もう、玄魔隊の亜人兵は、かなり後ろになっている。
こうなれば、このまま逃げ切れる自信が孫空女にはあった。
「……と、とりあえず礼を言うよ、お前……。じゃあ、まずは道術の回復だ──。そして、この宝玄仙をこんな目に遭わせてくれて、どうするか見てな、あいつら……」
まだ汚れたままの宝玄仙の顔にみるみる生気が戻った。宝玄仙の怒りの感情が顔に浮かんでいる。
それでこそ、宝玄仙だ。
孫空女は少し安心した。
そのとき、奇妙な気配を風に感じた。
「なに?」
孫空女の身体は無意識のうちに動いていた。
『如意棒』を頭上の空中に振っていた。
そこにはなにもない。
ただの空だ。
しかし、不意に金属を弾くような手応えが『如意棒』に起こった。
「やだ、怖ろしいわねえ──」
当然、眼の前から声がした。
そのとき、大剣を持って具足を身に着けた亜人の美女が馬の頭の上に出現したのが見えた気がした。
しかし、すぐにその姿が消える……。
「うわっ?」
次の瞬間、突然に馬の首が消滅した。
馬の首から血が噴き出した。
馬を斬られたのだ。
駆けていた馬が倒れる──。
地面に投げ出されながら、とっさに孫空女は宝玄仙を掴もうとした。
だが、その宝玄仙の身体はふわりと空中に浮きあがった。
「ひいっ、も、もう、嫌だ──。あ、亜人だよ──。孫空女、亜人だ──。助けておくれ──」
宝玄仙が絶叫した。
「ご主人様──」
孫空女は地面に叩きつけられながら叫んだ。
地面に転がりながら、宝玄仙を見る。
宝玄仙の身体は、空中に漂うように浮かんでいる。
しかし、その周りにはなにも見えない。
「ち、畜生──」
孫空女は身体を起こすと、浮かんでいる宝玄仙に向かって跳躍した。
見えない姿の何者かが、宝玄仙の身体を掴んでいると思った。
それに『如意棒』を叩きつけるつもりだった。
しかし、その途中でなにかに阻まれる衝撃に襲われた。
再び、目の前に誰かが出現した。
さっきの亜人の女だ。
その亜人の美女の持つ大剣が、孫空女の『如意棒』を受けとめていた。
「あんた凄いわね。考えるよりも先に、身体が動くのねえ……。さすがのわたしでも、受けとめるのがやっとよ」
女がにこにこしながら言った。
「お、お前、なんだよ──?」
孫空女は一度『如意棒』を引いて、女に『如意棒』を叩きつけようとした。
だが、女がまた不意に消滅した。
「でも、可愛いお尻……」
突然、後ろから尻をさわさわと誰かに触られた感触がした。
「ひいっ」
びっくりして孫空女は『如意棒』を後ろに振った。
だが、風を切る音がしただけで、なにも感触がない。
「胸もなかなかいいかたちね。戦士にしておくのは惜しいわ。あんた、わたしの猫になりなさいよ。可愛がってあげるわよ。あんたなら、
今度も後ろからだ。
脇の下から手が伸びて、孫空女のふたつの乳房を布越しに鷲掴みにしたのだ。
「う、うわあっ」
孫空女は『如意棒』を滅茶苦茶に振りながら後ずさった。
さっき一瞬だけ姿が見えた女だと思うが、いまはその動きを感じることも、姿を見ることができない。
「お前が孫空女か……。まずは、抵抗をやめよ──。これを見よ」
空から声がした。
「ひいいいっ──。そ、孫空女、助けて──」
「ご主人様──」
孫空女は声をあげた。
空中で宝玄仙が逆さ吊りにされている。
しかも、かなりの上空だ。
手足のない宝玄仙が、頭を地面に向けられて空中に浮いている。
そのとき、山道を騎馬の集団が殺到してきた。
振り払った玄魔隊だ。
あっという間に、孫空女の周りを囲まれる。
「ちっ」
孫空女は『如意棒』を構えて舌打ちした。
もう、どうしていいかわからない。
宝玄仙の身体は空中の届かない場所にいる。
玄魔隊の亜人兵たちに、完全に包囲された。
しかし、孫空女の武辺がわかった彼らも、孫空女を遠巻きにするだけで、簡単には捕えようとはしてこない。
