「い、意地悪はやめて、小白香──。あなたに無断で、宝玄仙を金凰大王単独のものにするという兄さまの申し出に同意して申し訳なかったわよ──。で、でも、それがなんだというのよ──。その代わりに急遽、沙那という宝玄仙の供の女を呼んだわ。あ、あと、あなたが気に入りそうな人間族の童女も……。あ、ああ……。ま、股が痒い──。もう、助けて──」
「痒くても我慢するのじゃな、母者──。母者は、鬼も泣かすと称された二大王こと、白象魔王であろう。こんなわらわの与える痒み責めなど、涼しい顔で耐えて、わらわに王者としての見本を見せてもらわねば困るのう」
小白香はうそぶいた。
「だ、だって、我慢できないのよ──。だ、だったら、道術を解放してよ──。もう、今日は、この貞操帯を脱がして──。あ、あなたに逆らわない。わたしはあなたの奴隷よ──。盟約の誓いだって結んでいるじゃない」
白象は悲鳴のような声をあげた。
盟約の誓いというのは、道術遣い同士が結ぶ絶対の誓いだ。
魂の誓いでもあるので、お互いの霊力が強ければ強いほど、解除することができない絶対の誓いになる。
単なる操り術とは効果が異なる。
お互いの道術力が桁外れに高い白象と小白香のあいだの盟約の誓いともなれば、それこそ、絶対に解除できない呪いのようなのものだ。
だが、痒み責めで発狂寸前まで追い込み、白象に娘の小白香に対して絶対服従の誓いを盟約でさせてから、すでに二年が経つ。
だから、白象は小白香になにをされても逆らえない。
逃げることも、助けを求めることもできない。
ただ、苛められるだけだ。
小白香は、込みあがる笑いで喉を鳴らした。
「くくく、心配いない。わらわの掻痒の術は天下一流よ。わらわが加減せんでも、勝手に母者が我慢できるぎりぎりまでしか痒みを強くせん。耐えられない痒みを放置すれば狂ってしまうからな。そんな優しさは与えんわ。母者にはまだまだ傀儡の魔王として働いてもらわねば困る」
「ああ、で、でも耐えられないわ。お願い――。貞操帯を外して。自慰をさせて――。それとも奉仕人形を貸して――」
白象が泣き叫んだ。
「こらっ、母者。いくら、わらわの術がかかって、部下どもに認識できんとはいっても、ちょつとは慎まんか」
小白香は嘲笑った。
いずれにしても、特別な魔物の革でできている小白香の作った貞操帯は、考えられる限りの複雑な術式が刻んであり、しかも、小白香よりも霊力が低い白象には外すことなど不可能だ。
しかも、面白いことに、あれは、小白香と、嵌められている白象以外には感知できない。
侍女たちが白象の裸体を見たところで、なにも身に着けていない全裸に見えるだけだ。
触ってすらも問題はない。
肌に同化するように貼りついている。
それでいて、白象はどんな手段であっても、貞操帯の内側に指でも道具でも到達させることはできないし、あらゆる外部の刺激を遮断する結界を施している。
それに加えて、相手に痒みの感覚を与える
外すことのできない貞操帯に加えて、痒み責め……。
どんなに腿を擦り合わせようとも、絶対に痒みは消せない。
この責めを仕掛けられたら最後、どんな強靭な精神の持ち主でも、耐えられない痒みにのたうち回ってしまう。
絶対に最後には屈服する。
そして、その痒みを癒してもらうために、どんなものでも犠牲にしようとする。
そうやって、小白香の奴隷に成りさがるのだ。
実際に、小白香は相手の痒みの感覚を道術として操ることで、母親の白象を罠にかけて陥れ、白象宮の事実上の支配権を奪ってやった。
小白香が、痒みを操る道術を手に入れるきっかけは、幼い時期の特殊な執着によるものだった。
最初は、単なる快楽に対する興味だ。
好奇心といってもいい。
