※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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52  屈服する女たち

「おしっこさせてよ──」

 

 朱姫(しゅき)は喚いた。

 

「だから、結界から出てくればさせてやると言っているだろう。だいたい、結界の外に出ないと厠にいけないだろう?」

 

「ううっ……」

 

 朱姫は股間を押さえたまま呻いた。あまりにも小さな結界なので、朱姫は座ることもできない。宝玄仙くらいの道術師になれば、本人が寝ころべるくらいの結界をあっという間に刻むことも可能なのだが、朱姫の能力ではこれが精一杯だ。

 

「使徒たち──。こいつに襲い掛かれ」

 

 朱姫は結界から三枚の板を投げた。

 だが、出てくるはずの使徒たちが現れない。

 南海(なんかい)はにこりと笑った。

 

「お前はいつも同じことを繰り返すな。以前捕まえたときもそうだった。残念ながら、この屋敷は外の世界と隔離されている。外の世界と結びついている使徒をここに呼び寄せることはできない」

 

 朱姫は歯噛みした。もう、尿意は猛烈な痛みになって、朱姫に襲い掛かっている。

 

「いつまで続けるんだ。どうせ、お前の結界は、宝玄仙(ほうげんせん)のものとは違いお前が寝ればなくなってしまうんだろう? 頑張るだけ無駄だあ」

 

 南海が言った。

 朱姫はなんとか逃亡する方法を模索し続けている。

 ならば、『移動術』だ。移動先は、数日前に旅の途中に刻んだ『移動術』の結界がある。しかし、『移動術』の結界は消滅しやすく、朱姫もその結界が刻み直せるかどうかの自信はない。

 とにかくやってみるだけだ。そして、屋敷の外に逃げる。

 朱姫は、いまの結界に『移動術』の結界を重ねた。

 『移動術』を心に念じる。

 もう、どうにでもなれだ。

 

 跳躍した。

 しかし、なにか不自然だ。

 なにか硬いものがぶつかった。身体が異常に小さく畳まれている。

 朱姫は自分が小さな檻の中にいることに気がついた。

 しかも、ここは屋敷の玄関だ。

 そして、朱姫は玄関の天井から吊るされた小さな檻の中に閉じ込められている。なにが起こったのだろう。朱姫はこの屋敷の客間から先日旅の途中に刻んでおいた結界に飛んだはずだ。

 

 足音がした。

 南海だ。

 手足を折り曲げたまま小さな檻に入っている朱姫は、ちょうど文殊の顔の高さで天井から持ち上げられている。逃げようにも、檻が小さすぎて身動きすらできない。

 

「朱姫は、必ず同じように行動する。『移動術』を使っても、なぜか、この屋敷の玄関で止まって、出られないのだ。だから、あらかじめ檻を仕掛けておいた。何度も同じことをしているから、どこに檻を仕掛ければいいかわかっている」

 

「だ、出して」

 

 朱姫は喚いた。尿意はもうどうしようもないところまで来ている。

 

「そもそも、そのまま、『移動術』をしたらまずかったんじゃないのか。俺は、魔術のことは知らないけど、お前の『移動術』は、結界から結界に飛ぶのだろう? ここは、お前がいた場所から十年程度は過去の時間だ。そこには、お前の結界はないんだろう?」

 

 そんなことはどうでもいい。もう、出る。

 

「小便がしたいのか?」

 

「したい──。させて──。出して、出して──」

 

「俺に服従すると誓えば、出す」

 

「馬鹿を言うな──。早く出して──」

 

「じゃあ、そのまま垂れ流すのだな」

 南海が朱姫の檻を下から見上げられる位置に動かした。朱姫は縦になっている小さな細長い檻の中に身体を畳んでいる。両腿は上半身に密着しているのでお尻が直接に檻の下の部分についている状態だ。宝玄仙の命令で下着を着けていない。あの巫女は、よく気まぐれで下着を取り上げる。沙那も孫空女も下着なしで歩いていることは多いようだ。だから見上げられると、直接性器を見られてしまう。

 

「そんなところから見ないでよ。もう出る」

 

「服従すると誓え、朱姫」

 

「やだ──」

 

 朱姫は喚いた。

 

「ひやあっ」

 

