女のすすり泣きが部屋に響き渡っている。
その女は、かなり長く暴れていたのだが、いまは疲れきってしまい、泣きながら発作のような痙攣をするだけになっている。
誰だろう……?
朦朧としている頭で、
右京はその苦しんでいる女を天井からぼんやりと見下ろしている気がしていた。
だが、まず最初にその女の声が自分の泣き声だということがわかった。
すると、すぐに天井から下を眺めていると思っていた視界が消滅して、その女の視界そのものになった。
びっくりした。
自分が泣いていることに驚いたのではない。
自分が自分であるということがわからぬくらいに、心が追いつめられているということに驚愕したのだ。
いまのはなんだったのか……。
あまりの苦しみに、自分は正常な精神を手放そうとしていたのではないか……。
そして、さっきの光景は、発狂寸前の自分の幻なのか……?
愕然とした……。
しかし、そんな右京の思念など、右京の身体を襲っている恐ろしい痒みが崩壊させてしまう。
痒い……。
身体が千切れそうに痒い……。
いや、それが可能なら、この身体を自ら引き裂いてしまいたい。
このまま、放って置かれるくらいなら、その方が余程ましだ。
「あんまり我慢をすると気が狂うぞ、右京……。わらわは、痒みで気が狂うた女奴隷を何人も見た……。というよりは、わらわがそこまで追いつめてやったのだがな……。だから、わらわは、結構簡単に、人が狂ってしまうということも知っておる。限界を越えた苦痛を味わうと、亜人族でも人間族でも、知性体というのは、心を守るために自らの精神を壊してしまうものらしいわ……。そうなりたいのか? 早く、屈伏せよ。なにも考えるな……。手で股を掻け──。愉しいぞ。痒みが癒えるのだ。それは途方もない快感ぞ」
喉の奥で音がするような小白香特有の笑い声が響く。
「許して……、許してください……もう、許して……」
右京は何百回繰り返したのかわからないその言葉を呟いた。
発狂しかかることで、痒みの苦しみから逃れかけていたかもしれなかった右京の精神は、再び現実の苦しみに戻されてしまった。
我に返った右京は、自分の身体が不規則な痙攣をするように動き続けていることを自覚している。
薬剤を塗られた最初の頃は、それこそ全身を激しく暴れさせていたが、それも体力の限界をすぎたため、もう暴れる力さえ残っていないのだ。
いまはただ、全身を蝕む痒みに嗚咽をあげ続けることしかできない。
しかも、その嗚咽が、自分の声だとすぐにはわからぬくらいに、右京は心を追いつめられているようだ。
全身を襲う痒みは、右京の精神をずたずたにしかけている。
しきりに全身を動かしながら、右京が考えていたのは、背中に回した両手首を背中から離さないこと──。
それだけだ……。
この手を離せば、幸せな結婚が控えている妹が、この小白香の奴隷にされてしまうのだ。
だから、後手に組んだ手を離してはならない──。
しかし、この痒さは……。
手で股を掻け……。
さもないと、気が狂ってしまうぞ……。
小白香の意地の悪い声が呪文のように右京の心で繰り返される。
手で痒い部分を掻け……。
駄目だ……。
それだけは……。
しかし、時折、なんのために我慢しているのかさえ、わからなくなる。痒いなら掻いてしまえばいい……。
そう考える自分がいる。
気がつくと、頑なに背中に回して耐えているはずの腕が心なしか緩んでいたりもする。
しかし、そのたびに、眼の前にいる十二歳の王女は、妹の夢華の名を出すのだ。
あまりの全身の痒さで我を忘れかけていた右京は、それで自分を現実に戻すことができる。
小白香が、右京が痒みに屈伏しかけるたびに、妹の名を出す理由は容易に想像がつく。
この少女は、眼の前の右京が痒みに泣きながら苦悩する姿をなるべく長引かせたいだけなのだ。
小白香は、別に妹の夢華などどうでもいいと思っているに違いがないし、大した興味があるわけでもないだろう。
