城郭の広場に設置した公開裁判場の判事席に座る
粗末な灰色の囚人服と荒れた髪のために損なわれているもののかなりの美貌のふたりだ。
首に道術封じの護符を巻かせている。
また、鎖の繋がった金属の足枷と前手錠も施している。
これも亜人の霊気を封じる霊具だ。
亜人には独自の道術を扱う者が多い。
だから、亜人を罪人として裁くには、その逃亡を防ぐために、まずは彼らの道術を封じる処置が必要なのだ。
李媛は、城郭に存在する道術封じの霊具を集めるだけ集めさせたが、公開裁判にかけることになった亜人は五十人にもなる。
いくらあっても不足をするほどだ。
もっとも、これも王都からの軍がやってくるまでのことだ。
王軍には、道術師隊も同行するはずだ。
彼らは、その力を結集して、城郭全体に道術封じの封印をしてくれるだろう。
そうなれば、亜人に一時期占領された
とりあえず、市民の一部に城郭軍としての体裁をとらせて、城郭の治安の保持と、亜人の拘束を実施させている。
いまは、亜人憎しの感情で彼らも李媛の指示に従っているが、一度、暴動を起こした市民など、いつ、その反抗心を李媛に向けてくるかわからない。
なにしろ、彼らは、李媛が青獅子という魔王の性奴隷にされて、言語を絶する恥辱を味わわせられていたという事実を知っている。
暫定的な城郭の司政官となっている李媛であったが、急遽編成された市民による城郭軍による李媛への忠誠を信じる気持ちにはまったくなれなかった。
王都軍の入城とともに市民軍は解散させる。
それに抵抗するなら、いまは、亜人に向けられている矛先を市民に向ければいい。
李媛は、この城郭の市民よりも、王都からやってくる救援軍のことを余程信頼していた。
だから、王都軍がやってくるであろう二日後くらいまでに、亜人たちの処分だけは終わらせておきたい。
亜人の処分の次に手をつけるべきは、青獅子に調教されていた李媛を恥知らずよ、淫乱よと嘲笑した市民たちになるだろう──。
李媛は、自分が身体を張って護ろうとした市民たちから、逆に恥ずべき女だと嘲笑され、罵倒され続けることによって、決して綺麗事だけで政事などできないということと、市民というのは軽薄で浅はかな存在だということを悟った。
亜人たちは当然だが、市民を守るために青獅子からの盾になって凌辱され続けていた李媛のことを、あの雌犬散歩のときなどで嘲笑の声を浴びせた市民たちのことを、李媛は許すつもりはない……。
いずれにせよ、いまは亜人殺しの血に酔わせておけばいい。
亜人裁判の残酷な見世物が続いているあいだは、市民たちの不満や不平は、李媛には向かない。
一時的とはいえ、亜人の魔王に屈した女を司政官に頂くということが恥辱であると気がつくようになるのは、血の酔いが醒めてからの話だ。
城郭の広場に設けた略式裁判所の判事席で、李媛は、眼の前のふたりを一瞥した後、役人から差し出された書類に目を落とした。
“
書類にはそう記されてあった。
死んだ青獅子の子飼いの女調教師であり、亜人兵専門の酒場において公開調教の見世物をするために、人間の市民の中から見繕った若い女をさらって亜人たちの前で凌辱した──とある。
「女調教師の春分に秋分か……。短い期間に十人以上の若い女をさらっては酷い目に遭わせ続けたようじゃな。公開調教とやらにかけた女の中には、初潮の始まらぬ童女もいたらしいのう。なにか、言い分はあるか──?」
李媛は顔をあげてふたりを見た。
さすがにこの状況では、意気消沈しているようだが、泣き叫んで取り乱さないだけ大したものだ。
この直前に裁いた亜人軍の将校など、この公開裁判を取り巻いている人間の怒声の迫力の前に、みっともなく泣きだしたものだったが……。
それに比べれば、ただの調教師の女のくせに堂々としている。
「まあ、面白おかしく生きたしね……。未練はないよ、人間女」
「春分姉さんの言うとおりね……。強いて挙げれば、女侯爵のあんたを躾け損なったのは、残念だったかな。なにせ、青獅子陛下のお気に入りだから、こっちには回ってこなかったのよね。わたしらに任せれば、こんな茶番を演じるつもりになれないくらいに、しっかりと調教してやったのにね」
