さっきまで、
だが、なにか危険なことが起こったのはわかる。
隣にいた
朱姫もはっとして、自分の周りに防護の術をかける。他の人間も含んで護るような特別な結界には時間がかかるが、自分が入れるだけの狭いものなら、それほどの時間はかからない。
だから、宝玄仙もそうしているのだろう。
次の瞬間、なにか空間が揺れた気がした。
道術ではない。道術なら、それが働く前に朱姫にわかる。
揺れたのは風景だ。
同じ部屋だが、なにかが違う。
宝玄仙と
その代わり、床に
「孫姉さん──?」
朱姫は悲鳴をあげた。
全裸の孫空女は、天井から吊るされた鎖で逆さに吊るされており、大きく開いた脚が左右に分かれて天井に引っぱられている。首の部分は、床についていて、全身の重みが足にかかることはないようだが、両手は首輪に手錠で拘束されている。
だが、朱姫が悲鳴をあげたのは、その惨たらしい傷跡だ。
鞭で叩いたのだろう。
孫空女の全身は、もう傷のない部分を探すのが難しいくらいに皮膚が破れて、血にまみれている。
その血と孫空女の尿のようなものが床に拡がっている。
孫空女は、まったく動かない。意識がないようだ。
その孫空女のすぐ近くに、この館で最初に会った美貌の男が汗にまみれた姿で椅子に座っている。
「孫姉さん、しっかり」
朱姫は、もう一度叫んだ。結界は刻み終わったが、音までは遮断されていない。
ただ、物理的なものを遮断するだけだ。
孫空女は、やはり気がつかない。しかし、かすかに胸が上下に動いている。死んではいないようだ。
そばにいる男は、確か、普賢とかいう名だったはずだ。その普賢が頭をあげた。
「
「先の時間の客間には黎山王がいる。さすがにまずいからな」
「ここもまずい。私がいる」
普賢が不機嫌そうに言った。
「な、なにを言ってるの、お前たちは? 孫姉さんになにをしたの? それにご主人様はどこなの?」
朱姫は叫んだ。
「だったら、先の時間を進めればいいじゃないか。確か、その半妖は、宝玄仙に媚薬を飲まされていて、時間を進めれば、勝手に尻で発情するんじゃなかった?」
どうして、この男たちは、朱姫が宝玄仙に媚薬を飲まされていて、一日に三回、尻で自慰をしなければならない身体になっていることを知っているのだろう。
「そうでもないぞ、普賢。朱姫の首を見てみろ」
この男たちはさっきから、朱姫がいないもののように喋り続けている。それがなんだか腹が立った。
「あたしたちになにをする気? ご主人様……、宝玄仙様はどうしたの? 孫姉さんになにをした? それに沙那姉さんはどこにいるの? 早く答えて――」
朱姫は大きな声で叫んだ。
その朱姫を普賢がじっと見た。
「……首の霊具がなくなっているか? 確か、茶色の革紐だったかな」
「そうだ、普賢。前回はあれがあったから楽だった。だから、最初に落ちた。だけど今度は違う。霊具をしてないのだったら発情はしない。実は、宝玄仙の飲ませていた媚薬は、あの霊具をしていなければ効果がないのだ」
朱姫は驚いた。それと同時に恐怖を感じた。
このふたりは、なぜか、朱姫が宝玄仙から淫具と媚薬による調教を受けていたのを知っているのだろう。
それに、この屋敷に来る直前まで、首に革紐の霊具をつけていたことまで知っている。
「いずれにしても邪魔だ。時間を進めるのが嫌なら、もっと過去に戻ってくれ」
「わかった、わかった……」
次の瞬間、また、風景が変わった。同じ客間なのだが、一瞬で、孫空女も普賢も消えてしまった。それに、さっきまで夕方だったのが、明るい昼間に変化した。
