そこに
なにかの違和感を覚えた。
だが、その違和感の理由はすぐにはわからなかった。
とにかく、沙那は素裸だった。両腕は後手手錠で拘束され、手錠に繋がった鎖の端を黎山の息子のひとりが握っている。
それが突然、部屋に出現した。
「沙那──」
とにかく、
「ご主人様……。い、いえ……宝玄仙様……」
沙那はそう言い、両眼からぼろぼろと涙をこぼした。
「ご、ご無事……だったのですね……」
「無事……?」
「お、お変わりありませんでしたか……?」
沙那は言った。いったいなにを言っているのだろう。
それで、やっと、違和感の正体に思い当たった。
沙那は、さっき見たときよりも、かなり髪が長くなっている。
そして、心なしか下腹部が膨らんでいるようにも見える。
「沙那、わたしと別れてからどのくらい経った?」
「えっ?……」
沙那は、戸惑った表情をした。
「じ、時間ですか……。半年くらいまでは、ある程度正確に数えていたのですが……。おそらく……一年くらいかと……」
「一年――?」
宝玄仙は声をあげた。
「一年と一箇月だ」
沙那の横にいた息子が言った。
「お前は誰だい?」
宝玄仙はその息子に言った。
「
「夫?」
すると沙那が眼を伏せた。
「どういうことだい、沙那?」
宝玄仙は結界の中から言った。
沙那が、文殊を睨んだ。
「約束です、文殊様。わたしを宝玄仙様の結界の中に入れて、ふたりきりにさせてください。それが婚姻を承諾した代償だったはずです」
「わかっている……。時間は、一刻(約一時間)だけだ」
文殊が言い、部屋の外に出た。
続いて黎山も続く。
ふたりきりになると、沙那が宝玄仙のそばに歩み寄ってきた。
宝玄仙は、結界の中に沙那を招き入れた。
それにしても、まだ沙那が消えてから数刻も経っていない。しかし、明らかに眼の前にいる沙那は、あれから多くの時間を過ごしているようだ。宝玄仙は沙那の膨らんだ下腹部に手を置いた。
「……六箇月になります」
「赤子が?」
「文殊の子です」
沙那はそう言った。沙那が母親となることを望んでいるのか、望んでいないのか、それは、あまりにも複雑な沙那の表情からは読み取れなかった。おそらく、その両方なのだろう。
そして、宝玄仙は確かに眼の前の沙那は、宝玄仙とは別の時間を生きた沙那なのだと確信した。
沙那の考えていることがわからないなど、沙那と初めて会って以来感じたことはなかったのだ。
だが、それしてもなぜ妊娠したのか。
沙那には宝玄仙の霊力が体内にあったはずだ。沙那の身体の中の宝玄仙の霊力は。宝玄仙の魔力を常に吸収し続け、その影響により男の精を受けても、絶対に妊娠をしない働きがあったはずだ。
その沙那が妊娠したということは、沙那の生きていた時間の中に宝玄仙が存在していないということになる。どういうことなのであろうか。
「お前は、この部屋でわたしと別れ別れになった。そして、それから一年以上の時間をすごした。そうなんだね?」
「毎日のようにあの文殊に抱かれました。それから、しばらくして。妊娠したことがわかりました……」
妊娠しているというのは本当のようだ。
道術師の宝玄仙には、触ればわかる。
どんな術を使おうとも、たった数刻で六箇月の胎児を腹につくることはできない。
この沙那は本当に宝玄仙とは違う時間をすごしていたのだ。
「……それで婚姻を承諾したのかい?」
「いいえ……。それが彼らの狙いだと知っていましたから。絶対に婚姻の承諾だけはしてやりませんでした」
「連中の狙いというのはなんだい、沙那……?」
「わたしたち四人と彼ら四人が婚姻することです。形だけではなく、わたしたちが心からそれに同意をして、結婚の儀を受け入れること……。そうすれば、彼らはこの館の呪縛から解放されると信じています」
「なんだい、それ?」
「知りません……。でも、この館にある書院にそのような古い文献が残っています。わたしも読みました」
「本当に、あの四人は時間を移動できるのかい?」
「この館の中に限り……。そして、永遠に生きます。でも、この館以外の場所には出られません、それが、彼らの呪縛なのです」
「そういうことかい……」
宝玄仙は後手に拘束された沙那を抱き寄せたまま言った。