春分と秋分がそれぞれに言った。
「罪を認めたということじゃな。よかろう。では、判決は死刑じゃ──。馬曳きの刑を準備せよ──」
李媛は叫んだ。
観衆がどっと沸く。
そっくりの顔をした亜人美女のふたりが、さすがに鼻白んだのがわかった。
公開裁判所の眼の前には、公開処刑場も設けられている。
この裁判所で、死刑判決を受けた者は、そこですぐに処刑するのだ。
この亜人裁判は、今日から始まった。
すでに十人ほどを様々な手段で処刑している。
死骸はすぐに片付けられて運ばれるから、ここにはないが、公開処刑場の地面は亜人たちの流した大量の血ですっかりと黒く汚れており、夥しい死臭と血の匂いが辺りにたちこめている。
すぐに、眼下の広場に鞍をつけた二頭の馬が曳いてこられた。
処刑と定まったふたりの双子の亜人女が、俄か編成の兵によって広場に連行される。
李媛もまた、護衛の兵に守られながら、今度は公開処刑場に設置された司政官席に移動する。
まずは、春分から始めるようだ。
秋分は、処刑場の隅に待たされて、春分だけが二頭の馬が待つ広場の中心に連行された。
春分の足首から枷が外されて、左右の足首のそれぞれに太い縄をしっかりと巻き直された。
その縄は二頭の馬のそれぞれの馬具に繋げられている。
次に春分が着ていた灰色の囚人服が引き剥がされた。
露わになった彼女の裸身に見物人が歓声をあげた。
「始めよ──」
李媛は声をあげた。
馬を操るそれぞれの兵が馬の手綱を引き始めた。
春分の脚が左右に引っ張られる。
春分の左右の足首に繋がった縄が完全に張った。
それでも縄は拡がり出す。
「ひぎゃあああ──」
春分の悲鳴が響き渡った。
ごきりというはっきりと聞こえる大きな音が響いた。
股間の外れる音だろう。
その開ききった股間から血のようなものが噴き出した。
李媛は軽く手をあげた。
馬の歩みが止まる。
股裂きの刑のときは、すぐには処刑しない。
苦しむだけ苦しませてから、罪人の身体をふたつに裂いてやるのだ。
そうしなければ、残虐性の演出に欠けるとして、見物の観客から不満の怒声が起きる。
「ああ、春分姉さん──」
秋分が絶叫した。
李媛はもう一度手をあげた。
再び、馬がゆっくりと歩き始める。
春分の口から大量の血の塊が噴き出すとともに、股ぐらがはっきりとわかるほどに左右に引き千切られるのがわかった。
*
「殺せ──。亜人を殺せ。──」
眼下で拡がっている光景は無惨ともいえるものだった。
たったいま死んだ女と同じ顔をしたもうひとりの亜人の女もいるが、今度はその女が、ふたつに裂けた肉片の横に連れていかれて、両足首に馬に繋がった縄を結ばれようとしている。
もともと金凰軍の女将軍である魔凜には、そのふたりとは面識はないが、青獅子のところで厚遇されていた女調教師だったはずた。
青獅子軍にとって、青獅子魔王の力は絶対だった。
その霊気の影響が亜人兵の全体に強く及んでいたのだ。
それが一瞬にして消滅した。
魔王軍の亜人兵は、魔王の死によって当然に自分の霊気が減殺された感覚を味わったはずだ。
なによりも、青獅子と大旋風については、亜人たちがこの城郭で我が物顔をするための道術の結界の源でもあった。
その結界群が二人の死により、一斉に消滅した。
一瞬にして、城郭全体に巣食っていた亜人兵たちが混乱に陥った。
そのうえに、魔凜は得意の集団操り術により、この城郭の亜人軍全体に、道術が遣えなくなる操り術をかけたのだ。
集団に対する操り術は、魔凛の得意技だ。
あの宝玄仙にそっくりな女によって、魔凛は大旋風に奪われたのだと思い込んでんた道術の力を復活してもらい、それで魔凛は以前のように道術を駆使できるようになったのだ。
その力を駆使した。
無論、魔凜より霊気の強い亜人や道術遣いには効果はないが、大部分の亜人兵の道術を封じるには十分だった。
