516 異変──突然の決起到来
「魔凛は、尻の穴に山芋の汁を塗りたくった野菜を入れて戻って来るからな。だが、すぐには抜いてやらねえ。抜くのは、ここにいる全員の珍棒を舐めてからだ。お前ら、さっさと出すんじゃねえぞ。できるだけ、苦しめるんだからよう」
大旋風は大笑いしながら、持っていた酒を一気に呷った。
すぐに、横の部下が空になった盃に酒を注ぐ。
「任してください。だけど、尻に山芋を塗って歩かせてきて、いいかげんに痒くなったところで、全員の珍棒舐めですか。きっと魔凛はのたうち回りますね。尻穴の調教にも身が入るということでしょう」
おもねるような物言いで部下が言った。
大旋風はにやにやしたまま首に振った。
「だが、すぐには始めねえぞ。まずは魔凛の尻にたっぷりと山芋の混じった痒み剤をたっぷりと塗り足してやるのよ。やっと痒みを癒してもらえると期待をさせたあとでな。だから、お前ら話を合わせるんだぞ」
大旋風は言った。
すると、部下たちがどっと声をあげる。
「そりゃあいい」
「さすがは、大旋風の兄貴ですよ」
「魔凛は泣きますぜ」
次々に同調する声があがる。
大旋風はますます愉しくなってきた。
「それで、魔凛に尻穴をあげてじっとしているように命じてやるのさ……。あの『服従の首輪』という操り霊具は、どんな強力な道具にもまさる拘束具だ。一度、命じてやれば、魔凛はその姿勢を崩すことなどできねえ……。野菜も山芋そのものに変えてやる。魔凛は泣き叫ぶに違いないぜ。“お願いだから、尻を掘ってくれっ”てな──」
大旋風は、魔凛の口調をまねながら言った。
周りの部下たちが、一斉に爆笑した。
大旋風隊が軍営にしている人間族の屋敷である。
もともとは、身分の高い人間族の屋敷であり、大旋風たちはこの屋敷の広間で車座になって酒を交わしながら、魔凜が戻ってくるのを待っていた。
青獅子魔王が仮の住居にしている
この屋敷を乗っ取ったのは、魔凛の首に『服従の首輪』を装着させて、奴隷以下の身分にしてやった翌日だったと思う。
若い貴族の夫婦の屋敷であり、まだ十歳だというひとり娘がいた。
この屋敷で働いていた家人たちをひとり残らず追い出すと、退屈凌ぎに大旋風は、その貴族夫婦に、大旋風隊の兵士の集まる庭の真ん中で媾合いをするように命じた。
逆らえば、娘を殺すという脅迫をしてだ……。
亜人たちの集まる輪の中心ですべての衣類を剥ぎ取られたその貴族の若夫婦は、半泣きになりながら、兵士やそのひとり娘の前で媾合いを始めたものだ。
ああいうときには、男よりも女の方が開き直るものなのかもしれない。
限られた時間までに男が女に精を放たなければ、娘を殺すというと、妻はなかなか勃起しない夫の肉棒を懸命に口や乳房で奉仕して固くしようとした。
それでも、夫は恐怖と緊張で一物を大きくすることができずに、結局は勃起を鎮めることのできなくなる媚薬を男に飲ませて、妻と性交をさせたのだった。
その後、まだ勃起の収まらない夫を道術で立ちん坊にして、夫や娘の眼の前で、貴族女を全員で犯しまくった。
その貴族女については、調子に乗りすぎた部下たちが薬物を使いすぎてしまい、頭のねじが外れたような状態になってしまった。
仕方なく、まずは女を処分して肉鍋にして食べた。
