「痒み……? ああ、そういうことね……。お前は経絡突きができるのね……。それで、油断をした小白香が、経絡突きを受けて、虫の息ということなのね……。これは、どうしたものかしらね……」
白象魔王が微笑んだ。
その余裕ありげな微笑を見たとき、沙那は残念ながら自分の試みが失敗したことを悟ってしまった。
経絡突きは、沙那の全身全霊の気を集中して行う必殺の一撃だ。
それだけに、痒みが全身に襲ってきて少しもじっとしていられないような状態では無理なのだ。
最初の一撃は怒りの一撃であり、沙那にとっては奇跡のようなものだ。
沙那の指は、小白香の瞬殺の経絡のつぼを目がけて指差してはいるが、その指先は震えて、とてもじゃないが気を集められない。
今度は、打っても成功しないだろう。
身体が狂おしい掻痒感に襲われていて、こうやって立っているだけでもつらいのだ。
薬液による痒さが、沙那から集中力を奪っていっている。
白象魔王は、沙那がやった攻撃が経絡突きであることを見抜いた。
経絡突きをたしなむ者であれば、それが途方もなく集中力を必要とする技であることは常識だ。
娘の小白香に、沙那が瞬殺の経絡突きの姿勢を見せているのに、あの余裕の笑みを浮かべているのは、すでに、沙那に次の経絡を打ち込む力がないことを見抜いているに違いない……。
「……あ……か……」
沙那の足元の小白香が苦しそうにもがいている。
おそらく、苦しさで口をきけないのだ。
本人は死の苦しみを味わっているはずだが、いまの状態は、それが続くだけで死にはしない。
せいぜい、気絶するくらいだ。
生命が断たれる寸前の窒息責めの状態にあるだけだ。
最初の一撃で、死に至るつぼを押して、死なせることはできた。
しかし、それでは小白香が死ぬだけで、沙那と雪蘭は助からない。
だから、死の苦しみを与える経絡を選んだ。
騒動を聞きつけて、誰かがやってくるのは計算の範疇だった。
まさか、白象魔王自身が部下も連れずにやってくるとは思わなかったが、白象魔王だと確信したときは、それがむしろ好都合と考えた。
白象を見たのは初めてだったが、ひと目でこの女が、三魔王のひとりであり、女魔王の白象魔王であることはわかった。
白象魔王は、この宮殿の中で、沙那や雪蘭の生殺与奪の権限を持っている唯一の存在のはずだ。
その白象に対して、娘の小白香を人質にとって脅せば、娘を助けるために女魔王が感情的な決断を即座にすることが期待できる。
沙那たちが解放される可能性も高いはずだった。
だが、眼の前の白象は、小白香が死に瀕している光景に少しも動揺していない。
むしろ、この状況を愉しんでいる気配すらある。
「どうしたの、沙那……。手が震えているわよ……。それじゃあ、経絡突きは成功しないわよ。もっと、しっかり狙わないと……」
白象が笑った。
「う、うるさい──。わ、わたしたちの痒みを消しなさい……。こ、殺すわよ──。娘を殺すわよ──」
沙那は小白香に指を突きつけて叫んだ。
だが、やはり、この白象は、娘の小白香が死ぬと思っていないか、それとも、死んでもいいと思っているに違いない。
まったく平然としている。
おそらく、沙那の経絡突きなど、もう二度目はできないということもわかっているのだと思う。
だからこその余裕としか考えられない。
沙那の心に絶望が走る。
「……は、は……じゃ……あ……」
小白香がもがいて、白象のところに手を伸ばした。
白象の立つ場所に向かって這い進もうとしている。
