「ならば、殺しておくか──。こいつは、性奴隷としては物騒すぎる──」
金凰魔王が事も無げに言って、片手をさっとあげた。
その片手に霊気が集中するのがわかった……。
孫空女は死を覚悟した。
「ま、待っておくれ、魔王──。わ、わたしが説得する──。説得するから、こいつは殺さないでおくれよ。お願いだよ──。こいつは、わたしの言うことはきくんだ。わたしが命じるから──」
その瞬間、宝玄仙が金切り声をあげた。
すると、金凰魔王が少し躊躇った末に、あげていた片手をおろした。
宝玄仙が少しだけ、ほっとした表情になった。
そして、孫空女を睨みつけた。
「そ、孫空女──。意地張るんじゃないよ。とにかく、お前の気持ちはわかった──。嬉しいよ。だけど、ここは、こいつらの言う通りにしな──。お前、このままじゃあ、本当に殺されてしまうよ。いままで仕えてもらってありがとうよ──。だけど、いまは、お互いに生き延びることを考えようじゃないか──」
宝玄仙が言った。
その表情は必死だ。
本気で孫空女のことを心配してくれているのがわかった。
孫空女は少しだけ嬉しくなった。
だが、こればかりは、宝玄仙の言葉でも承知するつもりはない。
「ごめんよ、ご主人様──。あたしは、そういうのは駄目なんだよ。一度でも約束すれば、絶対にそれは破りたくないんだ──。だから、できない約束も、実行するつもりのない嘘も、絶対に口にするつもりはないよ。何度も言うけど、あたしが誰かに仕えると口に出すときは、本当にそうするときだけだ──」
「い、い、か、ら、言うんだよ……。嘘でいいから……。お前だって、人生で一度も嘘を言ったことないわけじゃないんだろうが──。とにかく、解散だよ、解散。旅の仲間は解散だ。お前とは、もう主人でもなければ、供でもない。いいから、こいつらの部下になるんだよ。わかったね、孫空女」
「解散なら、あたしの自由意思でさせてもらうよ、宝玄仙さん。だったら、あたしは、こいつらの部下には殺されてもならない。あたしのご主人様は、あんただけだ──。これは、あたしの自由な意思だからね。とやかく、言わせないよ」
孫空女はきっぱりと言った。
すると、金凰妃が目を丸くした。
「面白いねえ、お前──。口先だけでそういうことを言う者は、これまでに何十人も見たけど、心の底からそう言った者は初めてよ。ちょっと、お前に興味が湧いてきたよ。そういえば、お前には、さっきから感心するくらいに、心に裏表がないよ。普通は、人間族にしろ、亜人族にしろ、大抵は口に出すことと、心に浮かぶことは、なにかしら違うものなのさ。それなのに、お前は、なにからなにまで、ずっと口先と心が一致している。わたしが、この能力を得るようになってから、お前のような者は初めてだよ」
「うるさい、金凰妃──。お前とは話したくない。あたしは、お前にも、金凰魔王にも仕えない──。殺すなら、殺しな──」
孫空女はだんだんと腹が立ってきて叫んだ。
「ふっ──。そこまで主人想いというのも見あげたものだな……。だが、死ぬのが、お前ではなくて、宝玄仙だとしたらどうなのだ? それでも、金凰妃の言葉に耳を貸す気になれないか?」
ずっと金凰妃と孫空女のやり取りを面白そうに聞いていた金凰魔王が、宝玄仙の喉に手をかざした。
その指の先には、刃物のように尖った五個の爪が伸びている。
それがいまにも、宝玄仙の喉を引き裂くように当たった。
「う、うわっ──。そ、孫空女──。こ、ここは、やっぱり、ちょっとばかり、こいつらの言うことにも、耳を傾けようじゃないかい……。く、口先だけでいいって、その金凰妃とやらも言っているみたいだし……」