いまにして思うと、あれこそが小白香が覚えた最初の自慰行為だったのかもしれない。
幼いころから小白香は、なぜか痒みというものに興味があった。
痒みが好きなのではなく、痒みが癒されるときの気持ちよさが大好きだったのだ。
しかし、その気持ちよさを味わうには、長く強烈な痒みを味わい続ける必要もある。
耐えられない痒みの向こう側にある快感……。
それは幼かった小白香をなぜか夢中にさせた。
小白香が『痒み』の探究に夢中になりだしたのは、まだ五歳くらいの頃だったと思う。
痒みを得るためにわざと虫に刺されたり、草に肌をかぶれさせたりするようになった。
最初にそれをやったときには、乳母が見つけて驚いてやめさせた。
それ以来、小白香は、虫や草などの小白香の肌を侵す可能性のあるすべてのものから遠ざけられてしまった。
だが、痒みの快楽を取りあげられたことによって、小白香の痒みへの渇望は一層強いものになった。
やがて、小白香は、取りあげられた虫刺されや草のかぶれに代わる、新しい痒みの手段を見つけた。
それが痒みを操る「掻痒術」だ。
白象宮の中にある図書庫の中で、古今東西の知識を集めるうちに、小白香は、痒みと痛みの本質を知った。
痛みであろうと、痒みであろうと、それは人体を守るための自己防衛機能であり、頭の中で不快感を作ることにより、身体を損なう危険から本人を遠ざけようとさせる作用らしい。
だから、痛みも痒みも、実は毒や虫が作っているのではなく、あくまでも危険を遠ざけるための自己防衛機能であり、実は不快感を作っているのは本人の頭なのだ。
また、痒みとは、痛みを限りなく小さくしたものであり、その根っこは同じものだ。
だから、痛みの感覚を極小にすれば、それは痒みに通じる。
しかも、頭の中にある身体への働きかけを操作すれば、容易に痛みでも痒みでも人体に注ぎ込むことができる。
掻痒術とは、操り術の延長である。
これが掻痒術の本質だ。
そして、別の書物には、放置される痒みの苦しみは、死にまさる苦しみと記してあった。
痒みの苦痛……。
痒みの快感……。
限界を超えた痒みの向こう側にある快感……。
それらは、まさに小白香が探し求めているもののような気がした。
小白香は、さらにほかの書物を調べ、肉体の感覚を操る道術について研究し、やがて、肉体のあらゆる場所に自在に引き起こせる痒みを発生させることが道術でできるようになった。
その掻痒術を得て、さっそく自分自身に道術を実際にかけてみた。
簡単だった。
小白香が掻痒術の場所に選んだのは足の裏だ。
普段は隠れているし、着替えのときでも、侍女などに見られることはない。
やってみたら、猛烈な痒みが足の裏に襲い掛かってきた。
道術による掻痒病の素晴らしいのは、虫や草やあるいは、山芋などの痒み成分の材料がなくても、痒みを肉体に引き起こすことができることだ。
小白香は、数刻どころか、幾日も自分に掻痒術を掛けっぱなしにして、限界まで追い詰めてから痒みを癒すということで得られる快楽をむさぼった。
まさに、最高の快感だった。
小白香は、それに病みつきになった。
八歳のときだったと思う。
同時に、この時期に小白香の道術は急激に成長してもいた。
だからこそ、掻痒術という術を極めることが可能になったのだろう。
それは自分でも驚くほどであり、母者であって三魔王のひとりに数えられる白象に匹敵する霊気が集められるようになり、ほかにも、さまざまな道術が急に遣えるようになったのだ。
その道術は、掻痒術の探求と痒み責めの快感を極めることに非常に役にたった。
しかし、痒みの探求をしていることを隠したい小白香は、まだ幼い自分が母親に匹敵するほどの道術力があることを誰にも教えなかった。