「いま、どうなったの? 早く答えろ──。あたしたちをどうするの?」
やっと、南海がこちらを見た。その顔は、余裕ありげににやにやと笑っている。
「その結界から出てきたら、知りたいことはなんでも教えてやる、朱姫」
南海が言った。
「結界の中にいても話はできるよ」
「結界の中にいたら、お前に触れん」
「さ、触ってどうするのよ?」
「朱姫の淫臭のする肉孔に俺の淫棒を突き挿す。ああ、それとも、朱姫は後ろの孔をほじられるのが好きだったか?」
「な、なにを……あたしを馬鹿にするのか」
「馬鹿になどせん。大切な花嫁だからな」
南海は笑った。
「じょ、冗談じゃない」
「もちろん、冗談じゃない、朱姫。早く結界から出てこい。お前の心を砕き、俺を夫にすることを承知させる。多少は、俺のやり方は、ほかの者と比べれば荒っぽいかもしれんが」
「あたしを妻に? なぜ?」
話しながら、朱姫は、さっきから感じているものに戸惑っていた。
どうやら、結界から出ることはできない。出ればなにをされるかわからない。この男には得たいの知れないなにかを感じる。
しかし、このままでは、どうしても自分から結界から出ることになりそうだ。
「仕方ないのだ。それしか、俺たちがこの館から解放される術がないらしい。どういう呪いなのかよくわからん。とにかく、父の黎山王を含めて、俺たち四人が四人、俺たちを心から愛する妻を迎えるとができれば、俺たちはこの館の呪縛から離れることができて自由になれる」
「はあっ? 館の呪縛? 妻? なによそれ?」
「さあな。だが、そうらしいのだ。この屋敷にあった文献にはそう書いてあった。妻を迎えたときに解放されるなど、どういう神が、そんな甘ったるいことを考えたかは知らないがな」
「いい加減してよ。なにを言っている、お前?」
館の呪縛とはなんだ?
「俺の名は南海だ」
「じゃあ、南海、よくはわからないけど、お前たち四人が妻を迎えたいというのなら、ほかを当たりなよ。あたしたちは、西に向かい旅をする途中なんだよ。お前たちの妻になどなれないよ」
「それは、そうもいかないのだ、朱姫」
「なぜ? これだけの財がある家であれば、無理矢理に、あたしたちを嫁にしなくても、幾らも嫁のきてはいるでしょうに?」
「最初は俺たちもそう思った。だが、お前たちだけなのだ。だから、無理矢理に手籠めにしてでも、お前たちを嫁にせねばならん」
「だから、なぜよ?」
苛々していた。朱姫は、いよいよ自分が切羽詰った状況になってきたことを知った。
しかし、それを悟られるわけにはいかない。
相手は狂人かもしれないが、自分たち四人を手籠めにしようと画策していることは確かなようだ。
そして、朱姫は、ほかの三人に比べれば、多少の道術が使えるくらいで、一番非力だ。
結界から出てしまえば、力で大の男には抵抗できない。道術なら対応できるかもしれないが、いやな予感もする。
ここは使徒を使うべきだろうか。
だが、相手の力量がわからなければ危険かもしれない。
そもそも、あの使徒たちは、それほど戦闘に得手なわけではない。
「この三百年。この屋敷に入ってきた女はお前たちだけだ。これから先の五十年も同じだ。それ以上先は、試していないからわからないが、おそらく同じだろう。だから、俺たちは、お前たちに眼をつけ、屈服させることにした。幸いにも失敗をしても何度でも同じことができる」
「いったい、この屋敷にはなにがあるの?」
「ここは呪われた屋敷だ。俺たち四人を呪縛し、ここから離れることができなくしている。つまりは、“時の館”。そして、俺たちは、お前たちを待っていた。今度こそ、ものにしてやる。家の前の詩を読んだか?」