沙那はその手を蹴飛ばして、小白香が逃げるのを拒んだ。
「……いいわ。痒みを消せばいいのね……。自分自身の苦しみは消せないけど、他人であれば、小白香の薬水の痒みもあっという間に消せるわ……。中和剤となる水をかけてあげるわ」
白象が言った。
意外な言葉に沙那は驚いた。
この全身の痒みが消えてくれれば、経絡突きももう一度可能になるかもしれない。
それならば状況も変わる。
「一気にいくわよ……」
白象が言った。
次の瞬間、天井から大量の液体が降り注いだ。
掻痒感があっという間に消滅する。
痒みの苦痛が消滅する愉悦は、全身を蕩けさせるほど気持ちがいい……。
沙那は一瞬、我を忘れて、その快感に酔った。
そして、はっとした。
はらわたが捻られるような感覚が襲ってきている。
『移動術』だ──。
道術でほかの場所に転送されようとしているのだ。
慌てて、人質にしている小白香を確認しようとした。
だが、いない──。
さっき、中和剤を大量にかけられたときに、一瞬だけ視界がなくなり、そのとき、小白香から意識を離した気がする。
その隙を突かれて、白象によって、小白香の身柄を先に『移動術』で転送されたのだと思った。
口惜しいが、もうどうしようもない。
そして、気がつくと、別の部屋だが、さっきと同じような扉も窓も家具もなにもない監禁部屋にいた。
たったいままでいた部屋と違うのは、床にあった絨毯がなくなっていることだ。
床は石畳になっている。
やはり、小白香はいない。
また、
このふたりも、さっきの部屋から、別の場所に転送させられたか、あるいは、さっきの部屋にまだ残されているかであろう。
「面白い女ね、沙那……。わたしもいままでに、たくさんの奴隷を見てきたけど、あそこまで小白香を追いつめた奴隷は初めてよ……。だけど、残念ながら、小白香への経絡突きの影響なんて、わたしの『治療術』ですぐに元に戻せたわ。あの雪蘭という童女も、お前の経絡突きで眠らせていたようだけど、彼女もついでに、経絡突きの影響は消しておいた。なにしろ、ここはわたしの結界で包んでいる奴隷宮だから、あの雪蘭にもわたしの道術はかけられるしね」
白象は言った。
宝玄仙の魂の欠片を体内に仕込んでいるために、道術をかけることができる沙那はともかく、雪蘭はまったく霊気を帯びないただの人間族だ。
霊気を帯びない者には、本来は道術などかけることはできないが、道術を扱う者の結界の中であれば、話は別だ。
白象が言う通り、白象の結界内であるらしいこの奴隷宮では、白象は自在に雪蘭にも道術をかけられる。
沙那が雪蘭に突いた“睡眠の経絡”もあっという間に無効にできただろう。
失敗した……。
沙那は絶望した。
唯一の機会に賭けた小白香を人質にするという策は、小白香を奪い返されたことで終わった。
あとはもう、白象の結界の中であるこの奴隷宮で、娘を殺そうとした報復として、なぶり殺されるだけだろう。
沙那は死を覚悟した。
簡単には死なせてはもらえないかもしれない……。
ここは、白象の結界の中だ。白象はどんな残忍な殺し方でも自由気儘にできる。
いや、絶望するには、まだ早いかもしれない……。
沙那はふと思った。
あの全身を蝕んでいた痒みが消えているのだ。
これなら……。
沙那は白象に襲いかかった。
まだ、腕は一本残っている。
指が一本ありさえすれば、経絡を打ち込める。
だったら、今度は白象自身を人質にしてやる──。
「物騒な片腕ね……」
