「そら、
宝玄仙は、四肢を拘束された鎖をいったん外されて、今度は天井から垂れている鎖を両方の前肢の蹄の部分に接続されて吊るされた。
「い、いい加減にしておくれよ──。も、もう、喋ったろう──。さ、さっき言った通りだよ──。魔法柱の入れ替えの隙を狙って、お前らを道術で圧倒する──。考えていたのはそれだけだよ──。そ、それより、痒いんだよ──。ひいっ──」
宝玄仙は宙吊りにされた短い身体を右に左にと激しく振り立てた。
しかし、ただ前肢を吊っている鎖がぎしぎしと鳴るだけだ。
また、眼はしっかりとつぶられている。
このふたりの顔を見ると、喉の奥になにかの膜のようなものが出現して、しばらく呼吸をとめられるのだ。
その恐ろしさが肌身に染み込んでいる宝玄仙には、眼を開けることが怖ろしくてできない。
「そうかい……。痒いのかい──。じゃあ、それは、くだらない企てを考えていたお前への罰だ。そうやって、しばらく身体を揺すってな──。
「うわっ──、はあっ──、や、やめておくれ──ひいっ──」
宝玄仙は吊られている身体を懸命にばたつかせる。
しかし、そんな動きでは、くすぐったい筆の攻撃を避けるためのなんの効果もない。
蝦蟇婆は宝玄仙の苦しみを増大させるための責めを知り尽くした手管で笑いながら、宝玄仙の全身に筆を這わせ回る。
宝玄仙は直接にふたりを見ないように注意しながら、眼を開いて身体に視線を落とした。
見えるのは巨大ともいえるほどに豊乳化した自分の乳房だ。
一生懸命に擦り合わせている内腿はほんの微かな摩擦を与えてくれるだけで、何度も塗り直された痒みを少しもほぐしてくれないのだが、その下半身についても、いままでの三倍ほどにも大きくされた巨大な乳房が視界を遮って直接には見ることができないのだ。
「な、なにが罰だよ──。くっ……。お、お願いだよ──。い、いい加減に許してくれよ、蝦蟇婆──。い、いや、蝦蟇婆様──」
「そんなんじゃ、まだ屈服したとは言えんのう。心の底から屈服して、意識せんでも、わしのことは蝦蟇婆様と丁寧に呼びかけできるようにならんとな……。いずれにしても、まだ、お前は苦しみ方が足りんわい……。それ、もっと、暴れんか……。もっと逃げんと、いつまでもこれを続けるぞ。ほれっ、ほれっ」
蝦蟇婆は痒み剤を塗られている部分以外のあちこちの性感帯を穿り返すように筆責めを続ける。
ただでさえ、塗られたまま癒されない痒みが怖ろしいほどの苦しみを宝玄仙に与えているのだ。
そこにさらに陰湿な筆責めを加えられるのはつらすぎる。
しかし、道術によって人格交替や失神を制御されている宝玄仙には、意識を手放すことにより、この苦役から逃げることもできないのだ。
「あくうっ……はううっ……」
唇を噛みしめて、少しでも痒みから逃げようと思のだが、絶え間なく加えられる筆の拷問がそれを宝玄仙に許さない。
宝玄仙は、蝦蟇婆の筆の前に、完全に屈服して、全身から体液を撒き散らしながら、ただのたうつだけだった。
いずれにしても、宝玄仙がこの蝦蟇婆たちへの叛逆のために考えていたことは、すべて喋らされた。
宝玉との関係のことも、改めて宝玄仙の口から喋らされた。
それだけではなく、このふたりは、宝玉から聞き出した闘勝仙からの調教のことや、千代婆による調教のことなどを改めて宝玄仙の口から喋らせたのだ。
どんな責めがつらくて、どんな責めに快感を覚えたのか……。
肛門や乳首を少しずつ性感帯に変えられていったのは、どんな風に屈辱だったかなどという質問をねちねちと繰り返された。
そして、ほんの少しでも言い淀めば、すぐに痒み剤の追加だ。
本来であれば、とうの昔に失神しているほどの痒み責めに、文字通り泣き叫んで許しを乞うた。
そのあいだ、輪廻は宝玄仙の乳腺活性化の施術と、怖ろしいほどに感度を引きあげた乳房の快感を直接に脳天に繋げる施術をした。
そして、やっと施術が終わったということで、今度はこうやって前肢となる切断された両腕の蹄の部分で天井から吊られたのだ。
「……もっと暴れんか。そんなことでは痒みは癒えんぞ──」
いきなり蝦蟇婆の筆が股間の肉芽の頂点をさわさわと動いた。
これまで、ずっと焦らし責めのように放っておかれた肉芽への直接の刺激に、宝玄仙は身体を限界まで反り返らせた。
「ふぎいいっ──、い、いくうっ──」
脳天を貫くほどの衝撃が走る。
たったひと擦りで一気に快楽の極みに宝玄仙を導くほどの官能の暴流だ。
屈辱感も羞恥も吹っ飛ぶような快感の爆発に宝玄仙は絶叫した。
しかし、どんなにそれが大きな快感でも、絶対に昇天はできない。
達しそうで達することとのできなかった巨大なもどかしさが宝玄仙の全身に返ってくる。
宝玄仙はすすり泣きのような声をあげて、上気した顔を左右に振った。
「そうやっていると、人間族の美女というよりは、まるで屠殺の終わった豚の肉のようじゃな、宝──」