「ご主人様に久しぶりにお会いして嬉しいです。正直に言うと、一緒に旅をしていたときは、嫌だなと思ったこともありましたが、それなりに充実もしていた日々だったと思います……」
「まだ、わたしをご主人様と呼んでくれるのだね?」
「さっき“宝玄仙様”と呼んだことですか……? 彼らのいる前に、ご主人様をそう呼ぶわけにはいかないのです……。わたしは文殊との婚姻を承諾してしまいましたから……」
沙那は下を向いた。
「さっきは婚姻の承諾だけはするつもりはなかったと言っていたじゃないか?」
「文殊が婚姻を承諾すれば、ひとつだけ願いを叶えると約束したのです」
「願いとは?」
「ご主人様ともう一度会うことです」
沙那は言った。そして、再び涙を流した。
「ご、ご主人様は、いったいどこにいたのですか……? わたしは、さんざん捜したのですよ――」
「お前の言うことが本当なら、わたしはお前のいる時間には存在しなかったのだろうね……。もしもいれば、お前が妊娠するわけがないのだよ」
「いなかった? では、どこに?」
「お前はわたしとここで別れて一年以上の時間をすごしたと言っていたね?」
「はい……」
「わたしがこの館に入ったのは、まだ数刻前だ」
「えっ?」
沙那は驚いている。だが、すぐに悟ったようだ。
「なるほど……。彼らは、まだ、この館にやって来たばかりのご主人様に、わたしを会わせたのですね。情報を交換させたくなかったのでしょうか……。ほかの三人の女にも、婚姻を承知させる必要があるのですから……。わたしは、すでに承知してしまいましたけど」
沙那は、自分のお腹を見た。
宝玄仙は、もう一度、そのお腹に手を触れた。
本当に沙那の胎内には新しい命が宿っている。
「この子が男の子か、女の子か知りたいかい?」
「わかるのですか……?」
「わたしほどの道術師ならね……。特に教団の神官は生まれてくる子供の名付け親になることも多いかし……」
沙那はしばらく考えていたが首を横に振った。
「知りたくありません」
「そうかい……」
宝玄仙はそれだけを言った。
そのまま、手に沙那の子供を感じていた。
「ねえ、ご主人様……」
しばらくして、沙那が言った。
「なんだい、沙那」
「また、わたしを愛して貰えませんか? 以前のように……。たった一年前ですが、わたしには遠い昔のように感じるのです」
「以前のようにかい……?」
宝玄仙は苦笑した。
「わたしの膣をほじくってください。指で掻いて──。お願い──、ご主人様。もう一度、なにもかも忘れるような、あの快感を──」
宝玄仙は沙那の股間に触れた。
沙那の淫膣は、もうびっしょりと濡れていた。
それにしても、こんな風に淫らにねだるなんて、これはあの沙那なのだろうか。
また、股間と乳首の『女淫輪』がなくなっている。宝玄仙と離れることで霊力を失い消滅してしまったのだろう。
宝玄仙が沙那の中に指を入れた。
「はあああっ──いいいいっ──ひいいっ──」
沙那は大きな声をあげて仰け反った。
あまりもの派手な反応に、宝玄仙が驚くほどだ。しかし、感じやすかった沙那だが、これは違う。
これは、なにかを隠すためにわざとしているのだ。
咄嗟に宝玄仙は、それを感じた。
沙那が興奮した仕草で、ぐいと腰を突き出して、宝玄仙の指を膣の奥に押し込むような動きをする。
その宝玄仙の指になにか異物がぶつかった。
沙那が宝玄仙の顔に自分の顔をうずめるふりをしながら、宝玄仙の耳元でささやいた。
“……この館の呪いに関する文献を見つけたとき、これが意味ありげに置いてありました。黎家の四人には意味のあるものには思えなかったようですが、わたしには、これがご主人様の魔具であると確信しました……。”
そう耳元でささやくと、それを自分の嬌声に紛れ込ませた。
どうやら、この部屋のことは、なんらかの手段により黎家の男たちに監視されているのだろう。
だから性愛の行為に寄せて、自分の膣の中に隠していたなにかを手渡したいのだ。
「ご、ご主人様──、ああっ──」
沙那は震えている。
それは、紛れもない沙那の快楽の迸りだった。
それにしても、書簡とともに置いてあった宝玄仙の霊具とはなんだろう?