それどころか、ほかのどんな道術もうまく扱えないように振る舞った。
小白香の霊気は、自分でも途方もないと思った自分の霊気を隠すこともできたのだ。
それはひとえに、痒みの快感を追い求めるためだ。
霊気が高く、道術力に秀でいていることがばれれば、それをおかしなことに遣っていることがわかるだろうと思ったのだ。
すべては、痒みの与える快感のため……。
そうやって、小白香の痒みへの探求は続いた。
誰にも知られることなく……。
そして、小白香と白象の関係が変わったのも、その十歳のときだった。
それ以前は、この白象の気儘と自分勝手さは、彼女の部下や離宮に飼う女奴隷たちばかりではなく、娘の小白香にも向けられていた。
特に、白象の持ち前の嗜虐癖については、周りの者を閉口させるほど激しく、度を越したものだった。
そして、あのとき、事もあろうに、白象はわずか十歳の小白香の破瓜を伯父の
そのときの白象の行為に、金凰魔王がどれだけ関わっていたかはわからない。
しかし、小白香は、その企みを事前に知って激怒した。
だから、母親の白象を逆に道術で捕え、小白香の道術の支配に逆らえない性奴隷のような立場にしてやったのだ。
八歳のときは、道術に関しては、白象と同等と思っていたが、十歳になった当時では、自分の道術力が遥かに白象を上回っているのを知っていた。
だが、それをひた隠しにしていたので、母親の白象でさえも、その事実を知らなかったのだ。
小白香の真の道術力については、いまでも白象以外の誰も知らないことだ。
そのとき、白象を陥れたときの罠もこの掻痒術だった。
脱ぐことのできない編み上げの靴を準備し、それを母親の白象を騙して履かせたのだ。
いきなり貞操帯を嵌めさせようとすれば失敗するに決まっている。
だが、靴なら油断する。
案の定、すり替えていた靴に気がつかずに、白象は小白香の準備した霊具の靴を履いた。
靴が脱げなくなったとき、白象は、それが小白香の道術だということはすぐにわかったようだったが、それが自分の道術で破れないことに激しい当惑と焦燥に陥った。
激怒した白象は、小白香を怒鳴りあげて、道術を解除するように命令したが、小白香はそれを無視した。
そして、掻痒術によって、靴の中の足の裏に激しい痒みを与えてやった。
小白香と異なり、女魔王の白象は、痒み責めに対する耐性が皆無だった。
しかも、道術を刻もうとして霊気を集めると、自動的に足の裏の痒みが倍増するようにした。
足の裏を激しい痒みに襲われたままでは、白象は道術を刻むことができなくなり、白象は簡単に小白香の道術の支配下に陥った。
小白香は、実の母親の白象から道術を奪ってやったのだ。
道術を奪った白象を小白香は徹底的な痒み責めの拷問にかけた。
足の痒みを癒してやることなく、股間に痒みをうつしたのだ。
まずは、いまも嵌めさせている貞操帯を装着させた。
誰にも探知できず、それでいて外部との刺激を遮断し、しかも、貞操帯の内側には、痒み汁をまき散らす触手がびっしりと生えているという小白香特性の拷問具だ。
もちろん、それは拷問だけのことではない。
母親の白象に、小白香は、あの壮絶な痒みの向こう側にある途方もない快感を教えたかったのだ。
それを行うために、小白香は、白象を奴隷宮と称されていた離宮に一箇月のあいだ監禁した。
気儘な白象が、一時的に政務を放棄して、離宮に籠ることは珍しいことではなかったので、それだけの期間、離宮に閉じ込めても、宰相以下で怪しむ者はなかった。
また、離宮にもいる召使いや家人や衛兵は、小白香の強力な道術で操り、離宮の中で起きていることについて、外に漏らすことができないようにした。