沙那の腕が白象の身体に到着する直前に白象がそう言った。
「わっ」
沙那は空中で悲鳴をあげた。
白象に向かって伸ばしていた片腕が二の腕の先から消滅したのだ。
これで沙那は両手を切断されたような状態になった。
しかも、白象に身体が当たる寸前に見えない壁に阻まれ、ふわりとなにかに包まれた。
そして、気がつくと、両脚を拡げて床の上に立たされていた。
二の腕から先のない両腕も大きく横に開いた体勢でまったく動かない。
まるで見えない壁に磔にされたような感じだ。
「くっ」
沙那はもがいた。
しかし、全身が金縛りになったようにびくともしない。
「お前の望みは、ここから解放されること、沙那?」
うっすらと笑みを浮かべる白象が、沙那の前に立って言った。
「そ、そうよ……。でも、それを訊ねてどうするの? 逃がしてくれるの……?」
沙那は磔の体勢のまま白象を睨んだ。
「なかなかの根性ね……。ひと晩中、小白香のあの痒み液に耐えて、経絡突きの機会を待っていた精神的な耐久力も素晴らしいわ……。なによりも、道術ではなく、経絡突きであれば、道術を扱う者はむしろ油断する……。道術を扱う相手に対する暗殺者として適任かもしれないわね……」
白象がひとり言のように言った。
「な、なによ……?」
沙那はじろじろと自分を眺める白象の視線がうっとうしくなった。
「取引きしてもいいわよ、沙那」
突然に白象が言った。
「取引き?」
「そうよ。この奴隷宮から解放してもいいわ……」
白象が言った。
沙那はびっくりした。
そして、白象の顔を改めて凝視した。
どうやら、なにかの思惑があるようだ。
「その条件は? ただ逃がしてくれるわけではないんでしょう?」
沙那は言った。すると、白象が笑いだした。
「そうね──。確かに、条件があるわ……。その前に 教えてあげるけど、その失った腕は、わたしの結界のかかった空間にいることによって効果が及んでいる幻よ。結界の外にさえ出れば、腕は復活するわ。それは、あの雪蘭も同じね──」
「復活する?」
「ええ……。それだけじゃない。ここにいる奴隷たちには、腕や指のない者も多いけど、すべて、本当に切断しているわけじゃないわ。道術でそう見せかけているだけ──。絶望を与えるためにね。まあ、奴隷宮に監禁されている限り、本当に切断されようが、道術でそう幻術されようが変化はないけどね……」
「……なんで、わたしにそれを教えるのよ……?」
沙那は言った。
幻と言われたが、二の腕から先にはなにも感じない。
切断されて消滅したとしか思えない。
白象が言う通り、ここに閉じ込められている限り、本当に切断されようが、道術でそう幻術されようが変化はない。
「一応、大事なことだからね。つまり、腕がなくなったのが、わたしの道術であろうと、小白香の道術であろうと、この白象宮の敷地から出れば、復活するということよ。腕が戻れば、さっきの経絡突きも可能になるわ」
「はあっ?」
「だから、その技で仕事をしなさい。それが解放の条件よ」
白象が言った。白象の眼には全くの淀みがない。
どうやら、白象は大真面目な取引を沙那に提示しているようだ。
「仕事とはなによ?」
「わたしが命じる相手を殺しなさい……。その経絡突きの技でね」
白象がさらに沙那の顔に近づいて、耳元にささやくように言った。
「こ、殺す──? 誰を──?」
沙那は突然の話に当惑した。
この白象は、一体全体、沙那に誰を殺せと要求しているのか……?