宝玄仙が喉に当てられた爪に、怯えるような表情になった。
「だ、だったら悪いけど、ご主人様、先に死んでおくれ──。必ずすぐに、あたしも後を追うから。約束するよ。どんな手段を使っても、あたしはこいつらを出し抜いて、自死してみせる。それに免じて許して」
「お、お前……。しょ、正真正銘の馬鹿かい。いいから、こいつらに降参すると言いな。命令だよ──。子供が駄々を捏ねるみたいに、片意地張るんじゃないよ。いいから、承知したと口にするんだよ」
宝玄仙が狼狽えた声をあげた。
「降参なら、いくらでも言うよ、ご主人様。だけど、こいつらに仕えるとは言わない。だって、あたしには、これっぽっちもその気がないんだ」
すると、宝玄仙が呆れたようにぽかりと口を開けた。
そのとき、けたたましい笑い声がした。
金凰妃だ。
「こ、これは凄いね──。確かに、心の底からの馬鹿のようじゃないかい──。あなた、信じられないかもしれないけど、孫空女の喋っていることは本心よ──。こいつ、本当に口先だけでも、わたしたちに仕えると口にするくらいなら、自分だけでなく、宝玄仙までも死んでもいいと思っているようよ──。こんな愉快な女は初めて──」
金凰妃はいつまでも笑い転げている。
「まあいい……。お前に任せよう、金凰妃──。それで、どうする?」
金凰魔王が金凰妃に言った。
「さてね……。だったら、こんな女を是非とも屈服させてみたいものね。じゃあ、お前、
金凰妃が言った。
「
しかし、その意味がわからずに、孫空女はその場で首を傾げた。
「鞠といえば、丸でしょう。その場で立て膝をして、膝を両腕で抱えるのよ。頭を膝のあいだにできるだけ入れてね。まあ、それで、なんとか鞠になるんじゃないの?」
金凰妃が笑った。
孫空女は、ちらりと宝玄仙を見た。
今度はまったく届かない上空ではないが、やはり、胸の高さほどの宙に浮かべられていて、そばに金凰魔王がいる。
また、いまは大人しくしているが金凰軍の大勢の兵士がいる。
この連中に仕えると口にするくらいなら、宝玄仙と一緒に死んでやるとは言ったものの、別に死にたいわけではない。
生き残る機会があるなら、それにすがりたい。
孫空女は、金凰妃に言われたとおりに、その場で腰をおろして座り両膝を曲げてその膝をしっかりと両腕で抱えた。
「こらっ、孫空女──。服を着た鞠があるものかい。服を脱ぐのよ」
金凰妃の大声がかけられた。
孫空女は、こんな大勢の亜人兵がいる場所で、完全に全裸になるという辱めに一瞬だけ躊躇したが、意を決して立ちあがった。
上半身はすでに裸だ。
あとは履物を脱いで、下袴をおろせば全裸になる。
「ひいいいっ、痛い──。や、やめておくれ──なにすんだよっ──」
突然に宝玄仙の絶叫がした。
びっくりして視線を向けると、金凰妃が宙に浮かんでいる宝玄仙の黒髪のひと房を掴んでいる。
「ご、ご主人様──」
孫空女は叫んだ。
その孫空女の見ている前で、金凰妃が片手を宝玄仙の顔にかけて、もう一方の手で持っていたひと房の髪を引っこ抜いた。
「ぎゃあああ──ぐああっ──」
宝玄仙が宙で身体をばたつかせて悲鳴をあげた。
「な、なにすんだよ。ご主人様に手を出さないでよ──」
孫空女はびっくりして叫んだ。
「なにを言っているのよ、孫空女──。お前は、いま、一瞬だけど、服を脱ぐのを躊躇したでしょう。わたしに隠し事は通用しないわ。お前が逆らう気持ちを抱くたびに、この雌畜の髪を引っこ抜くからね。この雌畜がみっともない禿げ坊主にならないうちに、躊躇することなしに命令に服従することを覚えるのよ──。そして、そう言いながらも、まだ、脱いでいないじゃないの──。ほら、鞠よ。早く、鞠になりなさい。さもなければ、本当に、宝玄仙は禿げになるわよ……」