そして、魔凛は、李媛をほんの少し操ることで、まずは人間族に暴動を発生させ、その人間族の暴徒に亜人兵を襲わせた。
道術を失った亜人兵のほとんどは無様なものだった。
そのとき目にした人間の残酷性も、眼下の亜人裁判と同様に鼻白むものがあった。
暴徒と化した人間族は、亜人を見つけるや、武器を持ち、棒を掴み、あるいは石を持って、手当たり次第に亜人に襲いかかった。
集団を作り、右往左往している亜人兵たちを惨殺し始めたのだ。
剣を振るって抵抗する亜人兵もいたが、ひとりふたりの人間族を返り討ちにしたところで、誰かが背後から棒で殴りつけ、石で頭を割る。
目つぶしの砂や土もかける。
街路を馬で逃げようとする亜人には、家屋から物が投げ落とされる。
武器を失った亜人兵は、よってかたって大勢の人間族に殺されるだけだ。
眼の前の亜人兵が完全に息をしなくなると、市民たちはすぐに次の獲物を求めて、城郭を駆け巡っていった。
そういう光景が、城郭全体で沸き起こった。
魔凛は、やはり、あの宝玄仙そっくりの女の力によって再生してもらった翼を使って、いまのように高い家屋の屋根から見守っていた。
青獅子軍に対する人間族の叛乱を起こさせるために、最初の段階こそ操り術を遣ったが、すぐにそれは必要なくなった。
魔凛の操り術なしに、いくらでも人間族は残酷で凄惨になった。
市街地のあちこちで、人間族の暴徒の集団が形成されて、亜人兵が殺されていった。
そして、それは時間が経つにつれて残酷度があがった。
殺すべき対象を見つけると、すぐには殺さずに、手足の骨を折ってから馬で引き摺り回したり、目玉をくり抜いたり、口や鼻に土を入れたりと、彼らは遊戯のように殺人を愉しむようになっていった。
さらに、それは亜人兵だけに留まらなかった。
これまでの半月あまりのあいだに、亜人兵に協力的だったという理由で、亜人軍に媚びへつらった商家やその家族なども標的になった。
その騒乱は夜になっても続き、朝になった。
夜通し続いた流血の狂乱を鎮めたのは、李媛だった。
彼女は、いつの間にか、武装した民衆の集団の幾つかを束ね、城郭内の軍営の倉庫に眠っていた正規軍の軍装を与えて、臨時の城郭軍として編成させたのだ。
そして、それを城郭の辻々に立たせて、暴徒の解散と私刑の中止を命じた。
また、同時に、李媛が暫定の司政官として、城郭を治めることも宣言した。
残酷な殺戮の酔いから醒めた市民は、とりあえず、李媛を司政官として受け入れた。
市民からすれば、ほかに選択肢などなかったのだ。
李媛は、編成した城郭軍に、まだ隠れている亜人の将校や軍人以外の亜人を捕縛させた。
さらに翌日の今日から始まったのが、眼下の亜人裁判だ。
李媛が判事になり、連行された亜人を次々に処刑とするか、放免するかを決定する。
罪ありとすれば、公開裁判場に隣接する公開処刑場で残酷に殺す。
放免するとなれば、額に道術封じの焼印をして、城郭から追放するのだ。
もっとも、処刑を免れて追放で済む者は多くはない。
市民たちは、まだ流血の惨劇の余韻で血に飢えていた。
李媛は、そういう市民の心情を巧みに人心掌握に利用しているようだ。
李媛は、罪ありと定めた亜人のすべてに残酷に処刑を与え、市民はそれに熱狂している。
今日、最初に裁判にかけられたのは、
彼女は実験と称して、城郭の人間を手当たり次第に自分の施術室に連れ込ませると、得体の知れない施術をして、死に至らしめていたようだ。
死刑判決を受けた輪廻は、公開処刑場に連れていかれて、開口具で口を開かされて、腹の中に大量の油を詰め込まれた。
その状態の輪廻を李媛は直柱に縛りつけて火あぶりにさせたのだ。
しかも、最初は熾火のような小さな炎だった。
それを足元に置かれて、輪廻はゆっくりと足の先から燃やされ出した。
そのあいだに、次の亜人の裁判をするという感じだった。
散々に苦しみ抜いた挙句に、やがて、炎が腹の部分に達すると、腹の中に溜まっていた油に引火して、輪廻は全身を猛火に包まれて苦しみながら死んだ。