白象は監禁された部屋で、靴と貞操帯だけの姿でひたすらにのたうちまわった。
そうやって、一箇月間がすぎた。
その間、小白香は、白象に強烈な痒みを股間や尻穴や足に与え続けた。
一片でも小白香に逆らう素振りを示せば、幾日でも放置した。
そして、白象は完全に小白香に屈伏した。
白象の道術を完全に支配し、小白香が解放しなければ、道術を遣うことができないようにもしてやった。
それ以来、小白香は、こうやって実の母親である白象の霊気を支配し、白象に小白香による痒み調教を受けさせている。
小白香は、母親であり、三魔王のひとりである白象を支配する立場になったのだ。
それから二年……。
白象は完全に小白香の痒み奴隷のひとりだ。
すでに娘に堕とされて、痒み奴隷として調教されているという事実を白象自身が兄の金凰魔王あたりに打ち明けて、助けを求めでもすれば事情も変わるかもしれないが、自意識の高い白象が自分からそんな恥を兄弟に晒すわけがない。
この二年、小白香は、表向きには、白象にこれまでと変わらない気儘で冷酷な女魔王として振る舞わせつつ、実際は、陰で調教を続けて、被虐の性癖を剝き出しにしてやった。
その結果、白象は、すっかりと小白香の施す嗜虐の虜になってしまった。
いまでは、娘に調教されるという狂おしいほどの屈辱と苦痛が、途方のない快感と悦びにもなっているはずだ。
もう白象には、この関係を崩そうという性根も消えてしまっているに違いない。
「ね、ねえ、小白果、後生だから、股を掻きむしらせて──。股が死にそうに痒いのよ──」
「母者だけが痒いのではないわ。わらわも痒い。お互いに我慢しようではないか……」
小白果も自分のサンダルを床に擦りながら応じた。
痒みの快感は、小白香の性癖でもあるので、小白香は常に自分自身にも掻痒術をかけている。
場所は足の裏だ。
白象のように、股ぐらに掻痒術を掛けてしまえば、他人に搔いてもらうには、自分の股を晒さなければならない。
そんなみっともないこともできないので、小白香は自分については、足の裏を痒み責めの場所に使っている。
それはともかく、小白香も自分にかけた足の裏の掻痒をずっと癒していない。
最後に足を掻いてから、一日以上は経っているだろう。。
このサンダルも霊具だ。
うっかりと小白果が足をなにかで擦ってしまい、限界点に達する以前に足に刺激を与えないように、両足を小さな結界に包ませている。
いまも、骨まで染みるような痒みが足の裏や足の指から爆発している。
「だ、だって……」
白象は泣くような声をあげている。
「母者、まあ、我慢はするもんじゃ。後で、じっくりと満足させてやるからな」
小白香は、ほんの少しだけ股間の触手を動かしてやった。
「うっ」
白象が電撃にでも当てられたように身体を震わせた。
しかし、すぐに小白香はその動きを静止させてしまった。
こんな少しの刺激だけでは、却って掻痒感が拡大するだけだ。白象はつらいに違いない。
「くううっ……。そ、そんな、もっと──。もっとよ──。意地悪しないで、小白香──」
白象が呻き声のようなものをあげて身体を悶えさせた。
その白象の苦しみの姿を見ていると、少し意地悪をしたくなった。
これだけ痒みにうめく白象の前で、これ見よがしに足を掻いてやれば、どんな反応をするか知りたくなったのだ。
「それよりも、わらわも足が痒い──。衛士──。母者の次の謁見の前に裏に待機させておる今日の当番奴隷を入れよ。足を掻かせる」
小白香は、故意に横の白象を無視するような態度で背後の衛士に声をかけた。
操り術によって虚ろな表情の衛士が裏に下がっていく。
そして、すぐに、下半身に美しい宝石の装飾付きの貞操帯を身につけた女奴隷がやってきた。上位には侍女服を身につけさせてはいるが……。