 檻の下から南海の指が股間に触れたのだ。その刺激で、耐えていた膀胱が緩んだ。尿が檻の下に流れ落ちる。

 

「おお、出てる、出てる。よおく、見えるぞ、朱姫」

 

「見るな──、見るな」

 

 朱姫は喚いた。だが、尿を止めることもできないし、手で隠すこともできない。

 やっと尿が止まった。小便をするところを下から見られたという羞恥が朱姫を襲う。

 南海の指が檻の下から朱姫の股間に差し込まれる。

 逃げられない。

 下側の檻の格子は人の手が簡単に差し込めるくらい広くなっているようだ。懸命に手で防ごうとするが、その手を下に持っていくことができない。

 ついに、南海の指が朱姫の淫芽を探し当てた。それをくすぐられる。

 

「んんっ」

 

 朱姫は発しそうになる声を堪えた。じわりと痺れるような快感が拡がる。それと同時に生まれて初めて触れられる男の肌は気持ち悪い。同じことを宝玄仙や沙那や孫空女にやられているときは、ただ、気持ちがよかった。いまはどちらかといえば、嫌悪感が強い。でも、それとは別の疼きがじわじわと込みあがることも確かだ。

 

「人の男が嫌いか?」

 

「き、嫌い」

 

 いつまで続くのかと思うくらいの長く朱姫の股間をいたぶりの後、やっと朱姫は指責めから解放された。

 

「さて、出してやろう」

 

 ガラガラと天井から吊るされていた檻が降ろされた。

 檻の扉が開き、朱姫は急いでそこから這い出た。そして、逃げようとした。その腕をいとも簡単に南海が掴む。

 

「や、やだ、離せ──」

 

 その朱姫の身体を南海は、玄関の戸に叩きつけた。戸に当たって、崩れ落ちた朱姫は、起きあがり、戸を開けようと取っ手にしがみつく。だが、びくともしない。

 

「それは開かない。鍵がしてある。それに、どうせ屋敷の外には出れん」

 

 南海が壁の仕掛けを操作すると、檻が天井に吊りあがる。

 

「く、来るなっ──」

 

 朱姫は、戸を背に悲鳴をあげる。

 半妖といっても、所詮は女の力だ。力では抗いようがない。

 残る手段は……。

 『縛心術』を使うために南海の視線に自分の視線をぶつける──。その頬に衝撃が走った。頬を思い切り平手打ちされたのだ。玄関にあった飾り棚にしこたま頭を打ちつけた。脳天まで揺れるような打擲に朱姫はしばらく動くこともできないでいた。口の中に血の味がした。

 髪が掴まれて引き上げられる。

 

「い、いや……」

 

 朱姫の短めの髪を持った手が離された。崩れ落ちる朱姫の頬に今度は拳が飛んできた。

 

「いま、術を使おうとしたな、朱姫」

 

 朱姫は慌てて首を振った。血とともに折れた歯を吐いた。

 怖い。

 殺される。

 

「術を使ってみろ、朱姫……」

 

 身体が震えた。恐ろしい。

 恐ろしくて南海を見た。ほんの少し視線がぶつかった。

 戸に頭が叩きつけられた。

 

「本当に術を使おうとするとはな」

 

 頭の後ろにぬるりとした感じがした。

 少し頭が割れたのかもしれない。

 

「ち、違うの」

 

「口答えをするなあ」

 

 また、平手打ち──。

 死んでしまう。

 そう思った。

 服の胸倉を南海が両手で掴んだ。

 そして、強引に左右に引き破った。

 

「い、いやっ」

 

 その手を振り払おうともがいた。

 するとまた殴られた。

 倒れたお腹を蹴られる。

 二度、三度──。

 意識が遠くなる……。

 また、南海が朱姫の服を脱がせようとする。上半身が剝き出しになり、残り布が腰に貼りついている。南海がそれに手をかけた。

 朱姫は這って逃げた。

 その身体を南海が蹴り転がした。

 

「うげええええっ」

 

 朱姫は嘔吐物をその場に吐いた。

 その嘔吐物の上に向かって顔を蹴られた。顔の眼の前にたったいま吐いた嘔吐物がある。

 

「お前が汚した床だ……。拭け。さっきの小便もだ。血も拭いておけ」

 

