「この甘い香りを覚えるんじゃぞ、宝玉とやら……。といっても、覚えざるを得んじゃろうがのう……。わしの道術が効いておるからな。この香りがお前の人格が表に出る合図じゃ。しっかりと心に焼き付けよ」
宝玉の鼻の穴には蝦蟇婆の道術の刻まれた鼻輪がつけられているが、その鼻輪から蝦蟇婆の言及する甘い香りが強く匂い続けている。
菓子を思わせるような香りだ。
この香りをずっとかがされ続けているのだ。
「わたしの人格支配の薬剤と蝦蟇婆の道術で、あんたは、この香りを嗅いでいるあいだは、もう気絶も人格交代もできないはずよ。だから、たっぷりと遊びましょうね、玉」
この身体に宿る人格が、「宝玉」と「宝玄仙」だと知り、このふたりが新たに作ったのが、“玉”という呼び掛けだ。
“玉”が宝玉、“宝”が宝玄仙ということだ。
輪廻の言葉のとおり、繰り返された蝦蟇婆の暗示で、宝玉の頭に完全にこれが心を縛る香りとして刻まれてしまっている。
そのことを宝玉も悟っていた。
「さて、ところで、お前たちが東方帝国という場所で受けた闘勝仙という男からの調教の話は、なかなかに愉快じゃったな。だが、この身体の秘密について、隠していることが、まだまだあるじゃろう? 全部、話さんか」
「か、隠し事なんてしてない──。もう、これ以上はいたぶらないで──」
宝玉は悲鳴をあげた。
「ならば、身体に訊ねるしかないのう」
蝦蟇婆が、また宝玉の拘束された身体に、手を這わせてくる。
しかし、いまの宝玉は、どんなに快感を加えられても、それを発散できないようにされている。
だから、蝦蟇婆や輪廻から繰り返されている愛撫は、いまや苦痛でしかない。
宝玉は局部を責める蝦蟇婆の手管に悶え呻いた。
繰り返された訊問において、宝玉は問われるままに、宝玄仙と宝玉という人格がこの身体に宿っていること――。
そのきっかけとなったのが、
一度堰を切った告白は、もう宝玉にはとめることなどできなかった。
宝玉には、この輪廻と蝦蟇婆が、この数日間食事に混ぜて服用させ続けた薬物が影響している。
その薬物はこのふたりに対する心の抵抗を削ぐ効果があり、その薬物が自白剤の効果を発揮して、宝玉は問われるままに、この身体の秘密について喋らされてしまったのだ。
「どれ、もっと口が軽くなるようにこうしてやろうかのう──」
蝦蟇婆の手が宝玉の胸に伸びる。
そして、左右の乳首の根元に糸が結ばれて中心に向かって絞りあげられた。
「ひうっ──。ああ……そ、そんな……」
怖ろしいほどの感度になっている乳首を糸で引っ張られる痛さと疼きで宝玉は泣き声をあげた。
「ほう、乳首を痛めつけられると股間から淫汁が溢れるようじゃ……。さっきの闘勝仙とかいう男たちに躾けられたのか、宝玉?」
蝦蟇婆が意地悪い口調で両方の乳首を繋げている糸を弾き続ける。
「も、もうなんでも話したわ……。こんなことをやめて……」
宝玉は糸を繰り返し引かれて喚き泣いた。
ずっと装着されていた乳首の金具は、これから乳房の施術を受けるということで外されていたのだが、その代わりに今度は乳首の根元に糸が締めつけられたというかたちだ。
この輪廻の診察室で短い四肢を開いて寝台の上に拘束されてから、もう数刻は経ったのではないだろうか。
その間、ずっと、快楽責めが続いている。
蝦蟇婆と輪廻のふたりは、宝玉にこの人格の秘密を暴露しろと迫り続けている。
だが、宝玉には、もう、なにかを隠しているという気持ちはない。
喋るべき内容が出てこない宝玉は、ひたすら快楽責めの苦役を受け続けるしかなかった。
白状する情報を持っていないのに、それを言えと、ずっと拷問されている気分だ。
「もっと話すのよ……。さもなければ、やめてなんかあげないわよ……。そうだ、蝦蟇婆、この乳首を結んでいる糸を肉芽に結んでしまいましょうよ。それで敏感な乳首と一緒に肉芽も責めてやったらいいわ」