余興代わりに、その肉を夫にも無理矢理に食わせたのも、なかなかに面白い見世物だった。
食べなければ娘を殺すと脅すと、男はみっともなく号泣しながら、何度も嘔吐しつつ、与えられた妻の肉を腹に入れた。
自分のへどを手で集めながら、懸命に口にかき入れる姿は、人間というよりは、まさに畜生だった。
その翌日は、男に自分の娘を犯させる趣向を考えていたのだが、男がその夜のうちに自殺したので、それは果たせなかった。
そして、娘については、青獅子と相談し、白象魔王領に送って、あの変態女王の奴隷にすることにした。
娘の名は、
雪蘭という人間族の少女は、青獅子の命により、白象魔王の奴隷宮に、沙那という宝玄仙の供の女と一緒に送り込んだ。
宝玄仙という宝の山を生む家畜の扱いだが、白象魔王のところには、沙那という人間族の女を送るだけで、宝玄仙を渡す予定がない。
あまりにも吊り合いがとれないので、まあ、白象魔王が気に入りそうな人間族のいくつかを見繕って移送することになっている。
大旋風は、白象魔王という青獅子魔王の姉が童女趣味なのかどうかは知らないが、青獅子が送れという指示だったので従った。
今頃は、沙那とともに白象魔王の城に到着しただろう。
「それから、尻調教開始ということですね?」
「けつの穴を掘ってくれと言う魔凛自身の尻にあいつ自身が買ってきた野菜を挿してやるということですよねね?」
隣に座っている部下が追従笑いをしながら、再び空になった大旋風の杯に酒を注ぐ。
「もちろん、魔凛に尻穴に挿す野菜自体にも、たっぷりと山芋や痒み剤を塗り込こむぜ。つまりは、痒みを癒すために、尻穴に野菜を挿せば挿すほど、魔凛は尻穴が痒くて仕方がなくなるということだ──。そうやって、だんだんと太い野菜に変えていく──。今日一日でどれくらいまでの太さまでの野菜を受け入れることができるようになるかな──?」
大旋風は上機嫌に笑った。
「だったら、折角の野菜なんですから、受け入れることのできるようになった野菜は、魔凛に喰わせるというのはどうです、隊長? 自分自身の尻に入っていた野菜を喰い終わったら、尻穴の痒みを癒してもらえるということにしたら……」
提案されたその部下の思いつきに、大旋風は膝を叩いて悦んだ。
自分自身の便で汚れた野菜を喰わせるというのは、なかなかに愉快だ。
魔凛は恥辱に咽び泣くに違いない。
しかし、それをしなければ狂うような痒みから解放されない魔凛は、どんなにそれが屈辱的なことであろうと、それを受け入れいるしかないだろう。
痒みが癒される行為そのものが、新たな痒みを作りだす仕打ちだとわかっていても……。
そのとき、魔凛が戻ったという報せが、門衛をさせている兵から届いた。
魔凛には、前側しか隠せない程度の布切れ一枚だけで城郭の市に行って、自分の尻穴を調教するための野菜を購ってこいと命令している。
野菜を買うための代金は、自分の身体を売って稼げとも……。
どんなに卑劣で恥辱的な命令であろうと、『服従の首輪』をされている魔凛は、大旋風の言葉には逆らえない。
あの霊具は、およそ理解できる言葉であれば、どんなことであろうとも、“命令”と告げられたことに従ってしまうのだ。
