※この作品はR-18です。

嗜虐西遊記【完結】   作:ドン・ドナシアン

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第2章【西方諸王国(天教闘争)篇】
54  処断命令


 東亜帝国の帝都に位置する天教教団本部は、珍しく緊張感に包まれていた。

 出院した鎮元仙士(ちんげんせんし)は、ほかの教団幹部の間を通り抜け、広間の最前列の中央に席した。

 すでに百人ほどの教団幹部たちも入っている。

 天教教団の最高幹部たる八仙の拝謁である。八仙の全員が揃うのは、数年前の先々代の帝仙の法要以来のはずだ。

 ただし、現在の八仙の人数は四人である。西方に向かう行脚中の宝玄仙(ほうげんせん)を加えれば、五人でしかない。

 

 「八仙」というのは、天教最高幹部であり、その名称のとおり八人を上限とする。天教教団でも最上級の道術の能力がある法師たちであり、戒名の末尾に「仙」の号を有する。また、八仙の筆頭のことを「帝仙」といい、すなわち、それが天教の最高位を意味する。

 その権威は、人の最高位である「皇帝」をも凌ぐというのは、過言ではない。

 

 彼らに対して、鎮元仙士の「仙士」の号は、第二階級を意味する。

 だが、それはしばらくのことだ。

 今回の鎮元仙士の提案が通れば、空位となっている八仙に、この鎮元が選ばれることは間違いない。

 絶対だ。

 

 いずれにしても、考えてみれば、先々代の帝仙の引退直後の崩御が教団の栄光の頂点であったろう。

 すなわち、先々代が引退と引き換えに、若い美貌の女法師の宝玄仙を八仙を指名してからだ。

 確かに、その法術、特に、霊具作りに関しては、宝玄仙は天才であり、その功績は、霊具作りに関するあらゆる常識を覆したといっていい。

 だが、やはり八仙には早かった。

 結果から鑑みると、そう結論せざるを得ないであろう。

 

 とにかく、あれから、変事が続いた──。

 まさか、八人の八仙の半分が、わずかのあいだに欠けるなどということを誰が想像したであろうか。

 八仙の寿命は長い。不老不死とまで称される八仙が、一年のうちに四人もいなくなるなど、天教の歴史でも初めてのことだ。

 もっとも、欠けた四人の八仙のうち、命を失ったのは、帝仙だった闘勝仙(とうしょうせん)、漢離仙(かんりせん)、呂洞仙(りょどうせん)の三人だ。

 もうひとりの欠けた八仙が遠い西方巡礼の道中にある宝玄仙というわけだ。

 

 鎮元仙士は、八仙のいる台座に身体を向けた中央先頭の位置で、ただ頭を下げて四人の八仙のその登場を待った。

 不意に、眼の前の台座に霊気の歪みが生じるのを感じた。

 

「頭をあげよ、鎮元──」

 

 甲高い声がした。

 頭をあげた。

 すると、そこに八仙がいた。

 ひとりは老人――。

 ひとりは青年――。

 ひとりは口髭に覆われた四十ほどの男――。

 最端のひとりは十歳の少女そのままだった。

 

 いずれも、神に近い道術の能力を持った天教の最高の法師たちである。

 もっとも、鎮元仙士も、道術だけのことなら、そこにいる八仙に負けるとは思っていない。

 たまたま、前の四人が時と運に恵まれただけのことだ。

 ましてや、鎮元仙士よりも遥かに若い年齢で八仙になった宝玄仙よりも、ずっと自分が八仙に相応しいはずだ。

 

「鎮元──」

 

「はっ」

 

 鎮元仙士は、かすかに頷く。

 八仙を代表して最初に声を発したのは、老人の姿をした曹国仙(そうこくせん)だ。わずか、二年で終わった闘勝仙の地位を継いだ現在の帝仙だ。

 

 帝仙というのは、別段、教団の最高の権力者というわけではない。

 教団の最高決定は、あくまでも、八仙全員一致の合議による。

 帝仙というのは、本来、彼ら八仙の話し合いにおいて、最初に発言をする権利を有するに過ぎない。

 八仙のただひとりでも、反対すれば、いかなる提案も否決される。

 十万とも二十万ともされる天教教団の頂点に立ち、ただひとりの意思で教団のすべてを否定もできる者たち──。

 それが八仙なのだ。

 