「……道術では絶対に殺せない相手よ……。かといって、武器でも無理。警戒をしているからね。物理的な襲撃にだって、そいつの結界が邪魔をするわ。だけど、経絡突きなら、あいつも予想もしていないはずよ──。お前ならあいつに近づける……。奴隷として……。そして、殺しなさい。今度は、窒息責めなんて、まどろっこしいことをする必要はないわ。一発で即死させなさい」
白象は真顔で言った。
「だ、だから、誰を殺せというのよ──?」
「それは、わたしと『主従の誓い』をしてもらってから告げるわ」
白象は言った。
「『主従の誓い』──?」
沙那は声をあげた。
『主従の誓い』というのは知っている。
霊気を帯びている者同士で結ぶ一種の道術契約だ。
ただ、別名、『奴隷契約』ともいい、これを一度結ぶと、主人側が解除するまで、従者の側は、絶対に主人を裏切れない。霊気の力が心を拘束するのだ。
ある意味、操り術と似ている。
宝玄仙と金角がその『主従の誓い』を結んでおり、金角は宝玄仙に安住の地の提供を誓い、宝玄仙も旅の終わりに、金角の支配地域に行くことを約束している。
一度、敵対した相手だが、宝玄仙は金角の裏切りを心配していない。
『主従の誓い』とは、それほど絶対のものなのだ。
本来は、沙那は霊気のない人間族なので、道術契約は結べないのだが、宝玄仙の魂の欠片を身体に入れていることで霊気を帯びており、道術契約を結ぶことはできる。
それは、以前に確かめたことがある。
だから、道術契約の変形である『主従の誓い』も結べるはずだ。
「そうよ……。『主従の誓い』よ。それを結ぶ前に、殺す相手なんて、口にできるわけないでしょう」
「な、なんで、そいつを殺したいの?」
『主従の誓い』なんて冗談じゃない。
だが、沙那は拒否する前に、白象がどうして、沙那にそんなことをさせたいのか知りたかった。
それは白象の力では、どうしようもない相手に違いない。
おそらく、白象は、その相手のことを前から恨みに思うか、殺すべき相手と考え続けていたに違いない。
だが、その手段がなく諦めていたのではないか。
しかし、たったいま、沙那の経絡突きを目の当たりにした。
そして、これならば、その相手を殺せると判断したのかもしれない。
だから、いきなり、沙那にこんな要求をしているのだろう。
魔王である白象が、手を出せない程の相手というのは……。
「……わたしに権力を与え、そして、それを気紛れで奪おうとしている張本人よ……」
白象が吐き捨てた。
だが、すぐに思わず口走った自分の発言を後悔したように舌打ちした。
「……まあ、いいわ……。さあ、『主従の誓い』をしなさい──。それで自由よ。仕事さえすれば、お前を解放してあげるわ」
白象が声をあげた。
「い、や、よ──」
沙那は磔のままはっきりと言った。
「い、嫌? 解放してやると言っているのよ──。お前が生き残れる手段はそれしかないわ──」
白象も大きな声をあげた。
「わ、わたしを馬鹿だと思っているの、白象? 誰を殺させたいかわからないけど、そんな仕事をした後で、わたしをあんたが自由にするはずがないわ。よくて、一生あんたの飼い犬にさせられるか、それとも、口封じに殺されるかね──。いずれにしても、わたしには、大切な仲間がいるわ。ご主人様もね──。『主従の誓い』なんて結ばない──。嫌よ──」
「な、なんですって──? 拷問にかけて、『主従の誓い』を誓わせることもできるのよ、沙那──」
「やりたきゃ、やりなさいよ──。どんなに責められても、嫌なものは嫌よ──」
『主従の誓い』などすれば、もう終わりだ。
本当に誰のことが大切で、誰を裏切ってはならないか、自分でもわからなくなるのだ。
宝玄仙や孫空女たちを裏切れと言われれば裏切るだろう。
白象の利益を守るために……。
そんなことは死んでも嫌だ──。
「なるほど、『主従の誓い』か……。面白いのう……」
不意に部屋に別の声がした。
すると、白象の横に小白香が出現した。
少しばかり、髪が乱れているが、身体の状態は元に戻っているようだ。
おそらく、白象が『治療術』で経絡突きの影響を消滅させたのだろう。
小白香は、口元は笑ってはいるが、眼に怒りの感情を露わにして、沙那を睨んでいる。
沙那はぞっとした。
「……残酷に殺してやろうと思うておったが、『主従の誓い』か……。その方が面白そうだな。わらわにもこれからは、お前のような有能な家来を持つ必要もあるかもしれん──。これからはな……。沙那、母者ではなく、わらわと『主従の誓い』を結んでもらうぞ。それで一生、飼い殺してやる。ありがたく思え──」