 南海が言った。

 

「は、はい……」

 

 怖ろしくて朱姫は慌てて掃除をするものを探そうとした。しかし、それらしいものは見当たらない。

 その朱姫の髪をまた、南海が掴んで強引に引きあげた。

 腰に貼りついていた服を取り払われ、それが嘔吐物に投げられた。

 

「そこら辺に散らばっている布を拾え。お前のまき散らした汚れだ。お前の服で床を拭け」

 

 全裸にされた朱姫は引き裂かれた布を集めて嘔吐物を掃除し、さらに床の尿を拭き取った。

 頭からひと筋ふた筋と血が流れ落ちる。

 慌てて、それも拭き取る……。

 涙が出てくる。

 なんでこんな目に合わなければならないのか。

 ある程度綺麗になったところで後ろから髪を掴まれた。そのまま、後ろに引きずられる。

 

「ひぎゃあ──。ゆ、許して──」

 

 廊下の床に投げ捨てられた。

 這って逃げようとした朱姫の後頭部が踏みつけられる。

 

「お前は放っておけば、すぐに『縛心術』を使おうとする。始末が悪い」

 

 目隠しをされる。その目隠しの上からさらに紐のようなものが巻きつけられた。そして、両手を背中でくくられる。

 足で蹴られて仰向けにされた。

 朱姫の両足が掴まれて強引に開かれる。

 

「い、いや──」

 

 朱姫は両足をばたつかせてそれを拒んだ。

 犯される。

 その恐怖が身体を襲う。

 顔にもの凄い衝撃が走った。殴られたのだ。

 

 右──。

 左──。

 右──。

 左──。

 右──。

 左──。

 

 永遠と続くかと思った顔への打擲──。

 奥歯の一本が口の中で折れた。

 朱姫の意識が飛ぶ。

 

「うがあああ」

 

 股間を蹴りあげられた。

 朱姫は後ろ手の身体でのたうち回った。

 

「勝手に気を失うな」

 

 朱姫の脚が開かれる。

 抵抗すれば殴られる。

 また、胃と口の中のものを吐いた。

 突然、股間にもの凄い痛みが走った。

 身体が二つに裂かれるような衝撃だった。なんの愛撫もなしに自分の膣の中に南海のものが貫かれたのだと知った。

 

「ひぎいいっ──。い、痛い──痛い──」

 

「半妖といっても、この中は人間と同じだな」

 

「ひぎゃあああっ――。うご、う、ご、か、さ、な、い、で──」

 

 あまりの痛みに気を失いそうになる。

 だが、そう叫ぶ朱姫に南海は容赦なく腰を打ちつけていく。快感など皆無だ。破瓜の痛みしかない。朱姫は悲鳴をあげ続けた。

 身体がばらばらになるかと思うような激痛がしばらく続いた後、不意に朱姫は床に投げ捨てられた。

 

「俺の妻にしてやろう。承知しろ、朱姫」

 

 それだけは承知してやらない。

 たとえほかのことを許しても……。

 その瞬間に朱姫はそう決めた。

 目隠しをされた顔を横に振った。

 その顔に、また平手が飛んできた。

 

「いいだろう。今日から毎日、同じ質問をしてやる。承諾するも拒絶するもお前の自由だ。しかし……」

 

 南海は朱姫の身体をうつ伏せにした。

 そして、後手になった朱姫の指の一本を掴んだ。その指を関節の逆方向に曲げた。

 

「うがあああぁぁぁ」

 

 指の骨が折られたのがわかった。

 

「拒否するたびに、指の骨を折る」

 

 南海が折れたばかりの朱姫の指をぐりぐりと動かした。

 絶叫した。そして、あまりの痛みに意識が遠のいていった。

 

 

 *

 

 

「あがっ、があっ、んがああ」

 

 孫空女(そんくうじょ)は、悲鳴をあげた。

 肉芽の根元に喰い込んみ天井の金具に繋がっている堅糸が股間に食い込んだのだ。

 だが、上に乗っている普賢(ふげん)が容赦なく、股間に怒張を埋めて律動しているので、身体を揺らされるたびに激痛が走るのだ。

 

「や、やめろ、がっ、んぎいいっ」

 