「お前の報告については、四名の八仙が興味深く読んだ。いずれも、覆せない理がそこにあるということで一致した」

 

「それでは──」

 

 鎮元仙士は、心に喜色が湧きたつのを感じた。

 ついに、機会が訪れたのだ。

 宝玄仙の捕縛──。

 これに成功すれば、その功績により、空席となっている八仙に鎮元仙士が選ばれるのは間違いない。

 

 この一年──。

 鎮元仙士は、三人の八仙の死という前代未聞の変事の調査を担当した。

 八仙のうち、帝仙の地位にある者が、なんの理由もなくふたりの八仙を殺し、自らは完全に生命を絶ったのだ。

 しかし、この三人の死に対し、もっとも動機のあった宝玄仙は、その時、それが不可能な場所にいた。

 だから、誰もが怪しいと思いつつも、教団は宝玄仙に手を出せなかった。

 

 ほかの八仙たちは、次善の策として、宝玄仙に西方巡礼の誘いをした。

 西方において急激に沸き起こって妖魔群の出現──。

 いまだ、帝国には大きな影響はないとはいえ、天教教団が見て見ぬふりをするというのは、世間への対面がよくない。

 大義名分はある。

 だが、ただひとりで、妖魔の巣とも言われる西域、すなわち魔域に向かうのは、いかに八仙の実力を持つ宝玄仙でも荷が重いことはわかっている。

 当然、断るはずだった。

 

 断われば、それを口実に、八仙たちの不審死に疑いのある宝玄仙を、八仙の地位から追い落とせる。

 そう計算していたはずだ。

 だが、宝玄仙は、あっさりと西方巡礼を応諾し、慌ただしく出発していった。

 肩透かしを食う格好になった残りの八仙だったが、宝玄仙が妖魔騒動を収めてくれればそれでよし。妖魔に討たれて死んでもそれもまたよしと考えることにしたというところだろう。

 

 だが、ここに、鎮元仙士は宝玄仙があの三人の八仙の死に関わっていたという証拠を揃えることに成功した。

 帝都の八仙たちは、西域に向かう旅の途中である宝玄仙の捕縛命令を出すはずだ。

 当然、その任には鎮元仙士が指名される。

 八仙の宝玄仙だが、術で引けを取るとは思っていない。あの巫女は、もって生まれた道術返しの能力と、霊具作りの才があるだけだ。

 純粋な道術力の強さなら鎮元仙士が勝ると思っている。

 

「……お前の出した報告の理はある程度は認める。これにより、求めたのは教団兵の出動であったな、鎮元?」

 

 曹国仙がさらに口を開いた。

 

「はい」

 

「結論から言おう──。宝玄仙が捕縛のための教団兵の出動は認められん」

 

「な、なんと言われますか──。私の提出した報告では不足と?」

 

 鎮元仙士は唖然としてしまった。

 宝玄仙は、闘勝仙らが死ぬ二年も前から、ひそかに支配術の研究をしていたことがわかっている。

 支配術など珍しいものではないが、八仙ほどの道術力の強い者を操る霊具など考えられなかった。

 だが、実は、あの女は、その支配具の製作に成功していた。

 それにも関わらず、宝玄仙は一切のことを隠していた。

 そして、宝玄仙が支配具の制作に成功したと考えられる時期の直後、あの闘勝仙ら三人の死は発生している。

 

 誰がどう考えても、闘勝仙らの死に宝玄仙は関わりがあると考えるはずだ。

 

「ありえんな──。ありえるわけがない。八仙ともあろう者が同じ八仙を殺めるなど」

 

 青年姿の韓子仙(かんしせん)が首を横に振った。

 

「しかし、現に闘勝仙は、それを犯しておりますよ」

 

