504 家畜の朝
家畜としての朝は、「意識の部屋」から始まる。
つんと香りが漂うのだ。
その匂いを感じたとき、宝玄仙はまず意識の部屋で覚醒する。
意識が戻って、最初に知覚するのは、同じ意識の部屋の中にいる短い四肢で四つん這いの状態にある宝玉の姿だ。
宝玄仙が覚醒するときには、宝玉も目を覚ましたばかりのような虚ろな状態だから、宝玉もまた、それまでは強制的な失神状態にあるのだろう。
宝玄仙の身体を支配している蝦蟇婆たちは、匂いの暗示によって、出現させる人格を自由に選んだり、あるいは、ふたりを完全な失神状態にすることができる。
身体が失神状態にあるときは、当然ながら宝玄仙も宝玉も意識を保てないし、宝玄仙は、宝玉が表に出ているときも意識はない。
だが、宝玉は、宝玄仙が表に出ているときも、しっかりと意識を保ち、宝玄仙の耳目を通じて、外で起きていることを認識しているのだ。
だから、宝玉が宝玄仙と同じように、起き抜けのぼんやりとした様子だということは、朝の覚醒の時間前は、この身体自体が強制的な失神状態にあったのだと思う。
そうやって連中は、夜中のあいだは、この身体を完全な無抵抗の状態にしておいて、朝になってから、外からの刺激で、宝玉を出現させるための甘い香りか、宝玄仙を出現させるための強い花の香りを嗅がせて覚醒させているに違いない。
それで、どちらかの人格を起こすのだ。
今日、漂ってきたのは花の香りだ。
つまり、宝玄仙が呼ばれているのだ。
これが甘い香りだったら、すぐに宝玉が強い光に包まれて、宝玄仙の意識は消失する。
次に宝玄仙が意識を戻すのは、大抵は、翌朝の覚醒の時間のことだ。
ここの連中は、このところ、だいたい一日置きに宝玄仙と宝玉を呼び出している。
一日の途中で人格を交換させるということは、この数日はしていない。
「宝玉──」
宝玄仙は自分の周りを覆いかけている光を感じながら、宝玉に声をかけた。
「宝玄仙、あなたの番よ……」
宝玉はまだ覚醒しかけの虚ろな表情のままそれだけを言った。
そして、顔を伏せる。
このところの宝玉の反応はいつも同じで、あんな風に表情や感情を失っているような感じだ。宝玄仙はとても心配だった。
今日もそれ以上の会話はない。
まるで宝玉は、宝玄仙と会話をする意欲を完全に喪失しているかのようだ。
そこには、この旅の途中で出現して以来、どことなく能天気で会話好きな宝玉の面影はない。
あんな宝玉は、闘勝仙に飼われている時代の初期の頃のようだと宝玄仙は思った。
完全に気力が喪失していて、生きる気概を失っているかのようだ。
だが、それについては、数日前の豊乳化調教の日以来、思い当たることがあるのだ。
あのとき、確か、
そうであるとすれば、宝玉の様子というのは、もしかしたら宝玄仙自身の心の状態に強く影響しているのではないだろうか。
例えば、闘勝仙とのときだ。
宝玄仙の知る限り、闘勝仙の性奴隷だった時代に初めてこの意識の部屋に現れた宝玉は、いまの宝玉のように、ほとんどなにも喋らずに、ただ存在するだけの状態だった。
会話をするといってもひと言、二言のことだったと思う。
しかし、闘勝仙に対する反撃の手段が具体的になり、『服従の首輪』を完成させた頃から宝玉は活発になってきた。
闘勝仙を殺した直前の数日間など、むしろ宝玄仙よりも饒舌になり、意識化している宝玄仙に、意識の内側から言葉を掛けることさえしてきた。
だが、闘勝仙の暗殺成功後、皇弟の陰謀によりすべての財を奪われて宝玄仙が事実上の帝都追放になり、宝玄仙自身も殺人の心の呵責で殺伐として追い詰められた気持ちになってくると、宝玉はほとんど反応のしない状態になり、やがて、心の中の宝玉は姿を消した。
それは、宝玉の役割が終わったからであり、もう宝玉はいなくなったのだと、宝玄仙は思い込んでいた。
ところが、旅に沙那、孫空女、朱姫が加わり、西域に向かう旅そのものが愉しくて仕方ないと思ってくるようになると、陽気でお喋りで人懐っこい宝玉が、また出現した。
しかし、いまの宝玉は、再び最初の頃の覇気のない宝玉に戻ってしまった。
このことから、宝玄仙はひとつの説明に思い当たっている。
いま、宝玄仙は追い詰められている。
道術を封じられて脱走の手段を奪われ、輪廻や蝦蟇婆に手脚まで切断されて家畜のような生活を強いられている。
眼を覚ましている限り続く、苛酷な家畜調教の日々だ。
すでに連中に屈服してしまった感のある宝玉もそうだろうが、宝玄仙自身もここでの家畜調教に心が折れそうになっていることは確かだ。
すると宝玉は、闘勝仙の性奴隷の頃と同じように、覇気のない状態にすっかりと戻ってしまっている。
もちろんそれは、宝玉自身の心の状態によるものだとは思うが、それ以外のことも考えられる。
宝玄仙が思ったのは、宝玄仙側の心の負担が大きくなると、その心労による影響は宝玄仙自身ではなく、宝玉に加わるように、この身体はなっているのではないだろうかということだ。
そもそも、輪廻たちがこの身体に施した抵抗心をなくす薬物の影響がそうだった。
あの薬物の影響は、ふたつの人格に平等には現れず、宝玄仙にはまったく影響せずに、宝玉だけに集中して出た。
それと同じことが心の屈服にもあるのではないだろうか……?