 ぴんと伸びた糸は一直線で孫空女の女芯に結びついている。

 本当は動くこともきできないのだ。

 だが、性交のときにはこうすると、孫空女が大人しくなるという理由で、こいつはわざわざ股間を天井から吊り下げるのだ。

 ぶっ飛ばしてやろうと思うが、寝台の四隅に四肢が引っ張られるように革紐が繋げられている。

 もっとも、拘束などなくても、いまの孫空女には抵抗の手段はない。

 肩から先の腕と、腰から下の脚の骨の間接を全て外されているのだ。

 医術の心得もあるらしく、こいつに監禁されるようになっておそらく半年くらいになると思うが、かなり早い段階で「処置」された。

 痛みはない。

 だが、力も入らない。

 

「く、くそがっ、ああっ、う、動かすな、糞ったれ──」

 

 孫空女は力の限り喚いた。

 だが、普賢は知らぬ顔だ。これもいつものことだ。

 

「すぐ、終わる。暴れ、ないなら、外して、やっても、いいが、こうして、吊して、おけば、大人しく、なって、楽だ」

 

 普賢が孫空女に怒張を埋めたまま、それを律動させながら言った。

 身体が揺すられるたびに激痛が襲う。

 孫空女に快感はない。

 この男も孫空女を感じさせようとしているわけじゃない。

 だから、事前の愛撫もない。

 潤滑油のようなものを使って挿入し、勃起した男根を動かすだけだ。

 ただ、関節を外されたところで、孫空女は犯されようとするたびに死ぬほどに暴れてやった。

 だが、こうやって肉芽を糸吊りにすると孫空女が動かなくなるので、こうやって犯すのが定番となっているのだ。

 

 つまりは、この男が孫空女を犯している理由──。

 それは性処理だ。

 いつの頃からか、この普賢は孫空女を堕とすための行動をしなくなった。

 一日に一回ほどの時間、こうやって自慰のような性交の道具として孫空女を使うだけである。

 それと鞭打ちだ。

 鞭打ちは毎日やる。

 これも、こいつの自慰と同じで、女を鞭打つと興奮するらしい。今回も打たれたが、犯される前の儀式のようなものだ。

 

「は、早く、終われよ、んぐうっ」

 

 孫空女は糸で肉芽を引っ張られる苦痛に歯ぎしりしながら言った。

 同じことをされても、相手が宝玄仙なら、気持ちよくなることもあったが、この普賢については、まったくそう言うこともないから不思議だ。

 

「出すぞ」

 

 いつものように、行為の終わりは唐突にやって来た。

 普賢が孫空女の中で射精するのを感じた。

 ぶるりと身体が震えたかと思うと、二度、三度と腰を震わせ、孫空女の中から男根を抜いて離れた。

 寝台からおりた普賢の股間を見ると、射精したばかりの男根が粘性物の糸を引いていた。

 

「く、くそが……」

 

 孫空女は吐き捨てた。

 衣類を整えながら、普賢に吐き捨てた。

 すると、普賢が孫空女に顔を向ける。

 

「両手の関節が繋がっている時間に戻してやろう。身体を洗って、食事も済ませておけ。逃げようとしても不可能だから無駄なことをするな。時間は四刻だ。四刻すれば、また、関節が外れている時間に戻される。糞尿も終らせておけよ」

 

 普賢が事も無げに言った。

 この普賢たちが、この屋敷内に限り、時間を自由に移動できる能力を保持していることはもうわかった。

 なぜか、そういうことができるらしいのだ。

 そうやって、こいつは孫空女の身体の関節を外している時間軸と、まだ繋がっている時間軸を移動させることにより、孫空女を自由に操っている。

 

 また、その目的も知っている。

 孫空女たち四人がこの屋敷の住人の四人が婚姻の誓いをすることを承知させるためだ。よくわからないが、そうすれば、普賢たちは、この屋敷に囚われている呪いが解けるらしい。

 調べたわけじゃない。

 なんのために、こんなことをするのかと普賢に訊ねたら、隠すことなく教えてくれた。

 よくわからないが、普賢の物言いによれば、これまでに繰り返した時間の中で孫空女については、「呪い」について隠す場合と、隠さない場合では、比較的、隠さない方が堕ちる確率が高いらしい。