 鎮元仙は皮肉を込めて言った。

 闘勝仙はふたりの八仙を殺してから自殺をした。

 形の上ではそうだ。

 宝玄仙が作成に成功したと考えられる究極の支配霊具を認めなければ、闘勝仙が漢離仙と呂洞仙を殺したという事実だけ残る。

 

「控えよ、鎮元」

 

 鎮元仙士は声のする方に注目した。声を発したのは十歳の少女の外見の藍采仙(あいさいせん)だ。姿は子供だ。

 

「はい」

 

 十歳の少女に畏まるなど馬鹿馬鹿しいことではあるが、実は藍采仙が帝仙の曹国仙以上の老齢だということを鎮元仙士は知っていた。

 道術力では曹国仙にやや劣るかもしれないが、眼の前で居並ぶ四人の八仙の中でもっとも古い八仙である。

 

「この天教において、八仙の判断というものは絶対だということを知っておるか、鎮元?」

 

 藍采仙は言った。

 

「と、当然です」

 

「鎮元仙士は、忘れたのか? 宝玄は八仙ぞ」

 

「そ、それは──」

 

「教団兵を動かすには、八仙の同意が必要ということを忘れたわけではあるまい、鎮元? 宝玄もまた八仙。教団への出動、ましてや、相手が八仙というほどの重要時であれば、当然、宝玄仙の同意も必要じゃ」

 

「しかし、それでは……」

 

 宝玄仙が自分の捕縛のための教団兵の出動を命じるわけがない。八仙の捕縛に八仙の同意が必要と言うことになれば、いったい、どうせよというのか。

 

「八仙に対する裁きは、八仙においてのみなされる。いかなることがあっても例外はない。人智を越えた存在であるからこそ八仙であるのだ。ましてや、宝玄は妖魔騒動の調査のために、八仙自ら西域へ向かう重要な任の途中──。これを妨害するのは、教団の本意ではない──。そういう結論に達した」

 

 ならば、なんのために呼び出したのか。わざわざ、朝議を開いて、鎮元仙士の訴えを退けるのになんの意味があるのか──。

 そう考えたとき、鎮元仙士は、やっと、この朝議の意味がわかった。

 

 八仙は八仙──。

 

 ほかの八仙たちは、八仙の身分にある者に、捕縛の裁きが下るなどという査定をするつもりがないのだ。

 人智を越えた存在とあっても、所詮は壮絶な権力争いの結果、そこにあるに過ぎない。いつ、自分たちが政争の俎上に載るとも限らない。そのために、八仙という者は、いかなる場合でも討伐の対象とならないということを確認しておく必要がある。

 それが第一の目的──。

 

 もうひとつは、この朝議の存在そのものにより、宝玄仙の罪は事実上、確認されたも同様である。

 宝玄仙が、西方巡礼から戻っても、この帝都に宝玄仙の居場所はない。彼女は引退するしかない。

 それが第二の目的──。

 

 それを教団幹部の前で確認すること──。

 そんなところであろう。

 鎮元仙士は頭を下げた。どうやら、鎮元仙士の出世の機会は、まだ先のようだ。

 

 朝議が終わり散会すると、鎮元仙士はすぐに別室に呼ばれた。

 驚いたことに、そこには曹国仙をはじめとして、四人の八仙が揃っていた。

 

「お前の率いる教団兵は、明月と清風の隊ということになった、鎮元」

 

 朝議のときとは打って変わって砕けた口調になった帝仙の曹国仙が言った。

 

「どういうことでしょうか、曹国仙殿? 宝玄の……いえ、宝玄仙殿の捕縛については、否決されたのでは?」

 

「八仙を捕縛するなどということを朝議で決定できるわけがないでしょう、鎮元。これ以上、八仙の地位を貶めることなどできないよ」

 

 張香仙(ちょうかせん)だ。

 線の細い四十男の姿をしている。喋る言葉も、どこか艶めかしい。

 

「なれば、なぜ、教団兵を?」

 