輪廻が言った。
「話したわ──。もう、話すことなんてないの──。そんな酷いことしないで──」
「よく言うわよ、玉──。もうひとりの宝玄仙という女とあんたは、したたかさが違うようね……。もうひとりの性格の強い宝は、気が強いけど単純そうね。それに比べて、あんたは弱々しいふりをして、結構計算高く振る舞うところがあるようね──。まだ、あんたと宝とどちらが主な人格なのか説明していないじゃないの──。ふたりのうち、両方の記憶を司っている人格はどっちなの? あんた? それとも、宝?」
輪廻も宝玉の局部を繋いでいる糸に手を伸ばした。
そして、荒々しく指で弾く。
「ひゃああ──。も、もう堪忍して──。わ、わたしよ……。わたしが両方の記憶を持っているの──。や、やめて──」
「へえ、あんたが主な人格なのね……。それは意外ね。あの気の強い宝が元の人格かと思ったわ……。どっちにしても、敏感な身体ねえ。じゃあ、もっと話して頂戴。具体的には、どんな風に人格を交替するの? あなたが指令を出すの? それとも宝?」
「ひ、光が当たって……。そ、そこに入ったものが表に出るの……。はあっ、も、もう許して──」
「なにを許してじゃ……。肉芽がこんなに尖っておるではないか。満更でもなさそうじゃ。どうせ、薬物で身体も心も抵抗力が削がれきっておるのじゃ。もう、隠すことは諦めよ。なんでも、頭に思いついたことを話さんか──」
「いやあ」
宝玉は悲鳴をあげた。
蝦蟇婆の手が股間に伸びて、肉芽をまさぐり始めたのだ。
「どれっ──。久しぶりに皮を剥いてやろうのう。粒々の刺激で四六時中苛まれるのもよいが、それで鋭敏になった生の肉芽を弄られるのもよい気持ちと思うぞ……」
蝦蟇婆が宝玉の肉芽を剥きあげる。
そして、指先で擦りあげるように揉み込む。
「ひうっ、あふうっ──」
宝玉は泣き声を昂ぶらせながら拘束された全身を可能な限り仰け反らせた。
しかし、絶頂はできない……。
頭を白くするほどの快感が全身を駆け巡るだけだ。
宝玉と宝玄仙が宿るこの身体は、蝦蟇婆の道術で肛門以外のどの性感帯を刺激されても、脳天に絶頂の感覚が襲う前に遮断されるようにされている。
達しそうで達することのできなかった痛みにも似た疼きが宝玉の身体を蝕むのだ。
いまも、その快楽の苦痛が襲いかかってきた。
宝玉はその苦しさに悲鳴をあげた。
「相変わらず敏感じゃな、玉……。快感が溜まれば、薬物の影響で口も軽くなるじゃろう……。さっさと話さんか」
蝦蟇婆が乳首と乳首を結んだ糸の真ん中に新たな糸を足した。
その糸の先に輪を作った気配がした。
次の瞬間、宝玉の肉芽の根元がぎゅっと絞りあげられた。
「そ、そんな……も、もう……」
身体ががくがくと震えた。
「そんなに快感を溜めると、身体に毒ぞ、玉……。そうじゃ、こうしよう。このまま快感を溜め続けては可哀そうじゃならな。なにもかも喋ってしまって、わしらが完全にお前らの人格を支配することができたら、ご褒美に心いくまで昇天させてやるぞ……。だから、喋らんか。まだ、隠しておることがあるじゃろう?」
「も、もう、そんなのないわよ──」
宝玉は泣き叫んだ。
「口ではそう言うが、お前の身体はもっと苛めて欲しそうじゃぞ。股倉はまるで小便でも洩らしたようになっておるわ」
蝦蟇婆が左右の乳首と女芯を縛った糸をくいくいと引いて嘲笑した。
「後で片付けるのはあたしたのよ……。まったく大抵にして欲しいわね」
輪廻も軽口を叩きながら、面白がって乳首と女芯を責めたててくる。
「あふうっ、も、もう、やめてっ──。な、なにも喋ることなんてないわ」
宝玉は全身をのたうたせて泣いた。