つまり、宝玄仙が心の折れるほどの調教を受けると、その場では宝玄仙側の人格も抵抗の気力を失うほどの心の打撃を受けるが、実際には宝玄仙側の影響は最小限度に留まり、ほとんどの精神的な打撃は記憶を同時に経験している宝玉に加わり、さらに後で心労が再整理されて、その負担のすべては宝玄仙側から宝玉側に移動する……。
そうやって調整することで、この身体は、常に宝玄仙を敵対心を失わない攻撃を司る人格として維持しているのではないだろうか?
宝玄仙ではなく、宝玉がすべての記憶を担うのは、まさにそれが目的なのではないだろうか……?
いずれにしても、この身体には、まだ秘密があるような気がする。
それについて、宝玉と話し合いたいのだが、いまのところその機会がない。
包まれている光が強くなった。
花の香りも強いものになってくる。
光の中に
真っ黒い影だが、明らかに蝦蟇婆だ。
もちろん、これは人格ではない。
宝玄仙と宝玉の人格を制御している蝦蟇婆の道術が、意識の部屋の中で具象化しているのだ。
宝玄仙の意識は、意識の部屋から外の世界に移動していく。
眼が覚めた──。
すぐには眼を開かない。
蝦蟇婆の悪意ある道術によって、宝玄仙の身体は亜人の顔を視界に入れてしまうと、しばらく呼吸が停止してしまう暗示をかけられている。
だから、周りを確かめてでなければ、眼を開けられないのだ。
花の香り……。
それが遠のいていく。
宝玄仙は注意深く眼を開いた。
宝玄仙を覚醒させた強い花の香りがする匂い袋が離れていくのが見えた。
それを持っているのは、一鉄か二鉄のどちらかの手だ。
そして、床すれすれにある宝玄仙の視界からその手元が消える。
白痴兄弟の膝から下の素足が視界に入る。
「うがっ」
「おっぱい──」
白痴兄弟の声がした。
どうやら部屋にいるのは世話係の白痴兄弟だけのようだ。
とりあえず、ほっとする。
この兄弟は単に世話をするだけだ。
調教めいた苛酷なことを強いることはない。
眼を覚ましたときに
あの坊やは、宝玄仙の膣に入っている魔法柱を魔法石と呼ぶ霊気の塊に成長させることだけに興味があるのであり、宝玄仙を支配するために、心を折ったり、嫌がらせのような調教をすることには興味がない。
苛酷なことが始まるのは、蝦蟇婆か輪廻がそばにいるときだ。
今日もいずれは、その家畜調教が始まるのだろうが、起き抜けからそれをするのはつらい……。
とにかく、今日は調教の開始までにはしばらく猶予がありそうだ。
「うがっ、餌……」
声がかけられて、再び顔の近くに白痴兄弟の片割れがしゃがみ込む気配がする。
顔を見ないように、慌てて宝玄仙は顔を伏せる。
鼻に装着されている鼻輪からがちゃがちゃと音がして、鼻輪の鎖が外される気配がする。
これが宝玄仙に対する唯一の拘束だ。
部屋の床の真ん中に金具があり、夜は鼻輪が短い鎖で金具と繋げられるのだ。
それだけで、宝玄仙は金具から離れられなくなる。
手足を切断されて先端を豚の蹄に変えられている宝玄仙には、金具をひとりで外すことができないからだ。
金具が外されると同時に、食事が入っている皿が眼の前に置かれる気配がした。
白痴が離れる気配を確認して眼を開く。
眼の前に食事がある。
すなわち、餌だ。
なにかの残飯のようなものが平らな皿に入っていて汁がかけてある。
これが宝玄仙の食事なのだ。
食事は日に二回で、中身は亜人兵の食べ残しのようだ。
だが、食べ残しに滋養を保つための数種類の薬物も混ぜられていて、身体を保つのに十分な栄養は摂取できるようになっているらしい。
残飯の食事に混ざっているのは薬物だけではない。
皿から悪臭がする。
白濁の粘性物は、いまは宝玄仙の背後の壁際に移動している一鉄と二鉄の精液だ。
このふたりは、蝦蟇婆から宝玄仙たちの食事には、必ず自分たちの精液をかけろと命じられていて、律儀に自慰をして毎回、宝玄仙の餌の入った皿にふたりの精をかけているのだ。
宝玄仙は顔を伸ばして食事を口に入れる。
最初は、こんなものを食べさせられる恥辱に血が沸騰しそうになったが、慣れというものは怖ろしい。