残酷な処刑をするものだと思っていると、李媛は実に創意に富んだ方法により、亜人を次々に処刑し始めた。
どうやら、李媛の行わせている亜人の残酷な処刑は、彼女による市民への享楽の提供でもあるようだ。
いまのところ、獅駝の城郭は、亜人への復讐の酔いによって、なんとか平穏を取り戻そうとしているように見えた。
そして、改めて感じるのは、集団になったときの人間族の残酷性だ。
公平に見て、青獅子軍の城郭における治政は無策であったが、ここまでの残酷な復讐を企てねば収まらぬほどの冷酷なものではなかったはずた。
しかし、人間族は、たった半月の期間でも亜人が自分たちの支配者となったのが余程気に入らないのか、魔凜も身の毛がよだつ仕打ちを亜人たちに加え続けている。
そうしなければ、自分たちの感情の整理ができないのだと言わんばかりに……。
やはり、歴史的な人間族の亜人に対する差別意識は、これほどまでに根強く、深いのだろう。その心情が眼下の亜人裁判の残酷さに繋がっているのだと思う。。
それにしても……。
魔凛の知る限り、青獅子に捕らえられる前の李媛は、誰に対しても慈悲深い清らかな心を持った人情味溢れる侯爵夫人だった。
それに付け込まれて、魔王軍に降伏したときには、あの大旋風にいいように弄ばれたのだが、それがあれほどの無慈悲な処刑を亜人に行うことができるというのも驚きだ。
青獅子に受けた仕打ちが李媛を変えたのか、それとも、それも隠れていた李媛の性質のひとつだったのか……。
とにかく、李媛の亜人に対する仕打ちは辛らつだ。
罪に問うほどの行為をしていなくて、放免と定められた者も無事に城郭を脱出できるわけではない。
李媛は、この城郭に存在する亜人のすべてについて、「殺戮不問」の触れを出している。
つまり、この城郭にいる亜人については、人間族が理由なしに殺しても罪に問わないという触れだ。
その触れを出している状況の中で、額に亜人であるという刻印と道術封じをされて、城郭に放たれるのだ。
彼らもまた、あっという間に市民たちに囲まれて、残酷な私刑を受けることになる。
少し前、魔凛も名を知っていた寧坊という亜人の少年が、額に刻印を受けて、広場から放たれた。
彼はよろめきながら城門に向かおうとしたが、すぐに市民に取り囲まれて倒され、服をすべて剥がされて全裸にされて、そばの街路樹に吊るされてしまった。
しばらくのあいだ、よってたかって全身を棒で殴られていたが、いまはもう動かなくなっているからおそらく死んだのかもしれない。
そうやって、壊滅した青獅子軍であるが、あの混乱の中をうまく生き延びた集団もいる。
混乱した魔王軍のうち、玄魔隊の一部だ。
後でわかったことだが、玄魔は青獅子が死んだということをいち早く察すると、すぐに魔王宮の地下に監禁されていた宝玄仙を道術で城郭外に移動させて逃走したようだ。
そのときに、部下の一部も城郭を脱走させるのに成功している。
青獅子軍の中でも、玄魔隊だけは、城郭の中心部分ではなく、城壁に近い訓練場に宿営していた。
それで城壁の外に脱走しやすかったようだ。
それに比べて、ほかの多くの隊は、魔王宮の近傍の屋敷などを押収して、軍営替わりにしていたので、市民の暴動が起きたときに、逃げることができなかったというわけだ。
いずれにしても、玄魔は、そうやって城郭から逃亡してきた玄魔隊の一部をまとめると、宝玄仙を連れたまま、魔王領である獅駝嶺に逃げ去った。
魔凛と
獅駝の城郭の中央広場の塔の頂上の屋根から、李媛による亜人裁判と処刑の様子を見届けていた魔凛は、眼下の光景にも飽いたので、隠れ処である酒場の家に戻ることにした。
そこに、ひと足先に戻った鳴智がいるはずだ。
この三日、鳴智と魔凛は、暴動をあおったり、亜人たちを無力化する傍ら、宝玄仙の行方を探すために走り回っていたが、今朝になって、宝玄仙については、すでに玄魔が城郭の外に連れていってしまったということがやっとわかったので、鳴智がお宝に報告しに行ったのだ。