しかし、右京が小白香の痒み拷問に屈せずに耐えている方が面白いから、妹の名を出して脅しているのだ。
右京は、そのことに気づかざるを得なかった。
つまり、一連のすべてが、眼の前の少女のただの思慮のない遊びなのだ。
だが、その遊びによって、右京は軍籍を奪われ、妹とともに壊されようとしている。
しかし、そんな理不尽な仕打ちに、抵抗するすべは右京にはないのだ。
右京に許されているのは、理性を崩壊させるほどの痒みに対して、呻くような嗚咽をあげることくらいだ。
「我慢できなくなったなら、早く股を掻かんか、奴隷──。わらわも知っているが、耐えられない痒みを耐えて、耐えて、そして、それを癒すときの快感は、この世のものとは思えぬ快感ぞ。わらわは、それを“痒みの向こう側”と呼んでおるがな──」
ふと気がつくと、汗まみれになって全身を激しく身悶えさせていた右京のすぐ前に、小白香の顔があった。
朦朧としていた視線に愉しそうな小白香の顔が映った。
「お、お許しを……殿下……お許しを、殿下……お許しを……」
右京は、憑かれたようにそれだけを繰り返した。
「心から、わらわたちの奴隷になると誓うか?」
眼の前の小白香が、まとた喉の奥で笑うような音をさせながら言った。
「ち、誓います……。奴隷になります……。ですから、妹の
もう、それしか言うことができなかった。右京は、自分の気力がもう尽きかけていることを知っていた。
そのとき、いきなり、尻に衝撃が走った。
「ひう──」
朦朧としていた視界が、一瞬にして戻ったくらいの激痛だった。
なにが起こったのかわからなかったが、尻に与えられた激痛で感じたのは、その一撃によって、ほんの少しだけ痒みを忘れられた快感だ。
痛みで全身のただれるような痒みが消えた。
それは素晴らしい快感だった……。
しかし、また、すぐに痒みが襲ってきた。
痛みなど一瞬のことだ。
それが身体から消えると、怖ろしい痒みが戻ってくる。
「お、お願いです……。も、もっと、打ってください──」
右京は叫んでいた。
なにが起きたかがわかったのだ。
いつの間にか、小白香は乗馬鞭を手に持っている。
それを思い切り右京の尻に一閃させたようだ。
「……ふふふ、なかなか、気丈な奴隷だ──。母者にやるのは惜しくなったのう……。まだ、二刻(約二時間)には足りんが、一刻(約一時間)もこの痒みに耐えたのだからな……。あの小生意気な人間族の女戦士の沙那とどちらが長く痒みに耐えきるのかのう……? わらわの痒み奴隷にして、試してみたくなったわ……。気を狂わせてしまうのはやめておくか……」
再び、尻に激痛が走る。
二度、三度──。
しかし、右京には、容赦なく振りおとされる乗馬鞭の激痛になんの苦痛も感じることもできなかった。
それどころか、その鞭は、骨まで染みこんでいる痒みを忘れさせてくれるありがたい刺激だ。
だが、痛みはすぐに消えて、また、痒みが襲う。真に怖ろしいのは、すぐに戻ってくるその痒みだ。
「う、打って……、お願いです……。後生です……。もっと打ってください──」
右京は叫んでいた。
すると、愉しそうに微笑んでいる小白香が、乗馬鞭の先を右京の顎の下に当てて、右京の視線を小白香に向けさせた。
「わらわがなにをしようが、わらわの勝手であろう?」
「わ、わかっております。で、でも、も、もっと打ってください……。もっと……」
右京は必死になって言った。
また、痒みが戻ってきた。
あの狂うような痒みが……。
「痒いなら、背の手を離して掻けと言っておるであろう。鞭打ちで癒える痒みの気持ちよさの数倍も素晴らしい快感があるぞ。その快感が欲しくないのか……?」
「も、もっと……もっと打って……」
右京はすすり泣きながら言った。
背中の手は離してはならないのだ。
それだけは駄目だ。
しかし、この痒みは……。
「……胸も打って欲しいか、右京……? それとも、股ぐらに直接に鞭を当てるなどどうだ?」