いまでは、それほど心を動かさなくなった。
汚臭も馴れてしまえばどうということはない。
それに、いまはこれしか食べるものがないのだ。
だから、身体に入れる。
身体が弱っていては、もしも、脱出の機会があっても、それを生かすことができない。
第一、もしも、皿の中のものを食べ残せば、恐ろしい折檻が待っている。
口から入れられなければ、皿の中のものを溶かして浣腸にして腸に直接送られもする。
そこまでされるなら、吐気のしそうな餌でも、口で食した方がましというものだ。
食べながら、ここに監禁されてからどのくらい経ったのだろうかと宝玄仙は考えた。
宝玄仙のいる家畜部屋には窓がない。
部屋の天井には、道術の力で発光している照明がある。
それで光に不自由することはないが、陽の光がないために、時間の感覚が掴み難いのだ。
おそらく、十日くらいだろうか。
しかし、宝玄仙には、宝玉がすごした時間の記憶はない。
だから、はっきりとここで何日がすぎたということは、感覚として余計わからない。
部屋にはなにも調度品はなく、扉はふたつだ。
ひとつは、調教部屋と呼ばれている部屋に通じている。
基本的に宝玄仙が嗜虐を受けるのはその調教部屋だ。
その調教部屋を通り抜けると、さらにこの建物の廊下に通じる扉がある
また、この部屋の反対側の扉は、宝玄仙の飼育役である蝦蟇婆、寧坊、そして、一鉄と二鉄の白痴兄弟の部屋があるらしいが、どうなっているかはわからない。
それから、ここ全体が、魔王宮と呼ばれている獅駝の城郭のどこかということもわかってきた。
しかし、宝玄仙が知ることができたのはそれだけだ。
なにしろ、沙那を救出しようとして、
それ以外の場所は知らない。亜人の兵に接触することもない。
宝玄仙が見ることのできる人間は、直接の飼育係の蝦蟇婆、宝玄仙の股間に入れられている魔法石の管理をしている寧坊という亜人の少年、蝦蟇婆の仕事を手伝う一鉄と二鉄の白痴兄弟、女医の輪廻、そして、数日置きに宝玄仙を犯しに来る青獅子くらいだ。
青獅子がやってくるときには、十名ほどの護衛が一緒にやってくるが、彼らは口を開くことはないので、数には入らないだろう。
とにかく、それらの亜人に囲まれた魔法石を生産する家畜としての生活──。
それが宝玄仙のこの十日余りの時間のすべてだった。
食事が終わった。
「終わったよ──」
部屋の隅に待機している白痴に声をかける。
すると兄弟が寄ってくる。
宝玄仙は顔を見ないように眼を閉じる。
ふたりは、宝玄仙に与えた餌が空になっているのを確かめてから、まずは食事で汚れた口の周りを拭き取り、さらに水で濡らした布で宝玄仙の身体を吹き始める。
くすぐったいがふたりの手管には淫靡さの欠片もない。
女の身体を拭くというよりは、まさに家畜の身体の手入れをするという感じだ。
ふたりによって宝玄仙は、それこそ頭のてっぺんから蹄の裏まで洗われる。
髪の毛も特殊な洗料を使って擦られ、口の中もまずは口をゆすぎ、次いで細い藁のようなもので歯と歯のあいだまで丁寧に汚れを取られる。
性器の中まで脱脂綿のようなもので拭きとられて、清潔にされる。
「うがっ、うん……」
次いで、ぽんぽんと腰が叩かれる。身体を拭き終わったので、次だと言っているのだ。
宝玄仙は短い脚を大きく開く。
さっと股の下に平らな箱が置かれる。
すぐに尻の穴に管が挿し込まれて、腸内に薬液が抽入される。
「ああっ……」
たちまちに下腹部を強い便意が襲いだす。
浣腸だ。
家畜である宝玄仙は、朝のこの時間に必ず浣腸されて、強制的に排便させられる。
これも決まった日課だ。
浣腸器によって薬剤が入れ終わったらしく、宝玄仙の尻穴から管が出ていった。
一鉄たちの仕草は、なんの感情もこもっていそうのない機械的な動作だ。
それからは、その態勢のまま待機だ。
ここに蝦蟇婆でもいれば、宝玄仙をからかう嘲笑の言葉でもかけるだろうが、このふたりの場合は、ただ脚を開いている宝玄仙の背後から、宝玄仙の尻の穴を観察しているたけだ。
話しかけても、まず返事はない。