“お宝”……すなわち、あの宝玄仙にそっくりな女の名である……。
魔凛は、今朝から行われだした亜人裁判をある程度確認してから、合流することになっている。
それについてもお宝に報告する必要があるからだ。
魔凛は、塔から飛びあがり、翼を拡げて城郭の上を舞った。
自分の姿は市民には知覚できないはずだ。
その程度の操り術は、まだ市民に残したままだ。
お宝が魔凛にとって、女神であるのか、邪神であるのかはまだわからない。
しかし、そのお宝のお陰で、魔凛は大旋風の支配から解放され、屈辱と恥辱の日々を終えることができた。
鳥人族の誇りである翼も呆気なく再生してもらえた。
その代償として、これからなにをさせられるのかは知らない。
だが、どんなことでも魔凛は受け入れることができる。
あの大旋風の人形になり、自ら股ぐらを開いて大旋風たちを受け入れ、裸身を市街で晒し、同朋を殺戮させられ、唾液や糞尿を食わされ……。
考えられる限りのあらゆる恥辱を舐めさせられた。
その生活からの解放を与えられたのだ。
魔凛は、人のいないところを注意深く選んで地上に降り立った。
そこで身にまとっていたマントのフードで顔を包んで顔を隠す。
城郭のあちこちでは、いまだに血に酔った人間族の小集団が、許可されている亜人殺しに興じようと亜人狩りを続けている。
魔凛自身の仕掛けから始まった亜人殺しの暴虐に、魔凛自身が巻き込まれては堪らない。
結局、誰にも出遭うことなく、路地に入り込み、お宝と鳴智が待っているはずの閉鎖している酒場の隠れ処に戻ってきた。
一階には誰もいない。
この場所には、ついこのあいだまで双六やその一味が出入していたが、彼らは、青獅子軍の崩壊とともに、役目を終えてどこかに散ってしまった。
お宝はこの二階を生活の場にしているから、ひと足先に戻った鳴智も二階にいるはずだ。
魔凛は、二階にあがる梯子に向かった。
すると、女の激しい喘ぎ声のようなものが聞こえ出した。
驚いて、魔凛は梯子を急いであがり二階に進んだ。
「おや、戻ったかい、魔凛……。お前に命じた青獅子殺しと青獅子軍の壊滅の仕掛けは見事なものだったよ。褒めておくよ」
椅子に座って寛いでいる様子だったお宝が、魔凛に気がついて視線を向けた。
「こ、これは……?」
しかし、魔凛は二階で行われている光景に呆然としてしまった。
お宝の眼の前には、全裸に服を剥かれた鳴智が両手と両脚を開いて天井と床から繋がった縄で拘束されている。
しかも、その全身は汗みどろで、大きく開いた股間の下には、鳴智の股間から垂れたと思われる愛液が小さな水たまりを作っているのだ。
鳴智がお宝に淫靡な責めを受けいているのは明らかであり、しかも、かなりの長時間の責め苦を受けているように思えた。
「ふん、宝玄仙の解放を命じていたのは、この鳴智にだからね。お前の折檻はなしにしてやるよ、魔凛──。でも、よく覚えておきな。命令に失敗すれば、罰が待っている。この小生意気な女には、鞭で打つよりも、こういう官能責めの罰が余程に効果があるからね。全身の感度を二十倍にして、こうやっていたぶってやっているのさ……。ほらっ、鳴智、偉そうにしていたくせに、宝玄仙を逃げた亜人軍に連れていかれるのを許すとは、なんという体たらくだい──。こうしてやるよ」
お宝が嘲笑しながら、鳴智の開いた股間を柄の長い鳥の羽根でゆるやかにくすぐった。
「ひいいいいっ、ああっ、ああああ──」
鳴智は逆上したような悲鳴をあげて、お宝の動かす羽根から逃れようと腰を激しく動かしている。
だが、すぐにさらに大きな声をあげると、身体を弓なりに仰け反らせて絶頂の仕草をした。
「いくらでも絶頂しな、鳴智──。わたしの魔法陣がお前の失神をとめているからね。限界を超えた連続絶頂の恐ろしさをたっぷりと味わうがいいよ。そら、『刷毛虫』も追加だ。悶え泣きな──」
お宝が羽根で股間をなぶりながら、小さな繊毛の塊りのようなものを五個ほど鳴智の裸身に投げた。
