孫空女はたった一発の鞭でがっくりと腰を落としかけた。
痛みもあるのだが、それよりも鞭が身体に巻きついて離れていくときに肌を擦り抜けていくときの刺激が孫空女を苛んでいる性感を抉ったのだ。
「はあっ──」
思わず孫空女は悲鳴というよりは嬌声に近い声をあげて身体を崩してしまった。
同時に自分が戦いの最中にそんな甘い声を出してしまったことにびっくりした。
「倒れるには、まだ早いよ──」
次の瞬間には孫空女が身体を傾けかけていた方向の脚に鞭が飛んだ。
膝の周りを中心とした太腿からふくらはぎにかけて大きな音が鳴る。
今度はさっきとは異なって、骨まで響くような激痛だけの打撃だ。
孫空女は反射的に打たれた側の反対に身体を飛ばした。すかさずまた逆側から鞭が飛ぶ。
怖ろしい激痛だ。
たったの数発で孫空女の神経を破壊してしまうようだ。
孫空女の両膝から完全に力が抜ける。
しかし、孫空女が前に倒れかけると、次は正面から両肩が打たれて身体を強引に起こされる。
さらに、後ろに身体がのけ反ると、今度は鞭が回り込んで背中を打つ。
信じられないほどの素早さだ。
鞭が動くのがほとんど見えないのだ。動いたと考えたときには、すでに身体のどこかを打たれている。
しかも、孫空女が右に倒れそうになれば右から衝撃が走り、左に倒れそうになれば左から鞭が襲う。
前にも後ろにも倒れられない。
少しでもぐらりとなれば、必ず鞭が逆に飛んでくる。
右に左にと、あるいは前に後ろにと翻弄されながら、孫空女は寓天が孫空女を倒れさせないようにわざとなぶっているということに気がつくしかなかった。
しかも、人間の女の身体のどこを打てば耐えがたい痛みが走るのかを知りきっている鞭の打撃だ。
それが正確に孫空女の痛点の急所を打ってくる。
必死に腕で避けようとするのだが、寓天の鞭はそれを嘲笑うように、容赦なく孫空女の腕を避けて裸身を打ちつけてくる。
孫空女の身体はあっという間に、鞭による蚯蚓腫れに覆われた。
「人間族の柔らかい肌なんざ、その気なればずたずたに切り裂けるんだけど、お前のことは、どうやらここで男たちがよってたかって犯すことになっているようだから、蚯蚓腫れ程度で手加減してやるよ──。犯された後で男たちに全身に傷薬でも塗ってもらいな。一日もすれば、また男たちが可愛がってくれるような綺麗な肌に戻るよ──」
寓天が笑いながら鞭を振るう。
今度は痛みよりも不快さが上回るようなあの鞭だ。
両側から襲った鞭が孫空女の左右の太腿に同時に巻きついて脚の付け根から膝の後ろにかけての部分を舐めるように擦っていった。
「あはあっ」
全身の力という力が一気に抜けた。
鞭の痛みなのに、まるで愛撫でも受けたような強烈な振動が鞭を打たれた場所から迸ったのだ。
試合場の外は大歓声だ。
寓天の腕の鞭に翻弄される孫空女にからかいの言葉と卑猥な野次を浴びせ続ける。
もう駄目だ──。
このままこの鞭を打たれ続けたら大変なことになる──。
孫空女は恐怖した。
その孫空女に鞭が飛ぶ。
胸の真ん中に当たり、左右の乳房を大きく揺らしながら臍から下腹部の亀裂にかけて鞭が擦り落ちた。
眼もくらむような大きな疼きが股間から脳天に弾け飛ぶ。
孫空女はがっくりと膝を折って、身体が前のめりに倒れるのを感じた。
「こりゃあ、感じすぎて愉しい身体だよ──」
寓天が笑いながら鞭を振った。
鞭が襲ってくる──。
ほとんど無意識の行動だった。
孫空女の両手は胸と股間を同時に打擲しようとしていた寓天の鞭を自分の手首に巻きつけていた。
手首に鞭を巻きつけたまま、孫空女はとっさに鞭状の細い腕の途中を掴んだ。
孫空女の手首に巻きついていた鞭先が外れて、鞭が寓天の身体に戻ろうとする。
しかし、今度は孫空女は、自分から腕をからめてそれを防いだ。
「へへ……。うっとうしい鞭だけど、捕まえてしまえばこっちのものだよ……」
孫空女は二本の鞭の腕をしっかりと掴んで寓天を睨みつけた。
これまでに打たれ続けた鞭の衝撃で、腰から下が痺れたように震えていたが、まだなんとか戦える。