ふたりに糸を引かれるたびに、女陰がうごめき蜜が溢れるのがわかる。
「そんなことはなかろう……。お前に効いている抵抗力を削ぐ薬物が、もうひとりのお前に効果がない理由を教えてもらってないからのう」
蝦蟇婆が笑いながら三角形に結び合わさっている糸を引っ張る。
じんという強い疼きが三個の局部に響き渡る。
それによって引き起こされた官能の波が全身に痛みのように沁み渡る。
「そんなのわかるわけないじゃないの──。知らないわよ」
宝玉は悲鳴をあげた。
宝玄仙に本当に薬物が効いていないのかどうかもわからないのだ。
この身体に宿る二つの人格への影響の差の理由など、宝玉が知っているはすがない。
しかし、このふたりは、宝玉と宝玄仙で、家畜化の薬物の効き目に違いがあると確信しているようだ。
そして、それを宝玉に説明しろと迫っている。
「もっと正直になるように特別な塗り薬をしてあげるわ」
輪廻が宝玉の視界に入るように小さな瓶を示した。
そこからたっぷりと自分の指にすくいとる。
「そ、それはやめて──」
その媚薬がなんであるのか宝玉はすでに知っている。それを塗られると、ずきずきと疼くようにその部分が熱くなり、次いで猛烈な痒みが襲うのだ。
冗談じゃない。
しかし、宝玉の哀願などふたりの嗜虐心を満足させる効果しかない。
輪廻はすっかりと濡れている女陰の襞にその薬物を塗り込んでいく。
一方で、蝦蟇婆は少しでも宝玉が抵抗の素振りを見せようとすると、糸を引っ張って宝玉の動きを封じてしまう。
だから、宝玉は、その怖ろしい薬剤をただ塗られるままにするしかない。
輪廻は魔法柱が埋まっているぎりぎりまで指を入れて薬を塗り込み、さらに糸が根元に食い込んでいる肉芯や乳首にも塗る。
そして、最後には、宝玉に刺激を与え過ぎないようにゆっくりとした手管で、たっぷりと肛門にも塗り込んだ。
「そ、そんな……」
宝玉はもうしどうしていいかわからずに、がくがくと身体を揺すった。
「動くでないわ」
蝦蟇婆が糸を引っ張って宝玉の身悶えを封じる。
すぐに塗られた部分が熱くなってきた。
それがあっという間に痒みに変化する。
局部が火のように燃えて疼きだす。
「ほれほれ……。言わんか。まだ、隠していることがあるに違いないぞ……。さあ、どこまで耐えられるのかのう」
蝦蟇婆が糸を引いて、また宝玉の身体を弄び始める。
「た、たまらない──」
宝玉は叫ぶしかなかった。
もう、なにがなんだかわからなくなり、我を忘れて叫んだ。
「き、気が変になってしまうわ──。た、助けて──」
「確かに気が変になったかのような反応ね……。ふふふ……」
輪廻が笑って、さらに薬物を塗り足していく。
「もう、なんでも喋ったわ──。ひいっ、も、もう殺して──。ひと思いに──」
宝玉は総身を引きつらせて悲鳴をあげた。
「死ぬことなどできんわ。たとえ舌を噛んでもたちまちに治してしまうからのう……。それに、いまのお前には自殺の気力もないはずじゃ。すっかりと薬が効いて、わしらに逆らうことができんようになっておるからのう……」
「そ、そんな……」
宝玉は狼狽えた声をあげた。
それからも、ふたりの執拗な訊問がしばらく続いた。
悶え泣き続けた宝玉の身体から、ふたりがやっと手を離したときには、宝玉はすでにまともな思考を保てない状況に陥っていた。
しかし、失神はできない。
気が遠くなるような感覚は何度も襲っていた。
しかし、どうしても、失神には至らずに意識を保ってしまう。
おそらく、それも人格支配の薬物と暗示によって、勝手に気絶できないようにされているに違いない。
何度も絶頂するほどの快感なのに、絶頂できない……。
何度も失神するほどの苦痛なのに、失神できない……。
まさに、性の拷問だ。