どんな実力のある道術遣いが作成した霊具だかわからないが、あんなに完全な操り霊具は、大旋風はほかに聞いたことはない。
その首輪の命令を受けた魔凛が戻ってきたということは、魔凛が娼婦のように人間族の男に身体を許し、その金を使って、市で野菜を買ったということだ。
それ以外の手段で、野菜を手に入れることは魔法で禁止しているからだ。
「案外早かったな……。だったら、もう少し難しい条件にしておけばよかったぜ」
大旋風はそう独り言を言った。
まだ、魔凛が出掛けてから二刻(約二時間)というところだ。
もう少し時間がかかると思っていたから、このくらいの時間で戻ってきたのは意外だった。
城郭の占領のときに得意の支配術で城郭全体を無力化してしまった魔凛の名は、城郭の人間族にはすっかりと広まっている。
いかに魔凛が美貌で名高い鳥人族だといっても、魔凛に手を出す男などいないと思っていたが、そうでもなかったようだ。
「なあに、大旋風隊長……、ちゃんと魔凛の尻を開発した暁には、今度は尻穴で男を誘えと条件をつけて送り出せばいいじゃないですか。前の穴は淫具で塞いでおいてね……」
「いや、淫具じゃなくて山芋がいいんじゃねえか。前の穴は山芋で塞ごうぜ」
部下たちが言った。
大旋風はその提案に腹を抱えて笑い転げた。
「戻ったよ……」
やがて、部屋の扉の外から魔凛の声がした。
大旋風が部屋に入るように指示をすると、扉が開き、その魔凛が入ってくる。
すぐに大旋風は、魔凛の後ろに見知らぬ若い女が籠を背に担いで立っていることに気がついた。
この女は誰だろうと疑問に思ったが、一方で魔凛自身にも違和感を覚えた。
すぐに、その違和感の正体は、魔凛が黒い軍装のような下袴と上着を身に着けているからだと悟った。
魔凛には、『服従の首輪』の力で、出発前に渡した布一枚しか身にまとってはならないと命令してある。
だから、魔凛が大旋風が命令を取り消すことなしに、その布以外のもので、裸身を隠すことなどできないはずなのだ。
「魔凛……? あれっ?」
大旋風は自分の眼が大きく見開くのがわかった。
気がつくと、大旋風はいつの間にか直立不動の姿勢で部屋の中で立っていたからだ。大旋風だけではない。
この部屋にいた全員が同じように直立不動の姿勢になっている。
「な、なんで……?」
なにが起きたのかを把握できなくて、思わず大旋風は呟いた。
道術だ──。
すぐにわかった。
魔凜がこの部屋に入るなり、あっという間に全員が道術にかけられた……。
しかも、それを自覚できないくらいに瞬時にだ……。
これは誰でもない……。
魔凜の道術だ──。
大旋風たちを立ちあがらせて、金縛りのように身体を動かなくしたのは、魔凛に違いない。
操り術は魔凛の得意中の得意の技だった。
その技ひとつで、この城郭にいた数万の人間族を無力化できるほどに、魔凛の術は大きなものだった。
大旋風自身も、この魔凛の操り術をかけられたことがあるので、これがその術だというのはすぐにわかった。
しかし、大旋風に理解できないのは、どうして魔凛の道術が復活したのかということだ。
魔凛の道術は、『服従の首輪』を装着させた直後に、魔凛から取りあげたはずだ。
いや、そもそも、なぜ、魔凛は大旋風に逆らうような行為ができるのだ……?