孫空女は腕に巻きつけた鞭状の腕をゆっくりと手繰り寄せながら寓天との距離を縮めていった。
「ほう、ただの淫乱かと思ったら、見かけによらず少しは骨があるようだね。あたしを本気にさせた人間族なんて初めてだよ──。しかも、そんな状態でねえ……。あんたとは、できれば普通の状態で戦ってみたかったね」
寓天は嬉しそうに微笑んだ。
その余裕に腹が立つ。
「わ、悪いけど、こっちは人質をとられて真剣なんだ──。もう、片付けさてもらうよ」
孫空女はいっきに腕に絡めた鞭の腕を引っ張った。
相手の身体がこっちに倒れたところを頭突きでも拳でも蹴りでも叩きつけるつもりだ。
「うわっ」
しかし、力の限り引っ張った鞭の腕がいきなり孫空女が握っている部分を残して切断された。
引っ張った勢いのまま孫空女は後方に倒れ込んだ。
そのまま倒れるところだったが、胴体が試合場を囲む縄にかかり、なんとか仰向けに倒れなくて済んだ。
「あたしの鞭を掴むことができるとは大したものだよ、孫空女……。だけど、切り離し自由とは思わなかったろう」
寓天が声をあげて笑った。
しかも、寓天が自ら切断した箇所から先の部分がもう再生している。
あっという間に寓天の鞭状の腕は元の長さに戻ってしまった。
「と、蜥蜴の尻尾かよ──」
孫空女が悪態をついた。
試合場の反対側にいる寓天の腕の鞭が勢いよく振りあがるのがわかった。
孫空女は鞭の予感に歯を喰いしばるとともに、両手を前にして裸身を守ろうとした。
ところが次の瞬間、不意に腕に大きな圧迫感が走った。
腕に巻きついている鞭がぎゅっと締まったのだ。
しかも、背中にある試合場の周囲を囲む五本ほどの縄の真ん中くらいに切断された部分を巻きつけさせた。
「な、なんだい、これ──?」
孫空女はびっくりした。
寓天の鞭の腕は、自ら切断して失った部分を簡単に復活できるだけではなく、切り離した部分についても寓天の意思で動かせるのだ。
それを悟ったときにはもう遅かった。
右手は完全に試合場を囲む縄にとられて手首を巻きつけられている。
それを外そうとした左手首についても、強い力で引っ張られて、やはり手首を縄に巻きつける。
孫空女は寓天に身体を無防備に向けて、両手首を腰の左右で縄に拘束されてしまった。
「あたしの腕は、たとえ分断させてもあたしの意思で動かせるのさ。驚いたろう……? だけど、この手の内を見せたのは久しぶりだよ、孫空女」
寓天の鞭の腕が動いた。
鞭が孫空女の拘束された両手と胴体のあいだをすり抜けて両脇に食い込んで背中を襲った。
「ぐああっ」
孫空女は身体を仰け反らせて悲鳴をあげる。
鞭はさらに後ろ側から身体に巻きつき乳房の上下に絡んで擦りながら離れていく。
痛みよりも異常なほどに敏感になっている乳房を激しく揺らされる刺激が孫空女を狼狽させる。
「あはあっ──」
自分でもびっくりするような甘い声が出る。
見物をしている兵たちが一斉に歓声をあげた。
孫空女は自分の醜態に対する羞恥でかっと身体を熱くなるのがわかった。
「鞭で打たれて感じるなんざ、とんだ変態だね」
寓天が笑った。
「お、お前、わざとやっているだろう──」
孫空女は喚いた。
「わざとってなんだい、孫空女? 鞭打たれて感じたような声を出すからからかってんだよ。痛いのが気持ちいいなんてのは、お前が変態なんじゃないのかい」
寓天の言葉に周囲が一斉に囃し立てる。あまりの口惜しさに孫空女はぐっと唇を噛んだ。
しかし、言われてみると鞭打ちに快感を覚えるなんて、どうかしているような気がする。
だが、孫空女は確かに、鞭の痛みの中に甘いざわめきのような感覚を覚えたのだ。
だが、考えてみると、寓天は孫空女を鞭打っているだけだ。
それで快感を覚えるなど、孫空女の身体がおかしいのかもしれないとも思った。
「ふふふ……、まあいいよ……。痛いのが好きならそうしてやるよ……。だけど、さっきも言ったけど、三十発もつのかねえ……。鞭打ちをやめて欲しければ、この試合場で犯してくれとお前から頼むんだ──。あたしは女だから、犯しやしないけど、人間族の女を犯したい亜人はいくらでもいるからね」