奉仕奴隷の
もともとは、白象の筆頭護衛隊長であり、歳は二十五くらいのはずだ。犬族の美しい女だ。
しかし、二年前に、小白香が、白象から事実上の宮廷の支配権を取りあげたとき、ひとりだけその事実に気がつき、小賢しくも小白香を諌めようとしたので、小白香の奉仕奴隷にしてやったのだ。
いまでは、あのときの白象に対する忠誠心など完全な消滅している。
小白香の奉仕奴隷のひとりだ。
白象宮の奉仕奴隷の特徴は、上半身は魔王宮で働く侍女服で、下半身については裸体に貞操帯だけという破廉恥な格好だ。
特に、この新蓮については、惨めさが拡大するように、高位侍女用に仕立てている最高級品の上衣を身につけさせている。
臍までの丈しかないが……。
また、貞操帯については、白象に履かせているものとは異なり、秘匿機能はついていないので、誰に目にも貞操帯は映る。
痒み汁を吐く触手もない。
完全に股間に対する刺激を遮断してしまう機能だけだ。
だが、これを装着されると、小白香の道術で外すことを許されるか、道術で刺激を与えられるしか、痒みの苦痛を癒す方法はなくなるという点は同じである。
もっとも、そもそも調教の実感を味わわせるために、白象などには痒み汁などを使っているが、小白香の掻痒術は、術を掛けられた本人の頭の中で発生しているものなので、ぬぐおうと洗おうと擦ろうと、痒みが癒せないようにもでき、貞操帯などなくてもその気になれば、痒みが消えることはなくできるのだが、まあ、ほかにも機能に工夫したので、奴隷の管理には重宝して使っている。
たとえば、糞尿については、もよおせば、貞操帯を嵌めたまま、大便や小便を移動術で自動的に飛ばすように術を掛けている。
無論、その機能は一時的に解除することもできる。
そのときには、大便どころか小便でさえも洩らすことは不可能になる。
十日でも、一箇月でも、尿意や便意を放置して苦しめることもできる。
ほかにも、さまざまな機能がある。
それでいて、清潔も保てるように処置しているし、おかしな皮膚病にもならないし、肌が荒れることもない。おそらく、一生貞操帯を嵌めたままでも、問題はないはずだ。
この新蓮など、もう二年も貞操帯を外していないが、少なくとも病気にはなっていない。
随分と口調も態度も変わったので、すでに気は触れてしまっているかもしれないが……。
「ま、参りました、小白香様──。ど、どうか、お慈悲を……わたくしの股にお慈悲をお与えください──」
新蓮が小白香の座る副座の前にひれ伏した。
新蓮が“お慈悲”と言っているのは、小白香の気紛れで与える貞操帯の内側への刺激のことだ。
奉仕奴隷たちは、小白香の道術によらなければ、股間の痒みが癒されないので、それを“お慈悲”と呼んでいる。
小白香の奉仕奴隷は、いま十数名いるが、彼女たちは数日に一度与えられる小白香の“お慈悲”を競い合って奪い合う。
小白香の痒みをうまく癒せない奉仕奴隷は、痒みを癒されることができずに狂い死にするしかないからだ。
四六時中、股間の痒みに襲われ続けて、ほとんどその痒みを癒す手段を与えられずに放置されることで、彼女たちはいつしか一切の思考力がなくなってしまい、もう、小白香に痒みを癒してもらうことしか、考えられなくなっているのだ。
それが奉仕奴隷の末路だ。
新蓮も、元の主人である白象には目もくれない。
いまや、新蓮には、小白香がすべてなのだ。
小白香の慈悲が欲しくて、必死の形相で小白香に血走った視線を向けている。
「……わらわの足の裏を掻け。気持ちがよければ、お前の股間に褒美をやろうぞ。だが、大したものでなければ、それきりだ。もしかしたら、もう、呼び出してやらんかもしれんぞ」
