510 女囚護送
「お別れだな、孫空女──。あんまり、お前を構ってやることができなくて申し訳なかったな。勘弁してくれよ……。まあ
「うるさいよ、馬鹿が──」
孫空女は鎖付きの手枷と足枷を付けられた身体で悪態をついた。
大きな屋敷の前庭だ。
孫空女は、そこに鎖付きの枷で拘束され、八人もの兵に連行されて裸のままここに連れて来られたのだ。
一方で、
火箭は玄魔の部下であり、さんざんに孫空女をあの軍営でいたぶった男である。こいつの顔をみると、自然にはらわたが煮えかえる。
「どっちに収容されるのかは、運次第だ。だけど、どちらが運がいいのかは、あえて言わないでおくよ──。いずれにしても、最悪は
さらに、火箭が笑い続ける。
どうでもいいけど、相変わらずお喋りな男だ。
玄魔は火箭の横で苦笑している。
「ちっ、どうでもいいけど、ご主人様は一緒じゃないのかい──」
「ご主人様って、あの雌畜のことか? まあ、向こうで一緒になるんじゃねえか。運がよければな。一の魔王の金凰様がお前らを一緒に飼育するのか、別々に飼育するのか知らねえ。つまりは、運がよければ、一緒に飼ってもらえるということさ」
火箭が言った。
孫空女は舌打ちした。
とにかく、ここは魔王軍の軍営ということになっている屋敷の前庭のようだ。そして、宝玄仙と一緒にいたのは、この屋敷の地下室である。
だが、さっきまで一緒だった宝玄仙とは離された。
孫空女はひとりだけ、ここに連れてこられたのだ。
目の前には、護送車らしい馬付きの車両がある。
宝玄仙と愛し合ったのは、つい一刻(約一時間)程前までだった。
つまりは、孫空女は宝玄仙とともに、背後の屋敷の地下ですごしていたのだ。
そこに玄魔が八人の亜人兵を連れて迎えにきて、宝玄仙の目の前で孫空女に首輪と前手枷を嵌めて抱き合っていた宝玄仙と引き離されたというわけだ。
孫空女は拘束されることよりも、宝玄仙と離れ離れになることに抵抗したが、結局はなにもできなかった。
一方で、宝玄仙は達観したような、そして、なにもかも諦めたような表情だったが……。
とにかく、孫空女は首輪と後手の手枷を嵌められ、さらに二の腕のも枷をつけられた。その二の腕の枷には二本ずつの長い鎖が繋がっていて、なんと玄魔は、鎖の一本ごとにふたりの亜人兵を配置し、左右合わせて八人もの兵に孫空女を囲ませて、ここまで連行したのだ。
そんなに大勢の亜人兵に囲まれなくても、手首と足首に身体を弛緩させる霊具の革帯を装着させられている孫空女には、抵抗などできないのだが、それでもここまでしっかりと拘束するのは、横にいる玄魔という隊長の周到さだろう。
また、約十日にわたって股間に装着させられていた男性器の淫具はやっと外された。
宝玄仙といた調教部屋から連れ出される直前に、玄魔自身が孫空女の女陰の張形を引き抜いたのだ。
孫空女を長く苦しめていた淫具の異物がやっと除去されたことで、腰が砕けそうになるくらいの脱力感が孫空女を襲ったが、しゃがみ込むことも許されずに、そのまま八人がかりで魔王宮の外まで連れてこられたところである。
魔王宮の外に出たとき、陽はすでに西の空に大部分が沈みかけていた。
そして、連行された魔王宮の前で孫空女を待っていたのは、どうやら孫空女を移送するために編成されたらしい二十騎ほどの騎馬隊と、それを見届ける役割であるらしい火箭だったのだ。
孫空女が放り込まれた檻車は、二十騎ほどの騎馬隊の真ん中にあった。
窓のない堅牢そうな壁に覆われた馬車であり、囚人を護送するための輸送車なのは間違いない。
このまま、金凰宮というこの亜人軍の本拠地に連れていかれるらしいということを悟った。
「じゃあ、
玄魔が言った。
石虎というのは、玄魔隊の将校のひとりであり、この男が、孫空女の移送隊長として、目の前の二十騎を率いるようだ。
二十騎の騎兵はすでに整列を完了していて、孫空女を拘束している八人とは別である。