それは注意深く、魔凛に何度も命令を重ねて、大旋風に危険を及ぼす可能性のある行為のすべてを禁じているはずなのだ。
「ま、魔凛、術を解け──。命令だ──」
大旋風は怒鳴った。
すると魔凛の顔が泣いたように歪んだ。
「ふふふ……。その“命令”という言葉に、随分と泣かされたものだよね、大旋風……。わたしが、どれだけ感情を爆発させるのを耐えているのかわかるかい……。よくも、よくも……」
魔凛の声が震えている。
なにが起きたのかわからないが、いままでさんざんに魔凛をいたぶるための道具だった魔凛の首輪の霊具の効果が消えているということだけは確かなようだ。
大旋風は、自分の背に冷たい汗がどっと流れるのを感じた。
「くれぐれも癇癪を起こしちゃならないよ、魔凛……。手筈通りにね……。ほかの者はどうでもいいけど、この大旋風そのものには使い道があるんだ」
魔凛の後ろに立っていた陰気そうな女が言った。
この女にはまるで霊気を感じない。
どうやら人間族のようだ。
「お、お前は誰だ? 魔凛になにをしたんだ──?」
大旋風は声をあげた。
そして、なんとか魔凛の術から逃れようと身体をもがかせた。
しかし、まるで動かない。
本当に身体全体が凍りついたかのようだ。
「わたしは
鳴智と名乗った人間族の女が言った。
「な、なんのつもりなんだ……? い、いや、お前の目的はなんだ──? お前が魔凛の首輪の霊具の効果を取り消したのか──?」
『服従の首輪』の霊具は、絶対の霊具だと思っていた。
その効果を無効にできるとは知らなかった。
「うるさいねえ──。かくいうわたしも、お前らが玩具にしている首輪の霊具の犠牲者でね。わたしも、こんな道具で人を操って遊ぶような下衆は容赦できないのさ。だから、お前らを皆殺しにする前に、魔凛の腹癒せを手伝ってやろうと思ってね……」
鳴智と名乗った女が開いている扉の外になにかの合図をした。
すると虚ろな表情の亜人兵がふたり大きな鉢をそれぞれに抱えて部屋に入ってきた。
はっとした。
門衛につかせていた兵たちだ。
このふたりが完全に魔凛の術による操り状態にあるのは確かだ。
だから、魔凛とともに、この人間族の鳴智がなんの咎めもなく、この屋敷に入ってくることを許してしまったのだ。
「長引くと隣の魔王宮にも異変が伝わると思うからね……。あまり時間はかけることはできないよ、魔凛」
鳴智が言った。
「心配ないよ、鳴智。この屋敷の亜人兵は、どいつもこいつも、わたしの操り術の支配にした。いま、意識を保っているのは、この部屋の碌でなしどもだけのことさ。こいつらだけは、意識なしに殺すなんて優しいことをするつもりにはなれなくてね──。たっぷりと自分たちのやったことを後悔させながら殺してやるよ」
魔凛が静かに言った。
そして、部下たちが床に置きっぱなしにしていた剣のひとつを拾った。
「お前たち、ここに立っている者の全員の服を剥ぎな。そして、ひとり残らず、その尻穴に、その擦った山芋を塗りたくるんだ──。いや、待ちな。それは、この部屋の奥の棚にある痒み剤の薬草を足して特性の薬剤を作ってからにしようか。それを全員の尻穴に入れるんだ。それが終わったら、わざわざ買ってきた野菜をお前らの尻穴に入れてやるからね。愉しみにしてな」
魔凛の言葉の前半分は、鉢を持ってついてきた門衛たちに告げられたものであり、後半は大旋風の部下たちに言った言葉だ。
門衛のひとりは、やはり虚ろな表情のまま鉢を担いで、調教用の薬草を集めてある棚に進んでいく。
もうひとりは、術で金縛りにされて動くことのできない大旋風の部下たちに近づいて、下袴と下着をおろしにかかる。