「豚の肉は可哀そうかもしれないわね。わたしにはそれなりに淫乱な身体に思えるけどねえ……。まだまだ、男が好きそうな綺麗な肌をしているわよねえ……。あんたのところの白痴兄弟なんか、このおっぱい見たら悦ぶんじゃないの、蝦蟇婆?」
輪廻の手らしきものがさっと宝玄仙の乳房の裾を軽く撫ぜあげた。
「はあっ」
肉芽と同じくらいの感度にされた乳房が手で擦られる感触と恥辱に宝玄仙は悲鳴のような声をあげた。
ただでさえ、不格好に整形された身体をこうやってじろじろと眺めまわされるのは、血が沸騰するような恥辱なのだ。
そこにさらに愛撫を加えられて宝玄仙は宙吊りの身体を跳ねあげた。
痒み責めと道術による絶頂止めの責めに襲われている身体は、もう、完全に彼女たちの嗜虐的な責めに無防備な状態にある。
抵抗したくても、もう全身の筋肉は完全に弛緩しているし、跳ねあげて蹴飛ばそうとしても、その脚もない。
宝玄仙はただ哀れに悲鳴をあげて、汗びっしょりの全身を振り動かすことしかできない。
宝玄仙の悲鳴と苦しさの舞を愉しむかのようにふたりの愛撫はしばらく続いた。
峻烈な快感は何度も込みあがってはぎりぎりのところで留まり、また消えていった。
それが繰り返し繰り返し襲うのだ。
しかも、乳首や股間に塗られた薬剤は、宝玄仙の頭の神経をぐちゃぐちゃに千切るほどの苦しさだ。
痒みの苦しみ──。
全身に込みあがる愉悦──。
そして、それらの一切が解消されないつらさが宝玄仙を襲い続けていた。
「ああ、痒い──。も、もう耐えられない……。わ、わかった……。く、屈服する。もう、逆らわない──。だ、だから、お願い……。痒みだけでも癒しておくれ──。お、お願いだよ──」
発狂するような痒みは限界だった。
だが、蝦蟇婆も輪廻もせせら笑うだけで、筆責めと愛撫をやめようとはしない。
いつしか、どうして自分がここにいて、なにをされているのかということさえもわからくなってきた……。
ただ苦しい……。
快感が苦しい……。
助けて……。
苦しいのだ……。
苦しい……。
「お、お願い……。お願いです……」
宝玄仙はいつの間にか自分が完全に泣いていることに気がついた。
そのことに愕然としたが、それでも泣くのをやめることはできなかった。
「やっと家畜らしい表情や口調になってきたじゃないかい、宝……」
蝦蟇婆の声がした。
「本当ね……。生意気さが消えてきた感じね」
輪廻の声もした。
「いずれにしても、これが限界じゃろう。これ以上続けると本当に狂うかもしれんしのう。いっぺんに追い詰めるのは待とうかのう……。じゃあ、今度は、玉の方を仕上げるとするか──」
「だったら、わたしは、あんたのところの白痴兄弟を呼んでくるわ、蝦蟇婆。母乳の出来るようになった宝の乳房を是非ともあのふたりに啜らせたいのよ」
「それは嬉しいのう、輪廻。頼むわい──。しかし、あの坊やは連れてこんようにな。あいつ、なにかとうるさいのじゃ」
「わかっているわ、蝦蟇婆……」
輪廻が言った。
眼を閉じている宝玄仙に、輪廻が部屋から出て行く気配が伝わってきた。
「さて、交替じゃ──」
次の瞬間、つんという刺激臭が襲った。
宝玄仙は突然に無意識の中に包まれていった。
*
甘い香り……。
朦朧とする意識の中で宝玉が感じたのは、それだ。
「意識の部屋」だ。
その暗闇の中で宝玉は、宝玄仙を通じて、宝玄仙の苦しさと口惜しさを味わっていた。
そして、蝦蟇婆と輪廻の拷問のような調教によって、宝玄仙がだんだんと彼女たちに屈服しようとしているのも感じていた。
「お前の番じゃ、玉──」
光がある──。
そこに影のような存在がある……。
この数日、宝玉と宝玄仙のほかに突撃出現した別の存在だ。
それがなんであるか、宝玉は気がついていた。
あれは、道術による蝦蟇婆の支配だ。
それが宝玉と宝玄仙の意識の中で具象化したものだ。
「宝玄仙……」
闇の中に宝玄仙が出現した。
表の世界で意識を手放した宝玄仙が戻ってきたのだ。
しかし、眼を開けてはいない。
手脚が短い。
宝玉と同じように切断された短い手脚だ。
鼻には金属の鼻輪まである。
そして、ただ、めそめそとすすり泣いている。
「宝玄仙?」
驚愕した。
あんなに頼りなくて弱々しい宝玄仙には、初めて接したかもしれない……。
もう一度、宝玉は呼び掛けた。
しかし、次の瞬間、宝玉は光の中にいた。
すぐそばに、はっきりと蝦蟇婆の存在を感じた。
*
甘い香り──。
宝玉の香りだ。
最初に意識したのはそれだ。
そして、自分が天井から宙吊りにされていることを知覚した。
すぐそばに、はっきりと蝦蟇婆の存在を感じた。
輪廻はいない。
部屋にいるのは蝦蟇婆だけだ。
意識が現実と結びつくにつれて、宝玉をとんでもない痒みが襲った。
「か、痒いわ──」
最初に宝玉が叫んだのはその言葉だった。
天井から吊られる苦しみよりも、全身を蝕む痒みが怖ろしいほどの衝撃だ。
宝玉は吠えるような声をあげた。
「痒いのかい、家畜──?」
眼の前に蝦蟇婆がいる。
蝦蟇婆が宝玉の顔を覗きながら、愉快そうに笑った。