「読んだよ」
「だったら、俺たちがお前たちを待ち続けていたということがわかるはずだ」
「馬鹿な」
「これから先の話は、結界の外でやろう。どうせ、出て来なければならないのだろう、朱姫?」
南海がにやりと笑った。
「話など無駄だ。結婚などするわけがない」
「じゃあ、別の話をしよう──。さっきから、脚をもじつかせているが、小便をしたいのだろう、朱姫?」
朱姫はどきりとした。話の途中から、猛烈な尿意を感じて困っていたのだ。
しかし、結界の外に出れば、眼の前の南海に捕まってしまう。
一度、捕まれば、結界に隠れる機会はないかもしれない。だが、尿意はどうしようもないところまで、朱姫を追いつめようとしていた。
「さっき、朱姫が飲んだお茶だが、朱姫のお茶だけは、強い利尿剤を混ぜておいた。この屋敷には、女を調教するのに便利なものは少ないが、これは使えると思ったのでな。多分、お前と宝玄仙は、結界をすぐに組んで出てこなくなるだろうと思った」
「利尿剤──? ひ、卑怯者」
「さあ、出てこい。厠に案内してやる、朱姫」
南海は愉しそうに言った。
*
「お前が、あの
宝玄仙は、椅子に深く腰掛けたまま言った。眼の前に座っているのは、この館の主人の黎山だ。その男は、自分が三百年前に失踪したこの州の王であると言ったのだ。
三人の息子が伝承どおりの三人の息子王であり、南海王《なんかいおう》、文殊王《もんじゅおう》、普賢王《ふげんおう》だとも。
「わしのことを覚えてはおらんか、宝?」
「気安く呼ぶな」
「そう言うな、宝」
「呼ぶなと言っておろうが」
宝玄仙は苛々して言った。結界を組んだため、誰も宝玄仙の三尺(約一メートル)周囲には入れないが、それだけだった。
眼の前の男は、「人間」に間違いがなく、結界の外にいる限り、道術は通じない。相手が、道術師か妖魔であったら、その身体に充満している霊力を反応させることで、宝玄仙の道力が通じるのだが、霊力のない人間ではどうしようもない。
黎山が霊力を持っていないことは、宝玄仙から見れば一目瞭然だ。眼の前の男は、絶対に道術師でも妖魔でもない。
それは、三人の息子も同じだ。
だが、ただの人間に過ぎない黎家の男たちが、なぜ、道術師のようなことができるのだろう?
確かに、眼の前から忽然と沙那が消えた。慌てて結界を刻んで身を防いだが、同じように結界を刻んでいた半妖の朱姫も消えた。
「こっちに来て話をせんか、黎山?」
試してみた。
「お前がその結界から出るがいい、宝」
やはり、結界を刻んだことを知っている。黎山はぴくりともしない。
結界の中に入って来れば、相手に魔術が使える。
だが、わかっていては、入っては来ないだろう。
逆に、宝玄仙が結界の中にいる限り、宝玄仙の身は安全だが、結界の外に出れば、どんな罠が待っているかわからない。
「お前の供がどうなっているか知りたいか、宝?」
「三人をどうしたのじゃ?」
「じゃあ、質問ひとつにつき、服を一枚だ。結界の外に投げろ」
「な、なんだと──?」
「なんだ、服を脱ぐのが恥ずかしいのか? 宝玄仙ともあろうものが、
「下衆が──」
宝玄仙は、巫女服の上衣である黒い貫頭衣を首から外した。
その内側の隠し部分には、館に入る直前に朱姫から取りあげた霊具が入っていた。
その霊具を手の中に隠して、貫頭衣を結界の外の黎山に放り投げる。
霊具は背中側に隠す。
いまの姿は、やはり黒色の内衣と切袴だ。その下には上下の下着を着けているが、それも脱げと言うのだろうか?