孫空女は、全裸試合の初日に、この石虎を一発でのしてやったのを思い出していた。
また、八人の亜人に囲まれている孫空女のそばに、火箭と玄魔がいて、石虎に必要な幾つかの指図をし続ける。
そして、いよいよそれも終わり、孫空女が檻車に乗り込んで、後は出発するだけとなっていた。
「お任せください、玄魔隊長──」
玄魔の言葉に石虎がしっかりと頷いた。
「さて、孫空女、これから先はずっと檻車で拘束されっぱなしの移動ということになるが、おそらくは三日はかかる道中だ。出すものは出さなくていいか?」
不意に火箭が言った。
「出すもの?」
孫空女は火箭に顔を向けた。
「小便と大便だよ──」
火箭は大笑いした。
その嘲笑の言葉に周りの兵がどっと湧く。
孫空女は口惜しさに火箭を睨みつけた。
「お、おしっこがしたいよ。厠に行かせてよ」
だが、仕方なく孫空女は言った。
実のところ、宝玄仙とともにずっと淫行の時をすごしてから、すぐに外に連れ出されたので、尿をする暇はなかった。
それに素裸で夕闇の外に連れてこられたことで、身体が冷えて確かに尿意を覚えていたのだ。
その生理的な苦痛に孫空女が困っていたのは確かだった。
「なるほど、その身体を弛緩させる霊具を装着していながらも、玄魔隊の並いる猛者どもを倒してしまうような女傑のくせに、やっぱり小便は出るか──。よし、させてやるぜ。構うことねえぜ──。そこでしな」
火箭が言った。
「なっ」
孫空女は思わず絶句した。
火箭が言ったのは、尿をしたければ、この場でしろという言葉だ。
その言葉に、周囲の亜人兵がわっと歓声をあげる。
「い、いいよ──。我慢するから──」
孫空女は、自分の顔が赤くなるのを感じながら、首を激しく横に振った。
こんな大勢の前でするくらいなら、檻車の中で洩らした方が遥かにましだ。
「したくなければ、それでいいぜ──。どうせ、三日もすごせば、檻車の中で粗相を続けるしかないんだからな。一回分くらい前もってしていても同じことさ」
あっさりと火箭は言った。
どうやら、からかっただけだったようだ。
無理矢理にさせられるのかもしれないと思ったので、孫空女はほっとした。
しかし、周りの亜人兵たちから失望の声があがる。
「こいつを乗せろ──」
火箭が叫んだ。
すると、孫空女の腕に繋いでいる鎖を持った八人が檻車の中に孫空女を引っ張る。別に抵抗するつもりはなく、孫空女は大人しく檻車にあがる梯子をのぼっていく。
「ほら、せめてもの情けだ。向こうで引っ剥がされるとしても、剥がされるものもねえと風情もねえしな」
火箭が檻車の扉から、薄い黒布を放り込んだ。
身につけるものなど久しぶりだ。
孫空女は檻車の四隅に繋がる枷に、脚を拡げた状態で、まずは両足首を嵌められたところだったが、腕と後手の鎖は一時的に外されたところだった。
慌てて、手を伸ばして布を拾い、身体に巻きつける。
「横になれ──。両手も頭の上にあげて拡げるんだ」
しかし、亜人兵たちによって、強引に檻車の床に仰向けに寝かされ、両手をそれぞれ檻車の左右の隅に伸ばした状態にされる。
即座に檻車の隅から伸びる枷の金具を両手首に嵌められた。
そして、驚いたことに、床に金具が打ちこまれて、さらに両方の肘、肩や腿、さらに膝の下の部分を床に固定されてしまった。
胴体にも三箇所ほど革帯でしっかりと床から離れることができないようにされる。
金具には鍵はない。
孫空女を離すには、もう一度床の金具から外すしかない。
作業を見守りながら、玄魔の周到さに孫空女も呆れてしまった。
「しっかりと固定させろ、石虎──。筋肉を弛緩させる霊具は、おそらく城郭から離れれば効果がなくなる」
檻車の床に寝かされ、兵たちに拘束具を装着されている途中の孫空女を見下ろしている玄魔が、自分の隣に立っている石虎に言った。
へえ、そうなのかと思った。
それはいいことを耳にした。
だったら、もしかして、頑張れば、移送の途中で逃亡も可能か?