「は、禿げって……、。わ、わかったよう」
「まあ、そうなっても、わたしの『治療術』ですぐに元に戻せるから、そうしたら、また抜くわ──。それとも、醜い禿げのままにしておいた方がいいかしらね。そうすれば、この人が、早まって、精を放ってしまうような間違いを起こすことはないだろうし……」
金鳳妃が大笑いする。
「おいおい、それは、昔の話であろう、金凰妃……」
すると、金凰魔王が苦笑した。
「昔の話であるものですか、あなた。魔凛なんて、随分と最近のことじゃないの──。あなたの精は危険なのだから、しっかりと相手を選ばないと、欲望のままに女を抱くと、魔凛のように面倒なことになるのよ」
金凰妃がそう言いながら、また、宝玄仙の髪をひと房掴んだ。宝玄仙が絶叫した。
「脱ぐ──。とにかく、脱ぐから、やめてよう──」
孫空女は慌てて靴を脱ぎ、下袴をおろした。
宝玄仙の悲鳴がとどろいた。
また、金凰妃が髪の毛を引っこ抜いたに違いない。
全裸になった孫空女は、急いでその場にしゃがみ、立てた両膝のあいだに頭を入れて両腕で抱え込んだ。
「い、言われたとおりにしたよ──」
孫空女は頭を膝のあいだに差し込んだまま大声をあげた。
「鞠が喋るんじゃないのよ」
突然、人の気配を身体の横に感じるとともに、金凰妃の声が横から聞こえた。
金凰妃の履いた革の靴の爪先が丸くなった孫空女の横腹に食い込んだ。
「ぐうっ」
刃物を突き刺されたような衝撃に、孫空女は声を迸らせた。
衝撃もすさまじい──。
身体が飛ばされて、身体が宙を走る。
地面に叩きつけられる衝撃に備えようと、孫空女は必死になって、衝撃で崩れた体勢を戻して、身体を空中で丸くしようとした。
そのとき、顔面に衝撃を感じた。
膝だ──。
瞬間移動で、孫空女の飛ぶ方向に移動した金凰妃が膝をあげて、待ち構えていたのだ。
まともに孫空女の頬に膝が食い込んだ。
顎の骨が割れるのをはっきりと感じた。
「あがあっ」
孫空女はその場にうつ伏せに倒れた。
自分の口の中からまとまった血が噴き出た。
「ほらっ、もう、鞠は終わりなの? 仕方ないわねえ……」
金凰妃が孫空女の横に立ったまま、笑い声をあげた。
うつ伏せに倒れている孫空女の視線に金凰妃の足があったが、その足がふっと消滅した。
「ひいっ、もう、やめておくれ──ひいっ──わ、わたしも孫空女も、もう逆らわないよ──ひいっ」
宝玄仙だ。
孫空女は顔をあげた。
金凰妃がまた宝玄仙の髪を掴んでいる。
その金凰妃が無造作にまた宝玄仙の髪を束で抜いた。
「ひっ、ひぎいいいっ、や、やめておくれ──」
宝玄仙が号泣し始めた。
「や、やめ……」
孫空女も懸命に身体を起こして、また身体を丸くする。
「そうよ。鞠になれと言われたら鞠になるのよ……。それとも、屈服する?」
金凰妃がまたそばに跳躍してきたのがわかった。
今度は真正面から蹴り飛ばされた。
宙に飛ぶ──。
また膝がぶつかる。
今度は股間だ。
まともに股ぐらに膝を喰らう。
「ふぐうぅ──」
思わず腕が離れた。
そこを下からすくいあげるように、腹を蹴られた。
孫空女の身体はかなり高く宙にあがった。
「そんな拡がった鞠はないわよ──」
下で金凰妃が笑っているのがかろうじて、視線に入った。
空中で懸命に体勢を立て直そうと、身体を曲げて膝をかかえようとした。
「ほげえっ」
すると、下に落ちる途中で、股間をものの見事に蹴りあげられた。
孫空女の身体は完全に拡がって、その場に仰向けに倒れた。