下半身を剝き出しにされようとしている部下たちが、一斉に悲鳴をあげた。
「……さて、大旋風──。お前だけは、門衛たちにやらせはしないよ……。このわたしが手ずから剥いてやる」
魔凛の声は震えていた。その震えが、魔凛が耐えている激しい怒りのためであることは確かだ。
彼女が持っている剣の鞘が捨てられて、剣先が大旋風の下袴の横を斬り裂いた。
そして、手が伸びて、下着ごと大旋風の下袴を足首まで一気に引きおろす。
「ひっ」
なんの抵抗もできないまま、大旋風の下半身は剥き出しにされた。
口から思わず悲鳴のような叫びが洩れた。
「どうしたんだい、大旋風──。さんざんにわたしを犯してくれた珍棒をこんなに小さくしちまって……。ほら、もっと大きくしたらどうなんだい? 縮こまらせたままじゃあ、役にたちはしないんじゃないのかい……?」
魔凛が大旋風の睾丸に手を伸ばした。
「ひぎゃああ──や、やめろおおぉ──」
脳天に錐が突き刺したのかと思うような激痛が睾丸から全身に走った。
魔凛が力の限り、大旋風の睾丸を握り潰したのだ。
しかし、それでも大旋風の身体は直立不動の視線を崩せない。
いや、それどころか倒れることもできない。
「や、やめてくれ──ひいいい──お、俺が悪かった──ひぐううっ──がああ──」
魔凛の術で動くことを封じられている大旋風は、なにをされてもされるままになるしかない。
大旋風は容赦のない魔凛の睾丸潰しで泣き叫んだ。
「さあ、魔凛──」
鳴智が寄ってきて、背に背負っていた籠をどすりと置いた。
ふと籠の中を覗くと、上側にはたくさんの棒状の野菜が入っていたが、さらに下にはなにかの袋がふたつ入っている。
やっと魔凛が大旋風の股間から手を離した。
「お前もいくらかの『治療術』を遣えたよね……。だったら、自分の身体に遣いな──。それから、これから、お前にしてやる仕打ちは、ちょっとばかり痛いよ──。この屋敷全体は、すでにわたしが支配しているから、大抵の悲鳴は外には洩れないよ。遠慮なく泣き叫びな」
魔凛が大旋風の首に刃先を向けた。その刃先がつっと下にさがる。
「ひいっ──」
大旋風は思わず声をあげたが、切断されたのは衣服だけだ。
「女みたいな悲鳴を出すんじゃないよ、大旋風──。悲鳴をあげてもいいと言ったけど、やっぱり耳障りだ。黙ってな」
魔凛が鼻を鳴らした。
「う、うわっ──。な、なにをするつもりなんだ、魔凛──?」
大旋風は今度こそ本物の悲鳴をあげた。
魔凛の持っている剣が今度はすっと大旋風の腹に伸びたのだ。
「あんたの腹をこの『
魔凛の代わりに鳴智が答えた。
その鳴智が人間の顔ほどの大きさの袋をふたつ床に置いた。
「大丈夫だろうねえ、魔凛? はらわたなんか取り出して死にはしないかい……?」
「死ぬに決まっているさ──。だけど、ちょっとばかりはもつよ──。こいつに仕事をさせるくらいには、十分に生きるはずさ」
魔凛が言った。
そして、魔凛の剣がいきなり深々と大旋風の腹を縦に裂いた。
魔凛の手が伸び、開いた腹の傷から、大旋風のはらわたを無造作に引き摺り出した。
大旋風は直立不動の姿勢のまま、信じられないくらいの大きな絶叫が自分の口から放たれるのを聞いた。
*
李媛は首に食い込む首輪の痛みに顔をしかめた。
しかし、愉悦に浸っている青獅子は容赦なく李媛の首輪についた鎖を引っ張る。
裸身に宝石のピアスをつけただけの李媛は、四つん這いのまま、仕方なく青獅子の歩みの速さに追いつくように脚を速める。