「大丈夫ですよ、玄魔隊長。この拘束具は、いかにこの女が馬鹿力でも逃げ出せはしませんて──」
石虎がどんと胸を叩くのが視界に入る。
いずれにしても、孫空女の身体の力を弛緩させている手首と足首の霊具は、おそらく城郭に残る誰かがかけた道術がこもっている霊具なのだろう。
だから、それは、孫空女がその術者と離れることで、霊気を吸収しにくくなり、霊具としての効果がなくなるということのようだ。
そういえば、霊具とはそういうものだと宝玄仙に聞いたことがある。
やがて、作業が終わった。
最終的には、孫空女の全身は、四肢を大きく広げて床に仰向けになった状態で、全部で二十箇所ほどで拘束されて床に張りつけられた。
さすがの孫空女も、これだけ頑丈に縛られては、たとえ、霊具の力が失われても、檻車から脱走するなどできないと思った。
身体を弛緩する帯もしっかりと巻きなおされた。
つまりは、金凰宮に到着すれば、そこでまた新たな霊具に変えられるか、あるいは、いま装着している霊具に別の術者が霊気をこめ直すことで、逃亡の力を奪われるに違いない。
やっぱり、移送の途中で逃亡を図るというのは無理なのかもしれない……。
孫空女はそう思ってきた。
「じゃあ、俺は、最終点検をしてから下りますので、玄魔隊長はどうか先に……」
石虎に促されて、玄魔は檻車を降りていく。
するとなぜか、石虎は孫空女を拘束していた兵たちまで降ろした。
薄暗い檻車の中で、孫空女は石虎とふたりきりになった。
「な、なんだよ、お前……」
石虎は、なにか薄気味の悪い笑みを浮かべて孫空女を見下ろしている。なんだか不安になり、孫空女は石虎に言った。
「孫空女、俺が檻車を降りて、鍵を閉めれば、後は檻車の戸が開くのは三日後だ──。三日も、そんな風に床に張りつけられてじっとしているだけじゃあ、退屈だろう?」
石虎は言った。
「へっ、お前みたいな下衆とこうやって会話をするよりも、ずっとましだよ」
孫空女はうそぶいた。
「まあ、そう言うなよ……」
石虎は、爪先で孫空女の身体を覆っていた布を払って孫空女の股間を露わにした。
せっかく身体に巻いた布だったが床に倒されたことで乱れていた。
だが、石虎がそれを完全に開いてまた肌を剝き出しにしたのだ。
「な、なにすんだよ──」
孫空女は思わず怒鳴った。
「これは格闘試合のときに、お前に世話になった礼だ──」
石虎が、さっと懐からなにかを出した。
「お、お前──」
孫空女はびっくりして声をあげた。
石虎が取りだしたのは、男性器のかたちをした淫具だった。
しかも、それは石虎の道術の力らしく、うねうねと動いている。
「これは、俺の道術がこもっている──。火箭将軍の霊気がこもっている筋力弛緩の革帯の霊具は、しばらくすれば、力を失うだろうが、これはお前と同行する俺の霊気が源だから霊気切れの心配はねえ。三日後に俺が檻車を開けるまで、せいぜい愉しんでくれ。しかも、これは三日間ずっとお前を責め続ける。そして、絶対に抜けねえ……」
「や、やめろっ──」
石虎が孫空女の股間の上に屈みこんで、孫空女の無防備な股間に張形をすっと近づけた。孫空女は悲鳴をあげた。
「ひいっ──。こ、こんなの抜いてよ──くうっ──」
道術の力によって、淫具はあっという間に孫空女の女陰に吸い込まれた。
そして、孫空女の股間を容赦なく責め始める。
すぐに襲いかかってきた激しい淫情の疼きに、孫空女は拘束された身体を精一杯暴れさせた。
「あっ、ああっ」
だが、声が出る。
どうしても、感じてしまう。