「お前の集めた証拠に、見過ごすことのできない重要なものがあると認識したからだ、鎮元。宝玄仙は黒だ。お前の知らない事実もあるが、それとも符合する。あの巫女は闘勝仙を操り、漢離仙と呂洞仙を殺させてから自殺をさせた。八仙ほどの道術師をそこまで操る霊具というのは想像もできんが、あの女はそれに成功したのだろう。あっさりと西方巡礼を承知した理由もこれで理解できた。つまりは、復讐を果たして、逃げておるのだ」

 

 美青年姿の韓子仙だ。

 

「まあ、殺した理由は理解できるけどね。宝玄仙が、闘勝仙ら三人を殺害したとすれば、あの噂も本当だったということかしら」

 

 張果仙が言った。

 すると、童女姿の藍采仙が口を開く。

 

「あの男たちは、最低の連中よ。みんな知ってるんでしょう。わたしは、あいつが死んでくれて、ほっとしたわ。もしも、宝玄仙が闘勝仙たちを殺したとしても、まったく咎める気にはならないし、その権利もないと思うけど」

 

 気まずい雰囲気が束の間流れた。

 殺された闘勝仙ら三人は、「呪い」を使って宝玄仙を支配し、何年も凌辱し続けていた。

 それで宝玄仙に復讐された。

 実際のところ、鎮元仙士の調査でも事実だった。

 かなり公然としたものだったようだから、同じ八仙の彼らは知っていただろう。知っていて、闘勝仙の無法を見逃していたのだ。

 だが、鎮元仙士は、それでも、罪は罪だと思う。

 闘勝仙たちについては、自業自得と言えないこともない。しかし、それでも、八仙といえども教団の最高幹部への殺人など認められない。

 

「いずれにしても、それで、教団兵を動かす許可をもらえるのですね? しかし、それはどういうことです? いったい、教団としては、宝玄仙の罪を不問にするつもりなのですか? それとも、罪を鳴らすつもりなのですか?」

 

 鎮元仙士は言った。

 すると、帝仙の曹国仙がかっと眼を見開いた。

 

「よく聞け、鎮元──。教団は、なにも許可など与えてはおらん。ここにいるのは、この曹国仙、張果仙、韓子仙、そして、藍采仙という四人の個人だ。教団としてではなく、八仙の地位にある個人として話しておる。我らの結論は、これ以上、教団の評判を落としてはならんということだ。そして、そのために最も都合がよいのは、宝玄が西方巡礼の途中で死ぬことだ」

 

 沙弥仙が言った。鎮元仙士はやっと別室に呼ばれた理由がわかった。

 宝玄仙を闇に葬れ──。

 それが鎮元仙士に与えられた真実の役割にほかならない。

 

「勝手に名前を出さないでよ。わたしは同意してないわ。ただ、曹国がやるとこに、反対しないと言っただけよ」

 

 藍采仙が不満そうに言った。

 どうやら、藍采仙は巡礼中の宝玄仙への関与には消極的のようだ。もっとも、断固として反対まではしないらしい。

 まあいい。

 いずれにせよ、鎮元仙士に機会が与えられたというのはわかった。

 

「鎮元、あんたの得意は、神がかり的な移動術。それがあれば、宝玄仙に追いつけるんでしょう? 教団の情報網によれば、宝玄仙はすでに帝国の西の国境を抜け、最初の国の烏斯(うし)国から、すでに次の万寿(まんじゅ)国に入ったらしいわよ。まあ、どこまで正確かわからないけどね」

 

 張果仙が言った。

 鎮元仙士の得意は「移動術」だ。

 目の前の八仙たちであろうと、鎮元仙士ほどの移動術は駆使できない。普通は移動先と移動元の両方に、移動術のための結界紋がなければ、跳躍できないのだが、鎮元仙士だけは、移動先を頭に思い浮かべれば、移動術で跳躍できるのだ。

 そして、鎮元仙士は若い頃、西帝国と称する遥かなる西の果ての国まで旅をしたことがある。

 つまりは、いまこの瞬間でも、鎮元仙士は、宝玄仙の居場所さえわかれば、そこに跳躍することができる。

 

「……お前につける明月(めいげつ)と清風(せいふう)の隊の全員は、今回の任の途中で起こったことの一切を発言することはない。無論、お前がこの任務に成功すれば、我らは鎮元仙士が鎮元仙となることを心から喜ぶであろうよ」