李媛の裸身に、道の両側に集まっている民衆たちの視線が突き刺さる。
この城郭が青獅子たちの支配するところになってから、ほとんど欠かすことなく続いている雌犬としての散歩だ。
こうやって青獅子は、ついこのあいだまで、この城郭の支配者のひとりだった侯爵夫人の李媛を全裸で犬のように曳き歩くのだ。
それは長い時間ではないが、亜人たちに凌辱され、その性奴隷となった恥辱の姿を民衆に晒さなければならない李媛にとっては、永遠とも思えるほどのつらい時間だ。
しかし、逆らうことは許されない。
李媛が逆らったり、あるいは自殺をしたりすれば、その罰は娘の
命令に従わなければ、李姫を殺すと脅されている李媛は、青獅子の言いなりなって恥を晒すしかない。
「雌犬夫人のお通りだぜ──」
「いつ見てもおいしそうな身体だぜ──」
「後ろから見てみろよ……。宝石をぶら下げた女陰がすっかりと濡れているのがよくわかるぜ」
聞こえよがしに民衆から野次が浴びせられる。
半月ほど前まで、侯爵夫人用の馬車に乗って、この民衆たちを見下げながら、同じ大通りを進んでいた。
それがいまや、李媛に見えるのは、大勢の民衆の下袴や下袍から伸びる脚だけだ。
李媛は、そうやって完全な素っ裸で、亜人の魔王に首輪を曳かれながら、両手を地面につけて民衆の刺すような視線の中を四つん這いで練り歩かねばならないのだ。
李媛は眉をひそめながら、全身を恥辱で震わせていた。
全裸で外を歩かされる恥辱と屈辱には、慣れるということがない。
誇り高い貴族の娘として生まれ育った李媛にとって、この仕打ちは耐えられる限界を遥かに超えていた。
それでも、この瞬間に舌を噛み切ることもなく耐えているのは、人質のようにされている娘の李姫のためでもあり、もうひとつは逆らえば見せしめとして殺すと言われているこの城郭の住民のためだ。
だが、その住民たちに恥知らずな女だと裸身を嘲笑される……。
李媛は、自分が守っているはずの民衆から、逆に嘲笑と軽蔑を向けられるという現実に、押し潰されそうだった。
「人間犬が来たぞ──」
どこからか子供の声が聞こえてきた。
まだ、年端もいかない子供だろう。
どこに母親がいるのかわからないが、こんな李媛の姿を子供に見物させることを許している親に対して、肚が煮えるような思いが沸き起こる。
しかし、それと同時に、ぞくぞくという戦慄が李媛を襲ったことも事実だった。
わずか半月だが、この青獅子の性奴隷として調教された時間が、そんな被虐酔いの反応を李媛に起こさせるようにもなっていたのだ。
無邪気でなにも知らない子供に、犬のように四つん這いで歩く裸身を嘲笑される。
そのことが李媛の五体を麻痺させるほどの甘美な衝撃を与えてもいた。
李媛は、民衆の誰かがからかったように、自分の股間が、民衆に蔑まれる興奮で濡れているのがはっきりとわかっていた。
もう、自分はこの城郭を夫とともに支配した侯爵夫人ではないのだ。
社会的地位を失い、貴族としての誇りどころか、一人前の人間性さえも剥奪された亜人の奴隷女だ。
その象徴が、こうやって衆人の中を全裸で歩かされるという羞恥の行為だ。
全裸で犬のように四つん這いで歩く姿を晒す興奮と解放感──。
それが李媛の身体を激しい欲望で支配しようとしていた。
「大旋風、どうした?」
不意に青獅子が立ちどまった。
ふと顔をあげると、大通りの反対側から大旋風がゆっくりと近づいてきていた。
青獅子魔王の第一の部下であり、最初にこの城郭にやってきて、卑劣窮まる屈辱的な降伏条件を突きつけたのもこいつだ。
しかし、こんなところになにをしに?