小白香が沙那に向かって言った。
「い、嫌だと言っているでしょう──」
沙那は声をあげた。
すると小白香がくくくと喉の奥で笑った。
「わかっておるわ。だが、明日も同じことが言えるのかのう……? 明日言わなくても、明後日はどうであろう? それとも、その次の日は? 果たして、何日でお前は、お願いだから、『主従の誓い』をさせてくれというであろうかのう? 愉しみだ」
小白香が、手のひらを空中に拡げた。
少しだけ念を込めるような仕草をしていたが、すぐにその手の上に小さな壺が現われた。
小白香はその壺を傾けて、中の液体を手のひらに乗せた。
そして、その手で沙那の腿の付け根あたりをゆるやかに擦った。
「ふうっ──」
沙那はその部分に、眼の前の少女の手を感じた途端、得体のしれない感覚に全身を震わせた。
「……ほう……? なかなか、敏感なのだな、沙那? ならば、痒み責めと合わせて快感責めにもしてやろうかのう? これは、わらわの特別製の痒み液だ。もうすぐ、これを塗られた部分が痒くて堪らなくなるぞ。これを全身に塗ってやるぞ……。そして、その敏感そうな身体を責めまくってやる……。どのくらいで音をあげるのかのう?」
「や、やめて──。やめなさい──」
沙那は昂ぶった声をはりあげて、拘束された身体をうねらせた。
しかし、大きく開いて縛られた身体はびくともしない。
その沙那の内腿に小白香が手に乗せた液体が塗りつけられていく。
「なっ……。か、痒いいいいい──」
あっという間に込みあがった内腿の痒さに沙那は悲鳴をあげた。
液体を塗られた内腿にむず痒さが湧き起こったのだ。
しかも、だんだんと強くなる。
沙那はさらに悲鳴をあげた。
「……まだ、内腿ぞ、沙那。これを敏感な部分に塗られるのだぞ──。せいぜい、頑張って、わらわを愉しませてくれねば困るぞ──。一日でも長く耐えて、わらわを悦ばせてくれ。お願いだから、簡単に屈服するではないぞ」
小白香が笑いながら、今度は沙那の乳房に手をかけて、ゆっくりと乳首から乳房の裾にかけて揉みしだいていく。
もちろんその手にはたっぷりと薬液が乗っている。
「や、やめてええ──」
亜人とはいえ、まだ成人に程遠い少女に、こんな辱めを受ける恥辱と口惜しさに、沙那はつんざくような悲鳴をあげた。
「ところで、母者?」
小白香が急に沙那へのいたぶりをやめた。
そして、横に突っ立っていた白象に視線を向けた。
すると、白象がたじろぐような表情を小白香に見せた。
「か、身体が戻ったようね……。よ、よかったわ、小白香……」
白象がまるで娘の小白香に媚を売るような表情をしながら言った。
沙那はふたりの関係を不審に思った。
「先に礼を言っておく。母者のお陰で助かった──」
小白香が言った。
しかし、次の瞬間、白象の身体がいきなり硬直した感じになった。
そして、白象の両脚がぴたりと密着し、両腕が延ばされて体側に張りつく。
「ひっ──。な、なにするの──?」
白象が悲鳴をあげた。
沙那は目の前で起きていることに当惑した。
すると、小白香の腕が白象の胸元に伸び、いきなり、白象の服を縦に引き破ったのだ。
驚いたことに、小白香は、どうやら道術で白象を拘束しているようだ。
白象も沙那のように道術で金縛りにされている。
しかし、白象に道術をかけたのは、小白香だ。
なにが起こったのだ──?
小白香は、その白象から小白香は容赦なく着ているものを引き破っていく。
それに対し、魔王である白象はなんの抵抗もできないようだ。
露わになった胸当てを小白香の手が毟った。
次に長い下袍も両手で裂いて取り去ってしまう。
下着はなかった。
股間にはなにも身につけていない。
小白香が狂ったように、母親の白象から服を破り取っていく。
沙那は呆気にとられて、眼の前の光景を見ていた。
やがて、白象は小白香によって、腕の部分に布の切れ端が残るだけの素裸になった。
白象が他に身に着けているのは、その腕に残る服の切れ端と編み上げの革靴くらいだ。
直立不動の状態の白象の裸身が露わになる。
白象の股間には一本の恥毛もなかった。
まるで童女のようになにもない亀裂があるだけだ。
しかし、なんとなくだが、股間の部分に霊気の集まりを感じる。
なにか道術的なものを仕掛けられている?