寓天がにんまりと微笑む。
冗談じゃない──。
犯されることはもう覚悟しているが、自分から屈服することなどあり得なかった。
しかし、どうせ、こいつらはなんだかんだと孫空女を弄んだ挙句に、凌辱するに違いない……。
とにかく孫空女は試合場の外側の縄に締めつけている拘束を外そうと、切断された鞭状の手が巻きついている両手首に力を入れた。
だが、寓天から切り離された鞭の腕先は、孫空女が力を入れるとそれに応じてぎゅっと手首を締めつける。
やはり、意思を持っているようだ。
筋肉を弛緩されている今の孫空女の状況では、これを外すのは難しそうだ。
「あ、あたしをご主人様や仲間に会わせると約束しな……。そうしたら、いくらでも犯させてやるよ──」
孫空女は捨て鉢に叫んだ。
寓天に向かって叫んだのではない。
試合場の外で見ている
しかし、寓天はそれが面白くなかったらしい。
「どこを見ているんだい、孫空女──」
右の太腿が打たれ、一瞬後に左の脇腹を鞭が舐めた。
「ぐっ」
孫空女は迸りかけた声を必死で抑えつけた。
今度は、さっきのような快感と激痛が混じりあったようなおかしな衝撃ではない。
痛みそのものだった──。
怖ろしいほどに無慈悲で──。
残酷で──。
意地悪な二発の鞭打ちだ。
腿を襲った鞭はまるで鋭利な刃物で肌を突き刺され、そこを木の棒を抉られてぐりぐりと傷口を掻き回されるような痛みだ。
しかし、実際には肌は破けずに、孫空女の裸身に細い蚯蚓腫れをつけるだけだ。
一方で、脇を襲った鞭は打たれた場所そのものよりも、身体のもっと深い部分の芯を直接に襲うような激痛だ。
打たれたのは外側なのに、痛みは身体の内側からやって来るのだ。
同時に襲った左右の鞭の痛みはまるで違う。
この寓天は、種類の違う鞭打ちを時間差をつけて打つ効果を知り尽くしているようだ。
「声を出さないつもりかい──。面白いねえ……。やってごらん──」
全身を寓天の鞭が襲い始める。
脇の下──。
背中──。
腹──。
太腿──。
寓天の両腕は寓天の胸の前で組まれていて、仁王立ちの寓天は孫空女と少し離れた位置で少しも動いていない。
動いているのは、胴の脇から出ている三番目と四番目の腕だけだ。
それにも関わらず、鞭状の腕は、孫空女を四方八方から打っているかのように、予測のつかない角度で襲い続ける。
まるで骨が砕けたかと錯覚するような痛みだ。
それが全身に迸り続ける。
それでも孫空女は声だけは出さなかった。
意識が飛ぶような激痛の中で、必死の思いで口を閉じ続けた。
打たれた鞭の数は十発を超え──すぐに二十発に達した。
それからはもう数などわからなくなったが、鞭打ちの数は三十発どころか、倍の六十発にもなったかと思う。
孫空女の身体は縛られている手首を残して、がっくりと前に倒れた。
するとくるくると胸の上下に鞭先が絡みついた。
そして、孫空女が背負っている縄に絡んで、孫空女の上半身を起きあがらせて固定する。
孫空女の胴体の固定が終わると、その鞭先はまた切り離される。
切り離された半分以上の長さを失った寓天の鞭はすぐに復活していく。
「生意気な人間族の女だよ──」
すでに寓天の顔から余裕のようなものが消えて、焦りのようなものが浮かび出しているのはわかった。
それにつれて、寓天の鞭はさらに容赦のないものに変化していっていた。
そして、さらに苛酷な鞭責めが襲った。
これまで直接的には打たれなかった下腹部そのものに鞭先が弾き飛んだのだ。
それでも一回は脚を踏ん張って耐えたが、寸分違わす同じ場所に二度目の鞭を受けたときには、もう耐えられなかった。
「んんんっ──」
孫空女はあまりの衝撃と激痛に全身を限界までのけ反らせた。
力を失いかけていた全身の筋肉という筋肉が突っ張る。
そして、次の瞬間に完全に脱力して前のめりに倒れ込む。