これについて宝玄仙は、まだ蝦蟇婆のようにからかわれる方が遥かにましだと思うようになっていた。
この白痴兄弟は、宝玄仙のことを完全に家畜としての扱いしかしない。
それは、むしろ露骨に侮蔑されるよりも、屈辱だった。
「も、もう漏れるよ……。きょ、許可をおくれ……」
やがて、宝玄仙は便意に耐えられなくなって言った。
宝玄仙は、浣腸を受けてから一定時間を我慢することを求められている。
そして、我慢できなくなったら、こうやって許可を求めるのだ。
十分だと判断したら、排便が許される。
まだ不十分だと判断されたら、まだだと言われるのだ。
それは、この場にいるのが、蝦蟇婆でも、白痴兄弟だけでも同じだ。
勝手に排便すれば、蝦蟇婆も寧坊も飛んできて、繰り返しの電撃の罰が始まる。
「よしっ」
今日は一発で許可をもらえた。耐えた時間が十分だったようだ。
「だ、出すよ……」
宝玄仙は締め付けていた肛門の力を緩めた。
股の下の箱に向かって浣腸液とともに固形の便が流れ出ていく。
また、大便とともに、尿も流れ出ていく。
排便のあいだ、世話をしている白痴兄弟はほとんど無反応だ。
ただ、便器で宝玄仙の便を受け、はみ出した汚物を淡々と始末するだけだ。
「うがっ、つ、つぎ……」
一回目の排便が終わると、すぐに二回目の浣腸が始まる。
浣腸は三回繰り返される。
三回目が終われば、便器が片付けられて、もう一度、尻穴を中心に身体が洗われてきれいにされる。
この浣腸に加えた尻穴の洗浄は、青獅子が家畜小屋に降りてくるときには、夕方もやる。
そうでないときは、排便はこの朝の一回だけだ。
また、尿は申告すれば、基本的にはその都度許される。
その間、白痴兄弟はただ無感情に作業をするだけだ。
まさに、家畜の扱いだ
ここまで女としては扱われず、家畜としてのみ扱われるというのも腹が立つ気がする。
最初の頃は、このふたりに色仕掛けが通じないかと思って、愛想を振りまいて話しかけたり、腰を淫らに動かして誘惑しようとしたが、いまでは諦めている。
このふたりを積極的にさせるのは、石像を誘惑するくらいに難しいことだということがわかってきた。
このふたりは、蝦蟇婆の命令であれば、いくらでも宝玄仙を犯したり、いたぶったりするくせに、自分の意思で宝玄仙を襲うということはない。
いずれにしても、ここまでは、いつも同じだ。
これから先は、家畜としての従順さを強めるための調教か、快楽責めにして魔法柱に淫気を集めるための責めが始まるはずだ。
だが、それがいつ始まるか、あるいは具体的になにをさせられるかは、日によって異なる。
一日の日課として決まっているのは、隣の調教部屋で行われる動く床の運動なのだが、それすらも、いつ始まるのかはわからない。
数日前の苛酷な豊乳調教以来、宝玄仙は乳房を引き摺りながらでなければ歩けないようになっているので、あのいつ終わるかわからない運動の強要は、かなりの苛酷な調教の種目になってもいた。
「やっほっ──。お早う──。今日は宝だよね。素敵な贈り物を持ってきたよ」
背後の扉が勢いよく開いた。
寧坊の声だ。
宝玄仙はとっさに顔を伏せる。
この数日ですっかりと身についた、亜人が近づくと顔を伏せるという哀しい習慣だ。
部屋に入ってきた足音は複数だった。
寧坊のほかに蝦蟇婆もいるのだろう。
今日も始まるのだ……。
宝玄仙は、これから開始される淫靡な調教のつらさを想像して深く嘆息した。
「なんだい、寧坊──。また、わたしを感じさせる淫具を持ってきたのかい……? もう十分だよ。勘忍しておくれよ……」
宝玄仙は寧坊の顔を見ないようにして言った。
こいつらの贈り物と言えば、碌でもない淫具に決まっている。
「そんなんじゃないよ。ハーネスだよ。宝玄仙の身体を引き締めるものさ。そんなに大きな乳房になったんじゃあ、満足に移動することもできないからね。日々の運動も不十分だし、その大きな乳房をこのハーネスで引きあげてあげるよ──。一鉄、二鉄、手伝っておくれ」
寧坊が言った。白痴兄弟が立ちあがって、宝玄仙に近づく気配がした。
ハーネス……?