小白香が右京の顎の下から乗馬鞭を離して、自分の腰帯に差した。
そして、右京の両方の乳首をくすぐるように両手で刺激した。
触れるか触れないかくらいの微かな手管だ。
「ふうううっ──」
右京は全身を仰け反らして絶叫した。
痒みにただれている胸に対するその優しい刺激はあまりにも酷い仕打ちだ。
痒みが倍増するようなその愛撫に右京は悲鳴をあげた。
「そ、それは勘忍を……。それよりも、鞭を──。鞭を──」
右京は全身を振り乱しながら叫んだ。だが、右京ののたうつ姿が愉しいのか、しばらくのあいだ、小白香はその愛撫を続けた。
やっと小白香が右京の乳首への刺激をやめたとき、右京は完全に身体を脱力させてしまった。
一瞬、首輪が右京の体重で締まる。
右京は慌てて、脚に力を入れて姿勢を戻した。
「お前は、わらわたちの奴隷になると誓ったのであろう? 鞭で打とうが、痒み剤を足そうが、わらわの自由ぞ。それに文句は言えん。それが奴隷なのだ。お前はそれをわかってはおらんようじゃのう」
小白香が微笑みの中にぞっとするような蔑みの表情を混ぜた気がした。
すると、小白香は、一度、右京の前から去り、すぐに戻ってきた。
手には痒み剤の壺を持っていた。
「ひいっ、そ、それはもう堪忍を──。それだけは──」
右京はそれを見て悲鳴をあげた。
痒みで狂いそうなこの身体に、再び痒み剤を追加するというのはあまりにも酷すぎる。
しかし、右京の前に回った小白香は、平然とした顔でたっぷりと手に痒み液の汁を乗せた。
「動くでないわ、右京──。妹を助けたくば、股を開け──」
小白香が笑った。
それを言われると、もう抵抗することは許されない。
右京は嗚咽をあげながら、閉じていた股間を開いた。
その股間に再び痒み剤が足されていく。
右京は、それを恐怖で震えながら受けた。
痒み剤を右京に足し終わった小白香は、満足気な顔をして、壺を置きに壁際の棚に戻った。
そして、再び右京の前に戻ってきた時には、今度は新しい手枷と鎖を手にしていた。
「これで手を拘束して欲しいか、右京? そんなことをすれば、もう、お前の両手が自由になることはないぞ。どんなに痒みに苦しもうがが、自分で掻くことはできん。ただ、のたうちまわるだけだ……。それでも手を拘束して欲しいか?」
小白香が鎖と手枷を右京に示しながら言った。
「拘束してください──。お願いします──。ありがとうございます──」
右京は声をあげた。
手枷を見て、右京は心の底から両手を拘束して欲しいと思った。
これ以上、意思の力で痒みを耐えるなどできそうになかった。
しかし、手を離せば、妹がこの怖ろしい奴隷宮に連れて来られるのだ。
だから、手を離したくても離すことができないようにして欲しい……。
右京は、飢えたときに目の前に食べ物が出されたような感情で、その枷を見つめた。
「本当によいのだな? 明日の朝までこのまま放置するぞ? お前の頭が狂うことは確実ぞ?」
「か、構いません──。拘束してください」
妹を犠牲にするくらいなら、発狂してしまいたい……。
いや、もはや、右京の望みは、この苦しみから逃れるために発狂してしまうことかもしれない。
それで、この苦しみから解放されるのであれば……。
「よい覚悟だ……。だが、おそらく、お前は腕を縛られたことを後悔するぞ? それでもよいのか? わらわの意地の悪さは、お前の想像以上だぞ。腕を拘束するとすれば、それを後悔させるくらいの意地の悪い命令が与えられるとは思わんのか?」
小白香が笑った。
しかし、そんなことはどうでもいい。
右京が考えているのは、なんとか妹を守りたいということだけだ。
腕を拘束してもらえれば、自分が屈服して妹が奴隷宮に連れて来られるのを避けられる。
「どうか、手枷をしてください」
右京はきっぱりと言った。
「よかろう」
小白香が右京の背中に回って、背中で合わせていた手首と手首に手枷を嵌めた。