 

 曹国仙が付け加えた。

 鎮元仙士は、承知したという言葉の代わりに頭を一度さげた。

 大いなる歓喜とともに……。

 

 

 *

 

 

「ご、ご主人様──。もう、ゆ、るじで……」

 

 両手首を緊箍具(きんこぐ)により、背中側で拘束された孫空女が、ついに歩けなくなってその場に跪いた。

 

 帝国を越えた二つ目の国である万寿国を西に向かう山道だった。

 両側には、うっそうと茂る森が迫っていて、宝玄仙、沙那、孫空女、朱姫のほかに、行き交う旅人もいない。

 沙那は、いつもの最後尾ではなく、宝玄仙の悪戯を受けている孫空女の代わりに先頭を進みつつ、うずくまった孫空女を振り返った。

 

 可哀想に孫空女の下袴(かこ)(ズボン)の股間の部分は、思わず目を背けたくなるほどに、彼女の淫液でべっしょりと濡れている。まるで尿を洩らしたかのようだ。

 それだけじゃなく、孫空女の淫汁は、さらに下袴の裾を伝い落ちて、孫空女の足先まで繋がっている。

 しかも、あれほどの恥汁を垂れ流しておきながら、孫空女はもう、三日間も一度も絶頂に達していないのだ。

 沙那は、その苦しさを想像すると、とても孫空女を正視できなかった。

 

 孫空女の両方の鼻には、小さな綿のようなものが詰められている。孫空女の欲情の原因はそれだ。孫空女が、それを鼻に詰められてから三日になる。

 その綿は宝玄仙の淫具のひとつであり、常に女を欲情させる淫霧を放出させる。つまり、それを鼻の孔に詰めている限り、四六時中、それこそ、眠っているときでさえ、その淫霧を吸い続けなければならないのだ。

 

 もちろん、鼻で息をするのをやめて、口だけで息をすれば、淫霧を吸わなくてもすむのかもしれないが、生きている限りそうはいかない。

 それに、最初の一日のとき、宝玄仙は鼻からしか呼吸ができないように、半日以上、孫空女の口を道術で閉ざしてしまった。

 それで、もう全身が脱力したような状態になった孫空女は、それから先は淫霧を防ぐのは諦めて、媚薬が身体を蝕むのに任せるしかなかったのた。

 ただ、この間、一度も両手の拘束を解かれていないので、孫空女は身体中が沸騰するように情欲しながら、ただ放置されている状態が続けている。

 生活に必要なことは、沙那と朱姫がやってあげているが、それだけに孫空女への責めの惨さはわかる。

 

 その結果がついに道に倒れ込んだ孫空女の状態というわけだ。

 これは、もはや、新しい霊具の試験とはいえない。

 調教ですらない。

 拷問だ──。

 残酷な性の拷問だ。

 

「も、もう、そのくらいでいいんじゃないでしょうか、ご主人様」

 

 沙那は思わず声をかけた。

 

「そうはいかないよ。これは新しい霊具の試験なんだ。この『淫霧の綿』がどれくらい雌を発情させるかを測っているんだ。最低、あと二日は続けるよ。それとも、お前がやるのかい、沙那? また、初日からやり直しだけどね」

 

 宝玄仙はぴしゃりと言った。

 気丈な孫空女をあれほどに変えてしまう淫霧の恐ろしさを目の当たりにしてしまうと、沙那も黙り込むしかない。

 

「ほうらね。身代わりの覚悟もないくせに、下手に庇おうなんて気心を持つんじゃないよ、沙那──。やるときは徹底的にやる。それが『調教』というものだよ。それで心の底から恐怖を受けつけるのさ」

 

「は、はい……」

 

 沙那は下を向いて返事をしながら、自分はなぜこんな理不尽で残酷な女主人に大人しく仕えているのだろうかと疑問に思った。

 つまり、これが宝玄仙のいう調教の結果なのだろうか。

 自分はこの変態巫女に調教され、そして、洗脳されてしまったということになるのかもしれない。

 