最初は、それがなんのことかわからなかったが、そう言えば、旅の最初の頃に、宝玄仙は孫空女に世話をさせて馬に乗っていた。
その馬は、鎮元仙士の率いる教団兵に襲われて失われたが、馬に取り付けていた紐状の馬具のことを孫空女が“ハーネス”と称していた気がする。
また家畜扱いする道具だと思うと、宝玄仙はかっとなった。
しかし、そんな宝玄仙の怒りに関係なく、寧坊の指示により一鉄と二鉄が寧坊が持ってきたらしいハーネスを宝玄仙の裸身に巻きつけ始めた。
まずは両肩にやや太めの黒い革のハーネスがかかり、それが胸の前に回って、ハーネスに付いている小さな袋状の円形の皿部が宝玄仙の大きな乳房の下に置かれる。
そして、乳房の下に巻きついた革紐と接続されて、乳房が抱え込むように引き揚げられた。
「ふうっ」
感じやすい乳房が引き揚がった振動で揺すられる刺激に、宝玄仙は思わず声をあげてしまった。
「なにをハーネスをつけるくらいで感じておるんじゃ──。この淫乱な雌畜が──」
蝦蟇婆の呆れたような嘲笑が聞こえた。
宝玄仙は歯噛みした。
「大丈夫だよ、宝──。これは、この婆さんたちが、勝手なことをして宝の運動を妨げるような身体にしてしまったことに対する処置なんだから。床に完全に届いてしまうくらいに大きくなった乳房を引き揚げるためのものさ」
確かにハーネスというと、馬に装着する霊具を想像したのだが、これはちょっとした胸当てという感じだ。
巨大な乳房がハーネスによって引き揚げられて床に擦らないで済むようになった。
「なにが勝手なことじゃ、寧坊──。こいつの豊乳化の施術はお前も承知のことじゃったろうが──」
寧坊の横の蝦蟇婆が不貞腐れたように言った。
「豊乳化は承知したけど、乳房を肉芽と同じくらいまで感度を引きあげるなんて聞いてなかったよ。それに、豊乳化にしても、これじゃあ大きすぎて、歩くにしても乳房全体が引き摺ってしまって歩けないじゃないか──。お陰で、宝たちの運動が不十分だね──。まったく……。今度から、この雌畜の身体になにかをするときには、僕を立ち合わせてよね」
寧坊が怒ったように言った。
先日の豊乳化の施術のときに、宝玄仙は輪廻と蝦蟇婆からよってかたって快楽責めに遭った。
そのときに、豊乳化と乳腺活性化のついでに、乳房の感度を肉芽並みにあげられたのだが、寧坊はそれを行き過ぎの行為だと怒っている。
宝玄仙の乳房の快感の負担が大きすぎて、魔法石に斑が生じだしたというのだ。
それに、あのとき、蝦蟇婆と輪廻はふたりがかりで、宝玄仙の股間や肛門を張形で責めたてたのだが、その結果、その時に培養しかけていた魔法石は完全に駄目になってしまったようだ。
そのときは、宝玄仙は限界を超えた連続絶頂に、完全に伸びたようになっていたが、輪廻の施術室に飛び込んできた寧坊が、その状況に接して、輪廻が逃げ出すくらいに激怒したのを思い出す。
胸回りに続いて、腹部と腿を引き締める黒いハーネスがついでだと言って装着された。
「さて、じゃあ、今日も一日の始まりじゃぞ」
ハーネスという馬具の取り付けが完了したらしく、寧坊たちが離れていく。入れ替わるように蝦蟇婆が近づいてくる。
うつむいたままの宝玄仙の股間をひんやりとした感触が襲った。
「くっ」
宝玄仙は歯を喰いしばった。
宝玄仙の股間にたっぷりと液状の薬剤が塗られているのがわかったからだ。
痒みの成分の混ざっている液状の媚薬だ。
これを塗られることが、調教開始の合図なのだ。