孫空女は必死に口をつぐむ。
すると、その孫空女の顔の上に、檻車の天井から一本の管が垂れてきた。
「いま、顔の上に降りてきたのは、道術でお前に栄養入りの水を与えてくれる管だ。吸えばいくらでも水分が出るから、喉が乾けばそれを口で捕まえて飲め。死ぬことはないはずだ。それから、小便も大便も遠慮なくそのまま垂れ流しな──。淫液でもな。掃除は金凰宮に着く直前にしてやる──。じゃあ、三日後に会おうぜ」
石虎がいやらしく笑いながら檻車の戸に向かった。
「ひいっ、ま、待って……」
慌てて声をかけようとした孫空女の視線の前で、檻車の戸ががちゃりと閉じた。
檻車には窓はない。
辺りが完全な闇になる。
「んくうう、うぐううう」
その暗闇の中で、孫空女の股間を責め続ける淫具の音と孫空女の呻き声が、檻車の外から閉められる大きな鍵の音に束の間かき消された。
*
「ああっ……あっ、ああ……」
孫空女はもう何十回、いや何百回目かわからない悶絶をした。
檻車と呼ばれる囚人移送用の馬車だ。
その床に孫空女は手脚を拡げられて厳重に拘束されていた。その孫空女に悩ましい声をあげさせている。
原因は、石虎という孫空女の移送隊長の下衆男が孫空女に仕掛けた霊具のせいだ。
その男は、以前、格闘の試合で孫空女に完膚なきまでに負けたことを根に持ち、床に拘束された孫空女の股間に、振動する霊具の張形を挿入して、道術で出せなくしたのだ。
そして、檻車の戸を閉めて、そのまま孫空女を放置した。
そのため、孫空女は真っ暗闇の檻車の中で、ひたすらに張形に苛まれて悶え続けていた。
「ち、畜生……、あ、ああっ、んああああ」
孫空女は何千回目になるかわからない悪態をついた。だが口を開くと淫らな声も迸ってしまう。
それが口惜しくて、慌てて口を閉じる。
石虎が孫空女の股間に放置した張形は、あいつが口にしたとおりに、道術による淫らな仕掛けが施されていた。
孫空女は宝玄仙から鍛えられた股間の筋肉によって、股間を責められながらも、膣の力だけで、張形を外に出してしまえる自信があったが、何度頑張ってもこの張形は孫空女の膣深くで粘着でもしているかのように動かない。
抜けないようにも道術が施されているのだろう。
また、与えられる振動も意地の悪いものだ。
同じ振動で孫空女に耐性ができないように、しっかりと強弱を繰り返して振動を続けるのだ。
ある程度の強さで振動したかと思えば、しばらく静かな振動になったりする。
そうかと思えば、壊れたかと思うような激しい動きと弱い動きを短い時間でひたすらに繰り返したりもする。
その時間間隔もまったく不規則だ。
動きだって複雑だ。
頭部分を左右に振って振動を加えたと思うと、回転をしたり、はたまた、うねりのような動きをしたりもする。
そんな張形の意地の悪い動きで、孫空女は長い時間翻弄され続けた。
どのくらいの時間がすぎたのか見当もつかないが、もしかしたら、丸一日は経っているのではないだろうか。
この間、どのくらい達したのか見当もつかない。
おそらく、百や二百では足りない気がする。
朦朧とする意識の中、ひたすら孫空女は張形に苛まれるだけの時間をすごしていた。
顔の前に垂れている管から出る水分がなければ、孫空女は度重なる絶頂と汗のために全身の水分が不足して死んでしまっていたかもしれない。
少しでも力をつけようと、管の水は可能な限り飲んだ。
道術の力でいくら飲んでも管から出る水は途切れることはないようだった。おそらく、単なる水ではなく、この水分である程度の栄養も取れるようになっていると思う。