「そ、そんな……。一生懸命に務めますから──。お慈悲をお願いします。お慈悲を──」
小白香は、返事の代わりに自分が履いているサンダルを脱いで、まずは右足の裏を新蓮に突きつけた。
痒みの向こうにある快感が素晴らしい……。
とにかく、耐えに耐え、苦しみに苦しみ、どうしても耐えられなくなったときに、奉仕奴隷その痒い場所を掻かせることによって得られる快感は、本当にこの世のものとは思えないほどの気持ちよさなのだ。
その痒みが堪らなくなった場所を指で掻くことが、奉仕奴隷の役目なのだ。
「掻かせていただきます──。ありがとうございます──」
新蓮は、小白香が突き出した右足の足首を自分の左腕に乗せて、右の人差し指で足の裏を爪で掻き始めた。
新蓮の手には、左右一本ずつの指しかない。
奉仕奴隷の役目は、小白香の痒みの場所を掻くことだ。
だから、人差し指以外の指は不要だ。
従ってほかの指は切断してしまった。
「おおおっ……。き、気持ちいい……」
狂うような痒みが爪で引っ掛かれて癒される快感に、小白香の全身はがくがくと身体を震わせた。
この途方もない快感にまさるものはない。
この気持ちよさこそ、この世で最高の愉悦だ。
「そこ、そこ、そこだ。その足の指のあいだを掻きむしってくれ……。ほおおっ──。き、気持ちいい──。はあああっ」
耐えられないほどに苦しかった痒みが消失する……。
目の前が白くなるほどの快感が全身を貫く……。
まるで飛翔しているようだ……。
これがあればいい……。
ほかにはなんにもいらない……。
小白香は心からそう思った。
小白香は、しばらくの間、うなされたように身をよじっては、声をあげて新蓮の指を十二分にも味わい尽くした。
「なかなかのものだったぞ、新蓮……」
左右の足の裏をたっぷりと時間をかけて新蓮に掻かせると、小白香は奉仕の終わりを告げる言葉を新蓮にかけた。
役目が終わり、頭を床につけたままの新蓮の貞操帯の内側に、小白香は激痛を与える道術をかけた。
奉仕奴隷が痒みを癒せるのは、小白香の慈悲で痒みを癒してもらえるこの瞬間だけだ。
彼女たちは、小白香にその痒みが癒されることだけを目的にして、いまは、掻痒城と呼ばれることが多くなった離宮で生きているのだ。
「はひいいっ──。あ、ありがとうございます──ふぎいいっ──」
股間に走る激痛に、新蓮はまるで淫行で昇天したような声をあげて身体を震わせた。
「わ、わたしにもお願いよ、小白香──。わたしだって、もう五日も貞操帯を嵌められたままなのよ──。もう、痒くて狂いそうよ──。お願いよ──。その奉仕奴隷を貸してよ」
新蓮が股間の痒みから解放された悦びに打ち震えると、それを見守っていた白象が、耐えられなくなったかのように声をあげた。
新蓮が小白香の痒み奴隷の二号だとすれば、第一号は母者の白象だ。
小白香の慈悲によらなければ、痒み地獄から解放されないという点では、この白象魔王も哀れな奉仕奴隷と同じ境遇なのだ。
もっとも、小白香は、さすがに魔王である白象については、小白香と同程度には痒みから解放させて痒みを癒させてはいる。
だが、この五日については、この白象にはまったく股間に刺激を与えてはいない。
その痒みについても、白象はもう狂いそうな苦しみを味わい続けているはずだ。
しかし、小白香は、その白象の訴えを黙殺した。
小白香が合図をすると、新蓮は小白香だけに一礼をして退出していく。
あれほどの忠誠心を示した、かつての主人である白象を見事なほどに無視したその割り切った新蓮の態度には、小白香も苦笑してしまう。
「ま、ま、待って──。ああっ──。も、もう、気が狂いそう──。痒みをほぐして──。わたしが悪かったと言っているじゃないの──」