今度は股間の骨が砕けたと思う──。
「鞠はどうしたの? もう終わり?」
金凰妃の姿が消える。
「ひいいっ、ま、また、来た──。や、やだ──。ち、畜生──そ、孫空女、立つんだよ──。は、早く、丸くなるんだよ──」
宝玄仙の怒鳴り声がした。
そして、宝玄仙の絶叫がした。
一度──。
二度──。
「わ、わかっている……け、けど……」
孫空女はなんとか再び身体を起こして身体を丸くした。
「ほら、見てごらん──。お前がすぐに鞠をやめるから、お前の大事なご主人様はあんなになったわよ」
丸くなっていた孫空女の身体を起こされて、後ろから髪を思い切り引っ張られて、顔をあげさせられた。
朦朧とする視界の中に、宝玄仙の姿が映った。
宝玄仙の頭の側面の一部から、完全に髪の毛がなくなり、頭の肌が露出している。
宙に浮かんでいる宝玄仙の身体の下には、大量の黒髪が落ちている。
「うわっ」
身体をふわりと上にあげられて、空中で回転する。
「それっ」
孫空女の身体が宙にあがる。
「んげっ」
また下がる。
次の同じ鳩尾の場所を蹴りあげられた。
吐気が込みあがり、孫空女は、飛ばされながら、口から真っ赤な嘔吐物を噴き出して身体を汚した。
「だんだん、鞠らしくなってきたわね。でも、汚いのはごめんなの」
驚いたことに、宙に浮かんでいる途中の孫空女のさらに上で金凰妃が待っていた。
地面に落ちようとしている孫空女の頭と股間に、空中で金凰妃が足を乗せた。
そのまま地面に叩きつけられる。
金凰妃の体重がかかったまま、後頭部をまともに地面に叩きつけられた。
「んごっ」
声も出せない。
なにが起こったかわからなかった。
眼を開いたが、視界が揺れてよくわからない。
身体が仰向けになっているということだけはかろうじてわかった。
孫空女は懸命に手足を抱え込もうとするのだが、手足が痺れて身体を動かすことができない。
自分の身体の表面を道術の波が触れた気がした。
「……肌にぶちまけた汚い嘔吐物だけは掃除したわ……。もう、鞠ができないなら、これで終わりにしましょうか。宝玄仙の頭を一度禿げ坊主にしてくるから待っていてね、お前」
金凰妃が笑った。
「ま、待って……」
孫空女は懸命に足を曲げて膝を両手で抱えた。
「ほう、なかなか、いい根性ね」
金凰妃の蹴りが腹に入った。
「んぐうっ」
身体が吹っ飛ばされて、背中を大きな樹木に叩きつけられた。
「ぐううっ」
孫空女は全身を走る衝撃に、身体を伸ばしてその場に倒れた。
しかし、なんとか膝を抱えようとのたうつ。
「その根性だけは褒めてあげるわよ。でも、そんなの鞠じゃないわ」
金凰妃の革靴の裏が孫空女の股間に乗った。
ぐりぐりと動かされる。
「ひぎいいっ──い、痛い──ああああっ──」
おそらく股間の骨のどこかが割れている。
そこを思い切り革靴で踏まれるのだ。
孫空女は足を股間に乗せられたままのたうった。
「鞠よ。鞠──。忘れたの、孫空女? もがくんじゃなくて、鞠になりなさい」
金凰妃が孫空女の股間に足を乗せたまま笑った。
孫空女は股を開いて膝を曲げ、なんとかその膝を両手で抱える。
「じゃあ、これで最後にしてあげるわ」
金凰妃の身体が孫空女の身体からどいた。
これまでで最大の衝撃が孫空女の全身を貫いた。
身体が吹き飛び、空中でなにかにぶつかった。
「うわああっ」
宝玄仙の悲鳴がした。
ぶつかったのが、宙に浮かんでいた宝玄仙だとわかったのは、地面に一緒に倒れた宝玄仙のその悲鳴を聞いてからだ。
「こいつらをまとめて革紐でぐるぐる巻きに縛ってしまいなさい。逃げられないように、お互いの身体を反対向きに抱き合わせて、顔を相手の股のあいだに入れるように縛るのよ。さすがに、その恰好じゃあ、逃亡は不可能だろうしね」