沙那が自分の膣の中に隠して渡してくれた霊具──。
それは、小さな布の破片のようだった。
宝玄仙の腕の中で、いつまでもいつまでも、沙那は震えていた。
*
「訳のわからないことを言わないでよ。ここはどこ? あんたらは何者? 妖魔? 目的はなに?」
なにが起きたのか、沙那は正確には理解できていない。
とにかく、怪しげな屋敷に入ったときから、不思議なことが起き続けている。
そして、沙那は突然に、不思議な力で宝玄仙たちから引き離されて、文殊と名乗る男とふたりきりになった。
「最初の質問と最後の質問にだけ答えよう───。ここは時の館。俺の目的は、お前を犯すことだ」
文殊は眉ひとつ動かさない無表情で言った。
沙那は注意深く構えたままだ。
武器はないが、この男なら素手でも勝てる。
「時の館とはなに?」
「土地に縛られ、過去と未来───それを永遠に行き来する館だ。私たちが、お前たちを犯し、屈服させて嫁にすることができれば、それも終わる」
文殊が消えた。沙那は誰もいない密室にひとり残された。
次の瞬間、沙那は自分が、さっきの密室とは違う周囲を透明の壁に囲まれた小さな部屋の中に入っていることに気がついた。
それとともに、猛烈な熱気が周囲から伝わってきた。
どれくらい経っただろうか──。
呼吸をするのもの苦しいくらいの熱気で溢れている。
男の狙いはわかっていた。この熱気責めにより、沙那の衣服を脱がせるのが目的だ。
わかっていても、脱がざるを得ない。
脱がなければ、身体中の水分が抜けきって死んでしまうだろう。
沙那は下着以外のものをすべて身体から取り去った。
それでも、熱気はどんどん部屋の中に注がれる。
透明の壁の外に文殊が座っている。
これ見よがしに、冷えた果実水を見せびらかしている。
やがて、眼の前がだんだんと暗くなっていった。ついに、死ぬのだと思った。
そして、なにもかもわからなくなった。
気がつくと素裸だった。腕は背中で拘束されている。
そして、部屋の真ん中の床の上に皿に注がれた水があった。
沙那は、飛び付いた。しかし、首の鎖により、それをぎりぎりで阻まれる。首に首輪が装着されていて、首輪につけられた鎖が壁と繋がっているのだ。
いまいましいことに、首の鎖が届かないぎりぎりのところに水の入った皿が置かれていたのだ。
「沙那、飲みたいか、水を?」
頭の上で声がした。
「だ、誰──?」
「お前のご主人様だ」
「……わたしのご主人……様……は」
その瞬間、沙那の眼の前で水がこぼれた。
沙那の顔のほんの少し届かない場所で──。
顔が掴まれる。
上に向けられた。ひとりの男の顔がそこにあった。
「この俺が、お前のご主人様だ。お前のご主人様は、この文殊だ」
「お、お願い……水──」
限界だった。
おそらく、水を飲まなければ、このまま死ぬ。
「俺は誰だ、沙那?」
「も、文殊」
「違う。ご主人様だ」
次の瞬間、さっきの透明の部屋の中にいた。猛烈な熱気──。
猛烈に立ち込める熱気──。
沙那は悲鳴をあげた。
気がついたら、文殊の足元だった。
やはり、手は後手。
首には壁に繋がった鎖──。
髪の毛が引っ張られて、眼の前に文殊の男根があった。
「な……なに……?」
その男根にじょろじょろと水がかけられた。
「あっ……」
「水が欲しいだろう? 舐めろ」
「えっ……?」
「水が飲みたいだろう、沙那? 欲しければ、これを舐めろ」
「そ……そんな……」
なんでもいい。水が欲しい──。
しかし……。
次の瞬間、透明の部屋に戻されていた。
猛烈な熱気──。
嫌だとは言っていない──。
沙那は悲鳴をあげた───。
意識が戻った。
水の音……。
垂れ落ちる水はぎりぎりすぎて、顔を床につけても届かない。いやらしい場所で、意地悪をやるものだ。
「水だ」
眼の前に文殊の男根がある。
そこには、沙那が欲しい水が滴っている。
喰らいつきたい。
だが、さすがに躊躇うものがある。
「舐めろ」
口を開ける。
だが、もう、少しの行動ができない。
「迷わず、口に咥えられるようでなければ駄目だ」
気がつくと透明の部屋の中にいた。
猛烈な熱気──。
身体中の水分という水分が蒸発するのがわかった。
もう、汗も出ない──。
意識が戻った。
水の音……。
垂れ落ちる水はぎりぎりすぎて、顔を床につけても届かない。いやらしい場所でやるものだ。
「水だ」
眼の前に文殊の男根がある。
「覚えているか、沙那? お前はさっき死んだ。時間を戻して、生き返らせた。何度やって同じだが、死の恐怖はお前の心に刻み込まれる。舐めろ」
口を開けた。
だが、もう、少しの行動ができない。
「迷わず、口に咥えられるようでなければ駄目だ」
気がつくと透明の部屋の中にいた。
猛烈な熱気──。
意識が戻った。
水の音……。
垂れ落ちる水はぎりぎりすぎて、顔を床につけても届かない。いやらしい場所でやるものだ。
「水だ」
眼の前に文殊の男根がある。
「覚えているか、沙那? お前は二度続けて死んだ。時間を戻して、生き返らせた。舐めろ」
二度死んだ?