 故郷の愛陽(あいよう)の城郭で、この変態巫女に騙されて『服従の首輪』という霊具を取り付けられた。

 それから、宝玄仙の沙那への「調教」と称する性的な淫虐を受け続けた。

 やがて、供として宝玄仙と沙那を襲おうとした女盗賊の孫空女が加わり、やはり、宝玄仙に取り憑こうとした半妖の朱姫も加わった。

 それまでの過程において、沙那の逃走防止の役割をしていた『服従の首輪』は外されたが、いまだに、沙那は、この変態巫女から逃亡を図らずに、一緒に旅を続けている。

 沙那を縛るものは、いまはなにもなくなったのに、すでに沙那には宝玄仙から逃げようという気にはなれない。

 それが「調教」されてしまったということなのだろうか。

 

「さあ、立つんだよ──、孫空女」

 

 孫空女は宝玄仙の強い叱咤で立ちあがった。だが、その足はもう覚束ない。

 

「……お、お願いだよ、ご、ご主人様。一回でいいから……」

 

 孫空女が悲痛な表情で言った。余程に苦しいのだろう。

 

「仕方ないねえ」

 

 宝玄仙が舌打ちした。

 

「朱姫──」

 

「は、はい」

 

 沙那の横に立っていた朱姫が、宝玄仙の怒鳴り声でびくりと姿勢を正す。

 朱姫は最後に供に加わった娘だが、骨の髄まで宝玄仙に対する恐怖が染みついていることにかけては三人のうちで一番だろう。

 武芸の修練により、肉体も精神も鍛えきっている沙那や孫空女に比べれば、道術を遣えるだけで、朱姫の精神はただの少女にすぎない。

 

 朱姫が供になって一箇月――。朱姫は宝玄仙による道術で支配され、定期的に自慰をしなければ身体の疼きが止まらない身体にされてしまっており、全員の前で毎日一日三回の自慰をさせられている。

 しかも、その場所はお尻だ。

 いまだ、破瓜はしていないのだが、いまや、尻で狂う尻人形と化している。

 

 宝玄仙と出遭ったときには、性技で朱(あかい)という分限者の娘を虜にした百合壁の嗜虐性も持っていた朱姫だったが、いまは完全に宝玄仙の嗜虐の性奴隷である。

 

「孫空女も、あれじゃあ、もう歩けはしないだろうから、お前が慰めてやりな──。ほら、孫空女、お情けだよ。下半身を丸出しにしてもらって、跪きな──」

 

「お、お願いだよ、朱姫──」

 

 孫空女は、苦悶の表情を浮かべる上気した顔を朱姫に向けた。

 朱姫は小走りに孫空女に駆け寄ると、孫空女の下袴の腰紐に手をかけて引き下ろす。

 孫空女は下着はつけていない。

 足首に下袴がさげられると、孫空女はその場に跪いた。

 

「ちょ、ちょっとこんなところで……」

 

 さすがに驚いて沙那は、たしなめの言葉を発した。

 なにしろ、人通りのない山道とはいえ、西の国境に向かう街道のど真ん中だ。

 

「いいから、お前は離れて見張りでもしてな、沙那――。さて、朱姫──。手を使うことは許さないよ。舌でやるんだ。いいね」

 

「は、はい……。じゃあ、孫姉さん、いきます」

 

「うん……。お、お願いだよ、朱姫……」

 

 孫空女が汗びっしょりのが淫情に狂ったような表情で、切なそうに言った。

 朱姫の舌が孫空女の股間に伸びる。

 仕方なく沙那は、見張りがしやすい位置に移動して、行き会う旅人に警戒する態勢をとることにした。

 

「うはああああっ──」

 

 孫空女の感極まった声が響いた──。

 

「ちょっと、孫女、声が大きい――」

 

 沙那はあまりの大声に驚いて叫んだ。 

 

「しまった──。孫空女、お前への術を解くよ──」

 

 不意に宝玄仙の悲鳴のような叫び声がした。

 次の瞬間、凄まじい衝撃音と閃光が続けざまに起き、突然に地面が大きく揺れた。

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