いま結界は、ただ霊力を充満している状態にしてあるだけで、なにも浸透の制御はしていない。
黎山は、いつでも結界の中に入れるし、物の出入りも自由だ。だが、宝玄仙が望めば、一瞬で、結界は何ものの通過も許さない防護壁にもなりうる。
黎山は、宝玄仙の投げた衣類には見向きもしなかった。ただ、宝玄仙をじっと見るだけだ。それにも苛つかされる。
「早う言え、黎山」
「誰の行方を知りたい?」
黎山は言った。孫空女も含めて、三人ともどこかで捕えられているのは間違いないだろう。
しかし、孫空女については、最初から別々だったから手掛かりに乏しい。
眼の前から消滅した沙那か朱姫のことがわかれば、この怪現象の正体に結びつくかもしれない。
「沙那じゃ──」
宝玄仙は言った。
「この館がいつ建てられたか知っておるか、宝?」
「関係のない話をするな、黎山。わしは、沙那の行方を訊いておる。約束を違えるか?」
「そんなに苛々するな。それほど、供が捕まったのが不安か?」
宝玄仙は舌打ちをした。
「ちゃんと説明するのだな」
「しよう。この館が建てられたのは、約三百年以上前だ。だが百年前に、思うところがあって、この部屋の一部に出口のない密室を造った。だが壊した。八十年前には、この館にあった特殊な材で透明の壁の小部屋を造った。透明の部屋というのも面白かったが、やはり壊した。そして、いまのように広い客室になった」
「なにを喋っておるのだ、黎山?」
「まず、この場所の一部に密室があったのが百年前。透明の壁の部屋があったのは、八十年前だ」
「黎山、お前の趣味で、どういう風にこの屋敷を修繕していったのか、三百年分話すつもりか? お前がこの屋敷に囚われていることはわかった。三百年生きていることもな。信じ難いが、そういうこともある。この屋敷にあるなんらかの神意の影響がお前たち人間にそのような現象を与えたのだろう」
「ならば、沙那がどこにいるかを教えてやろう。百年前にあった壁の密室と八十年前にあった透明の壁の部屋。いまは、“いま”という言葉は、この屋敷ではまったく意味のない言葉だが……。そのかつてあった壁の密室と透明の部屋のどちらかにおろう」
「お前たちは、時間を移動できるのか?」
「貫頭衣で説明できるのは、ここまでだ。もっと、話を聞きたければ、次を脱げ」
黎山は言った。
宝玄仙は、足から草履を脱いで、放り投げた。
「なんだこれは、靴ではないか。駄目だ。着ているものを脱げ」
「身に着けているものには変わりない」
「ならば、なにも教えられん。供たちがどういう目に遭っているか知りたくないのか?」
「なに?」
「よく考えよ、宝。お前の供を生かすも殺すも、わしの裁量の内ということだ。とりあえず、ひとり殺してみるか? そうすれば、残りのふたりの命乞いもしたくなるか?」
宝玄仙は、迷った末、黒い切袴を腰から脱いで放り投げた。しばらくは、この馬鹿馬鹿しい遊びに付き合ってやろう。
「相変わらずいい脚をしているな、宝」
「ふんっ」
この男とは初対面だ。
それにも関わらず、この男は、ずっと以前から宝玄仙のことを知っているかのような口調だ。
それが、なにか癪に障る。
宝玄仙は、腰の部分を内衣の裾で隠しながら肢を組んだ。
「そんなにわしの裸を見たいなら、こっちに来たらどうなのだ、黎山」
宝玄仙は挑発した。半分は、この眼の前の男の言いなりにならざるを得ないことに対する腹いせだ。せめて、供たちがどういう状況にあるのかを把握しなければ、動きも取れない。
「いや、お前が、結界の外に出てくるのを待とう。ゆっくりと陥してやる」
「わしが堕とせるのか、黎山?」
「時間さえかければな──。そして、時間ならたっぷりある」
黎山は言った。
「それで?」
「それでとは?」
「供の行方だ」
「そうだったな──。沙那はもういいか?」
「だから、沙那はどこにいるのだ? 沙那は? 孫空女は? 朱姫は?」