「さて、母者、さっき、沙那に話していたことを白状してもらおうかのう……。沙那に殺させたいと思っておるのは誰じゃ? まあ、わらわには予想もつくがのう? わらわの父親のこととか、他にも前から不思議に思うておったことがあったが、なんとなく、これでみんな繋がったぞ。母者とわらわにはなにか秘密があるようだな。全部、教えてもらおうかな」
小白香がそう言いながら、手に持った壺を傾けて、白象の肩にかけていく。
これも道術なのか、壺の小ささの割りには、こぼれ出る薬液の量が多い。
しかも、途切れない。
どうやら小白香が傾ける限り、壺からはいくらでも薬液が出てくるようだ。
「ひいっ──。な、なんでもないわよ──。だ、誰かを殺したいと思ったわけじゃないわ──。そんなこと言ってない。しょ、小白香、や、やめなさい──」
白象の身体がどんどんと薬液で濡れていく。
その量はおびただしい。
しかも、完全にずぶ濡れになってしまうと、小白香は白象の密着している股間に手を入れて、薬液をすり込みだした。
白象が身悶えをして悲鳴をあげた。
この母娘の関係はなんだ……?
沙那は自分の身体の苦しさも忘れて、白象に対する小白香の行動に見入っていた。
「母者、わらわはすべてを聞いておった。わらわの勘が正しければ、母者のやろうとしたことは、三魔王軍全体に対する重大な裏切り行為ぞ。さて、喋ってもらおうか、母者……。どんなに痒くても、この貞操帯はわらわでなくては外れんぞ」
貞操帯?
なにも見えないが?
そもそも、小白香は普通に触っていたし……。
もしかして、他人には見えない貞操帯?
だから、霊気の塊を感じるのか?
「ひいいっ、な、なにをよおお──。さ、さっぱり、な、なんことか……」
「ほう? 白を切るか? ならば、母者も同じじゃ。明日まで白を切りとおせるかのう? 明日まで耐えても、明後日はどうであろう? それとも、その次の日に喋るのかのう? 誰を殺そうと考えたのか、言質をとれば終わりじゃ──。心配はいらんぞ、母者──。母者の治めていたものは、わらわが継ぐ。きっと、金凰魔王陛下も、それに同意すると思うがな──」
「か、痒いいいい──」
白象が暴れ出した。
すると、小白香が手を振った。
白象の姿が消滅した。
「あ、あんた、自分の母親になんてことするのよ──」
沙那は叫んだ。
「お前の心配することではないわ──。お前にはわからんだろうが、母者は、重大な謀反を仄めかしたのだ……。まあ、焦っておったのであろうな。母者ともあろうものが、お前のような余所者の奴隷に、自分の心の内を仄めかしてしまうとはな……。まあ、その原因を作ったのは、わらわなのだがな……」
小白亜がまた喉の奥で笑った。
「は、白象はどうしたのよ──?」
「母者には、別の監禁部屋に行ってもらっただけだ……。母者など、お前ほどには苦労はせんと思うのう……。ああやって、痒み液をかけて半日も放っておけば、なんでも喋るに決まっておる──。母者には悪いが、油断した母者が悪い」
「あ、あんた、自分の母親を本当に拷問にかけるの?」
「なにが悪い? まあ、すでに母者の味方になるような部下は排除してあるし、相談する者もなく焦っておったのかな。いずれしても、母者が三魔王の掟を破って裏切ったという言質さえ取れれば、この宮廷の部下どもも、母者の失脚を容認するだろう。逆らうようなら、道術で支配してもよい。これで名実ともに、わらわが魔王だ──。年端は足りんでも、それほどの問題にはならんであろう」
小白香が大人びた口調で断言した。
「な、なんてことを考えているの……」