 冗談じゃないと思った。

 正直に教えられようと、普賢たちの同情して、婚姻とやらに同意してやるものかと思う。

 こんなことをされれば、尚更だ。

 

「くっ、い、いつまで、こ、こんなことすんだよ。の、呪いとやらのために、あ、あたしを口説かないのかよ」

 

「口説いて欲しいのか?」

 

 普賢が天井に繋がっている糸を外しながら、目を丸くした。

 

「そんなわけないだろう──。こんなこと、いつまでやっても無駄だと言ってんだよ──」

 

 孫空女は怒鳴った。

 普賢がほんの少しだけ、口元を緩ませた。

 

「な、なんだよ?」

 

 その表情が気に入らなくて、孫空女は大きな声をあげた。

 

「毎回思うのだが、面白い女だと思ってな。だから、いつも、処置をする前の時間を愉しんでしまうのだろうな。処置が終わったお前は、まったく別人の女だからなあ……。なあいい。今回もそろそろ、その措置をするか。お前の身体も飽きてきたしな。湯浴みのための四刻が終われば、人形化の施術をする」

 

「人形化?」

 

 孫空女は眉をひそめた。

 すると、普賢が孫空女の頭のこめかみ部分に指をさした。

 

「眼のこの部分に人間の脳に至る隙間を開ける。ここに長い金属の棒を差し入れて、能の一部を欠損させる。そうすると、怒りや悲しみなどの感情を発生することができなくなる。従順以外の感覚を失うのだ。多少、喋り方が稚拙になったり、思考に不自由を覚える副作用はあるが、婚姻の承諾には問題ない」

 

「はあ?」

 

 突如として言い渡された訳のわからない言葉に、孫空女は驚いた。

 頭に棒を刺して、脳みそを……けっそん?

 なに言ってんだ、こいつ?

 

「心配いらん。百回ほどは失敗して死なせたが、最近の施術では、ほぼ成功している。失敗すれば、やり直せばいいことだ。時間はいくらでもある」

 

「そ、そんなこと心配するもんか──。ふ、ふざけんな」

 

「お前の意見はどうでもいい。時間の無駄だ」

 

 次の瞬間、孫空女の前から普賢は消滅し、手足の関節も元に戻っていた。

 

 

 *

 

 

 おそらく密室なのだと思う。

 見えないのでわからないが、まるで空気の流れを感じないのだ。

 ここに閉じ込められてどのくらいの時間が経ったのか。

 朱姫はもう随分と光を見ていない。眼にはなにか金属のようなもので覆われていた。鍵がしてあるらしく、なにをどうやってもその目に装着されている覆いを外すことができない。

 手足は自由だったから手探りで壁を触ってまわったが、その部屋にはどこにも出入口らしきものを感じなかった。

 

 食事は一日に一回のようだ。

 そう言われた。

 南海が運んでくるのだが、それが決まった時間なのか、そうでないのかがわからない。もしかしたら時間を決めていないのかもしれない。

 この屋敷に時間というものが関係すればだが。

 屋敷のことを黎家の四人の男が、“時の館”と呼んでいて、館から逃れられない代わりに、館の中であれば自由に時間を移動できるというのは理解した。

 

 いま、朱姫は、部屋の真ん中でひたすらに自慰をしていた。

 したくてしているわけではない。いつ来るかわからない南海は、ここにやってくると必ず、朱姫の膣孔に自分の男根をねじ込んだ。朱姫が濡れていようが濡れていまいが関係ない。容赦なく挿入するのだ。だから、少しでも痛みをやわらげるために、朱姫はいつでも自分の股間を濡らしておかなければならないのだ。

 朱姫は啜り泣きとともに、自分の股間を濡らすためのだけの行為を続けていた。

 左手は完全に使いものにならなくなっていた。五本の指の骨は、それぞれ二回ずつ叩き折られた。

 

 朱姫が南海との結婚に同意したのは、明日からは右手だと言われた次の日だった。

 それからも、南海はこの地下室らしき部屋に朱姫を閉じ込めていた。そして、一日に一度、食事を持ってくるときに朱姫を抱く。

 いや、朱姫の股間に自分のたぎったものを挿入しにくるのだ。

 それは性交というものではなかった。ただ、突き挿して滅茶苦茶に動かして、そして、自分が果てたら抜く。

 それだけの行為だ。

 