やることがなければ、酒ばかり飲んでいると耳にしたし、青獅子の日課である李媛の「雌犬散歩」についてくるなど初めてだ。
だが、李媛は、その大旋風の虚ろな無表情さに違和感を覚えた。
それは青獅子自身も同じであろう。
青獅子の声には、どことなく大旋風に対する不審の感情がこもっている気がした。
「なにか報告か、大旋風?」
青獅子はさらに言った。
「ええ……。少し大切なお話が……。魔凛のことで……」
大旋風はいまや青獅子のすぐそばまで歩み寄っていた。
さらにこっちにやってくる大旋風が、やはり抑揚のない口調でそう言った。
「魔凛がどうした?」
青獅子が言った。
しかし、それに大旋風が答えることはなかった。
青獅子の眼の前に立ったかと思った大旋風が、いきなり青獅子にしがみついたのだ。
「な、なんだ──?」
青獅子が声をあげた。
しかし、大旋風は強い力で青獅子にしがみついている。
周りの護衛もあまりのことに呆気にとられている。
「……伏せな。地面に這いつくばるんだ──」
突然に女の声がどこからか貫いた。
その意味を理解する前に、李媛の身体は四つん這いの姿勢から地面に這いつくばる態勢になっていた。
次の瞬間、大きな音が響いて地面が揺れた。
周囲から割れるような民衆の悲鳴が轟く。
なにが起きたのかを理解するには、数瞬が必要だった。
地面に這っている李媛の裸身に肉片がぼたぼたと落ちてくる。
青獅子にしがみついた大旋風の身体が、青獅子ごと吹っ飛んだのだとわかったのは、李媛の眼の前に首から引き千切られた青獅子の生首がぼとりと落ちてきてからだ。
そのとき、李媛自身にも理解できないことが起きた。
自分の身体が勝手に動いたのだ。
李媛の意思とは無関係に、李媛は足元の青獅子の首を掴んで立ちあがっていた。
李媛の両手は、曳き手を失った首輪の鎖を自分に手繰り寄せ、眼の前の青獅子の首を片手で掴んでいる。
わからない……。
本当はどうしてこんなことが起きたのか全く理解できない。
かろうじて思考したのは、これが亜人に支配されていた獅駝の城郭を取り戻すための千載一遇の機会だろうということだ。
おそらく、なにかの政変が起きて、亜人たちの中で仲間割れが起きたのだと思った。
それで青獅子が暗殺されたのだ。
青獅子軍の総司令官の大旋風とともに……。
しかし、それは心に思っただけであり、いま、自分がしている行為を李媛自身がとろうとはしていなかった。
だが、なぜか李媛の手足や口は、李媛の心と全く無関係に動いている……。
「青獅子は死んだ──。いまこそ、もう一度立ちあがれ、民衆よ──。このわらわに続くのじゃ──。亜人を殺せ──。人間よ──。いまこそ、叛乱のときぞ──」
李媛は全身に亜人王の肉と血を浴びながら、恐怖に動顛している民衆たちに向かって大声で叫んだ。
いや、叫ばされている……。
誰かに操られているとしか思えない……。
李媛の内心は激しく動揺している。
しかし、李媛の口からは、民衆たちに対する力強い檄が迸っている。
その手に、青獅子の生首をあげながら……。
「亜人の魔王は死んだぞ──。復讐じゃ──。すべての亜人を殺すのじゃ──」
李媛の口が怒鳴った。
ざわついていた民衆の声が次第に静かになり、そして、李媛の言葉に聞き入るように息をしはじめたのがわかった。
「殺すのじゃ──。亜人を殺せ──。皆殺しにせよ、民衆よ──。この城郭内を暴れ回れ。亜人を見つけるや、全て殺せ──。青獅子という魔王を失った亜人どもなど、烏合の衆ぞ──」
李媛の叫びは辺りに響き渡り続けている。
民衆たちは呆然としている。
とにかく、李媛は素っ裸のまま、青獅子の首をしっかりと掲げて、ありったけの力を込めて叫び続けた。
民衆の視線が憑かれたように、自分の掲げる生首に向けられるのをしっかりと李媛は感じていた。
「亜人どもを殺せ──」
「殺せ──」
「あいつらを殺せ──。仇を討て──」
「殺せ──」
「殺せ──」
「殺せ──」
「殺せ──」
「殺せ──」
「殺せ──」
民衆の中から出たその呟きがだんだんと大きくなり、やがて城郭を揺らす津波のような雄叫びに変わっていくのを李媛は、はっきりと感じ始めていた。
「すべての亜人を殺せ、皆の者──。亜人狩りじゃあ──。決起せよ――。棒を持て――。刃物を持て――。なければ、石を持て――。死んだ者の仇を討つのじゃあああ」
李媛は青獅子魔王の生首を掴んだまま、さらに絶叫した。