するとその繊毛が鳴智の汗まみれの身体で動きだし、乳首や脇の下などを刺激し始めた。
「はああっ──ゆ、許して──あああっ──」
鳴智が狂ったように身体を跳ねさせ始めた。
四肢を引っ張られている身体が大きく前後左右に動き回る。
「ほらっ、口惜しいかい、鳴智? お前が毛虫のように嫌っているわたしに、こうやって奥の院まで晒されて、官能責めされるんだ。口惜しかったら、命じられた仕事はちゃんとやりな──。もう一度、宝玄仙を追いかけるんだ。なんとしても、あいつを解放して、自分の脚と意思で魔域に向かわせるんだ。そうしなければ、予言は成就しないんだからね──。わかったのかい──」
お宝の羽根は本当にしつこく鳴智の股間をまさぐっていた。
そして、魔凛の眼の前で、鳴智は絶頂して果てた。
鳴智の指示で、李媛の亜人の公開裁判と処刑を見届けていた魔凛が、鳴智と別れて半日ほど経っている。
鳴智は、そのときすぐに、宝玄仙の解放に失敗したことをお宝に報告しに戻ったはずだから、もしかしたら、それからすぐに、お宝の官能責めの折檻を受け始めたのかもしれない。
そうであるならば、鳴智は目の前で続けられている責めを半日も受けているということだ。
限度を越した快感責めは、鞭打ちなどで打たれるよりもつらい拷問だ。
魔凛もそれを知っている。
「どれ、お前も折檻してやりな、魔凛──。これは仕事に失敗した鳴智への罰なんだ。このまま夜まで続けるよ……。じゃあ、魔凛は、鳴智の屹立したその豆を口で舐めてやりな。わたしは、後ろに回るかねえ……。さらに尻の穴の感度をあげてから、羽根責めにしてやるさ」
お宝が笑いながら、椅子を持って鳴智が四肢を拡げて立たされている背後に回った。
すぐになにかの道術が鳴智にかけられたのがわかった。
鳴智には、お宝の刻んだ道術紋が身体に刻まれているらしい。
それで、鳴智の全身の感覚を自由にお宝は操れるのだ。
つまりは、お宝は、鳴智の性感を怖ろしいほどにあげて、ああやってくすぐり責めにしているらしい。
そのため、鳴智はその責めに正気を失ったように激しく悶え泣いている。
しかも、鳴智が苦しむのが本当に愉しいのか、お宝は本当にしつこく鳴智のいたぶりをやめない。
「早くしないか、命令だよ──。鳴智の股間を舌で舐めて刺激しな、魔凛」
お宝の苛ついたような声が響いた。
魔凛の首に装着されている『服従の首輪』の今の命令者は、眼の前のお宝だ。
お宝の“命令”には、一切逆らえない。
一方、鳴智の首輪の命令者は、
お宝は、夫である御影の命令でなんらかの目的のために、こうやって活動しているのであり、鳴智は、その御影の“命令”によって、お宝の活動に従わせられているようだ。
魔凛の身体が、勝手に動き出した。
首輪の霊気が、お宝の命令を実行させようとしているのだ。
「な、鳴智、堪忍──」
同じ『服従の首輪』で支配されている者として、この数日で魔凛の鳴智に対する仲間意識は非常に強くなっていた。
その鳴智を苦しめるような行為をさせられることに、魔凛は気が咎める思いだ。
「ひふううっ──や、やめてっ──」
魔凛が大きく膨らんでいる鳴智の肉芽を口で吸い始めると、鳴智がつんざくような悲鳴をあげて、股間を突きあげた。
「また、達したかい──。じゃあ、今度はこっちでもいきな」
お宝が手に持った羽根で鳴智の尻たぶの亀裂をさわさわとくすぐる。
すると、魔凛の股間の口吸いでがくがくと全身を痙攣させていた鳴智が、さらに強く全身を突きあげて身体を震わせた。
ふと見あげると、鳴智がおかしな声をあげながら、口から泡のようなものをだらりと滴り落とさせるのが見えた。
「夜までにどのくらい達することができるのかねえ、鳴智? とりあえず、いまから百回ほど絶頂したら、半刻(約三十分)だけ休ませてやるよ──。いま二回だね」
嗜虐酔いしたようなお宝の愉快そうな笑い声が部屋に響き渡る。
その声を聞きながら、魔凛は全身の震えのとまらなくなったような鳴智の股間を一心不乱に舐め続けた。
(第81話『人間族の逆襲』終わり)