さらに、その手枷に鎖を繋げて、右京が嵌められている首輪の後ろ側に繋げたようだ。
これで右京はやっと自分の意思でも後ろ手を離せなくなった。
右京はほっとした。
「このまま、また、一刻(約一時間)くらい我慢させても愉しいが、いま気を触れさせては面白くない……。ならば、次の段階に移るとしようかのう」
小白香が腰帯に差したままだった乗馬鞭を抜いて、それを右京の胸に一閃させた。
「ああっ」
右京の胸の膨らみに鞭が当たって揺れた。
激痛で右京も顔をしかめて、汗びっしょりの裸身を仰け反らせた。
しかし、激痛とともに乳房の痒みが消失し、そのことでやってきた快美感は脳髄まで響き渡るようだった。
「も、もっと、ください……」
右京はそう言っていた。
次の鞭は右の乳首の先端に直接当たった。
さらに峻烈な快感が四肢に流れ渡る。
続けざまに鞭が振られる。
右京は、ほとんど無意識のうちに、その鞭先に向けて、痒みが残っている左の乳首を動かした。
鞭打ちは激痛の苦痛ではない。
いまの右京には、痒みを癒してくれるありがたい恩寵だ。
小白香の鞭打ちはしばらく続いた。
鞭打ちで乳房にはたくさんの鞭の痕が拡がり、幾筋ものみみず腫れができていく。しかし、本当に気持ちがいい。
「ああっ……はあ……ああ……」
鞭を打たれるたびに迸る自分の口から流れる声は、自分でもそれが苦痛の声とは思えない。
右京自身、自分の悲鳴に、快楽に陶酔する甘い響きを感じてしまう。
「痒みが癒される快感がわかってきたようだな。なかかなによい素質を持った奴隷だ……。ところで、胸の痒みは鞭打ちで癒えたであろうが、股ぐらの痒みはそのままであろう? むしろ、余計に痒くなったのではないか?」
鞭打ちの疲れで薄っすらと額に汗を掻いている小白香が、右京の乳房への鞭打ちの手を休めて、意地悪そうな視線を小白香に向けた。
「か、痒いです──。股も……股ぐらも打ってください──。お願いします──」
乳房を幾ら打たれても、女陰の奥深くや肉芽の掻痒感には、まったく影響がない。
むしろ、気の狂いそうな痒みに疼ききっている。
「よかろう……。今夜ひと晩で、身も心も、完全な奴隷になるように躾けてやる──。しかし、わらわもそろそろ、痒みに耐えきれなくなった──。お前の股ぐらを責める前に最後の試しをしてやる。それで妹を思うお前の心が真実かどうか見極める──。いつもは、躾の終わった奉仕奴隷にさせるのだが、いまの段階のお前に、その奉仕奴隷の代わりができたら、妹とその許嫁とやらは解放してやるぞ」
小白香はそう言うと、道術で椅子を呼び寄せて、右京の眼の前でその椅子に座った。
同時に、首輪の鎖が一気に緩んで、右京を天井から吊るしていた支えがなくなる。
「跪け、奴隷」
全身の筋肉が綿のように疲れきっている右京は、小白香の命令が聞こえるや否や、崩れるようにすぐにその場に跪いた。
すると、小白香が自分の両足からサンダルを抜いた。
「わらわの足を掻け、奴隷──。それができなければ、奴隷失格だ。お前の代わりをお前の妹にさせる」
小白香がきっぱりと言った。
眼の前に、小白香の片方の足の裏がぐいと突きつけられる。
これを掻けと?
だが、どうやって?
右京の腕は拘束されているのだ。
「か、掻きます……。い、いえ、小白香殿下の足を掻かせてください……」
「ならば、早う掻け──。わらわも苦しいのだ──。痒くて痒くて、堪らんのだ」
さらに小白香の足が近づけられる。
だが、掻けと言われても、右京の両腕はさっき背中で拘束されてしまったている。
それを外してももらわなければ、小白香の足の裏を掻くことなどできない……。
右京の当惑がわかったのか、小白香は愉快そうに笑った。
「……だから、わらわは言ったであろう? 後手に拘束されれば後悔するとな──。両手が使えんのであれば、口でせよ──。舌や歯でわらわの足を掻きむしるのだ。噛んでも構わんぞ──」
小白香が酷薄そうに笑った。
右京は驚愕した。
口で掻けと……?