「これだけやっても、なにも出てこんなら、お前から、もうなにを訊いてもこれ以上の答えは出んようじゃ。ならば、もうひとりに訊問をするかのう」
蝦蟇婆が笑った。
しかし、宝玉は完全に脱力して、寝台の上でひたすらに荒い息を続けたるだけだ。
「待って──。じゃあ、その前に乳房の鋭敏化の施術を終わらせておくわ。大したものじゃないからすぐ終わるわ。もうひとりの気の強い宝玄仙は、その施術が終わってから引き出しましょうよ、蝦蟇婆」
輪廻がそう言って立ちあがった。
そして、なにかを脚に車の付いた台に載せて戻ってくる。
「あんたたちの乳房を肉芽と同じくらいの感度にしてあげるわ。豊乳化と乳腺の施術は、その敏感なおっぱいになった状態でやってあげるわね」
輪廻がそう言って、宝玉の乳房に細長い針のようなものを突き刺した。
「ひっ」
指ほどの長さの針が半分以上も皮膚の下に入り込む感触に宝玉は思わず身体を震わせたが、不思議にも痛みはない。
それよりも突き刺した場所からかっと熱い感触が込みあがるのがわかった。
「なんじゃい、それは?」
蝦蟇婆が輪廻に言った。
「
「んっ? そうだったか?」
「そうよ。こいつは力の強い道術遣いだから、道術を遣って変えられた身体は、道術で完全に戻せるけど、そういう道術以外の方法で施された身体への施術は、完全に元に戻すことは難しいようなのよ。それで思いついたのよ。道術ではない方法で責めることにしたのよ……」
「なんか意味があるのか?」
「あるわ。道術ではない施術なので、道術では直せないということよ。とにかく、これをすると乳房を肉芽と同じように敏感な場所として、頭が認識してしまうのよ」
輪廻が話しながら両方の乳房に次々に鍼を打ちこんでいく。
ただの一本も痛みはない。
乳房全体がどうしようもなく熱くなる。
「ふん、道術でも構いやせん。この家畜にはもう、道術など遣わせん」
「まあ、それでも、こいつは道術以外の方法で身体を弄くられる方が心理的に堪えるのよ。道術遣いだから道術には精神的な抵抗力もあるけど、道術以外に対しては実は怖がりなのよ」
輪廻が今度は鎖骨の付近に鍼を刺していく。
やがて、乳首に刺していた鍼を抜き始めた。
鎖骨に刺した鍼も抜かれていく。
「なんじゃい、もう終わったのか、輪廻?」
蝦蟇婆が拍子抜けしたような声をあげた。
「終わったわ。これで、こいつの乳房は肉芽と同じくらいの感度になったわ。試してみる?」
鍼はすでに全部抜かれた気配だ。
「本当か?」
蝦蟇婆がすっと宝玉の乳房に手を伸ばした。
その裾の部分をすっと指でひと撫でした。
「ふうううっ──な、なにっ──?」
宝玉はやってきた感触に悲鳴をあげてしまった。
蝦蟇婆の指が乳房を撫ぜた途端に、そこから稲妻のような痺れが乳房を駆け抜け、それが全身に拡がって身体をがくがくと震わせたのだ。
「はあっ、あっ、ああっ……」
身体を激しく揺すったことで、さらに糸で結び合わされている乳首と肉芽が強く揺れて、宝玉は続けて悲鳴をあげた。
「こ、こんなの……酷い……」
痺れが収まると、全身から力が抜けていた。
本当に信じられないくらいに乳房が敏感になっている。
肉芽と同じくらいの感度というのは本当のようだ。
宝玉は絶望的な気持ちになった。
「さて、じゃあ、お前にはとりあえず、引っ込んでもらおうかのう。このつんという刺激臭がしたら、意識を閉じよという合図じゃ。この匂いを嗅いだときには、お前であっても、もうひとりの宝であっても意識を失うことになる。それを身体で憶えてもらうぞ」
蝦蟇婆がそう言って、宝玉の身体に霊気を注ぎ込んだ。
その瞬間、鼻輪から漂い続けていた甘い香りが消滅して、つんという刺激臭がした。
宝玉の意識は急速に消滅していった。
*
気がついた。