なんのことだろう?
しかし、この圧倒的な恐怖はなんだろう?
だが、それでも、沙那は口を開けなかった。
気がつくと透明の部屋の中にいた。
猛烈な熱気──。
意識が戻った。
水の音……。
垂れ落ちる水はぎりぎりすぎて、顔を床につけても届かない。いやらしい場所でやるものだ。
文殊が男垠に水を垂らした。
理由のわからない恐怖が沙那を襲う。
「水だ」
沙那は、それに喰らいついていた。
「もっと水をやろう」
その男根から、沙那に向かって迸るものがあった。
それが文殊の尿だと考えたのは一瞬に過ぎない。
水だ。
水だとしか思えなかった。
一滴残らず飲み干していた。
「じゃあ、もう少し頑張れるな」
気がつくと透明の部屋の中にいた。
猛烈な熱気──。
意識が戻った。
「また、死んだぞ、沙那」
なにを言われているのかわからない。
しかし、その声を耳にしているだけで、得たいの知れない恐怖が沙那を包む。
「俺は誰だ?」
「えっ……?」
思い出せない。
「俺は、ご主人様だ」
「……ご主人様?」
「次は間違えるな」
気がつくと透明の部屋の中にいた。
猛烈な熱気──。
意識が戻った。
「今度は死ななかったが、いま、死にかけているぞ、沙那」
なにを言われているのかわからない。
しかし、その声を耳にしているだけで、得たいの知れない恐怖が沙那を包む。
「俺は誰だ?」
「ご主人様」
口に出していた。
わからない。
だが、この男に対する恐怖だけが、身体を支配している。
「そうだ。犯してくださいと言え」
「犯してください──」
文殊は、少し考えていた。
「いや……。あと、二、三回殺してみるか。恐怖がお前を永遠に支配するように……」
気がつくと透明の部屋の中にいた。
猛烈な熱気──。
意識が戻った。
「また死んだな、沙那」
男は嬉しそうだ。
しかし、その声を耳にしているだけで、得たいの知れない恐怖が沙那を包む。
「なにか言いたいことはあるか?」
「水……」
わからない。
だが、この男に対する恐怖だけが、身体を支配している。
「間違えたな。犯してくださいだ。そうすれば、水を貰える」
気がつくと透明の部屋の中にいた。
猛烈な熱気──。
意識が戻った。
「犯してください」
「わかった」
しかし、その声を耳にしているだけで、得たいの知れない恐怖が沙那を包んだ。
股間になにかが突き刺さった。それとともに頭に水がかけられる。
また、水がかけられる。
股間が揺れる。
沙那に突き刺さったものが揺れる。
心地いい──。
気持ちいいのは、頭に掛けられる水か……。
それとも淫孔に突き刺さる文殊のものか──。
*
文殊が部屋に入ってきた。
沙那は、文殊を睨みつけた。
「どうした、沙那?」
文殊は愉悦に浸った顔だ。
「ご主人様に……、みんなに会わせて」
「また、あれを繰り返すのか、沙那?」
気がつくと透明の部屋の中にいた。
猛烈な熱気──。
身体中の水分という水分が、一気に蒸発するのがわかった。
文殊が部屋に入ってきた。
沙那は、文殊を睨みつけた。
「どうした、沙那?」
文殊は愉悦に浸った顔だ。
「みんなに会わせて」
「また、あれを繰り返すのか、沙那? 忘れるな。俺を見たら、犯してくださいだ。記憶は繰り返さなくても、身体は覚える。お前は、そうやって支配される」
気がつくと透明の部屋の中にいた。
猛烈な熱気──。
身体中の水分という水分が、一気に蒸発するのがわかった。
文殊が部屋に入ってきた。
沙那は、文殊を睨みつけた。
「どうした、沙那?」
文殊は愉悦に浸った顔だ。
「みんなに会わせて」
「また、あれを繰り返すのか、沙那? 忘れるな。俺を見たら、犯してくださいだ。記憶は繰り返さなくても、身体は覚える。お前は、そうやって支配される」
気がつくと透明の部屋の中にいた。
猛烈な熱気──。
身体中の水分という水分が、一気に蒸発するのがわかった。
文殊が部屋に入ってきた。