「孫空女、とりあえず、武器を捨てよ。悪いようにはせんぞ──。お前の並外れた武辺は見ておった。あの玄魔が、まるで子供扱いとはのう……」
空から声がした。
「あっ」
孫空女は声をあげた。
さっきまでなにも見えなかった空中に浮かんでいる宝玄仙の横に、大きな身体の亜人がいたのだ。
その装飾具の豪華さから、かなりの身分の亜人だということがわかる。
その空中に浮かんでいる亜人が、宝玄仙の片方の腿を掴んでいる。
それで宝玄仙は逆さ吊りだったのだ。
同時に、周辺から大きな霊気が動く気配がした。
気がつくと、孫空女を囲んでいる玄魔隊のさらに外側に、新たな亜人軍の一団が出現した。
『移動術』だ。
道術で新たな軍が出現したのだ。
その数は、玄魔隊を遥かに上回る。山街道の道筋に見渡す限りまで、新たな亜人軍の隊列が続いている。
それだけではなく、道の脇の路外にも溢れ返っている。
凄まじい数だ。
しかも、その隊のすべてが槍や弓矢などの武器を抜き、幾重にも馬止めの障害を作っている。
もう一度、馬を奪えたとしても、流石にこれだけの重厚な包囲をたった一騎で、しかも、宝玄仙を抱えて突破できるとは思えなかった。
孫空女の心を新たな絶望の感情が襲う。
「き、金凰魔王様──」
孫空女を取り巻いた亜人の中から声がした。
玄魔の声だ。
孫空女を取り囲む輪の中から玄魔が飛び出した。
そして、空に浮かぶ亜人に身体を向けて、片膝をついて頭を下げる。
「玄魔、醜態だな──。余の弟を獅駝の城郭で護りきれなかっただけではなく、宝玄仙まで取り逃がしてしまうところであったな……」
不機嫌そうな声が空に浮かぶ亜人から戻ってきた。
「も、申し訳なく──。し、しかし、どうして、ここに……?」
玄魔がうな垂れたまま言った。
「お前たちが宝玄仙を連れて、こっちの街道を北上することは報告を受けていたのでな……。万が一のことを思い、街道のあちこちに道術の目を出し、なにか事が起きれば、金凰妃の道術で直ちに迎えの軍を派遣できるように待機させておったのだ。だが、本当に援軍が必要になるとは思わんかったぞ、玄魔」
空中に浮かぶ亜人が言った。
金凰魔王──?
いま、そう言ったのだろうか?
こんなところに、亜人の魔王が……?
孫空女は混乱した。
「悪いことをしたと思っているの、玄魔?」
また女の声がした。
さっき、孫空女の前で、姿を消したり現したりして翻弄した女が、今度は玄魔の前に出現した。
「き、金凰妃様まで、ここにおいでとは──」
玄魔がびっくりした声をあげた。
「当たり前でしょう、玄魔。わたしの術がなければ、軍を瞬間移動するなんて、できないじゃない」
女戦士が言った。
金凰妃?
魔王の妃ということか?
さっきの美戦士が?
孫空女はさらに混乱した。
「た、助けておくれ──。い、いつまで、こうしているつもりなんだよ──」
宝玄仙が空中で悲鳴をあげた。
「ご、ご主人様──」
孫空女は声をあげた。
「悪いようにはせんから、武器を捨てよ、孫空女──。さもなければ、不本意ではあるが、宝玄仙の身体を斬り刻まねばならんのう……。この家畜を死なない程度にずたずたにすることはできるぞ」
金凰魔王が空いている手の指を宝玄仙の腹に向けた。
その指先に刃物のように鋭い爪が伸びている。爪の先が宝玄仙の腹に当たった。
「ひいっ──。そ、孫空女、助けて……、助けておくれ──」
空中で逆さ吊りの宝玄仙が暴れ出す。
「わ、わかったよ──」
孫空女は『如意棒』を地面に投げた。
「捕らえよ──」
玄魔が叫んだ。
わっと周りの亜人兵が孫空女に殺到する。
「こらっ──。わたしの獲物だよ。汚い手で触るんじゃないわよ──」
金凰妃が叫んだ。
すると、玄魔のところにいたと思ったその女が、不意に孫空女の横に出現した。
瞬間移動──?