金凰妃が叫ぶのが聞こえた。
すると絡み合って地面に倒れていた孫空女と宝玄仙の身体に大勢の亜人兵が群がるのがわかった。
一度離されて、宝玄仙の短い肢のあいだに顔を埋めるように押しつけられた。
離れられないように後頭部と首に革紐がかかり、宝玄仙の腰に密着させて縛られる。
同様に孫空女の股間にも宝玄仙の顔がくっつけられて革紐で固定された。
さらに全身の胴体にも縄がかかる。
また、両手はさらに宝玄仙の身体を抱くように回されて、それも革紐で縛られた。
孫空女と宝玄仙は、お互いに反対向きに相手の股間に顔を埋めるように完全に固定された。
「お、お前……大丈夫かい……?」
宝玄仙だ。
しかし、孫空女は返事をすることができないでいた。
全身どころか舌先まで痺れて口を動かすことができない。
「ふたりとも『治療術』で負傷は治してあげるわ──。ところで、孫空女、金凰宮に戻れば、これ以上の拷問が待っているのよ──。まだ、屈服するのは嫌かい?」
金凰妃の声がした。
全身に霊気が流れ込むのがわかった。
身体の痺れのようなものは残っているが、痛みはなくなった。
砕けた骨も治ったと思う……。
「い、嫌だね……」
孫空女は宝玄仙の股間に顔を接触させられたまま、なんとか顔を捻ってそう言った。
「だったら、愉しみね──。どんな拷問で、お前のような女傑は屈服するのかしら……? お前が宝玄仙を裏切ると口にするのが愉しみよ」
金凰妃が高笑いした。
「……さあ、こいつらをまとめて、準備してある新しい檻車に放り込んでおくれ」
やがて、その金凰妃が兵に告げた。
孫空女と宝玄仙の身体に亜人兵たちが群がり、あっという間に持ちあげられる。
「金凰宮までは二日というところよ。それまで、檻車で大人しくしていてね。その革紐は、道術がかかっているから、切断しようなんて無駄な努力はしないことね。二日間、水も食い物もなしよ。なにもすることはないから、せいぜい、股ぐらでも舐め合って愉しんだらいいわ──。これは、わたしの情けよ」
金凰妃が、兵たちに担がれて連れ出されようとする孫空女と宝玄仙をとめさせて、声をかけてきた。
「ひひひ、心配はいらん。檻車にはわしも同乗するからな。退屈などさせんわい」
蝦蟇婆だ。
「そ、そんな……。蝦蟇様を檻車に入れるなど……」
金凰妃が恐縮するような声をあげた。
「いや、この宝の股間に埋まっておる魔法柱の管理をせねばならんしのう……。一日に一度交換せんと、霊気がいっぱいになるのじゃ。それに、わしはこの宝がお気に入りでな。また、遊ぼうぞ、宝──。それに、気の強いお嬢ちゃんもな。お前もなかなかに面白い素材じゃ」
蝦蟇婆が気持ちの悪い笑い声をあげた。
「お、お前ら、まとめていつか仕返ししてやるよ……。お、覚えておいで……」
宝玄仙の声がした。
息のかかるくらいに孫空女の股間に宝玄仙の顔を埋められているのでくすぐったい。
孫空女は、股間が反応してしまいそうで、慌てて身体を硬くした。
「おや、お前の供は、こんなので感じているようよ、宝玄仙──。本当に面白い女ね。お前の供は」
金凰妃が宝玄仙に言った。
自分の心を読まれたのだ。
孫空女は全身が赤くなるのを感じた。
「わ、わたしの玩具さ──。これ以上、き、汚い手で触ったら承知しないよ──。わたしの大事な性奴隷なんだよ。わたしのものなんだ……」
宝玄仙だ。
「ご主人様……」
孫空女はちょっとだけ嬉しくなり、思わず、そう呟いた。
「ちょ、ちょっと、お前もさっきから息を派手にするんじゃないよ。股がくすぐったいんだよ」