かなりの時間をこの管の水だけですごしているはずだが、孫空女は空腹のようなものを感じていないのがその証拠だ。
孫空女は、この檻車の暗闇の中で揺られながら、ひたすらに張形に責められて絶頂し、管から水をむさぼり、そして、股間から小便を垂れ流すだけの行為を繰り返していた。
移送中になんとか逃亡して宝玄仙を助けると約束をしたのに……。
しかし、いま孫空女は逃亡するどころか、たった一本の張形に翻弄されて、思考することもできないくらいに追い詰められている。
情けなさに自己嫌悪する。
「あはあっ、まただ、く、くそううっ──」
大きな声が出た。
またもや、突然に股間の張形の動きが激しくなったのだ。
「くああっ、ああっ、ひあああっ」
誰も聞いている者がいないだけが、いまの孫空女の救いだった。
孫空女は息もできないような疲労の中で、遠慮のない淫らな声をあげてよがり狂った。
また、いく──。
孫空女は拘束された全身をくねらせて、やってくる快感の波に身を任せた。
「あはあああっ──、ご主人様──ご主人様──いくよおっ──」
孫空女は限界まで身体を仰け反らして絶叫した。
叫んだ言葉は、ただ頭に思いついた言葉だった。
自分の頭が真っ白になっているのを孫空女は感じた。
そのとき、突然に檻車がぐらりと傾いたような気がした。
次の瞬間、本当に檻車が横倒しになった。
「えっ、えっ? えええ──?」
上だった天井が真下になり、また、上になる。
回転している……?
しかも、どこかに落ちている──?
檻車が回転しながらどこかに落ちている。
孫空女は、床に完全に拘束されたまま、ぐるぐると周りながら、二度三度と檻車が岩肌に叩きつけられる衝撃を感じた。
崖から落ちてるのか──?
そうだと思った。
なにが原因かわからないが、山道を進んでいた檻車が崖から落ちているとしか考えられない。
孫空女がそれを悟ったとき、もの凄い衝撃を全身に感じた。
揺れが止まる。
おそらく、崖下に叩きつけられた。
全身に衝撃が走ったが、床に密着して拘束されていたことと、おそらくこの檻車がかなり丈夫な構造になっていたことが幸いして、怪我らしい怪我はしていない。
孫空女はとりあえずほっとした。
床に磔にされて、上を向いていた孫空女の身体は、いまは横向きの磔になっている。
次の瞬間、大きな轟音が鳴った。
真っ暗闇だった周囲に、突然明るい陽射しが射し込む。
すると、衝撃が起こった。
「うわあっ」
なにか巨大なものが檻車の天井──つまりは、もともとは側面だった場所を突き破って落ちてきたのだ。
光が射し込んでいる檻車の中にかなり大きな岩があった。
どうやら、この岩が崖の下に落下した檻車の上から落ちてきて、檻車の壁を突き破ったようだ。
ぞっとした。
当たっていたら即死だったろう。
「な、なんだよう?」
孫空女は思わず声をあげた。
いずれにしても、なんとか無事だったが、よくも当たらなかったものだ。
しかし、続けざまに檻車の周囲で地響きが起きて、孫空女の思念をかき消した。
さらに上方から岩が次々に落ちてきたようだ。
がんがんと檻車の上に当たり続ける。
今度は突き破らなかったが、孫空女の上に落ちてくれば、拘束されている孫空女にはよけようがない。
孫空女は知らず悲鳴をあげ続けた。
やがて、その地響きも静まり、周囲が静かになる。
孫空女の耳には、亜人の兵たちの呻き声や馬の鳴き声のようなものも聞こえてきた。
もしかしたら、逃げられるかもしれない……?