「……なんじゃ、できんのか? ならば、妹にさせるだけだ……。あの痒みに一刻(約一時間)も耐えた頑張りが無駄になったな──。残念なことだ──」
小白香がさっと足をおろしてサンダルを履き直した。
右京はそれで理性を取り戻した。妹を守らなければならないのだ。
「お、お待ちください、殿下──。や、やります──。やりますから──」
小白香は本当に右京の妹を奴隷宮に連れてくるだろう。右京は懸命に哀願した。
「別に無理をせんでよいぞ──。お前の妹にやらせると言っておるであろう」
「い、いえ……。やらせてください。お、お願いします……」
右京はそう言うしかなかった。
「そんなに妹が大切か……? 男嫌いの母者は、わらわしか子供を作らなんだ。姉妹のおらんわらわには、そのような姉妹愛は羨ましいし、妹を守るためであれば、どんなことにも耐えられるという気持ちはよくわからんな……」
小白香が嘆息した音が聞こえた。
そう言えば、確かに、白象の男嫌いは有名だ。
白象魔王の性愛の対象は、同性の女にしか向けられず、この奴隷宮にも女しか集められていない。
だが、考えてみれば、小白香の父親は誰なのだろう。
白象は、ただの一度も、結婚もしていなければ、男の恋人を持ったこともないはずだ。
小白香の誕生にしても、父親の影のないまま、いつの間にか懐妊していたと伝えられている。
だが、右京の思念はそれで中断された。
小白香の足の裏が再び右京に向けられたのだ。
右京は、顔をその足の裏に近づけた。
「で、殿下──、どうか、妹だけは……」
右京は言った。
「くどいのう……。まあ、約束だけはしてやろう……」
小白香が言った。
右京は意を決して、顔を近づけて、上の歯で擦るように、小白香の足の裏を掻いた。
「ほおおおっ──。き、気持ちがいい──。そこじゃ──。き、気持ちはいい──。あ、足の指を──、足の指のあいだを舌で強く擦れ──。そ、そうじゃ、気持ちがいい──。はああああ──」
右京は懸命に足の裏を歯や舌で擦り続けた。
一方で、小白香は快美感に身体を激しく震わせながら、嬌声のような声を出している。
右京はただ無心に小白香の足を歯と舌で強く擦ることだけを考え続けた。
これをすれば、妹を守れる──。
小白香の足の裏を必死になって口に入れながら、右京はそのことだけを思うことにした。
*
小白香は、足の痒みの癒えた大きな満足感とともに、奉仕奴隷たちが集めてある部屋に向かっていた。
右京については、なかなか面白い人材だった。気丈な心の強さもあるし、軍人だけあって激しい責めに耐える体力もありそうだ。
それに、なかなかの根性だ。
いくら妹のことを持ち出して脅したところで、あれだけの長時間、痒みに耐えて自ら自分の手を後手にしたまま我慢できるとは思わなかった。
いまは、股間に『痒み棒』を挿入して放置してきたが、すぐに戻るつもりだ。
あんな愉しい玩具を手に入れたのは久方ぶりだ。
股で受け入れる時間が長くなればなるほど、強い痒みに襲われる『痒み棒』だが、あの感じだと、命令を守って、小白香が戻るまで、『痒み棒』を股間に挿入したままでじっとしているに違いない。
戻ったときに、どんな顔で泣いているかお愉しみというところだ。
とにかく、やるべきことを片付けてから、すぐに右京の調教を再開しようと思っている。
小白香は浮き立つような気持ちに浸りながら、迷路のように入り組んでいる奴隷宮の廊下を進んだ。
やがて、目的の部屋に到着した。
部屋に入ると、白象のよがり声のような奇声が小白香の耳に届いてきた。
奉仕奴隷たちに、股間を掻いてもらっている白象がそこにいる。
小白香が部屋に入ると、奉仕奴隷たちの視線がさっと小白香に向いた。
奉仕奴隷たちは、小白香の命令に従って、白象の股間を掻き続けていたのだと思うが、小白香の姿に接して、その手を休めて一斉に顔をこっちを向けたのだ。
「小白香様、お慈悲を──」
「あたしにこそ、お慈悲を──」
「わたしも命令に従って頑張りました──。お慈悲を──」
まるで飢えた家畜が、餌を持った飼育人に群がるように、奴隷たちが白象をほったらかしにして、小白香に向かって集まってきた。
「うっとうしいわ──。慈悲はやる──。部屋の隅に行け──。壁に身体を接触させると、一度だけ痒みが癒える痛みが、足の裏に走るようにしてやる。だから、早く壁に散れ──」
小白香は手を振った。
そして、奉仕奴隷たちが壁に触ると、彼女たちの股間に一回だけ激痛が走るように、壁に道術をかけた。
それを耳にした奴隷たちが一目散に壁に駆けた。
そして、壁に接した途端に、全員が打ち震えるような快感の声をあげた。
だが、股間の痒みが癒える痛みの快感は一度だけだ。
それからそれぞれに、物欲しそうに何度も壁に触り直したり、悶えるように身体をくねらせながら貞操帯に覆われている股間を擦ったりする姿を示した。
ここに集めた奉仕奴隷たちも、最初はみんな、あの右京のように気丈で気が強かったのだ。
しかし、気の狂いそうな痒みに襲われ続けることで思考力をすっかりと失ってしまい、いまでは、ただただ痒みを癒してくれる小白香の慈悲にすがるだけの動物のようになってしまった。
そろそろ、こいつらも処分する頃だろうか……?