すると宝玄仙が怒鳴った。
「そ、そんなこと言われても……」
孫空女も困って言った。
口に宝玄仙の性器がほとんど密着しているのだ。
息をかけるなと言われても、どうしていいかわからない。
「……そ、それに、ご主人様だって、くすぐったいよ……。そ、そんなに顔も動かさいで」
孫空女も言った。
「へっ、本当にお前の股ぐらから汁が溢れてきたじゃないか。そんなんだから、こいつらに馬鹿にされるんだよ、孫空女」
「こ、こんな身体にしたのはご主人様じゃないか──。酷いよ──」
「しゃ、喋るなと言っているだろう……。か、感じるんだよ──」
宝玄仙もつらそうな声をあげた。
そのとおり、宝玄仙の股間からも女の反応がしっかり表れ始めた。
孫空女のように敏感な身体ではないはずだが、いままでの調教や性感の増幅施術などで敏感な身体にされているのかもしれない。
「お前たち、呆れたものだねえ──。こんなところで、そんな格好で道化の見世物かい?」
金凰妃が笑った。
「う、うるさい──」
宝玄仙が怒鳴った。
「ご、ご主人様、お願い……そ、そんなに……」
宝玄仙の顎は完全に孫空女の性器にくっついている。
だから、宝玄仙が喋るたびに股間が擦られるのだ。
「いちいち反応するんじゃないって、言っているだろう、お前──」
宝玄仙が怒鳴った。
「ははは……、あんたたちをいつまで見ていても飽きないけど、愉しみは金凰宮にとっておくわ。さあ、こいつらを檻車に入れるのよ──」
金凰妃が怒鳴った。
再び、孫空女と宝玄仙は兵たちに担がれて、どこかに運ばれ始めた。
「……さあ、そろそろよいだろう。面白い余興で、余も愉しませてもらった。ところで、さっきも言ったとおりに少しばかり話がある。金凰妃と蝦蟇婆は幕舎に入れ──。幕舎の準備もできたようだ」
金凰魔王の声が聞こえた。
(第82話『ひとりだけの叛乱』終わり)
*
【西遊記:75~77回、
(454「白い光の罠」の後書きの続きになります。)
玄奘三蔵を襲おうとしているという獅駝の三大王の情報を得た孫悟空は、単身彼らの洞府に乗り込みますが、捕らわれてしまい身体を溶かしてしまう液薬の入っている宝瓶に閉じ込められてしまいます。
なにをやっても脱走できそうもなく、孫悟空も死を覚悟します。
しかし、孫悟空はぎりぎりのところで、自分の毛に鋼鉄よりも堅い三本の毛が混じっていることを思い出します。
瓶の中でそれを抜くと、錐のようにそれを使って、瓶に穴を開けて脱出することに成功します。
一度、三蔵たちに合流した孫悟空は、今度は猪八戒とともに洞府に乗り込みます。
激しい戦いの末に、身体を小さくして一大王(金凰大王)の身体に入り込んだ孫悟空は、その身体の中で暴れ、一大王を降伏させます。
ほかのふたりの大王も一大王に従い、三人は孫悟空たちへの恭順と、三蔵の襲撃をやめると誓います。
三大王の誘導で街道を進むことになり、やがて、三蔵一行は末の三大王(青獅子大王)の支配している城郭に到着します。
そこは、かつては人間族の城郭でしたが、三大王が支配している妖魔の城郭になっていました。
三人の大王は、城郭に辿りつくと、恭順の態度を翻して、妖魔の軍勢とともに三蔵たちに襲い掛かります。
その戦いの最中に、虚を突かれて、三蔵をさらわれてしまいます。
三蔵を連れていかれ、慌てて孫悟空は身柄を取り返そうと追いかけます。しかし、妖魔の力を示した青獅子大王や白象大王に行く手を阻まれ、沙悟浄、猪八戒と次々に捕らわれます。
そして、ついに、孫悟空自身も、身体を大きくした鳳凰の姿の金凰大王の足に捕らわれ、空中高くに捕縛されてしまいます。