「朱姫」

 

「ひいっ」

 

 声がかけられて朱姫はすくみあがった。この男の恐怖は心に染み込まされている。声を聞くだけで全身に恐怖が走る。

 しかも、まったく、気配もなく出現するのだ。どこかの出入口から入ってくる様子もない。

 朱姫は股間を愛撫していた手を離して、声のする方向に身体を向けた。そして、仰向けになり脚を開く。そうしなければ死ぬほど殴られるのだ。

 

「今日はいい。それよりも来い」

 

 腕をとられた。どこかに歩いていくようだ。朱姫がひとりでいるときにあった壁もない。いったいどういう仕掛けになっているのか。

 どこかに立たされた。

 余計な口を効かないことも、もう覚えてしまった。喋ろと命じられない限り、朱姫は喋らない。余計なことを言って殴られたくはない。

 なにか温かい。

 頭の後ろで鍵が外される音がした。眼の部分を覆っていた金属が外されようとしているのだ。

 

「眼を開けろ」

 

 金属が外され、南海の両手が朱姫の顔を掴んだ。

 そして、強引に朱姫の眼を開いた。

 

「あがああ──がががああ──」

 

 そこにあったのは、窓から見える太陽の光だった。

 おそらく目隠しをされていたのは、十数日にもなるだろう。

 そこにいきなりの太陽の強い光──。

 朱姫は自分の目の中でなにかが焼けるのを感じた。

 

 

 *

 

 

「くふっ──。はうっ──。んんっ──」

 

 宝玄仙(ほうげんせん)は、自らが刻んでいる強力な結界の中で自分の股間をひたすらに愛撫していた。

 込みあがる快感。

 もう少し……。

 宝玄仙は、自分の股間に突き刺さる指をさらに激しくした。

 それとともに乳房を掴む力を強くした。

 いく──。

 

「そこまでだ、宝」

 

 結界の外からいまいましい黎山(れいざん)の声がした。

 だが、今日の宝玄仙は、それに付き合う気はなかった。この半月余り、遊んでやっていただけだ。

 命令をされたら自慰をする。ただし、やめろと言われたらやめなければならない。

 その命令が守られなければ、結界の中にいる宝玄仙に食事と水は与えない。

 本当にそんな命令が宝玄仙に通用すると思っていたのだろうか。

 

「そこまでだと言っているだろう──」

 

 苛々した黎山の怒鳴り声がした。この半月ばかりずっと言うことをきいてやっていたから、自分の「調教」がうまくいっていたと思っていたのだろうか。

 いい気味だ──。

 成功していると思っていた気持ちを打ち砕く──。

 その悔しげな顔が心地よい。

 

「三日間、食事をやらんぞ」

 

 馬鹿が結界の外で騒いでいる。

 

「ああっ、いくよっ」

 

 宝玄仙はその声を肴に最後まで達してみせた。

 軽い高揚感とともに、宝玄仙は達したばかりの股間を大きく開いて、黎山に見せつけた。黎山の顔が真っ赤になり怒りに打ち震えている。

 しかし、結界を強めてあり、いまは声以外のものが出入りはできない。

 

「どう、ここに、あんたのものをぶち入れたくはないかい? 結界を緩めてやろうか?」

 

 宝玄仙は自分の股間から淫液を手ですくい顔の前で指を拡げた。指と指の間に宝玄仙の愛液がねちゃりと拡がる。

 

「み、水もやらん」

 

「兵糧攻めということだね。受けて立ってやるよ」

 

 宝玄仙は笑った。

 最初の頃のような「よそいき用」の巫女言葉はもう使っていない。あれは面倒だ。

 

「いままでは、遊んでいやっていたのさ。わたしくらいの道術師になれば、結界の中で水も作れるし、魔術により身体に必要な栄養も注入できるんだよ」

 

「な、なにいっ?」

 

 黎山は驚いている。

 

「あなたのお得意の“前の失敗”のときのわたしは、それを教えなかったのかい? だいたい、半月もわたしは、この結界にいながら、一度も糞尿をしていないんだよ。おかしいとは思わなかったのかい?」