そんなことを考えたりした。
まあ、とにかく、いまは母者の白象のことだ……。
小白香は、白象の視線を向け直す。
「母者、満足したようじゃな」
小白香は白象に声をかけた。
白象は、小白香がこの奉仕奴隷たちの部屋に置き去りにしたときたときのまま、長椅子に横になって全身を縛られた姿でいる。
呆けたような表情の白象が、口から涎を流したままの顔を小白香に向けた。
「ああ……、小白香……」
白象が言った。
小白香は、ぱちんと指を鳴らして、魔道の貞操帯を復活させる。
かなりの術式を刻んでいるので。小白香の魔道ひとつで、貞操帯を装着させられるし、脱着もできる。
いまは、一時帝に消滅させていた貞操帯を装着させたということだ。
貞操帯の内側には、痒み液をまき散らす小さな触手がびっしりと生えているので、白象はさっそくその刺激を味わっただろう。
「ひっ──」
白象がびくりと身体を震わせる。
いつものことのであるのに、この貞操帯を出現させて装着し直すたびに、白象は怯えた顔を小白香に見せる。
考えてみれば、この白象も、小白香の痒み責めを受け続けて性根を失ってしまった成れの果てであろう。
完全に貞操帯が復活したのを確認すると、白象の拘束を解いた。
「母者、今日は、もう自室で好きにしてよいぞ。わらわは、今夜は、右京と遊ぶことにする。よければ、母者の別の奴隷を部屋に行かせようか──?」
小白香は訊ねた。
奴隷宮に集めている奴隷には、大きく白象が管理しているものと、小白香が管理しているものに分かれる。
しかし、全体的には小白香が統制しているので、白象といえども、勝手には、自分の奴隷を性欲の解消には使えないのだ。
「必要ないわ……」
白象は、だるそうな仕草で立ちあがると、小白香に背を向けた。
横の籠には、着替えを準備している。
白象はそれをのろのろと身に着けだす。
「そうじゃ、忘れておった。母者にやってもらうことがあったのだ」
服を身につけようとしている白象に、小白香は声をかけた。
白象が不安そうな表情をこっちに向けた。
「そんな顔をせんでも、今日はもう母者にはなにもせん。さっき頼んだ右京の妹とその許嫁のことだ」
「軍営に捕えておけと言われたふたりね……。今頃は、もう白象宮の軍営に監禁してあるはずよ」
これ以上小白香が白象を責めることがなさそうであることに、改めてほっとしたのか、些かの安堵の表情とともに、白象は答えた。
「それを奴隷宮に移送させて欲しい。とりあえず、ふたりとも別々の部屋に監禁しておいてくれ、母者」
小白香は言った。
「それはいいけど、結局、あの右京は、あなたの責めに屈したの? 命令に従えば、妹には手を出さないとか約束していたようだったけど……」
「いいや、あんな気丈な女は初めてだ。見事に耐えきったぞ。ついには、背中の手を離さんかった。わらわは、妹には手を出さんと約束をさせられた」
小白香は、あのときの必死で悲痛な右京の表情を思い出して、声をあげて笑った。
「だったら……」
白象が眉をひそめた。
「……なにを言っておるのじゃ、母者? 我が儘で冷酷で有名な白象魔王ともあろうものが、なにを優しげな気持ちになっているのだ? わらわの奴隷に成り下がり過ぎて、すっかりと牙もなくなったのか──? 確かに、わらわは右京の妹には手を出さんと、右京と約束した──。だが、奴隷との約束を守らねばならん理由がなにかあるのか? わらわは、妹だけは助けられたと信じきっておるに違いない右京が、痒み奴隷にされた妹に接して、どんな顔をするのか見たいのだ──。それが面白そうだからな──」
小白香がそう言うと、白象が顔をしかめた。
そして、なにかを言いたそうな気配になったが、結局、小さく首を振っただけだった。
「……言われたことはしておくわ、小白香……」
最後にそれだけを言い、白象は部屋の外に出て行った。