できるけど、以前のようにあなたの感情までわからないもの。あなたとわたしが離れようとしているの……。なんとなくそれがわかったの──。つまり、もうあなたとわたしが同じ人間だとは必ずしも言えないということよ」
宝玉が言った。
宝玄仙は考えた。
ある意味では宝玉は正しいのかもしれない。だが、それだけではない気もする。
この身体には宝玄仙自身でさえ理解できないことが多すぎるのだ。
いつかここで逢った「原宝玉」の存在のこともあるし、人格統合の役割だけのための存在のこともある。
そもそも宝玉は、宝玄仙と宝玉のふたりの記憶を制御できるが、宝玄仙にはそれはできない。
宝玉と宝玄仙が独立した対等の存在になろうとしているのだという宝玉の意見は完全には納得できない。
まあ、いずれにしても以前はできなかったお互いの触れ合いということを意識の部屋で感じることができるようになったというのは事実だ。
宝玄仙は宝玉を抱きながら思った。
「まあいいさ……。それよりも、この状況を説明しな。なぜ、わたしたちの身体は疼くんだい? お前がそんな姿なのはなんでだい?」
宝玄仙は言った。
いまこうしている間も強い官能の疼きを感じる。
特に股間と胸が熱い。
小さな虫が這い回って性感帯をくすぐり続けているような感覚だ。
「説明するわ……」
宝玉はつらそうに語り始めた。
その内容に宝玄仙はびっくりした。
そして、言葉としての宝玉の説明が進むにつれて、それが宝玄仙の記憶として入ってくる。
言葉の説明によって、宝玄仙と宝玉の記憶の同化が起こっているようだ。
青獅子……
宝玉が語ったその名の人物の姿が宝玄仙の頭に次々に浮かんで頭に刻み込まれた。
「あ、あいつら……」
宝玄仙の中に激しい怒りが湧き起こった。
そいつらは寄ってたかって宝玄仙の身体を弄くり、おかしな身体の改造をして、宝玉を責めいたぶって笑いながら、一本一本手足を切断していったりしたのだ。
しかも、この宝玄仙を魔法石の培養雌畜にしようという……。
その連中に対する憎悪の感情でいっぱいになったとき、いつの間にか自分の身体が宝玉と同じように手足のない身体になっていることを発見した。
「こ、これは……?」
「ああ、宝玄仙……大丈夫……?」
宝玄仙と並ぶように四つ脚で立っている宝玉が言った。
全身の疼きは最初のときよりも激しいものになっている。
これはどういうことなのだろう……。
深層意識が外の世界で加えられた身体の改造や家畜化を受け入れてしまったということか……?
宝玄仙は当惑した。
そのとき眼の前で、明るい光がなにもない空間を大きく照らし出した。
「また強引に覚醒されようとしているわ……」
宝玉が怯えた口調で言った。
いまは、宝玉の怯えがはっきりとわかる。
さっき伝わった宝玉の束の間の記憶とともに、宝玉の怖れと怯えが宝玄仙にも流れ込んだからだ。
もっとも、それは宝玄仙自身の感情とは結びつきはしなかった。
それが知識として伝わっただけだ。
それがいまのふたりの限界なのだろう。
「わたしがいくよ……」
宝玄仙は言った。
「い、いえ、わたしがいくわ。まだ頑張れる……。あなたと話ができた。あなたとやっと触れ合えた。それがあればわたしは頑張れる……」
宝玉が言った。
“頑張る”と言った宝玉の言葉は、言葉以上の意味がある。
宝玉にしても宝玄仙にしても、受ける苦悩が心で支えられなくなると、新たな人格を産みだす可能性があるのだ。
新たな人格の出現は、この身体に備わる心の混乱でしかない。
少し前に突如現れた新たな人格は、自殺願望の強い危険な存在でもあった。
だから、宝玄仙にしても、宝玉にしても、心の崩壊が起きないように自分を保つことが必要なのだ。
「頑張る必要はないさ……。いまはわたしが行くからね。わたしが“頑張れ”なくなったら、お前が頑張っておくれ」
宝玄仙は言った。
「でも……」
「それよりも、おいで──。これまでそいつらを相手に頑張ったよ……」
宝玄仙は宝玉を仰向けにすると、その身体に上から重なった。宝玉の股間はびっしょりと濡れていた。
宝玄仙は舌を宝玉の股間に伸ばした。
手で触れることができるのだからこんなこともできるはずだ……。
「あふううっ……す、素敵──ひううっ──」
宝玉が身体を跳びはねさせて身をよじった。
しかし、構わず宝玄仙は無遠慮に宝玉の股間の亀裂に舌を割り込ませる。
「あ、ああっ……あ、あああはああ……が、我慢できない……」
宝玉の悲鳴が迸る。
宝玄仙は苦笑して少しだけ顔をあげた。
「我慢する必要はないさ……。頑張ったから、わたしが愛してやるよ。だから頑張るんだ。いいね、宝玉」
「わ、わかったわ……が、頑張るわ……あはあ──」
再び宝玄仙は舌を宝玉の股間に這わせた。
肉芽の周りを舐め、舌で弾き、女陰を寛げるように舌を動かし、穴に舌を潜り込ませて内側を刺激してやる
宝玉は悲鳴をあげて悶えた。
宝玉の匂いを感じる。
愛液の滴りも……。
愛し合うことで、さらに宝玉の存在をはっきりと認識できるようになった気がする。
ふと横目で見ると、さっきの光がだんだんと強くなっている。
時間がないのだろう。宝玄仙は舌の動きを激しくした。
「ひひゃあああっ──」
宝玉が悲鳴のような声をあげて喘ぎ狂った。
異常なほどの反応だ。おそらく、想像を絶するほどの快感が宝玉を襲っているに違いない。
それくらい宝玉は完全に狂乱していた。
「あ、ああ、だ、駄目えっ──」
宝玉の身体ががくがくと大きく震えた。腰を激しく痙攣させて呆気なくのぼりつめた。
「はううっ」
次の瞬間、宝玄仙の身体にも大きな快感が襲った。
宝玉の絶頂に合わせて、同じものが宝玄仙にもやってきたのだ。
宝玄仙にもなにが起きたかわからない。
だが、同じ身体に宿るふたりが情交で快感を昇り詰めたとき、不意に感覚が同調したのだと思う。
宝玄仙は束の間、宝玉と身体を合わせながら絶頂の余韻に浸った。
やがて、宝玄仙は四つん這いの身体を動かして、宝玉の上からおりた。
そして、光に向かって進む。
いまでは、耐えられないほどの明るさになっていた。
「宝玄仙──」
宝玉がはっと気がついたように名を呼んだ。
「外で起きることはお前への試練だと思いな、宝玉──。頑張れば、わたしがご褒美をやるよ、宝玉。だから頑張るんだ──」
「ああ、頑張れる。あなたのために頑張るわ、宝玄仙──。だから──」
宝玉が叫んだ。
「もちろん、わたしも頑張るさ……。だから、今度はお前がそのご褒美にわたしを愛しておくれ」
宝玄仙はにっこりと笑って光の中に身を委ねた。