「意識の部屋」だ。
眼の前に宝玉がいた。
手脚の短い四つん這いの姿であり、顔にはあの鼻輪まである。 意識下のこの世界の中で、身体の姿に外の状態が反映される度合いは、あの蝦蟇婆たちの支配が心に及んでいる程度に関わりがあるというのはわかっている。
つまり、宝玉はかなりの部分で連中の支配を受け入れかけているということだ。
それに比べれば、宝玄仙の側の手脚は、まだ切断されておらず、五体は通常の状態に変わりはない。
宝玄仙には、宝玉ほどには蝦蟇婆たちの調教が、心に届いていないということだろう。
「宝玉、なにがあったんだい?」
宝玄仙は言った。宝玉が宝玄仙の方に身体を向けた。
「ああ、宝玄仙……」
すると、宝玉がいきなりぼろぼろと涙をこぼしだした。
「また、蝦蟇婆たちが碌でもないことをやっているんだろうね」
宝玄仙は舌打ちした。
「わ、わたし、なにもかも喋ったわ。喋らされたの──。わたしたちに与えられていた薬物には、自白を強要する作用もあったのよ。心の抵抗力を失わせることで、質問されたことをなんでも答えてしまうの……。ごめんさい──。わたしたちのことをすべて喋らされた──。もう、駄目よ──」
宝玉は泣きながら言った。
宝玄仙は驚いた。
「わたしたちのことを喋っただって?」
「そうよ。ふたつの人格のこと……。わたしが記憶を司っていること──。闘勝仙の調教の日々がきっかけで、わたしたちの人格は分裂したこと……。旅のあいだに受けたたくさんの受難のことも洗いざらい言ったわ。なにもかもよ──」
「なにもかもかい?」
「その情報を使って、蝦蟇婆様たちは、わたしたち人格の出現の支配をしようとしているわ……。ご主人様たちは、外からの刺激で出現する人格を制御しようとして、薬物や道術を遣っているの──。もう、わたしは、かなりそれを受けれてしまったわ。わたしたちは支配された……」
宝玉は泣き続ける。
「あのくそ婆を“ご主人様”とか“蝦蟇婆様”とか呼ぶなと言っているだろうが、宝玉──。あんなのは“くそ婆”で十分だよ」
宝玄仙は怒鳴りあげた。
いずれにしても、もう、かなり宝玉は弱っている。
薬物の影響もあるのかもしれない。
やっぱり、この連中は、この身体に得体の知れない薬物を大量に服用させていたようだ。
おそらく、その影響が宝玉の側に集中して現れている……。
次の瞬間、いきなり薔薇の花を思わせる強い香りが漂ってきた。
「ああ……。これは、わたしの匂いじゃないわ。多分、あなたの匂いね……」
宝玉が言った。
「わたしの匂い? なにを言ってるんだい、宝玉?」
宝玄仙は訝しむ視線を宝玉に向けた。
だが、宝玄仙と宝玉のあいだに強い光が出現して、宝玄仙の言葉は中断された。
この身体に意識が戻ろうとしているのだ。
そして、光が宝玄仙を包んだ。
「な、なんだい?」
宝玄仙はその光に視線を向けて、思わず大声をあげてしまった。
光の当たる部分に、宝玄仙でもない、ましてや宝玉でもない誰かがいる──。
黒い影のようなかたちだが、はっきりと人のかたちをしている。
「ひっ、ひっ、ひっ……」
その影がいきなり笑った。
宝玄仙はびっくりした。
それは紛れもなく蝦蟇婆の笑いだ。
「次はお前じゃよ、宝──。この花の香りはお前の匂いじゃ。この香りを感じたら、表に出てくるのじゃ」
その影が言った。
宝玄仙は仰天した。
だが、なにも言い返すこともできない。
気がつくと、強い光の中にいたからだ。
光が強くなり、周りの景色が白い光に包まれて消えていった。
*
意識したのは、鼻を突く強い花の香りだ。
どうやら鼻に装着されている鼻輪から漂っているようだ。
おそらく、道術で作りだした香りだろう。
「次はお前じゃよ、宝──。この花の香りはお前の匂いじゃ。この香りを感じたら、表に出てくるのじゃ」