それが金凰妃の能力のようだ。
そして、迫ってきた亜人兵の身体が突然に斬り刻まれた。
「うわっ」
「ひぎいっ──」
「ぐあああっ──」
孫空女のすぐそばまでやってきた亜人兵の身体が血を噴いて地面に倒れた。
その後ろに続く亜人兵たちの動きが止まる。
「……よかろう、孫空女──。しかし、そのままでいよ。少しでも抵抗の素振りをすれば、宝玄仙の身体を斬り刻むぞ」
空に浮かんでいる金凰魔王が言った。
金凰魔王は、宝玄仙の肢を離した。
しかし、宝玄仙の身体は浮いたままだ。
宝玄仙が空中でもがいて、なんとか逆さ吊りの体勢から戻る。
「ねえ、あんた、本当にわたしの猫になるつもりはない……?」
金凰妃の両手がすっと孫空女の下袴に伸びた。
「な、なんだよ──? うわっ」
とっさに孫空女は金凰妃の手を払った。
金凰妃の両手が孫空女が履いている下袴の腰紐に触れようとしたのだ。
この下袴は玉斧に助けられたときに、石虎隊の死んだ兵から奪ったもので、その下袴の下には孫空女はなにも履いていない。
「ひいっ──。い、痛い──」
突然、宝玄仙の悲鳴が周囲に鳴り響いた。
見ると宝玄仙の白い腹にすっと小さな傷ができている。
そこから真っ赤な血が流れてきた。
「ほらっ、動いちゃ駄目でしょう、孫空女? そう、うちの人に言われたんじゃないの?」
金凰妃がくすくすと笑う。
「そ、孫空女、お前、て、抵抗するんじゃないよ──」
空の宝玄仙も叫んだ。
「う、動かないよ──。ご主人様を傷つけないで──」
仕方なく孫空女は叫んだ。
両手をだらりと身体の横に垂らす。
「ねえ、あなた、ここで、この孫空女の味見をしていいかしら? それで味がよかったら、この娘をあなたの部下にしてあげてよ」
金凰妃が空に向かって叫んだ。
「……よかろう……。この役立たずの玄魔に代わって、こいつの部下を孫空女に与えようか──」
金凰魔王の言葉に、玄魔がはっと息を呑んだような音がした。
なにかの道術が金凰魔王から玄魔に向かって放たれたのがわかった。
次の瞬間、一斉に周囲から悲鳴があがった。
跪いていた玄魔の首だけが、後ろに弾かれるように飛んだのだ。
玄魔は悲鳴をあげる暇もなかったようだ。血を噴き出しながら、首を失った玄魔の身体が地面に転がった。
「全員、動くんじゃないわよ。動くと、うちの人があんたらも処断するわよ。うちの人は、弟の青獅子魔王が殺されたことを怒っているわ。それを防ぐこともできずに、おめおめと亜人領に戻ってきた玄魔隊のこともね──」
金凰妃の言葉に、騒然となりかけていた玄魔隊の亜人兵たちが凍りついたように静止した。
「……それよりも、さっきの話は嘘じゃないわ、孫空女……。あんたのことは、感心して見ていたのよ……。わたしの猫になれば、亜人兵の将軍よ。金凰魔王軍には、いろいろな種族がいるから、人間族の女将軍がいても、まったく問題はないわ」
金凰妃が孫空女の髪を掴んで、自分に孫空女の視線を向けさせた。
その仕草は優雅そうなのだが、実際の力は孫空女が驚くほど強い。
「ね、猫ってなんだよ──」
孫空女は思わず言った。
「教えてあげるわ……」
突然に眼の前の金凰妃が消えた。
今度は後ろだ。
気配を感じたときには、金凰妃の手が脇から孫空女の乳房にすっと伸びていた。
「う、うわっ」
孫空女はびっくりして身体を動かしかけたが、さっきの宝玄仙の悲鳴を思い出して、それを思い留まった。
「そうよ……。そうやって、人形みたいにじっとしているのよ」
金凰妃がくすくすと笑って、孫空女が身につけている上衣の前の合わせをくつろぎ始めた。
布越しに乳首の上をさわさわと擦りながら……。
「くうっ……」
金凰妃の指が触れる部分から得体の知れない疼きが走った。
触られた感触が普通じゃない。金凰妃の指が触れた場所に、小刻みに振動するような刺激が襲ったのだ。
金凰妃は、その指で孫空女の上衣の紐をひとつひとつ外しながら、指で乳房の上を移動させていく。
孫空女はなんだかよくわからない感触に、二肢に力を入れて踏ん張った。
「そうよ、動いちゃ駄目よ……」
金凰妃の両手が孫空女の上衣の合わせ目を完全に開いて、その両端を背中側にめくった。
胸当て代わりに、布で乳房を包み縛っていたが、それも呆気なく外された。
汗で濡れた乳房に外気が当たる冷たさに、孫空女は身体を悶えさせた。
「こ、ここで、あたしをなぶるつもりかよ──」
孫空女は両脇に垂らしている手の握り拳をぎゅっと握りしめながら言った。
「言ったでしょう……。これは試験なのよ……。わたしの猫に相応しいかどうかのね……。猫に相応しくないと判断したら、あんたは殺すわ。魔王軍に逆らった罰としてね」
金凰妃の声が少しだけ鋭いものに変わった。
同時に金凰妃の指が孫空女の無防備な乳首をくすぐるように動いた。
「ひっ」
孫空女は、込みあがった激しい官能の矢に、悲鳴をあげて全身を揺さぶった。
「ふふふ、反応がいいわね……。わたしは、
金鳳妃がぎゅっと股間を押し回す。
身体が感電したように引きつる。
すごく上手だ……。
快感が一気に身体で爆発した
「あああっ」
そして、孫空女は大きな声で喘いでしまい、びくびくと身体を震わせてしまった。