「母者も焼きがまわったものじゃ。あんな大事なことを不用意に喋るとはな。まあ、自分の結界の中だから油断したのだろうな。二年もわらわに支配されて、奴隷だけではなく、すっかりと結界も乗っ取られていたことに気づいておらんかったとはな……」
「結界って……。つまりは、ここはあんたが支配しているってこと?」
沙那の考えは当たったようだ。
だが、だったら、あのまま、この小白香を人質にすればよかった。白象などには目もくれずにだ。
最初から、そうと悟っていれば、経絡突きで小白香を無力化したときに、別のやり方もあった……。
失敗した……。
「わらわの傀儡として、満足しておれば、魔王として飼ってやってもよかったが、よからぬことを考えていたとあれば、処分もやむを得んだろう。所詮、それは魔王族の掟だ。力のない者は、力ある者に支配されるのだ。それが、実の親子の関係であろうとな」
沙那はぞっとした。
この少女は、母親である白象を魔王から失脚させて、自分が魔王になろうと企てているのだ。
しかも、どうやら、この母娘の関係は、ずっと以前から、小白香が主導権を握っていたのだ。」
小白香は、母親である白象を素裸にして、痒み液をかけるような行為に対しても、なんの躊躇いもなかった。
逆に、白象は、小白香を前にすると、始終、怯えて気後れするような表情を示していた。
「それよりも、自分のことだと言ったであろう──。いま、見た通り、わらわは、自分の母親を性奴隷のように扱うような娘だ。怖ろしいことは並ではないぞ──。容赦のない拷問もする……。どうじゃ? 『主従の誓い』をわらわと結ぶ気になったか?」
小白香が沙那に詰め寄った。
いま、小白香は、母親の白象を性奴隷だと断言した。
つまり、小白香は、この年齢で魔王である母親に調教めいた行為を強いていたというのだろうか……。
とにかく、沙那はもがいた。
白象がいなくなったことで、白象に拘束された磔が動くのではないかと思ったのだ。だが、びくともしない。
「無駄だ。母者の結界は、わらわの結界でもある。母者の結界の力をわらわも遣えるように、道術を事前に組んでおるのだ。だから、その力を遣って、わらわはお前を拘束できるのだ……。ところで、返事は? 『主従の誓い』を結ぶことに同意するか、沙那?」
「い、嫌よ──」
沙那は叫んだ。
だが、油剤を塗られたところが千切れるように痒い。
沙那は必死にそれを耐えている。
「そうか……。まあいい……。母者はもうすぐ失脚する。そうなれば、わらわにも、子飼いの部下というものが必要になる。わらわの片腕にしてやるぞ。そのつもりで、いまも色々なことを話しておるのだ……。まあ、片腕といっても、奴隷と兼務ではあるがな」
小白香が喉の奥で笑った。
「だ、だから、い、嫌だと言っているでしょう──」
沙那は思い切り怒鳴った。
とにかく、大きな声でも出さないと、どうにかなりそうだ。
それくらい強烈な痒みだ。
「それでこそ、なぶりがいがあるというものだ。では、始めるとするかのう」。なにしろ、まだ、一番効き目がありそうな場所には塗っておらん。肉芽に、膣穴に、尻の穴……。たっぷりと塗ってやろう。さあ、踊りの時間じゃぞ、沙那」
小白香が嬉しそうに微笑んで、壺の中の液体を手のひらにつけ直してから、沙那の股間にすり込みはじめた。
確かに、さっき塗られた場所は、乳房に内腿くらいで、まだ股間そのものには手はついていない。
しかし、すでに狂いそうに痒い──。
これを、敏感な肉芽に塗られてしまえば……。
お尻の穴だって……。
本当に、そんなことをされればどうなるか……。
沙那は絶望とともに、歯を喰いしばった。