白象が頭をかきむしった。
「……母者、これは罰だと申し渡したはずだ……。わらわに断わりもなく、宝玄仙とかいう人間の美女の権利を放棄したであろう。わらわは、人間族の美女が家畜になって、三魔王の持ち周りになると耳にして、その美女を掻痒剤で狂わせるのを愉しみにしておったのだぞ──。それなのに、なんで勝手に白象宮は必要ないと回答したのじゃ──?」
小白香は言った。
「だ、だって、政事については、わたしの自由にしてもいいと言ったはずよ──。そもそも、宝玄仙という雌畜の捕獲は金凰の発案で……」
「黙るのじゃ、母者──。確かに、政事にはわらわは口を出さぬ──。しかし、この宮廷の奴隷については、すべてがわらわの管轄なのじゃ。だから、宝玄仙という奴隷の扱いについては母者は、わらわに相談する必要があったのじゃ──。それを断わるとは──。とにかく、そのことについては、わらわはまだ怒っておる。その怒りが収まるまで、しばらくは、母者の股間の痒みを癒してやる気にはなれん」
小白香ははっきりと言った。
白象の顔が哀れに歪んだ。
宝玄仙という人間族の道術遣いを魔法石の雌畜にしようという企てについては、小白香も事前に承知していた。
人間族の中でも美女中の美女とも聞いていたし、かなりの気の強い女だという話だったから、その女を痒み責めにして、苦しめるのを愉しみにしていた。
だが、その宝玄仙については、白象宮については来ることはなく、金凰魔王預かりということになったようだ。
確かに、宝玄仙についての情報を持ってきたのは金凰魔王らしいが、軍兵については青獅子魔王が出し、軍資金については実は白象宮から出ている。
だったら、宝玄仙の扱いも三等分であるべきだ。
それがなんで、金凰宮で独占なのだ。
理不尽だ。
もっとも、宝玄仙という雌畜が作る魔法石については、しっかり三等分ということにはなったみたいだ。
魔法石というのは、亜人にとっても、魔物にとっても、特別な力を得ることができる不思議な作用を及ぼすものであり、途方もなく三魔王の力を向上させるはずだ。
そのための雌畜化の処置のことなので、奴隷の話ではなく政事の範疇だと判断したと白象は言い訳をしたが、小白香には、そんなことはどうでもよかった。
小白香は、魔法石ではなく、宝玄仙という人間族の高位魔道遣いに興味があったのだ。
そいつを掻痒術で調教したかったのだ。
だいたい、いくら三等分とはいっても、雌畜そのものを握っている金凰宮が一番の利益を得るのは明白だ。
白象が昔から兄の金凰魔王に弱く、なにか言えば、金凰魔王の機嫌を伺うように行動することを小白香は気がついていた。
今回のことも、金凰魔王の強い申し出に逆らえずに、白象は宝玄仙に関して、特に要求らしい要求をすることなく、金凰宮の提案に唯々諾々と同意したのだ。
しかし、すっかりと小白香に屈伏してしまった白象が、金凰魔王が関与すると、小白香に断わることなく、あっさりと金凰に従ってしまうことが気に入らない。
それで今回は、罰として痒みの癒しをしばらくとりあげて、白象を苦しめることにした。
これで金凰魔王と小白香とどちらに従うべきか、白象もわかるというものだ。
それにしても、どうして、あの白象は兄の金凰魔王にだけは頭があがらないだろうか。
いまの白象はともかく、かつての白象は、自分勝手で気が強く、かなりの我が儘だった。
それがなぜか金凰魔王にだけは、昔から言いなりに近かった。
そもそも、小白香が白象と立場を逆転することになったきっかけも、実の娘の小白香を金凰魔王に抱かせようとしたのが発端だ。
白象と金凰魔王のあいだには、兄妹であるということのほかに、なにかの事情でもあるのだろうか……?