そういえば、さっきまであんなに孫空女を苦しめていた張形が静かになっている。
孫空女は股間に力を入れた。
女陰で挿入された物を股の力だけで出し入れする技は宝玄仙に鍛えられているのだ。
さっきまでは、道術によって張形を外に出すことはできなかったが、振動がなくなったということは、かかっていた霊気がとりあえず消滅しているのかもしれない。
するとあっけなく張形は孫空女の股間から出ていき、下に落ちていった。
次はなんとか、腕か脚の拘束が外れないか……?
孫空女は自分が拘束されている床だった部分に眼をやった。落下の衝撃であちこちにひびが入っている。
改めて身体を確かめると、革帯の霊具のためにずっと弛緩されていた筋肉の力が戻っている。
これなら、多少無理すれば、ひびの入った床くらい壊せるかもしれない……。
孫空女は腕に力を入れた……。
「すまん、孫空女、無事か──?」
そのとき、男の声がした。
そして、さっき、岩が突き破った穴から、ひょいとひとりの亜人の顔が覗いた。
亜人の兵がもうやって来たのかと、背に冷たいものが走ったが、顔を出した亜人の男は亜人兵の服装ではない。
どことなく盗賊風の身なりであり、少なくとも、獅駝の城郭を出発する前に、石虎とともに並んでいた輸送隊の騎兵にはいなかった顔だと思う。
「いま、その拘束を壊してやる。待ってろ──」
男が壊れた檻車の隙間から下りてきた。
そして、いまは横になっている孫空女の前に立った。
「へへ……。それにしても、色っぽい格好しているなあ、孫空女。惚れ直しちまうよ」
男がしげしげと孫空女の身体を眺めて破顔した。
「お、お前、誰だよ──?」
裸体を眺められるのにかっとして、孫空女は思わず言った。
そう言いながらも、孫空女は目の前の男とどこかで会ったことがあることに気がついていた。
どこで会ったんだろう……?
しかし、孫空女の言葉に、明らかに男が失望したような表情になった。
「覚えてないのかい、俺だよ──。
男が言った。
玉斧?
「あっ、あんときの──」
獅駝の城郭で亜人軍に捕らわれる直前に、山中で
孫空女は思い出した。
人間相手に盗賊をしていた亜人盗賊であり、孫空女が頭領を打ち殺したら、孫空女に惚れたとか言い出して、突然に求婚してきた困った野郎だ──。
その時は、孫空女が断ったら、どこかに走り去ってしまったが……。
だけど、なんでここに……?
「思い出してくれたかい、孫空女──。そうか、そうか……。やっぱり、忘れないでいてくれたかい……」
玉斧が嬉しそうな顔をした。
「きっちり忘れてたよ」
孫空女は言った。
「そう言うなよ……。いま、助けてやるからな……。手足の金具は俺の道術でも解除できるぜ」
すぐに手足が自由になった。
あとは胴体を縛ってる金具たけだ。
「これを渡しておくぜ。お前の得物だろう? 感謝してくれよな。これを軍の保管庫から盗んでくるのに苦労したんだ」
玉斧が孫空女の手に、まだ刺繍針ほどの大きさの『如意棒』を握らせた。
「こ、これって……」
孫空女は思わず声をあげた。
「待ってな。胴体の金具も外す。とにかく、ここを逃げるんだ」
玉斧が孫空女の身体の前に屈んだ。
「あっ、危ない──」
孫空女は悲鳴をあげた。
玉斧の背中越しの壊れた檻車の隙間から亜人兵が弓を構えているのが見えたのだ。
「ひっ」
しかも、その兵が放った矢が拘束がまだ外れていない孫空女の胸に向かって飛んできた。
孫空女は悲鳴をあげた。