沙那は、文殊を睨みつけた。
怖い――。
最初にそれを感じた。理由はわからない。
「どうした、沙那?」
文殊は愉悦に浸った顔だ。
「みんなに……」
しかし、舌が恐怖で動かなくなる。
「俺を見たら、犯してくださいだ。記憶は繰り返さなくても、身体は覚える。お前は、そうやって支配される」
気がつくと透明の部屋の中にいた。
猛烈な熱気──。
身体中の水分という水分が、一気に蒸発するのがわかった。
意識が戻った。
男がいた。
怖い――。
最初にそれを感じた。理由はわからない。
「犯してください」
今度は間違えなかった。
文殊が沙那を抱いた。
思い切り肉棒が突き刺さる。
*
文殊が部屋に入ってきた。
「お願いです。犯してください──」
沙那は言った。
それ以外の言葉を発言することは許されていない。他の言葉を喋れば、死ぬまで身体中の水分を抜かれる部屋に放り込まれる。
そして、生き返らせられる。
『女淫輪』は、いつしか消滅していた。
そのことで沙那は、ここにはもう宝玄仙はいないのだということを悟った。
いなくなることで霊力を失い、消滅したのだと考えるしかない。
だが、その日は、意外なことを文殊は言った。
「今日からは、お前を犯さない」
「な、なぜですか?」
決められた言葉以外を喋ったのはいつ以来だろうか。
「お前のお腹に赤ん坊ができたからだ。俺と沙那の子だ。あの部屋に入れることができなくなった」
「そうですか」
もちろん、受胎したことには、沙那自身がとうに気がついていた。
ただ、教える気にならなかっただけだ。
文殊は、沙那の身体がかわってきたことで気がついたのだろう。
「これからは、しばらく、自由にしていい。ただし、屋敷の中だけだ。まあ、どうせ、屋敷以外の場所には行けんのだが」
後ろ手の鎖が外された。
*
「まだ、婚姻を承諾する気にはなれか、沙那?」
「やめてください……」
思わず、お腹を庇う。
もう、目立つようになったお腹。
欲しくて授かった子供ではないが死なせたくもない。
だが、産ませてらえるのだろか?
いや、自分は、この文殊の子どもを産みたいのだろうか?
それよりも、宝玄仙に会えないだろうか。
屋敷をうろうろしていて見つけた品物を渡せないだろうか。
どうやったら会えるのか。
一応、屋敷中を探しても宝玄仙はいない。
宝玄仙だけではない。孫空女も朱姫もいない。
しかし、文殊の口ぶりから、三人もこの屋敷に囚われたままでいることは間違いないのだ。
それに、あれは、間違いなく宝玄仙の霊具だ。
いつか、
確か『溜め袋の護符』とか言っていたと思う。
それが、なぜ、三百年以上も前から置かれている書籍の裏表紙に縫いつけられてあったのか……。
知らない者から見れば、ただの布だ。
だが、沙那は、それが宝玄仙の霊具のひとつであることがひと目でわかった。
懐かしい──。
その時、知らずに涙が出た。
すぐに文殊から隠すことを考えた。
しかし、常に素裸でいる沙那に隠す場所はひとつしかない。
幸いにも文殊との性交は妊娠がわかって以来ない。
それから、ずっと、沙那は、それを自分の身体の中に隠していた。
「婚姻を承諾しろ。そうすれば、宝玄仙に会わせてやる」
沙那は、もう頷いていた。
宝玄仙に会えるのだ──。
*
沙那は宝玄仙の顔に、自分の顔をうずめるふりをしながら、宝玄仙の耳元でささやいた。
「この館の呪いに関する文献を見つけたとき、これが意味ありげに置いてありました。黎家の四人には意味のあるものには思えなかったようですが、わたしには、これがご主人様の霊具であると確信しました」
そう耳元でささやくと、それを自分の嬌声に紛れ込ませた。
伝えるべきことはすべて伝えた。
後は、ひたすらに溺れていいのだ。
「ご、ご主人様──、ああっ──」
沙那は快楽の迸りに全身を奮るわせた。
宝玄仙の腕の中で、いつまでもいつまでも沙那は震えていた。