眼を開けると蝦蟇婆が宝玄仙を覗き込んでいた。
輪廻もいる。
ふたりが寝台のようなものに載せられた宝玄仙を見おろしている。
手脚が動かない。
身体を動かすと、じゃりじゃりと音がしたので、四肢が鎖で寝台の四隅に引っ張り繋げられているからだとわかった。
「お、お前らなにしているんだい──?」
宝玄仙は怒鳴った。
「おうおう、元気がいいのう──。宝じゃな。どちらかというと、こっちの宝玄仙の方が責め甲斐がって、わしは愉しいのう……。輪廻が施術の邪魔だというので、糸は外してやったぞ──。とりあえず、豊乳化の施術をしておる。そのあいだに、わしもお前に幾らか質問したいこともある」
その蝦蟇婆の言葉ではっとした。
乳房が重い──。
視線をなんとか胸に向けると、なにかの管のようなものが三本ずつ乳房に刺さっている。
すぐに霊気の籠った霊具だとわかる。
霊具の管が乳房に突き刺さっていて、その管を通じて液体のようなものをどんどんと送り込んでいるのだ。
よく見ると、すでに宝玄仙の乳房は普段よりもひと回り大きくなっている……。
「こ、このくたばり損ない──。変態医師──。お前ら、この身体になにしているんだい──。いい加減にしないと承知しないよ──」
怒りのあまり宝玄仙は怒鳴り散らした。
「本当に威勢がいいのう──。この状況で、わしらに悪態をつけるというのは、それはそれで大した根性といえるのじゃろうがのう……。それに、お前の人格には、わしらの与えた精神を弱らせる薬物の影響はまったくないようじゃ──」
「そうね。おそらく、闘勝仙とかいう悪者に対抗するために、外から与えられる薬物や道術の影響は、さっきの玉に一身に刻まれるようになっていて、外部の敵への攻撃を司るお前を護るような体質になっているんでしょう」
「まあ、そうやって役割分担をすることで、お前たちは、闘勝仙という男の支配と戦ったんじゃろうて」
蝦蟇婆が言った。
ぎょっとした。
闘勝仙との確執とか、人格のこととかをよく知っている。
そう言えば、宝玉がなにもかも喋らされたと言っていた。
このふたりは、宝玉を拷問して、無理矢理に色々なことを喋らせたに違いない。
宝玄仙は歯噛みした。
可哀そうな宝玉……。
薬物で犯されて、自分たちの秘密を暴露させられるのはつらいことだったに違いない。
同時に、このふたりに対する心からの憎しみが宝玄仙の中に込みあがる。
「かなり、大きくなったのう……。大きくなっても、さっきの感度には変化がないかのう」
蝦蟇婆がすっと宝玄仙の大きくなった乳房に指を伸ばした。
「ひゃああっ──、な、なに?」
蝦蟇婆の指が触れた瞬間に、乳房に強い痺れが襲ったのだ。
乳房が大きく波打つとともに、激しい官能の疼きが乳房全体から身体を駆け廻る。
「な、なんだい……?」
思わず宝玄仙は呟いた。
異常なまでの乳房の感度だ。
ちょっと擦られただけで、びりびりとした感触が全身を襲った。
「大きくなった分、感度もむしろ高くなったようじゃな……。輪廻、お前の施術は効果が続いているようじゃ」
「当たり前よ。もう、こいつの乳房は死ぬまで、肉芽並の鋭敏なこの感度のままよ」
輪廻が愉しそうに大笑いした。
そのとき、全身を違和感が襲った。
そして、次の瞬間には、それが猛烈な痒みとなって、宝玄仙に襲いかかった。
「か、痒い──」
宝玄仙は悲鳴をあげた。
少しもじっとしていられない痒みが宝玄仙を襲う。
宝玄仙は身動きできない短い手脚を限界までのたうたせた。
「痒み剤も効いてきたようじゃな。じゃあ、乳房が牛のように膨れるまで、訊問の時間といこうかのう」
蝦蟇婆が気味の悪い笑い声をあげる。
その手に一本の筆がある。
宝玄仙は、自分の身体が総毛立つのが、はっきりとわかった。