しかし、さっき胸に巻きついた鞭状の手の蔓が孫空女が床に倒れるのを防ぐ。
「まだ、声を出さないのかい。じゃあ、もう一発だよ──」
寓天は怒りのようなものを顔に浮かべて、真っ赤な顔でさらに同じ場所に向かって鞭を飛ばす。
「んんっ」
孫空女は今度は膝を曲げて腿で受けとめ、なんとか下腹部への直接的な打擲を避けた。
さすがにこれだけ打たれ続ければ、眼も慣れてくる。
最初の頃のように、鞭がやってくるのがわからないというようなことはない。
「その脚が邪魔だよ──」
両方同時に足首に鞭先が絡みついた。
鞭先が切断されて、両側に孫空女の脚を拡げていく。
すでに全身の力が抜けている孫空女の脚はまったく抵抗できないまま、大きく脚を拡げられてしまう。
すぐに切断された鞭先がまた縄に絡みついて、脚を固定してしまう。
「じゃあ、残り五発だ──。五発の全部をその股ぐらに打ちつけてやるよ──」
完全に寓天は怒っているようだ。
最初に三十発で孫空女を陥すと宣言して、倍の鞭を打ちつけても孫空女は耐えている。
おそらくそれは彼女の誇りを傷つけるようなことなのだろう。
抵抗の手段を失って、ただ寓天の鞭を打たれるだけのことしかできない孫空女には、それだけが少し溜飲がさがることだった。
いずれにしても、両手首、胸の上下、両足首を背後の試合場を囲む縄に括りつけられた孫空女には、正面から襲う鞭を防ぐ方法が完全になくなった。
これから寓天の宣言した股への打擲を受けても、もう、ただ耐えること以外にはなにもできない。
「一発目だよ」
鞭状の腕を復活させた寓天が叫んだ。
火のついた松明を股間に押しつけられたかと思うような衝撃が股間に走った。
かろうじて声だけは出さなかったが、残り四発など絶対に受けることは不可能だと思った。
しかも、一発といっても左右から襲う鞭はわずかな時間差を設けて二発が襲ってくる。
痛みの性質の異なる二発の鞭を股間に続けざまに打たれた衝撃で、孫空女はすでに一回目にして、自分の意思が砕けかけていることを悟るしかなかった。
「二発目だよ──」
二発目を受けた。これは気力で打ち勝つなど無謀だと思った。
「まだ、声すら出さないのかい──」
寓天の形相が憤怒に包まれている。
三発目──。
四発目──。
孫空女は必死の思いで顔をあげて寓天を睨んだ。
抵抗できることはそれしかないからだ。
朦朧となっている視界に、焦った表情の寓天の姿が映った。
「それっ」
二本の鞭が同時に肉芽そのものに飛んだ。
「んんがああっ──」
孫空女は吠えた。
必死でつぐんだ口からは完全に悲鳴が迸っていた。
一瞬にして孫空女は目の前が真っ暗になり、拘束された身体が脱力するのがわかった。
がくんという振動で少し意識が戻った。
はっとした。
ほんの一瞬だと思うが失神したのだと思う。
そして、愕然した。
自分の股間からじょろじょろと尿が流れていた。
失禁したのだ。
孫空女はあまりもの恥辱にぐっと唇を噛みしめた。
しかし、股から流れ続ける尿はとまらない。
しばらくのあいだ、孫空女は恥辱の放尿姿をそこで晒し続けるしかなかった。
「だ、出すもの出したら、すっきりしたよ……。じゃ、じゃあ、いくらでも打ってきな……」
それでも、放尿が終わると、孫空女は寓天を睨んで呻いた。
どんなに醜態を晒しても、屈服だけはしない……。
最後の最後の気力で、孫空女はそれだけを思った。
笑うなら笑えばいい……。
凌辱するならすればいい。
殺すなら殺せばいい……。
しかし、絶対にこっちから犯してなどとは言わないし、自ら命令には従ったりはしない──。
それだけを強く思った。
だが、なんとなく周囲がざわめいている。
孫空女の失禁を嘲笑しているというよりは、期待が外れたことに失望しているような感じだ。
試合場の兵たちもそれほど騒いでない。
どちらかといえば静まりかえっている。
「お、お前……。な、生意気だよ──」
やがて、寓天が震えた声で言った。
寓天の顔に明らかな屈辱感が滲み出ていることに孫空女は気がついた。