 

 この男によれば、この屋敷では、ずっと同じことが繰り返されているという。

 この屋敷が建てられて三百年目に、宝玄仙一行が立ち寄る。黎山たちはそれを捕えて、それぞれの妻にしようとする。それで、呪いを解こうとする。しかし、もう少しのところで失敗して逃げられてしまう。

 その度に黎山たちは館の時間を逆転させて宝玄仙が訪れる前に戻り、やり直しを図っている。

 “時の館”の住人である黎山たちにはそれができる。それこそ何度でも。

 だから、この男たちは宝玄仙たちのことをよく知っていたのだ。過去の──“発生しなかった未来”というべきか──宝玄仙たちから知った知識のようだ。

 この男たちは時間を支配できる。

 だが、支配できるのは時間だけだ。支配されてやるつもりはない。

 

「結界を解け──、宝玄仙」

 

 黎山が拳を椅子の手摺に叩きつけた。

 

「お断わりだよ」

 

 宝玄仙は股を開いたまま、指で股間に触れた。陰毛を掻き分け二本の指で肉芽を挟む。被っている皮を上げ下げしながらすでに溢れていく淫液にまぶす。だんだんと痺れるような快感が全身に拡がる……。

 

「やめろと言っているだろうが、宝」

 

「い、や、だ、ね」

 

 見られている……。

 見せつけている……。

 眼の前の男に対する嫌悪感でさえも、それが快感に変化する……。

 もっと、淫靡に──。

 もっと情熱的に──。

 魅せつける……。

 宝玄仙は意識をして淫らに悶えた。

 顔を振る。

 胸を揉む。

 腰をくねらせる。

 

「んあああっ──。うはぁぁああ」

 

 激しい嬌声をあげてみせた。

 吐息でさえも魅惑的に感じさせるように。

 心の底から本気で自分を責める

 

「また、いくよ、いくうっ」

 

 ひと際大きな声を出しながら、宝玄仙は身体を弓なりにして絶頂に身を投げた。

 

「わしに服従する気はなくなったということか、宝……?」

 

 宝玄仙の嬌態の様子をじっと見ていた黎山が静かに言った。

 

「最初からそんなものは皆無だよ。その気になれば、この結界の中で、十年は過ごせるよ」

 

「お前の供を殺すぞ」

 

「殺したら、呪いは解けないだろう」

 

「それでも殺す」

 

「殺しても時間を戻せるんだろう。だったら、連中は大丈夫だよ」

 

 宝玄仙は鼻を鳴らした。

 

「わかった……。ならば殺さずとも、殺せるということを教えてやろう」

 

 黎山が言って立ちあがり部屋の外に出て言った。

 しばくしてから部屋の扉が開いた。

 そこにいたのは、黎山と三子の普賢に挟まれた孫空女だ。

 丈の短い貫頭衣を着ていて、両手は前手錠で拘束されている。だが、あの最初の日以来、初めて見る孫空女は眼が虚ろで様子がおかしい。

 

「孫空女?」

 

 宝玄仙は声をかけた。しかし、なぜか反応が小さい。視線をこちらに向けて、小首を傾げて可愛らしく微笑んだ。

 孫空女のあんな仕草は宝玄仙は見たことがない。宝玄仙は呆気にとられた。

 

「あの人は……?」

 

 孫空女が言った。随分と口調がゆっくりだ。

 なにかおかしい。

 

「宝玄仙という巫女だ……。黎山王の妻になる方だ……」

 

 普賢が言った。

 

「そうですか。よろしくお願いします。普賢様の妻の孫女です」

 

 孫空女が微笑んだ。

 

「お前、わたしを覚えていないのかい、孫空女?」

 

「孫空女? あたしのことですか?」

 

 孫空女は答えた。顔には微笑みが浮かんだままだ。

 

「……お前、少し、こっちに来て身体を見せてごらん」

 

 宝玄仙は言った。すると、孫空女は視線を普賢に向けた。

 

「行くのは駄目だ。だが、身体は見せてやる。孫女、服を脱げ」

 

 普賢が言った。

 孫空女は服をたくしあげると、すっぽりと頭から脱いだ。

 孫空女の裸身が現れた。そこには、惨たらしいほどの傷があった。

 