たちまちに宝玄仙の身体は熱くなり、淫らな欲情を始め出す。
それでなくても、魔法石を培養する雌畜として、霊気を膣の魔法柱に集めさせられる傍ら、淫気を満たす目的で、ほとんど朝から晩まで終わりのない快楽責めに遭わせられ続けている身体だ。
あっという間に身体が火照りだした。すっかりと淫らな身体になり、全身が欲情に襲われる。
それに、口惜しいがこれから始まるであろう淫靡な調教を待ち受ける酔いのようなものも宝玄仙を包む。
こんな卑劣な亜人たちに、家畜飼育されるなど耐え難い屈辱なのに、宝玄仙の心とは離れて身体そのものは、淫靡な仕打ちを求めて妖しい戦慄が駆け巡り始めている。
「どっちにしても、お前は一段といやらしい身体になってきたのう──。もうすぐ、お別れだと思うと寂しくなるがな」
蝦蟇婆が言った。
「お別れ?」
「今日の調教は休止じゃ──。陛下の特別の計らいでのう──。陛下が、ひと足先に出発する雌奴隷とお前が面会することをお許しになったのじゃ」
「はあ?」
宝玄仙は蝦蟇婆の喋ったことがうまく飲み込めなかった。
今日の調教は休みだということがかろうじて読み取れただけだ。
しかし、宝玄仙の疑念に答える者はいない。
蝦蟇婆が宝玄仙の鼻輪に鎖を取りつけるために寄ってくる気配があった。慌てて、宝玄仙は眼を閉じる。
すると鼻輪にがちゃりと曳き鎖が繋げられた。
「おいで──」
鼻輪が曳かれた。
「ひっ」
いつも鼻輪を引っ張られると声をあげてしまう。
宝玄仙は四つん這いで歩き出す。
ハーネスの胸当てのお陰で大きな乳房は床を擦らないで歩ける。
もっとも、ゆさゆさと揺れて、そのたびに肉芽を弾かれるような淫情が全身を駆け抜けるのだが、これならなんとか歩けないことはない。
さっきの寧坊の言い草ではないが、乳房が豊乳化されてからというもの、動く床の調教のときに、どうしても前に進むことができなくて、あの時間は運動の時間というよりは、ひっきりなしに電撃を浴びるだけの拷問の時間に成り果てていたのだ。
鼻輪を曳かれて隣室の調教部屋に連れていかれた。
隣の調教部屋に宝玄仙とともに進むのは、蝦蟇婆だけのようだ。
寧坊と白痴兄弟は付いてくる気配がない。
四つ脚で歩いて隣室の調教部屋に移動した。
部屋の真ん中に誰かが立たされている。
それが誰なのか、腰から上を視界に入れないようにしている宝玄仙にはわからなかった。
しかし、どうやらその人物は女であり、少なくとも下半身は裸身ではないかと思った。
「ご、ご主人様──、どうしたのさ、それ?」
部屋に響き渡る声がした。
宝玄仙は驚いて顔をあげた。
そこには、両手を天井から引き揚げられた鎖で吊られている全裸の孫空女がいた。
股間におかしなものがぶら下がっている。垂れているが、男の性器に似ている。
「孫空女──」
宝玄仙は叫んだ。
「久しぶりじゃろう、宝──。陛下の気紛れだけど、今日一日夕方まで、お前たちはふたりだけで、ここですごしていいそうじゃ。もちろん、部屋は結界で閉鎖するけどのう……。なにをしてもいい。夕方までふたりですごしてよい。邪魔しないから好きなことをするとよい」
蝦蟇婆がそう言って、元の部屋に戻っていく気配がした。
そして、背後でばたりと扉が閉じた。
「ご主人様──」
眼の前の孫空女がもう一度叫んだ。
孫空女の両手を吊っていた鎖が孫空女の手首からひとりでに外れた。
自由になった孫空女が、一目散に駆け寄ってきて宝玄仙に抱きついた。