そんなことを思ったりもした。
「そ、そのことなんだけど、小白香──。宝玄仙については悪かったと思っているわ。その代わりに、沙那という宝玄仙の供がこの白象宮にやってくるわ──。それに、青獅子からは、三魔王合意だと思っていた宝玄仙の処置について、わたしが不同意だったことを知らなかった侘びとして、獅駝の城郭から人間族の童女を一緒に送るとも言ってきたわ。それで堪忍してよ」
白象が媚を売るような口調で言った。
「人間族の童女?」
「そ、そうよ──。貴族の娘だそうよ。歳は十歳──。可愛い娘だということよ。あなたの痒み奴隷にすればいい。沙那だって、気の強さについては、宝玄仙以上だということらしいわよ──。それもあげる──。だから──」
白象が必死に訴えている。
眼の前で小白香が足の裏の痒みを癒し、奉仕奴隷の新蓮も股間の痒みをほぐすことを許された。
それで、五日間も痒みに耐え続けている苦しさを思い出してしまったのだろう。白象は必死の表情だ。
「へえ、人間族の貴族の娘? いいところの一族?」
「きょ、興味を持った?
白象が言った。
小白香は頷いた。
貴族の娘だということは、痛みにも痒みにも耐性など皆無に違いない。
その無垢な身体に貞操帯を装着さえて、痒み責めにすれば、その娘は泣き狂うに違いない。
おそらく、いい痒み奴隷になるだろう。
それに、もうひとりの宝玄仙以上に気の強い女というのも面白そうだ。
そういう女が、小白香の痒み責めで牙を抜かれ、抵抗の気を失っていく様子を眺めるのは愉しいものだ。
考えてみれば、かつての白象がそうだった。
あの気の強かった母者の白象の道術を支配し、徹底的な痒み責めによって屈服させていく過程は本当に面白かった。
雪蘭に、沙那か……。
確かに強い興味が湧いた。
それなら、調教の期間が制限される持ち周りの宝玄仙よりも、そのふたりの方がいいかもしれない。
「ふうん……。まあ、愉しそうじゃな。だったら、許してあげてもよいぞ、母者──。そのふたりをわらわが自由にしていいなら、股間を掻く奉仕奴隷を今晩でも母者にも貸してやろう──。気が済むまで痒みを癒すがよいぞ、母者」
小白香は言った。
白象が破顔した。
「だが、それは今日の謁見の予定がすべて終わってからじゃ──。まだ、その触手貞操帯の責めは始まったばかりだしのう」
小白香は笑った。
「そ、そんな──」
白象が声をあげた、一瞬だが、白象はいまの苦しみから解放されることを想像したに違いない。
それがまだ先のこととわかり、白象は本当に悲痛な表情になった。
「その代わり、一時的にだが、貞操帯越しに手を触れることを許してやるぞ。この場で、下袍を脱いでその上に膝立ちになるのじゃ。その恰好であれば、自慰をするように股間を指で触れられるようにしてやろう、母者」
白象は一瞬だけ顔を歪めたが、すぐに玉座からおりて、下袍の留め具を外して、下半身を貞操帯だけの姿になった。
そして、下袍を床に敷き、膝立ちになる。
本当に、そんな格好で自慰をするとは思わなかったので、少しだけ小白香はびっくりした。
しかも、感知できないはずとはいえ、周りには衛兵だっている。
だが、白象はすぐに貞操帯の上から自分の股間を激しく擦りだした。
「ああっ、ほおおおお、き、きもじいいいい」
甲高い声をあげて白象が悶えだした。
それくらい、股間の痒みも切羽詰ったものだったのだろう。
「次の謁見者を入れよ──」
意地悪く呼び出し係に声をかけた。
小白香の術にかけられている係の兵は、白象がなにをやっていても、小白香の言葉を優先する。
余計なことなど考えない。
係は、小白香の指示によって、次の面会者の入室を促す掛け声をあげた。
白象が悲鳴をあげて、自慰を中断して床の下袍をはき直し出した。
あまりに慌てたので、うまく下袍に脚が入れられずに、白象は下袍を履きかけたまま、ころりと転がった。
その滑稽な姿に小白香は、腹を抱えて笑ってしまった。