「こ、これは……。お前がやったのかい、普賢……?」

 

 宝玄仙は結界の内側からそれを見て言った。

 

「趣味だ」

 

 普賢は無表情で言った。

 

「孫空女が鞭で言いなりになるわけないだろう」

 

「わかっている……。だから、鞭打ちは趣味だ。屈服させるためではない。面倒は嫌いなのだ。だから手術をした」

 

「手術?」

 

「人間を服従させる手術だ」

 

 普賢は孫空女に横を向かせると、彼女の髪を上げた。孫空女のこめかみになにかを突き刺したような小さな傷がある。

 

「そのこめかみの傷はなんだい、普賢?」

 

 宝玄仙は声をあげた。

 

「これがその手術の痕だ」

 

「だから、なんの手術だよ?」

 

 宝玄仙は苛ついて叫んだ。

 

「我ら一族に昔から伝えられていた術式だ。こめかみから細い金属棒を突き刺して頭の中をめちゃくちゃに抉る。すると、なぜか、どんなに反抗的な人間でも順応な人間に変化する。よく、罪人や政敵に施していた術だ。ただ、やり過ぎるとこんな風に記憶を失い、知的能力を著しく低下させてしまう」

 

 黎山が応じた。

 

「つ、つまりは、人間を作り変えたということかい……。孫空女を生かしたまま、孫空女を消したと言いたいのかい?」

 

「その女は孫女だ、宝玄仙……。そう呼んで欲しいと言ったぞ」

 

 普賢が言った。

 

「そうなのかい、孫女?」

 

「はい、そう言いました」

 

 孫空女がにっこりと笑った。その微笑みには一切の余分な感情の混じり気のない純粋な微笑みだ。

 

「わたしのことを覚えていないんだね、孫空女……?」

 

「黎山王様の妻の方です……。先程教えてもらいました」

 

「せめてわたしに傷の治療をさせてくれないかい、普賢?」

 

「断る。お前の力があれば、頭の術の効果も失わせて元に戻すこともできるだろう。それで、以前は酷い目に合った」

 

 宝玄仙は考えていたことを見透かされて、内心で舌打ちをした。

 おそらく、こめかみから突き刺した金属針で意図的に頭の中を壊したのだ。だが、肌の傷と同じで宝玄仙の力があれば、元に戻すこともできるかもしれない。

 

「お前の知っている孫空女は、もういないということを教えたかっただけだ。殺さなくても殺せるのだ」

 

 黎山は言った。

 普賢と孫空女が部屋の外に去った。

 

 

 *

 

 

 十数日以上も目隠しをされてから、強い太陽の光を見させられる。

 数度も同じことをされると、朱姫の視力は完全に失われた。最初はぼんやりと見えていた光ももうなにも感じない。

 なぜ、南海がそんなことをしたかは理解できる。

 朱姫は『縛心術』を相手の眼を見ることで行う。朱姫の視力が失われては、『縛心術』は、完全に使えない。

 

 『使徒』もいない。

 『移動術』は意味がない。

 『結界術』はもう使う気もない。

 

 朱姫の『結界術』は、宝玄仙のものと比べてあまりにも弱いため、自分を閉じ込めるだけの意味のないものだ。

 そして、『縛心術』も永遠に失われた。

 残る術は『獣人』の術くらいのものだが、この黎家の一族には通じないだろう。

 あれは一度使えば、二度目を使うには五日はかかる。そうすれば間違いなく、朱姫の腕は切断されるだろう。一矢報いることはできるが意味はない。

 そんなとき南海が現れた。

 この数日出現せずに、食事だけがいつの間にか置かれる日が続いていたから、油断していた。

 朱姫は慌てて、股間を擦ろうとした。少しでも濡らしておかなければ……。

 そんな朱姫をあざ笑う南海の声がした。

 

「今日はなにもせん。お前は、宝玄仙のところに行くのだ」

 

 宝玄仙──。

 その懐かしい言葉に朱姫の心は震えた。

 おそらく半年くらいぶりだろうが、ずっと昔のような気がする。

 

「それだけではない。孫空女も沙那もいる。懐かしいだろう?」

 

 南海は言った。

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