宝玄仙は声をあげた。
「だから、ここにいた沙那は、百年前に連れて行ったはずだ。文殊が連れていった」
「じゃあ、朱姫は?」
「もう一枚だ」
黎山王は言った。
「な、なにを言っている。さっき脱いだであろう」
「同じ質問を二回するからだ。質問は無駄に使うな。後がつらいぞ」
「つらいとはなんじゃ?」
「それを知りたかったら、さっさと素っ裸になれ。それとも、結界を解いてこっちに来い」
宝玄仙は内衣を脱いだ。結界の外に投げる。
「誰の行方を知りたい?」
「朱姫はどこに消えた?」
黎山は、なにかを探るような仕草をした。やがて、口を開く。
「あの半妖の娘は、とりあえず十年前のようだな」
「十年前のこの客間ということか?」
「そうだ」
やはり、時間を自由に行き来できる能力を持つということだろう。
信じられないことだが、言っていることが本当ならそういうことになる。
言っていることが真実ならばだ。
あるいは、なんらかの仕掛けがあるのかもしれない。
だが、道術ではないはずだ。ここには、道力は感じない。
ここにあるのは、もっと別のものだ。
「時間を支配できるじゃと? 戯言を──」
しばらくしてから宝玄仙は言った。
「信じていないのか、宝?」
「信じられるか」
「ならば、証拠を見せてもいいぞ」
「証拠?」
「ただし、いまつけている下着を脱いで、こっちに投げよ」
「素裸になれと言うのか?」
「そこまで脱げば、素裸でも変わりあるまい」
「それよりも、わしを抱いてみたらどうだ、黎山? この身体を抱いてみたくはないか?」
「いや、やめておこう」
黎山は、顔を横に振った。
「なぜじゃ? あるいは、もうお前の股の一物は役に立たぬのか?」
宝玄仙はせせら笑ってみせた。
「わしの一物の心配をしてもらわんでもよい。それに、わしは、何度もお前に煮え湯を飲まされておるのだ。うっかりと、手を出し、お前に裏を掻かれるのには飽いたわ。供を人質にして、無理矢理、結界の外に出してもよいのだが、それよりもお前の心が……、いや、身体が屈服して結界から出てくるのを待った方がよい。それが確かだ」
「何度も?」
宝玄仙は、黎山の言葉の中で、その言葉に眉をひそめた。
「いいから、下着を投げよ。素裸になっても結界の中であれば護られておるのだろう?」
宝玄仙は胸当てを外した。そして、片手で乳房を隠しながら、腰にはいていた薄い布をとり、ふたつ丸めて結界の外に投げた。
「そそるのう、宝。やはり、いい身体をしておる。早う、こっちに来い。さっき気にしてくれていたが、このとおり、わしの一物は元気だぞ」
黎山は立ちあがると、いきなり
ぞっとするような大きな巨根がそこにあった。
その先端はぬめぬめと精液で濡れている。
「し、しまわんか。そんなもの──」
宝玄仙は慌てて叫んだ。すると黎山が笑った。
「希代の嗜虐者で変態巫女の宝玄仙も、意外に男に無理矢理に犯されるのには馴れとらんのよのう。それとも、なにか心の傷のようなものがあるのか?」
「う、うるさい──。早う、しまえ──」
黎山は笑いながら下袴をあげた。
「わしらが時間を自由に行き来できるという証拠だったな。見せよう。その代わり、そこで自慰をしろ」
「なに?」
「自慰だ。いいと言うまで続けろ。拒否できると思うな」
宝玄仙は、仕方なく自分の胸と股間の愛撫を始めた。このくらいの恥辱は耐えねばならんだろう。三人はもっと酷い目にあっているに違いない。
しばらくすると、熱いものが込みあげてくる。
「もういい、やめろ」
黎山が不意に言った。
一瞬、まだだと抗議したくなったが、黎山の狙いもわかった。
そうやって、いきそうだ、いかさないということを続けさせて、屈服の材料にしようというのだろう。宝玄仙は歯噛みしながら、手を身体から離した。
黎山は満足気に微笑むと、なにかの合図でもするように手を振った。
そこに沙那が現れた。
しかし、なにか変だった……。